18 夜襲
瞬間、目の前の男のみぞおちに鞘を深く叩きつけ昏倒させる。
男は何とも言いがたい咳きごみをし、にぶい音とともに床に倒れふした。
部屋を照らすのは、半月にも満たぬ月明かりのみ・・・
常人の目では、なにが起こっているかもわからないだろう。
「 なんだ!?何が起こってる!? 誰か明りをつけろ!! 」
リーダー格と思われる男が、部屋の壁を背に大声で叫んだ。
しかし、その声に応える者は既におらず、ただただ男の悲鳴のみが
部屋にこだます。
現在、突入から約2分といったところだろうか・・・
これまでと同じ手ごたえなところを考えると、やはり今回もスカをひいたのだろう。
そのように思慮している間も目の前の男は恐怖に身を震わせている。
歩を進め男のすぐ側にまでいくと、男と目が合った。
腰をぬかして、しゃがみこんでいる男の顔は恐怖にひきつっている。
「 お・・・お、おまえいったい・・・? 」
答える義理もなく、その必要もなく・・・
ただ男の頭を叩き伏せた。
・・・
「 21時32分、制圧完了 」
デジタル式の腕時計を確認して、インカム越しに連絡を入れる。
すると、すぐに相手からの返事が返ってきた。
『 ご苦労様・・・。 成果は? 』
「 駄目ですね。 それらしい人物はいませんでした 」
『 そうか・・・。 なら10分後に回収部隊を、そちらに寄越すから君も引き上げていいよ 』
「 りょうかい 」
『 おつかれさま・・・。 恭也・・・ 」
「 ・・・ 」
その言葉を最後に通信は切断された。
あたりは依然として闇におおわれている。
現在、この区域は意図的に停電、並びに通信基地局が落ちているという手筈になっている。
復旧予定時刻までは、あと8分。
( 実際・・・、気が滅入るものだな・・・)
恭也は、妹である美由希が、件の令嬢の護衛につくのとほぼ同時に、
この任についた。
密入国、さらにその滞在をバックアップできそうな団体を、虱潰しにあたっていけば、
何らかの手掛りが得れるだろうという、あくまで法の側の人間とし雇われている。
実際にこういった"裏側"の存在は知っていたし、
ソレが必要になってくるのも判ってはいたのだ。
( 彼らは間違いなく罪人だ。 法によって裁かれるべき人ではある。
しかし、だからといって主立つ名目もなしに勝手な正義で彼らを裁いてくのは、
はたしてどうなのだろうか・・・? )
法による勝手な正義での統治・・・
それは単なる”暴力”ではないのか・・・?
最初のうちはそんなことは全く頭になかった・・・
しかし回数を重ね、そして最近になるとソレが頭の中を反芻するようになっていた。
今回の襲撃で17件目・・・
彼らの検挙は単なる2次産物でしかない。
いや、というよりは目的を隠すための隠れ蓑にされているのだ。
一部ではマスコミに取り上げられたらしいが、情報操作のほうも成されていたらしく、
問題ではなくなっていた。
この事は、家族の誰にも話していない。
母親である桃子には、急な仕事でとうぶん帰って来れないとだけ伝えてあるが、
妹二人には、なにも告げていない。
『なのは』は当然として、『美由希』にもここまでの仕事はさせたくないのだ。
彼女は『御神』であって、『不破』ではない。
自分の感情を論理で肯定するかのように、恭也は自分を納得させる。
( 大丈夫・・・。 俺は大丈夫だ・・・ )
心でそう唱えて自身を落ち着かせる。
( 今日はこれで終了だ。 帰ろう・・・ )
直に回収部隊が到着する。
そこに自分がいても邪魔になるだけだろうと思い、暗闇のなか部屋の出口を目指す。
気絶している連中を踏まないように、ゆっくりと歩いた。
そして、ドアノブに手をかける。
ゆっくりとドアをひらいた
その瞬間・・・
一瞬で空気が凍りついた・・・
( !? )
恭也は脊椎反射かとも思わせるかのような動きで、
後ろに跳躍する。
そしてその一瞬前まで恭也がいた場所を何かが徹った。
着地際に恭也の目がソレを捕らえる・・・
( 日本刀!? )
尺のほどは判らないが、たしかに日本刀独特の反りが目に入った。
ほんの十数秒前とは気分一変する。
これはどうやら・・・
「 ”当り”ということか 」
19 夜叉
その人物はゆっくりと姿を現した。
未だ明りは灯っておらず、容姿の判別は出来ない。
ただ、身長や体格は恭也に似たような様相で、おそらくは男性であろうと推測される。
「 ・・・ 」
ソレは何も喋らない。
ただ、刀を構えなおし・・・
弾けた!
通常の人の歩幅で5足分はあろうかという距離を刹那で詰めてくる。
そして部屋に大きな金属音が鳴り響いた。
「 く・・・!! 」
ソレが振るってきた刀を、恭也は八景の鞘で受け止めたのだ。
そしてそのまま勢いよく押し返す。
ソレはそのまま力に逆らわずに、後ろに退いた。
「 ・・・ 」
( こいつ・・・!? )
”ヤバイ奴が出た・・・”
先ほどの一合だけで強くそんな印象を刻まれた。
恭也は八景を鞘から引き抜く。
先程の一合でわかったことは二つ・・・
一つは、相手の刀は一般的なニ尺程のモノだ。
ただし、特注の八景の鞘にあっさりと切れ込みを作るほどの業物・・・
もう一つは、相手が”一瞬の油断も許されない”程の相手だということだ!
戦闘再開とでも言わんばかりに両者が距離を詰め互いに刀を振るう。
一合、二合、三合・・・
高速で刀と刀がぶつかり合う。
( この乱雑な部屋内ならば獲物は、こちらのほうが有利だ )
相手の刀を地に伏せて避けきる。
恭也は低姿勢のまま相手との距離を大きく詰め寄り、八景を中段から横に薙いだ。
相手もソレを読んでいたのか受けにまわる。
刀を下向けにする形で、横薙ぎを受け流し返す刀で討取るつもりか。
ここまでは、恭也の先読みどおり、
しかし、そこで相手は受け流しを諦め、柄を持っていない片手を刀の裏に添えそのまま思いきり薙ぎ直で受け止めながら
恭也に体当たりをしかけてきた。
( くっ・・・!? )
相手との距離が無理やり離される形となる。
ダメージ覚悟で距離を離すという選択は恭也の想定外だった。
しかし相手の狙いはそんなことではなく・・・
( 間合いか!? )
恭也を押しとばすことでうまく間合い補正をしたのだ。
だが、恭也からすればわざわざ相手の得意な距離で戦う必要はない。
再度、外そうとした瞬間・・・
!?
まっすぐに超高速の突きが伸びてくる。
狙いは正中線の中段・・・!!
相手の狙いはコレだったのだ。
完全にしてやられた形だ。
( 後ろに跳ぶだけでは当たる!! )
頭のどこでそんな認識をしたのかは判らない・・・
が、しかし恭也は超人的な判断の早さで体を思いきり反らす。
ぎりぎりだ。
切っ先に衣服が引っかかり斬られたが、なんとかこれをかわす。
「 !? 」
恭也には観えていなかったが、その瞬間・・・
相手は恭也の動きに驚愕する。
しかも、そのまま器用にも倒れこみながら相手の無防備となった腹部を思いきり蹴り押した。
「 ・・・・!? 」
体当たりの仕返しとも言わんばかりに相手は吹っ飛ぶ。
そして、あたりに気絶している転がっている人に足をとられ倒れこんだ。
無論、そのまま仰向けに倒れこんだ恭也は追撃など出来ない状態ではあるが・・・
お互いに相手の様子を気配だけで窺いながら、立ち上がる。
両者の距離が大きく開いている。
そして窓際に位置している相手の姿が初めて目に観えた。
「 二度もかわすとは・・・、見事 」
そこで初めて相手が口を開いた。
意外というわけではないが、若々しい男性の声だ。
「 こちらも驚いた・・・。 まさか現代に本物の忍者が生存しているとは 」
そう男の姿は忍者そのものだった・・・
全身に黒の装束。
頭にはいわゆる忍者兜というやつだろうか・・・
頭巾とはちがった形のヘルメットに近い形のものを被っていて、
額には鉢金、そして口と鼻を覆うようなマスクをしていて、
こちらからは目元しか窺えない。
「 君を処分してからのつもりだったが、予定変更だ・・・ 」
「 なに? 」
男の言っていることがいまいちよく理解できない・・・
すると相手は懐から何かを取り出した。
男の体が月明かりを遮断して何を取り出したかまではわからない。
一体なにを・・・?
そう問おうした瞬間・・・
男は何らかの方法でそれに着火し、部屋の中心の方に軽く投げつけた。
それを目で追っていくと、だんだんとソレの形が見えてくる・・・
丸い・・・
そう、まるでボールのように・・・
( なっ!? )
爆弾だ。
そう察知した時には、男は既に窓から飛び出していた。
気絶した者を助ける時間はない。
恭也は一番近くの窓へ向かって跳ぶ。
窓を開ける時間などない・・・
そのまま窓と勢いよく衝突する。
ガラスは盛大に砕け散ったが、外傷はない。
そしてそのまま体は外へと飛び出した。
そして恭也が部屋から出て行くのを待っていたかのように、
先程までいた部屋から建物を瓦解させるほどの大きな爆発が生じた。
恭也からすれば、背後の爆発の規模はまったくわからない。
そしてその場の判断で、そのまま建物の裏をとおる河川に身を投じた。
これなら爆発に飲み込まれることはない・・・
ただ少し誤算だったのは・・・
季節柄と、標高のせいで水がとてつもなく冷たいのと・・・
大雨のせいで川が増水して、泳げないくらい勢いが強かったことだろうか・・・
・・・
20 蓉子
暖かなぬくもりを感じた・・・
それは、たぶん最初に誰もが必要とするもので・・・
自分には最初から縁のないモノだった・・・
本当のところはわからない・・・
ただ今でもずっと、ソレを求めつづけている自分がいるような気がする・・・
「 ・・・ 」
目を覚ますと、そこは全く記憶にない場所だった・・・
ただ、部屋の様子を見る限りは病院だとわかる。
ほぼ白一色に染め上げられた清潔感のあふれる部屋だ。
となると、当然自身が横たわっているのは病院のベッドということになる。
「 えっと・・・ 」
起きたばかりで、頭の回転が悪い。
体を起こして、とりあえず状況の整理をすることにする。
( 目、耳、口はおっけい・・・。 腕も動く・・・。脚もおっけい・・・ )
おそらく体に異常はなく、健康体だと思われる。
では、なぜ病院にいるのかだ・・・
しかも個室となっている。
少しずつエンジンのかかってきた頭から、なんとか記憶を呼び戻そうとする・・・
と、
「 起きてなかったら、鼻と口でもつまんで起こすとしよう 」
などと不穏な発言をしているよく聞く声が、部屋の外側の方から聞こえてきた。
こちらに近づいてきているようで、足音も聞こえてくる。
足音から察するに二人・・・
ちょうどドア付近で立ち止まり、
ドアが開く。
「 あ・・・、なんだ。 起きてるじゃないか・・・ 」
ドアから姿を現した声の主は、こちらの様子を確認すると、
「つまらない」とでも言いたげに口を開いた。
「 えぇ・・・、そうしないと鼻と口をふさがれて暗殺されますからね・・・ 」
と、恭也は皮肉下に声の主・・・リスティに返答した。
それに対してのリスティはというと、
別に何とも思ってなく、ただ笑ってごまかすだけだった。
そして、続いてリスティの後に続いてもう一人の女性が姿を現した。
「 そちらは・・・? 」
恭也の記憶にない人物だ。
服装を見る限り、医者、看護士の人ではないと思われる。
年頃のほうも自分とそう離れてはいないだろうが、よくわからない。
なんとなく高校生らしい面立ちをしているのではあるが、
それよりも大人らしい雰囲気をかもし出している。
「 こちらは水野蓉子さん 」
リスティにそう紹介されると、蓉子は軽く恭也に会釈し、恭也もそれを返す。
恭也は自分も名乗ろうとしたが、リスティにそれを制止される。
「 ま、とりあえず、君たち二人ともいろいろ聞きたいことがあるだろうから、
ほら、蓉子も座って座って・・・ 」
蓉子はリスティから差し出されたパイプ椅子を開き腰をかける。
リスティは自分の分のパイプ椅子を開き「どっこいしょ」と年齢にそぐわぬ言葉を発して
腰をかける。
そして「さてと・・・」と言って話を切り出した。
「 恭也、君が目覚める前の最後の記憶は・・・? 」
と、話は恭也に振られた。
「 確か・・・、川に流されてどこかで上陸したところまではなんとなくおぼろげに・・・ 」
「 あなたはその後すぐに、倒れたんですよ 」
恭也の話に対し、蓉子が始めて口を開いた。
「 そそ。 で、倒れた君を介抱して救急車を呼んでくれたのが蓉子。 つまり蓉子は君の命の恩人 」
そこまで聞いてようやく恭也は事態をのみこめた。
ようするにそのまま救急車で運ばれて、今この状況があるわけだ。
恭也は改めて蓉子に向き直る。
「 安っぽい言葉しか思いつきませんが、どうもありがとうございます。 おかげで助かりました・・・ 」
極めて真摯な態度で深く頭を下げる。
「 いえ、無事でなによりです。 正直、パニックに陥って正しい処置ができたかどうかも怪しいですし・・・ 」
そう微笑んでいい繕ってはいるものの・・・
それこそが怪しい。
きっと、彼女は冷静に適切な処置をしてくれたのだろう・・・
と恭也は無条件にそう思えた。
「 恭也のほうの事情は後で聞くとして・・・ 」
「 ・・・? 」
「 問題はここからなんだ 」
「 ”問題”・・・ですか? 」
今のところの恭也にはさっぱり理解できない。
聞くと、蓉子さんもその話を聞くためにわざわざ、この場に残っていてくれたらしい。
「個々に言えばよかったのでは」と訊くと、
「二人いっしょの方が都合がいいんだ」とリスティさんに返されてしまった。
「 それで問題とは・・・? 」
「 ずばり言うと水野蓉子の処遇・・・ 」
それを聞いた瞬間声をあげたのは蓉子ではなく、恭也だった。
「 ちょっと待ってください! なぜ彼女の処遇を決める必要があるんですか!? 」
そう声をはりあげている恭也に、たいし何も臆することなく、リスティは答えた。
「 そりゃぁ、君を助けちゃったからに決まってるでしょうが・・・ 」
「 え・・・? ・・・あ 」
恭也の勢いが徐々に消沈していく。
リスティの一言で、思い当たることがあったようだ。
そして、一人事情がわからない蓉子は口を開いた。
「 どういうことなんですか? 」
「 ふむ・・・ 」
「 ・・・ 」
リスティは言葉を吟味するように一度会話を切る。
「 まず言っておくけど、君のしたことは大変すばらしいことだと思っている。
もうほんとに、いつまでもその気持ちを忘れずに・・・と言いたくなるほど・・・ 」
「 はぁ 」
「 でまぁ、かいつまんで事を説明すると・・・ 」
そう言ってリスティはことのあらましを、以下のとおりに説明する
数週間前から、日本に凶悪なテログループが潜伏し、某所に犯行声明をおくりつけた。
国はそのテログループの鎮圧のために、一般には知られていない機関を動かすことになった。
そして自分たちはそこに所属しているのだと・・・
「 とまぁ、こんな感じ・・・ 」
それを聞いた蓉子は複雑な表情をしている。
普通に考えるとうそ臭いことこのうえない話だが、
恭也との特殊な状況の出会いのせいか、
妙に現実味があるように感じるのだ。
「 ようするに・・・、私を消すと・・・? 」
「 いや、そこまでは・・・。 まぁ普通なら記憶の隠蔽ってところだろうなぁ 」
「 槙原さんと高町さんに会ってからの記憶を全て消すということですか? 」
「 う〜ん・・・、それが出来ればいいんだけど・・・ 」
「 え・・・ 」
ここでそれまで黙っていた恭也が口を開いた。
「 記憶操作は難しいんです。 現状では『消す』となるとここ一年の記憶は消えることになります・・・ 」
「 一年・・・ 」
恭也のその言葉は、蓉子にとって少なからずショックだったようだ。
「 リスティさん・・・、いつもみたいに何とかならないんですか? 」
恭也はすがるようにリスティに言った。
「 スマン・・・。 今回のは既に公的に記録が残ってしまったからどうしようもない。
今は、昨日の爆破された事務所の処理に局も忙しいだろうが、明日にはたぶん蓉子の件も向こうの耳に入るだろう・・・ 」
・・・
三人の間に沈黙が生まれる。
前後どちらも行き止まりといった雰囲気だ。
( これでは恩を仇で返すような所業だ・・・。 何か別の方法は・・・ )
恭也が思索にふけっていると、そこで蓉子がリスティに尋ねた。
「 さっき、『普通なら』と言いましたよね? では他にも何かあるんですか? 」
「 あるよ 」
「 へ? 」
最後の間の抜けた声は恭也・・・
そんな恭也を無視してリスティは続ける
「 というか、僕としては最初からこちらを推すつもりだった・・・ 」
と、その言葉を言い終わる間際だろうか・・・
リスティのポケットの携帯電話が鳴り響いた。
飾り気のないかなりノーマルな着信音だ。
「 ん・・・。 ちょっと待っててくれ 」
そう言ってリスティは部屋をでる。
そういえばと恭也は思い出した。
昨日の一件で携帯電話が壊れてしまっていた。
まぁ、今はどうでもいいけど・・・
恭也と蓉子の二人だけになって、改めて恭也は蓉子に向き直る。
「 本当にどう謝罪すればいいかわかりません。 こんなことに巻き込んでしまって・・・ 」
「 あまり気にしないでください 」
恭也の謝罪に対し、蓉子はやさしくそう言った。
だからなのだ・・・
だからこそ、恭也はよりいっそう心苦しくなる。
「 しかし、わかっていればこんなことには・・・ 」
「 いっしょです 」
蓉子は恭也の言葉を遮るように言った。
「 もし仮に、こうなるとわかっていて、あの時あの場所に戻ったとしても・・・、
やはり川からあがって倒れた高町さんに駆け寄っていくんです 」
「 ・・・ 」
「 だから,どうあっても結果は同じ。 高町さんは責任を感じる必要はないんです 」
驚いた・・・、
というよりはショックだった。
自分と、それほど年端も違わない女性が本心からそんな言葉を口にしている。
「 つよいんですね・・・ 」
なんとなく口から出た言葉に、蓉子は「よく言われます」と笑ってこたえた。
「 今は、槙原さんに期待しましょう・・・ 」
本当につよい・・・
もしかしたら、今まであったどんな人よりも・・・
ほどなくしてリスティが病室に戻ってきた。
「 え〜と、どこまで話たっけ? 」
「 ほかに方法があるっていうところです 」
恭也がこたえると「そうそう」と笑いながら椅子に腰をかける。
「 やることは簡単。 書類に名前書いて判子を押す。 以上 」
そういってリスティは持参していたスーツケースから、一枚の紙を
恭也と蓉子に差し出した。
恭也はその紙面をみて難色を示す・・・
「 英語・・・ 」
紙面には、たくさんのアルファベットでうまっていた。
単語や文法を見る限り、一般的なアメリカ英語のようだ。
英会話ならそこそこ自信ががある恭也であったが、こういった形での英語は、
正直・・・というより、かなり苦手である。
そんな恭也を察してかどうなのか、
蓉子が用紙を手に取り、読み始めた。
「 誓約書のようですね・・・ 」
「 誓約書・・・? 」
「 本件に関して、口外してはいけないといった感じの・・・ 」
用紙の下段のあたりには二人分の、氏名欄と捺印欄がある。
何か、さきほどのものとはずいぶんと、ウエイトが違うような気がする・・・
気になった恭也はリスティに尋ねた
「 本当にこれだけでいいんですか? 」
「 あぁ、事が終わり次第、今までどおりの生活は保障するよ 」
「 終わるまでは? 」
「 まぁちょっと、身分証がかわるくらいかな・・・ 」
恭也とりリスティがそんな会話をしていると、蓉子は読み終わったのか、
用紙を備え付けの簡易テーブルの上においた。
「 で、どうする? さっきのか、こっちにするか? 」
リスティはそう蓉子にたずねる。
蓉子の頭の中では二通りの今後の想定などが天秤で比べられているようだ。
「 少し怪しい気もしますが・・・、こちらにします 」
「 恭也は? 」
「 俺は、水野さんの意思を尊重したいと思います 」
「 ならサインと、判子を・・・ 」
そういわれると、蓉子は鞄から筆記具と判子をとりだした。
後で恭也が聞くには、あらかじめリスティが持ってくるように言っていたらしい・・・
恭也のほうはというと、リスティが用意していてくれた。
恭也がサインと判子を押し、それを蓉子に渡す。
二人ともが終えると、紙を改めてリスティに渡した。
それを受け取ったリスティは、二人とサインを確認する。
「 ん・・・、 けっこう 」
リスティは用紙を確認しながらそう答えた。
「 というわけで、君たち今から夫婦ね 」
・・・
「「 は? 」」
―今、人生が大きく急カーブする爆弾発言を聞いたような気がした・・・
そして追い討ちをかけるように、リスティはさっきサインした用紙の下(ひっついていた)から、
もう一枚の紙を二人の前に差し出す・・・
開いた口が塞がらないとはこのことか・・・
その用紙の上部には他の文字よりも少しだけ大きく三文字・・・
『 婚 姻 届 』
氏名記入、判押済・・・
あとがき・・・
やはり今回も二話分を圧縮。
なんとなく最後までいけそうな気がしてきました。
主人公交代〜したのはいいけど、どうやって書こうか、かなり悩む一話でした・・・
05/04/02
恭也と蓉子が結婚!?
美姫 「いきなりの急展開!」
次回が、次回がぁぁ。
美姫 「もう、本当に続きが速く読みたい〜」
ああ〜、続き〜。
美姫 「次回も非常に楽しみに待ってますね〜」
ああ〜、次回をプリ〜ズ。