はじめに

とらハ3×Fate/Stay nightの短編です。

恭也強いんで、そういうのが嫌な人はごーとぅーばっく!

勢いで書いた第二段で、穴が結構ありそうですがご了承ください。

前に書いた『黒衣の剣神』の別パターンのお話です


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・!」

 

駆ける。

常闇の町の中を、美綴綾子は脇目も振らずに全速力で駆ける。

まるで底なしの泥沼に嵌って、そこから抜け出そうともがくように。

 

「はぁ・・・はっ・・・・・・なんだ、アレは」

 

息を切らして走りながら、畏怖の感情を込めてはき捨てる。

背後に人影は見えず足音も聞こえないが、追ってくる気配だけは簡単に分かる。

そして特定の方向に誘導されていることも。

要は遊ばれているのだ、おそらく慎二の意向で恐怖をじわじわと与えるために。

すげなく断った自分の態度への意趣返しに、敵わない自分ではなく圧倒的格上の存在を使うあたり彼の性根が伺える。

しかもそれを自分の力だと勘違いしているあたり、かなり救えない。

それにしても、どうして“あんな存在”が間桐慎二に服従しているのか理解しかねる。

力関係は素人が見ても明らかだ。

なにか強制しているような力でも働いてるんじゃないのか。

綾子のその考えは殆ど正解なのだが、彼女にそれを確かめる術はない。

その理由を確かめるよりも、今は一刻も早くこの事態を乗り切る方法を模索しないといけないのだから。

しかし段々と人気の無い方向へと追い込まれていくのが実感できた。

そして、少し広い路地裏に差し掛かった。

 

「はぁ・・・はぁ・・・・・・あっ!?」

 

無我夢中で走り回り、肉体的にも精神的にもかなり疲労していた綾子は、そこで足を縺れさせて転倒する。

悲鳴を上げる身体を無視し、手を付いて体を起こして顔を上げると、

 

「残念ですが・・・そろそろ終わりです」

 

目の前に紫の、人の規格を外れた美貌の美女が立っていた。

その顔に巻かれている不可思議な眼帯でさえも彼女の美貌を引き立てているようだった。

一歩一歩、恐怖を煽るように近づいてくる女性。

 

(あ・・・ああああ・・・・・・だ、れか)

 

助けて。

気丈な彼女でさえも助けを求めてしまう程の絶望感。

精神的には殆ど屈服したといってもいい状況の中、彼女の身体の生存本能は生き延びるために最大限の活動をする。

彼女の中に眠っていて普通に暮らしていたのなら起きるはずのなかった、魔術回路が起動する(・・・・・・・・・)

そして殆ど屈服していた中で唯一残っていた、助けを求める慟哭がこの場で奇跡を起こす。

 

「なっ・・・!?」

 

綾子の目の前に魔方陣が出現する。

驚きながらも後方に飛び下がり警戒する女性。

流石に、王手(チェックメイト)寸前で変化した状況に動揺を隠せない。

そして驚いていたのは当事者の綾子とて同様であった。

いきなり熱くなってだるくなった身体に目の前にある魔方陣。

わけが分からなかったが、一つだけ漠然と理解できたことがある。

 

(・・・・・・たす・・・かっ・・・・・・た?)

 

先ほどまでの絶望感は薄れ、安堵のあまり力が抜けて意識が落ちそうになるのを堪えて、綾子は魔方陣を見据える。

その中心が一際輝くと、そこには最初から居たかのように黒衣の青年が両手に刀より少し短い刀―――小太刀を持って、綾子を護るかのように立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とらいあんぐるハート3 & Fate/stay night

黒衣の剣神と現代の女武芸者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サーヴァント、アサシン・・・召喚に応じ参上した」

 

振り向かず、目の前の女性を見据えたまま、青年―――アサシンのサーヴァントはそう告げた。

 

「サー・・・ヴァン、ト?」

 

明らかに困惑した声で、綾子はアサシンが言った言葉を反芻する。

サーヴァント―――直訳すれば、奴隷とかそういう意味だったはず。

でも、それが何だというんだ?

理解の外にある出来事の連続に、綾子の思考は上手く働かずに混乱するばかり。

その様子を感じ取ったアサシンは苦笑しながら、召喚の際に一番大事なことを訊ねる。

 

「問おう、君の名前は?」

「え・・・・・・あ、綾子・・・・・・・・・美綴綾子」

「綾子・・・いい名前だ。 俺は君の助けを求める慟哭の声を聞いて、此処に喚び出された。 君が君である限り、我が二振りの刃は君に害を成す全てを斬り伏せよう。 ここに契約は完了した」

「えっ・・・・・・っ!?」

 

純粋に、何の下心も感じられない名前の賞賛に、綾子は軽く頬を染める。

それと同時に右の胸の辺りに焼けるような熱さを感じて、思わず胸を押さえる綾子。

レイラインの形成を確認したアサシンは、警戒態勢から戦闘態勢に移行して、持っていた小太刀を脇に差すと刃を抜く。

 

「マスター殺しの代名詞であるアサシンが、正面から戦いを挑む、と?」

 

奇妙な予感に遮られて動こうにも動けなかった女性が、アサシンの動作を見て言葉を発する。

侮りが多分に含まれたその言葉に、彼は大した反応を示さなかった。

両手に持った小太刀を構えるでもなく、ただ彼の主である少女と女性との間に立っているだけだ。

それが女性には異様に見えて、この後の行動を決めかねていた。

相手がアサシンならば、正面から対峙しているうちに倒しておくにこしたことは無い。

なにせ同じサーヴァントであっても気配遮断スキルを使われたら、探知は困難なのだから。

だがそれでも、女性はここで戦闘を仕掛けることを躊躇していた。

着ている服は明らかにこの時代に近いものだし、彼が纏っている雰囲気は一般人のそれに近く、とても戦闘者とは思えない。

しかし、彼はサーヴァントであると彼女自身が感覚で理解している。

それに加えて、何らかの漠然とした予感が彼女の戦闘意欲を削いでいた。

 

「おい、ライダー! 何やってんだよ!! そんな見るからに弱そうなサーヴァント、とっとと殺っちまえよ!!」

 

ライダーと呼ばれた女性の行動を決めたのは、遅れてやってきたマスターである少年の言葉だった。

どうやらアサシンが現れるところから見ていたらしく、彼がサーヴァントであることは理解しているようだった。

 

「・・・・・・・・・正直、同情を禁じえないな。 そんなのがマスターだなんて、な」

 

一目で少年の大体の性格を大体見抜いたアサシンは、心底気の毒そうな視線を女性に向けた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

その言葉が見事にクリティカルヒットしたライダーは、思わず泣きそうになりつつも何とか堪える。

彼女の心情はさておき、マスターからそう言われたのでは戦うしかない。

鎖の付いた短剣を構えて、アサシンを見据える(眼帯越しだが)。

そして、一気に駆け出した。

 

「ふっ・・・!」

 

かなりの速度で突進し、短剣を投げつける。

それをアサシンは無造作に剣を振り上げることで打ち払う。

簡単に弾かれたことに少々驚きながらも、手元の鎖で短剣の軌道をコントロールしようとするライダー。

しかしそれが短剣に伝わるよりも早く、振り上げた剣を鎖に叩きつけて制御を乱すアサシン。

それと同時に複数の黒い“何か”がライダーの顔めがけて飛来してくる。

視覚でそれを捉えていたのなら、かわすことも防ぐことも困難であったが、視覚を閉じられて肌で感じ取っている戦闘している彼女は、それに気付き横に避ける。

その回避行動を嘲笑うかのように、既にその場所には先ほど同じ数の“何か”が飛来していた。

 

「っ・・・!」

 

鎖で弾きつつ叩き落とせなかった残りを飛び上がることで回避するライダー。

そんな彼女を見つつ動かないアサシン。

しかしその手が彼女と別の方向にぶれる。

位置関係から即座に誰を狙ったか分かったライダーは、近くの壁を蹴って飛来物と彼女のマスターと間に入り込むと、飛来物を叩き落す。

 

「そんな愚物でも庇うか。 見上げた忠誠心だ」

「・・・・・・・・・」

 

純粋に感心したように呟くアサシンに、憮然と黙るライダー。

前者には反論することすら出来ないし、後者はこんなのでも死んでしまうと彼女が悲しむから庇っただけだ。

貴方のマスターはいいですよね、と恨めしげな視線(でも眼帯越し)を送ると、それを感じ取ったアサシンは苦笑した。

 

「今ならまだ見逃す。 そこの愚物を連れて、去れ」

「な・・・さっきから「本当ですか?」なっ!? おい、ライダー!」

「黙っていてください、シンジ。 このまま戦闘を続けるのは得策ではありません」

 

この僅かな攻防で、ライダーはアサシンの実力を見誤っていたことを理解していた。

正直、慎二(足手纏い)を抱えて尚且つ、こんな狭い場所で戦っても勝ち目は薄い。

狭いから宝具を使えないし、魔眼を使おうにもそんな隙を与えてくれそうに無い。

そもそも今回のことについては反対だったし、藪をつついてサーヴァントを喚び出させてしまったし、なにより慎二(足手纏い)が邪魔だ。

 

「何言ってんだよ! お前があいつを倒せば問題ないだろうが!!」

「私一人ならどうとでもなりますが、シンジを護りながらだと正直厳しい」

 

言外に「お前が居るから勝てないんだよ」と口に出すと碌なことにならないので(このまま退いても結局は同じだが)、遠回しに告げる。

それすらも理解できずに、喚こうとする慎二の頬を黒い飛来物が掠める。

 

「失せろ」

 

殺気を乗せて、簡潔に分かりやすく淡々とアサシンは告げた。

 

「ひっ!? く、くそ! ラ、ライダー」

「はい」

 

慎二を抱えたライダーは、アサシンを一瞥(どことなく感謝の念がないでもない)すると足早に立ち去っていった。

残されたのは、アサシンと呆然と成り行きを見守っていた綾子だけだった。

 

「とりあえず、場所を移動しよう」

「・・・・・・え、あ・・・はい」

 

そこでアサシンが始めて、綾子のほうを向く。

綾子はそこで初めて、アサシンの顔を見る。

凛々しいという表現がぴったりな整った顔立ちに、強い意思を感じさせる鋭い眼差し。

そんな彼が魅せる(誤字に非ず)温かさを感じさせる優しい笑顔を見た綾子は、顔が赤面するのを堪えきれない。

混乱していた頭がそれのせいでさらに乱れていく。

アサシンが歩き出すと、それに続くようにふらふらと綾子は歩き始めた。

歩きながらふと、

 

(・・・・・・遠坂・・・・・・・・・あの勝負、勝てるかもしれないぞ、私)

 

思考が現実逃避気味になっていた綾子は、ここには居ない友人に向けてそんなことを言ってみた。

勿論、聞こえるわけも無いのだが。

 

「・・・ふむ、忘れていた」

「・・・え?」

 

歩き出していたアサシンが、ふと立ち止まると綾子のほうを向く。

思考が正常な状態に戻っていない綾子は、何のことかさっぱり分からず首を傾げる。

 

「君の名前を聞いていたのに、俺の名前を教えていなかった」

「あ」

 

そう言えばそうだ。

あの女性のことやそのほか色々なことに混乱していて全然気付かなかった。

 

「アサシンのサーヴァント、高町恭也だ。 よろしく、綾子」

「あ、はい」

 

僅かに笑みを浮かべながら、手を差し出してくるアサシンこと恭也。

それにまた頬を少し染めた綾子は、おずおずと手を出して握手をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここに一つの歯車が加わり、運命の夜はさらに加速していく。

それがどんな結末を迎えるかは、誰も知りようがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

凄い遅れましたが、400万ヒット記念SS風味です、七彩です。

また勢いで書いてその上文量も多くないorz

これは以前に投稿した『黒衣の剣神』の恭也のマスターが別のパターンです。

何故素人の綾子が英霊―――というか恭也を呼び出せたのか。

それは恭也の英霊になるときの契約条件に秘密が、ということにしておいてください。

ああ、事前にこういうのは準備しておくものなんだろうになー。

というわけで、浩さん、400万ヒットおめでとうございますー。

これからも頑張ってください!

ではでは。





ありがとうございます!
美姫 「祝、400万〜」
記念のSSは、綾子がマスターに!
美姫 「いやー、色々と想像をかき立てられるわ」
うんうん。このまま聖杯戦争へと巻き込まれたらどうなるんだろうとか。
美姫 「本当にありがとうございました」
これからも頑張ります!



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