『魔法少女リリカルなのはA's side『KYOUYA』』




      

       

第10話    『虚ろの揺り籠/()()める真実』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ここはどこだろう。

どうにも記憶が跳んでいる。何かがあったはずなのにどうしても思い出せない。思い出そうとすると思考に靄がかかったようになる。 

それでもどうにかして目を僅かではあるが動かすことはできた。

―――だれか、そこにいるん・・・?

うっすらと。狭い視界の中に誰かが映る。銀と黒と赤。それらが人のような形をとっている。よく見ようとして瞼をさらに上げようとし

「そのままお眠り下さい・・・・」

先に目の前の人が口を開いた。その瞬間またしても思考が焦点を失い、同時に目覚め掛けてた意識が再び沈んでいくのを感じる。

―――あな、た、は?

辛うじて声を出す。

「どうか安心して、優しい夢をご覧になってください・・・・」

質問には答えず、目の前の多分女の人は優しく言う。

そこで限界に達したのか、私は再び瞼を閉じた。

その間際、さっきの女の人の声が聞こえた気がした。

「我が、主」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――これは夢だ。

私はそう思う。そうとしか思えない。

考えずともわかる。だってこれはありえない世界だから。

 

 

目が覚めると私はベッドに眠っていた。

そしてここはどこだろうと漠然と辺りを見回して―――絶句した。

アルフらしい子犬が眠っているその向こう。そこに金の髪が上下する肩にあわせて揺れていた。ただそれだけの光景に何故か違和感を感じる。

いや違和感というのなら気が付くとベッドに眠っていたこともそうなのだがそれとは意味合いの違う、違和感。

ありえない。そんなはずない。そうだ。ちがう。ちがう。これはちがう。いくらなんでも私の考えすぎだ!

落ち着こう。ゆっくりと深呼吸して。深呼吸して。目を一回閉じて、待って、もう一度目を開けばきっと落ち着いて状況を

「フェイト、アリシア、アルフ。朝ですよ!」

そんな考えも空しく霧散していった。記憶の中にある声とまったく同じ声が耳に届き、その声はさっき捨て去ろうとした思考を精確に引き戻した。

「ん・・・・ん〜〜・・・」

声に反応するかのように自分の隣の彼女がベッドからゆっくりと起き上がる。

私は半ば真っ白な思考のまま弾かれるように彼女に視線を移し

「・・・・・え・・・」

今度こそ頭の中が真っ白になった。

そこには、自分と寸分違わずまったく同じ顔をした少女が、いた。

自分に向けられている視線に気付いたのか彼女は私の方に顔を向け

「ん。おはよう、フェイト」

私とまったく同じ声で彼女―――アリシア・テスタロッサは少女らしい笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ!」

降り注ぐ闇色の魔弾。それを手に携えた双剣で片っ端から弾き返していく。

爆音。炸裂音。破砕音。斬檄音。擦過音。風切音。破裂音。

ありとあらゆる死の音の交響曲。その中を二人の魔導師は駆け抜ける。

「ディバインシュートッ!」

恭也の後方から飛び掛る魔弾。打ち出された魔弾はかのティンダロスを彷彿させる貪欲さで闇の書に喰らいつく。

しかしそれも彼女の掲げる盾の前に散っていく。

同時。闇の書はなのはに向かい疾駆する。

「!」

ほぼ一瞬にして間合いを詰めた彼女は魔力のこもった拳を振り下ろす。

Protection>

レイジングハートが独自に防御障壁を展開。拳はなのはに届く前に受け止められる。しかし―――

「っ!?」

かなりの耐久度を持つはずのなのはの障壁は信じられないほどの速さで破壊される。

Schwarze wirkung>

更に闇の書本体から発せられる無機質な起動キー。それを受けて黒い魔力が拳を覆っていく。

まずいと思い、なのははとっさにレイジングハートを両手で構えなんの躊躇いもなく撃ち下ろされるそれを受け止める。

「うくっ!!」

強化された打撃は受け止めたレイジングハート伝いでもほとんど軽減されることなくなのはの全身を打つのめし慣性の法則のままになのはは海へと飛沫を上げながら落ちていく。

闇の書はそれを拳を打ち下ろした格好のまま見つめ

「―――!」

向けられる殺気に気付き即座に羽根をはためかせながら飛翔。コンマの差で先ほどまで彼女がいた地点が切裂かれる。

そして恭也は闇の書がこちらを確認する間も与えず再び彼女の視界から消え去った。

その瞬間、恭也の世界が一変した。すべてのモノが色を失う彼だけの、御神の剣士だけが至る世界。

神速状態に移行したモノクロの世界を緩慢な動きで駆け抜ける。ゼリーのような空気をかきわけ彼女の真後ろに行くと同時に

神速を終了し、また構えた二刀を振り下ろした。

それを感じたのか振向き、闇の書は一瞬で展開した盾で受け止める。が。

破砕音が響くと同時に盾も砕け散った。そしてそれだけでは済まず、展開時に突き出した片腕の内部を衝撃が蹂躙する。

僅かに動かした表情を再び消し、恭也から距離と取るように離れる闇の書。その片腕は力なくだらりと垂れ下がっていた。

 

直後、恭也の後ろから飛沫があがる。

アクセルフィンを展開し飛び出してきたなのははずぶ濡れで多少呼吸が乱れていたが外傷はたいしたことはなさそうだった。

そのことに軽く安堵の息をつきながらなのはに並ぶように移動した。

 

 

 

「スターライトブレイカー・・・撃てるかな」

なのははレイジングハートをぎゅっと握り締めながら呟く。

()(ター)()にて(イト)凶星()()砕く()もの(カー)

なのはのもつ魔法の中でも最強の砲撃魔法。

目の前の闇の書は想像以上だった。ディバインシュート、ディバインバスター。そのどれもが呆気なく盾によって防がれた。

そして闇の書がこれまで蓄えてきた多種多様の魔法攻撃。空間攻撃に始まり近接、中距離、遠距離その全てを今やほぼ完全に制圧されている。

いや、辛うじて近接は恭也がいることで対抗している。が、自分の得意な中遠距離は完全にだめだった。

ならば残るはアウトレンジからのスターライトブレイカーぐらいしか対抗手段はない。・・・・問題はそのチャージタイム。

若干の焦りの色が見えるなのはの思考に気が付いたのか、それは定かではないが今まで沈黙を保っていたレイジングハートが声をあげた。

I have a method.Call me 『EXELION MODE』>

「え!?」

エクセリオンモード。ベルカのカートリッジシステムを搭載することで備わったアクセル、バスターに続くもう一つの換装形態。だが―

「だめだよ!あれは本体の補強が済むまで使っちゃだめだって!」

そこには問題が一つ存在した。それはレイジングハート本体がリミッターを解除された時のパワーに耐え切れるほどの強度がないということ。

Call me>

「私がコントロールに失敗したら、レイジングハート壊れちゃうんだよ!?」

Call me,my master>

自身の破壊の可能性。しかしそれを知りつつも白の従者は言う。

 

『エクセリオンモードを起動させて下さい』

と。

無意識になのはは横に立つ兄に視線を向ける。

しかし恭也は何も言わない。ただなのはの目をまっすぐに見ている。

『決めるのは、なのはだ』

黙したまま、されどその瞳はそう告げていた。

「・・・・・」

じっと、自分の杖を見つめる。そこに

「お前も、もう、眠れ・・・・」

膨大な魔力をその身に纏いながら闇の書たる銀の女性は呟く。・・・・本人はきづいてないのか、その瞳には涙が浮かんでいた。

その時、何かが自身を駆け抜けた。

「いつかは眠るよ。でもそれはいまじゃない・・・」

 

 

 

『この涙は主の涙。私は主の願いをかなえるだけの、道具』

 

 

 

あの時の言葉が蘇る。それと同時にあの時の気持ちも。

「今ははやてちゃんとフェイトちゃんを助ける・・・・それから、あなたも!」

あの時思った。道具だから涙を流さない?道具に感情はない?心はない?

・・・・・じゃあ!一体どうして!そんな今にも泣き出しそうな声をしているの!!どうして主のためなんて、誰かのためになんて言葉が出るの!

 

覚悟は、決まった。もう迷いはない。声は高らかに。届くように。自分の信頼できる相棒――友人を握り締め

 

「――エクセリオンモード!ドライブッ!!!」

 

鈴のような声が、夜の(そら)を奮わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――くらい、みずのそこにいるみたいや・・・・

さっきから断続的に目が覚めるのと眠るのを繰り返しているような感じがしている。そしてその度にあのひとの言葉で眠る。

眠ると同時に様々な光景が視えた。そこでは誰もが笑っている。微笑んでいる。顔はペンか何かで殴り書きされたように塗りつぶされていたが確かに皆笑っていた。

あたたかい空気、あたたかい笑顔、あたたかい食卓。

そこには私が望んでいたものが確かにあった。

誰もいない居間、誰も来ない家、冷たく乾いた空気、孤独。

自分のもっていたモノとは真逆の、絵に描いたような幸せそうな家庭が。

――でもなんでやろ・・・・・なんか、ちがう。

だというのに感じる猛烈な違和感。あの暖かな家庭こそが私の望みだったのに、だったはずなのに。

――なんかが、たりん

欠落。

その光景はどこか、まるで合わないパズルのピースを強引にはめ込んで無理矢理完成させた絵のように感じる。

薄れている思考の焦点のズレを無意識に修正しながら、私は思った。

――わたしの、ほんとうの、のぞみは・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一転して雨が降っていた。さきほどまでの晴天の、その痕跡すら感じさせないまでに。

私は樹に寄りかかりながらじっと降りしきる雨を見つめる。隣にはアリシアが私に寄り添うように座っている。本当の姉妹のように。

ざあ、ざあ。

雨音が耳を打つ。万物に例外なく降り注ぐ雨。だけど私とアリシアが濡れることは多分、ない。樹の枝が、葉が、雨から私達を守っている。

「ねえ、アリシア。これは夢なんだよ・・・ね」

隣にいるアリシアは無言。けれどその無言こそが雄弁に私の問いに答えていた。

――そう、はじめから判っていたことだ。このゼンマイ仕掛けの人形劇のカラクリは。

これは虚構で固められたモノガタリ。私の望みを台本として演じられる人形劇。でも悲しいことに、台本の作者には演出も、結末も見えていた。

この劇に終わりはない。役者は私を除けば全て人形。動かなくなったら、またゼンマイを捲いてやればいいだけ。

・・・本物のかあさんが私にあんな風に笑いかけてくれることは最後までなかった。そしてリニスは、もう、いない。

なにより、私とアリシアが同時に存在することがありえなかった。

アリシアがいれば私は存在しない、アリシアがいなくなったから私が生まれた。

私達は鏡ですらない。光があるから影が出来るのではなく、光が消えたから全てを影が覆い尽くした。そういう因果の存在。

「でもね、フェイト」

アリシアが私を見つめながらそっと口を開いた。

それだけのことなのに何故か私は恐怖を覚え反射的に耳を塞いだ。

その先は聞きたくない!聞かせないで――!

「これが夢でも、ここでなら私達はずっと、ずうっと、一緒にいられるよ?」

私は耳を塞ぎながら首を左右に振り続ける。

「母様がいて、リニスがいて、アルフがいて、私がいて。みんないる」

アリシアの言葉はとまらない。いくら耳をふさいでもその声は私に届き、序々に私を侵していく。

「母様は優しいよ?私もフェイトも分け隔てなく愛してくれるよ?リニスもアルフもずっと側にいてくれるよ?」

その言葉はまるで麻薬。演出も、結末も私には見えているのに。それでもこの夢は、人形劇は心地がいい。

「私はフェイトとずっといたいな。だって初めての妹だもん。一緒に夜更かししたり、遊んだり、たまには勉強したり」

それはなんて幸せな世界。それはなんて暖かな世界。それはなんて優しい世界。

そうして、アリシアの口から最後の言葉が放たれた。

「――――ねえ。それでもフェイトは、この夢をおわらせたいの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒、白、紫の閃光が乱舞する。

「せあっ!」

「はっ!」

恭也の双剣が閃く。闇の書の拳が舞う。なのはの閃光が貫く。

双剣も閃光も幾らかはダメージを与えているがどれもが掠り傷程度。闇の書の防御力もさることながら何より恐るべきはその経験値。

戦闘経験、魔法知識、戦術レベル。その全てが恭也達を凌駕していた。

またレイジングハートでの砲撃魔法がほとんど潰されている。

確かに砲撃魔法は射程、威力ともに申し分なく当たればたとえ闇の書の障壁があったとしてもダメージを与えられるだろう。

・・・・・当りさえすれば、だが。

先ほどからディバインバスターを何回か放ってはいるがいずれも射線を読まれ回避され続けている。

エクセリオンモードに換装したというのに全くと言っていいほど大規模砲撃を行うチャンスがこないのが現状だった。

 

 

「ぐっ!」

魔力の乗った蹴りが恭也に直撃する。咄嗟に双剣で防いだが耐え切れず、剣は砕け身体はそのまま重力に引かれ海へと落下していく。

局所()物理(イス)制御()

白の篭手が光り、恭也の身体の周りを帯状になった魔法文字が包み海面スレスレで落下が停止する。打ち消した運動、位置エネルギーを転用し身体を反転させ体勢を立て直す。

「きゃあ!」

「っ!なのは!」

なのはの悲鳴が聞こえた。

顔を上げ、それが目に入るや否やヘイストを起動させたまま恭也は飛び出した。闇の書が拳を突き出しているのが視界に入る。

「させるか!」

なのはまでの距離を一気に零にし、受け止める。ヘイストによるエネルギー変換を用いて、そのまま拳を振り下ろしてくる闇の書の攻撃を新たに作り出した剣で受け止める。

否、それだけでは終らない。

「黒姫!」

()()い尽くす(ガルズオル)()

恭也の声に応えるように黒の篭手が耀き同時にガキン!とコッキング音。内蔵していたカートリッジの魔力が開放され恭也の手に紫光の剣が生み出される。

そのまま今度は白姫が光りを放つ。先ほど転換したエネルギーはすべて推進力に置き換えられ空気を叩くような爆音と共に視認すら難しい速度で剣が振るわれた。

だが相対するは闇の書。すぐさま盾を作り出し恭也の剣を受け止めた。――それが誤りとは知らず。

「!!」

今度こそ、闇の書の表情が驚愕に染まる。

彼女の展開した盾は一瞬たりとも拮抗を許されず破壊された。そしてその僅かな動揺を恭也は見逃さない。

「(逃がさん!)」

ドクン。と一際大きく鼓動するのを感じながら世界は再びモノクロに染まる。

恭也の周りに展開されたままの魔法文字が耀き両腕、両足に位置エネルギーが収束する。次いで懐から取り出した飛針を足元に向かって落とす。

飛針はゆるやかに足元に落ちていく。それが中ほどまで落ちると恭也はその飛針に向けて1歩を踏み出した。まったく同時に収束させたエネルギーを開放する。

踏み込みとエネルギーの開放が絶妙なタイミングで揃い、そのまま爆発的な推進力に変化する。

そうしてモノクロ世界と現実世界が繋がるとき。それは完成した。

 

 

 

 

御神流 奥義之六    『薙旋』

 

 

 

本来は抜刀から始まる四連檄。その鞘走りによる剣速を恭也は魔法によって作り出した。

しかし生じる速度は鞘走りとは比較にならないほどの超高速。

一瞬四斬

そんな言葉がピタリと嵌る、惚れ惚れするような斬檄だった。

斬檄という言葉とは裏腹に耳に届いた音は大型トラックが壁に激突したかのような音だった。直撃を受けた闇の書は仰け反りながら吹き飛んでいく。

「――あれでも駄目か」

それを見た恭也はしかし苦々しげに呟く。いつの間にか隣に来ていたなのははそんな兄の表情に首を傾げるが闇の書が飛んでいった方向を見て、理解した。

胸元に十字に切り裂かれた後こそ残っていたが、まるで何事もなかったかのように闇の書はそこに居た。

先ほどより密度の濃い魔力を纏いながらこちらを見下ろしている。

「もう少し、頑張らないとだね・・・・」

「そうだな」

言うなりレイジングハートの六枚羽根が耀きを増し先端部から赤色の半実体の刃――ストライクフレームが出現する。もはやそれは杖と言うより槍に近い。

恭也の持つ紫光を放つ剣もその周囲に電気が帯電しているかのように魔力が集中する。もう一方の白い剣も同様に白い雷を放ち始めた。

なのははより強く魔杖を構え、恭也もその双剣を握り深く腰を落とし

――――刹那、闇の書の気配が変わった。

見かけはただビクンと一度身体を震わせただけ、されど確実に何かが変わった。

ギリ、ギリ。

ガチ、ガチ、ガチ。

まるでゼンマイがきれた操り人形のようだった。さっきまであった人間らしさがごっそりと抜け落ちている。まるで本当に道具になってしまったかのように。

あまりの豹変ぶりになのはも恭也も、誤って結界内に残されてしまったアリサとすずかの護衛として遠くからその様子を見ていたユーノもアルフも怪訝な表情を浮かべ

次の瞬間、それは驚愕に変わった。

 

『そこの方!管理局の方!』

 

「はやてちゃん!?」

「八神!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、こんなん望んでない。貴女も同じはずや!」

それは、ついさっきのことだった。

本当に突然に私の脳裏に蘇った光景。それは夢ではなくきっと私の記憶。何故だかわからないけれど、それは確かだと感じた。

『いや、八が――はやては強い。きっとはやてが思っている以上に』

いつのことだっただろう。たしかそれはいつの日かの夕方。窓から差し込む夕日が、いつにもまして綺麗だった日のこと。

図書館で男の人に出逢った。びっくりするほどかっこいい人で話しかけるときにやたらとドキドキしたのを覚えてる。

目つきが鋭くて少しだけ怖かったけど、なんだか困っているみたいでさっきから同じところを行ったり来てたりしてたから思わず声をかけてしまった。

話してみると大学生らしくレポートの資料を探しに来たらしい。で、来ては見たものの普段利用しないからか場所がわからなくて困っていたらしい。

容姿とは裏腹に困った表情を浮かべる彼がなんだかおかしくて、少しだけあった怖さはもうどこにもなかった。

それから図書館を案内して探し物が見つかった後、彼がお礼にと缶ジュースを買ってくれた。最初は遠慮したのだけど押し切られてしまった。

そのままなんとなく、缶ジュース片手に少しだけ話をした。シグナムが向かえに来るまで時間があったからかもしれない。

他愛もない話だった。自分に新しくできた家族のこと。最近皆があんまり一緒にいることがなくて少しだけ寂しいこと。

気がついたら私が話す側で彼は完全に聞く側になっていた。そのことに気付いて慌てて誤ろうとしたら彼は微笑みながら制した。

そして今度は彼がポツポツと話し出した。家族のこと。友人のこと。最後にちょっとした警備員のようなことをしていること。

私は素直にすごいと思った。私はこんな身体だったし警備員の仕事ができるってことは強いんだろうなーと漠然と思い、そのことを告げると彼は笑って言った。

思わず私のことを苗字で呼びそうになりそのことに気付いて訂正しながら(自分のが年下だし名前で呼んでくださいと最初に言った)。

その言葉に私は首を傾げると彼は優しく言う。

『待っている人の方がきっとずっと辛いんだ。自分は安全な場所にいてもその人は危険な場所にいるのかもしれないわけだから』

それに、と。彼は続けた。

『警察官も、警備員も。何かを護る人は、自分の帰りを待ってくれている人がいるから、護りたい人がいるから、強くなれる』

いつの間にか彼はとおくを見ていた。その向こうにある何かをみるように。

私の視線に気付いたのか私に向き直り、きれいな、本当に優しい顔で、言った。

『きっと、はやてにも判る日がくるさ』

 

・・・・・今ならほんの少しだけわかる。私にも、護りたいものができたんだから。護りたいものがあるから。

心に熱が灯る。眠気は全て吹き飛んだ。手に力がこもる。

だからありたっけの想いを込めて目の前の彼女に言った。

「私も、騎士達と同じようにあなたを愛しく思っています・・・・・だからこそ、あなたを殺してしまう自分が許せない」

その言葉を受けて、この人は悲しげに呟いた。

暴走する自分。主の身体を侵食し喰らい尽くしてしまう自分。そして、それをとめられない自分。

愛しいのに、こんなにも想っているのに。

だけどどれだけ願っても、想っても、望んでも、変わらない結末。変わらない運命。

ああ、なんて自分と似ているんだろうと私は思った。

どれだけ望んでも足は動かなかった。どれだけ願っても外を駆け回ることが出来なかった。

そして次第に募ってくる諦観。

だけどシグナムやシャマル、ヴィータとザフィーラに出会って、少しだけ私は変われた。足は相変わらずだったけれどそれでもよかった。私は本当の笑顔で笑えるようになったから。

覚醒の時に知った私の足のこと。シグナム達がリンカーコアを私に言わずに集めていた理由。

・・・・・私はとうに諦めていたのに。彼女達はこんなにも頑張ってくれていた。運命に抗ってくれていた。

だから私も抗おう。もう、諦めない。・・・・・・・・・・・・・・どうか、1歩前に踏み出す勇気を!

私の願い。私のほんとうの願いは――――――――――――――!

「だけど、忘れたらあかん。あなたのマスターは今は私や。マスターの言うことはちゃんと聞かなあかん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『私に家族をくれたあなたと、私の家族達と。ずっと一緒に生きていきたい!』

 

 

 

 

 

 

瞬間。ひかりがはじけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――ごめんね、アリシア。私は、いかなくちゃ」

私はこの夢を否定した。

ずっとここにいたいと確かに思った。私の望んだ世界だった。・・・・だけど、ここにはいない人がいる。

さっきからずっと聞こえていた。なのはの声が、恭也さんの声が、アルフの声が、ユーノの声が。

だから、私はもう夢の中にはいられない。待っていてくれる人がいるから。

「ん。そっか。フェイトならそう言ってくれるって信じてた」

私はこの夢を否定したというのに、アリシアはうれしそうに笑っていた。その反応に私は戸惑ってしまう。

そんな私に気付いたのか、アリシアががばーっと突然抱きついてきた。

「私はフェイトのお姉さんだからね。妹のことなんてみんなお見通しなんだよ?」

そのままアリシアは顔を胸の辺りに埋めながらぎゅうっと抱きしめてきた。いまさらながらその小さな温もりが消えてしまう事に涙が頬を伝う。

私もアリシアの身体を優しく抱きしめる。

「ほんの僅かな時間だったけど。フェイトと居られてうれしかったよ」

「私・・・も、嬉し・・・・・・かっ・・・た・・・・・・・!」

だめだ・・・うまく言葉にならない。これが夢だとわかっているけれど、そこにあった温もりは本物だった・・・・!

アリシアは腕を解いて、私からゆっくりと離れた。そして手を差し出す。

涙で霞む視界の中に、アリシアの手のひらに乗っていたものが、見えた。

「バル・・・ディッシュ・・・・・・」

アリシアは私がそれを受け取るのを静かに待っている。その表情は穏やかだった。

だけど私は途中まで腕を伸ばし、とめてしまう。

判っている。ここが現実と虚構の境界線。これを受け取ればもう引き返せない。夢は夢らしく沫と消える。

だけどそんな私を見かねたのか、迷う私の背中をアリシアの言葉がそっと押してくれた。

「・・・・・・待っているんでしょ?優しくて、強いひとたちが」

「・・・・・うん・・・・・ごめんね。ありがとう・・・・!」

そう言って、今度こそ手を伸ばしバルディッシュを掴んだ。

それと同時にアリシアの身体が光りだす。周りの世界もうっすらと光りだした。

全てが光りの粒子となって還っていく。その様子を私はとめどなくあふれる涙を止められないまま瞳に焼きつけた。

アリシアが、世界が消える瞬間。私はアリシアの声を確かに聞いた。

 

 

 

『いってらっしゃい。フェイト・・・・・・』

 

 

 

そうして全てが消え去り、いつの間にか私は別な場所にいた。

周りが白で埋め尽くされているのにここだけは未だ色を保っている。

ここがきっと扉。もう一つの現実と虚構の境界線。そして鍵は確かに私の手に。

私は静かにバルディッシュを、自分の相棒にして友人を見つめて

「いってきます・・・・姉さん」

そう言ってバルディッシュを起動させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優しい光が溢れている。そして理解する。・・・・これが私の魔力。

「名前をあげる。もう闇の書とか呪いの魔導書なんて呼ばせへん」

彼女の頬を両手で包み込みながら、けれど明確な意思を込めて言う。

「私は管理者や。私にはそれができる」

そして彼女の瞳から涙が溢れた。それは歓喜の涙か、それとも悲しみの涙か。

「無理です・・・・自動防御プログラムが止まりません・・・。管理局の魔導師が戦っていますが・・・・」

泣きながら、涙声で私にそう告げた。

だけど決めたのだ。絶対に諦めないと。抗い続けると!

「・・・・・止まって!」

声に従うように、この世界を覆うように私の魔力が疾った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『え!なのはちゃん!?ほんまに!?』

「うん、なのはだよ。色々あって闇の書さんと今戦ってるの」

そうなのはが言うとはやてからの声が一瞬途切れる。

『ごめん、なのはちゃん。その子止めてあげてくれる?』

はやての説明はこうだ。

闇の書本体とは別のプログラムが存在しているということ。

本体とのコントロールは切り離したが別のプログラム――自動防御プログラムが起動(はし)っていると管理者権限が使えないということ。

そして、自動防御プログラムを一時的にでも停止させられれば管理者権限が使えるようになり・・・総じて闇の書を救えるということ。

『マスター!これならいけますよ!』

『ええ。高威力の魔力ダメージを直撃させれば一時的にフリーズするはずです!』

「なるほど、それなら」

白姫と黒姫の言葉に頷きなのはを見る。するとタイミングよく黒姫が言っていたことと殆ど同じ内容を念話でなのはに伝えていたらしい。

「さっすがユーノ君!わっかりやすい!」

It's so>

そう言いながらなのははレイジングハートを構える。突破口が見えたからかその表情は嬉々としていた。

・・・・・・・だんだんなのはの性格が変わってきてるような気がしてそこに一抹の不安を感じるが。

自身の危機に反応したのか。海中から無数の触手が現れ、チャージ中のなのはに殺到する。だがなのはは魔法の起動を止めない。

「邪魔だ!!」

裂帛の気合と共に恭也の姿が掻き消え、瞬きの間に数十本に及ぶ触手は全て切断されていた。

なのはの傍らに付き、剣を構えながら表に出ている自動防御プログラムを睨み付ける。

「御神の剣は護るために。――――一撃たりとも通しはしない」

兄の声を頼もしく感じながら、なのはは自身の役目を果たすべくレイジングハートの起動プロセスを開始した。

「エクセリオンバスター、バレル展開。中距離砲撃モード!」

All right.Barrel shot>

レイジングハート自身が伸び、先端に魔力が収束する。光の翼が煌々と光り、それは放たれた。

風を切り裂きながら不可視の砲弾は闇の書の殻めがけて飛来する。そして砲弾はそのまま闇の書を通り抜け――完膚なきまでにその身を拘束した。

そのまま次の魔法を起動する。

収束するこれまでと比べ物にならない魔力に反応し、風の檻に閉じ込められた殻に代わり再び海中から触手が殺到する。

しかしそれもその殆どを恭也によって切り裂かれ残りも駆けつけてきたユーノとアルフによって拘束されていく。

「エクセリオンバスター!フォースバーストッ!!」

レイジングハートに環状魔法陣が出現し、収束された魔力がプログラムに従い指向性を帯びていく。

――準備は整った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――はやては告げる

「夜天の主の名において、汝に新たな名を贈る」

声は優しく、聖母のごとく、迷える彼の子に救いを与えるために。

そしてその名が、願わくばこれからもずっと彼の子を象徴する名であらんことを切に願って。

「強く支えるもの、祝福の追い風、幸運のエール・・・・・・」

 

 

――フェイトは告げる

「バルディッシュ、ここから出るよ。サンバーフォーム、いける?」

yes,sir>

「・・・・・いい子だ」

バルディッシュを掲げ魔力を疾らせ自分に残っていた最後の夢の残滓を還す。

見慣れたバリアジャケットを確認すると同時に、構える。その構えは斧を持つためのものでもなく、大鎌を振るうためのものでもなく――剣を振るうために。

Zamber form>

起動プログラムが走ると同時にカートリッジが二発装填され、魔力が開放される。変形は、換装はわずか数瞬で済んだ。

フェイトの手には巨大な剣の柄が握られていた。刀身のない大剣。否、刀身はすぐに現れた。魔力で編まれた巨大な刀身が。

偶然なのかそれは第一制御状態の白姫と黒姫のデバイスに酷似している。

足元に黄色に耀く魔法陣が展開され、フェイトはバルディッシュを前方に掲げてからゆっくりと一周させる。

一周させると同時に上段に大剣を構えた。

「疾風迅雷!」

声が空間を震わせながらあたり一面に紫電が走る。あとは、この魔法を起動させるだけ。

姉のおかげでもう迷いはない。この夢を終らせる。自分を待ってくれている人のいる世界に帰るために!

 

 

――なのはは告げる

「助けるよ、絶対に」

はやても、フェイトも、彼女も。

なのはが望むのはありふれたハッピーエンド。皆が幸せに笑える絵物語のような終幕。

悲しい物語はもういやだった。

それは子供ながらの純粋な祈り。無垢なる願い。現実などという無粋な言葉で汚されない眩しいほどの願い。

叶わないなどと思わない。叶わないなどと諦めない。絶対に叶えてみせる!魔法はきっと、そういうための力なのだから――!

「ああ。必ずな」

隣にいた兄の声が聞こえた。どうやらさっきの言葉はばっちり聞こえていたらしい。

だけどその声は力になった。優しい、大好きな兄もそう思ってくれているのだ。これほど心強いことはない。

意思は十分。想いも貰った。あとはその全てをもって引き金を引けばいい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして三人の少女の声は一つとなり、想いを紡いだ一条の光は今度こそ、夜の(そら)に届いた。

 

 

 

 

 

 

「リィン、フォース・・・・!」

「スプライトザンバーーー!!!

「ブレイクシューートッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜明けは、近い。

 

 

 

 

 

 

 

 





いよいよ闇の書事件も終わりを見せる!
美姫 「うんうん。本当にどうなるのかしらね」
恭也となのはは、無事に事件を解決できるか。
美姫 「一体どうなるのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってま〜す」



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