第93話「幻想郷」
迎えた週末……。
なのは達は、月村邸に集まっていた。
「いよいよ幻想郷に行くわけやけど、その簀巻きはなに?」
「これ? 幻想郷の住人だけど」
「住人は分かるけど、なんで簀巻きなん」
「うちの物は、壊すし、仕事はしないから……」
すずかの手でキツク縛られている。
肉に縄がめり込んでいる。
「すずか、準備はいいわよ」
「皆、準備良いよ」
「それじゃ、幻想郷に行くよ」
「んじゃ、この簀巻きはうち等がもったる」
簀巻きの魔理沙と霊夢を担ぎ上げる、はやてとアリサ。
「下ろせ!!」
暴れようとする魔理沙。
暴れれば、暴れるほど縄が体に食い込む。
暴れた分、拘束がキツクなっていく。
すずかは、幻想郷へのスキマを開く。
そのスキマを通って幻想郷に侵入するなのは達。
簀巻きにされた魔理沙と霊夢も一緒だ。
すずかのスキマを抜けるとそこは、失われた日本の田舎があった。
「ここが、幻想郷!?」
初めて見る景色に声を上げる。
そして同時に疑問をぶつける。
「ちょっと、アンタたち。本当にここは幻想郷なんでしょうね!?」
「断言するぜ。ここは幻想郷だぜ」
簀巻きの魔理沙は断言する。
「それで、拠点はどこなんや!?」
拠点を聞くはやて。
「拠点は、確保してあるよ」
「何処や!?」
「霧の湖にある紅魔館よ」
それを聞いて嫌がる魔理沙。
「紅魔館は、イヤだぜ」
「何か、やましい事でもしたんでしょ」
ドキッ!!
「そうだ!! 私の家なら使って良いぜ」
自分の家を使えと言い出す魔理沙。
「魔理沙の家は、足の踏み場もないわよ」
「とりあえず私の家にGOだぜ」
魔理沙と霊夢を簀巻きにしたまま案内させる。
紅魔館へ向かうはずが、魔理沙の家に行くことになった。
一行は、空を飛んで移動する。
当然、魔理沙と霊夢は吊るされたままである。
魔理沙の案内どおりに飛ぶが……。
「あれ? 道に迷ったか?」
「道に迷ったというんじゃないでしょうね」
「私の家は、ここの筈なんだが……」
だが、魔理沙の家はない。
魔理沙の家は既に取り壊されている。
どこを探しても家の姿はない。
そして、建て看板を見つける。
看板には、魔理沙へのメッセージが書かれていた。
「私の家が……」
魔理沙は、自分の家がないことに嘆く。
「私のお宝……」
「魔理沙、諦めなさい」
「諦めるもんか!! 私の家を壊した奴からお宝を取り返すぜ」
家を取り壊した奴を許せないようだ。
「魔理沙の家は、ないから私の神社に泊まりなさい」
今度は、霊夢が泊まれと言い出す。
「私の神社は、屋根つきよ」
霊夢には、魂胆があるようだ。
ふっふっふっふっ。
こいつらから、宿代と称してお賽銭を取れば……。
霊夢の顔はにやける。
「私達から、宿代を盗って何をするのですか?」
ギクッ!!
「私達から、宿代を盗って何をするのかO・HA・NA・SHしてくれますよね」
すずかの口撃。
「O・HA・NA・SHしてくれますよね」
すずかの語気が強まる。
「O・HA・NA・SH、してくれますよね?」
すずかに震えだす霊夢。
「霊夢さんからのO・HA・NA・SHは、紅魔館でゆっくり聞かせて貰いましょう」
霊夢と魔理沙の意見は無視する。
紅魔館へ強制連行される。
連行中、暴れる霊夢と魔理沙。
「紅魔館だけはイヤだ!!」
「私の神社に……」
そんな二人を無視して紅魔館へ飛んでいく。
眼前に湖の島に存在感を示す城が見えてきた。
「あれが、紅魔館か?」
「すずかの城に匹敵する大きさだね」
「すずかちゃんの方が豪華で大きいよ」
すずかの城の方が大きいと言うなのは。
だが、紅魔館は、至る所が壊れ修復中だ。
敷地内には、修理に使うものと思われる石の塊が運び込まれていた。
それだけでは、元通りに直すのには足りない。
なのは達は、其の視界に紅魔館の門を捉える。
門には門番がいた。
気づかれる前に接近しなければならない。
「すずか、アレお願い」
「うん」
すずかは、一枚のカードを取り出す。
すずか自身の力で造り替えた『すずかカード』だ。
「『時』!!」
すずかは、時間を止める。
すずか達以外の時間が止まる。
すずか達は、一気に紅魔館の門前へ移動する。
門前に着くと時間を元に戻す。
再び動き始める時。
「あいや!」
いきなり目の前に現れた不審者に警戒する。
「侵入者あるか!?」
中国まる出しの門番。
「舘の主に取次いでくれる!? 手土産もあるよ」
簀巻きの霊夢と魔理沙を見せる。
「通してくれるよね?」
すずかは、入館許可を求める。
「お通しするわけにはいきません」
通行を拒否する門番。
すずか達を通したらいけない相手と見ているようだ。
「連絡はしていたはずだよ」
「?」
門番は、その事について答えない。
「通してくれなくてもいいよ。どうせ、貴女は侵入を許すのだから……」
意味ありげに言うすずか。
「何があってもこの門は通しません!!」
自信満々に言う中国。
「貴女は、眠くなる」
すずかが、言う。
「なんだか、眠く……」
中国は、その場で寝転がってイビキをかきはじめた。
すずか達は、紅魔門から紅魔館へ侵入を果たした。
そんな、様子を紅魔館のテラスから見ている影があった。
「美麗には、お仕置きが必要なようね」
門番は、美麗と言うようだ。
「咲夜、紅茶をあの子たちの分も用意して」
「畏まりました、お嬢様」
「あぁ。魔理沙と霊夢には出す必要ないから」
魔理沙と霊夢には必要ないと言うレミィ。
「さて、紅魔館の主としてもてなさなければならないわね」
レミリアは、どのようにもてなすのか?
館内に入るすずか達……。
館内には、絨毯が敷かれている。
「客の出迎えする気、あるんか?」
出迎えが無いことに不満を言うはやて。
一瞬、時間が止まる。
次の瞬間、メイドが立っていた。
「げっ、神出鬼没メイド!!」
簀巻きの魔理沙が言う。
「お嬢様が、お茶の席にご招待なさいます」
「有難く頂くぜ」
「お嬢様がご招待なさったのは、そちらの6名だけです」
魔理沙と霊夢は、招待されていないようだ。
「私たちも招待してもらうぜ」
だが、無視される。
「では、こちらに……」
咲夜に案内されるすずか達。
簀巻きの魔理沙と霊夢は、完全に荷物扱いだ。
「こちらでレミリアお嬢様がお待ちです」
レミリアの居る部屋の前まで案内される。
部屋のドアを開ける咲夜。
部屋の中には、レミリアとパチューリが居た。
「そのゴミは、隅にでも置いてください」
そう言われ部屋の隅に担いでいた簀巻きの魔理沙と霊夢を乱暴に落とした。
「いてぇ!! 人を落とすことはないだろ!?」
意見する魔理沙。
「魔理沙、霊夢……。良く顔を出せたわね、私の紅魔館を攻撃しておいて……」
「私達、襲ってないぜ」
魔理沙は、寝ころがされた状態でレミリアを見上げる。
「知らないとは言わせないわよ。私の紅魔館を壊した責任は取ってもらうから」
「責任なんて知らないぜ」
責任拒否する魔理沙。
「いいえ、取ってもらうわよ」
「其れより、私の家を壊したのはお前たちか!?」
「私たちは知らないわよ。屋敷の修理で忙しいから」
「じゃあ、パチェが持って居るのは何だ!? それは、私の物だぜ!!」
「これは、もともと私の本よ。それを魔理沙が盗んでいったんじゃない」
「盗んだんじゃない。借りただけだぜ」
「返してくれないのは、借りたとは言わないよ」
「違うぜ。お前の物は私の物、私の物は私の物だぜ」
「それを盗んだと言うのよ」
「パチェは、魔理沙をどうしたい!?」
魔理沙の処遇を聞くレミィ。
「また、魔理沙に盗まれるのは嫌だわ」
嫌われ者の魔理沙。
「魔理沙、嫌われ者ね」
「私のお宝は、取り返すぜ」
「其の前に過去の負債を返済して頂戴」
過去の負債の返済を要求するレミリア。
「負債を返すのは、お前達だぜ」
「これ以上話しても時間の無駄ね」
魔理沙と話しても時間の無駄だ。
魔理沙を足蹴にするレミィ。
「それから霊夢……」
「なに!?」
「貴女にも請求書よ」
レミィは、霊夢の前に請求書を置く。
紙には、霊夢が払えない額が書かれていた。
「なによ!! この額!!」
「何って、霊夢。貴女が盗んだお金に利息をつけた額よ」
「私、お金何って盗んでないわよ」
「霊夢。幾らお金が無いからって、盗むのは良くないわよ」
「私知らないわよ」
「咲夜!!」
「はい、お嬢様」
咲夜は、博麗 神社の賽銭箱を持ってくる。
「これを見ても言い切れる!?」
賽銭箱に満杯の賽銭と言う絶対的証拠を見せる。
「……………………」
「状況証拠は、霊夢の犯行だと示しているわ」
状況証拠は、霊夢の犯行を示していた。
「早く弁済しないと、ますます貧乏になるわ」
霊夢は、貧乏だ。
それも、参拝客が来ないのが原因の一つである。
参拝客が来ないので、常に賽銭箱は空なのだった。
「参拝客を増やしたいからって、盗んだお金を賽銭箱に入れなくてもね……」
「うるさい!!」
「魔理沙、霊夢。勝負しない!?」
「賭け?」
「貴女達が勝ったら、働き口を斡旋してあげるわ。逆に貴女達が負けたら私の奴隷になってもらうわ」
「いいわ。其の勝負、受けた!!」
「本当にいいの!?」
「いいぜ」
「いいわよ」
「合意したところで勝負するわよ。相手は、私じゃないけどね」
勝負相手は、レミリアじゃないようだ。
「レミィじゃないのなら、パチェか?」
「貴女達の相手は、パチェでもこぁでも咲夜でもフランでもないわ」
「じゃあ、誰なんだ!?」
対戦相手を聞く魔理沙。
「返り討ちにしてやるぜ!!」
返り討ちにすると言う魔理沙。
「湖の上なら好きなように戦っても良いわよ」
魔理沙と霊夢は、霧の湖の上に浮いている。
簀巻きから開放された二人は、殺る気満々だ。
「スペルカードない相手なんて楽勝だぜ!!」
楽勝と言う魔理沙。
「それで、相手は?」
対戦相手を聞く霊夢。
「対戦相手は、すずかよ」
それを聞いて振るえはじめる霊夢と魔理沙。
「霊夢と魔理沙、震えているわよ」
「ふる、震えてなんか居ないぜ……。こ、これは、武者震いだぜ」
「そ、そ、そうよ!!」
「そうは、見えないわよ」
「武者震いと言えば、武者震いだぜ!!」
「そう言うことにしておいてあげるわ」
霊夢と魔理沙の震えを無視するレミィ。
「時間は、無制限。殺されないようにがんばってね」
時間は、無制限だ。
「霊夢、敵の動きを封じるのは任せるぜ」
「魔理沙、火力攻めは任せたわ」
「任せろ!!」
戦闘態勢をとる霊夢と魔理沙。
「矢」
二人がスペルカードを唱えるより、すずかの方が早かった。
具現化した矢が霊夢と魔理沙に矢の雨を降らせる。
すずかの火力に逃げ惑う。
「霊夢、夢想封印使うんじゃなかったのか!?」
「使うどころじゃ……」
そんな霊夢に矢が降り続ける。
「魔理沙こそ、撃ちなさいよ」
「マスタースパークを撃つ隙すらないんだぜ」
マスタースパークを撃つ余裕すらない。
「そんなに撃ちたい!? 撃ちたいのなら撃たせてあげようか?」
「撃たせてくれるのか!?」
魔理沙の表情が変わる。
魔理沙と霊夢は、矢によって被弾していた。
「今度は、こっちの番だぜ」
反撃開始と言う魔理沙。
ミニ八卦炉を構える。
「マスタースパーク!!」
魔理沙は、マスタースパークを撃つ。
だが、すずかは動かない。
むしろ、何かを企んで居るようだ。
ニヤリっと笑うすずか。
「時!!」
時間が止まる。
すずかは、紅魔館を背にした位置に移動する。
移動すると再び時間が動き出す。
すずかが居たはずの場所をマスタースパークが素通りする。
「直撃だぜ!!」
だが、喜びも一瞬だった。
「どこ狙っているの?」
「!?」
すずかがいる方を見る魔理沙。
魔理沙には、一瞬ですずかが移動したように見えた。
「今度は、動くなよ」
再びミニ八卦炉を構える。
魔理沙は、回りが見えていない。
すずかを倒すことしか考えていない。
「魔砲『ファイナルマスタースパーク』」
魔理沙が撃った先には紅魔館があった。
すずかは、弾幕が目の前に来るまで逃げない。
すずかに魔理沙の魔砲『ファイナルマスタースパーク』が迫る。
「時!!」
再び時間が止まる。
魔砲『ファイナルマスタースパーク』の前から移動するすずか。
時間を止めたままのすずか。
「後、少し時間を止めていられるかな?」
すずかは、霊夢を探す。
「居た!!」
すずかは、霊夢の所に移動する。
霊夢の首根っこを掴んで元の位置に戻る。
元の位置に霊夢を置いて、また移動するすずか。
すずかは、レミィの隣に行くと時を解除した。
「えっ!?」
霊夢は、魔理沙の魔砲『ファイナルマスタースパーク』に飲み込まれてしまった。
霊夢を飲み込んだだけでは終わらない。
紅魔館にも命中した。
修復中の紅魔館の一部が消滅した。
「次は、自分の攻撃を受け続けてもらおうかな?」
「「!?」」
いつの間にか隣にいたすずかに驚くレミィと咲夜。
「何時の間に……」
「ちっ、外したか……」
だが、魔理沙は気付いていない。
霊夢を吹き飛ばしたことに……。
「何処へ行った!?」
すずかを探す魔理沙。
「そこか!!」
レミィと一緒に居るすずかを発見する魔理沙。
「咲夜!! 魔理沙、私に喧嘩を売るみたいよ」
レミィは、魔理沙の喧嘩を買うつもりだ。
「そのようですね」
「魔理沙からの喧嘩、買うわ」
「その必要はないよ」
「必要ある。私の紅魔館に傷をつけた代償として血を吸わないと……」
「魔理沙さんには、自分の攻撃でヴァルハラに逝ってもらいます」
怖いことを言うすずか。
その手には、輪があった。
すずかの眼の色が紅から黄金に変わる。
周囲の空気が変わるのをレミィと咲夜は感じ取った。
普通の人が出せる気配ではないのだ。
「今度こそ仕留めてやるぜ」
魔理沙は、再びファイナルマスタースパークの用意をする。
これから自分の身に起こる悪夢など予想すらしていない。
想像しているのは、勝ち誇っている自分の姿だ。
「魔砲『フィナルマスタースパーク』!!」
魔理沙は、自ら処刑の引き金を引いた。
すずかの黄金の眼が光る。
そして、言う。
「輪」
次の瞬間、魔理沙の周辺の空間が歪む。
「ん?」
すずか達を狙って撃った魔理沙は、自分の目を疑った。
目の前に自分の背後が見えたのだ。
だが、魔砲は直ぐには止められない。
魔理沙は、自分が放った魔砲『ファイナルマスタースパーク』に飲み込まれた。
それは、一度だけではない。
何度も繰り返し魔理沙を襲う。
解放されるのも一瞬だ。
次の瞬間には、自らの砲撃に飲み込まれる。
「さっきまで、魔理沙の前に居なかった?」
すずかの瞬間移動の疑問を持つレミィ。
「何って、時間を止めただけよ。魔法で……」
「時間を止めた!?」
すずかが時間を止めたってことに驚く。
「瞬間移動したように見えたのも?」
「時で時間を止めたの」
「そう」
「あれは、何時まで続くのでしょうか!?」
「何時でも止められるけど……」
「止めなくていいわ。魔理沙には、暫く地獄を味わってもらいましょう」
止めなくて良いと言うレミィ。
「アレは、地獄やで」
すずかの輪は、地獄らしい。
「無限地獄だもんね」
「その身で体験した、なのは。感想は?」
「あ、あれは……」
なのはも身をもって体験したようだ。
「自分の魔砲で自分の魔力を削られた身にもなってよ」
「すずかちゃんに輪使われたら自爆になるからな」
「砲撃魔導師にとっては、最悪の相手よね」
なのはに言葉の刃が刺さる。
「其れより、そろそろ危なくない!?」
「そうやな」
危険な状態だと言うはやて。
「それぐらいすずかも分かっているわよ」
アリサの言う通り魔理沙が輪による無限地獄から解放されたのは直ぐの事だった。
解放された魔理沙は、湖に墜落した。
はたして、魔理沙の運命は……?
次回予告
フェイト「すずかに負けた二人」
アリシア「紅魔館でメイドとして働かされる二人」
アリサ「なのはもO・HA・NA・SHしたいんじゃないの?」
なのは「したい」
はやて「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』第94話『幻想郷に降り立った白い悪魔』」
すずか「なのはにO・HA・NA・SHされよ、霊夢、魔理沙」
忘れていたが、幻想郷では霊夢と魔理沙が犯人扱いされていたんだったな。
美姫 「確かにそうだったわね」
すずかたちにこき使われている二人のイメージが強すぎて、幻想郷の事件を忘れる所だった。
美姫 「とは言え、折角幻想郷に戻って来たけれど……」
住人からは犯人扱いの上に勝負で負けて。
美姫 「奴隷扱いになってしまったわね」
こんな事で事件の真相が暴けるのか。
美姫 「まあ、その辺がすずかたちが動くでしょう、多分」
かな。さて、どうなるやら。
美姫 「次回を待ってます」
ではでは。