『ネギまちっく・ハート〜season of lovers〜』
第八符『PRIDE〜麻帆良祭り〜A』
麻帆良祭を二週間後に控えた早朝、龍宮神社に鼎の姿があった。その手には愛用の棍。
それを使って木にぶら下げたサンドバッグを軽やかな動きで打ちつけている。
その動きはいつもの鼎からは考えられないほど滑らかでキレがあり同一人物とは思えないようなものだった。
また、そのサンドバッグを相手に棍を振るう鼎の言われようの無い歪んだ嗤(え)み。それも普段の鼎からは想像すらできないものだった。
「ふっ・・・・!!!」
仕上げの一撃だったのか、遠心力を最大限に利用した一撃をサンドバッグにお見舞いする。
それまで打たれるたびに左右に大きく揺れていたサンドバッグはその一撃によって静止した。と、同時にサンドバッグが真っ二つに裂けた。
その一撃の破壊力はサンドバッグを見れば一目瞭然である。
「朝から精が出るな、鳳。」
そういって姿を現したのは神社の娘、真名だった。
「龍宮か。毎朝悪いね。」
鼎は棍を地面に放り投げて切り株に座り込んで真名にいった。
「しかし、よく出る気になったな。戦うのは嫌いじゃないのか?」
真名は鼎が破壊したサンドバッグの残骸を拾い上げてまじまじと見ながら聞いた。今までの鼎の動き、技のキレ、その表情。
どれをとっても戦いを嫌う、争いを嫌う人のものとは思えない。
「それはどっちに聞いてるの?鳳鼎に聞いてるの?それとも、蓬莱人形に聞いてるの?」
鼎は棍を拾い上げて整理運動というように振り回しながら聞く。
「どちらも何も無いだろう。鳳は鳳で、おまえ自身が蓬莱人形だろう。」
真名はあきれたやつだという口調で鼎に言った。鼎はそりゃそうだねと笑う。
「で?その蓬莱人形が何でこんな大会に出る気になったんだ?朝倉と相坂に聞いたが、
よもやそんな理由でこの大会に出る気になったわけではないだろう?」
真名は鼎をまっすぐ見て聞いた。真名のその表情は真剣そのもので鼎の真意を探ろうとしているようだった。
いや、それ以上に、何かを危惧しているという勘もある。
「そりゃ当たり前じゃないか。でも、別にそんな大仰な理由は無いよ。ただ、自分から何かをしたかっただけってとこかな。
今まで何するにせよじーちゃん、父さんの言いなりだったし。だから自分から何かをしたくてね。
絶対的に何もしなかった俺がはじめて何かをしようと思っただけさ。」
鼎は振り回していた棍を急に止めて真名の顔面を突いた。しかし、当然、寸止めだ。
真名もまたそれがはじめからわかっていたかのように瞬きひとつせず、全く動じずたっている。
「絶対的に何もしなかった?じゃあ、相坂と朝倉は何だ?お前が二人に好意を抱いたのも、二人と付き合い始めたのも、
お前は何もしなかったというのか?」
真名は視線を鼎にまっすぐ向けたまま聞いた。
「二人との出会いは運命だよ。そこには能動も受動も存在しない。はじめからそうなるべくしてそうなったんだから。」
鼎はいいながら棍を真名から離して地面に放り投げられていた袋に納めた。
「そうか。だが、大会に出るということはお前が何であるか、あの二人に知れるということだぞ。それでも・・・いいんだな?」
真名は鼎をみたまま言った。そうなった場合、最悪どうなるのか、その覚悟はあるのかと聞かんばかりに。
「そりゃね。でも、いい加減、蓬莱人形ともケリつけないといけないから。遅かれ早かれこうはなったと思うよ。
その先に何があるのか断片集(フラグメント)にはわかんないけど、いつまでも隠しておけるものじゃないし。」
鼎はそういい残すと神社から姿を消した。真名はその後姿を暫く見ていたが踵を返して神社に姿を消した。
(断片集(フラグメント)か・・・・。悪魔の仔(シフトジャンク)もここまでくると立派な人間兵士(ヒューマンウォーリアー)だな。)
真名がそのとき何を思ったのかは誰にもわからない。だが、二人は旧知の仲なのだろう。真名はさよや和美の知らない鼎を知っているようだった。
(あいつとあたりたくは無いな・・・・・。おそらくあいつとまともに戦えるのは、あいつを倒せるのは・・・高町ぐらいなものか・・・。)
恭也の力を見抜いている真名。この大会、無事に終わるはずが無い。始まるはずがないとそのとき感じていたのかもしれない。
「調子はどうだ?恭也。」
エヴァの別荘。恭也はいつものようにそこで剣を振るっていた。しかし、その様子は鬼気迫るものではなく、
のびのびとリラックスしていると一目でわかった。
「上々だな。寧ろ、今までで一番いいかもしれない。」
夜はエヴァの別荘で実践を模した稽古。家に帰ってからは自宅でウェイト・トレーニング。
普通に考えればその運動量は半端ではないが、持ち前の回復力と、エヴァの別荘があればそれをものともしないのが高町恭也だ。
「ひざの調子はいかがですか?」
茶々丸が稽古にひと段落をつけてエヴァの元にやってきた恭也のひざを見て聞いた。
「最近はほとんど痛みを感じないな。神速の時間も回数も伸びてきているし、完治も近いのかもしれないな。」
恭也は膝をなでながらそういった。
「蓬莱人形・・・といったな。お前の膝を砕いたのは。」
エヴァがそんな恭也を見て言った。
「ああ。俺が今まで戦った中でもおそらく最強だろう。個人的に再戦したいといえばしたいかな。」
恭也はそういって椅子に座って茶々丸の入れてくれた紅茶をすする。
「ほう。お前にもそんな風に思うことがあるんだな。」
エヴァが意外だなという表情で恭也に聞いた。
「まあ、機会があれば・・・な。別にお前の命を狙ったから再戦して決着をつけたいとか言うんじゃなくて、あの強さからは、
あの武からは何かを感じたんだ。それを、見極めたいといったほうがいいな。」
恭也はエヴァの問いにそう答えた。恭也はそういいながらカップに目を落とした。恭也にそこまで言わしめる蓬莱人形。
その力たるや想像を絶するものであろう。
「とはいえ、蓬莱人形と再戦しても負ける気はしない。エヴァにこれ以上心配をかけるわけにはいかないからな。」
たとえ相手が蓬莱人形であったとしても恭也の剣に迷いは無い。その双眸の先に見ゆるは武の頂ではなく守るべき人、
エヴァと茶々丸の姿。その力、最強たるにふさわしかろう。
PRIDE〜麻帆良祭り〜予選まで後十日。放課後、真名に和美とさよは呼び出された。
普段、あまり話さない相手に呼び出されて二人は何事かと思ったがとりあえず真名の指定した屋上に足を運んだ。
真名はすでに待っていて二人が来たのを確認するとベンチから立ち上がって二人の前に立った。
そんな真名にさよはどんな用事ですかと用件を聞いた。真名は暫く黙っていたがその重い口をついに開いた。
「二人は鼎の過去についてどこまで知っているんだ?」
真名の口から出たのは二人の想像していたものとは全く異なるものだった。
二人は思いがけない質問に首をひねったがふとその質問について考えてみるとさよも和美も鼎の過去についてほとんどといって知らない。
鼎の口から過去の話が出たことなど無いのだ。
「そうか・・・知らないか・・・。」
真名は麻帆良祭一色の学園を見下ろした。自分の口から言っていいものかどうか迷っているのだ。
真名はかつてとある魔法使いのミニステル・マギだったころに悪種(バッドカインド)と呼ばれた魔導師とその孫、
蓬莱人形こと鳳鼎と暫く行動をともにしたことがある。その際に鼎の過去についてある程度のことを、
鼎の生まれについてを知ってしまったのだ。しかし、その事実はともすればさよや和美にとっては重過ぎるものかもしれない。
鼎本人が言うならまだしも、第三者の口から言うべきではないのだろうか。しかし、鼎が本戦に進めば、間違いなく蓬莱人形の鼎になる。
断片集(フラグメント)の普段見せない一面を見せることになるだろう。そう考えるとたとえ第三者の口からだとしても
前もって伝えておいたほうがいいのではないだろうか。彼が、悪魔の子(シフトジャンク)だということを。
「龍宮は鼎の過去、知ってるの?」
和美が突然そんなことを聞いてきた真名に聞いた。知っている。しかし、教えるべきか否か迷っているのだ。
「私は鼎が話してくれるまで待ちますよ。話してくれないのは多分、まだその時期じゃないからだと思いますから。」
さよは真名にはっきりといった。つまり、たとえ真名が話そうという気があって呼んだとしても、自分は聴く気がありませんと。
「そうか・・・・そうだな・・・・。」
真名は安心したように少し笑うと、二人を見て言った。
「確かに、私は鳳の過去を知っている。でも、相坂の言うとおり、私の口から言うべきじゃないんだろう。
ただ、PRIDEの舞台では彼は変わってしまう。それだけ伝えておく。私が言うことではないが鳳のことを・・・・頼む。」
真名はそういって頭を下げると屋上を後にした。結局何が言いたかったのかわからないままだったが、
鼎の過去は簡単に触れられるようなものでないということは二人にもはっきりと伝わった。何かが起きる・・・。二人はそう思わずにはいられなかった。
「お前も出る?」
舞台は変わって高町家。恭也にとって一日のほとんどをエヴァとすごしている手前、
自分の家ですごす時間は恭也にとって貴重な時間である。そこで夕飯を取っていた恭也は美由希の言葉にそう返した。
「うん。今、自分がどれぐらいの力を持っているか知りたいの。いつも相手にしているのは恭ちゃんと美沙斗かあさんだけだから。
あ、二人と稽古するのがいやって言うんじゃないけど・・・・。」
美由希は自分の力を素直に試したいのだ。確かに稽古の相手は恭也と美沙斗のみ。
おなじ御神の剣士と戦うのは技術の面での成長は非常に見込めるが、しかし、偏った相手との稽古は剣士として成長する上では
あまりよいとは言えない。いわば偏った食生活をしているのと同じことだからだ。
「いいんじゃないか?異なる流派と戦うことも大事だ。」
そういったのは高町家にきていた美沙斗だった。恭也もお前がそう思うならばと美由希の意思を尊重した。
美由希の潜在能力は自分すらも凌ぐと恭也は思っているため、一歩でもその上に上ってくれるなら、
それは御神の剣士としては喜ばしいことだ。
「予選であれ、本戦であれ、もし戦うことになっても加減はしないからな。」
恭也は美由希に対し、無情にもそういった。美由希は困った顔をして少しは加減してほしいかもといったが、
そんなことを言って加減するような兄ではないということをよく知っている。
「とりあえずがんばれ。俺の組からもかなりの使い手たちが出るからな。いい経験をさせてもらうといい。」
恭也は美由希にそういうと席を立つ。これから再びエヴァのもとにいって稽古をするのだ。今の恭也に一切の死角は無い。
やはり、この強さには誰も届かないのだろうか。
放課後。さよは和美とともに二人で下校していた。ここのところ鼎は稽古に浸りきっていて昼休みあたりぐらいからすでに授業にも出ていない。
「まったく・・・。鼎も本気になるのはいいんだけど、やりすぎじゃない?」
和美はさよに言った。それもそうだ。いかに大きな大会とはいえ、やりすぎの感が否めない。
「男のロマンなんじゃないですか?」
さよは首をかしげて少し考えて和美にいった。
「そうかなぁ・・・?そうかもしれないけど、どう考えたってやりすぎだよ。」
和美の言うとおりだ。それだけの理由で果たしてそこまでするだろうか。と、そんなことを言っていると近くから一定の、
しかしそれでいて不定の何かを叩く音が聞こえてきた。二人はなんだろうとその音のするもとに足を運ぶ。そこにいたのは。
棍を手に吊り下げたサンドバッグを幾度となく、しかも前後左右に度を越えて揺れるほどに打ち付けている鼎だった。
その姿を見た二人はいろんな意味で戦慄した。
「あちゃー・・・・なんか、いろんな意味でまずいかも・・・・。」
その鼎の姿を見ていた和美がそんなことを言った。さよはそういわれてはじめて気がついた。
サンドバッグを幾度となく打ち付ける鼎の顔が言い表しようもなく楽しげに愉しげに嬉しげに嗤み歪んでいることに。
はたから見れば激しく奇妙で、それ以上に見ている人に恐怖を与えるような笑みだった。
「えっと・・・・警察・・・呼びます?」
さよをしてそこまで言わせるほどの豹変振り。いや、豹変というよりも別人になっているといったほうがいいのかもしれない。
鼎はいったい何者なのか。どう考えてもただの魔法使いとは思えない。結局、鼎の口から自らの過去について語られることはなかった。
「じゃあ、いってくるよ。」
PRIDE〜麻帆良祭り〜予選当日。鼎はいつもと変わらず、そう、さよと和美の知っている鼎のまま、さよと和美の部屋を後にした。
さよと和美はがんばってと鼎の背中を言葉で押して見送った。鼎に頑張ってほしいという想いと、言いようのない感情を抱いて。
「恭也、がんばってこい。」
恭也は最後の仕上げを終え、エヴァの家にその身を置いていた。そんな恭也にエヴァの言葉。
茶々丸もがんばってくださいと恭也に声をかける。
「全力を尽くしてくるよ。」
恭也はそういって遂に予選会場に足を向けた。おそらく、麻帆良最強の剣士、高町恭也が猛者の集うジャングルへと足を踏み込んだ。
「レディース・エン・ジェントルメン!!!!遂にやってまいりましたPRIDE〜麻帆良祭り〜予選!!
予選の状況は麻帆良大学工学部が麻帆良森林公園に縦横無尽に仕掛けた特殊カメラによって麻帆良ケーブルテレビで特別放送いたします!!
司会は麻帆良大学報道部部長華山ななと副部長種村裕樹、実況は麻帆良大学報道部格闘技部門より、高村博、大村隆弘!!
ルールは無用!!ただし、武器は前もって申告してもらい、麻帆良大学工学部の技術のすべてを注いで開発した、
特殊素材で複製したものを使っていただきます!!時間制限はナシ、16人になるまで戦いは続きます!!!
では、麻帆良最強を決めるPRIDE〜麻帆良祭り〜予選、堂々と、そして優雅に、そして熱く、開幕です!!!!!!」
数多の猛者が互いに互いをつぶしあう予選。当然その予選に参加する恭也、鼎、真名、刹那、ネギ、美由希。
その予選で184人が姿を消す。その中に彼らが含まれないとは限らない。
麻帆良最強を決めるPRIDE〜麻帆良祭り〜予選がついに幕を挙げた。
あとがき
さて。遂に予選が始まりましたPRIDE〜麻帆良祭り〜。
(フィーネ)そうねー。次回からは遂に予選だし、思いっきりはっちゃけるんでしょ?
まあ、少しは自重するけど、基本的にははっちゃけたいな。
(フィーラ)ところで、最後に出てきた特殊素材って何?
ああ、それか。超の発明品だからそれはそれはすごいものらしいぞ。何せ複製品と本物の区別はほとんどできないほどに精巧で、
それでいていくら本気でぶん殴っても骨折はしないって言う、いわば夢の素材だな。
(フィーリア)拷問道具に使えそうね。
物騒なこというなって。さすがに本格的にするっていっても恭也や刹那のような下手しなくても人が死ぬようなものを使わせる
わけにはいかないだろ。
(フィーネ)それもそうね。本格的だから骨折程度は自己責任でいけるだろうけど死人が出たらしゃれにならないもんね。
そうそう。
(フィーラ)じゃあ、あなたで少し試してみましょうか。
は?なにいって・・・
(フィーリア)次回、ネギまちっく・ハート第九符『猛者たちの森』!!!
お、おい・・・・
(フィーラ)じゃあ、早速・・・
あ、お・・・おい・・・・・や、やめ・・・・!!!そこ!!!カメラを止め・・・
[プツン。ザー・・・・・・・]
……合掌。
美姫 「って、嫌な感想の始まり方ね」
だな。と、何はともあれ、遂に幕を開けた麻帆良祭り。
美姫 「果たして、予選を勝ち抜き、本選へと進めるのは誰か!?」
次回の予選が非常に気になります。
美姫 「次回も、楽しみに待ってま〜す」