第二話「覚醒U」






 
 《SIDEムーンタイズ》
「では潤、なにか用事がある時はいつでも呼べ。なかなか寝付けないようなら、ベットで絵本を読んでやろう」
「……俺は子供かよ……。じゃあ、おやすみ」
「うむ!」


「……それにしても……吸血鬼か……」
 色々ありベットに倒れこむ。

 それから2時間後……

「……トイレ行きたい……」
 トイレに行きたくなって目を覚ます。
 そしてトイレへ行く潤。
「ふぁぁ〜〜〜ぁ……」
 あくびをする。
「……ふぅ……」
 スッキリしたようだ。
 水を流す。
「……あぁ、またなんか難しく考えているな……俺……」
 また難しいことを考えていたようだ。
「考えて考えて……思いつく限りのパターンを想像して……結局どうすることも出来なくて……まぁ、なるようにしかならないよねって……割り切るまで時間が掛かるんだ……」
「……ん〜〜……?」
 寝ぼけたベルチェが現れた。
「うわぁあっ!! ビ、ビックリしたぁっ!!」
「……おう……潤……トイレか?」
「えぇ……? あ……う、うん……」
「うむ……いい子だ、寝小便をするなよ? 私の仕事が増える……ふあぁぁぁ〜あ……」
 寝ぼけたベルチェがあくびをする。
「…………あの……ベル……チェ……?」
「んん? なんだ……?」
「……うん……いや……なんでもない……おやすみなさい……」
「うむ……おやすみ……」



 《SIDE月姫》
「昨日ビルを壊したったから今夜は壊さないようにしないと」
 さつきは、夜の町を彷徨っていた。
「見つけたぞ吸血鬼!!」
 さつきに言う神父風の男。
「昨日の夜、我らの仲間をよくも殺してくれたな!? 今度は、貴様が殺される番だ!!」
 さつきは、昨夜、誰かを殺していたようだ。
「貴様を此処で殺ししてくれる。死ね!!」
 さつきの前に歩を進める神父風の男。
「えっ?」
 無防備なさつきの腹に神父風の男のパンチが突き刺さる。
「うぉえっ」
 さつきの口から胃液が逆流して来る。
 さつきの体は神父風の男の拳を腹部に受け入れたままくの字に折れている。
「吸血鬼のくせに体の強化も出来ないのか!?」
 今度は、反対の拳がさつきの腹にめり込む。
「苦しいよ」
「もっと苦しめ!!」
 神父風の男は全体重を乗せたパンチをさつきの腹に叩き込んだ。
 パンチはさつきの腹に激しくめり込んでいた。
「がはっ」
 さつきが口から血を吐く。
 神父風の男がさつきの腹から引き抜く。
 さつきは、地面に落ち、両手でお腹を抱え苦しむ。
「い、痛いよ……く、苦しい……」
「之だけ痛めつけてやってもまだ動けるか……」
 神父風の男は次の手を考える。
「今の貴様が黒鍵を受ければどうなるかな?」
 神父風の男が黒鍵をさつきに投げつける。
 投げつけられた黒鍵がさつきの体に突き刺さる。
 さつきの体から血が流れる。
「い、イタイよ」
「当たり前だ!! 対吸血鬼用の装備だ」
 黒鍵が刺さったさつきが苦しむ。
「邪悪の徒、地獄以上の苦しみを味わいながら死ね!!」
 そう言って再び黒鍵を投げつける。
 これまた、さつきにこれでもかというぐらい突き刺さる。
 さつきの黒鍵刺しの完成だ。
「それだけ串刺しにしてもまだ消滅しないか……」
 さつきは、消滅せずにまだ残っていた。
「何で私がこんな目にあわないといけないの?」
「それは貴様が吸血鬼だからだ!!」
「こんなところで死にたくないよ」
 さつきの中でなにかが跳ねる。
 死に掛けのさつきから魔力があふれ出す。
 その魔力は、どんどん大きくなっていく。
「この死に損ないが」
 さつきは、体に刺さった黒鍵を抜いていく。
 抜いた黒鍵が端から砂に変わっていく。
 黒鍵が刺さっていた傷が塞がってゆく。
「滅びろ!! そして地獄で悔い改めよ」
「死にたくないよぅ」
 黒鍵に串刺しにされたさつきが生への強い執念を抱く。
 そして、其れがさつきを覚醒させた。
 黒鍵を再び投げるがさつきに届く前に砂になってしまう。
「こ、固有結界だと!!」
 さつきからは、魔力が溢れ出る。
「貴様、成り立てじゃないのか?」
「成り立てかは分からないけど、彼方は許さないから」
「貴様、何者なんだ!?」
「わたし? 私は、弓塚さつき」
 さつきが名を名乗る。
「弓塚さつきか……。貴様は、之でブラックリストに記載された」
「ブラックリスト?」
「私を倒したところで無駄だ。今後、私より強い代行者がオマエを処理しに出てくる」
「ごちゃごちゃ五月蝿いよ」
 更に魔力を強めるさつき。
「固有結界といい、この魔力、死徒二十七祖……」
 神父風の男は、目の前の敵、弓塚さつきに恐れを抱いている。
 先程までの勝ち誇っていた威勢は既に無かった。
「ち、近寄るな!!」
 だがさつきは、無視して神父風の男に近寄る。
「近づくな化け物!!」
 さつきに黒鍵を投げつけるが、さつきに届く前に砂になってしまう。
「く、来るな!! 私に近づくな!! この化け物!!」
 完全に怯えている神父。
「私が化け物だったら、彼方は何!? 女の子のお腹を何度も殴っておいて、私から見たら貴方の方が化け物よ」
 さつきが神父風の男に殺気を向ける。
「覚悟はいい?」
 神父風の男の首を掴んで持ち上げる。
 神父風の男の首から骨が軋む音がする。
「この吸血鬼、私程度で倒せる相手ではなかったか……」
「じゃあね。後悔しながら死んでね」
 グサッと神父の胸に腕を突き刺した。
 さつきに胸に風穴を開けられた神父は絶命していた。
「また移動しないといけないなぁ」
 さつきは神父を殺してしまっている。
 この場に居るわけにはいかないのだ。
「昨日の夜は、ビルを壊したし、今日は神父さんを殺しちゃった。寝床が無くなっていくよう」
 寝床の確保すら難しくなるさつきである。


 《SIDEムーンタイズ》
「……フフンフンフン、フフフンフンフ〜ン……」
 鼻歌を歌っているベルチェ。
「………………」
「お? 起きて来たか、おはよう潤」
「……縮んでる……」
「ん? どうした? なんだか疲れた顔をしているな?」
「……あの状況じゃね……」
「そうか? 今朝は私の胸の中で、寝息をたてていたではないか」
「気がついたら……そうなってたんだよ……」
「私が明け方に目を覚ましたら、私の横で、枕を抱えて猫のように丸くなって寝ている姿が可愛くてな、つい抱き寄せて居待った。寝苦しかったか?」
「……ん……別に……そんなことはなかったけど……」
「心配するなよ、今日オマエが学校へ行っている間に、地下室を掃除しておく。今夜は迷惑を掛けんよ」
「……うん……」
「ほら、座れよ。いま朝食を用意する」
「あ……ベルチェ?」
「ん?」
「ん……いや……なんでもない……」
「はン、朝食のことなら心配要らんよ、食材は今朝コンビにまで行って、ちゃんとした物を買ってきたし、昨日分解した電子レンジも戻しておいた」
「あ……うん……そう……。……って、ちょっと待て」
「ん?」
「……俺は昨日の夜……電子レンジを食ったのか……?」
「だから、ちゃんと元に戻しておいた、多少デザインは変わってしまったがちゃんと機能している、問題ない」
「……今朝のメニューは……?」
「シリアルトースト、目玉焼きにトマトビーンズ、それにサラダと紅茶だ」
「……ちゃんと、買ったんだよね?」
「金は、ブライアン様から預かってきている」
「調理は? ちゃんとガス、使った?」
「心配ないよ。待っていろ、今もって来る」


「今朝のニュースは……と」 
 テレビをつける潤。
『今朝、三咲町で神父が殺されているのが発見されました』
 テレビがニュースを伝える。
『この神父も一連の殺人事件の犠牲者と見られます。また、同神父は刃物を持っていたことから銃刀法違反で被疑者死亡のまま書類送検される見込みです』
「なぁ、ベルチェ」
「なんだ!?」
「神父って刃物を持っているの?」
「持っていても不思議じゃないぞ」
「何で持っているの」
「それは、聖堂教会の連中だからさ」
「聖堂教会? 聞いたことがない単語だけど……」
「オマエが知らないのも無理がない。やつらは自分たちの存在を隠しているからな」
 聖堂教会は存在を隠している。
「神父を殺した奴は、ブラックリストに載せられるだろうな」
「ブラックリストってなんなんだ?」
「知らないのか?」
「……知らない……」
「知らないか……なら説明してやろう。教会のブラックリストは、殲滅すべき吸血鬼の名が書き連ねられたリストのことだ」
「それに俺の名が記されているのか?」
「いいや、オマエの存在はまだ知られて居ないから心配はないだろう……」
「じゃあ、ベルチェは?」
「私は記されているだろうな。なんたって魔女だからな」
 ベルチェは、ブラックリストに載せられているらしい。
「神父を殺したのはおそらくSクラスの吸血鬼……成り立てだろな」
「なり立てで神父を殺せるの?」
「普通は出来ないだろうな。黒鍵に貫かれて灰になって終わり」
「それって……」
「神父を殺した吸血鬼は、成りたてで尚且つ教会の者を倒すことが出来るということだ。近い内に出会うことになるかもしれんな」
「……そう言えば、昨日の夜はどうして大きくなってたの?」
「あぁ……満月が近いからね、磁場の影響で一時的に元の姿に戻ったのだろ」
「じゃあ、夜になると毎回大きくなる訳じゃないんだ?」
「まぁね、元の姿に戻ろうと思えば戻れるのだが、その為にはストックしてあるデータを破棄する必要がある」
「……あぁ……また長くなる? その話」
「なるね。興味があるのなら、時間がある時に説明してやるよ」
「うん、今はいいや……なんか、昨日からいろんな情報が頭に入ってもうパンパンだよ」
「学校は? 何時に家を出れば間に合うのだ?」
「ん……歩いて行ける距離だからね、7時半に出れば間に合うよ」
「まだ7時前だ、余裕だな」
「まぁね……」
「ん? どうした? 私の顔に何かついているか?」
「あぁ、いや……綺麗な目だなって思って……」
「目……? あぁ……吸血鬼特有の赤い目だ……色素が抜けて眼球の血管が見えているのだ、気味悪がられる方が多い」
「俺の母さんもそうだったよ」
「おそらくは父親……イド様から直接命を授かったせいだろうな、肌も抜けるように白かっただろう」
「ベルチェさ、母さんに似ているよ……」
「……そうか?」
「いや……なんか雰囲気がね。小うるさくて言葉遣いが横柄で態度がデカくて……」
「悪かったな」
「それと、キミ、タバコ吸うでしょ?」
「ん? ……オマエの前では吸っていないはずだが……匂うか?」
「母さんも吸ったんだ……俺、タバコの匂いには敏感だから」
「……気をつけよう……」
「ねぇ、ベルチェ」
「なんだ?」
「……180年生きてきて、どうだった?」
「どうだった……とは?」
「退屈じゃなかった?」
「全然? この世は私の知らないことばかりだ。知っても知っても、新しい情報は生まれてくる……喜びと怒りと悲しみと楽しみ……ましてや私は魔女…… 人間には理解できない新しい感情すら生まれることもある、退屈している暇なんかないね」
「……そう……」
「不安か? 吸血鬼になることが」
「全く不安を感じないと言えば……嘘になるかな……?」
「人間も吸血鬼も、大した違いはないよ。せいぜい今まで真っ直ぐだった物が、曲がって見えるようになる……物の本質を、もう一段深く認識できるようになるだけだ」
「……その感覚も……わからないな」
「実際に吸血鬼になってみなければ、わからないさ。人間にムカデの歩き方の感覚は想像できんよ」
「……複雑そう……」
「言っただろう? 難しく考えるな。ムカデはタダのたとえ話だよ。実際の所、感覚的には……そうだな、背中からもう1本腕が生えてきて、背中を掻くとき便利だなって、その程度のさだよ」
「……それすら想像できない……実際に生えてきても、上手くコントロールする自身がないな……」
「生まれた時から吸血鬼だったのなら、そんな苦労はせんのだがね。まぁ、ある日突然、自分の意思で耳を動かせることに気がつくような感覚だろう」
「……ムカデの足から最後は耳か……どんどん話がセコくなっていく感じ……」
「さて、そろそろ学校へ行く時間ではないか?」
「うん、ごちそうさま、美味しかったよ」
「はいよ、おそまつさまでした」
「……はぁ、吸血鬼になっても、学校に行かなきゃいけないのか……化け物には学校も試験もないんじゃないのか?」
「時代の流れって奴さ、最近の化け物は携帯電話も持っていれば、パソコンでネットもやる」
 現代の化け物はネットもやるらしい。
「人間で居られる内に、人間の学校を楽しめよ」
「そうだね……」
 その時、ドアフォンがなる。
「む? 誰だ? こんな時間に……」
「あぁ……この間抜けクサイ呼び鈴の押し方は多分……」
『じゅーんくーん、ガッコいこぉ〜〜〜』
「おい潤、なんだか癪に障る間抜け声を出す生き物が玄関にいるぞ?」
「俺の友達だよ」
「そうか、では散弾銃を取ってこよう」
 散弾銃を取ってくるというベルチェ。
「友達だって言ってンだろっ! 聞けよ! 人の話!!」

 潤は玄関から出る。
「あ、潤くんおはよう!! 今朝もいい天気だぞー?」
「……………………」
「だぞーーー?」
「……………………」
「……だ……」
「黙れ」
「はぅ……ちょ……キミ誰? 潤くんは?」
「……おはよう、操」
「あ! 潤くん!! この子誰!? なんかボクのこと、図鑑に載っていない動物でも見るような目でみてるよ!?」
「ん? この子は……あー……えーと……なんて説舞したモンかな……」
 説明に困る潤。
「潤の友達か?」
「……え? あ、うん……友達……クラスメイト……」
「貴様、なぜ女の格好をしている?」
「……え?」
「フン……まぁいい……どうやら考え過ぎのようだ……」
「なにが?」
「私はエルシェラント・ディ・アノイアンス……潤の母親の弟の娘の友人だ。昨日から、この家で家政婦をしている」
「あ……えぇ? あぁ、えっと、ボクは高柳操……えっと、潤くんのクラスメイトで、潤くんの幼馴染暦11年です……はい……」
「そうか、潤がいつも世話になっているようだな、今日もよろしく頼む」
「あ……う、うん……あ……えっと、はい……わかりました……こちらこそ……」
「では潤、行っておいで」
「行ってきます」
「おっと、忘れる所だった、おい潤、ほら、弁当だ」
「わざわざ詰めてくれたの? 学食でも良かったのに……」
「つれないことを言うなよ、もっと私にお母さんゴッコを楽しませろ。心配するな、ちゃんと普通の食材だ」
「……いや、うん……ありがとう……」
「ほら、行ってこい、遅刻するぞ?」
「うん、行ってきます」
「……操?」
「あ、は、はい!」
「潤を頼む」
「あ、はい……行ってきます……」
「うむ」

 登校中……
「ねっ! ねっ! ねっ! 潤くん潤くん!!」
「なんだよ、名前を連呼するな」
「今の誰!?」
「だから、本人から自己紹介があっただろう? エルシェラント・ディ・アノイアンス……ウチの家政婦だよ」
「家政婦……? なんで? それに、潤くんの母親の弟の娘の友人って、結局他人だよね? なんなの?」
「なんなのって……言われてもな、ほら、俺の父親の実家、イギリスだろ? そっちの方から派遣されてきたんだ」
「そっちの方ってどっちだよぅ? 消防署の方から来ました的なアレか? 言葉のトリックか」
「ほら、俺の母親が死んで、もう4年だろ? 俺が日本で一人、苦労しているんじゃないかってさ、爺さんが気を利かせてくれたんだってさ」
「なんであの子、ボクが男の子だって……わかったんだろ?」
「パンツからボールがはみ出してたのが見えたんじゃないか?」
「み! 見えてない見えてない!! ちゃんと隠しています!!」
「苦労して隠すぐらいなら、男の服を着れば良いのに」
「……う〜でも……こっちの方が落ち着くし……今更ボクが男の子の服着てたら、逆に皆ビックリすると思うよ」
「とは言え、操も、いつまでもこのままって訳には行かないよ?」
「わかっているけどさ……いいじゃん、似合っている内は……」
「まぁね」
「それにしても、家政婦さんかぁ……随分と可愛らしい子だね、あの子、何歳なの?」
「180歳だってさ」
「へぇ〜……外国の子は老けて見えるって言うけど、逆なんだね」
「……随分とやんわりと受け止めたな……」
「冗談なんでしょ? 何歳なの?」
「さぁ? 俺達よりは年上だよ」
「えぇ!? 本当に!? あんなに小さいのにぃっ!?」
「日差しの強い国の出身なんじゃないかな?」
「なにそれ!? 日に当たりすぎると縮むってことっ!?」
「ホラ、干し柿とか、タクアンとか」
「あ、そうか! 馬鹿にしてんのか!? ボク今、馬鹿にされてんのかっ!?」
 馬鹿にされていると思う操。
「夜になると伸びるから、今度見においで」
「伸びるかボケッ!!! どこまで馬鹿にするんだよぅ!!」 
 馬鹿にされて怒る操。
「キミはアレか!! ボクを馬鹿にした回数をギネスに申請するために、世界記録を樹立しようとしてんのか!!」
「あぁ、それならきっと修がレコードホルダーだな」
「ううぅ〜〜……これはイジメだぁ〜……」
「可愛い子ほど、苛めたい年頃なのさ」
「うぅ……言葉の刃、刺さりっぱなしで血が止まらんよ……」
「……ん……?」
 潤は、おかしな気配を感じた。
「……潤くん……? どうしたの……?」
「え? あ……なに?」
「なんか、急にボ〜っとして……」
「別になんでもないよ」
「下痢?」
「……いや、せめて『お腹痛いの?』ぐらいにしてくれよ……」
「最近の潤くん変だよ……? なにか困ってることがあるのなら……相談してよ」
「……相談……か……」
 本当のことが言えない潤。
「ありがとう操……大好きだよ……」
「嘘だよ……都合が悪いことがあると、いっつもそうやって誤魔化すんだから……」
「……そんな俺は嫌いか……?」
「…………卑怯だよ…………」
「そのうち話すよ……今はまだ、俺の中でも上手く説明できないんだ……」
「……本当……?」
「あぁ」
「絶対……?」
「うん、いつか……必ず話すよ……」
「……わかった……」
「物分りの良い子は大好きだ」
「そう言われたくて、物分りの良い子の振りしてだ……納得なんかしてないぞ?」
「さ、学校へ行こう。誰が見ているかわからないぞ? こんな所で男同士がベタベタしてたなんて、噂されたくない」
「わぁ! 待ってよぉ!! 置いてっちゃやだぁ!!」


 私立八坂学園
「おっはようございまーす!!」
「ん? なんか教室が騒がしくないか……?」
「おぉ、二人とも、おはよう」
「おはよう、修。なにかあったの?」
「うん、いや……僕も今来たところでね、詳しい話は不明だが……どうやら、行方不明になっていた例の少女……なんといった?」
「E組みの神埼さん?」
「そう、神崎仁美くんだ。彼女が発見されたらしい」
「へぇ、良かったじゃない」
「うむ……それがどうもね、あまり良い知らせではないらしい」
「どういうこと?」
「不確かな情報なので、あまり大きな声では言えないし……あまり信用されても困るのだがね……死体で発見されたらしいよ……」
「……えぇっ……!?」
「昨日の夜……公園で犬を散歩させていた老人が発見したらしいね……なんでも噂では……発見された遺体は相当痛みがひどかったらしい……」
「……どういうこと……?」
「詳しいことは不明だが、何か爆発のような物に巻き込まれたんじゃないかというはなしらしいね……」
「……爆発……?」

「……どうした……潤、気分でも悪くなったのか……?」
「あ……いや……なにかちょっと、変に気にかかるなって……」
「……それって何なの……? 通り魔? 爆弾魔……とか」
「詳しい見解は極秘だそうだよ……」
「やだな……なんか怖いよぅ……三咲町の犯人が来てたりしなよね」
 操が三咲町の話題を出す。
「そう言えば、三咲町でも女子高生が行方不明になっているって言っていたな……」
「テレビでも連日言っているよ。連続殺人犯が潜伏しているって」
「……ちょっと貴方達、くだらないお喋りはやめて席に着きなさい、もうすぐ先生が来るわよ」
「……委員長……」
「ちょっと、その呼び方やめてって、いつも言っているでしょう? 委員長は私じゃなくて、函南くんでしょう!?」
「あ、いや……でもスゴイ委員長顔だし……つい……」  
「やめてよね、2年のクラス替えの時、貴方がそう言って無理やり委員長呼ばわりしたせいで、私、皆にそう呼ばれているんだからっ!!」
「んん? 僕は別に、キミが委員長でも構わんがね。交代するかい?」
「それこそ良い笑いものだわ、顔で選ばれたってずっと言われ続けるのなんてゴメンよ」
「僕なんて、所詮はクラスの看板でしかないよ、何か不備があった時に、投げつけられた石を受け止めるだけの存在だ。実際の仕事は、副委員長であるキミの方がずっと有能だよ」
「……人望の函南、実務の水野ってね……看板も大いに結構ですけど、何でもかんでも私に仕事を押しつけないで欲しいわね」
「仕事は嫌いではなかろう? むしろ、キミみたいなタイプは、他人の愚図な仕事に我慢が出来ずに―――『退きなさいよ、私がやるから!』 と言って、人の仕事を取り上げてまでこなしてしまうタイプだ」
「そんなことありません!!」
「そう? 会計の田中美和子くん、泣いていたよ? 水野さんは私を無能だと思っている……ってね」
「……修……」
「なんだい?」
「言いすぎ。……ごめんね、委員長」
「……委員長って呼ばないで……」
「こんなこと言っているけどさ、修だって、本当はキミに感謝しているんだよ? 水野くんが居てくれて、本当に助かったって、よく言っているし」
「感謝する気があるのなら、あまり私に負担をかけないように尽力なさい! フンッ!!」
「……やれやれ……短気な所を除けば、アレでなかなか可愛らしい子なのだがね……」
「また何か、面倒な仕事押しつけたな?」
「ん……ちょっと、久住秀介の件をね……」
「久住……? 久住って……たしか……」
「そう、2年生になってから、一度も学校に出てきていない学生だ」
 久住は学校に来ていないらしい。
「水野くんには、彼の家に訪問して、配布物を届けたり、学校に来るように説得してもらっている」
「久住は、病気で長期欠席だったんじゃないのか?」
「まぁ、心の病気かな……? 誰にだって、自分以外の人間が全員馬鹿なんじゃないかって思って、他人を嫌う時期があるものだ。親に殴ってもらえない可愛そうな子供なのさ」
「……ふぅん……流石に経験者は言うことが違うね……」
「意地悪な物言いをしてくれるなよ。キミは僕の母親よりも、僕の弱みを知っている」
「それで? 委員長に、久住を殴れって言ったの?」
「まさか。彼女には、彼に学校に来るように説得してもらっている。こういうのは、男より女の口から出た方が耳障りが良かろう?」
「……なるほどね、面倒な仕事だ……そりゃ委員長も文句の一つだって言いたくなるな」
「まぁね、感謝はしているよ、心からね」
「伝わっていなければ意味がない。昨日キミに言われた言葉をそのまま返すよ、『自分に向けられる好意を利用して人を動かすな』だよ」
「ふむ……好意ってのは、受け止める物があって、楽をする為の道具ではない……か……われながら良いことを言うね」
「……言うだけじゃないか……」
「む? もちろんキミにもも感謝しているよ、さっきは良いタイミングで止めてくれた、お陰で助かった」
「俺に政治家の秘書みたいな真似をさせるな」
「馬鹿を言うなよ、僕はキミに、お金では買えない感情をを向けているさ」
「……言ってろ……」
「ところで操は? 何処へ行った?」
「とっくに自分の席についているよ、操は、委員長苦手だから」
「操は水野くんが苦手じゃなくて、上辺だけで説教する人間が嫌いなんだよ」
「またそうやって余計なことを言う……」
「僕も将来は政治家になる可能性が高いからね、今のうちに憎まれる練習をしているのさ」
「そういうのを政治腐敗って言うんだ」
「はい、みんな席に着け〜! ホームルーム始めるぞーー」
 担任がやってきた。
「おっと……」
「はい、いいですかー? 今日は皆さんにビッグニュースがあります」
 ビッグニュースがあると言う担任。
「ハイハイ、静かにーー!! では紹介しよう、転入生のリカ・ペンブルトンさんだ。あぁ、入って」
 教室に入るよう促す。
「あ〜……ペンブルトンさんは、アメリカのミネソタ州から語学留学生としてやってきました、え〜と、日本語は大丈夫かな? ミス・ペンブルトン」
「YES……大丈夫なのは、少しだけの日本語デす……」
「ah〜……では、ジコショーカイ、プリーズ」
「たダいまご紹介に預かりました、Rika・Penbletonでス……お友達にてくだサい……」
「え〜……ペンブルトンさんは、まだ日本に不慣れです、色々と不自由することもあると思います、みんなでフォローしてあげるように」
『はーーーい……』
「……………………」
 潤は目があった気がした。 
「……フッ……」
「……荻島? 聞いているか?」
 潤に言う担任。
「え? あ……はい、なんです?」
 潤は、聞いていなかったようだ。
「だから、暫くは、オマエがペンブルトンさんの面倒を見るように」
「なんでっ!?」
「オマエ、父親はイギリス人だろう? 英語、話せるんだろう?」
「あ……はい……少しなら……」
「だったら、オマエが適任じゃないか、任せたぞ」
「あ! でも……」
「不満か?」
「いえ、わかりました……」
「よし、じゃあ、荻島の隣に座ってもらおう。この列、荻島の隣から一人ずつ下がってくれ」
『はーい』
 席を移動する生徒。
「……オギジマ……ジュン?」
「オギ『シマ』だよ……」
「……隣、いいかしラ……?」
「どうぞ」
「よーし、じゃあ出席簿を集めるぞーー。各自机の左側に出席簿を出して〜……」
「………………」
「……ナに……?」
「あのさ……まさかキミ……ベルチェ……?」
「……what……?」
「あ、いや……違うんなら良いんだ、気にしないで」
「……フッ……」
「えっと、ペンブルトンさん、教科書は持っている?」
「……いいえ……マだ持たないです……」
「じゃあ、俺のを一緒に見よう」
「Thank You……」

 午前中の授業が終わり昼休みになる。
『ねぇねぇ! ペンブルトンさん、お昼はどうするの?』
「……ハイ?」
『あー……えーと、昼飯……ランチ?』
 田中と言うクラスの男子が意味不明な英語で聞く。
『おいおい……オマエそれ、英語じゃねぇ!!』

「潤くん大丈夫?」
「なにが?」
「だって、休み時間のたびに席取られちゃって……」
「別に構わないよ。それに、ペンブルトンさんに質問しても、回答は殆ど英語だから、大半は諦めてこなくなったよ」
「その度に通訳やらされるんじゃ、大変だよね」
 潤は、通訳をやらされていたようだ。
「だから、こうして逃げてるんじゃないか」
「……お?」
「なに?」
「ペンブルトンさん、こっちを見ているよ?」
「ん?」
「……ハイ、オギジマ……」
「オギ『シマ』」
「大変だわヨ……」
「なにが?」
「私が空腹になっている……」
「……なぁに?」
「腹が減ったんじゃないかな。なにか食べる?」
「どうして?」
「いや、お腹減ってるんでしょう?」
「……うん……この場合、『どうやって?』が正解かな? 学食か、購買部になるけど……」
「案内する?」
「『案内してくれる?』が正解。まぁ、いいか。学食行く?」
「あ、今日の日替わりはチキンのガーリックソテーだよ? ちょっと楽しみ!!」
「……………………」
「……あれ? もしかして、チキンは嫌い?」
「……オギジマ……」
「オギシマ……えっと、なに?」
「ワタシ……オギジマと二人きりが良い……」
「……え?」
「……き、嫌われた? ボク。え? なんで?」
「ね? お願いヨ、オギジマ」
「……オギシマ……」
「イイカライイカラ! 大事なオハナシあるから」
「あ……ちょ……こら! 引っ張るな!!」
 潤を連行していくリカ。
「潤くんっ!?」
「ゴメン操! 昼は修と食べて!!」
「あ、う、うん……それはいいんだけど……あの! 潤くんっ!?」
「…………っと……」
 潤は連行中だ。
「わかったから、手を離してよ」
 連行をやめないリカ。
「……強引……アメリカ人は皆そうなの?」
「置いてきたあの子が気になる? 随分と仲がいいのね……」
「……え?」
「学食はどっち?」
「旧本校舎の向かい」
「そう、案内して」
「なんか、急に日本語上手くなってない?」
「私、普通に日本語喋れるもの」
「……えぇ?」
「ほら、行くわよ、ついて来なさい」
「……あ……こら待て!」
「なに? 喋れない振りをしていたから、怒っているの?」
「いや、学食に行くならコッチ、そっちはトイレ」
「あ……そう……」
「方向音痴か」
「うるさいわね! いいから行くわよ!!」
「…………なんだかなぁ…………」


 学食……
「ここが学食ね?」
「うん。安いけど、味は悪くないよ」
「随分と人が多いのね……」
「昼休みだからね」
「……フム……」
「あ、こら、勝手にうろちょろするな」
「なんなの……? 手を放しなさいよ」
「ゴラァ!! 横入りするんじゃねぇ!!」
「……きゃっ!!」
「うわ、大丈夫?」
「……ちょっと! 乱暴ね! なにするのよ!!」
「ダメだよ、この列はホラ、ぐるっと周って外まで繋がっているんだ、最後尾はあそこ」
「……なっ!! ちょっと……なんでこんなに!?」
「昼休み開始直後の学食なんて、こんなものだよ」
「もっと人が居なくて、静かな場所はないの?」
「静かな場所ってなると……学校外の食堂に行くか、購買部でパンを買って、中庭か屋上になるけど……」
「購買部ぅ……?」
「ほら、そこ……」
 購買部を指差す潤。
「……混んでるわ……」
「教室を出るのが少し遅かったからね、仕方がないよ。並ぶ?」
「もういいわ。それより、人気のない場所に行きましょ」
「あ……ちょっと! 昼食は!?」
「いらない」
 ツンっとするリカ。
「……………………。……ホント……勝手だな……」



 学校の屋上……
「……ついたよ、ここが屋上」 
 潤は留学生のリカを屋上へ案内する。
「……ふぅん……」
「それで? 俺になにか用?」
「あら、なんのことかしら?」
「とぼけないでよ、俺と二人きりになりたいから、こんな所に連れ出したんでしょう?」
「……随分とせっかちね……まぁ、いいわ……」
「なんなの?」
「動くな!!」
 命令口調に変わるリカ。
「…………はい?」
「アンタの正体はわかっているのよ……!! 本性を現しなさい! この吸血鬼!!」
「………………」
「……フ……どうやら驚いているようね……」
「うん、驚いた、なんなの? キミ」
「私は吸血鬼討伐部隊、ダイラス・リーンから派遣されてきたエージェントよ!!」
「……え?」
「だらら! ダイラス・リーン!!」
「……なに? それ……」
「今更とぼけようったって! そうはいかないわよ!! 貴方はもう何年も前から、我々の組織にマークされていたんだから!!」
「……いや、ちょっと待って? どういうこと? ……っていうか、なんでタマネギ……?」
「……なにっ!?」
「吸血鬼って言ったら、普通ニンニクじゃない? キミがてに持ってるそれ、思いっきりタマネギだよね?」
「……う……」
「……素で間違えたのか……」
「う、うるさいっ!! とにかく!! 貴方の正体はわかっているのよ!! 無駄な抵抗はやめなさい!!」
「抵抗って……別になにもしてないし……」
「……貴方……随分と上手に人間社会に溶け込んでいるようね……。闇の王子、イド・ブランドルに子供が居るという情報はあったけど……それが貴方だと判明するまでに、大分苦労させられたわ……」
「父さんを、知っているの?」
「当然よ……。イド・ブランドル……1861年のコッツウォルズの惨殺事件……1892年のイーストアングリアの悪夢……ロングメルフォード事件……語りだしたら切がないわ……」
 語りだしたら切がないと言うリカ。
「そんなイド・ブランドルも、最近は表舞台からすっかり姿を消したと思っていたら……まさか……子供が居たなんてね……」
「それで? キミは俺を捕まえに来たの?」
「そうね……貴方を監視下において、危険な存在であると判断された場合、可能であれば拘束して捕獲……拘束が不可能な場合は、射殺の許可が降りているわ……」
「……射殺って……あのさ。そもそもなんなの? その、吸血鬼討伐部隊……だったけ?」
「知らないっていうの……? ダイラス・リーンを……」
「聞いたこともないけど……」
「じゃあ、オーバー・ピース・クランは? OPKの名前くらいなら、聞いたことがあるでしょう!?」
「しらない……それはまた別の組織? 埋葬何たらって言うのは聞いたことがあるけど……」
「OPKはダイラス・リーンの別称よ! そんなことも知らないの!? って言うか、なんで聖堂教会の名前を知っていてダイラス・リーンを知らないわけ?」
「俺の父さんが吸血鬼で、俺にも吸血鬼の血が半分流れているって知ったのも、つい最近のことだしね」
「……貴方……成り損ない……なの?」
「成り損ない……って? 意味がわからない、昨日からずっと、意味がわからないことばかりで頭がどうにかなりそうだよ」
「……はぁ……まぁいいわ、落ち着きなさい」
 潤に講義を始めるリカ。
「いい? 成り損ないって言うのは、Vウイルスに感染しているのに、脳への感染に至らなかったケースをそう呼ぶの。吸血鬼が持つ特殊なウイルス……通称『Vウイルス』に感染すると、まず脳に着床して、新しい宿主の身体の構造を解析し、自分たちに都合の良い環境に作り変える作業に取り掛かる……一度脳にVウイルスが着床してしまうと……早くて2日……遅くても10日以内に、ウイルスが全身にてんいする……ただし、Vウイルスが脳に辿り着けなかった場合……例えばそう、感染時に脳死状態だった……とか。感染直後、氷の張った湖に落ちて、Vウイルスの活動に必要な熱量が得られなくなった……他にも、感染時に強力な磁力の影響で、Vウイルスが脳の位置を特定できなくて迷子になった……なんてケースも報告されているわ。つまり、何らかのイレギュラーで、Vウイルスの脳感染を免れた者は……ゾンビ化しないで、人間としての意思を持ったまま特殊能力を得るの……」
「……それが……成り損ない?」
「そういうこと……でも、貴方の場合、それはあり得ないわ。真祖である父親の血を、ダイレクトに受け継いで生まれてきたのだから、脳だけが感染を免れて生まれてくることはない……」
「……よくわからないけど……どうやら俺は、母親の腹の中にいる時に、吸血鬼の血の力を押さえ込むような呪いをされたらしいね……」
「……母親……荻島紫ね……?」
「知ってるんだ」
「調べるのに苦労したわ……25年前……単身スコットランドに渡った霊媒師が居たことまでは……すぐにわかったんだけどね。貴方の存在に辿り着いたのはつい最近よ」
「それで? 吸血鬼の息子は放置できないと? 俺をどうする気……?」
「さぁね……言ったでしょう? 貴方を監視下において、邪魔なら殺す……利用できるようなら利用する……」
「……利用……?」
「ダイラス・リーンにはね、『吸血鬼』を従えている部隊があるのよ。まぁ、目には目を、吸血鬼には吸血鬼をってね……」
「……悪いけど……俺はまだ『吸血鬼』じゃないよ……」
「……そうね、確かに今の貴方からは、吸血鬼の反応がないわ……」
「反応って……? 吸血鬼と、そうでない人間を見分ける方法があるの……?」
「そう……電波……というか、Vウイルスが活動する時に、周囲の細胞を破壊するノイズが出るのよ……その特殊な電波を拾って、目の前の人間が吸血鬼かどうか見分けることが出来るわ」
「今の俺は……? 吸血鬼の反応、出てる……?」
「……いいえ、測定誤差ともいえる微弱な反応がある程度ね……」
「……それは……俺がまだ……吸血鬼じゃないってことだよね……」
「貴方が気がついていないだけ……というケースもあるわ……夜、貴方が眠りについた後、眠っていた吸血鬼の本性が目を覚まして、夜な夜な人を襲う……。8年前にデンマークで起こった事件が、そんなパターンだった……。犯人だった男は、昼間は善良な郵便局員として働いていて……探知機にも目立った反応は出なかったし……本人にはまるで自覚がなかった……。でも、夜になって月が出ると……昼間の間、沈黙していたウイルスが活動を始める……貴方も……そのパターンじゃなくて?」
「知らないよ、全く身に覚えがない」
「犯人だった郵便局員も、同じことを言ったわ……。貴方、昨日は何をしていたか、ちゃんと覚えている?」
「……昨日は……」
「貴方……同じ学校の神埼仁美と言う子は知っている……?」
「確か……行方不明になっている子……だよね」
「昨日の夜……死体で発見されたわ……」
「……………………」
「貴方……昨日の夕方……何処に居た?」
「……学校が終わった後、すぐに家に帰ったよ……」
「何時に?」
「えっと……確か、5時半ぐらいだったと思う……」
「家に帰って、何をしていたの……?」
「……昨日は……なんだか疲れてて……帰ってきたら、寝ちゃったんだ……」
「何時まで……?」
「……えっと……目を覚まして居間で時計を見た時は……確か6時30分ぐらいだったかな……」
「……空白の1時間ね……怪しいわ……」
 潤を疑うリカ。
「俺が……神崎さんを殺したって言うの……?」
「その可能性は否定できないわね……プラスチック爆弾でバラバラにされていた彼女の死体を検分した結果……彼女はVウイルスに感染していたことが判明したのよ……」
「……ちょっと待ってよ……俺が知らないうち殺したんだとしても……俺はいったい何処からプラスチック爆弾なって用意したの……?」
「……そこが謎なのよね……」
「多分、俺じゃないよ……それ」
「貴方の身の潔白を証明する方法は一つ……」
「それは……?」
「貴方を殺して……それでも新たに被害者が生まれたら……犯人は貴方じゃなかったってことになるわ……」
「デタラメじゃないか……そんなやり方」
「疑わしきは罰する! それが私たちダイラス・リーンの正義よ」
「無茶苦茶だ」
「なら、貴方が犯人じゃないとハッキリと言い切れる証拠は?」
「いや……それは……」
「いいわ、じゃあ、こうしましょう? 貴方、私に使役なさい」
「は? ……使役?」
「私と共に剣を取り、私と共に闇を絶つ道を歩みなさい。私に血の忠誠をちかいなさい、絶えず私と行動を共にするのよ! そうすれば、貴方の行動は全て私の掌握する所となるわ!」
 潤に奴隷になれと言うリカ。
「吸血鬼は人間に血の忠誠を誓うことで、主人となった人間には絶対に逆らうことが出来なくなるのよ! そうすれば、今後は私の命令なくして牙を剥くことはできなくなる」
「……え……ちょっと、それはなんだか嫌な予感が……」
 潤の予感は当たっている。
 誓ったが最後、奴隷まっしぐらなのだ。
「いい?親切な私は、今この場で卑しい吸血鬼である貴方に、慈悲深くも二つもの選択肢を用意してあげているのよ? 私の下僕になるか、それとも私に殺されるか! 今この場で選びなさい!」
「両方嫌だ、面倒くさい」
 拒絶する潤。
「ほらほらほら! これでどう!? 首を縦に振るのよっ!」
 女王様と化しているリカ。
「私の誘いを断ったら、必ず後悔するわよ!?」
「……いやいやいや、だからそれ、タマネギだって……」
 リカは、タマネギとニンニクを間違っていることに気づいていない。
「あ! 潤くんやっと見つけた!」
「……チッ……」
「……あ……操……どうした?」
「潤くん教室にお弁当置いていったままだし、食堂へ届けに行ったのに、潤くん達いないし、捜しちゃったよ」
「あぁ……そうか、悪いな」
「……こんな所で……二人っきりで何してたの?」
「いや、別に? ねぇ、ペンブルトンさん?」
 同意を求める潤。
「……そうね……」
「あ……ペンブルトンさん? 何処へ行くの?」
「教室に戻るわ……オギジマくん? その気になたら、いつでも声をかけて……」
 屋上から去るリカ。
「……………………」
「……む……おいオマエ等、此処で何をしてた?」
「いや……だから別に何もしてないよ」
「怪しい……何を隠している?」
「別に何も? ただ彼女が、俺に友達になって欲しいって、それだけだよ」
「……じゃあ、あの子が持ってたタマネギはなに?」
「さぁ? お弁当じゃないの?」
「タマネギがぁ?」
「ニューヨークスタイルって奴だな、きっと」
「正直に言いなさい! タマネギを使って、何かおかしなことをしようとしていたんだろ!!」
「はぁ? タマネギをどうするって?」
「タマネギプレイか!?」
「なにそれ……?」
「いや、だから……なんかこう……彼女をロープで縛り付けて、タマネギ嫌いの彼女に無理矢理タマネギを食べさせて。そんな彼女の身悶える姿を見てハァハァするんだろ?」
「……どんあ新ジャンルのプレイだよそれは……」
「見損なったぞ潤!!」
「そうか……ならもうわかったろう? 俺は危険な男だ……もう俺に近寄るな」
「うぅぅ!! 潤くんのバカーーーーッ!!」
「……バカはオマエだ、ンな訳ないだろ」
 操の頭を殴る。
「……たっ!!」
「そんなことより操、、キミ、もう昼はたべたの?」
「う……まだ……潤くんに……お弁当届けてから食べようと思って……」
「そっか……お腹すいた? 弁当、分けてあげようか?」
「……ホント……?」
「ここで食べる? それとも教室に戻って、修も一緒に?」
「……ここで食べる……」
「じゃあ、急いで食べちゃおうか、もうあまり時間ないし」
「うん!!」
 そう言って急いで昼飯をたべた。


 あとがき

 今回もムーンタイズがメインになってしまいました。
 さっちん、戦闘をしています。
 さっちんには、ちょっと苦しい思いをさせちゃいました。
 前回予告していたリカの登場です。
 長くなってしまうので昼休み終了部分でカットです。
 次はムーンタイズ側の戦闘シーンまで書きたい。
 長くなりすぎるとまた、次に持ち越しなるかな?
 序章『覚醒』部分の後はどのルートにしようか迷う。



さつきは固有結界まで使えるようになっちゃったな。
美姫 「おまけにブラックリスト入りしたっぽいしね」
潤の方にも退治しに来た子が登場したし。
美姫 「ここからどう絡んでいくのかしらね」
だな。それじゃあ、この辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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