『ネギまちっく・ハート〜season of lovers〜』










          第十八符『激戦、恭也VS鼎!』



 月が天高く輝いている。既に時刻も10時を過ぎ、刻一刻とPRIDE〜麻帆良祭り〜決勝戦が近づいてきている。

観客席は試合のときとは違った静かで、それでいて熱狂的な雰囲気をかもし出している。ここまでに消えていった数多の戦士たち。

しかし、恭也と鼎はここまで残った。勝ち残ったというよりも、残るべくして残ったといったほうが正しい。

そして、最強の称号を得るのはただ一人。恭也か、鼎か。二人が次に会うとき、最後の戦いが幕を開ける。

 
リングにつながる廊下に鼎はひとりでいた。試合開始時間までまだあるが、控え室には戻る気がないようだ。

いや、おそらく控え室にはさよと和美がいる。今あってもどう対応すればいいのかわからないし、試合に対するモチベーションにもかかわる。

だからこそ、控え室には行かないのだろう。と、その廊下に足音が響いた。ここに来れるのは選手だけ。

しかし、残された選手は鼎と恭也の二人。恭也は反対側の通路から入場するためにここに来るとは思えない。

だとすれば一体誰なのだろうか。鼎は足音の聞こえる暗い通路の先を見る。その足音はまるで隠れて近づくということを忘れているかのように高らかに響き、

まるで、隠れるほど自分は弱くないということを暗に示しているかのようでもあった。鼎の前で足音が止まる。そして、足音の主は鼎に話しかけた。

「さすがは『麻帆良の司馬懿』と呼ばれるだけはあるな、鼎。すべて思い通りにことが運んでるみたいじゃないか。」

 膝近くまである鮮血のような真紅の髪。顔立ちは端整で女性ファッション誌の一流モデルと比べて遜色無い。

少しつりあがった瞳には黄金色の双眸。きつい印象を受けるが、それでいても美しいと言い切れる。

半そでから覗く腕とミニスカートから覗く足は、細すぎず太すぎず。そして、まるでモデルのようなスレンダーな体型。

身長も女性としては高く、170をほんの一、二センチ下回るぐらいだろう。鼎はそんな相手に少し苦笑いを浮かべる。

「思い通りってわけじゃないけどね。でも、大体は俺の書いたストーリーどおりにことは運んでるかな。」

 鼎は顔見知りと話すような気さくさで突然現れた人物に返した。おそらく知人なのだろう。

「唯一の誤算は恭也が強くなりすぎたってことか。瞬殺だけはされないでくれよ。過去のこととはいえ、この俺とまともに渡り合ったんだからな。」

 そういって肩をすぼめる真紅の髪を持つ来訪者。

「約束はできないよ。正直、もって五分、早くて二分ぐらいかな。」

 鼎はそういって肩をすぼめる。

「でも、今回は悪かったね、眞莉亜。最強にこだわるお前としてはぜひとも出たい大会だったのに、出場を辞退してもらって。」

 来訪者は眞莉亜という名前らしい。鼎はそんなふうにいったが、眞莉亜は首を振って気にするなと返した。

「確かに俺は最強にこだわるけど、別にみんなに知ってもらおうとは思わないし。つーか、人間しか出てないところに『吸血鬼の王』、

『幻想の鬼姫』、『白夜の霊姫』が出たら、それこそ死人が出るって。魔法なしじゃあ、ネギ先生も相手にならないしさ。」

 眞莉亜は笑いながらそういった。自らの別名を挙げる手前、眞莉亜も鼎のような人種なのかもしれない。

「それもそうか。」

 鼎は眞莉亜の言葉に納得したように頷くとリングに目を向けた。

「でも、誤算だったな。お前のことだから恭也が『瞬』で真名を倒すとは思ってただろうけど、使いこなすとまでは思ってなかっただろ?」

 眞莉亜はそういって壁に立てかけてあった鼎の鉈を手にとる。鼎はそれが誤算だったと頷いた。

「俺は体格的に『瞬』は使えて二回ぐらいが限度だしね。一回は古菲との戦いで使ったから、実質後一回しか使えない。

恭也は多分少なくともあの体型なら、後二、三回はつかえるだろうね。俺は剣士としての実力を速度で補ってたけど、

それに追いつかれたら手の打ちようがないって。」

 鼎は嘆息して眞莉亜から鉈を奪い取ると手持ち無沙汰にくるくると回し始めた。

「そうそう。ま、俺から言わせりゃ今のお前も恭也も大して差は無いがね。」

 眞莉亜はそういうと壁に瀬を預けて鼎のほうを見た。

「お前は吸血鬼じゃないか。普通の人間と比べること自体間違ってるって。」

 鼎はまるでなんでもないことのようにいったが、その一言は眞莉亜が人間ではないということをはっきりと断言していた。

眞莉亜はそれもそうだがねと応えると壁から離れて鼎に背を向けた。どうやら、用は済んだようだ。

「それと、いい加減に女装するのはやめろよ。ただでさえ女に間違われるんだから。」

 鼎は振り向くことなく眞莉亜に告げた。どうやら、眞莉亜は男らしい。

「いいじゃないか。普通の服より似合うんだし。ヨーロッパじゃスカートが正装の国だってあるんだぞ。それに、中の二人は女の子なんだし。」

 眞莉亜はだからこれでこれからも行くさと言い残して鼎の前から姿を消した。やはり、足音を響かせながら。

「全く。あれでいて世界最強なんだから、全くもって不公平な世の中だよ。」

 鼎は笑顔のまま眞莉亜の後姿を見送った。自分の緊張を解いてくれたことに感謝の意を持って。





 一方、恭也は鼎とは反対側の選手控え室にエヴァ、茶々丸と一緒にいた。

恭也は真名との戦いで負った傷をエヴァに癒してもらうためにベッドに横になって目を瞑っていた。

「全く。あれほど心配させるなといっておいてこのざまか。まあ、始めから無傷で帰っては来ないと思ったが、

ここまでぼろぼろになりながら勝ったお前に正直感服したよ。」

 エヴァは心配しながらもあきれながらそういった。事実、恭也の怪我は常人ならば既に動けるものではなかった。

骨のいたるところにひびが入っていて、折れている箇所も尋常ではない。これだけひどくやられていて、内蔵が無傷なのは奇跡といっていいかもしれない。

しかし、それでも真名の攻撃は急所を捉えており、命にかかわるような深刻なダメージを恭也は受けていたのだ。

だが、そんな中で恭也は遂に答えを見つけた。自分が戦うべき答えを。自分が強くなる理由を。

「自分でも驚いたよ。でも、勝てたのはエヴァと茶々丸のおかげだ。本当にありがとう。」

 恭也は体を動かすことはできないものの、二人にお礼を言った。二人のおかげで今の自分がある。二人がいなければ今の自分は無い。

恭也にとってそれは一番に感謝しなければいけないことだった。

「そんなことは無いですよ、恭也。この結果は恭也が積み重ねてきたものの結果です。」

 茶々丸は横になった恭也の手を握ってそういった。恭也はそうだとしても二人がいなかったら今の自分は無かったと改めて頭を下げた。

「そうそう。さすがは恭也。人類最強を代表するだけのことはある。」

 いきなりだった。いきなりそんな声が控え室に響いた。いつ声の主が入ってきたのか、恭也にもエヴァにも茶々丸にもわからなかった。

気にしていなかったといえば気にしていなかったが、それでも誰かはいってこようなら、誰かが気づくはずである。

しかし、誰も気付かなかった。あのエヴァをしても気付かなかった。眞莉亜の気配に。

「眞莉亜か。いつもいきなり現れるやつだ。」

 恭也は顔だけ眞莉亜のほうに向けて眞莉亜を確認した。エヴァと茶々丸も振り返って眞莉亜を確認する。

「いやしかし、強くなったね恭也。ま、俺の足元にははるか及ばないにしても、『常人』という括りの中じゃ間違いなく最強だろうね。」

 眞莉亜は恭也に近づいてそういった。

「『魔法使い』も含めると魔法の使えない俺は不利だからな。そこのところは仕方ない。」

 恭也もそれはわかっているといった口ぶりで眞莉亜に返す。

「だが、ある程度は戦えるだろう。桜咲や龍宮は魔法使いではないが少々人離れしているしな。」

 エヴァはそういったが、眞莉亜は首を横に振った。

「まさかまさか『闇の福音(ダークエヴァンジェル)』とあろうお方が今回のトーナメントの裏を見抜けて無いのかい?」

 眞莉亜は心底意外そうな口調で言った。しかし、エヴァは裏だと、とその意図が掴めないでいるようだ。

「まあ、ここでいうことも無いっちゃあ無いけどね。とりあえずその意図の思ってる通りに事が運んでるということだけ言っとこうかな。」

 眞莉亜はそういうとそれじゃあ、決勝がんばってと言い残して控え室を後にした。

「裏の意図・・・・?」

 恭也もそれに気付いておらず、何のことかわかりかねているようだった。エヴァと茶々丸も頭を捻ったが、結局わからずじまい。

しかし、そんなことを考えている余裕など無い。決勝の相手は鼎。圧倒的な強さで勝ち進んできた鼎が相手だ。

余計なことを考えていて勝てる相手ではない。恭也は眞莉亜の言葉を振り切って次の戦いに意識を向けた。

自分の強さを知るための戦い、強くなるための戦いに。





 観客席。その大きさは普通の競技場とは比べ物にならないほど大きい。当然、その分試合を見ることは困難になるが、

それでも完全満席とすさまじい熱気を誇っていた。その一角に真紅の髪を持つ眞莉亜がいた。どうやら自分の席がわからなくなったようだ。

まあ、この込み具合、わからなくなってもおかしくは無い。と、自分の席を見つけたのか、眞莉亜は軽い足取りで目的の場所まで歩を進めた。

そして、腰を下ろす。

「どこに行ってたんですの?急にいなくなって。」

 となりにいたブロンドの長い髪の女性が眞莉亜のほうをむいてそういった。

「わるいな、あやか。ちょいとばかり鼎と恭也にあってきたんだ。」

 彼女の名前は雪広あやか。二人の話しぶりから、二人は親しい仲だと見て取れる。

「あれ?選手控え室って入れたっけ?」

 赤茶色のショートヘアー、村上夏美が眞莉亜にそう聞いた。

「本来入れないけど、それは規則上は入れないってだけで物理上はいることは可能だからね。」

 どうやら眞莉亜は勝手に入ったようだ。

「い、いいんですの?勝手にそんなことして。。」

 あやかが目を点して眞莉亜に聞き返す。しかし、夏美ががいいわけないわよとあやかの言葉を否定する。

「そうそう。本来はよくないんだけど、ちょいと鼎に聞きたいことがあってね。」

 眞莉亜は席にどっかりと座って言った。あやかはききたいこと?と当然の聞き返しをしてきた。

「なに、聞きたいことというよりも確認したいことがあってね。あいつの描いたシナリオどおりにこの大会が進んでるかどうかをさ。」

 眞莉亜はそういってリングに目を落とす。しかし、その言葉にあやかと夏美はおどろいた。

誰かの書いたシナリオ通りということは八百長でもあったのかと思ったのだろう。

「そんなに驚くことは無いだろ。鼎の別名は『麻帆良の司馬懿』。戦術に関して言えばぴか一だ。

もっと言えば口先一つで人を思い通りに操るのはあいつの十八番だからな。

うまいこと大会規則を利用して決勝で恭也とやりあう状況を作り出したんだよ。」

 眞莉亜はそういってあやかのほうを向く。あやかは当然いろいろな要因について聞いてきた。

しかし、眞莉亜は始めからそう聞いてくることを予想して、淡々と説明を始めた。

「今回の大会、今までの大会と違って生中継で麻帆良全体に放送されてる。今まではネット配信してただけだからね。

生中継で放送されることの利点はまず第一に魔法がすべて封じられること。麻帆良武道大会だと無詠唱呪文はありだけど、

この場合、無詠唱呪文も封じられる。そうすることでまず、高畑先生、高音先輩、ネギ先生のような魔法戦士系が脱落するよね。

魔法戦士系は戦士系と比べて格闘に長けてるわけじゃないから。そして、同時に刹那嬢、真名嬢が脱落する。なぜなら、相当の加減を余儀なくされるから。

刹那嬢は烏族ハーフでいまや背に羽を創りあげることなくその力のすべてを解放できるようになった。そのため、本気でやりあえば、

魔法障壁を形成できない一般人相手だと、今回の超製の武器ですら人体を切断するなんてことは造作も無い。

だから、烏族の力を一切使わずに戦うことになる。そうなった場合、恭也には勝てない。なぜなら、『常人』における最強は恭也だからだ。

次に真名嬢だが、真名嬢も自分の魔眼を封じざるを得ない。真名嬢の魔眼の能力の一つは『破砕点』を見るもので、

漫画風に言うと経絡秘孔といったほうがわかりやすい。まとにかく、そんな点が見えるから、魔法障壁の無い常人なら容赦なく殺せる。

当然、そんなことしたらさすがに洒落にならない。だから、本気は出せない。そんなふうに考えると身体能力上で最も強いのは恭也と鼎の二人。

結果、同じ山に入らない限り決勝で二人が激突するのはまず間違いない。

途中、対戦相手のシャッフルがあったのが計算違いだっただろうけど結果的にそのとおりになった。さすがは鼎といったところだ。」

 眞莉亜の説明にあやかたちは頷きはしたものの、微妙に意味がつかめていないようだ。

「仮に眞莉亜の言うとおりだったとして、そんなにうまくいくものでしょうか。」

 あやかは確かに理にはかなうが、納得できませんわと不満のようである。

「でも、魔法戦士に属する人って、接近戦も得意なんじゃないの?」

 夏美は首を捻って眞莉亜に聞いた。確かに、魔法戦士は魔法も使う戦士である。魔法が使えないからといって脱落するとは思えないのだろう。

「そうでもないさ。じゃあ聞くけどゼロヨンが早いバイクはレースにおいて速いか?」

 眞莉亜のそんな質問に夏美はそんなわけ無いよと答える。

「その通り。ゼロヨンが速いからといってレースが速いとは限らない。寧ろ、専門外だからレース仕様に比べて遅い。さっきの問も同じだよ。

魔法戦士の専門は『魔法を使った接近戦』。でも、戦士の専門は『接近戦』。この間には越えられない大きな壁があるんだよ。」

 夏美はなるほど、そういうことねと納得したようだ。

「でも、ネギ先生も魔法戦士よね?それなのに、結構勝ち進んでたよ?接近戦専門の高町君にいいところまでいってたんじゃない?」

 夏美の言うとおり、ネギは恭也をあと少しのところまで追い詰めていた。少なくとも普通の人にはそう見えただろう。

しかし、眞莉亜はそれには理由があるんだと応える。

「ネギ先生は魔法と格闘技を同じ人から学んでないだろ。魔法はエヴァ嬢、格闘技は古菲嬢に習ってる。

普通の魔法戦士は魔法と格闘技をほとんどの場合、同じ人から習うんだけど、ネギ先生の場合は別々の人に習ったものを自分の力で一つにしてる。

だから、ネギ先生の正確な区分は『戦士』であって、『魔法戦士』でもあるってことになるかな。」

 眞莉亜は少し難しくなったけどと付け加えて説明した。夏美は少し考え込んだが、納得がいったのか頷いてなるほどと答えた。

「さて、後は決勝で鼎が負ければいいだけ。今の恭也にとって鼎は所詮は象の前の蟻だし、難しいことじゃないか。」

 眞莉亜はそういって目を瞑ったが、あやかの問に再び目を開けることになる。鼎が負ければいいとはどういうことなのか。

自分の思い通りに運んでいるならば、なぜ負ける必要があるのか、わからなかったからだ。

「このシナリオの行き着く先は鼎の敗北なんだよ。鼎は負けるためにこのシナリオを書き上げたんだ。」

 眞莉亜の答えに納得のいかないあやかはさらに食い下がる。眞莉亜はわからないならと説明を始めた。

「鼎の目的は『蓬莱人形』であるところのもう一人の自分を殺すこと。すなわち、鼎自身の敗北なんだ。

『蓬莱人形』ってのは本来ありえないものとしての意味を持ってて、そもそも無敗ってこと自体ありえないじゃないか。

だからこそ、負けることで『ありえないもの』から脱却できる。『断片集(フラグメント)』ではあっても、『ありえる』存在になれる。

ま、ここのとこは本人の気の持ちようだから、本人がそう思えればいいんだけど。そうはできないってことだから、

この大会、一種の通過儀礼(イニシエーション)みたいなものなんだよ。」

 眞莉亜はわかった?とあやかに言ったが、どうも釈然としないようである。それもわからなくは無い。

そんなふうに考えること自体ができないわけではないが、ここまで大げさにする必要性がわからないのだろう。

しかし、鼎が派手好きといってしまえばそれで終わりなのだが。

「ま、当然それだけで終わるわけが無いんだがね。」

 頭を悩ませるあやかたちをよそに眞莉亜はつぶやいた。

それは鼎の描いたシナリオがこれから書き換えられるであろうことを予知しているかのような言葉だった。

そう、人生は思い通りに行かない。つぶやきは眞莉亜の率直な意見でもあった。





 準決勝が終わって30分。決勝で相対する二人の体力回復のためにそれくらいの時間が必要だった。しかし、それもそろそろ終わり。

それは何よりリングに繋がる二つの道以外の照明が落とされたことで誰にもわかり始めた。それに伴って観客も静かになっていく。

「皆様、大変長らくお待たせいたしました。PRIDE〜麻帆良祭り〜決勝戦をおこないます!!」

 総司会の決勝戦開始の合図。それと呼応するように完成が沸き起こる場内。そして間をおかず選手のコールが始まる。

「ここまで勝ち進んだのは奇跡ではなく実力!!しかし、誰がこの男がここまで勝ち進むと思ったでしょうか!!全くの無名からの大躍進!!

しかし、一試合一試合、その力を惜しげもなく見せ付けてきた男、鳳“ザ・デストロイヤー”鼎の入場です!!!」

 コールに答えるかのようにいっそう歓声が高くなる会場。そして、リングへの道を二本の鉈を手に堂々と歩む鼎。

そして、大歓声の中、遂に鼎は最後の戦いの地に立った。そしてすぐさま恭也のコールが始まる。

「苦戦に告ぐ苦戦を強いられてきた戦いもこれで最後!!しかし、龍宮選手との戦いの最後で見せたその力は本物!!

その力を持って決勝戦に望む、一人の剣士!!最強を決める戦いでその刀が道を切り開くか!!

高町“ミスター・ソードダンサー”恭也の入場です!!」

 鼎のとき同様にコールの後に続く大歓声の中、リングへと向かう恭也。エヴァの治癒魔法が功を奏したのか、真名と戦ったときの傷は見て取れない。

服も今までの戦いでぼろぼろになっていたために、新しい服になっている。

しかし、それ以上に全身から発せられる闘気は恭也が今までに持っていなかったそれだった。

(二人の笑顔を見るために・・・・俺は負けるわけには行かない!)

 恭也を突き動かす迷いの無い信念。それを抱き、遂に二人は最後の戦いの場で顔を合わせた。





「強くなったね恭也。」

 鼎は鉈を手の中で回しながら恭也に言った。それは鼎の率直な意見で、その中にはそれでこそ俺の目的が果たせるといっているものだった。

しかし、その中の意味を恭也は汲み取ることはできなかった。なぜなら、鼎の意図に気付いていなかったからだ。

「ああ。強くなれた。二人のおかげで俺は強くなれた。」

 恭也も構えながら鼎の言葉に答える。それを見た鼎も構える。両者、御神流。その構えは右半身か左半身かの違いを覗いて全く同じだった。

互いに言葉は無い。言葉は必要ない。既に二人は戦っているのだから。膠着状態が暫く続く。歓声も止み、会場は沈黙だけが支配した。

そんな状況が五分ほど続いただろうか。先に動いたのは鼎だった。だが、その動きが見えたのは恭也だけ。

鼎は初速から『閃』で恭也に突っ込んだのだ。今までの恭也なら反応できなかったかもしれない。しかし、今の恭也は違う。

恭也は自らも『閃』で鼎と相対する。二人はリング中央でぶつかった。つばぜり合いでも互いに得物は二振り。

空いたほうの得物で互いを狙う。しかし、刺突できない分、鼎のほうが不利である。そのため、鼎はすぐさま間合いを取り、斬撃に切り替える。

とはいえ、鼎も恭也も得物の長さは大して変わらないため、その間合いで両者は斬りあった。しかし、二人の実力は相当なもので、互いに決定打を欠いた。

そんな状況が続き、先に引いたのはやはり鼎だった。恭也は今迄で戦った相手の中でもそのランクは一つ抜きん出ている。

むやみに剣を振るって勝てる相手ではないし、持久戦は鼎にとって不利。いくら戦闘モードになっているとはいえ、

根底にセットされた体力は通常時となんら変わりない。そのため、考えて戦わないと勝ち目は無い。いや、負けなければならないのだが、

それでもやすやすと負けるわけにはいかない。鼎は一歩引き、息を整えようとした。しかし、恭也がそれを許すはずが無い。

恭也も鼎の体力が長期戦を許容するほど無いということは今までの試合を見て既に見抜いている。ならば長期戦にするほうが恭也にとって有利。

恭也は飛針を放ち、そのまま身をかがめて鼎に向かう。鼎は飛針を首を捻ってかわし、飛び掛ってきた恭也の小太刀を鉈で受け止める。

が、足を払われ、バランスを崩した。倒れこもうとする鼎に覆いかぶさるように恭也は小太刀を走らせた。鼎はさすがに避けきれずに、

直撃を受けた。一撃の重さに苦悶の声を上げる鼎。しかし、恭也は追撃をやめない。鼎に打ち込んだ小太刀を持った手とは反対の小太刀片手を離し、

地面に手をついた。そのまま片手逆立ちするように足を振り上げ、体をたたみながら膝を打ち込んだ。鼎は防ぐこともままならず、

その直撃を受けて声にならない声を上げた。失神してもおかしくない一撃だったが、鼎は右足を振り上げ、恭也の後頭部を蹴り飛ばす。

予想外の一撃に恭也は体を崩して前のめりに倒れこんだ。鼎はそのまま首はねおきで立ち上がって後退する。

「けほっ、けほっ。さすがは恭也。容赦ないね・・・。」

 鼎は腹をさすりながら恭也に向かっていった。恭也もダメージはあるもののたいしたことは無さげに立ち上がる。

「想像以上に打たれ強いな。スピードに頼っているのと、殺し屋だったという手前、打たれ弱いかと思ったが見当違いだったか。」

 恭也は立ち上がって構えながら鼎にいった。

(まったく・・・・恭也のやつ、容赦が無い。俺の弱点もお見通しってか?倒れられるならさっさと倒れたいよ。

つーか、もろみぞおちに入れやがって・・・・。マジで立ってるのでさえつらいんだけど・・・。)

 鼎は震える膝をわざと恭也に悟られないように半身の影にして隠しながら構えた。恭也の言葉は実に的確だった。

鼎はもともと殺し屋。『殺し』に特化はしていても『戦闘』に特化しているわけではない。だから、打たれ強いはずが無いのである。

いざというときの戦闘もそのスピードに頼りっきりで追いつかれたことなど無かった。

そのために、打たれ強さを手に入れようと思ったことは無かったのだ。事実、今の一撃も鼎にとってはかなりのダメージだった。

しかし、ここで簡単に倒れてはあまりにもダサすぎる。だから、まだ倒れるわけにはいかない。

「とりあえずもいっちょ行きますか。」

 鼎はなるべく恭也に変化を悟られないようにやはり『閃』で向かった。恭也もその速度に難なくついてくる。想いの持ちようで恭也は変わった。

いや、本来の姿に戻ったというべきだろう。今までの試合のように緊張感は無い。のびのびと戦っている。

その小太刀は鼎を捉え、鼎の鉈を紙一重で避け続けている。あの鼎を完全に圧倒している。会場には少なくともそう見えているはずである。

「『薙旋』。」

 鼎の鉈をはじいて恭也の小太刀が走った。鼎に隙があったわけではない。しかし、剣士としての実力は恭也が圧倒的に上。

『閃』の領域に足を踏み込んでいる両者においてその差は圧倒的だった。鼎の剣に隙は無かった。

しかし、隙を作ることは恭也にとって造作の無いことだった。一瞬、鉈首を上げた瞬間、恭也の小太刀がそれを弾き飛ばした。

そして、奥義。『閃』と併用した『薙旋』。死なずにしても、意識を飛ばすには十分だった。弾き飛ばされた鼎は不自然な体勢で地面に着地した。

誰もが終わったと思った。鼎はピクリともしなかった。しかし。だがしかし。

「やべぇ、やべぇ・・・まだ『瞬』も使ってないのに終わるわけにはいかないってばよ。」

 鼎は立った。

(まだいいとこ一つも見せて無いじゃんよ・・・・。くそぉ・・・・ここまで強くなってるとはね・・・・。

これじゃ最後の最後でしくじるじゃねえか・・・・。諸葛亮の二の舞はごめんだぜ・・・・。)

 まだ目的を達成していない。鼎は『瞬』を使い、それでいて敗れることを目的としていた。恭也を追い詰めてそれでいて負けることが目的だった。

しかし、追い詰めるどころか圧倒されている。これでは目的の達成どころの騒ぎではない。

せめて、『瞬』だけでも撃って一矢報いなければ『蓬莱人形』としての自分を終わらせることができない。しかし、撃てるかどうか。

御神の剣は一撃必殺。それは自らも修めようとしたからよくわかる。その奥義の直撃を受けている時点で『瞬』を撃てる余裕なんか無い。

しかし、それでも撃たなければならない。おそらく撃っても恭也は反応するだろう。それでも、撃たなければならない。

「いくぜ、恭也!!!」

 正真正銘最後の一撃。全身全霊をこめた鼎の『瞬』。恭也もそれに答えるように『瞬』を発動させる。

互いに一撃必殺同士、決まれば鼎の逆転勝利もありうる。確率は9:1。恭也のほうが圧倒的に有利。

しかし、一割でも確率があればかけるには十分だった。すべてが白黒の世界の中、二人は交錯した。まるで鉄球同士がぶつかったかの轟音。

宙に舞ったのは鼎だった。観客の誰もが声を失った。そんな中、鼎はリングに墜ちた。どうしようもなく墜ちた。





「鼎っ!!!」

 VIP席で試合を見ていたさよと和美はほぼ同時に悲痛な声を上げた。武器によるダメージは相当なものだが、死に至るものではない。

しかし、鼎の墜ちかたは誰がどう見ても不自然だった。トラックに轢かれた後のような墜ちかた。それは死に至る墜ちかた。

「かなえっ!!!かなえっ!!!」

 二人は席を立ってそのまま駆け出した。しかし、目の前は水。図書館島の浮かぶ湖の上にあるリングのため、仕方が無い。

しかし、二人はVIP席の塀を乗り越えて鼎の元へ行こうとした。二人は私服のまま、湖に飛び込もうとしたのだ。

そんなことをすればほぼ十中八九おぼれてしまう。同じ席にいたエヴァと茶々丸はあわてて二人を押さえ込んだ。

「おちつけ!!相坂!!お前が行ってもどうしようもない!!」

 エヴァの静止も聞かず、さよは身を乗り出そうとする。

「はなしてください!!!鼎が!!かなえが!!」

 完全にパニック状態に陥っているさよをエヴァは抑えることで精一杯だった。体格上ほとんど同じなのだから仕方が無い。

しかし、それよりも和美のほうがパニック状態に陥っていた。

「かなえ!!かなえ!!!おねがい!!!たって!!!たってよ!!!!」

 和美はあの茶々丸の制止をも振り切る勢いで暴れている。

「落ち着いてください。朝倉さん。ここからではあなたがおぼれてしまいます。」

 茶々丸の声も届いていない。さよもエヴァの制止を振り切ろうと必死になって暴れている。これが鼎の望んだ結末だったのだろうか。

それとも、想定外だったのだろうか。





(・・・・あー・・・・やべぇな・・・・。・・・・マジでやりすぎちまったか・・・・。でも、これでいいんだし・・・・。)

 鼎は薄れ行く意識の中そんなことを思っていた。『蓬莱人形』の死。それはとりもなおさず鼎の死。

鼎はそれを自らを殺さず『蓬莱人形』だけを殺そうとした。しかし、最悪こうなることも予期していた。

それでも、仕方ないとすら鼎は思っていた。それができなければ二人に合わせる顔などないと思っていたからだ。結果は言わずもがな。鼎の命すら奪いそうである。

(・・・・・いいわけねぇよ・・・・・いいわけあるかよ・・・・・。・・・・・死んでたまるか・・・・・負けてたまるか・・・・・。

・・・・・あいつらの前で無様に負けられるかよ・・・・・・。)

 声が聞こえる。さよと、和美の声が。自分を呼んでいる。こんな自分を呼んでいる。

数え切れないほどの人を殺し、数え切れない人を蹂躙し、数え切れないほどの罪を犯した、そんな自分を呼んでいる。

二人にとって自分はかけがえのない存在なのだ。そんな自分がかけがえの無い存在なのだ。

そんなふうに自分を想ってくれている人の前で無様な姿は見せられない。

心配させてしまった自分が恥ずかしい。泣かせてしまった自分が恨めしい。

なぜ本当の意味で気付かなかったのだろう。

自分は既に自分だけのものではないことに。泣いてくれる人がいることに。笑ってくれる人がいることに。

自分よがりで二人のことを考えもしなかったシナリオを描き、その通りに進み、その結果二人を泣かせた。もういいじゃないか。

そろそろ死ぬことを辞めよう。『蓬莱人形』という自分を死ぬことを辞めよう。だから生きよう。『蓬莱人形』という自分を生きよう。

終わらせる必要なんか無かったのだ。ただ、始めればよかったのだ。そのために。

(シナリオ変更だ・・・・・。そのために、全力で、恭也を、斃す!!!!)







あとがき


三ヶ月近い充電期間を終えてやっと麻帆良祭編の続きをお送りできました。

(フィーネ)シバくぞ!!!!

ぎゃあ!!!!いきなり殴るな!!!

(フィーラ)今迄で一番長い休載よね。

それはそうだな。レポートとかゼミ合宿とかで7月はほんとにきつかったし、八月からはネットできなかったし。

(フィーリア)まあ、そこのところは考慮できるね。でも、それにしては遅すぎよ。

それはすまん・・・・。

(フィーネ)でもま、あんたのSS呼んでくれてる人少ないから関係ないか。

ひどいな。

(フィーラ)あ、休載が長かった所為でいなくなってたりして。

・・・・・。

(フィーリア)あ、へこんだ。

・・・・・そうだよなぁ・・・・。いなくなってるかもなぁ・・・・。

(フィーネ)案外打たれ弱いわね。

文章へただししなぁ・・・・・。

(フィーラ)とりあえずへこませておきましょう。いい反省になるわ。

ぶつぶつ。

(フィーリア)それじゃ次回予告!!!

(フィーネ)遂に決着、恭也VS鼎!!!

(フィーラ)最後に立っているのは一体誰だ!!!!

(フィーリア)勝利の先にあるものとは一体!!!!

(フィーネ&フィーラ&フィーリア)次回、ネギまちっく・ハート第十九符『死闘の果てに』!!!!乞うご期待♪♪♪


おお、鼎がやる気に。
美姫 「果たして、この勝負はどう転がるのかしら」
益々、次回が楽しみだ!
美姫 「果たして、この対決の先に待っているものとは」
次回も楽しみにしてます!
美姫 「それじゃあ、また次回で。



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