第十八話「能力U」






 
 《SIDEムーンタイズ》
 荻島潤・自宅。
 午前7時32分。

「……潤……おい潤……。いい加減に目を覚ませよ……学校に遅れるぞ?」
「……うん……」
「……うん……って……返事だけか? さっさと起きろよ……。もう操が迎えに来ているぞ……?」
「……あ……ベルチェ……?」
「おはよう潤」
「うん……おはよう……今、何時……?」
「現在午前7時32分46秒……7秒……8秒……進行中だ」
「えぇ……っ!? ちょっと……7時32分って……!」
「いつもより、約30分遅れている」
「マズいっ!! 遅刻するっ!!」
「あっ! こら潤! 急に立ち上がると……っ!!」
 ベルチェが注意する。
「……でっっ!!!」
「……転ぶぞ……と言おうとしたのだが……間に合わなかったか……」
「……通でででで……ぐぅ……鼻が床にめり込んだ……なんで……こんな……くぅ……」
「自分の下腹部をよく見てみろよ、全裸の女がしがみついている……」
「……え……? あぁっ!? リカさんっ!?」
「随分と懐いているじゃないか、えぇ? まだまだ坊やだと思っていたが、なかなかどうして……これは考えを改めたほうが良さそうだなぁ」
「……ちょ……リカさん……放してよ……」
「ん……う〜ん……」
「まるでスッポンだな、これは相当気に入られているぞ? やるじゃないか潤、ははっ」
 笑うベルチェ。
「笑ってないで、何とかしてよ……。これじゃ服も着替えることが出来ない……」
「この女の腕を切り取ってもいいなら、すぐにでも引っぺがしてやるが?」
 腕を切り落とすというベルチェ。
「駄目だよ! なんでキミっていつもそう過激なの?」
「魔女だからだよ。なぁに、切り取った後、傷跡一つ残さずくっつけてやれば同じことじゃないか、頭の固いやつだな」
「いいよ、もぅ……。ほら、リカさん起きて……」
「……ン……ぅう〜ん……やぁん……」
「……いや……やぁん……って……ほら、リカさん……」
「ん……も……やらぁ〜……」
 完全に寝ぼけているようだ。
「……リカさん寝ぼけてフニャフニャ言ってる……エロ可愛い……」
「7時34分52秒……」
「あぁっ! そうだっ! 遅刻っ!!」
 潤は遅刻寸前だ。
「私は時計じゃないぞ? この程度の時間管理は自分でして貰いたいところだがね」
「……わ、わかった! すぐに着替えて降りるから!」
「リカは私が起こしておいてやろう、オマエは下で顔を洗って着替えを済ませろ、新しい制服はそこに置いてある」
「うん、じゃ、お願い!」

「……………………。……さてと……」
 リカを起こしにかかるベルチェ。
「おい……いつまで寝ぼけた振りをしている気だ?」
「……………………」
「状況が状況だけに、どんな顔をして良いのかわからなくなって、起きるに起きられなくなったな?」
「……………………」
 赤面するリカ。
「どうした? 顔が赤くなってるぞ?」
「う、うるさいわね……そこまで状況がわかっているのなら、気を利かせて部屋から出て行ってくれるぐらいのこと、してくれたって良いじゃない……」
「だから、潤は部屋から出してやっただろう? それともなにか? 私だけ出て行って、潤と二人きりになりたかったのか?」
「別に……そう言う意味じゃ……」
「それで? どうだったのだ? 昨夜は」
「……どうだった……って? 意味がわからないんだけど……」
「おいコラ、どこへ行く? 話はまだ終わってないだろうが」
「私も着替えるのよ、話しがあるのなら、勝手に話しなさいよ」
「潤とは信頼を分かち合えたか?」
「……なんだ、そっちの話? 私はてっきり、一連の犯人である吸血鬼の心当たりでもあるのかと……」
「……まぁ、犯人に心当たりがない訳でもないがね……」
 ベルチェには心当たりがあるようだ。
「……誰なの……?」
「それより私の質問に答えろよ、どうだった? 上手くいったのか?」
「……それとコレに……どんな関係が……」
「私はオマエが潤に対して、どんな位置にあるのか知りたいだけだよ。それがわからない内は、何も話すことはないね」
「……意味わかんない……」
「潤にキスをされて、胸を揉まれて気持ちよくなかったか?」
「……それが……なんだって言うのよ……」
「おいおい、ハッキリと答えろよ。気持ちよかったのか? 良くなかったのか? 細かく話す必要はない、0か1、良かったら 1、良くなかったら0で答えろ」
「……………………」
「どっちだ?」
「……1……」
 気持ちよかったらしい。
「……ふぅん……」
「なんなのよっ!? もぅ!!」
「まぁ、良いだろう。少なくとも、今のところオマエは敵ではなさそうだしな……」
「……はぁ……?」
「潤から与えられる魔力が心地よく感じると言うのは、オマエが潤を受け入れている証拠だ」
「……な、なんでそうなるのよ……」
「潤のことを嫌っている状態で、潤の魔力を受けても、腹こそ満たされるが、身体が重くなったり、軽度の腹痛が現れる…… そんな兆候は?」
「……ないわ……」
「だろうが、むしろ昨日までの身体のだるさが抜け、目の前の物がシャッキリとよく見えるだろう? それは、オマエが潤を主と認め、潤の魔力を糧として生きていく準備が出来たと言うことだ。言っておくが、他の男では、こうはいかんぞ?」
「……マスター以外の男では意味がないってことでしょ?」
「まぁ、それもあるがね……」
「他になにがあるのよ……」
「潤に与えられる魔力の味は、そのまま潤がオマエをどう思っているかの現われでもある。潤がオマエを愛しいと思っていればいるほど、その味は甘美になる。逆に、潤の心がオマエから離れれば、その味は、なんとも味気ないものになるし、いくら与えられても満足感は薄くなる。より美味い餌にありつき、ウイルスに満足感を与えたければ、潤に愛される努力を惜しまないことだな」
「…………そんなの……ただの奴隷じゃない……」
「タダの肉奴隷で終わりたくないのなら、その為の努力を重ねろよ。着替えが済んだのなら顔を洗って来い、ヨダレまみれでカピカピの顔をしおって、子供か貴様」
「というか……お風呂に入りたい……」
「なぜ昨日のうちに入っておかん」
「潤が部屋に押しかけて来たせいで入るタイミングを外されたのよ!!」
「……ほう……」
「なによ! ほう……って!!」
「貴様、いつの間に『潤』と呼び捨てにするようになった?」
「……なっ!がっ……! べ、別に……最初からそう読んでいたわよ!!」
「……へぇ……」
「なによ! ニヤニヤするなっ!!」
「オマエ、自分で気がついていないだろう?」
「な、なにがよ!?」
「オマエ、相当可愛いぞ?」
「……らしくないのは解っている……そうやって、馬鹿にしていれば良いわよ……」



 《SIDE月姫》
 同日。
 午前7時50分。
「姫様、おはようございます。朝食の用意は整っております」
「直ぐに参る。さつきは?」
「紀久子が起こしにいっております」
「では、妾たちはキッチンで待つとしよう」
「はい」

「さつき様、朝です」
「う〜ん……」
「さつき様、おきてください。朝食が冷めてしまいます」
 目をこすって起きるさつき。
「おはようございます、さつき様! 」
「おはよう……」
「朝食の用意は出来ております」
「じゃあ、着替えて直ぐに行くから……」
 ドレスに着替えるさつき。
 何故ドレスかと言うとそれしか着る物がないからである。
 学校の制服も在るのだが着るのをアルトルージュに禁じられているのだ。

「起きたか?」
「はっはい」
「では、食事にするとしよう」
 食事を取り始めるアルトルージュとさつき。
 プライミッツも床で食事を取っている。
「フロイライン、オマエも席について食事を取れ!」
「しかしながら私は一介の従者に過ぎません」
「此処ではオマエも家族だ! これは妾の命令だ」
「では、お言葉に従います」
「紀久子、オマエもだ」 
「はい」
 従者二人も席について食事を取る。
 朝から食卓にワインが出されている。
「姫様、今日のご予定は?」
「今日は、我が妹のマンションに出向こうと思っておる」
「クゥン」
「そうか、プライミッツもついて来るか!?」
 ついてくると言うプライミッツ。
「プライミッツさんに首輪を付けないとつれて歩けませんよ」
「何故じゃ?」
「姫様、狂犬病予防法をご存知ですか?」
「いいや。知らぬ」
「この国には散歩させるときには飼い犬に首輪を付けないといけないようです」
「プライミッツも嫌と申しておる」
「もしも何かあった時は姫様の責任になってしまうのですよ」
「付けるしかないのか?」
「首輪を付けるのはアルクェイド様のマンションとの往復するときだけでよろしいのです」
「そう言うわけだから我慢してくれ、プライミッツ」


 《SIDEムーンタイズ》
「おはよう」
「あ! 潤くん! おはようじゃないよ、遅刻しちゃうよ!?」
「あぁ……ごめん、今朝はちょっと……寝坊した」
「おはようございます、潤さま。朝食の準備が出来ておりますよ?」
「あ〜……うん、ありがたいんだけど……ちょっと食べている時間がないかな……?」
「はい、そうおっしゃるだろうとは心得ておりましたので、このような物をご用意いたしました。さぁ、召し上がれ?」
「……………………」
 固まった潤。
「りアン様? 質問がございます……」
「なんでございましょう?」
「……これはナンデスカ?」
「よくぞお聞きになられました。これはリアン特製、クイック・ブレックファーストです」
「……いや、名前じゃなくて、物としての詳細というか……ぶっちゃけ……なにで出来ているのかなぁ? って思って……」
「それはもう、見たままですよ? カップにコーンシリアルをぶち込みまして、小さくちぎったパンをのせ、上から甘ったるいミルクティーをかけまして……こう、スプーンでグチャグチャと掻き混ぜたものです」
「なにか……フルーティーな匂いがしないかい……?」
「はい、デザートのイチゴも混ぜて、グチャグチャしましたので」
「ぅうわ……なにコレ? NASA? 宇宙食? それとも残飯?」
「お黙りなさい福ダヌキ!! これは未だかつてない新しい朝食のスタイルなのです!」
「どう見てもゲロじゃん」
「ゲロ言うな!!」
「とにかく、急がないと遅刻しちゃうよ? ゲの字は置いて、もう学校行こうよ」
「ゲの字……」
「……いや、まだリカさんが……」
 まだリカが降りてこない。
「あ、リカさん、起きた?」
「……見ての通りよ……」
「あ、リカちゃん! おはようっ!!」
「……………………」
 間が開く。
「……おはよう……」
「……あ、リカちゃん……?」
「ボサッとしていると遅刻するわよ? 急ぎなさい……」
「あ……うん……」
 曖昧な返事をする操。
「まったく……主人より遅く起きてくる眷属なんて、聞いたことがありません。宜しいのですか? 潤様……」
「うん……まぁ、今日の寝坊は、俺が原因みたいなものだからさ……」


 リカさん……大分打ち解けてきたと思ったんだけど……まだ素っ気ない気がするな……。
 まぁ、無理に打ち解けさせる必要も無いんだけど……。
 なんだかちょっと……寂しい気もするな……。


 同日。
 私立八坂学園。
 午前8時00分。

「ですから! 私のどこがいけないとおっしゃるんですっ!?」
「いやぁ〜、別にいけなかないよ? ただなんつーの? 最初はそれなりに貴族のお姫様風だったのに、最近はメッキ剥がれまくりな上に、専属メイドにまで弄られるヘタレッぷりが、なんとなくねぇ……なんか最近のリアンちゃん見ていると、コイツ本当にお姫様なのかよってね……」
「なんですってっ!?」
「なんだよぅ、怒るなよぅ、それだけ、好感が持てるって意味だろぅ?」
「私は別に! 貴方とお友達になるためにこの国に来た訳ではありませんっ!!」

「おはよう、潤」
「うん、おはよう……」
「……なんというか、相変わらずだな、キミの周りは……」
「助けてよ……」
「放っておいても、勝手に話が進むんだから、楽で良いじゃないか」
「……じゃあ変わってくれ」
「ほう? では僕に代わって、キミがウチの姉妹たちの世話をしてくれるのか? 要も真琴も雅も、口をそれえたように、たまには潤を連れて来いと言う。まぁ、環は相変わらず無口に我関せずを決め込んでいるようだがね、アレはアレで潤を気に入っているようだし……。末っ子の雅は、将来は潤と結婚するのが目標だそうだよ」
「はぁ!? だって雅ちゃん、まだ小学生だろ!?」
「とは言え、もう5年生だぞ? そろそろ異性に対しての理想を語り始める年齢じゃないか」
「そこで、なんで俺……?」
「ウチはほら、父親が滅多に家に帰らない家庭だからね、雅の身近な異性と言うと、僕か潤ってことになる。僕は雅の兄だからね、結婚はしてやれない。よかったらキミ、貰ってやってくれないかね?」
「犬や猫じゃないぞ? 簡単に言うな」
「実際……ウチは女が多すぎるんだよね……女だらけの世界で育ったものだから、男に対しての理想がやけに高くて、どいつもこいつも独身と来たもんだ……。ご近所からは函南家は後家屋敷だなどという、甚だ遺憾な風説さえ流れつつあるのだよ。そこまでくると、正直邪魔で仕方がない。もう、どれでも良いから、何人か引き取ってくれるとありがたいのだが?」
「いや、だからさ……そんな簡単には行かないだろう?」
「なぁに、女なんて、男よりもよっぽど早く環境に順応するもんだよ。みてごらん、あの二人を」

「結局のところ貴方だって! 所詮は潤様の男友達止まりじゃないですかっ!?」
「ただの男友達じゃないぞ!? 幼馴染だぞ!? 親同士の決めた、ポッと出の許婚より全然マシだねっ!! オマエもう諦めて国に帰れよ!」
「ぬぐぐ……」
「かーえーれ! あっそれ、かーえーれッ!!」
「……うぐぐ……おのれ……! ゼノッ!!」
 リアンがゼノを呼ぶ。
「……かーえーれ……あそれ、かーえーれ……」
「ゼノッ!? 貴女までっ!?」
「「それ、かーえーれ! かーえーれ!!」」
「うわぁぁぁぁぁぁぁん!! 潤さまぁ〜!! 犬と福ダヌキが私をいじめるぅ〜〜っ!!」
「……まだやってたのかよ……」

「どうだい?」
「どうだいって……なにが?」
「リアン君と操、ケンカしているようで、結局は仲がいいようじゃないか」
「……まぁ……それはホラ、相手は操だし……」
「知っているだろう? 操はあぁ見えて、意外と人見知りするし、自分に有害なオーラを出す人間には、決して懐かない。一方リアン君にしても、あの性格だ。決して友達は多い方だとは思えないが、それでもあぁして積極的な会話を楽しんでいるように見える」
「……楽しんでいる……のかな? なんだか単純に罵り合っているだけのようにも見えるんだけど……」
「あぁも歯に衣着せぬ会話をしているんだ、お互いに遠慮が無くなっている証拠だろう?」
「口ゲンカの内は構わないけどさ……なにかトラブルが起きても、俺には面倒をかけないで欲しい……」
「……ところで、一人足りないようだが?」
「リカさんか……彼女はその……トイレかな?」
「かな? とは?」
「学校に着いたら、何も言わずにス〜ッと居なくなったから……」
「そうか……」
「……まったく……なにか一言いってからにして欲しいな……」
「操のようにうるさいのは勘弁して欲しいが、何も言わないで勝手にされるのも気に入らないか?」
「別に……そうは言わないけどさ……」
「そうやって女を知っていくんだよ。どんどん学習して、家の姉妹と結婚してやってくれ」
「……勘弁してよ……」


 《SIDE月姫》
「アルクェイドのマンションはこのあたりのはずじゃな」
 アルトルージュたちは、アルクェイドのマンションに向かっていた。
 アルトルージュとさつきは、着ている服のせいか多くの目を引いた。
 それもその筈。
 メイドを連れて歩いていたからだ。
 それに白い大型犬も居たからなおさらだ。
「なんか私たち、注目を集めているんですけど?」
 中には携帯で写真を撮っている者も居た。
「姫様、不貞なやからを処断いたしましょうか?」
「我慢しろ! 今は昼だ! 妾も殺したい気分だ」
 アルトルージュは殺したいのを我慢している。
 人目に耐えてやっとのことでアルクェイドのマンションについた。
「やっとついた」
 さつきは、ヘトヘトだ。
「さてと、我が妹の力を少し回復させてやるか……」
 エレベーターでアルクェイドが借り切ったフロアに上がる。
 そして、アルクェイドが居る部屋のドアフォンを鳴らす。
 するとドアが開いてアルクェイドがでてくる。
「あっ、来たね。さっちん。それに姉さんも……」
「こんにちわ、アルクェイドさん。真祖の力の使い方を教えてもらいに来ました」
「確認するけど、其の娘、さっちんの?」
「はい。アルトールージュさんに従者の一人でも作れと言われて……」
「自立した死徒に見えるんだけど気のせい?」
「気のせいでは在りませんアルクェイド様。私は、さつき様によって自我を保った死徒としてよみがえりました」
「姉さん、確認するけど、さっちんの親って……!?」
「気づいて居るのじゃろうが『蛇』じゃ」
「どおりでね。『蛇』に似た気配がすると思った」
 ここでアルクェイドもさつきがロアの子だと確信した。
「奴の子ってわりに影響を受けていないようだけど……?」
「驚いているようじゃな。教えてやれさつき」
「はっはい。私、ロアさんに血を吸われたと同時に吸血鬼に成って、更には支配も脱したんです」
「それって、ロアの支配を受けずに独立した死徒として蘇った訳?」
 アルクェイドも驚くさつきのポテンシャルの高さ。
「はい。まったく受けていません」
「さつきには、妾の血を飲ませた」
「姉さん血を与えたの?」
「与えた。悪いか? オマエも与えたから同じであろう?」
「私も血を与えたし……」
「さつきに血を与えたら面白いことが起こった。解るか?」
「面白いこと?」
「妾と似た固有結界が使えるようになった。更に面白い固有結界もつかえる」
「面白いって、なになに!? おしえて」
「さつき、見せてやれ!」
 見せてやれと言うアルトルージュ。
「アルクェイドさん。なにか適当な物ありますか? 捨ててもいいような物……」
「コップで良ければ……」
 アルクェイドからコップを受け取る。
「行きますよ」
 さつきがコップに触れると黄金のコップにかわった。
「コップが黄金に……」
 アルクェイドは驚きと言うようり黄金のコップに興味があった。
「コレ、売ったらどのくらいになるのかな?」
 コップを売るつもりのようだ。
「これって、若しかして『ミダス』?」
「昔、どこかの王様が持っていた能力じゃ。その王は、力をコントロールできんかったらしいがな……」
「なんで、さっちんが使えるの?」
「私に言われても……」
 答えにこまるさつき。
「さつきが使えるのは、『ミダス』だけではない。彼の英雄王の力も使える」
「彼の英雄王?」
「ギルガメッシュじゃ」
「ギルガメッシュの力だけじゃない。妾と同等の契約の力と『仮初の仮初の赤い月』化、『赤黒い三日月クレセント・ムーン』が使える。後、さつきが元々持っている『枯渇庭園』もあったな」
「さっちん、もう、十分化け物クラスね。あっ、空想具現化も使えるしね」
 化け物と言われるさつき。
「化け物って……。私、化け物じゃありません」
「さっちん、そこらの死徒から見たら化け物になるわよ。空想具現化も使えるし、固有結界複数持ってるから……」
「さつきは、代行者をすべて退けておる」
「若しかしてシエルを?」
「しつこいから思いっきり痛めつけてあげました。初めて知ったんですど、シエル先輩って死なないんですね。腸を引きずり出して体中の骨を砕いても生き返るんで驚いちゃいました」
「アルクェイド、オマエの所にダイラス・リーンの者が襲ってこなかったか?」
「ダイラス・リーン? 良くわからないけど襲ってきたから魔眼を使って追い返して来たわ」
 アルクェイドの所にもダイラス・リーンが襲ってきていたようだ。
「さっちんは、どうしたの?」
「はじめ、力をセーブ出来ずに殺しちゃって、何度も付けねらわれちゃったんです」
「さっちんなら殺さずに逃げれたんじゃない?」
「ダイラス・リーンだけなら良かったんですけど代行者とかにも付けねらわれちゃったので……」
「ああははっ。さっちんって、不幸体質?」
「アルクェイドさんは、『叫喚の魔女』って知っていますか?」
「『叫喚の魔女』? 知っているけど、どうかしたの?」
「今、この日本に来ているんです。ブランドルとか言うところの使用人らしいですが……」
「ブランドル? ブランドルの後継者が居るの?」
「おる。荻島潤と言ったかの」
「ふ〜ん。まだ、存続してたんだ」
「ブランドルの後継者は、腑抜けもいい所だ」
 腑抜けと言うアルトルージュ。
「戦闘力は、さつきの足元にも及ばん」
 さつき以下と言い切る。
「ところで、さつきにブリュンスタッド城を具現化させようと思う」
「さっちんに?」
「ロアの一件が済んでからブリュンスタッド城の具現化をさせようと思っておる」
「確かにロアに気づかれると不味いわね」
「妾ほどではないがロアより強い紅い月の因子を持っておる。ブリュンスタッド城の具現化は可能じゃろう」
「さっちんって、空想具現化で鎖を出せるんでしょ?」
「はい。出しみましょうか?」
「いいや。いいよ。確認しただけだから……」
 そこで白い犬に気づく。
「貴女、その犬を連れてきていたの?」
「妾の側を離れぬので護衛として連れてきた」
 その時、チャイムが鳴る。
「誰だろう?」
 アルクェイドがドアを開ける。
 するとメイド服の少女……いや、ベルチェが居た。
「こんな所に居たのか? 探すのに苦労したぞ」
「『叫喚の魔女』、なんのようだ?」
「これは、真祖の姫に黒の姫も一緒か……それに例の娘まで、手間が省けて助かった」
 探す手間が省けたというベルチェ。
「ふ〜ん。あんたが『叫喚の魔女』?」
「なんだ、真祖の姫なのに私を知らんか……」
「私、殆ど城で眠っていたから」
「城というから、ブリュンスタッド城なんだろう?」
「うん。空想具現化で出した城でね。ロアが片付いたらさっちんに具現化させる予定なんだ」
「その娘はなんだ?」
「其の娘? さっちんの従者」
「馬鹿を言うな! サードが……しかも自我のある従者を作れるものか!」
 さつきが自我のある従者を作っていたことに驚く。
「さつきは、1000年に一人の逸材じゃ。そなたらで言うサードじゃが自我のある従者を作るなど造作も無い」
「確か赤い月がどうとか言っておったな?」
「言ったけどどうかした?」
「その娘は、関係あるのか?」
「さっちんは、私の孫なんだから関係あるに決まっているじゃない」
「さつきは、アルクェイド、妾についで赤い月の因子が濃い。赤い月の直接の子である宝石翁よりもな」
「宝石翁だと!? まさか、あの魔導元帥か?」
「やっぱり爺のこと知ってたんだ。じゃあ、さっちんが弟子だということは?」
「その小娘が、弟子だとでも言うのか?」
「さっちん、証拠見せてあげて」
「はい」
 そう言ってさつきはわざとコップを割った。
「コップを割ってどうするのだ! まさか、そのコップを修復するとでも言うのか?」
「その通りよ」
「笑わせる。本当に割ったコップを修復するとでも」
「ガラスの修復、魔術の入門よ」
「はぁ!? 魔術だと? 魔法が使える人間が大勢居るというのか?」
「いっぱい居るわよ。倫敦に……」
「倫敦か……。確か、倫敦に協会とか言う本部があると聞いていたが、まさか」
「そう。魔術協会」
「無駄口叩いておる内に終わったぞ」
「元通りに修復しました」
 さつきは、コップを元通りに修復した。
 ベルチェの不完全複写デットコピーとは違い完全に元通りに修復された。
「何故、エラーが出ん? 私はエラーが出るというのに……」
「ガラスの修復、魔術師の入門試験なんだって」
 ゼルレッチの指導を受けたさつきが言う。
「ほう。オマエは詳しいのか?」
「現在の科学とお金と時間を掛けても実現できないのが魔法で、出来るのが魔術なんだって」
 さつきは、説明を続ける。
「オマエは、使えるのか?」
「流石にゼルレッチさんのような魔法は使えません。ですが、魔術は使えます」
 そう言って手のひらに炎を出現させる。
「ちょうどいい。スルメを炙るとしよう」
 ベルチェは、スルメを炎で炙り始めた。
「気をつけた方が良いですよ!? 私の炎、超高密度の魔力の塊ですから……」
「おい! 火力ぐらい調節しろ! コレでは折角のスルメが消し炭になるだろうが……」 
「コレでもかなり抑えているんですよ?」
「抑えている? 私から見れば抑えられていないぞ!」
 抑えられていないと言うベルチェ。
「さっちんにそれを言うのは酷だよ。さっちん、私たちの次に魔力が強いから……」
「なら、私が鍛えてやろう。私以上の魔女になるかも知れんぞ?」
「結構です」
「そうか。受けるか……」
「なんで、そうなるんですか! 私は、受けません。既に予定が決まっています」
 既に予定が決まっていると言う。
「その予定を聞かせてもらおうか?」
「ロアさんを倒した後、ブリュンスタッド城の具現化とコレも言っていいのかな?」
「まだ言わぬほうがいいであろう」
 ある事は、言わないほうが良いというアルトルージュ。
 ある事とは、魔術師たちが命を賭けて戦う戦争のことだ。
「まぁ、いい。今は、そっちも忙しいのだろう?」
「若しかして、そっちも?」
「誰か分からんが、潤を狙っている。お前たちも狙われんように気を付けるんだな」
「私たちにチョッカイかけるようなバカはそうは居ないわよ」
「妾に喧嘩を売っていうのは白翼ぐらいだ。後、ヴァン・フェムもだな……」
「ヴァン・フェムだと! 財界の魔王ではないか」
 ベルチェは、財界の魔王も知っていた。
「奴は、吸血鬼でありながら人間側にも身を置いているからな。財力はブランドル家よりはるかに上だ! 其の上、いろいろ投資しているらしい……。ダイラス・リーンにも」
「奴は妾達を嫌っているからな。フィナに『マトリ』を落とされたの根に持っているから」
「ほぅ。奴とは戦争中か……。城を開けっ放しにして大丈夫なのか?」
「心配はいらぬ。フィナとリィゾを残して来ている。あの二人は、そうそう負けはせぬ」
「死徒の姫がすべてを負かせるぐらいだから余程の実力者なのだろう」
「6位と8位だ」
「お前より位が上ではないか。それがお前に膝を折ったと?」
「今は、生憎さつきに相応しい席がないのでな……出来れば妾達と連番にしたいと思っておる」
 アルトルージュは、アインナッシュの席をさつきに与えようと考えているようだ。
「姉さん、さっちんをアインナッシュの後釜に据える気?」
「どこかのバカが、先代アインナッシュの始末を忘れた為に空席が無いのだろうが」
「バカって誰!?」
「お前のことを言っておるのだ。アルクェイド!」
「若しかして私のせいだと言うの?」
「そう言っておろう」
「いいことを聞いた。そのアインナッシュとか言う奴の席を潤に寄越せ! そこの小娘はネロ・カオスの席に就かせればいいだろう?」
「それは、出来ん」
「潤は、生来の半真祖……その小娘は元人間のサード! 潤の方が上に来るのは当然だろうが」
 潤至上主義のベルチェ。
「誰が何と言おうと7位には潤を就かせる」
「ほぅ。妾達と喧嘩をするか?」
 一触即発のアルトルージュとベルチェ。
「私のマンションで喧嘩はやめてよね」
「それ以前に、祖と呼ばれるだけの強さが無ければつけぬぞ!? 潤とやらは相応しい強さを持っておるか?」
「まだ、雛に毛が生えった程度だ」
「それでは、二十七祖に迎えることは出来んな」
 潤を二十七祖に迎えることは出来んというアルトルージュ。
「どうしてだ!? 潤の方がその小娘より余程相応しい」
「では潤とやらは、さつきに勝てるのか? 何度も助けられた分際で……」
「くっ……」
 反論が出来んようだ。
「あんた。ブリュンスタッドにケンカ売ってタダで済むと思っているの?」
「タダで済むとは思っておらんさ。だが、総数では我らの方が上だ」
「矛を収めるのなら今が最後の機会だぞ! 一度開戦すれば謝っても許さぬ」
 開戦後は泣いても許さんという。
「それにさっちん、爺のお気に入りみたいだし……。貴女、爺と喧嘩して勝てる?」
「流石に私が魔女でも魔導元帥が相手では勝てん」
 流石のベルチェもゼルレッチと喧嘩する気はないようだ。
「さつきは、ブリュンスタッドの一員……それに、貴女はアインナッシュを倒せる?」
「私にアインナッシュの実をくれると言うのか?」
「ダメです! アインナッシュの実はアルクェイドさんの物です」
「私に楯突くか、叩き伏せてやる」
「その言葉、そのまま返してあげるんだから……」
 さつきとベルチェの戦いが始まろうとする。
「戦うのは、いいけど、建物を壊さないでね」
「おい、小娘表に出ろ!! その体に誰が上か教え込んでやる」
 マンションの屋上に出ていく。
「覚悟はいいか!? 小娘! ブランドル家一級メイドの恐ろしさ、教えてやる」
 ベルチェから魔力が溢れる。
「返り討ちにしてやるんだから……」
 さつきからも魔力が溢れる。
「やはり、魔力は私より多いな……魔力が多いだけでは私には勝てんぞ」
 そう言いつつ結界が張られた屋上で戦闘を始める。
「どうした!? そんな程度では私には触れることは出来んぞ」
 そう言ってさつきの腹にパンチを叩き込む。
 ベルチェの拳がさつきの腹にめり込む。
「うっ」 
 朝食べたものが胃から逆流してくる。
「潤に忠誠を誓うといえ! 言わんのなら言うまで痛め続けるぞ!?」
 そう言ってさつきの顔と腹を容赦なく殴り続ける。
 途中で髪を掴んでさつきの腹に膝蹴りを入れる。
 強烈な蹴りにさつきは食べたものと血を吐く。
「どうした。反撃してみろ!!」
 一方的なベルチェの攻撃に耐えるだけのさつき。
「ふんっ。それでもブリュンスタッドの吸血鬼か? 潤に忠誠を誓う気になったか?」
 さつきは、腹部を押さえ苦しんでいる。
 ベルチェの膝蹴りが効いているようだ。
「おいっ。聞いているのか?」
「くっ、苦しいよう」
 さつきの口の端には血が筋を引いている。
 内出血による物のようだ。
「おいっ小娘! さっさと潤に忠誠を誓うといったほうが身の駄目だぞ!? 早く言わんともっと苦しい思いをするぞ」
 そう言って、さつきの襟首を掴んで持ち上げさつきの腹に容赦のないパンチを何度も叩き込む。
「がはっ」
 容赦のない攻撃にさつきは大量の血を吐く。
「ここらでボディーチェックでもするか……」
 そう言ってさっつきの胸を服の上から揉む。
「ふむ。服の上から揉んだだけで感じるか……。大きさは、ダイラスの小娘とリアンよりは小さいな……」
 ベルチェは、さつきの懐の中に手を居れ今度は生を揉んで確かめる。
「揉み応えは少ないが柔らかいと」
 ベルチェに胸を揉まれるたびに感じるさつき。
「さて、ボディーチェックはここまで……。おい! 小娘、潤に忠誠を誓う気になったか?」
「ち、誓わない……」
「聞こえないぞ! もっと大きな声で言え!!」
「誓わない!!」
 痛む腹部を圧して言う。
「誓わんと言ったのだな……なら、もっと痛めつけてやろう」
 仰向けに横たわるさつきを見下すベルチェ。
「所詮サードは、セカンドにはどうやっても勝てんということが解っただろう?」
 そのとき、さつきの中で何かが少しずつ目覚め始める。




 《さつきの精神世界》
「そんな奴に何を手こずっておる!?」
「貴方は誰?」
「我は『ブリュンスタッド』……」
「若しかして、ゼルレッチさんに倒されたと言う……」
「そうか、お前あやつの関係者か……」
「ゼルレッチさんは、私の魔術の師匠せんせいです」
「ならば、その者の技を使えばよかろう?」
 ゼルレッチの技を使えと言う紅い月。
「使えればいいんですけど……」
「使えぬのなら仕方ない。我が力の使い方を教えてやる。その身体で力の使い方を覚えるがよい」


 《現実世界》
「もう一度言う。潤に忠誠を誓うと言え!!」
「誓わない!」
「もう良い。子を産めんように徹底的に腹を潰す」
 ベルチェがさつきの腹を踏み潰そうとした瞬間……。
 さつきの目が赤から黄金にかわる。
 危険を感じてさつきから間を取るベルチェ。
 さつきからありえない程の魔力が溢れだした。
 強大な魔力によって、顔の痣が消える。
 服で見えないが腹部の痣も消える。
 内臓の損傷も治っていく。
 起き上がったさつきがベルチェに手をかざす。
 ドンっと手のひらから魔力の衝撃波を放つ。
 衝撃波でベルチェが吹っ飛ぶ。

「衝撃波だけでここまでとばすだと」
 間合いを詰めようとした瞬間……。
 ジャラ
 ベルチェは、鎖に絡めとられ自由を奪われた。
「くっ……引きちぎれんか……」
「どうしたの? 鎖を引きちぎって逃げないの?」
「逃げれるのなら逃げているわ」
「そう……逃げないんだ」
 さつきは、ベルチェのほうに少しずつ近寄る。
 さつきが歩いた後は高密度の魔力によって床が熔け煙が上がっている。
「貴女には、私が味わった以上の苦痛を与えて、あ・げ・る♪」
 ベルチェは、悪寒を感じたと同時に顔にパンチを食らった。
 首が飛ぶぐらいの威力があったのか骨が変な音を出した。
 次は左拳でベルチェの腹を殴った。
「がはっ」 
 左拳はベルチェの腹に深々とめり込んでいる。
 さつきは、ベルチェの腹に左拳をめり込ませた状態を維持する。
「どう? 苦しいでしょう? 私はこれよりもっと苦しかったんだよ」
 ベルチェの腹筋がさつきの拳を押し返そうと脈打っている。
「その程度の抵抗じゃ、私の拳は押し返せないよ」
 その状態からさつきはベルチェの腹に拳を押し入れる。
 ベルチェの腹筋の抵抗を物ともせず拳が深々と沈む。
「おえっ」
 ベルチェは、朝食べたものを吐く。
 強引に内臓を移動させられ胃を圧迫されたため嘔吐した。
 ベルチェの腹がピクピク疲弊しているのがわかる。
「結構抵抗しているね。抵抗できなくなるまで遊んであげる」
 さつきは、ベルチェの腹を殴って遊ぶ。
 さつきに遊ばれるベルチェは、たまったものではない。
 気持ち悪い時間が続くからだ。
 さつきの中から声がする。
「(いつまで遊んでおる。さっさと片付けよ)」
 紅い月の声に従い遊ぶのを止める。
「遊ぶの飽きたから、そろそろ本気の攻撃するから……」
 そのセリフはベルチェを地獄に突き落とすのに十分だった。
 目に見えないスピードでベルチェの腹にさつきのパンチが突き入れられた。
 ベルチェは、全てのエネルギーを腹部で受け止めることになった。
 休むことなくベルチェの腹に左右の拳がめり込む。
 一発ごとに埋没が深くなる。
 復元が始まる前に次のパンチがくるためダメージが溜まる一方だ。
 一発一発に桁外れの重さがある。
 空想具現化で出した鎖で縛られているため倒れることも許されない。
 ベルチェの足元には血だまりが出来ている。
 さつきに腹を殴られるたびに吐いて出来たもののようだ。
 突き上げられるようなパンチを腹に受ける度に血を吐く。
 メイド服は血で真っ赤に汚れている。
「……ぅ……」
 ベルチェは、激しい苦痛に顔を歪めている。
「貴女のお腹、グチャグチャにしちゃったし、殴り応えなくなったから次が最後にするよ。目いっぱい力を入れるから胴体がサヨナラにならないでね」
 そう言うと身体を屈め足と拳に力を集中する。
 足の力を爆発させベルチェの腹に最高威力のパンチを叩き込んだ。
 ズン
 さつきの凶悪パンチはベルチェの腹を捉えた。
 今までで最凶のパンチはベルチェの腹にさつきの肘までめり込み、背中には拳の形が浮き出ていた。
「お゛え゛っ」
 今まで以上に大量の血をベルチェは吐いた。
 何故か、血の中に肉片まで混ざっていた。
 ベルチェの内臓は原型を留めないまで破壊されているようだ。
 さつきのパンチの威力で口から押し出されたのだ。
 ベルチェの身体は全身が痙攣していた。
 ベルチェの襟首を掴むと鎖を消した。

 止めに地面に叩き付けた。
 地面にベルチェの身体がめり込んでいる。
「まだやる?」
 さつきの右足はベルチェの腹部に乗せてあった。
「次が最後だから死なないでね」
 そう言って、全体重を乗せてベルチェの腹を右足で踏み潰した。
「がはっ!!」
 腹を踏み潰されたベルチェは盛大に血と肉片を吐いて動かなくなった。
「勝負あったわね」
「まったく手を賭けさせるでない」
 意識を失ったベルチェを担いで部屋の中に入った。
 意識を失ったベルチェが気がついたのは30分後だった。


「ったく、手加減なしで腹を殴りやがって……このどす黒い痣を見ろ!!」
 ベルチェは血で真っ赤に染まったメイド服を捲って腹を見せる。
「うわ。真っ黒だ」
 アルクェイドは、ベルチェの腹に触れる。
「……………………」
 ベルチェは、この世のものと思えない悲鳴を上げる。
「ごめん。痛い?」
「痛いに決まっているだろう。何処かの馬鹿が肉片を吐くまで容赦なく殴ったからだろうが……おまけに肋骨が何本も折れて肺に突き刺さっているぞ」
 ベルチェは、苦しそうだ。
 そう良いながら自分で自分の腹を触って状態を調べる。
 自分で触れただけで苦痛に顔が歪む。
 ベルチェの身体から脂汗が出ている。
 それが、尋常ではない苦痛を物語っていた。
「貴女、顔色悪いけど大丈夫?」
 ベルチェの顔色は明らかに悪い。
「大丈夫ではない。そこの小娘が内臓を目茶目茶に破壊したせいだろうが」
 怒って腹部の激痛に崩れる。
「コレは腹を割いて一刻も早く臓器を作り変えんと駄目かもな……」
 臓器を作り変えるというベルチェ。
「風呂場を借りていいか? それからスポーツドリンクを相当量買ってきてくれ!」
「買ってくるけどなにに使うの?」
「生食代わりにするのさ」
 生食代わりに使うと言うベルチェ。
 アルトルージュとさつきの従者がスポーツドリンクを買ってくる。
 買ってきたスポーツドリンクを浴槽にはり沸かす。
 沸いてきたところでベルチェは、服を不意で裸になる。
 腹部は黒く変色し痣が出来ていた。
 さつきの凶悪なパワーを物語っていた。
 ベルチェは、スポーツドリンクが満たされた湯船に漬かると自らの爪で自らの腹を割いた。
 腹を割くと血の混じった肉片が出てきた。
 臓器というよりミンチだった。
 湯船のスポーツドリンクは、あっという間に真っ赤に染まる。
 内臓破裂により可也の出血があったようだ。
「まさ、私が自分の腹を割いて煮るはめになるとはな……」
 さつきを挑発して大ダメージを受けたことを悔いる。
「自分で自分の腸を弄くるのも気持ち悪いな」
 自分で自分の胃を握って胃に溜まった血を押し出す。
「がはっ」
 自分で握った胃から胃に溜まった血を吐く。
「自分で自分の腹を割いたはいいが、コレは時間が掛かりそうだ……あの小娘、容赦なく殴ってくれたな。内臓が完全にミンチだ! どの臓器の破片か解らんでないか」
 笑っているのか解らないベルチェ。
「コレじゃあ、治すの大変だ!」
 ベルチェの臓器は殆ど原型を留めていない。
 さつきの凶悪なパンチでグチャグチャにされてた。
 さつきに何度も腹を殴られたため、原型を留めないくらいまで破壊された上に腹を殴られたため各臓器がミンチになり掻き混ぜられていた。
 どれが元の場所にあったか解らない状態だ。
「はっはっはっはっ……! ……ごふっ」
 また、血を吐く。
「早く治さないと流石に拙いな……。内臓破裂による失血が思ったより多い……」
 内臓破裂による出血が予想より多いようだ。
 自らの血と内臓が混ざり合った匂いを嗅ぎながら自らの臓器を作り直していく。
 治しかけの臓器からは血が滲みで続けている。
 スポーツドリンクは、既に真っ赤になっている。
 ベルチェの出血量の多さを物語っている。
 少しずつ破壊されミンチになった臓器が復元されていく。
 失った血を取り戻そうとスポーツドリンクからも回収する。
「私が、潤と同じ気持ち悪さを味わうとは」
 ベルチェは潤と同じ気持ち悪さと戦っていた。
 修復される臓器によって脂汗をかきつづける。
 体内の水分は脂汗によって失われていく。
 数時間、気持ち悪さと戦いベルチェは自分で臓器を修復させた。
 治療のためにベルチェは、殆ど魔力を使い果たしていた。
 臓器を作り変え腹を塞ぎシャワーを浴びたベルチェは、ソファで死んでいた。

「貴女、話があるんでしょ? 起きなさい!」
「少しやすませてくれ! こっちは治療に魔力を殆ど使ってヘトヘトなんだ」
 ベルチェは、そう言って眠った。
 さつきから受けた巨大すぎるダメージと魔力を回復させる為に……。
 そしてさつきはと言うと……。
「さっちん、その女が起きるまでお茶でもしていようか?」
「はいっ」
 さつきは、アルクェイド達とお茶を楽しんでいた。
 目を覚まさないのを良いことにお返しとばかりにベルチェの胸を揉み返していた。
 眠っているベルチェが胸を揉まれてエロイ声を出していたりした。


 あとがき

 今回はベルチェとさっちんの壮絶な肉弾戦をお送りしました。
 話し合いのつもりが何故か肉弾戦に……。
 ベルチェの強さが良く分からないから難しかった。
 さっちんの中の紅い月とさっちん対面。
 某漫画の某シーンが含まれているの分かったかな?
 さっちん、今後も強くなっていきます。
 どこまでさっちんを強くしようかな。
 次回は、ムーンタイズ(ドラクリウス)サイドがメインになる予定。
 早めにロア戦後のプロトを組まないと……。
 アインナッシュを何処に出そうか?
 シナリオ時間の年明け後に聖杯戦争編を入れたい。
 聖杯戦争編は、やはり潤サイドの事件解決後だな。



さつきの強さよりもベルチェの治療の方が印象に残ってしまった。
美姫 「まさか、自分で腹を割いて治すなんてね」
とりあえず、今回は事件に動きはなかったみたいだな。
美姫 「そうね。次回で動くかどうかね」
それでは、この辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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