第十七話「能力T」






 
 《SIDEムーンタイズ》
 11月28日。
 午前2時39分。
「……ただいまぁ〜……」
 ネロとの戦いで傷ついた体でやっと帰宅した潤。
「……って言っても……こんな時間じゃ……もうみんな寝ているか……」
「……おかえりなさいませ……潤様……」
 ゼノが現れた。
「うわっ!?」
「……潤様……時間も時間なりますれば……あまり大きなお声はお控えくださいませ……」
「……ビ、ビックリした……ゼノさん……? なにしているの? こんなところで……」
「……潤様のお帰りをお待ちするよう……リアン様より命ぜられました……」
「……で、電気……照明くらいつけようよ……」
「……申し訳ありません……ですが、この家で夜目がきかないのは潤様だけでいらっしゃいますれば……ましてや私一匹の為に電気代に負担を掛けるも心苦しく、かような無作法を……」
「いや、電気代くらい払うからさ……。心臓麻痺で倒れた時の入院費の方が掛かりそうだ……」
「……………………」
「……な、なに……?」
「……いえ……私が人間の姿をしている時で良うございましたね……と……」
「……ちょっと……やめてよ? 次はそうしようとか、考えてないですよね……?」
 部屋の明かりがつく。
「……潤……戻ったのか……」
「あ……ごめんベルチェ……遅くなるなら連絡しろって言われてたのに……」
「いいさ、予定の時間に戻ってこない時点で、こうなることは予想できた……」
「……俺も、携帯電話ぐらい持った方がいいのかな……?」
「……疲れたか?」
「あ……うん……そうだね……いろいろあったから……」
「危ないことをしているな? オマエ……」
「どうして……?」
「……フン……私を誰だと思っている? 坊やのやることはなんざ、ある程度はお見通しだよ……」
「……はは……まいったな……本当に母親見たなことを言うね……キミ……」
 間をおく潤。
「背中の小娘はどうした? 寝ているのか……」
「……うん……ちょっと、力を使いすぎたみたい……」
「ゼノ、すまないが、小娘を部屋に連れて行って、ベッドの上に放り投げてきてくれるか?」
「……了解……」
「……ぅ……」
「あ……あんまり手荒に扱わないでね……?」
「……承知いたしました……」

「……茶を淹れよう……」
「あ……ベルチェ……?」
「なんだ?」
「……怒ってる……?」
「なぜだ? なにか私を怒らせるようなことをしたのか?」
「遅くなる時は連絡するとか言っておきながら……結局連絡はしないし……リカさんと二人でコソコソと動き回って……なにをしていたのかすら……ろくに話しもしない……」
「なんだ……そんなこと……」
「そんなことって……」
「私とオマエのつながりは、その程度で揺らぐほど脆弱ではない……連絡しないことには腹を立てるが、心配はしていない。オマエがどこで誰と何をしようと、別にかまわない……オマエが、あの小娘と一緒に、なにか危ないことをしているのも、オマエから感じる波動で、なんとなくわかる……今日も二度、私を呼んだだろう?」
「……気がついていたの?」
「まぁね……そんな時こそ、眷属としての繋がりは、より強固になる……オマエが泣きそうな感情を飛ばしながら、私を呼んだ時……どれほど飛んで行こうかとも思ったのだが……まぁ……オマエの側には、あの小娘……リカが居たからな……ノコノコと私が出て行って、小娘の潤に対する奉仕の機会を奪い取ってしまうのも、姉としては大人気ないと思ってね……あえて無視をした。流石にネロに腹を食い破られて死に掛けた時は、すっ飛んで行こうとも思った」
「だったら助けに来て欲しかったな……って、俺がネロと戦ったことを知っているの?」
「おい潤! 今なんって言った!!」
「ネロと戦ったって言ったけど……」
 ネロと戦ったと言う潤。
「ネロ相手によく無事だったな……?」
「無事じゃなかった……腹を食い破られて死に掛けた」
「死に掛けた? 死に掛けた状態で、よく小娘を背負って帰ってこれたな」
「うん。治療してもらったから……」
「誰にしてもらったんだ!? アルクェイド・ブリュンスタッド……」
「アルクェイドって……オマエ……真祖の姫にあったのか?」
「あった。だけど、なぜか弱っていた」
「真祖の姫が弱っていた!? なにかの間違いだろ?」
「間違いじゃないよ。力を使った後、肩で息をしていたから……」
「それで、ネロはどうなった?」
「ネロは、消滅したよ」
「誰が消滅させたんだ?」
「高校生ぐらいの青い目をした男の子」
「青い目? まさ、バロールの魔眼じゃないのか?」
「バドールの魔眼ってなに?」
「簡単に言うと、『直死の魔眼』のことだ!」
「『直死の魔眼』?」
「あぁ『直死の魔眼』だ! 本物の目は見ただけで殺すことが出来たそうだ。そいつは、見ただけで殺せたのか?」
「いいや。ナイフで戦ってた」
「そいつの目は、本物ではなく亜種だ! それでも、殺せることには変わりないがな……」
「そっか……」
「潤! 服を脱げ! 腹の傷を見てやろう……」
「傷は塞がっているから良いよ」
「良いから脱げ!」
「うん……」
 服を脱ぐ潤。
「脱いだらソファの上に寝ろ!」
「……うん」
 ソファの上に寝る潤。
 潤の腹を触診するベルチェ。
「べ、ベルチェ! 腹が痛い……」
 触られただけで腹が痛む。
「潤! 腹を割いてみるぞ!?」
「えっ?」
 曖昧な返事をする潤。
「では、開腹!」
 イキナリ潤の腹を割くベルチェ。
「潤! 痛いわけだ、腸がグチャグチャに詰められているぞ!? 腸なんか捻じれ上がった状態で詰められてたぞ」
「ベルチェ、気持ち悪い」
「我慢しろ!!」
「吐き気が……」
「それは、そうだろう? 意識ある状態で腸を弄られたら気持ち悪くなるさ。ここで吐くなよ!? 誰が掃除をすると思っている?」
「うぇぇっ!!」
「吐くなと言ったのに吐きやがって」
「い゛」
 胃を鷲掴みにされる潤。
「ったく、胃まで傷らだけだぞ? 治す方の身にもなれ!」
「ベルチェ、早くしてくれ! 寒い」
「我慢しろ! 勝手にネロと戦って負った傷だ」
「勝手に戦ったんじゃないよ。アルトルージュに強制連行されたんだ」
「新たな力でも手に入れたか?」
「いいや、入れてない。と、言うかそんな状況じゃなかった」
「まぁいい。新しい力は、また今度で……で、あの小娘は居たのか?」
「いたけど……どうかした?」
「あの小娘は、新しい力を使ったか?」
「よくわからないけど、触れた化け物が黄金になっていた」
「はぁ? 黄金だと!?」
「うん」
「あの小娘、『ミダス』まで使えるのか……サードなのに規格外だな」
「それから……」
「まだあるのか?」
「あの娘、戦いの後、アルクェイドって人から血を貰ってた」
「ほぅ。真祖の姫から血をね」
「それで、どうなった?」
「よくわからないけど、真祖に成ってたと思う」
「潤。サードが真祖に成れるわけないだろう? 私でも真祖には成れないだからな」
「でも、次にベルチェが会えば、結果がわかると思う」
「出会ったら確認しておいてやろう」
「お願い」
「うむ。では、治療を続ける」
 腸を引っ張り出して治療を続けるベルチェ。
 捻じれていた腸を元に戻していく。
 その間、潤は猛烈な吐き気と痛みと気持ち悪さを味わっていた。
「ベルチェ、俺の腹如何なの?」
「作り変えないとならん臓器が幾つもある」
「そんなに酷いの?」
「あぁ。胃なんて穴だらけだ! 見るか?」
 摘出した胃を見せるベルチェ。
「いやいい。話を戻して。」

「……まぁ、なにをしているのかは聞かんよ……子供ってのは、親に隠れてコチョコチョ悪戯をするものだし、まぁそれが楽しい時期だろう」
「……別に、隠しているつもりもないし、悪戯をしている訳じゃないよ……ただ、俺がやっていることを話したら、キミは『くだらない』って言うだろうね……」
「好きにするが良いさ、そうやって吸血鬼になっていくものだからな……」
「……俺が隠れて人間の血を吸っているとか……勘違いしていない?」
「さぁね……大方、あの小娘と二人で、『悪い吸血鬼』でも追いかけているのではないか……?」
「……………………」
「傷の治療は終わり。茶を飲めよ、冷めるぞ?」
「……またマシュマロが入っている……」
「嫌いか?」
「……嫌いじゃないことを知っているから、入れたんでしょう……?」
「なんでも訳知り風な私が気に入らんか? 少しは知らん振りをしているつもりだが」
「……かなわないね……キミには……」
「小娘と二人で、オマエがなにをしているのか……リアンには黙っておいてやるよ……あの子も頑固だから、オマエがガリガリをしていると知ればタダでは置かんだろうしな……」
「ガリガリ……?」
「吸血鬼であるオマエを狩りに来た吸血鬼を、逆にオマエが狩る。吸血鬼狩り狩りだろう……?」
「吸血鬼狩り狩りだから……ガリガリ……?」
「そういった経験が、オマエを一人前の吸血鬼へと進化させるなら、私は止めないがね……リアンは、オマエが人間の味方をしていると見るだろうね……」
「かもね……実際……俺は無関係な人間に被害が及んだり、今の生活を壊されるのが嫌で対応している訳だし……」
「まぁ……オマエと小娘だけでは手に負えなくなったら、相談するがいいさ……それに、ブリュンスタッド姉妹も居るんだろ?」
「ベルチェは……どう思う? 今回の事件……」
「事件とは?」
「神崎仁美ロゥム化事件……久住秀介吸血鬼化事件……他にも細かい異変をあわせるといろいろあるけど……この辺りの一連の事件だよ」
「……フン……まぁ、犯人は同一だろうね……」
 同一犯だというベルチェ。
「なにか……犯人に心当たりとか……なにの?」
「なくはない……というか、ありすぎて絞りきれないね」
「例えば……?」
「オマエの存在を好ましく思っていない連中は多い……こう言えば、大体の想像はつくだろう? オマエのことだ。既に動機のある候補をいくつか絞り込んで考えているのではないか?」
「……その上で……ベルチェから見て、一番可能性が高いのは誰かって……それが知りたいんだけど……」
「一番……一番ねぇ……単純な消去法で考えれば、ダイラス・リーンが一番怪しいと、私は考えている……」
「……ダイラス・リーンが……? 埋葬機関じゃなく?」
「久住は、お前を殺さずに手に入れたいと、そう言ったのだったな?」
「……うん……」
「オマエを生かしておきながら、身柄を手に入れることでメリットが発生するのはダイラス・リーンだ」
「俺を生け捕りにすることで、ダイラス・リーンにどんなメリットが……?」
「ダイラス・リーンにも、吸血鬼は居る。それは知っているな?」
「うん……」
「では、奴らはどうやって、その吸血鬼を手に入れた?」
「それは……その殆どが事件に巻き込まれた吸血被害者で……成り損ないだって……」
「まぁ……そりゃ表向きの見解だね……実際のところ、成り損ないなんて、滅多に出るケースじゃない……ダイラス・リーンに何人吸血鬼が居るのかは知らんが、決して少ないはない……とてもじゃないが、成り損ないだけで数えられる数字じゃないね」
「だったら……」
「イミテーション……つまり人工吸血鬼だろうね……」
「人工吸血鬼……?」
「真祖の血を使い、成分を解析し、人工的に吸血鬼を作る技術は、すでに200年以上前から研究されている……」
「だって……そんなこと、リカさんは一言も……」
「秘密にしているんだろう? 鉄砲振り回してるだけの下っ端が知っていて良い事実ではないし、そんな噂があっても、否定しなければいけないのがリカの立場だ」
「……事実なの……?」
「吸血鬼の間では常識だね、実際、多くの吸血鬼が捕らえられ、実験材料にされている。死徒二十七祖候補が何人も実験材料にされている。その話はしたと思うが?」
「……そんなことが……」
「あるんだよ。技術で劣る国が、戦争で勝とうと思ったら、敵国の技術を真似るのが一番早い……ミサイルにはミサイル、波動砲には波動砲、吸血鬼には吸血鬼さ…… とは言え、私が口にするのもおかしい言葉だが、所詮は『デッドコピー』、オリジナルには遠く及ばない……そこで連中は、より良質な研究材料を欲しがっているのさ…… 出来れば生きたまま手に入れたい……とな」
「……それが……俺……?」
「そういうこと、歴代最強と言われたイド・ブランドルの直系だからな……ましてや、成り損ないと来ている……そんな貴重なサンプルを、奴らが放って置くとも思えんね」
「……知らなかった……」
「まぁ、あの小娘の言うことを、あまり鵜呑みにしないことだな。子供のころからダイラス・リーンこそすべてと、洗脳されるように生きてきた女の言葉だ…… しかし、そんな価値観も、あの女が吸血鬼になった今では、まるで意味がないがね……」
「彼女は……人間に戻りたがっている……人間には戻れない。そう言った筈だが?」
「諦めないだろうね……」
「人間に戻ってどうする? なにをする? どう生きる? 人間の、なにがそんなに大事だ?」
「400年も生きているキミとは、考え方も違うさ……彼女はまだ、赤ん坊みたいなものだよ」
「そこでオマエが支えてやらないでどうする。道を見失った女を口説くのは簡単だぞ? オマエが道になってやれ」
「……俺だって……吸血鬼に不安がない訳じゃない……」
「なら手を取り合って歩けばよかろう。ハッタリでもかまわん、堂々と歩け。難しく考えるな。主人がうろたえれば、眷属は不安の色を濃くするだけだ」
「……うん、そうだね……」
「だからと言って、あまりリカに無茶をさせるなよ。吸血鬼になりたての頃は力加減がわからん、念力でパンにバターを塗るような馬鹿をやる」
「はは、まさか……」
「実際、今日もヘトヘトになって帰ってきたじゃないか。力を上手くコントロールできないうちは、無意識に少しずつ力を使って、無駄に魔力を消費するものだよ。小娘の生き方、生活習慣に合わせて、ウイルスが力加減を学習するまでは、普通に生活していても魔力を馬鹿食いするって訳だ」
「そうなんだ……」
「オマエ、ちゃんとリカに餌をやっているのか? 前にも言ったが、やり過ぎもよくないが、与え方が足りなくてもよくないぞ。頃合い的にも、そろそろ満腹にしてやらないとイカン時期だろう……」
「あ〜……うん……そうなんだよね……うん……」
「なんだ? 嫌なのか?」
「俺は嫌じゃないんだけど……リカさんがね……」
 本当は、ヤリたい潤。
「オマエなぁ、リカが本気で嫌がっていると思っているのか?」
「その辺りがよくからないから、困っているんじゃないか……」
「言葉でどう取り繕おうと、リカの体内のVウイルスは餌を欲しがっている。それを満たしてやろうと言うのに、なにを遠慮する必要がある」
「うん……まぁ……」
「ウジウジするな、男なら文句があるのかと、ガツンと言ってやれ」
「非道じゃない……?」
「口では文句を言いながらも、女って奴は男に上から押さえつけられたいって願望を持っているもんだ。何もしないのが一番非道だよ」
「頑張ってみるよ……」
「リカはマゾだから、腹を殴られなら犯されながキスされる方が悦ぶかもしれんぞ?」
「マゾなのか」
「超弩級のマゾだな」
「断言されてもな……」
「良いからヤッて来い!」
「……犯してきていいのかな?」
「まだそんなことを……」
「いや……リカさんだけの問題じゃなくてさ……」
「リアンか? まぁ、リアンは不満だろうがね……わざわざゼノを待たせておいたのも、ゼノになにか言わせる気だっただろうさ……」
「……だよね……」
「なに、気にすることはない。リアンが気に入らんのなら無理に娶る必要はない。オマエは好きな女を嫁にすればいい」
「たとえばキミを嫁に欲しいと言っても?」
「100年早いよ、坊や……」
「そう言うと思った……」


 ……俺がリカさんと接しにくいのって感じるのは、リカさん本人が嫌がってるってのもあるけど許婚として日本に来たリアンの存在もある……。
 リアンにしてみれば……俺がリカさんとそういう関係になるのは、やっぱり浮気なんだろうし……。
 でも……イキナリ勝手にやってきて『許婚です』って言われても、急には受け入れられないってのもあるし……。
 第一……いま一つ良くわからないんだよね……リアンって子が……。
 ……俺は……昔から、他人がなにを考えているのかぼんやりとだけど……わかるんだよね……。
 例えばゼノさんなんか……俺のこと、あんまり好きじゃないって、すぐにわかる……。
 リカさんだって、口では俺のこと嫌ってるようなこと言うけど……実際はそんなに嫌ってないって、なんとなくわかる……。
 でも……リアンは……上手くいえないけど……わからない……。
 俺のことを嫌っている訳でもなさそうだけど……だからって好きでもなさそう……。
 実際に、リアン本人に聞けば『好きだ』と言うと思う……。
 でもっそれって……本人の意思で言っている言葉じゃなくて……なんと言うか……彼女の置かれている立場が言わせている言葉のような気がする……。
 もうちょっと……突っ込んだ会話をすれば、また違って見えてくるんだろうけど……。
 難しいな……。


「……でも今は、リカさんを犯したい……腹を殴って犯してキスをしたいんだよ俺は!」
「……………………」
「あ……シカトですか? 寝たふりですか?」
「……なによ……突然……」
「リカさんに、魔力を与えに来ました」
「あぁ、そう……好きにしたら?」
「冷たいな……そっちに行ってもいい?」
「来るな」
「断る」
「……なら訊かないでよ……」
「リカさん……」
「……………………」
「あ……りかさん、どこへ行くの?」
「……シャワー浴びてくる……」
「いいから、こっち来て、少しお話をしようよ」
「……なにも……しない……?」
「しない訳がない」
 嘘を言う潤。
「あ! ウソウソ!! しないしない! 逃げるなリカ! 止まれ!」
「…………別に逃げやしないわよ……今更……」
「いいからさ、座ってよ」
「……む……」
「座りなさい?」
「……わ、わかったわよ……」
 座るリカ。
「あぁ、そこじゃなくて、ここに座って?」
「……ちょっとぉ……」
「なにもしないからさ……ほら……」
「……わっ! こら……っ!」
 リカを抱き寄せる潤。
「……うん……落ち着くな……」
「……何をするのよ……」
「別に……なにもしていないと思うけど?」
「……………………」
「……ほら、もっと僕に体重をかけてきて良いんだよ……? 背中ごと……僕に預けて……」
「……な……」
「……ん?」
「なにか……話が……あ、あるんじゃなかったの……?」
「あるよ?」
「だ、だったら……さっさと話なさいよ……」
 早く話せというリカ。
「うん……なにから話そうか? なにが聞きたい?」
「……なんで……私に聞くのよ……話したいことを……話せばいいじゃない……」
「そうねぇ……昔々あるところに……お爺さんとお婆さんが居ました……ある日、お爺さんは山へ芝刈りに……お婆さんは川へ洗濯に出かけました……」
「……なんの話よ……」
「桃太郎……知ってる?」
「……馬鹿にしている……?」
「だよね、有名だし、知っているか……じゃあ、浦島太郎は?」
「そうじゃなくて、その話が……今この状況と、どう言う関係があるのよ?」
「ないけど……?」
「……やっぱり馬鹿にしているんじゃない……」
「必要な話しかしないなんて、寂しいよ……。でも、リカさんが嫌なら、関係のない話をするのは、禁止にする?」
「……なんなのよ……」
「……リカ……」
「……なによ……」
「リ〜カ……」
「だから……なによ? 用もないのに呼び捨てにしないで……」
「……嫌い?」
「……ぅっ……」
「別にさ……血を飲ませたり、キスとかしなくてもこうして抱き合っているだけでも、魔力は供給されるんだってさ……」

 本当は、胸を揉んでいてもいいんだけど……。

「こうやって身を寄せて……出来るだけ2人の距離を縮めて……意味のない、ゆる〜いおはなしして心の距離も縮めるんだ……その距離が近づけば近づくほど ……お互いがお互いを理解すればするほど……魔力を供給するケーブルが太くなるんだって……」
「……そう……なんだ……」
「リカ……正直に答えて、いい?」
「な、なによ……」
「俺のこと、嫌い?」
「……ぅ……」
「……答えて……」
「う……ぃ……ぁ……が……だっ! ぐ……ぎぎ……」
「ん?」
「……き、きき……嫌い……!」
 嫌いと言うリカ。
「あは、凄い冷や汗……。リカさん、無理していない?」
「し……しししし……してないっ!!」
「リカ……正直に……命令だよ……?」
「ぁ……ぐ……ぅ……ぐぐ……?」
「頑張るねぇ……もう一度聞くよ? 俺のこと、嫌い?」
「……き、嫌いじゃ……ない……わよ……」
「じゃあ、好き?」
「なっ……!? なな……なにをぅ!?」
「俺のこと、好き?」
「くわっ!! くけっ!! お……おえっ!!」
「うわ……ショック……吐く程言いたくない訳……?」
「ダ、ダメ!! 言わない! 絶対……! それだけはっ!!」
「どうして……?」
「……言ったら……ま……ままままっ!!」
「ま?」
「……負けるっ!!」
「なんで勝ち負けになるかな? というか、言えないって言っている時点で、認めているようなもんだよね……」
「う、うるさいわねっ!! わたしはなにも言ってないわよっ!?」
「まぁね……命令で無理矢理言わされるのも……可哀想かな……? リカ……俺はリカが好きだよ……」
「う、嘘よ……そんなの……」
「どうして?」
「わ……私……男に好きだなんて言われたこと……ない……」
「周りに男が居なかったんじゃないの? もしくはリカさんが言わなかっただけとか……」
「……ぐ……」
 どうやら図星のようだ。
「いままで……男の人と深い関係になるの……避けてたんじゃない? というか、怖かった?」
「怖い……?」
「誰かを好きになって、その好きになった人が居なくなったら……リカさんを好きになってくれる人が出来たのに…… 仕事の関係上、自分はいつ命を落とすかわからない……相手にも、深い悲しみを与えてしまうかもしれない……そんなのが怖くて ……避けてた……?」
「知った風なことを……」
「わかるよ……俺にもそんな時期……あったからさ……」
「大丈夫……俺はリカさんも知っての通り……殺しても死なないような男だし……ずっとリカさんの側に居てあげられる……。リカさんだって……俺の眷属になった以上は……簡単には死なせはしないよ……。大丈夫……俺がちゃんと……一生面倒見てあげるから……」
「……一生なんて……そんな軽々しく……」
「じゃあ、リカさんが俺を必要としなくなるまで……ずっと側に居るよ……ダメ……?」
「ダメ……じゃない……けど……」
「けど?」
「なんか……うまいこと言って……騙そうとして……ない?」
「……フゥ……言葉だけじゃ上手く伝わらないもんだなぁ……この好きっていう感情は……」
「……つ……伝わってない訳じゃ……ないけど……」
「うん?」
「こうしていると……なんだかくすぐったいような……変にフワフワしている気分になるし……」
「じゃ、キスしていい……ついでに胸を揉んでも……?」
「な、なんでそうなるのよ!?」
「なんでって……単純に俺がキスして胸を揉みたいだけなんだけど……ダメ……?」
「な、殴るわよ……!?」
「いいよ……?」
「……いいよって……」
「殴りたければ、殴っていいし……言いたいことがあるなら全部言えばいい……受け入れるよ、それぐらい……」
「……な……なにを言っている……の……?」
「リカ……キミは俺の大事な眷属だ……手放したくない……キミの気が晴れるのなら、何だってする……。……えぇと……キミが望むなら……俺はなんだって手に入れるし、なんだって捨てる……それが眷属って言うものなんだってさ……」
「……誰の受け売りよ……」
「ベルチェ」
「あんな魔女の言葉で口説かれたって嬉しくなんかない……」
「俺もベルチェの言うとおりだと思うから、同じことをいうんだよ……これは俺の言葉だ……」
「信じられないわよ……」
「リカ……大丈夫……これだけは信じて……俺はキミを大切に思っている……それだけは疑わないで欲しい……」
「……………………」
「……黙るなよ……これだけ言っても信用できない……?」
「……いいわよ……そこまで言うなら……騙されて……あげるわよ……」
「うん……ありがとう……なら、僕はキミを裏切らないようにするだけでいい……気が楽になった……」
「……………………」
「ん? どうしたの……?」
「……こっち見るな……」
「どうして?」
「……こんなの初めてで……どんな顔して良いのかわからない……」
「……『キスして』って良いながら、そっと目を閉じればいいんだよ?」
「……馬鹿じゃないの……?」
「リカさんも馬鹿になってくれると、話が早くていいんだけどな……」
「……あっ! ちょ……こら! やめっ……! なにもしないって言ったクセむぐっ!?」
 リカの口を塞ぐ潤。
「……リカさんって、キスする時すごい身体に力が入るよね? 緊張しているの……?」
「……べ、別に……ただ、急だったからビックリしただけよ……」
「じゃ、念のためもう一度キスをしておこうか?」
「……も、もう十分よ!」
「でも、油断してたら、リカさん……どんどん飢えて悪い吸血鬼になっちゃうよ。だから、多少多めにチャージしておいたほうが良いと思うんだけど……」
「わ……わかったわよ……じゃ……もう一回だけよ……?」
「今度は……力抜いて……別に変なことはしないから……」
「……う、うん……」
 力を抜くリカ。
「……ン……」
 キスをした潤。
「……………………」
「……どんな感じ?」
「……ど、どんな感じって……べ、別に……上手……なんじゃない……?」
「いや、そうじゃなくてさ……なんかこう……魔力が供給されてる感じはするの? って意味で、どんな感じって聞いたんだけど……」
「あ……ぅ……え? あ、えっと……ゴメン……なんか私……ボーッとしてる……?」
「頭痛は……もう平気なんだよね……?」
「……うん……でもなんだか、頭がフワフワする……。……それに……なんか……胸がドキドキして……億の方がギューって、穴が開くような感じ……」
「それって、胸が痛いの……?」
「……も、もう良いから……。魔力供給が終わったのなら出てってよ……」
「……えぇ? そんなさぁ……終わったら帰れって……寂しいよリカさん……」
「……いいから出てって! 私、もう寝るから!」
「じゃあ、俺も今夜、ここで寝ても良い?」
「な! なんでそうなるのよ!」
「なんでもベルチェが言うには、夜の方がVウイルスの活動が活発になるから、ずっと一緒に居た方が良いんだってさ」
 本当はヤりたい潤である。
「だ……だからって! そんな……!」
「大丈夫だよ、絶対に変なことはしない……約束する……」
「本当……に……?」
「信用できない……? それとも俺が怖い……?」
「こ、怖くなんかないわよっ! か、勝手にすればいいでしょう!?」
「うん、じゃあ、そうさせてもらおうかな……」
「……ちょ……コラ……なんでベットに入ってくるのよ!」
「??? まだ寝ないの?」
「そうじゃなくて……! あぁ、もぉ! なんで私と貴方が同じベットで……って!」
「だから……さっきの俺の話し聞いていた? 俺とリカさんは、出来るだけ近くに居た方がいいんだってば」
「……う……ぐ……だ、だからって……」
「大丈夫だよ、近くで寝るだけだ。俺はリカさんに、指一本触れないから……ね?」
「それを……信じろって言うの……?」
「俺を信じろ」
「まぁ……良いけどね……」
「……って言いながら、銃を枕の下に押し込むなよ」
「……知っている? 銃口を枕に押し付けて発射すると、殆ど音がしないのよ……」
「怖いこと言うなよ……」
「……どうせ撃ったって、全部弾き返すクセに……」
「……ん?」
「なんでもないわよ……もぉ……」

 まったく……人の気も知らないで……。
 貴方が側に居るだけで……私がどれだけ変な気分になると思ってるのよ……。
 なーにが『俺を信じろ』よ……。吸血鬼の言葉を信じるダイラス・リーンのシスターが何処に居るってのよ?
 まぁ……コイツがそう言うのなら……それは嘘じゃないんだろうけど……。
 ……って、なんで私……無条件で信じている!?
 それってやっぱり……コイツが私のマスターだから……?
 それとも……私のこの胸のモヤモヤと何か関係が……?
 まさか私……この男のことを……好き……とか……?
 いや……いやいやいやいや……それはないだろ?
 ね? ないわよね私?

「まだ寝ないの?」
「な、なによ! 寝るわよ! つーか、寝てたわよ! 話しかけんな!」
「そんなに俺と一緒に寝るのが嫌い……?」
「ア、アンタは嫌じゃないの?」
「どうして?」
「どうしてって……だって、そんな……さ? 好きでもない女と……」
「俺、リカさんのこと、好きだよ」
「またそんな嘘を……!」
「信じてくれるまで、何度でも言うさ……。それよりベットの端っこで寝て、寝苦しくない?」
「へ、平気! 狭いところで寝るの……慣れている……」
「顔を見ながら話したいんだけどな、俺は……」
「どっち向いて寝ようが……私の勝手でしょ……」
「どうしても嫌?」
「うるさいわね! も、もう寝なさいよ!」
「残念……」

 冗談じゃないわよ……バカみたいに口あけて寝ている顔……見られたくないから……。
 ……顔……隠しているんじゃない……。
 それなのに……何を言っているのよ……このバカ……。

「……なんで……なのよ……」
「ん……?」
「……なんで私のこと……好き……だなんて……そんな簡単に言えるのよ……」
「別に簡単に言っている訳じゃないんだけど……やっぱり……俺が言うと、言葉が軽く聞こえちゃうのかな……」
「……嘘よ……そんな簡単に、人を好きになる訳ないじゃない……」
「……………………」

 ……なによ……なんで……黙るのよ……。
 それなら……まだ笑われたほうが……マシだわ……。

「……リカさん……愛してる……」
「…………つつ!! ……」
「ちょっと……というか……かなり真剣に言ってみたんだけど……」
「……嘘……つき……」
「本当だよ……俺がリカさんに初めて会ったときも……凄くドキドキしたし……リカさん……可愛いなって……」

 ……嘘……だ……。
 やめて……よ……。
 嘘だってわかっていても……それでも良いって……。
 思っちゃうじゃない……。
 薄っぺらい言葉なのに……身体が……嬉しいって……勝手に震えるじゃない……。
 どうして貴方はいつもそうやって……私の弱いところばかり……苛めるの……?


「……ぅ……」

 ……胸の奥から……暖かい何かがジワリと染み出してくる……。
 ……気持ちがいい……。

「……リカさん……?」
「…………ぐ……ぐ〜……ぐぅ〜……」
「……ちょ……それはイビキのつもりなのか……? それとも……本当に寝ちゃったの……?」
「……………………」
「……まぁ……いいか……そのまま聞いて……」
 リカに聞いてという潤。
「リカさん……。リカさんについてはさ……そりゃ……俺だって……色々と思うこところがあるよ……。正直に言えば ……リカさんを吸血鬼にしてしまった負い目……みたいなものはある……。それは……責任っていうか……同情みたいなものかも知れない……。それに……リカさん、すぐに大きな声出すし……すぐに俺を殴るし……銃は抜くし引き金は軽し…… それに全部素直じゃないし、俺を信じない……。それでも……俺はキミが好きだよ……」
 リカが目を開ける。
「リカ……リカ・ペンブルトン……。俺の……大切な眷属……。ずっと、大事にしていける……大切な家族……。俺のこの気持ちだけは……歌がないで欲しい……俺の言いたいことは……それだけ……。……おやすみ……」
「……………………」

「……おやすみ……」

 ……………………
 …………………………………………
 ………………………………………………………………


 《SIDE月姫》
「さつき、今日は疲れたであろう?」
「疲れたと言うより気持ちがいいです」
「そうであろう。ところで真祖になった感想は?」
「なんて言って良いのか分からないけど気持ちがいいです」
 さつきは気持ちがいいらしい。
「明日からは、ロアの死者を狩るぞ」
「はい。ロアさんにはお礼をしないといけませんし」
 さつきの言うお礼とは、肉体的制裁のことである。
「妾もカリを変えさんとならぬ。カリを何億倍にもしてかえさんと気が治まらん」
「その前にアルクェイドさんを何とかしないと……」
「そうじゃな。あそこまで落ちた力をどうやって回復させるかじゃな」
 アルクェイドを回復させる方法を考えるアルトルージュとさつき。
「ブリュンスタッド城に帰れば一月で回復出来るじゃろう……」
「でも、そうしたらロアさんの力が……」
「今よりも更に強くなる」
「唯一の救いはさつきじゃ。さつきが即座に蘇生してロアの支配を受けんかったことじゃな」
 唯一の救いはさつきらしい。
「さつきがロアの支配を受けておれば打つ手がなかった。ロアに見つかる前に妾の元に置いておけたのが幸運かも知れぬ」
「私って、幸運なんですか?」
「何を申すか? すべての過程をすっ飛ばして吸血鬼になった上、真祖にまで成れたのを幸運といわずになんと言う? 本来なら得ることの出来ない力も得れたではないか」
「そうですけど……」
「明日は、わが妹のマンションに行くぞ」
「私、行方不明なのに出歩いて大丈夫なのかな?」
「気にするでない。さつきは、既に人ではない。真祖の吸血鬼だ! 人の世など捨て置け」
「うぅ〜。分かりました」
「分かればよい。今宵は休むがよい。ネロとの戦いで力をつかったからな」
「それじゃあ、おやすみなさい」
 そう言って床に就いたさつき。
 明日は、さつきに何が待ち構えているのだろうか?
 目が覚めれば真祖としての新しい始まる。
 真祖と成ったさつきに何が待ち構えているのか誰にも分からないのである。



 あとがき

 次回から月姫サイドは、さっちんの真祖教育編をロア戦まで入れていこうかな?
 潤は後何回、開腹させようか?
 毎回毎回あっても良いけどそれじゃ潤が痛々しいし……。
 実は潤君、結構楽しんでいるんです。
 楽しんでいるというのは夜のです。
 リカやりアンとあんなことなど……。
 あんなシーンを入れようか迷う。
 元が○禁ゲームが原作だら……。
 リメイク版月姫早く政策着手されないかな?
 『魔法使いの夜』の製作が遅れているらしいから何時になったら幻のさっちゃんルートがプレイできるのやら……。



腹を開くって。
美姫 「開かれて平然としている方もしている方よね」
平然ではなかったようにも見えるけれどな。
美姫 「あれはあくまでも見た目で気分が悪くなっただけでしょう」
まあ、そうだが。にしても、リカとの仲が進展した感じだが。
美姫 「どうなっていくかしらね」
それでは、この辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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