『魔法少女リリカルなのはA's――side『KYOUYA』』





第5話   『新たなる力』

















「それにしてもお兄ちゃんも魔法使いだなんて思わなかったよ」

アースラから臨時司令部への移動後、恭也は器材の運び入れを手伝いなのはやフェイトは遊びにきた
アリサやすずかといった友人達と翠屋へ行って夕方になると戻ってきた。今は作業を終わらせたリンディや
クロノ、エイミィ、恭也達と歓談を交わしている。
「まあ言っても信じないだろうからな。俺はなのはが魔法使いやってることは知っていたぞ」
なのはがえ!と驚くがそれを見て恭也は軽くため息をつく。
「……あんなに頻繁に夜中に出歩いていて、魔力を体中に付着させて帰ってくれば普通は気付く。……朝方
やってる訓練もせめて結界くらい張るように」
「あ、あははは………」
モロバレだったらしく乾いた笑いがなのはの口から漏れた。


実際のところ、PT事件の時なんども助けに入ろうとしたのだが白姫と黒姫に止められたのだ。
『『あれは彼女の戦いです』』と。
恭也も戦っているなのはを見てわかっていた。その瞳には他ならぬなのは自身の意志が宿っていたのだから。
しかしながら如何せん、兄は妹に激甘なのだ。本人は決して認めないが。そこに激しい葛藤があったのは推して知るべし。

「それに、すごく強かったですよね」
おずおずといった感じでフェイトが口を開く。先の恭也の戦闘を間近で見ていたのは彼女だった。
「あら、そうなの?」
リンディの言葉にフェイトとなのはがこくりと頷く
見惚れるような剣筋。流れるような剣舞。戦いというよりは一つの完成された舞。自分達
にはまだ到達できない領域であった。
しかしその言葉に恭也は首を振る。
「いえ。俺の戦闘スタイルは近接特化ですから。遠距離から砲撃されたら手も足もでませんよ」
苦笑まじりに告げる。実際のところ自分の遠距離からの攻撃手段はあの剣雨<アローシャワー>しかない。
それどころか防御魔法はイージスしか使えないしあれはカートリッジを消費する。
魔法のほとんどが近接でしかあまり効果のないものばかりなのだ。

恭也は《武器》というカテゴリーに縛られる。正確にイメージできるのは剣や刀、かなりギリギリで弓。故にこれに属する
魔法しか使えないのだ。………これは白姫と黒姫の特性によるものである。

「でもあの二人を倒しましたよね」
その言葉に納得いかな気にフェイトが言う。たとえ向こうがそうであっても恭也が負けるなどと見たかぎりでは
想像できなかったからだ。
「「「え!?」」」
しかしその言葉に思いっきり反応したのが三人。言わずもがなリンディ、クロノ、エイミィだ。

「まあ……だがあれは向こうが油断していたというのが大きいからな。運がよかっただけだよ」
そうフェイトに返す。実際のところヴィータ戦は向こうの油断をついたというのが大きかった。油断がすべて
取り払われてこられたら勝てるかどうか危うい。シグナム戦に関しては奥の手の《刹那》を使ったから勝てたようなもの。
普通に戦えば長期戦になることは確実だった。……無論どちらにせよ負ける気はないのだが。


その後しきりに勧誘してくるリンディをはぐらかし、ついにはフェイトが弟子入りを志願してきてしまい
最初は断っていたのだが上目遣いで若干瞳を濡らしてどうしてもと懇願されて………………取り敢えず基礎だけ教える
ということで落ち着いた。その時のフェイトは花のような満面の笑みを浮かべ対照的になのははジト目で兄を見ていた。

余談ではあるが、恭也は上目遣いのお願い攻撃に非常に弱い。




「そういえば闇の書ってどんなのなの?」
その言葉に端を発して空気が少しだけ堅くなる。エイミィが端末を取出し操作すると闇の書の映像がスクリーンに
映しだされた。全員でそれを見ながらエイミィは端末を操作しつつ説明をはじめた。
「魔力蓄積型のロストロギア。魔導師の魔力の源であるリンカーコアを食らってそのページを増やしていく……」

「そして全ページである666ページが埋まるとその魔力を媒介に真の力を発揮する……次元干渉レベルの巨大な力をね」

エイミィの言葉をクロノが続けた。
皆ただ聞いている中で恭也だけは他の人には解らないくらいだがどこか浮かない顔をしていた。闇の書……夜天の魔導書に
ついておそらくは誰よりも知っているがために。
(マスター……)
(主……)
白姫と黒姫が気遣うように頭の中へと語り掛けてくる。彼女らの心遣いに感謝しつつ平気だから、と返す。
そう、ここで考えたところでどうしようもないのだ。それに運がよければ……もしかしたら機会はあるかもしれない。
成功率はかなり低いだろうが、白姫と黒姫から事情を聞いた後では恭也に放っておくことなどできなかった。


――ずっと、おそらくは今も苦しんでいるであろう彼の魔導書を。


闇の書についての話が進む中、恭也は一人思考の海に身を浸していた。












「………もう一度言ってもらってもいいか母よ」
翌日翠屋。朝からいきなり辺りは緊迫感に包まれた。無論その言い知れぬプレッシャーの元は講義がないため
翠屋の手伝いをしていた恭也である。

「えっとぉ……………なのはのお弁当間違えちゃった☆」
「………………」

ギヌロと擬音がつきそうなまでの眼光が桃子を容赦なく貫く。もはや母の威厳などどこ吹く風、ひたすら桃子は
平謝りの一手だった。ついでにその後息子に正座させられクドクドと小一時間説教された。
まあ空の弁当箱を渡すなど一体いつの時代のイジメだと言わんばかりだ。しかし古典的であるからこそ効果的でもある。
……少なくとも成長期の少年少女にとっては致命傷となりかねない。色んな意味で。

「………それで、どうするんだ」
「んー………」

何故そこで悩む………、と恭也は頭を抱える。なのははお金を持ち歩いていないだろうし、学食のようなものも存在しない
のだから弁当を届けるという選択肢しかないというのに。
しかしそこは転んでもただでは起きない高町母こと高町桃子。不意に何か思いついたのか目を輝かせにやりと笑った。

「恭也………♪」
ゾクリと背筋が凍る。
あれはマズイと頭の中でアラートが出続けている。しかし肩に手を置かれているため逃げることはできない。
何か手はないのかっ……と戦闘中もかくやと言わんばかりに頭をフル回転させる。
その時、カランカランと言う音とともに扉が開かれた。まだ営業時間前ではあるのだがこの際関係ない。
天の助けとばかりに振り返ると





「桃子さんー!、フェイトさんのお弁当間違えてしまったみたいで。聖小の場所ってどこ
か教えていただけませんかー」







その声に桃子は瞳を輝かせ、恭也は終わった………と膝を付いた。……何も知らない声の主であるリンディは
その様子にあら?と首を傾げていた。















「「あ」」
「ん?どうしたのよ」
「なのはちゃん、フェイトちゃんどうかしたの?」
授業が終わりお昼を食べようとした矢先の出来事だった。教室にいるとまたフェイトが質問責めにされる可能性が
あったため教室から出て別の場所で食べようと決まりカバンから朝入れた弁当箱を取り出そうとした時、違和感を感じたのだ。
――妙に軽い。
朝、起きるのがギリギリだったからやっちゃったかなあとなのはが思っていると視界の端に自分と同じようにカバンに
手をいれて固まってるフェイトがいた。視線に気付きフェイトがなのはの方を向き、アイコンタクト。
…………どうやら同じようで二人とも乾いた笑みを浮かべた。
勘の鋭いアリサは察したようで軽くため息をつき、すずかも苦笑を浮かべている。

「それで、どーするのよ。私の分けてあげるのはいいけど絶対足りないわよ」
「私のもいいんだけど足りないよね」
二人とも女の子ゆえか量がもともと少ない。それを更に3等分するとなると……。しかも運悪く午後には体育もある。



どうしようと考えていたその時だった。
ざわざわという音が遠くから聞こえてくる。次第に音は大きくなりその事が発生元がなのは達の教室の方へ近付いてきて
いることを証明している。耳を澄ますとと何やら女の子の黄色い声もちらほら聞き取れた。
やがて教室の前で音がピタリとそこから動かなくなった。そしてゆっくりとドアが開いていく。
何事かとなのは達が振り返ると同時に教室のドアが完全に開いた。










「………ご利用有難うございます。翠屋デリバリーサービスです」






幾分か顔を引きつらせながら笑みを浮かべた翠屋の制服に身を包んだ恭也が両手に大きめの袋を持って
そこに立っていた。





机をいくつか繋げたその上に恭也の持ってきた《お昼ご飯》が広げられ、それを囲むようにして
なのは、フェイト、アリサ、すずか。そしてなぜか恭也が座っている。……はっきり言って異様な光景だ。
何故こうなったかと言うと無論桃子の策略である。

「とりあえずかーさんにはしっかりと言っておいた。にしても何を考えてるのか………」
「あ、あははは……」
この場合の何を考えているのかというのは空の弁当箱を渡すこととこの現状にたいしての両方だ。
まさか一緒に昼食済ませてこいと言われるとは予想外も予想外。
「すまないな………なにやらこんな状況になってしまって」
「ま、まあ大丈夫ですよ」
「そ、そうですよ。恭也さんの所為じゃありませんし……」
見渡すかぎり教室には他には誰もいない。いつもはちらほら生徒も見かけるのだが今は皆無といっていい。
……その代わりに廊下から好奇の視線がバシバシ飛んできていて微妙に居心地がわるかったりした。
その事に真顔で謝罪する恭也にアリサとすずかは顔を赤くしながら慌ててフォローの言葉を掛ける。

ちなみに好奇の視線の半数以上が恭也へ注がれる女子の好意の視線なのだが本人が気付くわけもなく。



やがて気を取り直したのか開き直ったのか序々に会話が広がっていった。恭也はそれに静かに耳を傾けている。
会話ネタになのはの失敗談がでかけてなのはが慌てて誤魔化したり、それを見てフェイトが笑ったり。
そんな時、恭也がふと視線をなのはに遣り――――――急に顔を近付けた。
「なのは、付いてる」
「おお、おにーちゃん!?」
言いながら恭也は持ってきた紙ナプキンをとりなのはの口元を拭ってやる。
「よし、取れたぞ」
そうして普段めったに見せない微笑みを浮かべた。
「「「「――――――!」」」」
至近距離にいたなのはは勿論、フェイト、アリサ、すずかも撃沈して顔が真っ赤だ。廊下からもなぜか
バタバタと倒れる音がいくつか聞こえた。
しかし自分の笑顔にどれだけの破壊力があるかまったく理解していない恭也はただ疑問符を浮かべるばかりである。
(マスター!わざとですか!?わざとなんですかっ)
(お、落ち着け白姫っ!)
デバイス達も騒いでいるが無論恭也に聞こえているわけもなく。



あまり寄り道して遅くならないように、とだけ言い残すと恭也は車で帰っていった。
その後クラス中の女生徒からなのはが質問攻めされたのは想像に難くない。
「私、転校生でもなんでもないのに〜〜」

















夕方、用事を終えた恭也は翠屋に顔を出し自室に戻ろうと歩いているとなのはの部屋から声が聞こえてきていた。
いくら近所とはいえそろそろいい時間である。
声を掛けておこうと部屋にいきドアをノックしようとして―――ピタリと止めた。しばらくそのまま停止してい
たがやがてハッと我に返り改めてノックした。
「はーい」
「なのは」
「あれ、お兄ちゃん?どうしたの」
「ああ、フェイトもきてるみたいだったが……時間はいいのか?」
「「あ!」」
やはり時間だったのだろう二人分の若干慌てた声が聞こえた。
苦笑を浮かべながら
「あまり遅くならないようにな」
とだけ言ってその場から去った。




自室に戻り恭也は座布団に腰を下ろす。
「言葉を、想いを伝えるのは無駄じゃない………か」
確かにそれは真実だと思う。だが同時に偽りだとも思う。間違いと知りつつも信じた道を行く者も存在するのだ。
間違いを認めているが故に言葉は届かない。そんなことは言われるまでもなく、分かっているのだから。




自分が間違っているなど百も承知、それでも曲げられない、守りたい誓いがある―――





そんな時、そんな相手にあったとき、彼女達はどうするのだろう。これからも戦い続けるなら避けられない問題だ。
もっともこれは自分で答えを見つけるしかない。大きく息を吐き、立ち上がる。
武器一式を準備し、練習着に着替えると燃えるような夕焼けを背に恭也は道場へ足を運んだ。

























都市部上空。背を預ける二人を12、3人が円を描くように囲んでいる。ヴィータ、ザフィーラを
包囲しているのは管理局員。

「管理局か」
ザフィーラは構えながら慎重に辺りを警戒する。ヴィータはざっと見回すと
「でもコイツらちゃらいよ。………返り撃ちだ!」
おもむろにグラーフアイゼンを握り締め、掃討すべく戦闘態勢を取った。
しかし局員は構えるでもなく突然包囲を解き散開していく。
(……逃げる?)
どう見ても不可解な行動だった。包囲しておいて散開するなどありえないし、散開するならば包囲する意味がない。
ヴィータが計りかねていると―――先にザフィーラが気付いた。

「上だ!」

見上げれば蒼い魔法陣とナイフのような魔力刃が無数に配置されていた。

「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!」

クロノのまだ声変わりしていない高い声が夜空を満たし、声に従いナイフの切っ先が眼下の対象へ向かう。

「てえッ!」

次の瞬間、ナイフが雨のように降り注いだ。
ザフィーラが舌打ちしつつ障壁を展開させる。
ナイフの雨はかまわず降り注ぎ魔力の衝突によりそこかしこで爆発が引き起こされた。
クロノは肩で息をしつつ煙の方を見据える。かなりの数の設置をした所為で魔力の瞬間消耗がはげしい。
「少しは………通ったか………?」
やがて煙がはれる。しかしヴィータは無傷、ザフィーラも腕に3本刺さっていたがあまりダメージにはなっていない。
やっぱあの程度じゃだめか、と再び体に喝を入れS2Uを構えなおした。ヴィータも構え、ザフィーラは腕にささった魔力刃を
体外へ押し出し、何事もなかったかのように両腕を構えた。
そこにエイミィから通信が入った。武装局員が配置終了、あと助っ人を送ったよと。
眼下の敵に注意を払いつつ、辺りを見回すとそれはすぐに見つかった。
「なのは!フェイト!」
ビルの屋上、二人はそこに立っていた。近くの小さめのビルにはユーノとアルフもいる。
なのはとフェイト、二人はまっすぐに上空のヴィータとザフィーラを見据える。
そして
「レイジングハート!」
「バルディッシュ!」
帰ってきた、相棒の名を高々と告げた。




そこから少し離れたビル屋上でなのはとフェイトのいた場所から魔力の柱が立ち上るのを恭也は見ていた。
腰のホルダーには黒と白のデバイスが収められている。
光が納まると形状が変化したデバイスが二人の手に握られていた。
「カートリッジシステムか」
『うわ、無茶しますね』
『インテリジェンスにカートリッジシステム……デバイスが望んだのでしょう』
普通はインテリジェンスにカートリッジシステムなんか搭載しない。バランスが取りにくいしただでさえ
インテリジェントデバイスは繊細なのだ。調整が大変だったはずだ。となるとそんな無茶な注文するのは
デバイス自身しか考えられない。
『『よほど悔しかったんでしょうね』』
主を守り切れなかったこと、信頼に応えきれなかったことが。
「………いい相棒に逢えたようだな」
そう言いながら僅かに笑み、目を伏せる。しばしの間の後開かれた瞳は……完全に剣士の目をしていた。
『マスター。わかってるとは思いますが《刹那》は使用禁止ですからね』
『無理やり起動しようとしても私達の方でブロックしますのでそのつもりで、主』
無言でうなずく。まだ前回の《リバウンド》の傷は完治していない。今の状態で使えば間違いなく死ぬだろう。
…………こんなところで死ぬわけにはいかない。



「いくぞ。白姫、黒姫」


ホルダーから取出し両手に収め、馴染んだ感触を確かめる。


『イエス、マスター』


『主の御心のままに』


なのはとフェイトのデバイスの宝玉が輝くのと同じように白姫と黒姫の宝玉もまた強く輝いた












『あとがきと言う名の言い訳』
皆様、今日和or今晩和。クレと申します。
えーとですね、本文中でやると無駄に説明文ばかりになってしまうので今回は補足説明を入れさせていただきます。
文才のない自分が恨めしいです・・・(泣)




『《刹那》と使用におけるリスク』

《刹那》とはカートリッジを左右3発ずつ、計6発消費することで瞬間的に高濃度の魔力を爆発させ、魔方陣が
幾重にも折り重なった複雑な多重魔方陣と呼ばれるものを形成しそれにより『世界を欺く』という効果を発生させる。
それにより加速《ヘイスト》の効果を限界を超えて引き上げられ、空気抵抗、重力、反作用、摩擦といった類のものを
すべてキャンセルし、かつ自身の周囲に「時間の流れが通常空間の数倍」という空間を展開し更にその中で神速を使う
ことで絶対に防御も回避も感知も不能な文字通り『必殺』の一撃を可能にした。
しかしこの『世界を欺く』というのは一時的なものでしかなく世界を作る理(秩序の回復)により必ず反動《リバウンド》
を受けてしまう。(キャンセルした超過分がまとめて本人に返ってくる)
《リバウンド》の発生時間は使用後15分以内でランダム。《刹那》の《リバウンド》は恭也を必ず戦闘不能にする程の
ダメージを伴う。





強力な必殺技である刹那。
美姫 「でも、それは諸刃の剣ね」
みたいだな。
再び合間見えた恭也たちとヴィータたち。
美姫 「この戦闘の行方は!?」
次回も楽しみにしてます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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