魔法少女リリカルなのはA's――side『KYOUYA』





第2話 『激突』




















常宵の空間の中、黒と赤が対峙する。
「そいつの兄だかなんだかしらねーけどよ」
握る鉄槌――<グラーフアイゼン>を構え
「邪魔すんじゃねぇー!」
怒号と共に地をいや空を蹴った。


場所は先のビルから出たすぐの空中。
赤の――ヴィータの駆るグラーフアイゼンが迫り上段から叩きつけられる。
それに呼応する様に恭也の持つ白と黒のデバイスから小太刀ほどの長さの
光刃が形成され振り下ろされる一撃を流すように凪ぎ、払う。
間髪入れずにもう片方の光刃で剛健な一撃をたたき込む。
ヴィータもその小柄な体躯を活かし僅かにそらされた体勢をスピードで補い
ダンスのステップのような旋回運動で躱す。そして遠心力を乗せたグラーフアイゼンを
振り回すようにして

「ああああぁぁぁああっ!」

側面からおもいっきたたき込んだ。

が、恭也はこれも流し、払いそして逆手に握った剣を疾く走らせる。
無防備になったヴィータの体を斜めになぞる軌道で走っていた剣閃を
ヴィータもすぐさま体勢を立て直しグラーフアイゼンの柄で受けとめる。
僅かに顔をしかめたが再びその鉄槌を握り締め、突貫していく。







再び殺劇の幕があがった。今度は舞い手をかえての第二幕。黒と赤との閃光が新たな観客
を魅了した。








――なんて、きれい。
見た瞬間、そう感じた。
裁判が終わり、結果を伝えようとしたら連絡がとれず何事かと思って
調べてみれば結界が張られていて慌ててユーノと共に来てみればなのはは壁に激突していて
赤い少女がハンマーのようなデバイスを振り下ろそうとしていた。

考える間もなくなのはの元に駆け出そうとしたその瞬間。私の、髪を、黒の風が揺らした。

まずその整った顔立ちに目を奪われ、纏う空気に心が騒めき、振るう剣舞に魅了された。
私もユーノもおそらく治癒中のなのはさえ、その舞のごとき流麗さに見惚れているのだろう。
視線が離せない。戦闘中だからとか、そんな理由とはまったく、関係なしに。






―――くそっ。
内心で毒づく。さっきからまったく攻撃があたらない。
それどころか容易く捌かれ逆に回避困難な反撃を受けている。躱しきれず
シールドや強固なアイゼンの柄部で受けとめるがなぜか防御したにも関わらず衝撃が抜けてくる。
外傷はほとんど無い。しかし確実にダメージは蓄積されてきている。

おまけに効き手に力が入らなくなってきた。

……カートリッジは残り二発。
使えば絶対勝てる……と断言ほどの自信がない。自分の騎士としての経験が語る。
――油断したら負ける。
が、その事実が、その事実こそが!アタシをいらつかせる。
この鉄槌の騎士が、負けるかもしれないなどと!
そんなはず……




「そんなはずあるかあぁあ!!」




叫び、銀の弾丸をばらまく。
「シュワルベフリーゲンッ!」
コマンドと共にグラーフアイゼンを振りぬき銀の弾丸を射出した。
それぞれが別々に緩いカーブを描きながらしかしすべてが恭也に向かい飛んでいく。
そして、それだけでは終わらない。

「グラーフアイゼン!カートリッジロード!!」
<Ra'keten Form!>
主の声に従うようにグラーフアイゼンはその形態を変える。
次いで後部のエンジンが火を吹き、出力を上げていく。

「ラケーテン――」

それを振り回すように回転させ、すべてのエネルギーを推進力に転換し、圧縮し

「―――ハンマー!!!」

エンジンが爆発するような叫びをあげ、その推進力のすべてをもって
恭也を狙う赤い彗星となって大気を切り裂き、空を駆け抜けた。





銀の星をともなう赤い彗星が、こちらを射抜かんと必殺の叫びをあげ迫ってくる。
それを微動だにせず正面から見据える。そして、ただ一言。



「――白姫、黒姫、カートリッジロード」



ガキン!という音と共に弾丸が装填され、足元を白光の魔法陣が染め上げ紫電の蛇が
黒姫と呼ばれたデバイスの光刃に巻き付く。
対するは赤と銀の彗星群。生半可なものでは対抗しえない。


――ならば、こちらは星すら防ぐ最強の盾と星すら砕く最強の矛を用意しよう。


周辺を赤光が染める。破滅の凶星が迫る。目を決してそらさずに深く腰を落とし
そして遂に赤と銀の彗星群が視界を真紅に染め上げた!


「――白姫ッ!」
その声に答えるように
『イエス、マスター!絶対防御<イージス>展開!!』
女性の声がデバイスから響きその直後、白く巨大な防御障壁が彗星群を受けとめた。

ガギギギギ!と 星と盾の激突音が周囲に響く。拮抗する力と力。そこに


「ぶちぬけぇぇえ!!!」


ヴィータの叫びに呼応し更にエンジンは出力をあげその切っ先がじわりじわりと盾を侵食する。
いける!、そんな勝利の確信に似たなにかがヴィータの思考を支配する。が。その、直後。



ヴィータの視線に唐突に、弓のように引き絞った体躯に、矢のごとくつが
えられた、紫電をまとう黒の剣が見えた。



『障壁貫通<シールドスルー>展開終了。いつでもいけます、主』
黒のデバイスからさっきとは別人の声が響き、恭也はうなずいて。
「貫通衝撃波<インパルス>」
コマンドに従いイージスからすさまじい衝撃波が発せられ銀の弾丸はすべて破砕し、
ヴィータが体を貫通する衝撃波に耐えきれずわずかに吹き飛ばされる。しかし未だ威力が衰え
ぬラケーテンフォルムのグラーフアイゼンを戦意を燃やす瞳を持つヴィータが再び疾らせ
さっきの衝撃波が放たれるのと同時に防御障壁が消えた恭也にむかって叩きつける。

「はああああっ!」

――――それに合わせるように、恭也が黒い紫電の矢を放った。

御神流 裏・奥義之参 射抜

視認すら厳しいその必殺の突きがグラーフアイゼンの先端に激突し火花を散らす。
負けるものかとヴィータが更に力をこめる。その刹那
「ああああぁぁぁああっ!」
渾身の力でもって恭也が黒姫をグラーフアイゼンごとヴィータを弾き飛ばすよう薙ぎ払った。

「うわあっ」
ヴィータはバランスを崩し、アイゼンを取り落としそうになる。そしてその致命的な隙
を、逃がす恭也ではない。
すさまじい速度で近付き二刀を振りかぶる。恭也に気付いたヴィータは直前でシールドを張る
ことに成功した。



――が、そんなもの今の恭也には無意味だ。紫電の蛇はあらゆる盾を食らい尽くす!



それを証明するように
「はああああっ!」
黒姫はシールドをまるで存在しないかのように貫通しそれだけでは食い足らぬのか
騎士甲冑すらも貫通して

「ッ!………アアアァァァアア!!」

少女の体そのものを斬り裂いた。













――身体が宙を舞う。
斬られた衝撃が容赦なく意識を奪っていく。負けた。完全に負けた。

ちくしょう、とそんな言葉が脳裏によぎりそして
「(はやて、ごめん……)」
意識がテレビの電源を落とすように途切れた。








恭也は落下する少女を受けとめゆっくりと近くのビルの屋上に下ろす。
一応身体を見るが目に見える外傷はない。たぶん斬り付けたところは痣になっているだろ
うが。

ふう、と安堵の息をもらす。
「非殺傷にしておいてよかったな。……手加減できなかった」
『それにしても。まさかイージスが抜かれそうになるなんて
……申し訳ありませんマスター…』
白のデバイス――白姫がシュンとうなだれたような声で詫びる。
「いや、白姫のせいじゃない。気にするな。」
そんな白姫を慰めるように微笑し声をかけた。

『しかし、何者でしょうか。彼女は。使ってるのはベルカ式のアームドデバイスでしたし』
黒のデバイス――黒姫がヴィータを観察しつつ呟く。今の時代、ベルカ式は根強い使用者は
いるもののやはり主流はミッドチルダ式のストレージかインテリジェンスデバイスだ。

『『まあ珍しさで言えば私達はその上をいきますが』』

それを読み取ったかのように苦笑するように黒姫と白姫が言った。
「まあ、そのへんは時空管理局とやらにまかせればいいだろう。結界を張ったのは彼女の
はずだ。意識を失ったんだか……














瞬間、背筋が凍るような感覚が走った。














「ッ!」
とっさにビルの屋上から近くのビルへと飛び移る。

同時にさっきいたビルの屋上が衝撃音とともに炎上した。
ゆらゆらと揺れる炎が陽炎のようにゆらぎ


「我が名はヴォルケンリッターが将、剣の騎士シグナム。……仲間が世話になったようだな」


桃色の髪をなびかせた一人の騎士と気を失っているヴィータを背負った蒼い狼が
怒気を孕ませた視線と気配を撒き散らしながら
そこに立っていた。






なのはを襲った敵を倒した恭也の前に現れる新たな影。
美姫 「一体、何者なのか」
そして、恭也が持つ白姫、黒姫のデバイスとは。
美姫 「事態が謎のままに、戦いが始まる予感だけを感じさせる」
対峙する両者の間に話し合いという解決はないのか。
美姫 「次回の魔法少女リリカルなのはA's side『KYOUYA』も」
楽しみにしています。
美姫 「何者であろうとも、大切な人を傷つけるというのなら斬るのみ」
フェイトやユーノがどう動くかも気にしつつ、次回へ。

美姫 「……って、何勝手に予告めいた感想を」
ふむ。たまには趣向を変えてみたんだが、どうだ?
美姫 「いや、どうだと聞かれても」
予告風感想。
美姫 「まあ、私は楽しかったからいいかな」
なら、たまにやるか。
美姫 「……こんな感想の仕方って、良いのかしら?」



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