『魔法少女リリカルなのはA's side『KYOUYA』




     

        

最終話      『誓約の騎士』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一面白の風景にポツリと浮かぶ黒い点。

不破恭也と彼に寄り添う二人の妖精は自身の存在を誇示するように、そこに君臨していた。

瞳に浮かぶのは今まで見たこともないような冷たい色。それは完全なる無表情。

これまで感じたことのなかった恭也の敵対するものとしての雰囲気になのはは完全に圧倒されてしまい、フェイトにいたっては全身を震わせていた。

それどころかヴォルケンリッターのシャマルやヴィータですら恭也の放つ威圧感に冷や汗を流していた。ザフィーラも全身の毛を逆立てながら警戒を顕わにして。

「これは・・・・どういうつもりだ高町恭也っ!!」

その中でシグナムだけが恭也を怯まずに睨みつけていた。いつのまにか起動させた愛剣、レヴァンティンの切っ先を突きつけながら怒気も顕わに叫ぶ。

しかし恭也にはまったく動じる様子がない。シグナムには眼も向けず、じっとはやてとリインフォースを見て先の質問の返答を待っていた。

「貴様・・・・!」

恭也の態度に焦れたシグナムはこれまで以上に敵意と殺意を向けながらレヴァンティンに魔力を流す。流れる魔力に込められた怒りに呼応するようにシグナムの足元、レヴァンティンの刀身に赤い耀きが宿り始めていた。

「・・主。場所を変えたほうがよろしいかと」

「次元転送、強装捕縛結界。既に準備できていますマスター」

シグナムの今にも斬りかかってきそうな雰囲気を感じたのか黒と白の妖精が恭也に進言する。周りの様子を一瞥し、左右から聞こえてきた彼女らの言葉にふむ、と考えるような仕草をすると厳かに口を開き

「―――そうするか。頼んだ。白姫、黒姫」

彼の妖精達の名を呼んだ。

「「「!?」」」

聞きなれたその呼称にシグナムを含めたなのは達は目を見開き

「はい、主」

「イエス、マスター」

当の妖精達は己の主の言葉に恭しく頭をたれ、また、彼女らの一瞬の動揺が全てを決していた。

 

黒姫の手から黒色の槍がはやてとリインフォースを檻に閉じ込めるかのように展開射出され、なのは達と完全に分断。

息もつかせず白姫が恭也と自分達、そしてはやてとリインフォースを閉じ込めた槍の檻の下に次元転送用の魔法陣を展開。

「っ!待て―――!?」

動揺から立ち直ったシグナムやヴォルケンリッター、なのはとフェイトがこちらに駆けてこようと足を動かすがダメ押しとばかりに白姫と手から白色が煌き、彼女達を強装捕縛結界の中に閉じ込めた。

半透明の結界の方に恭也が眼を遣ると完全に隔絶されているため声すら届かないが向こう側からなにやらそれぞれが何事か叫んでいるのが唇の動きで理解できた。

しかし恭也はそれを一瞥するだけですぐに視界から外し、妖精達に眼で合図しながら一言。

「転送」

言葉と共に魔法陣が耀きを増し、すぐにそれは閃光と化して――――――目の眩むような光を撒き散らした後、彼らは完全にそこから姿をけしていた。

残ったのは彼らが確かにさっきまでそこにいたという事を証明する、雪に残された足跡だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――第■■次元世界。

それがこの世界の名称だった。

光と共に降り立った恭也達以外には一切の生命が存在しない、荒廃した世界。

「恭也さん・・・・」

聞こえた声に振り向くと、視界に声の主であるはやてを納めた。

はやての瞳が揺れている。

それだけのことで恭也は彼女の言わんとしている事に気付き、安心させるように柔らかな声をかけた。

「なのは達なら平気だ。結界に閉じ込めただけでどうこうしようとは思っていない」

恭也の声や表情から先ほどまでの刃物のような鋭さが消えていることと自分の家族と友人達の安否が確認でき、はやては思わず安堵の息を吐く。が

「じゃあ、なんで?」

先ほどから抱いていた疑問はよりいっそう深くなる。

「・・・・少し、な。管理局に干渉されるわけにはいかないからこのような強硬手段をとらせてもらった」

「マスターも仰っていましたが貴女の守護騎士達にも、マスターの妹君達にも危害を加えるつもりは欠片もありません」

「私達、というより主が聞きたいことがあるそうなのです。・・・・・・・貴女の魔導の器、リインフォースに」

恭也の後を継ぐように、白と黒の妖精が口を開いた。

リインフォースに?とはやては自分に付き添うようにたっていた彼女に目を向ける。浮かべている表情ははやてと同じく困惑の一つ。

その反応も当然だろう。リンフォースに聞きたいことがあるにしろこんな手段を取る必要は、はっきり言ってない。こんなマネをしなくても彼女は言葉を聞くだろう。だからこそ、わからない。

「リインフォース・・・・・」

そんな二人の困惑を他所に、恭也が彼女の名を呼んだ。はやてと目を見合わせていたリインフォースは顔を上げ自分より若干高い位置にある恭也へと瞳を向けようとし

「聞きたいことがある」

――――――その射抜くような視線に、全身が金縛りにあったかのようにうごけなくなってしまった。本能のようなものがデバイスにもあるのだとすれば、その本能がけたたましく身の内で警鐘を鳴らし続けているような感覚が彼女を支配している、そんな錯覚を覚えてしまうほどに。

――――やめて、見ないで――――

固まるリンフォースに構わず恭也は言葉の続きを投げかけた。彼の聞きたかった、たった一つの問いを。

 

 

「貴女は、それでいいのか?」

 

 

時間が、凍結したとリインフォースは思った。

違う。ただ何故だかそう感じただけ。

同時に自分の内より聞こえた、僅かに金属同士が擦れるような音。

 

何を、と言い掛け言葉が何故か口から出なかった。

わかっているだろう、と言い掛け何故か言葉にすらならなかった。

何故と思う理由すら思いつかない。そもそもどうしてこんなに自分が動揺しているのかがわからない。

・・・・・わかりたくないと、わからないはずだという声が聞こえた気がした。

リインフォースはそれでもよくわからない感覚に囚われたままなんとか頭で思考し、言葉を作り出し口から声にのせて放つ。

「私が、いては、また再び防御プログラムが生成され、暴走してしまう」

――――言えた。

その言葉で何故かほっとしている自分が、いた。だけどそれもすぐにノイズによって掻き消される。

もう思考はクリアになっていた。だからゆっくりと、心を落ち着けて自分の想いを言葉にしていく。言葉にしていける。

「主にはたくさんの大切なものを頂いた。綺麗な名前も、温かな心も。・・・・・・だからなおのこと、主を自分の所為で危険にさらすわけにはいかない」

恭也に向けたリインフォースの視界の端に、はやてが車椅子から立ち上がり何かを告げようとしてそれを黒姫と白姫に制されているのが見えた。

はやての今にもまた泣きそうで、一生懸命に自分を引きとめようと言葉を紡いでくれているのを見て、自分を想ってくれるのが言葉で言い表せないほどに伝わってきていた。

「守護騎士達は残る。小さな勇者達もいてくれる。それから・・・お前もいてくれるだろう」

そう言って、笑顔を浮かべながら恭也に言う。自分の言葉を。

「海よりも深く、私は主を愛している。だから、私に迷いは無い。安心して――――――逝ける」

母のような微笑だった。暖かな笑顔だった。優しい瞳だった。

その視線を受けた恭也は一度瞼を閉じる。

そうして一瞬の思考の末、黒い双眸を再びリインフォースに向け口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・自分も騙せないような嘘を吐くのはやめろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「な・・・・」

恭也の口から放たれたのは吐き捨てるような、彼女の言葉を真っ向から否定する言葉だった。

恭也の言葉にリインフォースは絶句する。それもそのはず、彼女の口から出た言葉に乗せた想いに、嘘偽りなどない。・・・・・少なくとも、本人が思っている限りでは。

内なる警鐘が、ガンガンと煩い。

――――それ以上いわれたら、蓋をしていたモノが開けられてしまう――――

「私は・・・・・・・・!」

ワケノワカラナイ思考に支配されたままそれでも嘘など言っていないと、想いに偽りはないと、そう言おうとするが

―――やめて、開けないで!―――

「判るんだ・・・・・・・・・貴女の瞳は、昔の俺の瞳にそっくりなのだから」

それすらも、恭也の言葉によって封殺されてしまった。

目を見開くリインフォースを余所に、恭也は過去へと思考を飛ばす。思考を過去に遣りながらも、その口からは言葉が紡がれていく。

・・・彼女に届けと、君の想いの中にある間違いに気付いてくれと願いを込めながら。

 

 

昔、父が死んだときに半ば自暴自棄になりながら自分に残された約束と御神の誓約だけを拠り所にして修行した。

明らかなオーバーワークで全身が悲鳴を上げているのも無視して。――――結果、膝を壊し剣士として完成することが無くなった。

思った事は家族に対する謝罪ではなく、剣士になることすらできなくなった自分への激しい憎悪と後悔と、絶望にも近い虚無。

「魔導の器は主を助け、主を護るためにあるといったな」

「・・・・・・・ああ。だから私は――――」

俺は気付けなかった。あんなにも家族に心配をかけても、まだ気付けなかった。

今思えば、すぐに気付けたはずなのに。

本当に気付いたのはティオレ・クリステラのコンサートの護衛にあたった時。

そこで義理の妹の美由希の母、御神美沙斗と戦ったあとだった。

全力を出して、膝も限界まで駆使しても俺では彼女には届かなかった。

・・・御神美沙斗を打倒したのは他ならぬ妹の美由希だった。御神の剣士としては自分よりも劣っているはずの美由希が。御神の極限に手を触れて。

 

 

御神流 奥義の極み 『閃』

 

 

最初は美由希が使えたのは偶然かと思った。美由希の才能と努力がアイツをその領域まで導いたのかと思った。

――――そのどれもが正解で、どれもが間違っていた。

膝を壊しているとか、才能とか。そんなことは些細なことだったのだ。ただ俺よりも美由希の方が正しく「御神の剣士」を理解していたというだけの話。

御神の剣士が振るう剣は『護るための剣』。・・・・では一体、何から、何を、『護る』のか。

単純にして唯一絶対の「御神の剣士」たる条件。

「はやての――――主の何を護る?主の身体か?主の日常か?主の幸せか?」

「え――――」

きっと、目の前の彼女が護りたいのは俺と同じものだ。昔の自分と同じ瞳をしていたのがいい証拠。

俺が御神の剣を取った理由。俺が御神の剣を振るう理由。俺が護りたいもの、なくしたくないもの。それは――――――――

 

 

「貴女は、はやての笑顔をこそ、護りたいんじゃないのか?」

 

 

今度こそ、リインフォースは動けなくなった。恭也の言葉は彼女の仮面に一筋の亀裂を入れる。

そして聡い彼女は恭也の言わんとすることも精確に理解してしまっていた。

恐る恐るさっきまでとは打って変わった表情で、叱られるのに怯える子供のように自らの主に目をむけた。そこで、彼女の瞳が移したものは

――――泣いていた。はやては涙で瞳を震わせながら、今なお泣いていた。

「――――――――!」

恭也の言葉の所為か、あの時は穏やかな笑顔を浮かべていたリインフォースの表情が崩れる。・・・仮面はもうあっけなく壊れてしまっていた。

そう。本当は、最初から笑顔なんて浮かべていなかったのだ。リインフォースは。

浮かべていたのは諦観。諦め。それを包み込んでいたのがオブラートのような笑顔。だからこそ誰もが気付けなかったのだ、その笑顔の本質を。

そしてそれは昔、恭也が浮かべていたのとまったく同じものだった。だから恭也だけは欺けなかった。

 

――――――――自分が居なくなってもきっと大丈夫だ。

――――――――だから自分はただ家族を護ろう。たとえこの手が血に染まり、この身が朽ち果てようとも。

 

そんな、愚かな独りよがり。

自分もまたその家族の一員であり、欠けてはならないものだという事を忘れた独善。

護る剣を、力を振るう者に敗北は許されない。その過程で死ぬことも許されない。必要なのは力と、必ず生きて帰るという意思。

――――だから、御神流は『最強』なのだ。

はやてにとってリインフォースはデバイスである以上に彼女の家族なのだ。家族が居なくなるというのに涙を流し、慟哭しないわけがないのに。そんな事は誰よりもわかっていたはずなのに。

しょうがないと、これが最善だと。自身にそう言い聞かせ、自分の心にそっと鍵をかけて気付かない振りをしよとしていた。

はやての顔をみてしまったら、もうそんな事できるわけがないのに。

だって、一緒にいたいと思う気持ちは彼女だって同じなのだから。

「・・・・・だからといって・・・・どうしろというのだ・・・・・」

視線を下に向け、肩を震わせながらか細い小さな声で、言う。

俯くリインフォースに向けて恭也はもう一度さっきの問いを口にした。彼女自身の手で、己の心の鍵を開けさせるために。間違いを正させるために。

「もう一度聞く。貴女は、それでいいのか?」

 

 

――――どこかで、ガチャリと何かが開く音がした。

そして、ここにきて初めて閉じ込められていた彼女の感情が堰を切ったようにあふれ出した。

「いいわけがないっ!!」

綺麗な銀髪の髪を振り乱しながら、あふれ出る感情を、言葉を、そのまま口にする。

「初めてだった!闇の書と、呪いの魔導書とよばれるようになってから私を見てくれたのは!!」

初めて見るリインフォースのありのままの感情。はやては、恭也は、それを真っ直ぐに受け止める。

「綺麗な名前を頂いた!暖かい心を頂いた!だというのに主を苦しめるしかできない自分自身が許せない!!!」

口から漏れ出る激しい慟哭。止まらない想いの濁流。いつまでも続くかに思われたそれも次第に小さくなり、最後には瞳からとめどなく溢れる涙を止められないまま、小さな、ほんとうに小さな声で

「なら・・・・・・もう、こうするしか・・・・・ないではないか・・・・・・!」

それきり、嗚咽を漏らしながら彼女は地面に膝をついた。こぼれる涙は枯れた大地にゆっくりと染み渡っていく。

自らの身体を抱きしめながら、震えながら涙するリインフォースを白姫と黒姫に付き添われたはやてがゆっくりと車椅子から降り、後ろから優しく抱きしめた。

言葉は要らなかった。触れ合う身体からきっとお互いの想いは感じ取れるはずなのだから。

恭也は笑みを浮かべながら白姫と黒姫に目配せし、頷くのを確認して泣き崩れる彼女に言葉という名の(きぼう)を与える。運命を切り裂く(ゆうき)を。ずっと求め続けていた彼女達に。

 

 

 

 

 

 

「そんなことはない。そのために、俺はここにいる」

 

 

 

 

 

弾かれるようにはやてが、リインフォースが、顔を向けた。

いつの間にか恭也の側に立っていた白姫と黒姫がそれぞれの手に乗せたものが彼女達の瞳に映る。

「・・・カートリッジ・・・?」

手に載せられていたのは二つのカートリッジ。白姫の持つのは蒼銀色、黒姫の持つのは闇黒色。

見たことも無いカートリッジで中には相当量の魔力が込められている。だがそれだけだ。他には特に気になるような点はない。

これが一体、と聞こうとしたが出掛かった言葉はしかし、白姫の口から発せられた言葉が耳に届くなりあっけなく霧散してしまった。

「修正パッチ――――――――」

「・・・・は?」

「ですから修正パッチですよこの二つは。闇の書を夜天の書に戻す為の」

「!?」

まず自分の耳を疑い、同時にリインフォースの中の冷静な思考がありえないと告げた。

彼女の本体、つまり夜天の魔導書はその大部分が例の改変に侵されてしまっている。また改変そのものが非常に高度で強力で、しかも管制人格たるリンフォースからすら夜天の書本来の構造が消えてしまっている。

だからこそリインフォースは自身の破壊を申し出たのだ。

管制人格ですら修復不可能と判断したものを一体どうやって治そうというのか。

そう考えて・・・一つの可能性が浮かんだ。けれど、それは―――

「そうです。夜天の魔導書の本来の構造データ。それをとある人から貰ったということですよ」

「とはいっても破損だらけで修復に時間がかかっちゃったんですが」

 

 

 

・・・開いた口がふさがらない、とはこういう事をいうのだったか?

 

そんなどうでもよさそうな事がリインフォースの脳裏をよぎった。ふと視線をやればおそらくは自分と同じような心情であろう彼女の主の姿。

こんな、こんな奇跡が起こっていいのだろうか。

まるで誂えられた様な舞台。起こりうるべくして起こったような奇跡。誰かに綴られたような、ありがちなご都合(ストーリー)主義(テリング)

「リインフォースッ!」

今度は後ろからではなく。抱きしめられるのではなく抱きつくように。彼女の胸に、声と共にはやてが飛び込んできた。

瞳にはいっぱいの涙を浮かべていた。だけどそれは悲しみの涙なんかじゃない。歓喜の涙だ。

抱きついているはやてをそっと己の腕で抱きしめながら彼女は想う。

――――いい。ご都合主義でも構わない。

今までこんなはずじゃないことばかりだった。闇の書となってからは己の主を殺してばかりだった。悲しいことばかりだった。泣いてばかりいた。

それが終るというのなら・・・・自分の大切な主と共にいられるというのなら・・・・私は踊ろう。台本のままに踊り続ける螺旋(オー)仕掛け()()人形()でも構わない!

「えーと・・・・ですけど問題もあるんです」

二人に向かって申し訳なさそうに白姫が言葉を濁し

「ええ。先も言ったとおり破損データを強引に復旧したものなので・・・・」

同様に視線を泳がせながら黒姫が言葉の後を継いだ。

はやてとリインフォースは目を合わせ、頷き、恭也達に自分達の思いを告げる。溢れんばかりの決意を秘めた言葉で。

「私にできることならなんであろうとやってみせる・・・・!」

「わ、私も!私にできることならなんでもやる!だから・・・・・!」

たとえ糸のように細く切れやすい可能性であっても、絶対に諦めない。

彼女達の様子に恭也と彼のデバイス達は優しい微笑みを浮かべた。その笑顔からは嬉しさが滲み出していた。

けれどそれも一瞬。一転したように恭也の瞳は鷹のように鋭く、気高さを帯びる。二人の覚悟を再確認するように。

はやても、リインフォースも。先のように気圧されることもなく、まっすぐに力を帯びた瞳でもってその問いに答えた。

すっと白姫と黒姫が前に出る。そしてその口から問題点と、はやて達が打倒しなければならないモノが語られていった。

 

―――まず、データの破損から強引に復旧したため一回しか使えないということ。

方法も荒療治で失敗すれば夜天の書が破壊されるどころかその場で中途半端な暴走を開始し、自滅するということ。

具体的には黒姫の持つカートリッジで夜天の書の侵食部分を一時的に切り離し、間髪いれずに白姫の方のカートリッジを使い修正プログラムを夜天の書に走らせ本来のものに戻す。

問題はこの時点では完全に切り離されていないため時間が経過すると歪みは再び夜天の書に戻り本来のものに修復した箇所が食われてしまい意味をなさなくなってしまう。

故に切り離されている内に白姫のカートリッジで具現化させた歪みを消滅させなければならない。そして具現化していられる時間は・・・・・15分。

これだけ聞くと闇の書の暴走体と戦った時の作戦よりもよっぽど博打じみている。

ハイリスク→ハイリターン。

それでも、説明に耳を傾ける彼女らの瞳に迷いは見られない。

運命との戦いの勝率は常に限りなくゼロに近い。なにせ相手は運命だ。神にも等しきそれを倒すのがほぼ不可能なのは明白。

けれど、彼らはその「ほぼ」に賭ける。勝てないなんてわかっている、負けるなんてわかっている。・・・・それでも彼は、彼女は戦うのだ。

0.00000000000001は断じてゼロではない。目に見えないほど小さな小さな可能性。真っ暗な闇の中、懸命に手を伸ばすのだ。・・・可能性という名の灯火を掴むために。

「主、お願いがあります・・・・・・・私に戦わせていただきたいのです」

白姫と黒姫による作戦の概要と問題点が語られた後すぐ、リインフォースははやてにむかってそう言った。

「今回の敵は私自身が倒さねばならない―――私自身が『闇の書』の名と決別するためにも。ですからどうか、お聞き入れください・・・」

言いながら頭をさげた。

リインフォース、夜天の魔導書は融合デバイスだ。故にどちらがメインで表にでるかもある程度は融通がきく。基本は主だが。

また完全融合が可能になった今のはやてとならば夜天の魔導書が蓄えてきた魔法の全てをリインフォースが表に出た状態でも使用できる。

しかしそれはデバイスの本分からは幾らか外れている行為だ。

デバイスは彼女自身が言ったように主を助け、主を護るもの。今、リンフォースがはやてに告げた願いは本来の理を逆にしている。

デバイスが主のために力を貸すのではなく主がデバイスのために力を貸す。普通の魔導師が聞けば卒倒ものだろう。

されど、リインフォースが世間一般のデバイスの枠に当てはまらないのなら、この八神はやてもまた世間一般の魔導師の枠には当てはまらない。

はやては己がデバイスをデバイスとしてみない。彼女にとってリンフォースはそれ以上に家族の一人なのだ。よって彼女が口にする言葉も当然で。

「うん。ええよ。そんなかしこまらんでもええのに・・・・・・・私ら家族やないか」

屈みこむようにしているリンフォースの頭に手を載せ、ちょっとだけ乱暴に撫で回す。

「それに、リインフォースだけやない。私も一緒に戦うんやから、な?いっしょに、がんばろ」

母のような笑顔ではなく、あどけない歳相応の笑みをうかべた。

微笑みを向けられたリンフォースは思った。

―――私は、この微笑みを失うところだったんだな―――

失くしたくない。奪われたく無い。彼女の、主はやての笑顔を護ると、今度こそ私自身へと誓う!

 

ここにまた新たに、一つの誓約が成った。彼女の誓約、彼の誓約。そしてこの場にいるそれぞれの誓約の下、最後の幕をあげる。

望むもの―――――――――最高(ハッ)()エンディング(ーエンド)を迎えるために!

 

「「ではいきます!」」

胸元に夜天の書をかざしながら立つリインフォースに向かって白姫と黒姫がデバイスを掲げながら叫んだ。

デバイスの薬室が開放されそこにカートリッジを装填。蒼銀と闇黒の光が溢れ、それぞれの手に魔法陣が描かれる。

収束していく魔力はすぐさま臨界に達し、瞬きの間も与えず妖精達の手の魔法陣より放たれた。

先に放たれる黒の極光は一瞬にして距離を詰め、貫く。

びくりと、身体を振るわせたと思うと次の瞬間にリインフォースの身体がブレてノイズのように、陽炎のように姿が揺らぐ。また同調するように夜天の魔導書から黒いナニカがずるり、ずるりと這い出すように本からこぼれている。

そこに。ほぼ同時に放たれていたもう一つの光が、穢れを討ち払うような聖なる極光がこれ以上無い最高のタイミングで届き、着弾。

蒼銀の光は黒の極光が通過した箇所をなぞるように走り、ゆっくりとにじみ出ていた穢れを一瞬にして書から弾き出し拒絶するように光で拘束。また書そのものには暖かな光で包み込んだ。

そうして、暖かく澄んだ光に照らされながら闇の書の闇を内より吐き出した夜天の魔導書はとうとう、その新なる姿を現した。

「書が・・・・・あれが」

その光景を見ていたはやてがポツリともらす。

蒼銀の光に包まれながら、書が、リインフォースが変化していっている。書自体にあまり変化は見られなかったが代わりに剣十字のレリーフからくすんだ色が消え眩い黄金を放っている。

それだけの変化だというのに放たれる古書特有の、悠久の年月を経た事により生まれているのだろう放たれる威圧感は比べ物にならないものへと変貌していた。

そして、劇的に変化したのは管制人格のリインフォースの方だった。

美しい銀髪は白銀から蒼銀へと変化し、瞳の色は虚ろな紅玉石(ルビー)から光を宿した水のような、海のような()玉石(ファイヤ)に。全身を包む黒一色のボディスーツは白と黒のコントラストを為す、はやての騎士甲冑に近いそれへと変わっていく。

膨張した蒼銀の光が炸裂。

光が収まるとリインフォースはゆっくりと両の眼を開き完全な姿を取り戻した己の手に夜天の魔導書を抱きながらはやての元へと舞い降りた。

―――お互いに無言。けれどそれで十全。やるべきこと、為すべきこと。いまはそのことだけを。

どちらともなく手を伸ばす。伸ばされた手はやがて触れ合い、優しく、それでいて強く。指を絡め、握り締め―――融合(ユニゾン)

一体と化したはやてとリンフォース。長い蒼銀は風に靡き、蒼の瞳は己の敵たる具現化した『闇の書の』リインフォースを捉えた。

彼女はいつの間にかリンフォースの横に立っていた第二制御状態の恭也へと視線を送る。恭也は頷き、リインフォースも頷き

「いくぞ・・・・!」

「ああ!」

闇の書の展開した六枚の黒翼に対抗するように、背中に展開した六枚の銀翼をはばたかせながらリインフォースは恭也を伴い褐色の空を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デアボリックエミッション・・・!!」

リインフォースは足元にベルカの魔法陣を描き、手のひらに浮かべた魔力の塊を闇の書めがけて投げつける。

先行した恭也の剣戟を障壁で抑えていた闇の書もそれに気付き黒翼を大きく震わせ、急速離脱。離脱しながらも放たれた魔法とまったく同じ魔法を即座に撃ち出す。

激突する光と闇。

激しい閃光を伴いながら相殺され、直後の一瞬の隙を狙い高速接近した恭也の二刀が空を斬り裂く。

一撃は障壁に阻まれもう一撃は彼女の身体を浅く斬る。

Heilen>

しかし浅すぎたため攻撃の意味を成さず即座に復元。お返しとばかりに放たれた黒い拳が恭也を撃つ。

「ぐ!」

突き抜ける衝撃。ダメージこそバリアジャケットに阻まれたいしたことはないが慣性の力まではどうしようもない。

地面に激突するであろうその力を白姫を起動し<局所()重力(イス)制御()>で操作。地面すれすれでなんとか停止し余剰分の力のベクトルを変更。空気をうつ音を辺りに拡散させ、再び飛び立つ。

その間に距離を詰めたリインフォースは拳を振り上げ

Schwarze wirkung>

撃ち下ろす。

魔力が篭った拳は同じく魔力が篭った拳と激突。白と黒が互いにお前は要らぬとしのぎを削る。

拮抗しているかに見えた拳と拳だったが白の光が一際激しく耀くと同時に拮抗は破れ、闇の書に直撃する。

そして先の恭也のように地面に向かって落ちていく。だがそれをただ見ているだけなんてことはしない。思考など介さず反射的に追撃の魔法を放つ。

「集え星光。星の耀きを以って闇を照らし、断罪せよ」

眼下の敵に向けて展開されたミッド式魔法陣。その中心点に向かって空気中のマナが集結する。

集う光はまるで星の煌き。耀く星はいつしか巨大な超新星となる。星の使い手たる高町なのはが行使する星砕き。名を――

「撃ち抜け!スターライトブレイカー!!」

はやてとの完全融合の所為か。以前使ったときより、発動速度はおよそ半分ほどになっていた。しかし威力に減衰は無い。

星の光は地上を遍く照らす。それ故、逃げ場など無い。

発射された大規模魔力砲撃。闇の書は両手を前面に掲げ障壁を張るが受け止めるには強度がまるで足りていない。

障壁は次第にひび割れ、光が闇の書を飲み込もうと顎を広げる。顎は障壁をいつしか食い破り、硝子の破砕音すら飲み込む光の爆撃が闇の書を襲った。

「はあ・・・・はあ・・・」

リインフォースは肩で息をしながら爆撃地点を見つめる。この程度では本来なら疲労するわけがないのだがはやては別だ。完全に呪いが治りきっていないため大規模魔法を連続行使などすればまた気絶してし、倒れてしまう。

はやてへの身体を気遣っているというのが大きいが他にも融合状態を維持するという目的もある。だからはやてへの負担をできるだけ減らすようその負担を自分に向けているのだ。

これで終ってくれと思いながらしかし下から反応がきている魔力に、疲れを振り払いリインフォースは翼を羽ばたかせた。

 

 

「まずいな・・・・」

一方で恭也も状況のまずさを感じていた。

恭也自身さっきの一撃で終っただろうと思ったが事実はさにあらず。それどころか恭也の中にあった嫌な予感は確信に変わりつつあった。

―――再生能力が異常すぎる。

あれが闇の書の防御プログラムであれば納得もいくがあれはそうではない。あれはあくまでも夜天の魔導書の歪みにすぎないのだ。

『走査終了しました・・・・・・やはり非実体性魔導生命体です』

非実体性魔導生命体。それは文字通り実体のない指向性を帯びただけの漠然とした力の塊だ。霊というのが感覚的に近いかもしれない。恐らくは急造で組んだ修正プログラムでは完全に具現化しきれなかったのだろう。

黒姫からの報告に思わず溜め息を吐いてしまう。

あれが非実体性魔導生命体であるならば物理攻撃は効かず、スターライトブレイカーで倒せなかった以上、並の魔力攻撃でもだめだろう。

また残されている時間もとうとう10分を切ってしまっていた。闇の書に絡みついて必死に具現化させている蒼銀色の光も段々と耀きが弱弱しくなってきている。

恭也は視線を舞うように戦うリインフォースと闇の書に向けたまま、ぎしりと音が聞こえるぐらいに奥歯を噛み締める。

落ち着け、と理性で感情を冷却しながらもう一方で考えろ、と思考回路をフル稼働させる。

問題なのは敵が実体ではないということ。修正プログラムでは具現化仕切れていないということ。

「・・・!リインフォース!」

洗練された戦闘思考と戦闘理論は望む解を数秒で割り出し、電気信号に変えて恭也に与えた。

呼びかけながら空を蹴りつけ上昇。リインフォースに迫る闇の書へと剣を振るう。

振りぬかれた斬戟はそのまま衝撃波と転化され闇の書を吹き飛ばす。

「・・・・魔法の連続行使は可能か?」

「あ、ああ」

リインフォースの側に立ち、闇の書を視界の端に入れながらそう言い、彼女の言葉を確認するように一度頷く。

「時間がない。一瞬でいいからアレを石化させてほしい。その隙に俺が外装を破壊するから貴女はコアを蒸発させてくれ」

恭也の口から淡々と語られていく言葉に

「・・・内容は理解したが外装を一瞬で破壊など、そんなことが―――」

できるのかと、言おうとしたリインフォースの言葉は恭也の纏う空気に拒まれた。彼の瞳は、身体は、魔力はただ一心に眼前の敵を打ち倒すことだけを。

リンフォースからはまだ何の返事もないというのに、恭也は左右のデバイスに三発ずつ計6発のカートリッジを装填。双剣を腰だめに構え、身体全体を覆うように魔力の火花が散る。

別に特別なことをしているつもりなど恭也にはない。ただ信じている。リインフォースを、はやてを・・・・彼女らが持つ力と可能性を。

―――思えば彼が全ての切っ掛けだった

そんなことをリインフォースはふと思い、ゆらりと片手を体勢を立て直している闇の書へと向ける。描かれるは己が象徴たるベルカの魔法陣。

「彼方より来たれヤドリギの枝。銀月の槍と成りて撃ち貫け」

主を救えたのも、運命に抗おうと思えたのも全て彼という存在がいたから。もちろんそれは切っ掛けにすぎなかった。けれど大きな切っ掛けでもあった。

ならば彼の言葉を信じてみよう。主はやてと自分に手を差し伸べてくれた、彼を。

魔法陣に生まれ出、七つの極光。銀月が如き鋭さと美しさを備える魔性の槍。

「石化の槍、ミストルティン!!」

光は言霊に宿った力を顕現するように槍の姿となり、敵へ向かって殺到した。

襲い掛かる槍の雨に併走するように恭也が足を踏み出す。同時に白姫と黒姫が閃光を放ち

『『<刹那>!』』

恭也もまた自分が持ちえる最強を、行使した。

 

世界から色が消える。モノクロですらない、ただ一面真っ白な銀世界。上下の区別もなく、モノとモノの区別もない。

まるで幻想のような世界の中、恭也の瞳に映るものがあった。それだけは色を未だ保っている。

恭也の生み出す、恭也のための世界。時間という概念すら曖昧な銀雪の王国で、王たる恭也がやることは一つ。

ある意味完全ともいえるこの世界を色などという無粋なもので汚す外敵の排除だ。

王はあらゆる権利を行使し、民は王のあらゆる行為を容認する。

時間を制し、距離を制し、概念を制し、力を制し、人を制し、世界を制する。

―――故に。

ここで、不破恭也に負けは無い。

瞬きよりも更に疾く敵に接近。腰だめに構えた法の剣を、逃げ場無く幾重にも檻を形成するかのように疾らせる。

誰しもが逃れられぬ王が下す銀雪の王国にあるたった一つの法の名を、刑罰の名を、処刑の名を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神薙」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・・!?)

「・・・!!」

目の前で起きた光景が信じられない。それはどうやらリインフォースの中のはやても同じようだった。

恭也が掻き消えたまさに刹那。一片も残さず石化した闇の書が弾けとんだのだ。

いままでの戦闘や再生能力から考えてリインフォースは成功しても石化していられる時間は数秒程度だと考えていた。たったそれだけの時間しかないと。

だがそれは間違いだった。恭也にとってはその数秒で十分すぎた。

呆けかけたがそんな時間はないと、思考を取り戻しありったけの魔力を頭上の魔法陣に注ぎ込む。

今しかチャンスはない。外装を完全に破壊してもコアがある限り防御プログラムと同じですぐに再生してしまう。だが防御力の無いコアだけなら!

あれは防御プログラムではない。コア自身を再構成することはできない。だからこそ、異常とも言えるあの外装の再生能力なのだろう。

収束完了まであと数秒。されどそのたった数秒が勝敗を分ける。

(リインフォース!)

「・・・・ッ!はい!」

はやての言葉にリインフォースはセーブしていた出力を全開にする。はやての身体が心配ではあるが彼女らの占める思考は同じ。

―――この、千載一遇のチャンスを逃しはしない!―――

魔力は疾風ともに、力は風の祝福を受け、ここに完成した。あとはその名を世界に響かせるだけ。

大きく、声は溶けるようにして、二人の言葉は天岩戸を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『響け終焉の笛!ラグナロク!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終焉(ラグ)()創造(ロク)

終わりと始まりは表裏一体。始まりがあれば終わりがあり、終わりがあるから始まりがあるのだ。

(さよなら・・・・・・おやすみな・・・・・)

さらさらと。砂が零れ落ちるように崩れていく闇の書の歪みを見て、はやては別れを告げた。

そこにどんな想いが込められていたかは本人にしかわからない。でもきっと、はやての言の葉に込められていたであろう想いは優しいものだったに違いない。

ゆっくりと地上に降りた二人は融合を解除する。

抱きとめられたはやての目に真っ先に飛び込んできたのは、愛しい家族の姿。蒼くなった瞳に涙を溜めながらいる彼女をあやす様にはやては頭に手を置き、髪を梳くみたいに優しく撫でる。

そこに唐突に影がおち、空に視線をやると見えたのは白と黒の妖精に支えられながら降り立つ恭也の姿。体中にさっきまでは無かった裂傷が無数に出来ていて驚いたが、出血はすでにとまっているようで恭也自身も意識ははっきりとしているようだ。

疲労が色濃く浮かんでいたがはやて達と同じように歪みが消えていく最後の瞬間を見つめている。

そして最後の欠片が崩れ去ると、同時に放たれた眩い蒼銀の閃光が目を焼いた。

咄嗟に閉じた瞼を光が収まったのを感じて開く。と

「え?」

―――少女が、いた。リインフォースと同じ色の髪をした少女が光に包まれながら浮かんでいる。

はやてとリインフォースは咄嗟に恭也達を見るが彼らも困惑の表情をうかべていた。

眠るように身体を丸めた少女はゆっくりと、ゆっくりと地上にむかって降りてくる。

恭也は疲労と痛みの残る身体をおして落下地点へと小走りに駆けて行き、はやて達も追うように後に続いた。

空から舞い降りた少女を恭也は両手を伸ばして受け止める。恭也の腕にすっぽりとその小さく華奢な身体が収まると包んでいた光も粒子に代わりはじけて空へと還っていく。

「・・・すー・・・・・・すー」

優しく暖かな腕の中で。少女は可愛らしい寝息をたてながら完全に恭也に身体を預け、眠っていた。

白姫がゆっくりと前に出て少女の額に手を触れ何事か呟く。すると白姫を覆うように幾つもの環状魔法陣が展開され

「・・・・・・・あれ?」

首をかしげながら気の抜けた声が口から漏れた。

「どうした?」

「えっと・・・・・あれぇ・・・・?」

「あの、どうかしたんですか?」

「はやてちゃん。えっとですね・・・・・・・・・・・・・同じなんですよ、私達の組んだ修正プログラムと彼女の構成プログラムが。多少の違いはありますけど」

「「は?」」

白姫の言葉に黒姫とリインフォースの言葉が思わずハモる。

一瞬の奇妙な間があったのち、こういうことに詳しい白姫、黒姫とリインフォースのデバイスメンバーがあーでもないこーでもないと議論がはじまった。

当然のように詳しくないというかイマイチ、ピンとこない恭也とはやては置いてけぼりで。

放置されたまま、転移したときに一緒に持ってきた車椅子に乗りながらはやては地面に座った恭也の両腕で眠る少女を見る。

「ん・・・・もうたべられないですぅ・・・・」

幸せそうな寝顔を浮かべている少女の口から聞こえた寝言に思わず恭也とはやては顔を見合わせ

「「ぷ」」

噴き出してしまった。

はやてはアハハハと笑い、恭也は顔を背けながら肩を震わせ必死に笑いを堪えている。

一通り笑い終えるとはやては突然の笑い声に唖然としてこちらを見るリインフォースたちに目を向けて、宣言した。

「よし!この子はリインフォースの妹や!うん、そうにちがいない!」

「あ、あるじ・・・?」

「は、はやてちゃん?」

「あの・・・・・・いや。そんな簡単に・・・」

口々に疑問の声をなげかける彼女達にしかしはやては反論は認めませんとばかりに更に言う。

「ええやんー。その子、えっとなんやったっけ・・・・そうそう<修正プログラム>と同じなんやろ?だったら私らの恩人やし」

「え?ええ?」

「それにそんなちっさい子だけじゃ生活できへんし。ご飯とかもできへんやろし」

「えーと、彼女は一応プログラム体だから食事とかは別に・・・・」

「あかん!ご飯は生きてくのにかかせん大事なもんや!そういうことはちゃんとせーへんと!」

私はてこでも動きません。目と言葉でそうアピールするはやてに困惑するばかりの彼女達。そこに

「いいんじゃないのか。害があるとはとてもおもえん」

ようやく笑いの衝動が収まったものの目もとはまだ笑ったままの恭也が言った。

「たしかに・・・・基礎構造が修正プログラムですから害はかけらもないですけど」

「まあ主がそういうのであれば」

多少強引ではあるが正に鶴の一声で白姫と黒姫を納得させてしまった恭也は今度はリインフォースの元へと少女を抱いたまま歩みを進めていく。

そして正面に立つと少女をそっと彼女に渡し

「た、高町恭也・・・?」

つい反射的に受け取ってしまい焦るリインフォースに

「貴女を護ってくれた小さな守護騎士だ。大事にしてやれ」

悪戯が成功したときのように微笑みかけた。

恭也の言葉にいつの間にか隣にきていたはやても、うんうんと頷いている。

 

「私の・・・・・・・守護騎士・・・・・か」

口の中で反芻するように言葉をころがす。

しばらくの思案の後、意を決したようにはやてを見て

「主・・・・」

「うんうん。ええよええよ!はー、これでまた家族が増えてうれしいわー」

みなまで言うな、とはやては満面の笑みを浮かべて同意の言葉を口にした。

「はあ・・・・いいですけどね。言い訳はそちらでどうにかしてくださいよ」

「その子のフォローができるほど私達の方も余裕がないので・・・・」

しぶしぶといった、けれどどこか微笑ましそうにして白姫と黒姫も了承した。

 

 

頭上から降り注ぐ光に恭也は顔を上げ空を仰ぐ。

空からは雲を割るように光が所々から差し込み、地上を照らしだした。

その向こうにあるのは青い青い、蒼穹の空。

こんな荒廃した大地にも、世界にも光は必ず差し込むのだ。

明けない夜が無いように。終らない物語がないように。変わらぬ運命もまた、無いのだと。

照らされる陽光の中、腕の中で眠る自分に似た少女をリインフォースは優しい母のような目で見つめながらそっと頭を撫で、その言葉を自然と口にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よろしく・・・・・私の、小さな守護騎士よ・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

仰げば見える、果てしなく広がる蒼の空。

空からの優しい風が彼女達の門出を祝福するように、そっと、吹き抜けていった。

 

 

――――――貴女たちの行く道に、幸多からんことを――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

というわけで『魔法少女リリカルなのはA's side『KYOUYA』』無事に完結しましたーー!

白姫・黒姫「わーーーー!」

話数が予定の分を超えたり、一話の容量がすごくなったりといろいろありましたがなんとかここまでたどり着きました。

まずはこの場をお借りして感謝の言葉を。

 

>氷瀬 浩さん、美姫さん

このような投稿の場をお借りできて感謝の念が尽きません。

ここに出会わなければ「side KYOUYA」は陽の目をみることはなかったと思います。

本当に有り難うございました。これからもよろしくお願いします(笑)

今後も美姫さんの激しい(愛情)ツッコミ(表現)を糧に頑張ってください!

 

>読者の皆様

読んでくださった方にも百万の感謝を。

初めて感想を頂いた時はとびあがって「ヒャッホー」と叫びたい衝動に駆られるほどうれしかったです。

また誤字の指摘や、ここはこうしたほうがといったご意見も大変参考になり、勉強になりました。

未熟なりではありますが頑張っていこうと思います。

 

 

さて、無事完結とは言っても

白姫「誤字修正〜」

黒姫「加筆ー」

わ、わかってますよぅ。

後半部はともかくも前半部はかなり直さなければいけないです。

そんなわけで当分は加筆修正しつつ番外編(後日談?)をやる予定です。よろしければそちらもどうぞ(しっかり宣伝)

で。それが終るころ。第二部の方を執筆し始めようと思います。

side『KYOUYA』」はあくまでA'sのなのは達の物語が主軸におかれていましたが第二部は正真正銘、恭也のための恭也の物語です。

読んでいただければわかったと思いますが恭也がなんでデバイスもってるのかとか、ミッドでもベルカでもない魔法陣を使用するのかとか。

そういった謎がさっぱり解明されていません。なので第二部はそっちの謎が解明されるお話になってます。

固有名称ありのオリジナルキャラは極力なく、なのは達も出張ります。

ただオリジナル設定、イベントが多発します(汗)その為の設定がちょっとまだ練り足りないので・・・・。

ともあれ完結は完結!

白姫・黒姫「これまでお付き合い頂き、ほんとうにありがとうございました!」

それでは。





まずは、祝、完結!
美姫 「おめでとうございます」
第二部や後日談がまだあるそうですが、一先ずはお疲れさまです。
美姫 「こちらこそ、素晴らしい作品をありがとうございました」
美姫の突っ込みに耐えつつ、自分も頑張ります。
美姫 「突込みじゃなくて、愛情よ、あ・い・じょ・う♪」
突込みにもめげず!
美姫 「……愛情!」
ぶべらっ!
美姫 「それでは、この辺で」
……で、ではでは。



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