『魔法少女リリカルなのはA's――side『KYOUYA』』






第4話  『始まり』



















意識が浮上する。最初に目に入ってきたのは明らかに自分の部屋とは違う無機質な天
井だった。
ゆっくりとなのはは体を起こす。やけに体が怠い。なんでだろう、と考えが浮かび
――思い出した。ぞわりとあの奇妙な感触が甦り自分の体を抱き締める。
あの後スターライトブレイカーを撃ったまでは覚えているがそれ以降はまったく覚え
ていない。
誰かに倒れる寸前抱き留めたられたような気がするが………
そうして記憶の整理をしていると、しばらくしてスライド音と共に部屋のドアが開い
た。









アースラ内のエレベータ。報告を終えたエイミィとリンディが立っていた。エイミィ
は携
帯端末から本部の情報をみている。
「……なんか今回のもウチの担当になりそうですね」
目を携帯端末からあげ苦笑しつつエイミィが言う。先のなのはが襲われた事件だが、
報告
を聞くと例の事件とほぼ一致していた。共通点は襲われた魔導師の皆リンカーコアが
魔力を
奪われたせいで小さくなっている点。今まで出した調査隊はことごとくやられていて
大した成果は
出ていなかったのだが今回ので犯人の顔、数、使用するデバイスに魔法の四つが少な
くとも判明した。
……この場合は判明してしまった、と言うべきだが。

この情報を持ち帰ったのが他ならぬアースラのスタッフ、交戦したのはPT事件の民間
協力
者に管理局の嘱託魔導師でどちらもアースラの関係者だ。しかも交戦の末、嘱託魔導
師の
方は互角に渡り合った。………流れ的にアースラの管轄になる可能性は非常に高い。


「休暇は延期ですかねー」
「仕方ないわ………そういうお仕事だもの」
軽口を混ぜつつやはりどちらも苦笑した。
「なのはちゃんはリンカーコアから魔力を奪われたくらいであとは大したことないそ
うで
す。奪われた魔力も大量に、てわけではないようですし」

「そう。よかったわ。確か………あ!」
何かを急に思い出したかのように突然言葉を切り、リンディは慌ててエイミィにむ
かって
口を開いた。










病室での診察がおわるとタイミングよくドアがスライドした。視線をやるとフェイト
とクロノが
立っていた。クロノは先程の医師に呼ばれ部屋にはなのはとフェイトの二人だけが残
される。

気まずい空気が流れ、沈黙が空間を支配する。やがてなのはがそれを振り払うように
笑み
を浮かべフェイトも多少強ばりながらだが笑みを浮かべた。

「あ、あの折角の再会がこんなのでごめんね?怪我、大丈夫?」
怪我、という言葉に反応しフェイトの肩がびくりと震える。慌てて包帯の巻かれた左
手を
隠した。
「こ、こんなのは、全然。それより………なのはが」
口をつく言葉がだんだんと弱くなっていく。頭の中になのはの胸から腕が生え、
倒れていく場面が過った。
……結局、守れなかった。そんな後悔に似た感情が支配し知らず左手を隠す手に力が
入る。

「私もフェイトちゃん達のおかげで大丈夫だよ。元気元気!」
なのはは少しおどけた風に笑顔をうかべながら言う。だがフェイトは俯いたまま何か
に耐えるように
口を閉ざした。平気なわけがない。平気であるなら倒れたりするわけがないのだ。
あの時のなのはを思い出す。握った手は異様に熱く、呼吸もわずかに苦しそうで。
思い出される光景に、どうしようもなくなり目を伏せた。私が、もっと――――

「フェイトちゃ………あっ」
その最後の声とも発音ともとれる言葉に反応し、目を開け映ったのはなのはが立とう
として
失敗し倒れてくるところだった。

「なのは!」
慌てて前に出てフェイトはなのはを受けとめる。
「ごめんね………まだちょっとフラフラ」
なのは苦笑を浮かべながらフェイトに支えられなんとか立った。
そんななのはを心配そうに見つめるフェイトの視線を受け、なのはは佇まいを直し
フェイトの目を
まっすぐ見つめる。

「助けてくれてありがとう、フェイトちゃん。それから、また逢えてすごくうれしい
よ」
なのはの真っ直ぐな眼差しと言葉を受けて、はっとする。
そこから何かを感じ取ったのかフェイトはまだぎこちないが確かに笑みを浮かべた。

「……うん。私も、なのはに逢えてうれしい」
そう言い、どちらともなくただ親友との再開を喜ぶように互いに抱き締め合った。




しばし抱き合った後、ゆっくりと身を離す。照れからかほんの少し頬に朱がさし、二
人ともクスリと微笑した。

「あ、そうだフェイトちゃん。お兄ちゃんもここにいるの?」
あの時たしかに兄の声を聞いたし、倒れそうになったときの気を失うまでの間の僅か
な時間に
感じた温もりはしかし確かに兄のそれだった。

なのはの着替えを手伝っていたフェイトはそれを聞いて一瞬間を開けた後、忘れ物に
唐突
に気付いたような雰囲気で慌ててこちらに向き直った。そして真剣な表情で

「なのは………落ち着いてきいてね。その、恭也さんは―――――」















「――倒れたの。なのはをアースラの医療スタッフに預けた直後に。………血を、吐
いて」



頭をハンマーで殴られたような衝撃が疾り、なのはの思考が真っ白に染めあげられ
た。












時空管理局に転送され、すでに待機していた医療班になのはを引き渡した。あのユー
ノと言う
少年のおかげか対応も迅速で一安心する。

通路の向こう側から一人の緑色の長い髪をポニーテールにした女性と黒い服を着た少
年がこちらに歩いてきた。
その歩調は速く、こちらに着くと少年と女性――クロノとリンディはユーノたちと何
やら喋りはじめる。
おそらくさっきのことやなのはの容態などの報告を迫られているんだろうな、と思考
の隅で思う。

それとは別に恭也はここを巧く離れる手段を考えていた。できればあまり長居したく
ない場所だ。
すると報告はおわったのかリンディと目が合った。

「?………ユーノ君、こちらは?」
「えっと、今回の民間の協力者でな―――」












突然

ドクン、と。鼓動した。








「………………あ」
ゴホ、と咳をすると手が真っ赤に染まっていた。
(マスター!)
(主!)
頭の中に白姫と黒姫の声が聞こえ、忘れていた事が、懸念事項が甦る。
足から力が抜けガクリと膝を付き、上半身が倒れた。自然と両腕を自分を抱き締める
ように回す。

「あ、あ、あ、ア、ア、ガ」
意味不明な単語が口から血と共に吐き出される。
リンディ達はそのあまりの豹変ぶりに呆然とし立ちつくしていた。
「(くそ………!すっかり忘れていた………!)」
内心で毒づく。しかしどうしようもない。そもそもコレは回避できないものだ。
しかしあらかじめ知っておけばある程度の対処はできたというのに―――!
絶え間なく襲ってくる痛みは段々と臨界に近づき始め激痛を全身に感じながら恭也は
蹲り、口からは血を吐き続け
そして





「ア、アアアアァァァアア!!」





絶叫を上げると同時、恭也の全身が裂け血飛沫が舞った。
貫く激痛に容易く意識は狩り取られ、そのまま自身の血で出来た池に完全に倒れこん
だ。
一同はそのあまりの光景に言葉を無くす。そこにフェイトの引き裂くような悲鳴が反
響し、いち早く
我に返ったクロノとリンディが直ぐ様動いた。大量の血があたりに広がっている。あ
きらかに出血死しかね
ない量だった。クロノが恭也に顔を近付る。すると、ヒュー、ヒューと今にも途切れ
そうだが確かに呼吸をしていた。
生命の確認をとった後そのまま出来るかぎりの応急処置を施し、次いで復帰したユー
ノはひたすら回復魔法をかけ続けた。
リンディが呼び、到着した医療スタッフは現場を見るなり息をのみ、すぐさま恭也を
運び出した。















管理局内をフェイトちゃんと走る。廊下は走ってはいけませんというのは知っている
けどそんなことは
頭の片隅にすら今はない。あるのはお兄ちゃんを失うかもしれないという恐怖だけ。

撫でてくれる大きな手が、温もりが、笑顔が、永遠に失われる――想像しただけで私
は死んじゃいそうだった。
病み上がりで走るのがつらいけど、だから、どうしたっていうのか。
嫌だよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんがいなくなるなんて、絶対に嫌!! やだよ………
…!やだよぅ………!!
涙を必死に堪えながら走り、教えてもらった部屋に辿り着いた。

「お兄ちゃん!!」
私は、大きな声で叫びながらドアを開けた。












「……なのは」
部屋で服を着替えていると突然ドアが開きなのはが血相を変えて飛び込むように入っ
てきた。
なのははしばらく恭也の方をじっと見つめていたが
「……ぐすっ。おにいちゃあん……」
ぽろぽろと涙を零しはじめた。

「な、なのは!?どうした、どこか痛むのかっ!?」
突然泣きだした妹に恭也は手甲を付けるのを中断してオロオロしながら駆け寄る。普
段なら絶対みれないような
慌てっぷりだった。近寄ってきた恭也を見るなりなのはは抱きつく。
恭也の存在を確かめるように力強く抱き締め、頬を胸元にすり寄せる。

「よかった………お兄ちゃんだ……よかったよぅ」
「……心配をかけてしまったようだな。なのは、兄はここにいるぞ」

優しい笑顔を浮かべながら頭を撫でてやる。その感触になのはは嬉しそうに微笑ん
だ。

「……フェイトにも心配をかけてしまったようだな」
フェイトの方に目をやると未だ不安げにこちらを見ていた。フェイトにも同じように
頭をやさしく撫でる。
突然のことにびっくりしたようだがやがて顔を赤らめながら俯いてしまう。
……口元に小さな笑みを浮かべて。

しばらくして体を離し撫でるのも中断した。……なのはもフェイトもどこか名残惜し
そうな顔をしていたが。

「……お兄ちゃん、本当に大丈夫なの?」
「そうです。……あんなに血を流していたのに」
目の前にいる恭也は何にもなかったように体を動かしているが、あの傷は魔法を使っ
たとしてもすぐに
なんとかなるようなレベルではなかった。心配そうに見つめる二人に恭也は平気だ、
としか言わない。

「……お兄ちゃんはときどき嘘つきだからしんぱいです」

むぅと頬を膨らませてなのはが言うが。恭也はすぐに否定した。

「なのはよ………いくらなんでもこんな時に嘘はつかん」
なのははまだ訝しむように恭也を見ていてフェイトはそんな二人の間でオロオロして
いた。

しばらくはそんな会話をしていたが、やがて二人とも退出した。もちろん去り際に



「「絶対安静ですからね」」


と声を揃えて言われた。
俺はそんなに信用がないのか……と、ちよっぴり恭也は黄昏ていた。

ベットに腰掛けながら、ふぅ、と息をつく。


『……マスターの嘘つき』

『主………』

待機状態の白姫と黒姫がボソリと言った。
「……心配をかけるわけにはいかんからな」
身体中にはしる痛みに僅かに顔をしかめつつ言いかえす。
白姫と黒姫が言うように怪我は治ってなどいないし、体力もあまり回復していない。

今は指輪形態になっている白姫と黒姫が常に再生<リバース>をかけている状態だ。そ
れでも倒れた当初よりは
大分マシになったのだが。



手甲を付け終わり、立ち上がる。無論、持ってきていた武器や暗器も装備済みだ。
『マスター、今回の件ですが………』

『……やはり、協力するのですか』

「ああ………すまないな。しかしやはり放ってはおけない」

指輪を見つめながらすまなそうに恭也は告げた。
白姫と黒姫はどこか諦めたように、けれど恭也というヒトをよく知っているからこそ

『マスターがそういう人なのは承知してますし。だからこそ、マスターに選んだので
すから』
『その通りです、主』
そんな主人をもてたことを誇るように、言った。



『『……それにあながち無関係ではありませんから』』

「………《闇の書》。いや《夜天の魔導書》だったか」

以前、白姫と黒姫に教えられた情報が記憶から引き出される。“■■■■”の後継であ
り、プログラムを
狂わされたロストロギア……。
『可能性としては微妙ですが、少なくとも現状では一番手がかりになるかと』
『その代わりに時空管理局と関わらなくてはなりませんが』
白姫と黒姫、共にその言葉の端々から複雑な感情が感じ取れた。そしてそれに関して
は恭也も同じ。
場を沈黙が支配する。しかしそれを振り払うように首を振り、恭也は歩きだしドアの
前でとまった。

「ここで悩んでもしょうがない。ほかに情報は無いし俺もなのはの手助けがしたい。

……管理局に関してはあの人に頼めばなんとかなるだろう」
苦笑しながら恭也が言うと白姫と黒姫からもおなじような気配が感じられた。ドアが
スライドし、外に踏み出す。
管理局内の見取り図はさっき頭に叩き込んだ。
「さて、行くか。………グレアムさんの所に」
白姫と黒姫にだけ聞こえるような声でつぶやくと、恭也は再び歩きだした。














「はやてちゃん、お風呂のしたくが出来ましたよ」
「うん、ありがとー」
ちょうど台所から出たあたりから柔らかな声が聞こえ淡い金髪の女性、シャマルが顔
を出し
テレビを見ていたこちらは茶色の髪を首が見えない位まで伸ばした少女、はやてが振
り返った。
両者の雰囲気はどことなく似ている。
「ヴィータちゃんも、一緒に入っちゃいなさいね」
シャマルがエプロンを外しながら言うが、反応が無い。はやてがヴィータの方に向き
直ると眠たそうに
目こすっているヴィータの姿が目に入った。
「ヴィータ?」
「う〜……。眠いぃ。お風呂は明日でいいや……」
その場で眠ってしまいそうな勢いだった。はやてはクスリと笑みを浮かべる。
「あらあら、シグナムはお風呂どうします?」
脚の不自由なはやてをシャマルが抱える。俗に言うお姫さまだっこだ。
「私も今夜はいい。明日の朝にするよ」
読んでいた新聞を畳み、テレビを消す。ヴィータはコクリコクリと船をこいでいた。

「ほんならお先にー」
はやてが言い、シャマルは了解の意を告げるとはやてを抱えてお風呂場の方へと向
かった。
しばらくして湯につかるような水音が静かになったリビングにまで聞こえてきた。



「……傷は平気か」
シグナムとヴィータのそばまでくると、ザフィーラが空気を一変させて告げた。
ヴィータもいつのまにか
目を開け座っている。さっきまでの眠たそうな気配は微塵も感じさせなかった。
「………こんな傷、たいしたことねーよ」
苛立ちを含んだぶっきらぼうな声で言いヴィータはフンと顔を背けた。
「私もだ。………と言いたい所だが」

言いながら上着を少し上げる。そこには一閃の傷跡ともう一つ、赤黒く染まった十字
傷があった。
その傷をみてヴィータとザフィーラは息を呑む。一閃の傷だけならヴィータも軽口を
叩いて終わるし
ザフィーラも鎧を抜かれたことに多少驚くだけだった。しかし今は驚愕すら通り越し
ている。

「澄んだ太刀筋だった。よい師に学んだのだろう。武器の差がなければ少々苦戦した
かもしれん」
一筋の傷跡に触れながらそう言い、上着をおろした。
服の上から十字傷に軽く触れる。
「あの男……見た瞬間からかなりの使い手なのはわかっていたが負ける気はなかっ
た。
しかし……………最後のアレは……」
悔しそうに、歯噛みする。
「シグナム……?」
ヴィータからしてみれば確かに強かったがシグナムにここまでさせる程ではなかった
はずだ。
だがヴィータは気絶していて最後のを見ていない。ザフィーラはみてはいたが離れて
いてこちらもよくは見えていなかった。

「……………一挙動も、見えなかった」

「はあ!?」
「!?」
シグナムの言葉に信じられない、とヴィータとザフィーラが声をあげた。
「あの男が殺気を撒き散らした後、テバイスからコッキング音が響いてすぐ姿が消
え」
一拍置いて
「カンナギ、と聞こえた時には既に斬られてその衝撃で吹き飛ばされていた……」

絶句した。ヴィータにはそしてザフィーラにすら信じられない。だが何よりもシグナ
ムの声に含まれるものが
雄弁に、これは事実だと告げている。

シグナムは立ち上がり闇の書を持ち窓際に歩いていく。そして、そこから空の彼方に
見える月を見つめる。
「だが、たとえ相手がどんなに強くあろうとも……負けるわけにはいかないのだ…
…」
月に再び誓いをたてるように自身に告げる。
「我らヴォルケンリッター、騎士の誇りにかけて……!」
その瞳には敗者のそれは無い。あるのはただ、譲れない想いと折れない心だった。















「失礼します」
恭也がグレアムの居る部屋のドアを開ける。するとそこに
「お兄ちゃん!?」
「恭也さん!?」
面接中のフェイトとなのは
「ちょ!?何勝手に出歩いてるんですか貴方は!」
それにクロノがいた。

失敗した……と後悔する。

((す、すっかり忘れてましたっ))

白姫と黒姫の声が頭の中でハモる。
見取り図を得るついでにグレアムのスケジュールも一緒にハッキングしたのだ。
しかしそう言う恭也もどこにいるかまでしか見ていなかったわけで白姫と黒姫に対し
て強くはいえないのだが。
どうしたものかと、悩んでいる所にクロノが退室を促すよう言おうと口を開く。
そこに

「いや、いいのだよ。彼は私が呼んだんだ」

グレアムがクロノに告げた。クロノは驚いてグレアムの方に向き直る。

「彼は知人でね。こっちに来ているというから呼んだのだよ。つい時間を伝えるのを
忘れ
てしまったようだ」
なのは達は「そうだったんですか!?」と素直に驚いていたが
クロノは訝しむように恭也とグレアムを見ていた。しかし恭也が魔法を使っていたと
いう報告は受けているし、
仮にもグレアムは上官だ。やがて渋々といった感じで追求をあきらめた。

面接が終わり、なのはとフェイトが退室しクロノが去り際に今回の事件が自分達の担
当に
なったと告げおなじように退室した。



「お久しぶりです、グレアムさん。先程は助かりました」
言いながら軽く頭を下げる。それをみてグレアムは手を振り
「いや、気にしないでくれていい。どのみち呼ぼうとは思っていたんだ」
そうですか、と恭也は頭を上げグレアムにすすめられるまま椅子に座る。グレアムも
その正面に座った。
「一応聞きますが、何かわかりましたか?」
「いや。リーゼ達にも手伝ってもらってはいるが今のところ収穫なしだな」
わかりきってはいた事だがついため息がこぼれる。そう易々と見つかるような代物で
はないのだ。
気を取り直して再びグレアムの方を向く。
「では引き続きお願いします。……ご迷惑おかけしますが」
「いや、“■■■■”が君の言う通りのものなら放っておくわけにはいかない。大惨事が
引き起こされて
からでは、遅いからな……」
何かを思い出し悔やむようにグレアムは目を伏せた。
大惨事、という言葉から過去の出来事――御神や不破の事を思い出し恭也も口をつぐ
む。

そのまま時間が過ぎ、しばらくしてグレアムが顔を上げた。
「……私は今回の事件に君が参加できるようにすればいいのかな?」
バッと恭也は顔をあげる。グレアムは微笑みを浮かべていた。さっきの痛みを感じる
ような表情は無い。
「……………わかりますか」
まいった、と言わんばかりにため息をつき。恭也もぎこちなく笑った。
『まあ、マスターですし』
『まあ、主ですから』
白姫と黒姫の声が響き、恭也は、む、と唸って眉をひそめる。その様子にグレアムは
微笑ましいもの感じ、笑っていた。




「では民間の協力者ということで手配しておこう。あとでリンディ提督のところに
いってもらえるかな」
あの後しばらく様々な話をし、恭也は退室することにした。……リーゼ達の話が出る
たび何故か白姫と黒姫の機嫌が
悪くなっていたが恭也にはまったくわからずしきりに首を傾げていたのは余談であ
る。
「はい、わかりました。感謝します」
恭也は一礼すると、ドアをスライドさせそのまま去っていった。
グレアムは再びドアが閉まるまで恭也の後ろ姿を見つめ

「頼んだぞ………」

つぶやいた言葉はそのまま風に溶けて、消えた。










別室ではアースラスタッフがあつまり今回正式に今回の事件の担当になったことを告
げられ、そのための会議をしていた。
「ちなみに、司令部はなのはさんの保護を兼ねてなのはさんのお宅のすぐ近所になり
まーす」
リンディが意味ありげに言葉を区切り、告げると一部からわあ!と歓声があがった。

アースラがまだ整備中のため使えず代わりになる場所が必要になったのだ。もっと
も、なのはの保護というのは半分ほど
建前で実際はなのはとフェイトに対するリンディの配慮だったりする。

「あ。それともう一つ」

再び話し声がしなくなり、皆姿勢を正す。リンディの声がよく響いた。

「今回の事件の解決に協力してくれる協力者がいます」

ざわざわと小声があちこちから聞こえる。おそらく誰も聞いていないのだろう、クロ
ノすら知らないという顔をしている。
リンディのどうぞ、という声に従うようにドアがスライドし、黒衣に身を包んだ青年
が入ってきてリンディの隣に立った。

それを見て一部の彼と見識のある人間は目を見開いた。








「今回協力させていただくことになりました高町恭也です。……妹がいつもお世話に
なっています」









そう言いながら恭也は丁寧に一礼する。同時に、一斉に驚きの声があがった。





恭也も今回の事件に協力することに。
美姫 「どうなるのかしらね」
にしても、恭也には謎だらけだな。
美姫 「確かにね。何かを知っているような口ぶりに、行き成りの吐血」
グレアムとも知り合いみたいだし。
美姫 「その辺の謎が明かされるのも楽しみね」
ああ。次回も楽しみに待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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