『魔法少女リリカルなのはA's side『KYOUYA』』




     

     

第12話       『運切(さだぎり)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳴り響く聞きなれない警告音。

椅子に寄りかかり力を抜いていたエイミィの身体は半ば反射的に弾けるように身を起こした。

「え!?」

突然の事態に慌てて対象空間を映し出したモニターを目の前に持ってくる。

「嘘・・・・・」

そこに映っていたのは完全消滅したはずの異形がものすごい速度で再生していってる姿だった。

艦長席に立っていたリンディも事態に思わず歯噛みする。

アルカンシェルはその構造と消費魔力の都合で連射できない。つまりは一発限りの核弾頭のようなものだ。それよりもアルカンシェルで消滅させきれなかったというのが信じられなかった。

そんな事は管理局の記録にすら残っていない。

しかしその疑問は異形が闇の書の防衛プログラムであったことを考えれば容易に想像が付くはずだ。

思い出してほしい。前回の闇の書は何が原因で転生したのだったろうか?―――そう。他ならぬアルカンシェルの直撃をうけて、だ。

ならば防衛プログラムが闇の書を護るために対アルカンシェル用の魔法なり方法を作り出していてもおかしくは無い。

「く・・・!再チャージを開始!」

「りょ、了解!」

今からチャージしても完了する頃には目の前の異形はほぼ元の形を取り戻してしまうだろう。そうなれば向こうからの攻撃行動も十分考えられる。

何よりコアだけに近かったにも関わらず消滅させきれなかったものが果たして消滅させられるのだろうか・・・・。

リンディは暗い思考を頭を振って振り払い、毅然とした表情で目の前の異形を睨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方でその報告をうけた地上メンバーは動揺を隠せなかった。あのクロノですらそうなのだから他のメンバーは言うまでもない。

その中でただ一人。恭也だけは平静を保ったまま空を見上げている。

「・・・・・どうだ?」

『ギリギリ、ですね・・・・。辛うじて届くとは思いますが・・・それより!』

『主!そんなことをすればお身体に障ります!』

二人の言葉を聞きつつも、恭也はただ準備をと告げる。

『マスター!』

『主!』

「だがアースラはチャージが間に合わない。完全に再生されたら俺でも無理だ。・・・・・だが今なら届く」

ゆっくりと一呼吸して再び言葉を発する。

「心配してくれるのは有難い。だが俺が君達とした誓約は・・・・覚えているだろう?」

『『・・・・・』』

「だから頼む・・・・俺に力を貸してほしい」

しばしの静寂。強い意志の秘められた恭也の真摯な眼差しと言葉に、白姫と黒姫が折れた。

『はあ・・・・わかりました!私たちが全力でサポートします!』

『あの誓約を持ち出されたら何もいえません。主の御心のままに!』

「有り難う。ふたりとも。感謝する」

そう言うと拳を強く握り締め、なのは達よりもさらに上空に移動する。

恭也の行動に皆が顔を上げ恭也を見やる。

「お兄ちゃん?」

「なのは・・・・・皆を連れて下がってくれ」

自分を見上げる妹にそう告げると恭也は足元にミッドチルダともベルカとも違う魔法陣を展開した。

一つや二つではない。計七つの魔法陣が異なる位置に現れそれぞれが線でつながれていく。

手を懐に入れコートの内側から取り出したカートリッジを両手のデバイスに装填。数にして12。その全てを一つ残らずデバイスに叩き込む。

装填し終わると共に中に込められた魔力が眼の眩むような閃光と共に溢れ出した。魔力は恭也の身と眼下の魔法陣に一切の零しもなく注がれていく。

「ぐっ・・・・!」

流れ込む明らかに許容を超えた量の魔力に恭也の全身が悲鳴をあげた。それでも恭也は魔法の起動を止めない。歯を食いしばりながら、痛みに耐える。

『起動プロセスを開始。<Failnaught(フェイルノート)>生成・・・・』

『術者からの魔力供給を確認。7%・・・8%・・・・』

デバイスから発せられていくプロセス。が―――

「ぐあっ!!?」

ただ、ただ魔法を起動させているだけだというのに恭也の口からは苦悶の声が溢れた。その顔に明らかな苦痛の表情が刻まれているのが容易く見てとれる。

「お兄ちゃん!?」

「「恭也さん!?」」

恭也のそんな様子をみて少女達から悲鳴があがった。しかし周囲の声が聞こえないほど集中している恭也に声は届かず、恭也はそのまま魔力を注ぎ続ける。

『魔力経路に過負荷発生・・・・・や、やっぱり無茶ですっ!!マスターの身体が耐え切れませんよ!!?』

『それにこのペースではアルカンシェルの方が速いです!いまならまだ中断が可能―――』

「続けろっ!!」

『『!!』』

おそらくは初めて自分達に向けられた恭也の怒声に白姫と黒姫からまるで全身を振るわせているような雰囲気が伝わってくる。眼下の少女達も突然の事に身体を強張らせていた。

「・・・・すまない、だが続けてくれ。間に合わないと言うのなら・・・・・・」

最後まで言い切る前に、突然恭也から流れ込む魔力が上がった。上空に向かって伸ばされた片腕を中心に全身から放電しているかの如く魔力が溢れ出す。

・・・その代わり恭也の全身を襲う痛みはいつ気絶してもおかしくないものになっていた。口から漏れる苦悶はもはや絶叫のそれに近い。

「がああああああああ!!!!」

『だ、だめです!やめてください!!』

『魔力供給量急速上昇、12%・・・・20%!・・・・っ!!主、経路を抉じ開けましたね!!?』

彼女達の制止の声も聞かず恭也はさらに魔力を注ぎ続けていた。

 

 

その様子を呆然と見つめていた少女達だったがポツリと、クロノが口をひらいた。

「・・・・・だめだ。あきらかにオーバーフローしている・・・・」

独り言のようにか細い声だったが静まり返っていた場であっては小さな声でも一字一句漏らさずその場の皆の耳に届く。

「く、クロノ君・・・・?どういうことなの・・・・」

「そ、そうや。ちゃんと私達にもわかるように説明して・・・?」

二人は震える声で囁くように言う。アルフやユーノ、ヴォルケンリッターの騎士達も同じことを思っているらしく全ての視線がクロノに集中していた。

その中でただ一人、フェイトだけはクロノの言葉の意味を精確に理解していた・・・いや、してしまったのか瞳に涙を溜めてガクガクと身体を震わせている。

「・・・正確に計測していないからなんとも言えないが恭也さんの保有する総魔力量はなのはに匹敵している。だけど決定的に違う点があるんだ」

そこまで言って周りを一度見渡して視線で確認を取る。全員が頷くと再びクロノは口を開いた。

「推測だが、恭也さんは魔力の瞬間および最大放出量が極端に少ないんだ。その証拠にこれまでの戦闘では砲撃系の魔法は使っていない。小型の剣を飛ばす魔法も一発の威力はけして高くはないし威力が大きかった方は詠唱をしていた」

「だから!それが一体いまのアイツの状態にどう繋がるんだい!!」

いつまでも核心に迫らないクロノの言葉にアルフが焦れて苛立ちが篭った声をあげる。

いつもならその程度のことでは平静を乱さないクロノだが、そんなクロノがアルフの言葉に表情と言葉に焦燥感を纏わせたまま声をアルフ以上に声を荒げて、言った。

「恭也さんは言葉を拾う限りここから軌道上の防衛プログラムを狙うらしいんだ!!そうなれば撃つのは当然長距離砲撃魔法!それもアルカンシェルクラスのだ!」

クロノの今までに見たこともない形相になのは達、さっきまで声を荒げていたアルフすら二の句が告げなくなってしまう。

「今までの恭也さんの放出量じゃ闇の書の闇の完全再生どころかアルカンシェルのチャージにすら間に合わない!!だから―――!」

「・・・・・恭也さんは・・!限界量を遥かに超えた魔力を放出しているのっ。あのままじゃ身体の方が先に壊れちゃう・・・・!!」

クロノの言葉を引き継ぐように涙声でフェイトが残りの言葉を紡いだ。

 

例えるのなら蛇口だ。

蛇口から出る最終的な水の量はなのはと恭也にあまり差異はない。ただ恭也にくらべてなのはの方が一度に出る水の量が違うのだ。

当然なのはの方が先に水は出きる。さて、ここで問題。では同時に蛇口を開けて水を放出し出した恭也がなのはよりも先に全部の水を出し切るには一体どうすればいいだろうか?

答えは簡単。蛇口を強引に捻り、出す量を増やしてしまえばいい。当然、許容量をオーバーした蛇口は壊れてしまう。

 

クロノとフェイトの言葉になのはは顔を青ざめるさせる。そのまま弾かれるように上空の恭也を仰ぎ見るようにして、叫んだ。

「だめぇ!!お兄ちゃん!そんなことしちゃだめだよ!!」

痛みで多少なり集中力が緩んでいたのか、今度はなのはの声は恭也の耳に届き、首だけ動かしてなのはを見る。その顔には汗がびっしょりだった。

「私やだよ・・・!お兄ちゃんがいなくなったりするなんていやだよ・・・・!」

「私もいやや!まだ助けてくれたお礼も言ってない・・・!」

「私もいやです!これが終ったら剣の事改めて教えてくれるって約束しました・・・!」

悲痛な少女達の祈りの言葉。言葉は確りと恭也に届き、胸を、心を打つ。―――だからこそ、彼は微笑んだ。

「君達を護ると、誓った。だから俺はまだ戦える。・・・・それにこんなところで終るつもりも無い」

気絶しそうな激痛に苛まれながらも、それでも彼は笑った。まだ戦えると。帰ってくると。そう言いながら。

誰もが、特にヴォルケンリッターの面々は恭也の言葉を聞いて、想いを感じて、その姿をみて、思った。

―――騎士だ、と。今、目の前で戦っている彼は間違いなく伝承にある騎士の姿だと。

主に忠誠を誓い、その誓約破る事あらずとする、騎士。いや少し違う。彼にとっての主は誓約そのものだ。

彼にとって誓約は絶対。神聖にして不可侵。

そんなものはただの言葉遊びだ。自分達にはただ他に彼を言い表すことが出来なかっただけ。最初に感じたのは、彼の騎士のような姿を見て

―――美しい、と。

彼の在り方がどうしようもなく綺麗で、眩しくて。・・・・失いたくないと、誰もが思ったのだ。

 

「・・・・・・ギ!ぐ、がああぁあああああああ!!!」

限界を超えた魔力の放出にとうとう身体が耐えられなくなり、身体が内側から小さくだが裂け、血しぶきが舞う。

掲げる手の先には収束した魔力が何かのカタチを創り出し、だんだんと左右に伸びていき

『・・・!100%に到達!<Failnaught>生成終了・・・・・・・!』

魔力の閃光が弾けた後、それは弓となった。

魔力で構成された光り輝く弓。名を<Failnaught(フェイルノート)>。無駄無しの弓と呼ばれる、狙えば確実に中たる必中の弓と同じ名を戴く魔弓。

『・・・・っ!第二プロセスに移行!魔弾生成を・・・開始します・・・!』

デバイスの声に導かれるまま恭也は掲げた手で魔弓を掴み、痛みに耐えながら弦を引き絞っていく。同時、魔弓の中心部に眼下にある魔法陣の一つより一回り大きい同型の魔法陣が展開された。そこに魔力が集っていく。

さっきまでのはあくまでも第一段階。消費する魔力で言えばここからが本番だ。だからこそ、第二プロセス開始を告げたデバイスの声は涙に濡れていた。主の身に刻まれる苦痛を想像して。

もう恭也の身体はボロボロだった。バリアジャケットが黒だから見た目にはよくわからないがいたる部分に血が滲んでいる。あらゆる箇所に裂傷ができ、腕にある傷は特にひどい。

最初は小さな裂傷が今では大きくなり内側の肉が見えている傷さえ存在している有様だ。並の大人ならとっくに気絶していることだろう。

それをいままで培った強靭な精神力で恭也は耐える。痛みに耐え、悲鳴を噛み殺し、むしろさっきよりも大量の魔力を放出し弓の先に流し込んでいく。

その度に内側から身体のあらゆる場所が裂けた。できる傷も魔力の放出量の増大によって大きく。

そして・・・・・とうとうバリアジャケットすら裂けた。

それでも恭也は止まらない。腕に力を込め弓を持ち、弦を引き絞る。

「やめてぇぇええ!!もうやめてお兄ちゃん!!!!」

目を覆いたくなるような惨状に大きな瞳から止め処なく溢れる涙を止められないまま必死になのはは恭也に呼びかけ続けた。恭也がそれで止まらないと判りつつも叫ばずにはいられなかった。

兄は全身傷だらけになり、それどころか死の可能性すらあるというのにそれでも頑張っている。

だというのに自分はどうだ?ただみているだけではないか。その事実が悲しくて、悔しくて、涙がいつまでたっても止まらない。

主の嘆きが、涙が、レイジングハートにも伝わったのかそのコアクリスタルが耀く。

「レイジングハート・・・・」

実際に何か言ったわけではなかったけれど、それだけで伝わった。いつも自分の側にいてくれて、助けてくれて、戦ってくれた友人だったから。言葉などなくとも想いは届いた。

涙を袖で拭って顔をあげる。何も出来ないならせめて、目を逸らすことだけはしてはいけないと思って。

なのはの視線は皆と同様に確りと恭也を捉え

 

「・・・・・・え?」

 

―――偶然。ほんとうに偶然『それ』が目に留まった。

魔法陣が、耀いている。

それだけならばなのはも気付かなかった。・・・・・違うのはただ一点。

 

恭也の魔力とは無関係(、、、)()耀いているのだ。

 

なのははじっと目を凝らして魔法陣を見つめる。その違いにこの状況を打開する何かがあると信じて。

・・・その思いは、果たして届いたのか。

 

「・・・・・!!レイジングハート!」

<・・・・・!>

弾かれるように自身の魔杖を見つめる。また魔杖も主の思ったことを肯定するように赤い耀きを放つ。

なのはの顔に、笑顔が戻った。それだけではない、意思も、想いも。消えかけていた全てが蘇り今まで以上に燃え上がる。

「いくよレイジングハート!」

yes,my master!>

足にアクセルフィンを展開。フィンは強く強く羽ばたき、なのはは恭也の元へと疾駆した。

「なのは!?」

「なのはちゃん!?」

後ろから仲間の声が聞こえるが無視して飛ぶ。なのはを占める思考は唯一つ。早く、速く、疾く――――――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ぐ」

一方、恭也はもう叫ぶことすら困難になってきていた。痛みで神経は今にも焼き切れそう。それでも魔力の放出を止めることはできない。

『魔弾生成50%終了・・・・。神経組織および肉体を構成する細胞に掛かる過負荷がもう限界に近いです・・・・!』

『マスター!自己再生速度をこれ以上あげるのは不可能です!お願いですからもう・・・・・!!』

「・・・・速度が足りていない。俺に構わず上げてくれ・・・・」

『『!!?』』

朦朧とする意識の中、悲痛な叫びを無視して白姫と黒姫に告げる。

さっきから魔力の放出量が下がってきているのを恭也は自覚していた。それは別に彼女らがセーブをかけたというわけではなく限界近くまで追い込まれている肉体が生命維持を最優先にし働きかけているだけだ。

だがそれを止めるということは自殺行為。肉体そのものが生命の危機を感じているのにそれを強引に押さえ込んでしまえば待っているのは必然だけ。

それでもこのままのペースでやっていれば間に合わないことは眼に見えている。今までやってきたことが水泡と化す。それだけは避けなければならなかった。

恭也の声にデバイスである彼女達は応えない。当たり前だ。自らの主が死ぬのがわかっていてそれを許容できるわけがない。たとえ、主の願いであったとしても。

「(・・・・仕方ない)」

予想できていたのだろう。恭也は自らに働きかけ、もう一度魔力の経路をこじ開けようとして――――――ふと、身体に掛かる負担が減った気がした。

いや、気のせいなどではない。確かに負担は減っている。ただ解せないのは魔弾に注がれる魔力はさっきよりも増えている事実。まだ経路はそのままだというのに、だ。

いぶかしげに思い視線を走らせ・・・・・・・・・・・・・・・・・彼の瞳は、彼女を捉えた。

「なのは!?」

いた。その少女は。――――――眼下に敷かれている魔法陣の一つに。

恭也の視線に気付いたのか、とびっきりの笑顔を向ける。

「な、なにをやっている!?はやくそこからどくんだ、なのはっ!!」

焦ったような声が恭也の口から飛ぶ。しかしなのはは言葉を聞き入れることなくその場に立ち、足元に桜色の魔法陣を展開していた。その顔にはかすかではあるが汗が見えた気がした。

 

敷かれていた特異な魔法陣はただの魔法陣ではない。個人レベルで戦略(メガデス)級魔法を行使するためにマナを無差別に取り込む魔法陣だ。

大気に充満するマナは魔法陣に吸収されそれはそのまま魔力に変換、この場合の魔弾へと注がれる。そこまでして初めてこの魔法は完成されるのだ。

―――先も述べたようにこの魔法陣は無差別に魔力を取り込む。近くにあるものから順に。魔法陣の近辺に人がいれば当然・・・それも吸収対象になる。ましてやその魔力が巨大であればあるほどその対象になりやすい。

 

「なのはっ!頼むからそこからどいてくれ!!そのままでは―――!」

恭也の口から漏れる焦燥に駆られた声。自分の身体はもうボロボロなのにそれでも心配してくれる優しい兄。でもそんな兄でも譲れないものもある。いや、そんな兄だからこそ譲れない事が。

「お兄ちゃんは私を、私達をいつも護ってくれた。だから今度は私がお兄ちゃんを護るの!・・・おにーちゃんを無くしたくないのっ!!」

「っ!」

その言葉で恭也の言葉は完全に封殺された。

なんてことだろう。その言葉は、まるで―――――――――

恭也が表情を驚愕に染め口を閉ざしていると、また一段階負担が軽くなった。そしてそれは連鎖するように次々と。

なのはに向いていた視線を外し、まさか・・・・と視線を走らせ、そこで恭也の視界に飛び込んできたのは

 

 

 

「バルディッシュ!まだいけるよね・・・・!」

yes,sir!>

 

「リインフォース、いくで!!」

<はい・・・!我が主・・・!>

 

「はやてが頑張ってんだ!アタシらが頑張らなくてどーする!いくよ!グラーフアイゼンっ」

Jawohl!!>

 

「お前の主はこの程度で音を上げるような主だったか?―――レヴァンティン!」

Nein!!!>

 

「僕らもやるぞ!デュランダル!」

Okey,boss!!>

 

 

 

彼女ら、彼らは、いた。魔法陣の全てを埋めるように。魔法陣に重ねるように自身の色の魔法陣を敷きながら。

「・・・・・・」

その光景を呆然と見つめる。身体にかかる負荷はもうほとんど消えていた。

『魔弾生成速度急上昇!・・・・・80%・・・・・90%・・・・!』

『神経組織および肉体構成細胞、正常値。負荷許容範囲内』

デバイスの彼女達の声が聞こえる。声に宿る感情は、どんな色をしているのだろう。そしてその色が示すのは安堵だろうか、それとも・・・・

「・・・・また、間違うところだったな」

恭也は誰に言うでもなく、ぽつりと呟いた。

閃光とともに脳裏に浮かび上がった、あの幼少の頃の光景が。膝を砕いたときの事を。その時の家族の表情を。桜並木の下で出会った、剣士としての道を優しく照らしてくれた彼女のことを。寸分の狂いも無く、間違いもなく。

恭也の誓いは今でも変わらない。皆を護るための剣となる。だけど―――その方法は一つではないのだと思い出させられた。

何でも一人で出来るわけではない。一人で戦うことだけが強さではないのだと、強さとは様々だと、あの車椅子の少女に自分の口から言ったはずだったのに。

「俺もまだまだ修行がたらんな・・・・」

そう言って顔を上げる。その顔はまぎれもなく、御神の剣士。それでいて誓約を護る騎士の顔だった。

『・・・・魔弾生成終了。これより最終シークエンスを開始します!』

『バレル展開!レールオープン!』

白姫と黒姫から発せられる声は心なしか弾んでいた。さきのような暗さや悲しさは消えている。

デバイスの声に伴い魔弓の先端にアルカンシェルのように環状魔法陣が砲身を作り上げ、その上からレール状のバレルが追加展開される。

『仮想スコープ現出!照準開始・・・・・ロック、オン!』

『戦略級魔法、装填!目標、軌道上!』

恭也の目から仮想スコープ越しに異形を捉え、ロック。弓の中心の魔弾はその耀きを増す。

恭也は一心に・・・・イメージする。イメージするのは人に仇なす魔を滅する破魔の炎。金色の炎。そして以前見た、見事という言葉すら生ぬるい神咲葉弓の弓術。その動きの全てを思い出す。一手、一足、一挙動にいたるまで。

『イメージ伝達率最高値!セーフティ解除!』

『変換終了―――トリガーオープン!』

魔弾はいつの間にかその耀きを変えていた。穢れ無き真白の耀きではなく、穢れを払う眩い光。

準備は、完了した。あとは疾く放つのみ!

「我が束ねし想いは、ただ一筋に貫くっ!!!」

耀く金色は恭也の声に応え

「「「届いてっ!!」」」

「「「届けっ!!!」」」

少女達の想いに猛る炎は最高潮に達し、そして―――

 

『『「浄化の炎よ!エターナルブレイズッ!!!」』』

 

放たれた。撃ち出される瞬間に衝撃波を撒き散らし、爆音を振りまきながら、放たれた。炎は金の奇跡(、、)を描きながら、高く高く、天へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦長!膨大な魔力反応!これは・・・・・・地上からです!」

「なんですって!?」

モニター前の刻一刻と再生していく異形を睨みつけていたときだった。クルーの言葉がリンディの耳を打つ。

目の前の異形から魔力反応があるならまだしも地上からとはどういうことだ。そう思い急いで部下に命令を下そうとするがその前にエイミィがモニターに地上の光景を映し出す。

「!?」

その光景を見て、クルーの全てが絶句した。映し出された映像はちょうど恭也がエターナルブレイズを放つ瞬間のもの。

「魔力計測・・・・あ、アルカンシェル級・・・?いえ、戦略(メガ)魔法(デス)級です!?」

「砲撃魔法、軌道上の目標に向けて高速接近・・・・減衰なし・・・ご、誤差コンマ2桁まで狂いがありません!!」

アルカンシェルのチャージは未だ半分にも満たない。また今の今まで反応がなかった。そう考えるとあの魔法は少なくとも初撃のアルカンシェルが撃たれた後にチャージが始まったことになる。

おまけにその規模は戦術魔法級。ありえない事だらけでもう唖然とするほかなかった。

「!砲撃、目標に直撃!!」

クルーの声にリンディを含む全てのクルーが我に返り、息を飲んでモニターを見つめる。

不可解なことだらけではあるがアルカンシェルが効かずチャージが間に合わない以上もはやこの一撃にかけるしかない。祈るような気持ちでモニターを見つめている。

異形は空気のない真空でなお焼かれていた。金色の炎は煌々と燃え上がり異形を飲み込んでいく。一方の異形も焼かれた生体部品を瞬時に再生していくため、拮抗していた。

だがその拮抗はすぐに終る。異形の身がボロボロと崩れ、消えていく。

「さ、再生反応消失!すごい勢いで目標が崩壊していっています!」

クルーの一人が手元のコンソールに映る数値データを見て思わず叫ぶ。

―――浄化の炎、エターナルブレイズ。

それは闇を焼き尽くす滅びの業火。ありとあらゆるものを滅びという事象で「浄化」する。その気になれば世界ひとつ消し去る戦略魔法。

その炎に焼き尽くせぬものなどありはしない。

異形は声にならぬ叫びを上げながら必死に抵抗するが無駄に終る。数瞬待たずにコアが露出。露出されたコアも炎を浴び、消滅していく。

そうして、コアの最後の欠片が燃え上がり、消滅した。金色の炎は役目を終えたのに気付いたのだろうか。その場で炸裂し、太陽のように大きく耀くと炎を鎮めた。

「・・・・・・・・・・・」

艦内は静まり返っていた。しかし、目の前で起こったことがようやく現実味を帯びたのか一瞬にして喝采の嵐が吹き荒れた。

リンディも安堵のため息をつきエイミィにつなぐ。

「エイミィ、念のため準警戒態勢を維持。・・・・まあこっちはあまり必要ないでしょうけれど。あとはあの子達に連絡してあげて」

「はっ、はい!!」

エイミィへの艦内通信を終えるとリンディも自分の座席に腰を下ろし、その表情を和らげた。

 

 

 

 

 

「と、いうわけで現場のみんな!お疲れ様でした!状況、無事に終了しました!」

現場に届いたエイミィの声に全員が安堵のため息を零した。強張っていた肩の力を抜く者、顔を見合わせて笑顔を浮かべる者。

そこにいたそれぞれがおもいおもいの行動をとりながらだけど共通して喜びをかみしめていた。

「お兄ちゃんもお疲れ様!身体大丈夫?」

「そうです!怪我とか治療しないと!」

「そうだな。アースラに連絡して医療班を待機させてもらおう」

結界内に残されていた友人達の安否が判明したなのはとフェイト、クロノが恭也に声をかける。途中からは自分達も協力したためダメージはそれほどではなかったがそれまでのダメージは楽観視できるものではなかった。

恭也はその声に反応しない。手をだらりと下げたまま空を向いている。

どうしたんだろうと思い、三人は恭也の側に寄ろうとして――――――それは起こった。

「「「!!!」」」

まず恭也のバリアジャケットが消失し、ズタズタの血に染まった普段着が顕わになった。黒が血に染まってさらに黒く変色している。

次に篭手型のデバイスが待機状態の指輪型に戻る。最後に飛行魔法が強制解除され、そのまま海に向かって落下した。

慌てて飛行し三人で落ちてきた恭也を受け止める。恭也の顔は当然ながら苦痛に歪み、血の気が失せ青くなっていた。

「はやて!?」

「はやてちゃん!?」

向こう側で守護騎士達の声があがった。恭也を支える腕はそのままに顔だけ動かし声が聞こえた方向に視線を向ける。

瞳に映ったのはシグナムに支えられながら力なくぐったりと横たわるはやての姿と心配そうにその様子を見つめる守護騎士達の姿。

「はやてちゃん・・・・お兄ちゃん・・・・」

なのはの漏らした悲しげな呟きは静かな海に溶けるように木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・やはり、破損が致命的な部分まで至っている」

アースラの一室。はやてが眠る部屋でリインフォースは守護騎士達に向かってそう告げた。

「防御プログラムは停止したが、歪められた基礎構造はそのままだ・・・・・遠からず私は、夜天の魔導書は再び暴走する」

「やはり、か・・・」

判っていたこととはいえ、どこか沈痛な面持ちでシグナムは一人ごちる。シグナムだけでなく周りにいる守護騎士達全員にいえることではあったが。

「修復は・・・無理なの?」

「無理だ。本体の私の中からも夜天の書本来の構造は消えてしまっている」

「元の姿がわからなければ、戻しようもないということか・・・」

シャマルが縋る気持ちで尋ねるが返ってくる答えは「ノー」だ。

夜天の魔導書。闇の書の本来の姿。内部構造を歪めた主のせいか、それとも歪められた状態が長く続いたせいか。どちらにせよ本来の構造は消えてしまっていた。

構造が元にもどせない以上、防御プログラムは再び生成され、暴走する。それは避けられない必然。

防御プログラムはそもそも闇の書にリンカーコアの蒐集とともに蓄えられた統制されていない魔力の固まりだ。魔力さえあればいくらでも蘇る。

今回消滅させられたのは一単に防御プログラムを本体から切り離せたためだ。再びコアが再生すればはやてのリンカーコアが食われる公算はきわめて高い。

「主はやては・・・・大丈夫なのか?」

故に守護騎士達の心配することはその一点だった。シグナムの問いにリインフォースは「大丈夫だ」と答える。

「侵食も完全に止まっているしリンカーコアも正常作動している。不自由な足もじき、自然に治るだろう」

リインフォースの答えに安堵の息が全員から漏れた。ならばもう思い残すことは無い。

確かにはやてと共にいられるというのは彼女らにとってはこれ以上ない幸せだ。だがその結果、はやてに何かしらの害が及んでは本末転倒もいいところ。

はやての幸せこそが彼女達の一番の幸せ。今の防御プログラムの無い夜天の書の完全破壊は容易い。はやてが幸せになれるのなら笑って消滅を受け入れることが出来る。

「すまないな・・・ヴィータ」

「なんで謝んだよ。・・・いいよ別に。それにこうなる可能性があるのだって――――――皆わかってたじゃんか・・・」

いつもの元気の良さはその口の端端には感じられず、はやてを見つめるヴィータの瞳はどこか寂しそうだった。消滅することがはやてのためだと判ってはいるのだけれど。

よく見ればそれはヴィータだけに限ったことではなく、守護騎士皆がそうだった。彼女達の思うところは同じ。ならばヴィータの抱く感情は当然他の守護騎士達も抱いているのは自明の理だ。

「いいや、違う」

そこに、部屋に流れる沈痛な空気を切り裂くようにリインフォースが口を開いた。

守護騎士達が一斉にリインフォースを振り返る中、どこか寂しさを拭えぬまましかしはっきりと彼女は口を開き言葉を紡いだ。

「逝くのは・・・・・私だけだ」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ああ。きてくれたか」

雪が降り、辺り一面が白に染まるどこか幻想的な景色の中で銀の髪を揺らしながら彼女――――――リインフォースは小さな魔導師達を視界に入れ優しく微笑んだ。

「リイン、フォースさん」

「そう・・・・呼んでくれるのだな」

「あなたを空に還すの・・・・・・本当に私達でいいの・・・?」

「お前達だから、頼みたい・・・」

返って来る彼女の言葉に二人の少女は沈黙で答える。瞳は悲しみに揺れていた。

あの日、クロノとユーノ。そして守護騎士達から伝えられた言葉。今でもどこか納得しきれないでいる。

―――違うか。納得せざるを得ない世界に対して理不尽を感じているのだろう。

暴走の再発の可能性。はやての安全と幸せ。その為に一つの幸せを壊さなければならない現実。

いままで散々苦しんできた彼女がどうして。そんな思いが未だに二人の胸中を占めていた。

「本当は、もう一人。彼にも来てもらいたかったんだがな」

『彼』つまりは恭也のことだ。けれど恭也は最後の無茶な魔法によるダメージが深刻で、命に別状こそないものの絶対安静が言い渡されている。はやては自宅にもどされたが恭也はまだアースラの一室で眠っているはずだ。

「お前達と彼のおかげで私は主はやての言葉を聞く事ができ、主はやてを食い殺さずにすみ、騎士達を生かすことが出来た。感謝している」

リインフォースは笑っていた。心のそこから。

「だからこそ・・・・・・・・・最後はお前達に閉じてほしい」

それが判らなかった。大切な人と離れなければならないのに、どうして微笑んでいられるのか。

「はやてちゃんと、お別れしなくていいんですか?」

「主はやてを・・・・・・・悲しませたくないんだ」

「でも、そんなの。なんだか、悲しいよ・・・・!」

わからない。わからない、わからない、わからないわからないわからない!

なのはは心の中で叫んでいた。

私だったらそんな風に笑ってなんかいられない!別れるのが大切な人であればあるほどきっと泣いてしまう。なのに・・・・なんで・・・!

リインフォースの笑顔が無理矢理作られたものであれば指摘できたかもしれなかったあの時のように。だけどこの笑顔は本物だった。だからこそわからない。

隣で俯いているフェイトもおそらくは同じ事を考えている。それがリインフォースには判ったのだろう。優しく、諭すように、言う。

「海よりも深く愛し、その幸福を護りたいと思えるような者に出会えれば―――いずれ判る」

だから今は判らずともいいと、存分に悩めと。彼女は言外にそう告げていた。

ちょうどその時。キシキシと雪を踏みしめ歩く音が複数近付いてきていた。その音に反応してなのはとフェイトは後ろを振り向く。

「そろそろ始めようか。・・・・夜天の魔導書の、終焉だ」

守護騎士達が揃ったのを確認するとリインフォースはそのまま空を見上げる。

なのは達、そして守護騎士達は気づかなかった。リインフォースのその様子は、まるで流れる涙を堪えるようだったことに。

 

雪の大地に三角形を基とした魔法陣が描かれる。その頂点の一つに守護騎士が集まり、なのはとフェイトの描くミッドの魔法陣が描かれベルカの魔法陣と線で繋がれる。

その中心にリインフォースと夜天の魔導書が乗り、其の手を左右に広げる。

Ready to set>

Stand by>

なのはとフェイトの掲げるレイジングハートとバルディッシュが耀き、魔法陣に魔力が流れ込み薄っすらと発光し始める。

「・・・ああ。お前達にも短い間だったが世話になった」

Don't worry>

Take a good enjoying>

「ああ」

リインフォースとレイジングハート、そしてバルディッシュとの短いが暖かなやりとりが終わり魔法陣にも十分な魔力が行き渡り光が段々強くなろうとして

――――――一つの声が届いた。

「リインフォースっ!!!みんな!!!」

その声に誰もが反応し、声の聞こえた方向を見やる。そこにいたのは、はやてだった。

雪で足場が不安定になっているにも関わらず車椅子を懸命に動かし、リインフォースの元へと近付いてくる。

「破壊なんてせんでもええ!ちゃんと私が抑える!!だからっ!!」

声は震え、瞳は今にも涙が流れそうなほどゆれている。そんなはやてを見て、リインフォースは困ったように、けれど自分の視界にはやてがいることに少しだけ微笑む。

「よいのですよ」

「いいことなんてない!いいことなんてなんもあらへん!!」

「長い、長い年月を生きてきて。最後の最後で、綺麗な名前と心を、貴女にいただきました。騎士達も貴女の元に残ります・・・何も心配はありません」

「心配とかそういう・・・・・」

「ですから、私は笑って逝けます・・・」

なんとか、なんとかやめてもらおうと。はやては必死に言葉を投げかけるが、リインフォースには届かない。

やっと。やっと救われたというのにどうして!?と。諦めないと誓ったのにどうして!と。はやては言葉を投げかけ続ける。

こんな終り方は嫌だと、一緒にいようと、一緒に頑張ればきっと大丈夫だと。声が擦れそうになるまで叫び続ける。

諦めるのはやめたのだ。どんなに悲しい運命でも抗おうと決めたのだ。誓約の下、はやては何度も何度も何度も!言葉を紡ぐ。

けれど・・・リインフォースには届かなかった・・・。

精確には、それは違う。届いていた。これ以上も無くはやての言葉はリインフォースに届いていたのだ。だけど魔導の器、デバイスである以上その言葉に応えるわけにはいかなかった。

デバイスの役目は主を助け、主を護ること。

だから確証もなく、主の身を危険にさらす可能性の極めて高い「きっと」に縋るわけにはいかない。

はやての瞳からとうとう涙が零れ落ちた。ぽろぽろと止め処なく溢れる涙。

溢れる涙を手の指でそっと、愛おしそうに掬い、はやての頬にリインフォースは触れる。

「私はもう、世界一幸せな魔導書ですから・・・・」

「っ・・・・・・・」

「主、ひとつだけお願いを聞いていただけませんか?」

「・・ぇ・・・・・・?」

はやての頬を優しく撫でながら彼女は言う。

 

「私の名前は、貴女がいずれ手にするであろう新たな魔導の器に贈ってあげてくれませんか?」

「・・ぃ・・・・ふぉ・・・す」

「祝福の風、リインフォース。私の魂はきっとその子に宿ります」

「りいん、ふぉーすぅっ・・・・・!」

涙交じりのはやての声はもはや正しい発音すらうまくきざめていない。だけども何度も、何度でも、その名を呼んで、呼び続けていた。

 

いかないで。ずっとわたしのそばにいて・・・・!

 

うちなる叫びはリインフォースに届いたのか。それはわからない。けれど彼女は、今までで一番の笑顔をはやてに向けていた。

「はい・・・・・我が主・・・・」

そう言うとすくと立ち上がり、魔法陣の中心まで歩いていく。いままで淡かった光は再び耀きだしリインフォースを包むように。

「主はやて。守護騎士達。それから、小さな勇者達。・・・・・・・・ありがとう」

リインフォースはゆっくりと瞳を閉じて、この場の皆に言葉を贈る。祝福の風と、共に。

魔法陣の耀きは一段と強くなりその光に呼応するよにリインフォースの身体も耀きだす。―――――――――そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その耀きは、一条の黒い光によって掻き消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「!!?」」」」

突如飛来した黒い魔力の槍は魔法陣の一角に突き刺さり、一瞬にして魔法陣を破壊する。

余波に煽られはやてとリインフォースを除くメンバーが一斉に吹き飛ばされた。

 

 

「困りますね。勝手に消えられては」

 

 

森の方から鈴とした声が聞こえる。雪を踏みしめながら、声の主が姿を現した。

―――それはどこか幻想めいた美しさだった。

現れた少女は絵本から飛び出した妖精のよう。黒い髪に雪のような白い肌。身に纏うは黒のケープ付きのコート。

 

 

「ええ。それでは何のために助けたのか判りません」

 

 

別な方向からまた、声がした。そちらに視線をやるとさっきの少女とは対極を為すかのような白の妖精。

髪も肌も雪のような銀麗の美しさ。雪の化身といわれれば大多数の人間が信じてしまうかもしれない。身に纏っているのは黒の妖精と同じで色の異なる白いケープ付きのコート。

 

ただ彼女達は妖精のように美しく人を魅了するだけの存在ではありえない。

それぞれが片手に短い、ちょうどパーソナルカラーを模した小太刀サイズの剣を携えている。そして、その剣には全員が見覚えのあるものだった。

「え・・・・アレって・・・・」

なのはが声を漏らすのとほぼ同時に、また、雪を踏みしめる音が聞こえてきた。その音は真っ直ぐにこちらにむかってきている。

フェイトがバルディッシュを音のする方向に向け、しばらくして音の主の姿が光にさらされた。その姿を見た瞬間、構えていたバルディッシュが小刻みに震えだした。

―――より精確に言うのならばバルディッシュを握るフェイト自身が。

「そ、そんな・・・・・・嘘・・・・・ですよね・・・・?」

急に喉がカラカラに乾燥し、震えを抑えきれぬままどうにかして言葉を紡ぎ、言った。

現れた音の主はその問いかけには答えず、身に纏う闇色のコートをはためかせながら呆然とするはやてとリインフォースに向かって

 

 

 

 

 

「夜天の魔導書リインフォース。および夜天の王、八神はやて。―――俺達とともに来て貰おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事実を淡々と語るように、高町―――いや不破恭也はこう告げた。





一つの事件が幕を閉じたその時。
美姫 「新たな出来事が!?」
一体、何が起こるんだ。
美姫 「いいところで、次回!」
うぅぅ。とっても気になるぅぅぅ。
美姫 「次回を、次回を待ってますね」
待ってます!



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