設定は、とらはの方はAllエンドで恭也は誰とも付き合っていません。
With Youの方は、乃絵美は拓也に振られています。

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とらいあんぐるハート3×With You(伊藤 乃絵美)

ずっと二人で・・・

第一章 新しい位置 後編
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8月31日早朝 氷川神社の境内。
早朝といっても、まだ、誰も起きていない時間。

境内には小太刀を両手に持ち、鍛錬に励む青年がいた。

「む・・・・・・・。この気配は・・・・」

「そこにいるのは、恭也くん?」

(しまった。朝早いから、誰も来ないだろうと思っていた)

そこには、巫女の姿をした菜織が立っていた。

「おはよう。菜織さん」

「おはよう」

「朝早いですね。これから、境内の掃除ですか?」

「そうだよ。恭也くんこそ、朝早いじゃない。正樹はまだ寝ているわね。さっき、手にしていたのは、真剣?」

「む・・・・・・・。ばれてるのか?」

「うん。ばっちりとね。銃刀法違反って事は・・・・」

「ああ、それはないから。ちゃんと、許可書もあるし」

許可書を取り出した。
アルバートさんのサインが入っていたけど、読めないだろうから、いいか。

「聞いてもいい?」

「駄目って言っても、無理なので・・・」

「剣道をやっているわけではないのよね?」

「ええ、違いますよ。俺がやっているのは、剣術です」

「ふーーん。乃絵美は知っているの?」

「乃絵美は知らない。両親が知っているだけで、正樹も知らないはずだが」

「昨日の夜もここでしてたの?」

「ああ、そうだが・・・・。許可を取らないと駄目か?」

「それは取らなくてもいいよ。滅多に人が来ないから」

「ありがとう。それとこのことは、誰にも言わないでくれ」

「うん。わかった。掃除するけど、まだ、続ける?」

「いや、そろそろ帰るつもりだったから」

「じゃあ、また。お店のほうに行くから」

「はい。わかりました。でわ」


店に帰ると、忠志と貴美恵が朝の仕込みをしていた。

「おはようございます。忠志さん、貴美恵さん」

「おはよう。恭也くん」

「ああ。おはよう」

「仕込みですか?」

「ええ、そうよ。そういう恭也くんは朝の鍛錬?」

「はい。そうです。毎日やっているので、やらないと返って調子が悪くなったりするんです」

「うちの正樹も見習って欲しいものだ。いつもギリギリまで寝ている」

「恭也くん、今日から店に出てくれるの?」

「ええ、そのつもりですよ。午前中は、エルシア学園のほうに顔を見せに行かないといけないですけど」

「恭也くん。場所はわかるかしら?」

「いえ、わかりません」

「乃絵美に案内させるわね」

「さすがに乃絵美に頼りっぱなしとなると気が引けますよ」

「いいのよ、気にしなくても。それに、今は恭也くんといることのほうが大事だし。ねぇ、あなた?」

「ああ。そうだな。私からもお願いするよ。恭也くん、できる限りでいいから、乃絵美と一緒に居てやってくれないか?」

「ちょっと聞いてもいいですか?」

「ええ、いいわよ。答えられる範囲で答えてあげるわよ」

「乃絵美に何かありました?」

「あったわ。二ヶ月ほど前に二回ほど倒れてしまっているの。原因は乃絵美自身の中にあるって言っていたわ」

「む・・・・・・・・・」

「一回目はよく知らないけど、二回目の倒れたときに私がずっと看病していたの。結論から言うと、乃絵美の心はこれ以上、
傷ついてしまうと元に戻らなくなるわ」

「・・・・・・・・」

恭也は絶句してしまった。
乃絵美の心がそこまで傷ついていたことを見抜けなかったこと、恭也の顔は悲しみの色に染まっていた。

「今はなんとか、平常を保っているけど・・・・・」

「わかりました。できるだけ、乃絵美と一緒にいます」

「護衛じゃないから。その辺は融通を効かせてね」

「む・・・・・・・・。シャワーを浴びてきます」

「はい。引き止めて悪かったね」


恭也はシャワーを浴びながら、乃絵美の事を考えていた。
乃絵美に何があったのだろうか。そして、なぜ、そこまで傷つかなければならなかったのか。
乃絵美は人から恨まれるような性格じゃない。

考えてはみたものの答えは出なかった。


「おはようございます。恭也さん」

「おはよう。乃絵美」

「恭也さん、早いですね。お兄ちゃんはまだ寝てるのに・・・・」

「正樹はまだ、寝ているのか。明日から学校なのに。叩き起こしてくるか」

「恭也さん、起こさなくてもいいです。明日から苦労するのはお兄ちゃんだし」

「それでは、菜織さんに迷惑がかかるのでは・・・・」

「・・・・・・」

乃絵美は少し曇った顔つきでこちらを見ていた。
そんな様子の乃絵美に恭也は少し遠慮気味に声をかけてみる。

「乃絵美?」

「ん?何かな?恭也さん」

「いや。別に何もない。少し、話は変わるが、午前中にエルシア学園に行かなければならないのだが、案内を頼んでも
いいか?」

「うん。いいよ」

「ありがとう。9時ごろに出ようと思うのだが、乃絵美のほうは大丈夫か?」

「大丈夫だよ。恭也さん」

乃絵美の少し曇った顔がパアとうれしそうな笑顔に変化した。
その変化に恭也は思わず、見とれてしまう。

(本当にうれしそうな笑顔だなぁ。人を傷つけることしか出来ない剣術をしている俺でもこんなふうに人を喜ばせることが出来るのだな)

恭也は心の中でそう思った。




同日9時20分前。
ロムレットの一角、そこには一人の老人(?)が熱めのお茶の入った湯飲みを片手に座っていた。
言わずと知れた高町恭也その人だ。

「平和だ・・・・」

ズズズ・・・とお茶を飲んでいる。

「恭也くん。駄目だよ。若い人がそんなに枯れてるのは・・・」

「む・・・・・。やはり、言われたか」

「やはりということは、自覚があるのね」

「うちの家族や友人達によく言われてましたから・・・」

「まぁ、それはいいわ。もうすぐ、乃絵美も降りてくるから。もう少し、待っててね」

「はい」

「恭也くん、すこし、聞きたいのだけど、いいかな?」

「答えられる範囲でいいなら聞いてください」

「恭也くんはコーヒーや紅茶を作れるの?」

「ええ。母から仕込まれましたし」

「じゃあ、腕前を知っておきたいから、紅茶を作ってくれるかしら?」

「はい。わかりました」

というと、恭也は何かを探し始める。

「貴美恵さん、エプロンはどこですか?」

「そのままでいいわよ」

「はい。わかりました」

恭也は作業に入っていく。

葉はセカンドフラッシュを選択。
ティーカップにお湯を半分ほど入れて少し暖めておく。
ティーカップのお湯を捨てて、ティーカップが少し暖かいことを確認する。
炒るのを短めにして、葉を焦がさず、うっすらと火が通らせてから、80度のお湯に浸す。
30秒後にお茶を入れる。

「紅茶、入りました」

「早いわね。さすがは、桃子さん直伝というところかしら。味のほうは・・・・」

貴美恵は恭也の入れた紅茶を飲んでみた。

「!!!!!!!!!!!!!」

「貴美恵さん?」

「恭也くん・・・。こんなに優しい感じの紅茶を飲んだのは初めてよ。あなた。ちょっと、来てくれない?」

忠志が厨房の奥から出てくる。

「貴美恵、なんだい?」

「この紅茶を飲んでみてくれないかしら?」

「ああ。わかった」

忠志は恭也の入れた紅茶を飲んでみる。
動きが固まってしまった。

「・・・・・・・・」

「忠志さん?」

そこに乃絵美が準備を終えて、戻ってきた。

「恭也さん、お待たせしました。って、お父さん?」

「乃絵美もこの紅茶を飲んでみなさい」

「うん。わかった」

貴美恵に言われたとおり、紅茶を飲んでみる。

「この紅茶は、恭也さんが入れたもの?」

「ああ。そうだ。乃絵美、よく見抜けたな」

なのはにやるように頭をなでてやる。

「恭也さん、くすぐったいよ。見抜けた理由はこんなに優しい紅茶を作れる人は恭也さん以外に居ないからだよ」

「ありがとう。乃絵美」

「うん。じゃあ、お母さん、行ってくるね。恭也さん、行こう」

「貴美恵さん、行ってきますね」

「はい。いってらっしゃい」


恭也と乃絵美は並んでエルシア学院への道をゆっくりしたペースで歩いていった。
乃絵美は恭也にわかりやすく道を教えながら、そして、この街の案内もかねているのである。

そしてエルシア学園に着いた。

「きれいな学校だな・・・・」

「そうだよ」

「いきなり、学園長のところに行くのもあれだから・・・・・」

(ティオレさんと知り合いだったよな・・・。直接行かないと怒られるだろうな・・・)

「職員室に行ってからだね。恭也さん」

「ああ。そうだな」

「みちる先生がいると思うから」

「案内を頼む。乃絵美」

「わかったよ」

恭也と乃絵美は学校の中に入っていく。
しばらく、歩いていると後ろに気配を感じた。

(む・・・・・・・。後ろに妙な気配がたくさん・・・・)

「恭也さん。どうかしたの?」

「いや・・・・。何でもない」

(害はないみたいだし、気にせずともいいか)


職員室に着いた。

「「失礼します」」

「はい。伊藤さん、おはようございます」

「おはようございます。転校生の高町恭也さんを案内してきました」

「高町恭也です。今学期一杯ですが、よろしくお願いします」

「あなたが高町恭也君ね。よろしくね。それじゃあ、学園長室に行ってください」

「はい。場所はどこですか?」

「口で言うよりも案内したほうが早いですね」

「ええ。乃絵美、頼む」

「はい。わかりました」

「でわ。失礼しました」

二人が去った後に女性職員が騒ぎ出したのは言うまでもない。
男性職員はと言うと、恭也を敵視することを心に刻み込んだという。
嘘か真かは定かではない。

学園長室の前に立つ。
いつもの癖で中の気配を探ってしまう。
中には3つの気配があった。一つはこの学園長のものだろう。残りの二つはここにあってはならない人のものだった。
思わず、めまいが起こってしまった。

間違いなく、ティオレさんとイリアさんのものだったのだ。
そして、これから起こるであろう事についても考えた。
さらに、頭痛も追加されたのである。

「恭也さん?」

「・・・・・・・」

「きょ・う・や・さ・ん?」

「む・・・・。乃絵美、何かあったのか?」

「それは、こっちのセリフだよ?どうかしたの?」

「いや。何もないけど・・・。乃絵美は一緒に入るのか?」

「う〜〜ん。どうしようかな。入っていいなら、入りたいな」

「じゃあ、とりあえず、入るか」

「うん」

コンコン

「はい、どうぞ」

「失礼します。今学期、こちらの学園にお世話になります高町恭也です」

「ようこそ。聖エルシア学園へ。学園長の村上です。ティオレの言うとおりの青年ね」

村上学園長がティオレさんのほうを見ながら言うと、ティオレさんはうなづく。

「恭也。お久しぶりね」

「ええ。そうですね。ところで、どうしてティオレさんがここに来ているのでしょうか?」

「それはね、恭也に会いに来たのよ」

「む・・・・・・・・。イリアさんも大変ですね」

「そうなんですよ。助けてください。恭也くん」

ニコニコしながら、こちらを見ている村上学園長・ティオレさんと疲れきった顔のイリアさんが後ろにいる乃絵美に気づく。

「あらあら、かわいらしいお嬢さんね」

「確か、ロムレットの伊藤さんのところの乃絵美さんでしたよね?」

「あっ、はい。そうです」

世界的に有名なティオレ・クリステラを前にして乃絵美は緊張気味にうなづく。

「恭也。そちらのかわいらしいお嬢さんを紹介してほしいのだけど・・・・」

「はい。こちらは、昨日からお世話になっているロムレットの伊藤乃絵美さんです」

「乃絵美さんと呼んでもいいかしら?」

「はい。よろしくお願いします」

「私はティオレ・クリステラよ。恭也とは、家族ぐるみの付き合いなのよ。今では、恭也のおばあちゃんのようなものだけどね」

「私はなんて呼べばいいのでしょうか?恭也さん」

「ティオレさんでいいと思う。ティオレさんもそれでいいですよね?」

「ええ。いいわよ」

乃絵美の緊張も解けて、ティオレさんと談笑している。
恭也の方はというと、学園長としゃべりながら、書類を書いていた。

「乃絵美さん。一つ、聞いていいかしら?」

「はい。なんでしょう?」

「乃絵美さんは恭也のことが好きなの?」

「はい。そうです。私は恭也さんの事が好きです」

「やっぱりね。乃絵美さんに一つ、言っておかないとね。恭也ってね、人の好意に気がつかないのよ」

「はい」

「地元の鳴海には、恭也のファンクラブがあるのよ。でも、気づいていないのよ」

「・・・・・・・・」

「乃絵美さん?」

「はい?何でしょうか。ティオレさん」

「ちょっと、顔が曇ったのは私の気のせいかしら?」

恭也が学園長との話を終えてこちらに来ていた。

「ティオレさん。あまり、乃絵美をいじめてもらっては困ります」

「あらあら。恭也、私はあなたのことを話していただけよ」

「ティオレさん、何を話したのですか?」

「ん〜。秘密よ。ひ・み・つ」

「乃絵美。何を聞いたかは知らないけど、あまり、気にしないようにな」

「うん。わかったよ。恭也さん」

「俺達はこのあたりで失礼させてもらいます。村上学園長、明日からよろしくお願いします」

「はい。お疲れ様でした」

「恭也。またね」

「ティオレさん。お元気そうで何よりでした。それとイリアさんにあまり迷惑をかけてはダメです」

「恭也くん。ありがとうございます。それと、がんばってくださいね」

「でわ。失礼しました」



学園からの帰り道。

乃絵美から普段の学校の様子を聞きながら、恭也は考えていた。

(乃絵美は嫌な顔一つせずに付いて来てくれる。乃絵美の両親にも言われたことだが、「できる限り一緒にいてやってくれ」と
いう言葉に甘えていたかもしれない。乃絵美が困っていたら、もちろん助ける。だが、それとこれとは別の話である)

恭也の心の葛藤は言葉に表れる。

「乃絵美・・・。迷惑かけてるな・・・・俺」

恭也からの言葉に乃絵美は首を横に振る。

「かけていないよ」

「こっちに来てから二日間、ずっと、俺に付いて来ているから。自分のやりたいことができないじゃないかなとおもってな」

「私のやりたいこと?」

「ああ。そうだ。乃絵美のやりたいこと」

「私のやりたいことは・・・・・」

乃絵美は、ずっと、考えていた。
初めて、恭也を見たときから、ずっと考えてきた事。
拓也と付き合いながら、心の奥底では、別の人のことを考えていた事。

「やりたいことは、恭也さんの隣に居たい・・・・。他の誰でもない恭也さんの隣に」

乃絵美の告白めいた言葉に恭也は言葉を失ってしまった。

だが、恭也の心の奥底では、『嬉しい』という感情があるということを恭也自身は気づいていない。

「ああ。わかった。俺の隣は乃絵美の指定席だ」

「ありがとうございます。恭也さん」

「さぁ、帰ろう。昼から、お店に出る予定だったから」

恭也さんが踵を返す。

「うん」

うなずいて、私も恭也さんの横に並んで歩く。
私の新しい位置。
いまは、まだ、誰かの代わりでしかないかもしれないけど・・・それでもいい。
この場所にいられる、ということが、とても嬉しかった。

この日から、わたしはよく恭也さんと並んで歩くようになった。


第ニ章 「かわっていく、想い 第一話」に続きます。



あとがき

ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。
やっと書きあがりました。
小鈴「・・・・・・・・・・・・」
小鈴ちゃん?
どうしたの?

ぶべらっ

小鈴「この大ばかものぉぉぉ!!!!!!!!」
いたひ。
小鈴「書くのが遅い!!!!!!!!!!」

ぶべらっ

小鈴「一応、理由を聞かせてもらいましょうか」
ただ単に仕事が忙しかっただけ。
小鈴「まぁいいわ。今後はこういうことは無しにしてもらいましょうか」
はい。できるだけ、努力します。

小鈴「感想は掲示板のほうによろしくね」
よろしくね



今回は乃絵美の現時点での心境がちょっと見れたかな?
美姫 「今後、この二人がどうなっていくのか楽しみね」
うんうん。次回が待ち遠しいよ。
美姫 「次回も楽しみに待っていますね〜」
待っています。



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