『魔法少女リリカルなのはA's――side『KYOUYA』』





第7話   『過去と現在と』







戦闘終了後、恭也達はリンディ達の住居であり臨時司令部でもあるところに帰還し、たった今報告を終えた。
その中にあったなのはやフェイトが守護騎士達に感情や意志のようなものを感じた、という報告にクロノと
リンディはどこか困惑した表情を浮かべる。

「守護騎士達は厳密には人間でも使い魔でもない。闇の書にプログラムされた擬似人格なんだ」
守護騎士達は闇の書の「〜しろ」といった命令に従って動くプログラムにすぎない。ある程度の会話能力は持つが
それは主の命令を忠実に理解するために必要だからついているだけであってそれ以上の意味はない。
ロボットがプログラムに従っては動くがそこに感情は無いように、守護騎士達も同じでただロボットよりも多少
臨機応変に動けるだけにすぎない。というのがクロノの言わんとしたことだった。
そのクロノの「守護騎士達は人間ではない」という部分にフェイトはビクリと肩を一瞬震わせる。
そして、おずおずといった感じで口を開く。

「あの、使い魔でも人間でもない擬似生命て言うと私みたいな…………」
「違うわ!」
フェイトが最後まで言い切る前にリンディが声を荒げて割り込んだ。普段あまり出さない大きな声を発したからか
フェイトだけでなくなのはやエイミィも身体を一瞬震わせる。
「フェイトさんは多少生まれ方が特殊だっただけで、ちゃんと命を受けて生み出された人間でしょ」
「検査の結果でもちゃんとそう出てただろ………変なこと言うもんじゃない」
リンディの言葉を引継ぎクロノが叱咤するように言う。フェイトはどうも自身を卑下するというか負い目がある
ような感じがあった。PT事件を未だ引きずってるようで、確かにそう簡単に忘れられるものではないが正すべき所
は正さなければならない。フェイト自身が負い目を感じているなら周りがそんな必要はないと教えてやらないと。
「………ごめんなさい」
フェイトは俯きながら謝罪する。表情を伺う限りではまだ完全には理解していないようではあったがそれはゆっくりと
理解していけばいい。

いつの間にか固まってしまった気まずい空気を無理矢理動かすように、やけに元気な口調でエイミィが声を発し
闇の書の現時点での詳しい説明を始めた。







「…………お兄ちゃん、どうしたの?」
壁に背を預け、説明に耳を傾けるでもなく立っている恭也になのはが声を掛ける。ただ、その様子がいつもと少し
だけ何かが違った。まるで何かに怒っているかのような空気が恭也の周りを包んでいる。
「………あ、いや。なんでもない」
なのはの声と視線を受けると顔をあげ、ぎこちない笑みを浮かべながらなのはの頭を優しく撫でてやる。
なのはは未だ不思議そうな表情を浮かべていたがまたすぐに闇の書の説明に耳を傾けた。

なのはの視線が外れると恭也は再び思考の海にその身を浸す。正直なところ、恭也は僅かな怒りを覚えていた。
ほかならぬリンディとクロノの発言に。プログラムだろうとそれが完全に人間をトレースしているなら感情が
芽生えても不思議はない。擬似人格だろうと擬似生命であろうと、だ。
それにクロノ達の言葉はまるで擬似生命を人とは認めないといっているようにさえ感じられる。あの騎士、シグナムとは
一人の剣士として。また好敵手として剣を交えた。たとえ敵であろうとも、自分の認めた相手が侮辱されているような
気がしてクロノ達の言葉には我慢がならなかった。
とはいえ、と理性で熱くなっている感情を冷却する。フェイトに視線を遣ると説明を聴いているようだが心ここにあらず
といった感じだった。俯きながら頭の中では他のこと―――おそらくは自分の出生のことを考えているのだろう。
頭の中から知りうる限りのPT事件の詳細をひっぱり出す。しばらく思案した後

「フェイト」
「……え、あ、はい」
突然声を掛けられ慌てて返事をしながら恭也の方に顔を向ける。その慌てように含み笑いしながら

「明日、暇か?ちょっと付き合ってもらいたいんだが」

爆弾発言を、投下した。
恭也としては特に何も考えずに言った、しかしその捉えようによっては爆弾発言となる言葉を聴き、一瞬時間が止まった。
流れる奇妙な空気に恭也は首を傾げる。
いち早く復帰したのは当事者たるフェイトだった。顔をこれでもかといわんばかりに真っ赤にし、恭也の方を向きながら
口をパクパクさせている。それを口火に、順次復帰していきしかし皆が同じように口をパクパクさせながら恭也を見る。
そして



「「「「「「「えええぇええーーーー!!?」」」」」」」



直後、夜中だと言うにもかかわらず絶叫がそこら中に撒き散らされた。
「お、おおおおお兄ちゃん!?フェ、フェイトちゃんはまだそのあの!!?」
もはや支離滅裂で何をいってるのかわからないなのは。他の人達も似たような感じでそれぞれ何やら口走っているが
そのほとんどが支離滅裂か言葉にすらなっていない。というか皆、深読みしすぎである。
そのあまりの困惑(正確には混乱)ぷりに、恭也は顔をしかめる。
「あー、何か用事があるならいいん」
「な、ない!無いです!ありません!!朝から晩までおーるおっけーです!!」
最後まで恭也が言い切る前にフェイトが赤面する顔はそのままにやたら力を入れて言う。力説といって差し障りない。
「そ、そうか。じゃあ明日で……」
フェイトのあまりの力の入れように思わずたじろぎながら、恭也は応えた。










「ふぅ、びっくりしたぁ」
なのはがそう洩らすと恭也とフェイトを除くいつものメンバーは同意すると同時に苦笑を浮かべる。
「突然だったから、つい誤解してしまったわね」
リンディは頬に手を当てながら困ったように言い、そしてモニターに目を向ける。
そこに映し出されているのは局内の模擬戦闘用の施設の内部。恭也とフェイトが対峙している。
「なかなか興味深いな。僕はまだ恭也さんの戦闘をちゃんと見たことがないし」
心なしかわくわくした様子でクロノもモニターを見やっていた。


恭也はデバイスを指輪形態から具現させる。軽く振るとガシャリと言う音とともに柄の部分がスライドし、そこに
押し込む様にカートリッジを装填していく。白姫と黒姫の両方の作業がおわると起動させ、バリアジャケットを纏う。
……とはいっても恭也のは手甲などのように部分的に鎧のようなものを纏うだけでなのはやフェイト達のように全体が
変化するわけではない。身体をざっとチェックするとフェイトへと目を向けた。
「?……どうかしたかフェイト」
「いえ……その、なんでもないです」
どこか残念そうな、それでいて拗ねたように言う。それをどう勘違いしたのか。フェイトがどこか体調が悪いのでは
ないかと恭也は思い、じっと彼女を見つめる。その真摯な眼差しを一身に受け恥ずかしそうに俯き、しかしチラチラと
恭也のいる方を見ていた。
「あの、ところでどうして模擬戦闘を?」
しばらくそんな時間が続くとフェイトは赤らんだ頬はそのままに思い切って口を開いた。
それに恭也は薄く微笑む。
「御神流を教えるわけじゃないが、フェイトは俺の弟子なんだろう?師匠としては、弟子の実力は知っておかないとな」
「………あ」
フェイトの脳裏にあの時の約束が浮かび上がる。まだそんなに日がたっていないが忙しくてつい頭の片隅においやって
しまっていた。だというのに彼はきちんと覚えていてくれた。そのことに胸の奥がほのかに暖かくなるのを感じる。
顔をあげ真っすぐに恭也を見つめる。トクトクと規則的なリズムを刻む鼓動を感じながら
「……はい!お願いします!」
顔には笑みを浮かべ、バルディッシュを構えた。恭也も不敵に笑い両手にテバイスを構える。
「非殺傷設定。合図は無し。後はなんでもあり。相手を気絶させるか、負けを認めさせた時点で戦闘終了」
恭也、フェイト共に表情を改める。今回の戦闘条件が恭也から告げられるとフェイトは視線はそのままに無言で頷く。
エイミィから準備ができたとの放送が入るが二人とも動かない。そのまま膠着状態が続く。別室からモニターを見つめる
なのは達もまるでそこの気配が伝わってきているかのように緊張した面持ちで見つめている。


―――膠着を打ち破ったのはフェイトが先だった。



周囲に環状魔法陣に包まれた雷球が次々に生成される。
「プラズマランサー―――ファイアッ!」
バルディッシュを横に一閃する動作と同時に起動コマンドを発し、作成された雷球が槍に姿を変え一瞬にして射出された。
群がる獣のように襲い掛かる雷槍を恭也は一瞥すると、上空に飛び上がりそのまま飛翔して回避する。
「ターン!」
フェイトが言うなり雷槍に再び環状魔法陣が出現し、一斉に向きを変え再び恭也に襲い掛かる。後ろから飛来する雷槍を
しかし振り向きもせず恭也は縦横無尽に飛び交い回避していき、雷槍はその度に向きを変え飛んでくる。
そして、恭也が軽く舌打ちした時だった。
<Blitz Rush>
バルディッシュから無機質な起動コマンドが発せられると同時に雷槍が急激に速さを増した。
「!」
恭也の表情が一瞬驚きに染まり、急停止すると同時に回避は困難と踏んだのか雷槍を叩き落とすべく振り変える。
――が、それがまずかった。
<Haken Form>
すぐ真後ろからコッキング音と共にバルディッシュのデバイス音が耳を打ち
「はあぁああ!」
高速で接近したフェイトが真後ろで大鎌を振りかぶっていた。
大抵ならこれで詰みだったろう、しかし相手は御神の剣士。戦えば勝つ、それが御神流だ。
振り下ろされる大鎌を恭也はまるで後ろに目があるかのように黒姫で受け止めた。同時に白姫にカートリッジを装填。
『絶対防御《イージス》』
白姫の声をうけて、以前フェイトが見た時より更に巨大な白い障壁が展開され、雷槍を全て受け止める。次いで
『貫通衝撃波《インパルス》』
白い障壁から凄まじい衝撃波が発生する。パキンという硝子が砕けるような音があちこちから聞こえ雷槍を一つ残らず
破砕した。またその衝撃波の煽りを受けてフェイトの身体のバランスが崩れる。
重心のズレた大鎌を恭也は間髪入れずに薙ぎ払う。交錯する視線。その一瞬後。恭也はまるでそこに地面があるかのように
空を蹴り、遠心力を加えて白姫を振るった。それは吸い込まれるようにフェイトへ。
「くっ」
<Blitz Rush>
フェイトが顔を歪ませると共にバルディッシュがオートで魔法を発動。移動速度を急上昇
させ辛くも恭也の斬撃を回避した。しかしその直後。フェイトは弾かれるように恭也を見上げる。
そこにあったのは高速で迫る鋼の針。
「!?バルディッシュ!」
<Defencer Plus>

フェイトの眼前に黄色の障壁が展開される。それが飛来する鋼を悉く打ち払う。・・・・しかしそれ故、疑問が沸き上がった。
――フェイトは元々防御能力が低い。そのためデバイスの強化の際、有効範囲を狭めることで強度を上げた。だかそれでも
一般水準から見ればお世辞にも高いとは言えない。だと言うのに今回“何の抵抗もなく”防ぎ切った。
その違和感がたとえようもなく不安を煽り――そしてその違和感が正体を表す!

何かに突き動かされるようにフェイトはバルディッシュを旋回させ、背後に向かって薙ぐ。そこにまるで示し合わせたかのように
恭也が突如あらわれ、振るわれる光刃と光刃がしのぎを削る。
そのまま膠着状態になるかと思いきや、恭也は打ち合ったままの黒姫を軸に脚を振り上げフェイトの鳩尾に容赦なく蹴りを放つ。
「あぐっ」
フェイトの顔が苦痛に歪み口からはくぐもった声が漏れる。だが恭也は容赦なくそのままフェイトの小さな身体を撃ち上げた。
その衝撃で数秒呼吸が停止する。酸素量がみるみる減り脳が酸素不足で思考速度の低下と混乱を引き起こす。
その状況下でも、フェイトは必死に混乱を押さえ込み回転の鈍くなった思考を働かせる。
<Thunder Blade>
主人の命令を受け追撃を防ぐために最適と判断した場所に剣の形を模した雷の楔を次々に打ち込んでいく。
それを恭也は持ち前のスピードで合間を縫うようにフェイトに向かい疾駆する。
「……ブレ、イクッ!」
フェイトは苦悶の表情はそのままに後方へ飛び、足りない酸素を掻き集め、告げる。
刹那、雷の剣が膨れ上がりちょうど剣と剣の合間にいた恭也を巻き込みながら盛大に爆発した。
そのままフェイトはぶつかるように地面に着地する。
「う……か、は……」
煙の方を見据えたまま、アサルトモードのバルディッシュを杖代わりにしてよろよろと立ち上がった。その間にも必死に呼吸して
失った酸素を肺に取り込む。やがて、呼吸困難から回復したフェイトは深呼吸しながら呼吸を整え、心を落ち着ける。
―――まだ終わってない。そんな確信にもにた予感がある。恭也がこの程度で終わるわけがない、と。
周囲の警戒は怠らず、しかし視線は目の前に。そのまましばらくして
「―――剣の御名の元、集い」
煙が晴れてくる。その中に人の姿が見え始め
「我に仇成す敵を討て!!」
そして、完全に煙が消え去り恭也の眼前に展開された白と黒の魔法陣からこれまでにない程の力を帯た剣の雨がフェイトに向かって
射出された。一直線に飛ぶそれをフェイトは高速移動で飛行し、回避しようとする。
が、恭也が突き出しているデバイスを動かすとそれに沿って大本の魔法陣も移動した。無論その間も剣は射ち出され続けている。
プラズマランサーのようにホーミング機能はないが動かし様によっては弧を描くように飛んでくるので厄介だ。
しかも一本の威力がサンダーブレイドを上回っている。ならば、と飛行しながら剣を躱しつつフェイトはバルディッシュの形状を
鎌に変化させる。
「ハーケン、セイバー!」
声とともにバルディッシュを横薙に払い、同時に鎌状の光刃が回転しながら射出された。
射出された光刃は飛んでくる剣を弾き飛ばしながら一直線に大本の魔法陣に向かって行く。
見るなり恭也は直ぐさま黒姫にカートリッジを装填。紫電に染まる刀身を振るい、光刃が黒白の魔法陣を破壊すると同時に
光刃を粉砕し
「白姫!」
ガキン!とコッキング音が谺し、眼前に白色の防御障壁が展開。まったく同時に未だ砕けた破片が舞う向こう側から死神の大鎌が
出現するがその刃は障壁に絡めとられる。
「!!」
フェイトの目が見開かれる。これでもダメか、と顔を歪めすぐに離脱すべく鎌を引こうとし――出来ないことに気付いた。
「え!?そんな……っ」
いくら力を入れても抜けない。よく目を凝らすと、バルディッシュに白い糸のようなもの
が絡み付いている。脳は冷静にその解答をはじき出した。
「………バインド!何時の間に!?」
その糸は恭也の手元から幾重にも伸びバルディッシュを完全に拘束している。フェイトは即座に解除用の術式を走らせパシンという音と
ともにそれを完全に破砕する。
「!………どうしてっ」
それでもびくともしない。変化があるとすれば糸の輝きが鈍くなったくらいだ。

「魔法と物理の両方からの拘束だからだ。魔法を解除してもそれだけでは抜け出せない」
困惑するフェイトにそう言いながら未だ紫電を纏う黒姫を構える。
「………うまく防げ。そのままでも障壁くらい張れるだろう」
その声にはっとし、フェイトは顔を上げ――――
――――恭也は構えた黒姫を“白の障壁に”突き刺した。


《ERROR。構成術式に問題発生。A2-08から21までに論理矛盾。更に侵食中……》


恭也のデバイスから白姫でも黒姫でもない無機質なデバイス音が響き渡る。

《侵食率75%を超過……ERROR.ERROR.ERROR.ERROR.ERROR.ERROR.ERROR.ERROR.ERROR.ERROR.ERROR.ERROR.ERROR・・・・・》


鳴り止まない警告音。しかしそれでも恭也は平然としたまま。その異様な光景に煽られるかのようにフェイトの不安感はピークに達する。


《ERROR.ERROR.ERROR…………侵食率100%に到達。術式、崩壊》


「バルディッシュ!!」
<Defencer Plus>
警告音が鳴り止むのと、障壁の展開が重なり。
『『矛盾・崩壊《ロジック・パラドックス》』』
直後、声とともに行き場を失った魔力がその場を中心に暴君の如く荒れ狂った。

「きゃあっ!」
「くっ」
フェイトの口からおもわず悲鳴があがる。荒れ狂う魔力は爆発地点を中心に無差別に襲い掛かる。無論、恭也も例外ではない。
そしてついにフェイトの障壁が破られ魔力の塊が直撃する。その衝撃でバルディッシュを掴む手が離れ、地面に激突した。

「う……」
呻きながらよろよろと立ち上がる。ガンガンする頭を押さえながら目を徐々に開け
「――私の、負け、ですね……」
口をついて出た言葉がそれだった。フェイトが目を開けた先に広がっていた光景はデバイスから伸ばした光刃を首元に突き付けたまま
こちらを見る恭也の姿。幾度もの攻防と最後の余波を受けたせいで所々、服が破けてはいたが。



―――こうして模擬戦闘は終了した。














「「「「「……………」」」」」」
モニタールームで模擬戦を見ていた一同は皆口を閉ざしていた。改めて恭也の戦闘能力の高さに唖然としている。
「……すごいな。近接戦闘だけみたらAAA以上だ」
「ええ。………管理局で是非とも働いてもらいたいわ」
「というか。なのはちゃんの世界の魔導師てなんでみんな規格外に強いのかなぁ……」
最後のエイミィの言葉をなのはは笑ってスルー。まさか『兄は魔法使えなくても人間捨ててるとしか思えないくらい強いんです』とは
さすがに言えない。アルフはフェイトが負けたことにショックを受けているのか未だ硬直したままだ。
「でも………」
言いつつ、エイミィはキーを叩きながら先の模擬戦の映像をモニターに投影し、丁度恭也がデバイスを振るっているところで映像を止めた。
そのまま二つのデバイスを拡大した画像を別ウィンドウで出す。
「このデバイス………何なんだろう」









「立てるか?」
「あ、はい……」
そう言いつつもフェイトは恭也の差し出した手を握る。口ではああ言ったものの疲労はかなり溜まっているのだろう。
そのまま恭也は腕に力を入れ立ち上がらせる。
「ありがとうございます…………?」
お礼を言って、それから首を傾げる。もう立ち上がれたと言うのに恭也は握った手を離さない。フェイトはオロオロ狼狽え
追い打ちをかけるかのように恭也はもう一方の手を動かし、結果としてフェイトの小さな手を両手で包み込んだ。
「……!?」
ボン、と音でも出そうなほどフェイトの顔が真っ赤に染まる。先日の焼直しのように口をパクパク開閉させたまま立ちつくす。
そしてフェイトが何か言葉を紡ごうと口を開き――
それを恭也の口をついた言葉が制した。


「…………昨日の話だが」

ゆっくりと言葉を吟味しながら


「フェイトは、フェイトだ。――それでは駄目なのか?」


恭也はその想いを言葉に乗せる。
「……え」
フェイトの口から吐息とも声ともとれないものがもれる。

「俺は、詳しい事情はよくわからない。だけど言える事も、ある」

恭也はPT事件を詳しくは知らない。実際見ていたのは最初の方だけだったし、その後はPT事件どころではなかった。それでも知っている
情報を総動員して言葉を紡いでいく。
「フェイトはここに生きている。この手の暖かさも、伝わってくる鼓動も、心も、間違いなく本物だ」
フェイトの手を包む両手に少し力が入る。
「闇の書の騎士達についてもそうだ。彼女等の瞳に、声に宿る意志は本物だった。―――なら、彼女達も生きている。
そしてそんな風に生きられるなら、それは『人』だ。本質がプログラムだろうと関係ない。あんな強い意志が、受動的に創られたもので
あるはずがない。誰が何といおうと彼女等はれっきとした一人の『人』だ。少なくとも俺はそう思っているしこれからも変わらないだろう」
だから、と。フェイトを見つめる。




「君もまた『人』だ。フェイト・テスタロッサ。君の過去が今の君を形創り、そして今ここに立っている君が君の全てだ」



言い切ると真剣な表情を少し崩す。
「まあ簡単に言うとだな。例え君がプログラムだったり擬似生命であっても―――俺の知っているフェイト・テスタロッサは変わらない。
なのはの友人で、俺の弟子だ。・・・・・それでは足りないか?」
さすがにさっきまでの理論は我ながら強引だったかな、と思いつつ少しばかり照れを感じて頬を指で掻く。
無論さっきまでの言葉に一切の偽りはないのだが。一瞬逸らした視線を戻し、ぎょっとした。

恭也への視線はそのままに、フェイトの綺麗な真紅の瞳からは泪が頬を伝っていた。







――心がとても暖かい。どうして彼はこんなにも、自分のほしい言葉をくれるのだろうか。みんな、私の事をちゃんとした人間だよとは
言ってくれた。当然、それは嬉しかった。けれどその言葉では埋まらない空白が、私のなかに、あった。
――それが何なのかようやくわかった。私は、私を無条件で受け入れてほしかったんだ。出生も、能力も、人間で有る無しすら飛び越えて
ただ私と言う存在を。

みんな、口にはしないだけできっとそう思ってくれているのは何となく感じていたけれど。それでも不安だった。
もし、検査の結果が間違っていたら。人間でなく違う何かだったら。……みんなは、私を受け入れてくれるのだろうか?……
「………ッ!」
そのまま私は恭也さんの胸元に飛び込んだ。空いている片方の手で服を握り締め、顔を胸に沈める。恭也さんから驚いたような気配がしたが
すぐに消えて私と目線が合うくらいまでしゃがむと手を包んでいた両手を離し、その腕で私を包み込んでくれた。
もう、止まらなかった。
泪はとめどなく溢れ、ここが模擬戦用の部屋でモニターされていることすら忘れて恥も外聞もなく、ただ、泣きじゃくった。
恭也さんは無言で抱き締めてくれている。
………ありがとう。そんな言葉しか思い浮かばない。だけど多分それで正解なんだろう。





――ああ。きっと私は、この日、本当の意味で、自分を縛る鎖の一つからようやく解き放たれたのだ―――
















あとがきっぽいもの。


どうも今晩和。クレです。今回の話はこのSSを書く上で絶対やろうと当初から決めていたもののひとつです。
・・・・の割にはプロットが甘いっ!とか言われそうですがそこはどうかお許しを・・・・!

アニメの「壊れた過去と現在と なの」の回を見てたときから「このクロノとリンディの言い方はいかがなものか」と内心思って
いました。あれは捉え間違うとこのSS内にも書きましたが「れっきとした人間以外は人として認めない」ととれてしまいます。
しかもその後のフェイトの表情みたら、ぜんぜん納得してないような感じが。・・・まあ深読みしすぎかもしれませんが少なくとも私は
そう捉えました。もし、あの場に恭也がいたらきっと何かしら違った展開を迎えていたでしょう。彼は生まれとか種族とか、
そういったもので人を見たりはしませんから。
文中で敢えて『人間』ではなく『人』の方をを使ったのもそういう意味も含めて私なりに考えた結果です。

とかなんとか偉そうな事いってますが、結局私はフェイトが好きなので彼女にはもっと幸せになってもらいたいだけだったりします(笑)

それでは乱文失礼しましたー。





ええ話や〜。
美姫 「うんうん。自らの意志を持ち、心を持っているのなら、それは皆同じよね」
別に人という枠に拘る必要もないんだよ。
美姫 「今回の件で、フェイトはまた成長するわね」
彼女に幸多き事を。
美姫 「ってな訳で、次回も期待してます」
楽しみに待ってます〜。



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