第91話「幻想郷からの来訪者」






 その日、あるニュースが幻想郷を駆け抜けた。

 魔法の森の魔法使いが失踪したのである。
 今まで居なかったように……。
 居なくなったのは、一人ではない。
 博麗の巫女と人形使いも消息を絶ったのだ。
 ある人物たちは、喜んだ。
 盗まれる心配がなくなったからである。


 その喜んでいる人、其の1。
「パチューリさま、魔理沙が失踪したそうですよ」
「そう。これで、図書館の本を盗まれる心配はないわね」
 魔理沙の失踪を歓迎しているパチューリ。
「之までに盗まれた本はどうされるんですか?」
「こぁ。回収して来てくれる?」
「回収ですか? 何冊あるんです?」
「可也の数、盗まれたから」
「私一人では、運べませんよ」
 小悪魔、一人では運べない量らしい。
「兎に角、紅魔館も平和になりますね」
「私は、読書に集中したいから本の回収はお願いね」




 そして幻想郷から拉致された本人たちは……。
「ここは、どこなんだ!?」
「もしかして私達、死んだ!?」
 だが、彼女達の足は地面に着いている。
 当然、生きている。
「おっ。落し物発見!! 私のものだ」
「魔理沙、落ちているからって無闇に拾うものじゃないわよ」
「落ちているのが悪いんだぜ」
 落ちているものを拾う魔理沙。
「変に落ちている物を拾って酷い目に遭っても知らないわよ」
「収集は私の生きがいだぜ」

『警備システム作動……』
 警備システムが作動する。
『殲滅目標補足……。殲滅開始します』
 警備システムは、魔理沙を殲滅目標にしたようだ。
「何で、私だけ……」
「ほら、見なさい」
「それよりも助けてくれ」
 警備メカから逃げ惑う魔理沙。



 警備室では、アリサがゲーム感覚で警備メカを操作していた。
「逃がさないわよ」
 アリサは、警備メカを集結させる。
「すずか、侵入者の居るエリアの地雷、作動させるわよ」
 地雷の機能を回復させる。
 普段は、庭の手入れもするので地雷の機能を電子的に殺しているのだ。
 其の殺されている機能が蘇る。


 そうとも知らない侵入者たち……。


 カチッ


 何かを踏んだ。
「カチッ?」
「魔理沙!?」
「なんだ? 霊夢」
 直後、魔理沙の足元から光が発生し爆発した。
 魔理沙は、爆発の直撃を受けた。
 結果は……。
「ケホッ」
 全身真っ黒で黒い煙を吐く。
「ば、爆発だぜ」
 魔理沙は倒れた。
『侵入者殲滅する』
 警備システムは、まだるき満々だ。


「一人、罠に掛かったわよ」
 罠にはめたアリサ。
「残りの二人も罠にはめてやるわ」
 残りも罠に罠にはめるようだ。
「同じ罠じゃ面白くないわね」
 同じ手で罠に嵌めるのも面白くないようだ。
「レーザーで丸焼きにしてやろうかしら」
 レーザーのエネルギー充填を開始する。


 地雷で黒焦げになった魔理沙は……。
 未だに煙が燻っていた。
「し、死ぬかと思ったぜ」
「落ちている物のをホイホイ拾うからそうなるのよ」
「おっ。キノコ発見!!」
「また、罠にまたっても知らないからね」
「キノコだぜ。キノコに罠があるわけないぜ」
 そう思うのは、魔理沙だけだ。
 霊夢とアリスは、罠だと思っている。
「キノコ、ゲット……だ……ぜ」
 魔理沙は、イビキをかいて眠ってしまった。
「だから、無闇に拾うからそうなるのよ」
 今度は、霊夢たちも無事ではなかった。
「だから、魔理沙と行動するのは……」
 霊夢とアリスも眠りに落ちた。
 3人は、イビキをかいている。


 魔理沙、霊夢、アリスは、大部屋に放り込まれている。
 無論、手錠で拘束などはされていない。
 魔理沙は、涎をたらしながら寝ている。
 ガスを大量に吸い込んでいるようだ。
「もう、喰えないぜ」
 どうやら夢を見ているようだ。
「お金! お金のお風呂……」
 霊夢も夢を見ているようだ。


「あいつら、夢を見ているようね」
「すずかちゃんの魔法や。よほどいい夢を見ているようや」
 魔理沙たちを夢の世界に招待しているのは、すずかの魔法だ。
 クロウカード……。
 ドリームだ。
「そろそろ夢の世界から戻ってきてもらおうか……。侵入したO・HA・NA・SHを聞かせてもらわなあかんからな」
 はやては、O・HA・NA・SHをしようと言う。
「いつも、なのは達がO・HA・NA・SHしているんだから、今回は私の番よ」
 アリサがO・HA・NA・SHしたいようだ。
「それで、すずかは?」
「また、王族会議やって」
「すずかも大変ね」
 すずかは、また王族会議のようだ。
「そう。じゃあ、私はO・HA・NA・SHしてくるわ」
 魔理沙たちにO・HA・NA・SHしにいくアリサ。



 アリサにO・HA・NA・SHされるとも知らない3人は……。
「お金……。お金が有り余りすぎて使い切れない」
 お金の夢を見続けている霊夢。
 そんな、3人に一喝するアリサ。
「さっさと起きなさい!! さもないと腸を引き出すわよ」

「お金を盗む!?」
 寝ぼけている霊夢。
「私のお金を盗む……」
 目を覚ます霊夢。
「私のお金は盗ませないわよ」
 辺りを探す霊夢。
「私のお金がない!!」
 お金を探す霊夢。
 そして、アリサを犯人と決め付ける。
「あんた!! 盗んだわたしのお金を返しなさい!! 数え切れないくらいあったはずよ」
「そんなお金、なかったわよ」
 はじめからお金などなかった。
「こっちには、証拠があるんだから」
 そう言って、霊夢が笑いながら寝ている映像を見せる。
「もしかして、夢!?」
「そうよ。あんたは夢を見て笑ってたのよ」
「じゃあ、大量のお賽銭は?」
「あるわけないでしょ」
 夢だと知ってガッカリする霊夢。
「どうしたんだ!? 人が気持ちよく寝ていたのに……」
 魔理沙も目を覚ました。
「それより霊夢、どうしたんだ!?」

「目が覚めたのならO・HA・NA・SHしてもらうわ」
「お話しすることなんかないぜ」
「貴女達になくても私にはあるわよ」
 アリサの魔力が膨れ上がる。
「!?」
 魔法使いであるアリスは気づく。
「アリス、どうしたんだ!?」
「あの子、間違いなく魔法使いよ」
「魔法使いって、お前以外知らないぜ」
「それに、ここ、魔力をもった人がたくさん居るわよ」
「ここ、魔法使いの巣窟なのか?」
「えぇ」
「それじゃ、ここは幻想郷か?」
 ここは、幻想郷ではない。
「それよりO・HA・NA・SHしてくれるよね」
 魔理沙に遮那を向けて言う。
「何で私なんだ!?」
「あんたが、嫌われているからでしょ」
「言い忘れたけど、暴れたら私より怖い人たちからO・HA・NA・SHされるからね」
 アリサは、警告する。
「O・HA・NA・SHが怖いって言ってたら収集は出来ないぜ」
「そう」

「(だってさ)」
『(じゃあ、私がO・HA・NA・SHしてあげる)』


「なんなの? この気配」
 周囲の空気が変わる。
 何もない空間からすずかが現れる。
「O・HA・NA・SHされたいのは誰!?」
 すずかは、鋭い眼光で睨む。
「私じゃないぜ。O・HA・NA・SHされたいのは霊夢だぜ」
 霊夢にO・HA・NA・SHを押し付けようとする魔理沙。

「そう。家の物を盗む前にO・HA・NA・SHしていた方がよさそうだね」
 魔理沙の収集癖を見抜くすずか。
「私は、何も盗んでいないぜ」
「じゃあ、懐に隠している物だして」
「だから、何も隠していないぜ」
 だが、すずかに隠し通せるものではない。
懐に隠している物をだせ!!」
 統一言語で命じる。
 当然、統一言語で命じられて逆らえる筈がない。
 意思とは関係なく懐から盗んだものを取り出す。


 之って、人を操る程度の能力?


「人を操る程度の能力じゃないよ」
「!?」

 心を読まれた。
 これって、さとりと同じ能力……。


「万年金欠の霊夢!?」
「あんた、私の夢を覗き見たわね」


「それから、アリスさん。貴女の願いは叶うわよ」
 意味ありげな台詞を言うすずか。
「私の願いは誰にも……」
「自動人形……」
「!?」
 アリスは自動人形を完成できていない。
 月村家には完全自立型の自動人形が沢山ある。
 全てがメイドトして働いている。

「それより、今すぐ私達を幻想郷に帰しなさい!!」
 幻想郷に帰りたい霊夢。


「すずか」
「うん」
 すずかは、止む無く統一言語を使うことにする。
この我のものになれ、霊夢、魔理沙、アリス
 統一言語による命令だ。
 拒むことは不可能である。
 逆らうことも出来ずにすずかの軍門に下った。
 とりわけアリスは、研究室をもらっていた。


 そして、霊夢と魔理沙は……。
「しっかり働いてください」
 自動人形に監視されながら働かされていた。
「なんで、私と霊夢だけが働かないとならないんだ!?」
「無駄口を叩かないで手を動かしてください」
 月村家で強制的に働かされていた。
 戸籍などないから野放しにすることも出来ないのだ。
 彼女たちは、幻想郷の住人だからだ……。
「仕事をしないとすずかお嬢様にO・HA・NA・SHしていただきます」
 急に震えだす魔理沙と霊夢。
「O・HA・NA・SHはいや」
「O・HA・NA・SHは、勘弁して欲しいぜ」
 二人ともすずかのO・HA・NA・SHに恐怖を抱いているようだ。
「いいえ。ダメです。お二人へのO・HA・NA・SHは決定事項です。大人しくO・HA・NA・SHされてください」
 職場放棄して逃げ出そうとする。 
 当然、使用人が職場を放棄するなどもっての他である。

「なんの騒ぎ!?」
「アリス、助けてくれ!! O・HA・NA・SHはイヤだぜ」
 アリスに助けを求める魔理沙。
「アリス様には関係ないことです」
「そうね。魔理沙、霊夢、自動人形の研究の邪魔だけはしないでよね」
 そういい残してアリスは、部屋の中に消えていった。
「アリス……」
 だが、アリスは出てこない。
「さっさと働きやがれ」
 口調が変わるイレイン。
 仕込み鞭で叱責を始める。
 イレインの仕込み鞭で打たれる魔理沙と霊夢。
 鞭で打たれ止む無く仕事を再開する。
 広大な城と屋敷の掃除だけで日が暮れる。
 すずかに縛られてから毎日、掃除だけの日々だ。


 この我のものになれ、霊夢、魔理沙、アリス


 統一言語で命じられた為、拒否権はない。
 統一言語で命じられたら逆らいようがないのだ。


「休んでいる時間はありません。手を動かしやがれ」
 休ませるつもりはないようだ。


 翌日……。
 魔理沙、霊夢は、ヴァルハラを垣間見た。
「今日からは、総重量、100キロの重りを着けて働いてもらいます」
「無理だぜ!! 私は、人間だぜ」
「そんなの関係ありません。之は、すずかお嬢様からの命令です」
「命令なんかきかないぜ」
「では、ペナルティーとして重りを2倍にします」
「そんなのつけられたら動けないぜ」
「反論は受け付けません」
 複数のイレインが魔理沙に総重量、300キロの重りを装備させる。
 当然、普通の人間が動ける重量ではない。
 魔理沙は、動けない。
「其の重りを着けたまま屋敷の掃除をしてください」
 掃除前から動けない魔理沙。
「ちょとっと、重すぎて動けないぜ」
 イレインは、無視する。
「では、指示された場所の掃除をしてください」
 二人は、動けない。
 特に魔理沙は……。
「魔理沙、さっさと掃除するわよ」
 だが霊夢も動けない。
 数時間たっても部屋から出ることすら出来ない。
 部屋から出ることすら出来ずに日が暮れてしまった。


 当然、与えられた仕事が出来なかった魔理沙と霊夢は……。
「全く使えない人たちですね。部屋から出ずに何をしていたのですか」
「出なかったんじゃないわよ。これが、思いから動けないの」
「この屋敷に仕えるのでしたら、その程度の重量でも自由に動けるようになってもらわないと困ります」
「何時になったらはずしていいんだ?」
「はずすことは許されません」
「じゃあ、寝る時も!?」
「当然、そのままです」
 睡眠時も重量を外すことが出来ない。


「それでは、闘武場で戦闘訓練を行います」
「やっと脱げるぜ」
「いいえ。それを着たまま戦闘訓練をしていただきます」
「戦闘訓練って、誰が相手なんだ!?」
「つべこべ言わず、闘武場に行きやがれ」
 イレインに強制連行されていく魔理沙と霊夢。



 闘武場に連行された魔理沙と霊夢。
「……………………」
 そこには、どす黒い魔力を放つすずかが待っていた。
「今日、仕事、サボったんだって?」
「こんな重いの着てたら動けないぜ」
「今日、仕事をサボった分のO・HA・NA・SHをしようか」
 魔理沙の視界からすずかが消えた。
 次の瞬間、腹部に激痛が走った。
「魔理沙!?」
 魔理沙の腹にはすずかによって鉄板が激しくめり込んでいた。
「私のお腹が爆発したようだぜ」
 魔理沙は、大量の液体を吐きだし両手でお腹を押さえ倒れた。
 鉄板が無ければ、魔理沙はヴァルハラの門を潜ってたらだろう。
 すずかに殴られて魔理沙の腹にめり込んだ鉄板は、魔理沙の内臓を圧迫し続ける。
「つぎは、貴女だね」
 そう言うとすずかは、霊夢の首を掴んで片腕だけで持ち上げる。
 霊夢を掴んだまま宙に浮く。
 ヒト一人を軽々とである。
「貴女にもヴァルハラを見せてあげる♪」
 そう言ってすずかは、首から手を離す。
 開放されたと思う霊夢。
 だが、次の瞬間……。
 すずかの拳が霊夢の腹に突き刺さった。
 落下エネルギーと突き上げるエネルギーが霊夢の腹に炸裂する。
 すずかのパンチは、霊夢の腹に肘までめり込んだ。
 当然、鉄板も其の形を変える。
「うげぇぇぇぇっ!!」
 霊夢の地獄は、まだ終わらない。
 すずかのパンチは何度も霊夢の腹に肘までめり込む。
「ごはぁっ!!」
 すずかの攻撃で霊夢の内臓は破裂し血を吐いた。
「今日は、之ぐらいにしておいてやる」
 霊夢も魔理沙も死んでいる。
「陛下……。あの二人の処置は?」
 二人とも血を吐き続けていた。
「治療ぐらいしてやれ」
 やった本人が言う台詞ではない。
「御意」
 すずかによって制裁を加えられた魔理沙と霊夢は治療室に運ばれた。

 治療された二人だが、腹にめり込んだ鉄板を取り除くのに医師が苦労したのは言うまでもない。
 鉄板が歪み肉をも巻き込んでいたからだ。


 翌日二人は、何事もなかったように仕事をするのであった。
 そして、すずかを見るたびに怯えるのだった。


 その頃、幻想郷では……。
「魔理沙が、居なくなって平和ね」
 嫌われ者の魔理沙。
 その魔理沙が居なくなったので幻想郷は平和だった。
 
 一部の妖怪たちが弾幕ごっこをする程度だ。
 その弾幕ごっこに魔理沙、霊夢の姿はない。


 その幻想郷に異変が起きる。


 次回予告

 すずか「幻想郷で広まる噂」
 すずか「噂によって活発化する妖怪たち」
 すずか「紅魔館に住む吸血姉妹も」
 すずか「異変を解決する巫女は居ない」


 すずか「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』第92話『幻想郷に広まる噂』」



アリスだけは待遇が良いな。
美姫 「何でかしらね」
自動人形という夢のお蔭なのか。
美姫 「でも何よりも問題は幻想郷で異変が起こるみたいだけれど」
一体どうなるのやら。
美姫 「それではこの辺で」
ではでは。



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