第五話「覚醒X」






 
「……はぁ……」
 ため息をつく潤。
 
 なんでこう……次から次へと問題が起こる……?
 ……なんなんだよ一体……あの子……。ベルチェから話は聞いていないのかって、言ってたな……。
 それってつまり……ベルチェが言ってた、俺がブランドル家に相応しい男であるならば、家の名に恥ずかしくない家柄の許婚を用意するっていうアレか……?
 ちょっと待ってよ……そんなのいきなり送ってこられても、困るんだけどな……。

「荻島くん、少しいいかしら?」
「あぁ、委員長……」
「……………………」
「あ〜……はい……水野さん……なんでしょう……?」
「あの転入生、どういうことなのかしら?」
「どういうこととは?」
「貴方との関係を聞いているのよ」
「うん……多分、父方の実家の方の知り合いじゃないかな? よく知らないけど」
「あちらは貴方のこと、ご存知だったようすですが?」
「そんなこと言われても。俺だって驚いた」
「では、面識すらないと……?」
「彼女が、どうかした?」
「……いえ……別にどうしたという訳ではありませんが……」
「なんか、怒っているね、どうしたの?」
「別に、怒っていません!」
「そう? でも、その割りには敬語だね。委員長はいつもそう、普段は普通に会話するのに、怒っているときはいつも敬語になる」
「……そんなこと……」
「なにを怒ってるの? 俺、なにかしたかな……?」
「……別に……貴方を責めている訳では……ただ私、あぁいう人は嫌いです」
「リアン・ディメルモールさん……?」
「えぇ……」
「あぁ! こちらにいらしたのですね? 探しましたよ? 潤様」
「……あ……えっと、なにか用?」
「む……、こうしてわざわざ許婚が尋ねてきたというのに、そのようなご無体を申されますか」
「……許婚っ!?」
「あぁ……いや……」
 説明に困る潤。
「まぁまぁ、積もるお話も御座いますれば、どこか落ち着ける場所へ参りましょう♪」
「え? でももうすぐ授業が……」
「そんな物、待たせて置けば良いのですよ、さぁ、参りましょう」
 授業をサボろうというリアン。
「ちょっと貴女! 自分勝手が過ぎますよ!!」
「……はい? 貴女は誰です?」
「私は学級委員会の副委員長、水野可南子です」
「あらそう、はじめまして、可南子ちゃん。私はリアン・ディメルモール……気軽にリアン様と読んでくださって結構ですよ?」
「貴女が何所の国のお姫様かは存じ上げませんが、この国の、この学園、このクラスに在籍した以上は最低限のルールは守っていただかないと困ります!」
「そう? では勝手に困っていてくださいな。人間風情が生意気な口を利いてはいけませんよ?」
「……なっ!!」
「授業をサボってなにが悪いのです? 私が居なければ授業を始められませんか?」
「一人の例外を認めてしまえば! 全員に許す結果になります! それは調和の崩壊に繋がります! ルールとは、それが必用だから存在するのです!!」
「ルールとは自分の中にあるものです。他人の都合の良い様に作られたルールに従う筋合いはありません」
「簡単なルールすら守れないのは、貴女が精神的に子供だという証拠です! 恥ずかしくないのですか!?」
「……貴女、随分と生意気ですね……」
「それはお互い様でしょう!?」
「あのね? 質問があるのですけど……」
「なんですか?」
「よく思い出して欲しいの。貴女、今朝お家を出る時、ちゃんとガスの元栓は閉めて来ました……?」
「……え……?」
「はいっ♪ いただき♪」
「……ぁ……」
「さぁ可愛い仔犬ちゃん? 悪い子にはビスケットを上げませんよぉ〜? ワンとお鳴きなさい?」
「……ぅ……ワ……ワン……」
「ん〜、ん〜、ん〜♪ いい子ね? はい、じゃあビスケットを上げます、お口をア〜ン♪ って、ハァ〜イ」
「……あ〜〜ん……」
「ちょっ……! 待った! キミ、いま委員長になにをしたのっ!?」
「ヌフ〜、口さがない女の認識を、占領せしめてくれました。ほら可愛い♪ ビスケット、いくつ欲しい?」
「こらっ!! やめろっ!!」
「あんっ……やぁ〜、どうして邪魔をなさるのです?」
「キミさっき、先生にも同じことしたね? 今すぐ戻して」
「えぇ〜? でもこの子、生意気なんですもの……私はただ、潤様とお話がしたかっただけですのに……」
「わかったよ、話ぐらい付き合うから、すぐに戻して」
「そんなにこの子が大事なのですか?」
「……あのね……そう言う問題じゃなくてさ……」
「この子の方は、潤様のこと、好きみたいですよ?」
「……はい?」
「もういいせす! ていっ!!」
「…………うっ…………」
「……委員長、大丈夫……?」
「あ……荻島……くん……?」
「ごめん委員長、次の授業、欠席するから……先生に説明しておいて」
「……え……でも……」
「貴女の愛しい潤様が、そう申されているのだから言われたとおりにすれば良いのですよ」
「……なっ! なにを突然に……!」
「自分の胸に聞かれてはいかが? 婚約者の立場にある私が気に入らないからといって、陰で私を貶めようなどと、恥ずかしくないのですか?」
「ばっ……馬鹿なことを言わないで!!」
「……やぁね……脳は嘘をつけないというのに。それでも否定すると言うのなら、その淡い恋心、頭の中から消してやろうかしら……」
「余計なことしないの。いいから、行こう、ほら」
「あン……そんなに強く引っ張っちゃイヤぁん」

 中庭に移動する潤とリアン。
「あぁ……まったく……なでこう立て続けに……俺の周りでトラブルばっかり……」
「潤様? どちらへ向かうのですか?」
「……とりあえず、人が居ない所」
「……ぅ……?」
「はいそこ、変な想像しない。話をするだけだよ」
「でしたら潤様? 学食へ参りましょう。私、お腹がすきました」
「この時間はまだ、学食あいていないよ……何か食べるのなら、学校の外に出て食べるか、駅前のコンビにまで行かないと……」
「そうですか。ではコンビニに使いを出しましょう。ゼノ!」
「……お側に……」
 ゼノが現れた。
「……うをっ!?」
 潤は驚いた。
「聞いての通りです。コンビニに赴き、なにか口当たりの良いものを求めて参りなさい」
「御意」
 ゼノはコンビニに向かった。
「……あぁ、ビックリした……今の人……何処から出てきたの……?」
「私の影の中からです」
「……影……?」
「ンフフ……こう見えても私、ディメルモール家の四女ですからね。使い魔の1匹や2匹、飼っていて当然でしょう?」
「……やっぱり……キミ、吸血鬼か……」
「今更なにを仰いますやら。エルシェラントおば様からは、何も聞いておられないのですか?」
「……許婚を用意する……とは聞いてたけど、こんなに急とは聞いてなかった」
「まぁ、本来であれば、私がこの国に来るのは、来月の予定だったのですが……1秒でも早く潤様のお顔を拝見したかったので、予定を少し早めました。うん……ですけど……想像していたのとは多少……いえ……かなり想像と違ったので、少なからずビックリしました……」
「……勝手に想像されても困るんだけどな……どんなのを想像してた訳?」
「あのイド様のご子息なのですから、もっと堂々とした殿方を想像していたのですけれど……潤様は随分と華奢でいらっしゃられるご様子で……」
「母親似なんじゃないかな……」
「まぁまぁ、吸血鬼には半陰陽も珍しくはないですし……それはそれでといった感じでしょうか? ましてや人間とっ吸血鬼のハーフともなれば、多少の中途半端には目を瞑る所存です」
「……わるかったね、俺だって好きで吸血鬼になった訳じゃないよ」
「潤様は、ムーンタイズは使えるのですか?」
 ムーンタイズが使えるか聞くリアン。
「……ムーンタイズ……? ……って、吸血鬼の特殊能力のこと……? ……ティーカップをひっくり返すぐらいなら……」
「ひっくり返す? って、なんです? ……どういう能力なのですか?」
「……言葉通りだけど……ひっくり返すと言うか、裏返すと言うか……」
「よくわかりません……実際にやって見せてはいただけないでしょうか?」
 実演して欲しいと頼むリアン。
「いや、それがまだ上手く出来ないんだ。偶然で一度出来たぐらいで……」
「では潤様、頭を出してくださいな、脳に直接聞きましょう」
「……ちょ……待って? なにをする気……?」
「大ぁ〜い丈夫、痛くないでちゅよ? 私のムーンタイズは、他人の脳を支配する、タイラント系です。手のひらから出る電波で脳を直接いじくり倒すのですよ」
「ま、待ってくれ!? それって、本当に痛くないの!?」
「平気ですよ。なぜなら、まずは痛みを感じる神経から支配してしまいますから。ペシッと叩けば、お悩み全て解決。ねぇ〜? ほ〜ら、頭を出してくださいまし?」
「い、嫌だ! なんか身体に悪そう!!」
「では潤様? ちょっとお聞きして宜しい?」
「な、なんだよ……」
「さて問題です! ブロッコリーとカリフラワー緑色なのはどっち?」
「……え?」
「ほいっ! いただき〜〜♪」
「……がっ!!」
「ほーれほぉれ……頭蓋骨を突き抜けて、脳味噌を直接握られているような感じがするでしょう……? ひっひっひ……」
「……うひぃ!! き、気持ち悪いぃぃ〜!!」

「さぁさぁ……無駄な抵抗はやめなさい? 悪い子悪い子♪ 悪い子の隠した宝箱は、何処にあるのかなぁ〜?」
「あ……こら……やめ……ぅっ!」
「……むむっ!? こ、これは……?」
 リアンはなにかを見たようだ。
「ひっ……ひやあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

「うぁっ!! ビ、ビックリした!! どうしたの? 急に大声出して……」
「あ……貴方……いま私に何をしたのですっ!?」
「……え? なにって……別に……どうしたの?」
「……ぐ……なにも見えない……それどころか、逆にこちらの認識が喰われる所でした!! 貴方、頭おかしいです!!」
「……頭がおかしいって……ひどいな……」
「……うぅっ……逆電流で手が少し焦げた……」
「大丈夫……? 見せて……?」
「あ……や、触るなぁ!!」
「平気、なにもしないよ……」
「……う……」
「うん……手のひらが、少し赤くなっているね……痛い?」
「へ、平気……です……」
「手の表面に強い静電気でも流れたのかな……? 指輪が電磁燃焼で酸化したみたいに真っ黒に変色してる……」
「だ、大丈夫だと言っております!! 手をお放しなさい無礼者!!」
「あ、うん……ごめん……」
「……なにか、トラブルですか?」
 ゼノが帰ってきた。
「あ……ゼノ!! 貴女!! いつ戻ったのですか!!」
「つい今しがたですが……お邪魔でしたでしょうか……」
「べ、別に……! 私はただ! この方の頭の中を覗こうとしていただけで……!!」
「……それが……?」
「……読めなかった……」
「……はい?」
「ですから、読めなかったんです! 脳に触れようとすると、逆に吸い込まれるんですっ!!」
「俺は別に、何もしていないよ?」
「……うぅぅ……まさか……これ程とは……」
「つまり、それがキミの特殊能力……ムーンタイズって訳? 人の脳味噌から、情報を引き出すっていう……」
「む……まぁ……それだけではないですけどね……? 脳を完全に支配したり……他人の記憶を書き換えることも可能だったり……」
「記憶の書き換え……?」
「視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚……それら全てを操ることが出来る……それが、私のムーンタイズ『脳内君主ブレインタイラント』なのです!」
「……ブレインタイラント……か……とにかく、キミは吸血鬼なんだよね……?」
「だから、はじめからそうだと申しておりましょうに! なにを聞いておられますか」
「えっと……そっちの人も?」
「私ですか……?」
「ゼノは吸血鬼ではありません、リカントロープです」
「……リカントロープ……?」
「人狼……狼女と言えば良いでしょうか?」
「……狼……女……?」

 ……狼女って……昨日の夜……公園で操を襲っていた……あの犬の化け物のことか……?
 でも……いま目の前に居る……このゼノって人は……普通に人間の姿をしてるけど……。
 ……満月の夜になると……狼に変身したりするのか……?
 というか……昨日操を襲ったのってこの人なんじゃ?

「…………私がなにか……?」
「……昨日の夜……公園で操を……俺の友達を襲ったのって……貴女ですか……?」
「……なんのお話でしょうか……」
「……………………」
「……昨日、なにがあったと言うのです?」
「……昨日の夜……9時ごろ……学校の側の公園で、俺の友達が、犬の化け物に襲われた……」
「潤様は、それがゼノの仕業だと疑っているのですか……?」
「……それだけじゃない……。一昨日……この学校の学生が一人死んだ……その学生は……ロゥム化していたらしい……」
「それが何だと言うのです? まさか……私がその人の血を吸ったとでも……?」
「……違う……?」
「残念ですがそれは私たちの仕業ではありません。昨日の夜は空港近くのホテルに滞在していましたし、一昨日は飛行機の中でした」
「……本当に……?」
 疑う潤。
「嘘を言ってどうしますか。入国許可証に押されたスタンプをご覧に入れましょうか?」
「……む……」
 
 ……信じて……良いんだろうか……?
 もし嘘をついているとして……嘘をつかなければいけない理由って……なんだ?
 他の人間や……ダイラス・リーンや聖堂教会にバレたくない……というならわかるけど……俺は……もうコッチ側の人間……吸血鬼なんだし……無理に嘘をつく理由はない。
 それに、入国許可証やホテルの話も……少し調べれば嘘だった場合、すぐにバレる……。
 そんな簡単な嘘をつくとも思えない……。

「大体、昨日の夜貴方が見た化け物と言うのは、本当にリカントロープだったのですか?」
「……え?」
「ですから、人が獣化する瞬間を見たのかと聞いているのです」
「……人が……? いや、俺が見た時には……もう大きな犬の姿だったけど……」
「でしたら、リカントロープではない可能性があります」
「リカントロープじゃ……ない?」
「その通りです、ただのロゥム化した犬……フェンリルという可能性もあります」
「……あ……」

 そう言えば……昨日の夜、ベルチェもそんなことを言っていたような気がする……。

「リカントロープというものはですね、コレはコレで希少な生き物なのです、石を投げればポンポンと当たるようなものではないのですよ?」
「そうなんだ……」
「ゼノ、貴女の親兄弟は、何人居ますか……?」
「……8人です……」
 即答するゼノ。
「貴女の家族を含め、この世にライカンは、何人居ますか?」
「……197人です……内、封印されずに居るものは195人……。さらに生存確認が取れているものは75人です……」
「わかりましたか? この広い世界にたった200人足らずなのです! 潤様が見たとおっしゃる者はおそらくはライカンではないと思いますよ?」
「……だったら、アレはいったい……?」
「ただのロゥム犬ではありませんか? おそらくは、野犬かなにかが、何らかの形で吸血鬼と接触したのでしょう」
「じゃあ……E組みの神埼さんも?」
「誰です? しりません、そんな人は。そんなことよりゼノ、買ってきた物をだしてください」
「……こちらです……」
「……なぁに? ろくな物がないじゃありませんか。話し続けて喉が渇きました。飲み物は買ってこなかったのですか?」
「……袋の底の方にあります……」
「……まったく、一族の繁栄の為だと割り切って、こうしてわざわざ貴方様の住む国まで来てみればどうです。私はこんなつまらぬ話をするために来た訳ではないのですよ? 潤様」
「潤でいいよ」
「はい?」
「だから、様とかつけなくて良いよ、なんか落ち着かない」
「……いえ……ですけど……貴方様は仮にもブランドル家の次期当主候補であらせられる訳で……流石に呼び捨てと言う訳には……」
「候補ってことは、まだ当主じゃない……なるって決まってる訳じゃないよ」
「でも、いずれは当主の座に御着きになられるのでしょう……?」
「……どうだろう……多分、俺には向いていない世界だと思う……」
「それは困ります! それでは何の為に私が来たと言うのです!?」
「いや、うん……そうだな……」

 確かに……今はまだ……人間としての生活が出来ているけれど……。もう戻れない点……引き返すことが出来ない……飛行機の離陸で言えばV1にあたる点……。
 それを通り越してしまえば、もう吸血鬼として生きていくしかない……なるしかない……っていう状況も……在り得る訳だ……。
「……ましてや……片目が変色して……おかしな力まで使うようになっちゃ……すでにVRに入ってるのかも……」
「なんです?」
「いや……まぁね、少なくとも今はまだ、吸血鬼の王子じゃない……様はやめてくれ……」
「そうですか……では貴方にも、私をリアンと呼ぶことを許可します」
「……身に余る光栄です……」
「はい、では潤様も何かお飲み物はいかがですか? 宜しければお好きなものを……」
「……いや、だからさ……」

 ……様は要らないって言ってるのに……人の話し聞いてるのかこの子……。

「ゼノ、貴女またゴチャゴチャと買ってきましたね……もう、どれがなにやらわかりません……」
「……すみません……潤様のお好みを伺っていませんでしたので……それらしき物を手当たり次第に求めてまいりました……」
「潤様はどれになさいますか?」
「俺はあまったので良いよ、まずはキミが選びなさい」
「ですか? では私はコレにしましょう」
「あ……リアン様! それはダメです!」
「……んっぐ……んっぐ……んっぐ……」
「あぁぁ……リアン様!!」
「……む……む……むむむむ……?」
「……え? あれ? なんか……様子が変だよ……?」
 リアンが倒れた。
「え? ちょ……倒れたっ!?」
「あぁ……迂闊でした……」
「どうしたの!? 日射病!?」
 潤はリアンが倒れた理由をゼノに聞いた。
「……コーヒーを飲んだせいです。リアン様はカフェインで酩酊する体質なのです……」
「……コーヒーで、酔っ払うってこと?」
「はい……普段は臭いを嗅いだだけでも気がつくのですけれど……緊張なされていたのかも知れません……」
 リアンが心配なゼノ。
「リアン様……お気を確かに……」
「うぅぅ〜……」
「大丈夫なの? 保健室、運んだ方がいいんじゃ……? 案内するよ」
「いえ……お心遣いは嬉しく存じますが結構です。保健室へは私がお連れしますので、潤様は、教室へお戻りください……」
「……あ……」
 ゼノはリアンを抱え去っていった。
「…………ニンニクじゃなくて……コーヒーで……? ……本当に大丈夫なのか……? なんか……いろんな意味で……」



 《SIDE月姫》
 時間は昨夜まで遡る。
 潤たちと別れたさつきは夜の町を当て所なくさ迷っていた。
「今夜、何処で寝よう……」
 寝床を探すさつき。
「おや? どうしたんいお嬢さん」
 さつきに掛けられる声。
「貴方は誰?」
「ワシか? ワシの名を知らぬのか?」
「すみません。わからないです」
「若しかして、成り立てか?」
「成り立て?」
「如何やら本当に成り立てのようだな……」
 この人物、かなり知識があるようだ。
「では、質問を変えよう……」
 質問変えようという杖を突いた老紳士。
「おぬしは何時血を吸われた?」
「血ですか?」
「そうじゃ、何時吸われた?」
「確か3日ぐらい前だったと思います」
「次の質問だ、何時蘇った?」
「血を吸われたの同時だったと思います」
「ふむ。吸血度同時か……」
 面白いもの見つけたように喜ぶ老紳士。
「では、知識も持ってはおらんだろう……」
「はい」
「ワシが特別にレクチャーしてやろう」
 レクチャーしようと言う老紳士。
「こんな場所では不味いのでな、場所を変えさせてもらう」
 そう言って何か呟く老紳士。
 次の瞬間には別の場所へ移動していた。
「……………………」
「どうした?」
 さつきは固まっている。
「茶でも飲んでリラックスするがいい」
「あの〜う。ここは?」
「ここか? ここは倫敦にある時計塔のワシの部屋じゃ」
 さつきは時計塔に連れてこられたようだ。
「時計……塔……?」
「時計塔の名も知らんのか!?」
「すみません。わかりません」
「これは教えるのが大変そうじゃわい」
 知識のなさにどう教えたらいいか悩む老紳士。 
「知識を授ける前にお嬢さんの名を教えてくれんかの?」
「ゆ、弓塚さつきと言います」
「ふむ。さつきか……」
「おじいさんの名前はなんというですか?」
「ワシか? ワシの名はキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグじゃ。こう見えてもワシは死徒二十七祖の第4位の吸血鬼じゃ」
「死徒二十七祖?」
「オマエの血を吸って吸血鬼にしたのは二十七祖の番外位、ミハイル・ロア・バルダムヨォンと言う吸血鬼じゃ。言うなればオマエはアルクェイド・ブリュンスタッドの孫と言うことだ」
「アルクェイド?」
「オマエには真祖の血が少なからず流れておる」
「私の中にアルクェイドとか言う人の血が流れているんだ」
「お主、血は飲んだか?」
 血を飲んだかと聞くゼルレッチ。
「まだ一度も飲んでいません」
「親の命令どおりに吸った事はないのか?」
「それより、親の命令って……」
「既に親の支配から脱しておると言うのか」
「だから、命令ってなんですか?」
 ロアの支配から脱しているさつきには意味がわからない。
「面白い。成り立てで親の支配から逃れるほどのポテンシャル……教えがえがありそうだわい」
 久々に見つけた逸材に張り切るゼルレッチ。
「ワシの指導を受けてみる気は無いか?」
「指導って、何を教えてくれるんですか?」
「まずは簡単なことから始めよう……」
 簡単なことから始めると言うゼルレッチ。
「オマエさん、魅了の魔眼は使えるか?」
「魅了の魔眼?」
「相手に暗示をかけたり出来る吸血鬼の目じゃ」
「ゼルレッチさんは使えるんですか?」
「ワシを誰だと思っておる? ワシは魔法使いじゃぞ」
「魔法使い?」
「そうじゃ、魔法使いじゃ」
「私も仕えるんですか?」
「何の知識のないオマエさんでは無理じゃ。最低でも固有結界は使えんとな……」
「固有結界って、こういうのですか?」
 そう言って枯渇庭園を発動させる
 固有結界が使えるとは思わないゼルレッチは結界も張っていない。
「む……。このままでは不味い……」


 その後、異常な魔力を感じて駆けつけてきた教諭たちが見たものは……
 コレでもかというぐらいに壊れたゼルレッチの部屋と服がボロボロになったゼルレッチと服が無くなって気絶している裸のさつきの姿だった。
「元帥、いったい何があったのですか?」
「その娘の固有結界が思いのほか強力で宝石剣を抜かされたわい」
「宝石剣をですか?」
「固有結界ならまだしも空想具現化をも使いおった」
「空想具現化も使ったと言うのですか? 真祖でもないのに……」
「この件は学生たちには口外するでない」
「畏まりました。学生たちには空調設備が爆発したと言っておきます」
「頼む。それからこの娘の服を用意してくれぬか? 仮にもあやつの眷属じゃ、相応しい服を頼むぞ」
 気絶しているさつきにはバスタオルが掛けられている。
「ふぅ。とんでもない小娘じゃ。固有結界だけではなく空想具現化まで使うとは……」
 さつきの才能に驚くゼルレッチ。
「何の知識も無く使ってしまうのが怖いの……後で制御の仕方を教えてやるとするか」
 ボロボロになった部屋を見て呟くゼルレッチ。



 時間は元に戻る。
「教え始めて数時間で制御方法を物にしたか」
 さつきは固有結界の制御を物にしたようだ。
「さて、休憩にするか……」
 椅子に座るゼルレッチ。
「聞きたいことがあるのなら聞いてやるぞ」
「何で私、空想具現化が使えるんですか?」
「そのことか……それは、お嬢さんにアルクェイドの眷属であると同時に紅い月の血が流れておるからじゃ」
「紅い月?」
「言い忘れ取ったが、ワシは紅い月に血を吸われたのじゃ」
「ゼルレッチさんが?」
「紅い月を倒したは良いが、血を吸われて吸血鬼になった」
 豪快に笑いながら話すゼルレッチ。
「さて、休憩は終わりじゃ。講義を再開すろぞ」
 講義を再開するゼルレッチ。



 《SIDEムーンタイズ》
 潤は屋上にいた。

 ……また大分……頭の中がゴチャゴチャしてきたな……少し整理してみよう……。
 まずは俺……荻島潤……。
 身長168センチ……体重58キロ……多少華奢だけど……まぁ、許容範囲内の体力……。
 視力、右1.7、左1.5……まぁ、悪い方じゃない……。
 そして……頭痛持ち……。
 ただの頭痛だと思っていたのに……。
 実は俺が吸血鬼の混血で……いままではずっと、母親のかけた呪いで体内のウイルスを抑えていた……。
 ……母親が死んでから4年……。俺に掛けられた呪いは……少しずつ解け掛けている……。
 そんな俺の元に現れた魔女……ベルチェ……。
 彼女は……吸血鬼一族の長である俺の祖父……ブライアン・ブランドルの命を帯びて、俺が吸血鬼一族の後を継ぐに相応しいかどうか、見極めに来た……。
 彼女には特殊な能力……ムーンタイズ……っていう奇妙な力がある……。
 それは、割れたカップを元に戻したり……まったく別の物を分解して、別の物に組み替える……つまり手のひらの中で核融合を起こす能力……。
 多分、彼女に分解できない物はないだろうし……組み上げることの出来ない物はない……。
 あぁ……でも……読み込める情報量に限界があるから、あまり大きな物はダメって……言ってたかな……?
 それに、組み上げる物には……何処かしらに失敗が出る……。だからこそ『不完全複写デットコピー』と呼ばれる……。
 そして、俺が吸血鬼だと聞かされた次の日……。
 まるでそのタイミングを待っていたかのように現れた、吸血鬼ハンター……リカ・ペンブルトン……。
 まぁ……吸血鬼が居れば……それを狩ろうとする人間も……当然居るわけか……。
 彼女は対吸血鬼組織、ダイラス・リーンのメンバーで、まだ覚醒してもいない俺に、正体を現せと詰め寄ってきた……。
 彼女の所属する組織の存在どころか、吸血鬼としての自分をまるで理解していない俺に……彼女呆れていたっけ……。
 そして、その日の夜……代行者とか言う人に追われている女の子に出会ったんだっけ……。
 その女の子が代行者とか言う人にお腹を殴られて燃やされちゃって……その女の子の裸を見て殴り飛ばされた……。 
 その後、ちょっとした誤解から、リカさんは俺とベルチェに銃を向けた……。
 リカさんは引き金を引いて……俺は咄嗟にベルチェを庇って撃たれた……。
 
「……撃たれた……。撃たれたんだけど……。……その後……どうなったんだ……?」
 状況整理をする潤。
「よく……と言うか、全然覚えていない……。気がついたら、翌朝、ベットの上……。鏡を見たら……左目の異常に気がついて……。カップの熱さに驚いて落としたら、カップが裏返った……。……なんだよそれ……? おまけに……学校へ来てみれば、また転入生……しかも、吸血鬼な上に俺の婚約者……? 滅茶苦茶じゃないか……」

 ……気になることは……まだいくつかあろ……。E組みの神埼仁美をロゥム化したのは誰か……? 昨日の夜高柳操が公園で犬の化け物に襲われていた……。
 犬の化け物を生み出したのは誰か……?
 犬の化け物が操を襲ったのは……偶然なのか……?
 いま俺が知る中で、ロゥムを生み出せる可能性がある人物は二人……。
 ……一人は、真祖に近い血を持つ最悪の魔女……エルシェラント・ディ・アオイアンス……。
 もう一人は、ディメルモール家四女……リアン・ルーチェ・ディメルモール……。
 彼女達二人は、確実に吸血鬼で……他者の血を吸うことで、吸血鬼ウイルスに感染させて、ロゥムを生み出すことが出来る……。
 でも、証拠のような物は何もないし……嘘をつく理由も見当たらない……。となれば……俺の知らない第3の吸血鬼の存在が浮上してくる……。
 そして……その第3の吸血鬼候補には……俺もはいっている……ということ……。
 俺が……自分でも気がつかないうちに吸血鬼化して……誰かの血を吸っている可能性……。吸血鬼として完全に目覚めていない俺でも……それは例外じゃない。
 俺が気がついていなかっただけで……とっくの昔に目覚めていたのかも知れない……。俺が知らないところで目覚めていた、吸血鬼としての俺……。
 俺が俺で居る時には、決して気がつかない、もう一人の俺……。考えたくはないけど……実は……その可能性が一番高い気がする……。
 夜寝ている時とか……自覚のないまま……他者の血を求めて……夜の待ちを歩く……。
 お? 美味そうなギャル発見っ!!
 キシャーーーーってか……?
「……………………。……自覚がない……か……。そういえば……昨日の夜……リカさんに撃たれた後……俺はどうなったんだ……? 確かに……何発か弾丸を撃ち込まれたと思うんだけど……今朝起きたら、そんな傷なんて痕すらなかった……。それに……リカさん……。ベルチェの話では、俺がリカさんを喰ったって……。 ……今日は学校を休むって……連絡があったってことは……生きてはいると思うんだけど……」

「ここに居たか!! 荻島潤っ!!」
「……あ……リカさん……? 今日は学校、休むんじゃ……」
「動くなっ!!」
「……もぉ、またか……ちょっと落ち着いてよ」
「昨日の夜は……よくも……よくもっ!!」
「そのことなんだけど……昨日、俺なにかしたの? と言うか、どうなったの?」
「とぼける気!? この化け物めっ!!」
「いや、本当に覚えていないんだ……」
「フン……やっぱり朝にあると記憶なくすタイプの吸血鬼か……。いいわ、教えてあげる! 貴方は昨日の夜、あの公園でクラスメイトの高柳操の血を吸おうとしていたのよ!!」
「いや、それは誤解だって……俺とベルチェは、操の悲鳴を聞いて駆けつけたんだ。俺たちが来た時には、操は……えっと……大きな犬みたいな生き物に襲われていたんだ……」
「……嘘ね……」
「嘘じゃないって。襲われている操を助けようとしたら、犬の化け物は操を置いて逃げ出して……そこへ丁度キミが来たって訳……」
「なら何故最初にそう言わなかったのっ!?」
「説明しようとしたら、問答無用って言ったの誰よ」
「……う……」
「……う、じゃないよ。とにかく銃を降ろして」
「そうはいかないわ……あんなことをした貴方は信用できない!!」
「だから……俺、なにをしたの?」
「本当に覚えていないの……?」
「……うん……操を助けた後……キミとあったのは覚えているんだけど……その後の記憶が……なんか曖昧で……気がついたら、自宅のベットで寝てた……」
「……………………」
「いったい……なにがあったの……?」
「……貴方……私に撃たれたのよ……」
「……うん……それはなんとなく……覚えている……」
「……撃つ気はなかったのだけれど……一緒にいたチビ魔女が生意気でね……脅してやろうとして引き金を引いたら、貴方がチビ魔女を庇って、わざわざ外した射線に飛び込んできて、勝手にあたったのよ。そうしたら貴方! ドロドロ溶け出して、ブクブク膨れ上がって!! 尖った牙のたくさん生えた大きな口を、耳まで裂いて大きく開けて……この私を!! 頭からパクッて!! 貴方は私を頭から丸呑みにしたのよ!!!」
「……じゃぁ、なんでキミは今、此処にこうして居るの?」
「……そ、それは……わからないわ……私だって……気がついたら……あの公園で寝ていたのだし……」
「……ベルチェなら、なにがあったのか、詳しく知っているのかな……?」
「と、とにかく!! 貴方が吸血鬼として覚醒したことは間違いないわ!!」
 潤が覚醒したというリカ。
「Don't resist! before you beat me! I defeat you!!」
「……あのさ、その半分日本語で半分英語って、やめない? どっちの頭で考えたらいいかわからなくなる……」
「I hate you!! deep shit!!」
「いや、出来れば日本語で……」
「死ねっ!!」
「ダイレクトだなぁ……」
「この世に吸血鬼など不要!! 今すぐ灰に還れ!!」
「……どうしてそんなに吸血鬼が憎いの?」
「……答える必用はないわ! 1匹でも多くの吸血鬼をこの世から消す! それが私の使命よ!」
「……それで……? 俺を殺しに来たの……?」
「……その目の色……貴方……もう手遅れかもね……今なら……人間のまま死ねるわ……」
「……そう……」
「……落ち着いているのね……私には殺せないと思っている?」
「そうじゃないけど……自分でも……よくわからない……。このまま吸血鬼として、完全に目覚めてしまったら……どうなるんだろう……。俺も……人間を虫ケラみたいに見るようになるんだろうか……? それとも、この中途半端な状態のまま、何年も生きていくのかも知れない……。自分でも、どうしたら良いのかわからない…… 自分では決められないぐらい混乱しているのかも知れない……わからない……。キミが俺を殺したいって言うなら、多分俺は逃げると思う……。逃げて逃げて……追い詰められたら、多分反撃すると思う……死にたくないし……。でもさ……俺が吸血鬼になって……自分で自分が許せないほど悪いやつになったら……自分で死ぬよ……誰の手も借りない……。キミが俺を殺すことで、きっとキミは誰かに恨まれることになると思う……そうしない為にも……俺は,死ぬ時は自分で死ぬ……これだけは譲れない」
「……立派な考えだけどね、吸血鬼になってしまったら、良心の呵責なんって消えるわよ……? それに、自殺といったって、どうやって死ぬ気? 似たり焼いたりバラバラに吹き飛ばしたり……そんな簡単なことで死ぬような生き物なら、苦労なんてないわよ。 特に真祖の血を持つ連中なんか、なにをしたって死なないわ……。6千度の炎の中で14日間、灰も残らない程焼き尽くしても、2年もすれば生き返ってしまうような連中よ」
「……化け物じゃないか……」
「今ならまだ……死ねるかも知れないわ……むしろ、今しか死ねないかもしれないわ……。吸血鬼化は、治療法のない病気よ……腐り始めたら、腐りきる前に隔離して感染を防ぎ、手に負えなくなる前に消し去るしかない……」
「歯が痛いからって、顎をショットガンで吹き飛ばすようなものだよそれは……」
「それしか治療法がないのよっ!!」
 リカはシオンが吸血鬼化の治療法を研究していることを知らない。
「……………………」
「……ごめんなさい……貴方に個人的な恨みはないわ……でも……貴方を生かしておけば……必ず後悔することになる……。貴方のような人間をこれ以上増やさない為にも……こうするしかないのよ……」
「……いま此処で?」
「心配は要らないわ……一発で消せるように、特別な銃を用意したわ……弾速があるから、当たっても痛みを感じる前に意識が飛ぶ……痛くないから……」
「……ここは学校だよ……? 銃声を聞きつけた誰かに見つかったら……?」
「ご心配なく……ダイラス・リーンには、専門のモミ消し部隊が居るから……」
「……死にたくないな……」
「誰だってそうよ……怖かったら、目を閉じなさい……」
「……………………」
「走って逃げようだなんて思わないこと! 500メートル先にいる像の尻が跡形もなく吹き飛ぶ弾よ。……当たり所が悪くて1発で死にぞこなうと滅茶苦茶痛いわよ?」
「……本気……なの……?」
「冗談で人は死なないでしょう……なにか言い残すことは?」
「……俺の部屋の……ベットの下にあるエロ本捨てといて……」
「……最低ね……」
 そう言ってリカは引き金を引いた。
「…………っ!!!!」

 ……嫌だ……。
 死にたくない……。
 ……怖い……。怖い。
 ……怖い……怖い……怖い……。
 まだ……死にたくない!!!
「……がっ……!!」
「……あっ!!」
「……あ……れ……? ……なんで……?」
「……馬鹿な……弾丸を……弾き返した……?」
「リカさん、大丈夫?」
「貴方……なにをしたのっ!?」
「なにって……わからないよ……勝手にこうなったんだから!!」
「……う……これは……」
 リカは撃った弾丸を見た。
「……銃の弾……?」
「……どうして跳ね返って……しかも……表面のメタルコートが剥がれてる……」
「……裏返った……のか……?」
「裏返った……?」
「わからない……でも多分……俺に当たった瞬間に……反転したんだ……弾自体も……運動エネルギーの方向も」
「化け物めっ!!」
「やめなよ、撃った弾は自分に跳ね返って来るんだよ? 危ないって……」
「……ぐっ……」
「……ど、どうしよう……?」
「私に聞くな!!」
「いや、だって……なにこれ? 銃の弾丸を弾き返すなんて……質量も加速度も無視して……うわぁ、俺……普通に化け物だ……」
「……このっ!!」
「……痛だっ!!」
「普通に殴れるのに! なんで銃の弾は弾かれるのよ!!」
「……知るかっ!! 俺に聞くな!! 俺にっ!!」
「つまり……生命の危機を感じると、体内のウイルスが宿主を守ろうとするってこと……?」
「……だからわからないって、ウイルスに聞いてよ……」
「じゃあ今すぐ身体の中からウイルスを出しなさい!!」
「……屏風からトラを追い出せみたいなこと言うなよ……無理に決まってるじゃないか……」
「なんにせよ、アンタは化け物! 決定! それもAクラス!」
「……いや……うん……まぁ……化け物だな……確かに……えっと……どうしよう……」
「自分のことでしょうが!! 自分で決めなさい!! 情けないわね!!」
「えーと……じゃあ、この力で、世界を裏から牛耳ろうと思います……」
「死ねっ!!」
 再び銃を撃つリカ。
「……うわっ!!」
「……きゃっ!!」
「あぶないじゃないのよっ!!」
「それはコッチの台詞だっ!! 殺す気か!!」
「やかましいっ! この化け物!! 化け物っ!! 化け物っ!! くたばれっ!!」
「子供かっ!! 自分の思い通りにならないからって、ヒステリー起こすなっ!!」
「うぐぐぐ……銃で死なない相手をどうやって殺せっていうのよ!! 首っ!? 首を絞めればいいのっ!? このぉぉぉおっ!!!」
「……ぐわぁぁ!! や、やめろ!! く、苦しい!! 吐くっ!! 吐くぞコラっ!!」
「吐けぇぇぇぇっ!!!」
「…………お…………」
「…………お?」
「おえぇぇぇぇぇぇっっっ!!!」
「って……本当に吐くなぁぁぁっ!!」
「……痛ぃぃぃっだぁっ!!」
「……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……こ、この……変態っ!!」
「……だっ……痛……っつぅ〜〜……頭の形……マジ……変わるって……くぅ〜……」
「……お……落ち着け……落ち着くのよリカ……目の前には敵……しかも……Aクラス……破壊不能……小さなダメージは与えられる……」
「小さくない……頭ヘこむ……なんか嫌な感じにブヨブヨしてきた……コレ絶対タンコブ出来た……」
「……うぅぅ……対象の破壊不能の場合は……えぇと……か、確保? 確保するには……えぇと相手を行動不能にして……えぇと待て待て? その前に……あ……交渉? アナタっ!!」
「なんだい、オマエ?」
「……夫婦かっ!!」
「……いや、なんかつい……」
「いちいち疲れさせる……それが貴方の狙い!?」
「それはホラ、疲れる奴の相手をしなければいけない仕事を選んだキミが負け組みと言うことで……」
「……ぐっ!!」
「わっ! 待った待った! ぶつな! それ普通に痛いから!!」
「もぉっ!! どうするのよっ!!」
「どうしたいの?」
「ころせないなら! 仲間にするしかないじゃない!」
「えぇ〜〜……?」
「嫌そうな顔しないっ!!」
「だって……面倒……」
「じゃあ死になさい!!」
「どうやって?」
「それがわからないから困ってるんでしょう!? 全部試しなさいよ!! 毒薬飲んで、ガソリンかぶって火をつけて!! ビルの屋上からオクトーゲン抱えて飛び降りなさい!!」
「……むちゃくちゃ言うなよ……それでも死ななかったらどうするの?」
「あー……うー……えー……だから……えーと……」
「どうするの?」
「うるさいっ!! なんかもう……埋まれっ!! 地面から首だけ出して埋まれ!! どっか山奥でっ!!」
「……そんな俺を見て、登山客がビックリして心臓発作起こしたらどうするの?」
「じゃあ地中深く埋まれ!! このっ!!」
「……あぶなっ!!」
「避けるなっ!!」
「玩具じゃないぞ!? 気安くポンポン殴るなっ!!」
「……うぅぅぅ……」
「いやさ、吸血鬼化したって言っても、俺、まだ誰も血を吸っていないんだよ? それをアナタ、埋まれって……」
「血を吸ってからじゃ遅いのよ!! 闇の芽は、花開く前に摘み取る!」
「開くかどうかも解からない花まで摘むなよ……」
「だから! 開いてからじゃ遅いって言ってるの!」
「俺にどうしろって言うのさ……」
「死ねっ!!」
 リカは潤に何が何でも死んで欲しいようだ。
「だから、どうやって?」
「それぐらい! 自分でなんとかしなさいよっ!」
「ダメだ……話題が完全にループしている……。他の方法はないの?」
「他の方法っ!?」
「なんかこう……誰も死なずに、皆で仲良くなれる方法」
「ぐ……だから! さっきソレを言おうとしていたのに! 貴方が邪魔をしたんでしょう!?」
「そう? じゃあ、どうぞ、言ってみて?」
「アナタッ!!」
「なんだい、オマエ?」
「……………………」
「……はい……ごめんなさい、悪ふざけが過ぎました……続きをどうぞ……」
「貴方! 私と主従契約をして、私の使い魔になりなさい!!」
「えぇ〜〜…………?」
「だ か らっ!! 面倒そうな顔するなっ!!」
「使い魔って、具体的に何をするのさ?」
「なんでもよ! 私が命令したら、それは絶対! 私がワンと鳴けといったら鳴く! 投げた棒を拾って来いと言ったら拾ってくる! 敵に噛み付けと言ったら噛む! ジャスドゥーイライトナーウ!」
「……犬じゃないか……」
「嫌なら死になさい!!」
「どうやって?」
「ループさせるな!!」
「主従契約って、どうやるの?」
「そこまでは知らないわよ……なんかこう……血の契約? なんか、そんなのがあるんでしょう?」
「あるんでしょう? って言われてもねぇ……。俺は知らないよ?」
「……むぅ……わかったわよ、ちょっと聞いてみる……」
「誰に?」
「先輩によ! こっち見るな!!」
 リカは携帯で何処かに電話をかける。
「……携帯電話?」

「……あ……モソモシ? 先輩ですか? リカです……」
「……アメリカ人のクセに、なんでモシモシだよ……先輩って日本人なのか?」
「あー、いえ、なんでもないです……ちょっと頭の悪い子が、隣で訳のわからないことを口走ってるだけですから……」
「……頭の悪い子言うな……タマネギとニンニクの区別もつかないくせに……」
「……………………」
「……はい……邪魔しません……どうぞご用件の続きを……」
「」……いえいえ、こっちのことです。それより先輩、ちょっと聞きたいことがあるんですけど……ほら、吸血鬼との血の契約ってあるじゃないですか、アレって、どうやるんですか? え? あ……いえ……別にそう言うわけじゃないんですけれど……なんていうか、そう言うことも知って置いた方が、昇級試験とか、有利かな〜って……
「……昇級試験……? ダイラス・リーンも、ヒラとか幹部とか、居るんだ……」
「あー、はい……はい……え? あの……それって……? あの、気を使わないで良いんで、バッチリ言っちゃってもらえませんか? ……え? あの……先輩? それ、本当に? なんか、私を騙して笑おうとかでナシに……? あぁ、いえ……先輩のことは信じてますよ? でも……あの……本当に? それしか方法って…… ないんですか?」
「……なんだって?」
「……はい……はい……でも……あー……うー……いえいえっ!! 別にそう言うわけじゃ!! どうも! ありがとう御座いました! 勉強になりました!! じゃ先輩!!  吸血鬼に気をつけて!! はいっ!! お互いに!! ではっ!!」
 電話を切るリカ。
「先輩、なんだって?」
「……別に……?」
「なんだよ……別にって……」
「別に血の契約なってしなくても! 貴方が私の言うことを聞けばいいのよ!」
「なんだよ……急にキレるなよ……」
「いいから!! 私の言うことを聞きなさい!! 貴方の働き次第では、いつかちゃんと契約してあげてもいいから!!」
「……はい? おっしゃる意味が、よく理解できないのですが……」
「うるさーいっ!! バキモンの分際で口答えするにゃぁっ!!」
「……バキモン? って、言えてないじゃん……何をそんなに焦ってるの?」
「焦ってない!! いいから! 今夜8時!! 例の公園に来なさい!!」
「……え? ちょっと……そんな勝手に……」
「来ーるーのーよっ!! わかったら返事っ!!」
「……は、はい……」
「逃げたらブッ殺すわよ!! フンッ!!」
「……あ……ちょっと、リカさん……?」
 返事は返ってこない。
「……………………だから……ブッ殺すって……どうやって……? ……それにしても……なんか……また変なことになって来たなぁ……」


 《SIDE月姫》
「まったく、呆れた才能の持ち主じゃわい。まさか、王の財宝ゲート・オブ・バビロンまで使うとは……」
 ゼルレッチはさつきの才能に呆れていた。
「固有結界と空想具現化のみならず、伝説の英雄の宝具まで使えるとはの……これは新たに二十七祖に迎え入れねばならぬだろうな? 相応しい番号に空きがあればいいが」
 さつきを二十七祖に迎え入れる為に策を練る。 
「今、上位の空位は3番と12番。3位は、あやつの指定席だから、12位となるな……上手いぐわいに空きができんかな?」
「なにを一人で呟いているんですか?」
「なぁに、こちらの独り言だ!! 一旦、日本に戻りわしが教えたことを試してみるといい。超特急で送ってやる」
「日本に戻ってどうすればいいんですか?」
「普通どおりに生活すればいいだろう?」
 さつきが失踪扱いになっている事を知らないゼルレッチ。
「普通どおりに生活できればいいんですけど……」
「では、少しの間の生活拠点を用意してやろう……」
 そう言って、さつきの住まいを手配させる。
 少しして、ゼルレッチが言う。
「住まいの手配が出来た。送って行ってやろう……」
 そう言って転移の呪文を唱え始める。
 呪文の詠唱が終わると転移していった。

「ここが、オマエの当面の住まいだ!!」 
「此処ですか?」
「そうじゃ。建物は結界で隠してはある。ただ、建物に出入りするときは気をつけるのじゃ。代行者に見つかっても代わりはないからな」
「はい。気をつけます」
「何かあれば連絡してくるといい。ワシに出来ることなら力になろう……」
「何かあったらお願いします」
「最後に注意と言うか、『空想具現化』と『王の財宝ゲート・オブ・バビロン』は無闇に使うな!!」
「どうしてですか?」
「切り札は最後までとっておけ!! 早々に使えば後々不利になる。不利になってもいいのなら使うがいい」
「アドバイスありがとう御座います。なるべく使わないようにします」



 あとがき

 出す予定のなかったあの人を出してしまいました。
 久住との戦闘までかけるかと思ったがかけませんでしたと言うか、長くなるので次回に持越しです。
 さっちんがどんどん化け物になっていく。
 次は何が何でも久住との戦闘終了まで書きたいが途中で切るようになるだろなぁ。
 さっちんとシエルの戦闘も入れたいから……。
 さっちんとシエルの戦闘は手を抜きたくないし……



いやー、さつきが一気にパワーアップしたな。
美姫 「潤の方は色々とややこしい事になっているみたいね」
今の所はまだ、別々に進んでいるけれど、どうなるかな。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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