第68話「最終戦争再び」






 訓練校のカリキュラムを順調にこなすなのは達……。
 そして、最後の模擬戦の日を迎える。
「之より最後の模擬戦を行う! 諸君たちも訓練校を出て仮配属期間が終わればリミッターが付くことになる」
 教官が説明を続ける。
「リミッターが付く前の最後の模擬戦だ。全力で戦うことだ!!」
「あのぅ」
「何だ!?」
「全力で戦ったらまずい人たちが居るのですが……」
「模擬戦である以上、止めることは出来ん。潔く撃墜されろ」
 撃墜されろと言う。
「アイツらは、模擬戦ではなく戦争だ!! いや、最終戦争だ」
 口々に文句を言う。
「あんたたちが生き残っている間は最終戦争は始めたりしないわ。でも、全員撃墜されたら始めるけどね」
 アリサも最終戦争をしたいようだ。
「手加減する必要はない。全力で戦え」
 それを聞いてなのはにスイッチが入る。
 全力全壊モードだ。
 なのはの目が紅く点滅する。
 そして、目が紅くなる。
 吸血鬼の力を開放したのだ。
「制限時間は、無制限!! どっちかが全滅するまでだ」
 制限時間無制限の模擬戦が始まる。
 最終戦争と化した模擬戦の時とはチーム編成が変わっている。
 総大将は、さつきとすずか……。
 この二人だけは変わっていない。
 戦闘力と指揮能力が高いのだから当然だだ。
 あの模擬戦……。
 いや、最終戦争というべきかもしれない。
 最終戦争から伸びた訓練性もいた。
 ビッテンハルトとミュッケンシュヴァイクだ。
 この二人は、あの最終戦争の後、大きく伸びた。
 魔力も伸びた為、汎用デバイスでは戦えなくなっていた。
 その為、個人用デバイスを持つに至った。
 簡単に作ることも出来ない。
 だが、ここにはメカフェっチェがいた。
 いや、マッドサイエンティストと言うべきかもしれない。
 何故か、デバイスマイスターの資格を持っている訓練生がいた。
 そう。
 月村すずかだ。
 すずかは、姉の忍と共にデバイスマイスターの資格を取得していた。
「ビッテンハルト、ミュッケンシュヴァイク! 月村に礼を言うんだな!! 忙しい時間を縫って組んでくれたのだからな」
 そう言って、二人にデバイスを渡す。
「それには、まだ名前が付いていない。付けてやるんだな」
 教官からデバイスを受け取る。
「それから、これも渡しておく」
「あのっ。これって……」
「ベルカ式カートリッジ」
 二人のデバイスには、ベルカ式カートリッジシステムが組み込まれていた。
「お前たち二人はミッド式だが、火力もあるんだとさ」
「火力?」
 嫌な予感を感じる。
「先ずは名前を付けてやれ!! そうしないと始められない」
 名前を付けるように言う。
「お前の名は『バルバルーサ』」
≪Yes.≫
 ビッテンハルトが名をつけた。
「じゃあ俺も……」
 ミュッケンシュヴァイクも名を付ける。
「『コーバック』!!」
「さて、二人のデバイスも起動できたことだし始めるぞ!!」
 訓練校最後の模擬戦が始まる。
 さつきチームになのは、アリサ。
 すずかチームにアリシアとフェイトのテスタロッサ姉妹。
 そして個人用デバイスを手に入れた二人は……。
 さつきチームにミュッケンシュヴァイク。
 すずかチームにビッテンハルトが入った。
 後は、適当にチーム分けされた。


 双方に分かれて開戦の時を待つ。
「最初から全力全壊で逝くよ」
 『全壊』と『逝くよ』の字が違うが気にしないでおこう。
「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」」
 士気が上がる。


「こっちも全力全壊で逝くよぉ!!」
「「「「「「うぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」」
 こっちも士気が高い。
 どうあっても全力全壊で戦いたいようだ。
 これもなのは達の全力全壊が感染しているらしい。
 ここの訓練生全てが全力全壊に感染し戦闘狂になっている。
 強大な魔力を持つ吸血鬼と一緒に居れば当然だ。
 その上、真祖までいる。
 なのは達は、魅了の魔眼もある。
 訓練生を操るのは造作もない。


 開始と同時に訓練生達は、全力全壊で攻撃を始めた。
 双方が全力全壊での攻撃だ。
 弾幕の密度も高い。
 随所で土煙が舞い上がる。
「バルバルーサ、収束砲撃てるか?」
≪Yes.≫
「んじゃ。カートリッジロード!!」
≪Load cartridge.≫
 カートリッジをロードする。
 魔力をチャージする。
 其れもすごく早い。
 あっという間に構築が終わってしまった。
「おっ、おっきいの逝きます」
 ビッテンハルトの目はすわっていた。
≪Starlight Breaker Ex.≫
 ビッテンハルトがスターライトブレイカーEXを撃った。
 其れは、なのはのスターライトブレイカーを速射化したものだ。
 スターライトブレイカーExが敵陣へ伸びていく。
 前線に居た敵を飲み込む。
 普通なら威力が減衰するはずなのだが減衰する気配がない。
 減衰せずに相手チームを飲み込む。
 着弾点で大爆発が起こる。
「お前まで悪魔の仲間入りか?」
「悪魔!?」
「今の砲撃、ヤバイって」
「そんなデバイス捨ててしまえ」
「いや出来ない。これは俺の相棒だからな」
≪Yes.≫
 最早、バルバルーサはビッテンハルトのパートナーだ。
「それに……」
 爆発が収まるとさつきに防がれ守られた訓練生たちがいた。
「防御力は、『白い悪魔』以上か……」
「本当は使いたくないんだけど……」
 すずかは、目を瞑って開く。
 それは、本来の目の色では無く黄金だ。
「星の息吹よ!!」
 地面から鎖が現れ訓練生たちを捕縛する。



「そう来たか……。こっちも星の息吹よ」
 さつきも空想具現化を使う。
 空想具現化の応酬で鎖に捕らえられる訓練生たち。
 そこへ、主砲の撃ち合いが加わる。
 再び最終戦争が始まる。
 あの時の比ではない。
 あの時よりも全員成長しているのだ。
 鎖の捕縛から免れた者が砲撃に加わる。
 その中には、ビッテンハルトとミュッケンシュヴァイクが含まれていた。
 二人は、すずか謹製のデバイスを持っている。
 低魔力で超高出力砲を撃てる凶悪デバイスだ。
 訓練生で、こんな凶悪なデバイス持ちは居ない。
 当然といえば当然だが、なのは達のデバイスにもすずかの魔改造が加えられていた。
 なのはのデバイスには、出力を大幅にUPさせるスーパーチャージャが組み込まれている。
 チャージ時間も短縮され尚且つ威力も上がっている。
 処理能力も向上しているらしい。
「おっきいの逝きます」
 なのはがチャージを始める。
「えっ? チャージ時間が……」
 スーパーチャージャが、チャージ時間を大幅に短くする。
≪Starlight Breaker.≫
 なのは、最大最凶の砲撃が発射される。
 さつきの空想具現化で捉えられた訓練生達を飲み込む。
 次に見たのは、反射され跳ね返ってくるスターライトブレイカーだった。
 自分が撃った魔法で撃墜されるかもしれない。
「よそ見をするな!!」
 その瞬間にもスターライトブレイカーは、迫ってくる。
「ゴールデンバウム!!」
≪Ja.≫
 ゴールデンバウムがカートリッジをロードする。
「月爪一閃!!」
 さつきは、ゴールデンバウムを一閃する。
 それだけで反射されたなのはのスターライトブレイカーを切裂き消滅させた。
 剣先に枯渇庭園を限定的に纏わせていたようだ。
 知らないものが見ればAMFと勘違いする。
 さつきが枯渇庭園を全力で使わないのには理由がある。
 見方も巻き込むからだ。
 枯渇庭園は、自分以外の者を結界内に取り込んで全てを略奪する。
 抵抗できずに存在そのものが消されてしまう。
 特にプログラムであるシグナム達にとっては最悪の相手だ。
 だが、ここには居ない。
 もし居れば、これ以上の最終戦争になってしまう。
 根からの戦闘狂なのだから……。
 シグナム達が加わってもまだ可愛い最終戦争なのだ。
 もし、ブリュンスタッド姉妹が加われば前回の比じゃない最終戦争になることは避けられない。
 あの姉妹の喧嘩は世界最終戦争そのものなのだ。
 質の悪さはこの上ない。
 双方の撃ち合いは続く。
 その中に混じって巨砲がある。
 その巨砲を撃っている一人……。
 『白い悪魔』こと、高町なのはだ。
 流石に収束砲を撃つわけにはいかない。
 その為、デバインバスターで我慢していた。
 それでも、威力はある。
 何人かの訓練生が防御の上から落とされる。
 本来のデバインバスターより威力が上がっている。
 これも、すずかの魔改造のせいである。
 チャージ時間も短縮されているので全力全壊のなのはは気に入っている。
 全力全壊の砲撃が短時間で何度も出来るからだ。
 前回と違って訓練生たちも最初から全力全壊の攻撃をする。
 ミッド式の訓練生は全力全壊の砲撃を……。
 ベルか式は、肉弾戦を繰り広げる。
 いや、デバイスでの撃ちあいだ。
 接近して斬り結ぶを繰り返す。
 ミッド組みの援護射撃を受けながら。


 あっちこっちで土煙が舞い上がる。
「ぶっ飛べっ!!」
 訓練生が空へ吹き飛ぶ。
「おらぁぁっ!!」
 最早、模擬戦ではない。
 さつきとすずかに魔眼で暗示を掛けられている。
 全力全壊での戦闘を続けている。
 全力全壊状態の為、メーターが振り切れている。
 所謂、発狂状態だ。
「ふはっはっはっはっはっ!!」




「もっと全力全壊でやろうよ」
 なのはも逝っていた。
 吸血鬼の血が騒いでいる。
「なのは、暑くなり過ぎているわよ」
「アリサちゃんも一緒に全力全壊になろうよ」
 なのはがアリサに悪魔の囁きを言う。
 熱血なアリサが誘惑に誘われないわけがない。
「わかったわよ全力全壊でやってやろうじゃない!!」
 喜ぶなのは。
「なのは」
「うん」
 なのはとアリサがコンビネーション魔法の準備に入る。
「スターライトォ……」
「バーニング……」
 二人の魔力が高まる。
「「ブレイカーァァァァ!!」」
 なのはとアリサが同時に収束砲を撃った。
 アリサには炎の変換資質がある。
 なのはとアリサのバスターがすずか側の訓練生を飲み込む。
 魔力ダメージのみならず炎のおまけ付である。
 アリサの炎の変換資質付の魔力に体を焼かれる。
「アリサちゃん、バスター使えるの?」
「使えるけど、使えちゃ悪い!?」
「悪くはないけど……」
 なのはは言いにくそうだ。
「訓練生達が燃えているんだけど」
「全力で撃ちすぎたかしら?」
「今の魔砲、誰が組んだの?」
「すずかよ。なのはのブレイカーを参考にしたって」
 アリサのデバイスにもすずかの手が加えられていた。
 当然、フェイトとアリシアのデバイスにも手が加えられているだろう。
「じゃあ、フェイトちゃんとアリシアちゃんのにも……」
「フェイトとアリシアもすずかに頼んでいたわね」
「まさかと思うけど……」
 なのはの予感は当たった。
 直後、フェイトとアリシアのコンビネーション魔法が襲った。
 電気の変換資質を帯びた金色の魔力と紅い金色の魔力の矢が降ってきた。
 従来の物より数が増え破壊力が上がっている。
 それに収束砲並みの重さがあった。
「お、重い」
 なのはは、腕に魔力を集め必死に耐える。
「なんとか、耐えたわよ」
 アリサも何とか耐え切った。
「すずかが攻撃してきたらヤバイわね」
「すずかちゃんの魔法はね……」
「うん」
 すずかは、防御を無視して落とすことが出来る。
 模擬戦の熱は頂点に達したままだ。
 その熱に反応して何かが転移してきた。
 現れたのは巨大なロボだった。
「何なのよ、アレ!!」

『ホームズ、どこだ!?』
 其れは、モリアーティ一味が作ったロボだった。
 ロボのセンサーとカメラは情報を集め始める。
 そして、見覚えのある人影を捕らえた。
『貴様、ホームズはどこだ!?』
 ロボが、すずかを指差して言う。
 訓練生達の視線がすずかに集中する。
 あのロボの関係者だと……。
『大人しくホームズを出せ!!』
 どうやらここにホームズが居ると思っている。
『出さないと実力で探し出すまでだ!!』
 ロボの指先に魔力が集まる。
『消し飛べ!!』
 ロボの指先から魔力の塊を発射した。
 発射した魔力の固まりは地面を吹き飛ばす。
 吹き飛ばされた土や岩が上空高く巻き上げられる。
『ふはっはっはっはっ。大人しく言わないからそうなるのだ!!』
 センサーで人影を探す。
 土誇りで映像が見えないからだ。
『なっ。吹き飛ばした筈なのに無傷なんだ?』
 ロボから驚きの声が出る。
 訓練生達は全員すずかのシールドで守られていた。
 最早、模擬戦どころではない。
 邪魔をしてくれた御礼をしないといけない。
「その声は、モリアーティ……。死んでいなかったの?」
『貴様のせいで、あの後、どんな目にあったか……』
 ロボは、拳を握っている。
 操縦者……モリアーティ教授の怒りが伺える。
 モリアーティの名に教官はどこかへ連絡を取っている。
「了解!! 模擬戦をモリアーティ逮捕の実戦に切り替えます」
 最終戦争状態の模擬戦は終了を告げられた。
 変わって、次元犯罪者と手配されているモリアーティの逮捕に切り替わった。
『犯罪界の帝王である私を逮捕する?』
 怒りの炎を燃やす訓練生達。
 その怒りは、魔力を回復させると共に増幅させた。
『まだ、このロボの恐ろしさがわかっていない様だな』
 ロボの周りにバリアが形成される。
『全員纏めてあの世に送ってやる』

「撃って撃って撃ちまくれ!!」
 ビッテンハルトが攻撃を始める。
 其れに続いてミッド式の訓練生が砲撃を始めた。
 誰もがロボに命中したと思った。
 だが、命中する前に霧散した。
「魔力が尽きるまで撃ちまくれ!!」
 撃てど魔力は霧散するだけだった。
『無駄だ!! このロボにはAMFとか言うものが搭載されている。貴様ら程度の魔力では傷つけることは出来ん』
 重要なヒントをバラしてしまうモリアーティ。
 そのヒントを聞き逃すすずかではない。
「そのバリア、AMFなんだ……」
 すずかの魔力が膨れ上がる。
 すずかの指先に一つの弾核が現れる。
 それは、複数の弾核で出来ていた。
「アルテミスシューット!!」
 すずかの指から紫色の魔力の弾が巨大ロボに発射された。


 次回予告

 フェイト「最終戦争中に現れた巨大ロボ……」
 なのは「邪魔してくれたお礼はしないとね」
 アリサ「わたしの炎で燃やしてやるんだから」
 さつき「そして現れる最凶援軍……」
 アリシア「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』第69話『降臨! ブリュンスタッド姉妹』」
 すずか「称えよ紅き月よ」


モリアーティの再度の登場。
美姫 「タイミングが悪かったかもね」
なのはたちからすれば、邪魔された形になったからな。
美姫 「どうなるかしらね」
それでは、この辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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