『ネギまちっく・ハート〜Love and War〜』
第一帖『不思議な恋人達』
窓から日の光が差し込んでいる。どうやら朝になったようだ。あやかは寝たりないような、そんなけだるさを感じながら寝返りをうつ。
この感じからしてまだ十分に時間はあると踏んだあやかは急いでおきることもなくゆっくりと時間をかけて目を覚ますことにした。
そしてあやかは十分に時間をかけてゆっくりとベッドから起き上がった。
「おはよう。」
起き上がったあやかのとなりから小さな声で朝の挨拶が聞こえる。あやかは声の主をすぐ誰か判断し、顔を向けた。
あやかの視線の先には長い薄青の髪で寝ぼけているかのようなぼんやりした目をした女性が座っていた。
「おはようございます、眞莉慧。」
姫神眞莉慧。姫神眞莉亜の第三の人格。いつもなら、朝に眞莉慧が出てくるのは珍しい。
眞莉亜は3つの人格を持ち、夜の0時から朝8時までが眞莉慧、朝8時からから夕方4時までが眞莉亜、
夕方4時から夜の0時まで眞莉紗というように24時間をきれいに3等分して生活している。
とはいえ、大雑把な区分で、このように気分しだいでコロコロと入れ替わっている。
「眞莉亜はどうしたんですの?」
ゆっくりと起き上がりながらあやかが聞く。眞莉慧は夜に眞莉亜が出てたから、朝は私なのとかわいらしい小さな声で答えた。
あやかはなるほどねと納得して立ち上がる。
「朝食、準備できてるから。」
眞莉慧はそういうと服、用意しとくねとリビングルームに向かった。あやかは伸びをして目覚まし時計を手にした。時間は8時30分。
始業まで後30分しかない。学校に寮から歩いて大体十分。今からシャワーを浴びて朝食を食べていたら確実に遅刻ペースだ。
いつもは7時に起きている手前ものすごい寝坊をしている。あやかは何で起こさなかったか聞くため、眞莉慧のいるリビングルームに行く。
リビングルームにはトーストがいつでも焼けるように準備がされていた。
「ちょっと、眞莉慧、何で起こしてくれなかったんですの!?」
あやかのその質問に眞莉慧は怒られたかのように小さくなってつぶやく。
「その・・・・寝顔がかわいかったから・・・・。」
眞莉慧の恥ずかしそうにうつむいていった言葉にあやかは毒気を抜かれてしまい、
仕方ないなとまんざらでもないように言ったものの、時間がないことに変わりない。
「遅刻しても今日は仕方ありませんわ。トースト、お願いしますわね。」
あやかは早々に遅刻しないで行くことをあきらめ、シャワールームに向かう。眞莉慧はその間にトーストを焼き、目玉焼きを作った。
あやかは十分ほどしてバスローブに身を包んでリビングルームにやってきた。あやかは椅子に座ると出来上がったばかりの朝食に手を伸ばす。
眞莉慧はその間に、あやかの髪を乾かして、今日の髪型を手際よく作り上げた。今日は後ろでまとめてポニーテールのようだ。
あやかはゆっくりと朝食を済ませると落ち着くまでテレビを見てすごした。時間はすでに8時55分。
あやかはそろそろ行きましょうかと立ち上がった。
「うん。ケーツー、すぐに出すね。」
眞莉慧はそういうとバイクの鍵を手にとる。
「あ、あれで行くんですの?」
あやかの顔から引きつった。ケーツーとは眞莉亜の単車、CB750K2の通称である。しかし、ただの単車ではない。
眞莉亜はその単車を異常なまでに改造していて、旧車では異例の120馬力を超えている。
最高速度は計測していないものの、220キロは優に出るだろう。しかし、眞莉亜の単車なのに、乗るのはほとんど眞莉慧の役目。
眞莉亜の人格の中でももっとも運動能力が図抜けているからだ。そのため、眞莉慧はケーツーを全開状態で街中をサーキットさながらに駆け回るのである。
あやかは今まで何度も後ろに乗っているものの、いまだに慣れていない。
「うん。だからゆっくりしたんだよ。」
眞莉慧ははじめからそのつもりじゃなかったの?と、どうやらあやかが遅刻する気だったとは思っていなかったらしい。
あやかは急ぐ必要はありませんわといったものの、眞莉慧が聞き耳をもたないのはわかりきっていた。
「大丈夫。事故は起こさないから。」
結局いつもの決まり文句で先に折れたのはあやかだった。二人はゆっくりと急ぐことなく駐輪場に場違い甚だしく止まっている一台の単車、
ケーツーにまたがった。と、あやかがヘルメットがないことに気づく。しかし、眞莉慧ははじめからないよととんでもないことを言い出した。
確かに今まで後ろに乗せてもらったときもヘルメットをかぶっていない。しかし、忘れたならともかくはじめからないとは何たることか。
「あんなのかぶってたら風を感じられないから。」
眞莉慧の理由にあやかはぴんとこなかったが、ノーヘルは違法である。しかし、そんなことどこ吹く風。いっても聞かないのはあやかが一番よく知っている。
あやかは今度半ヘルでもいいから買いなさいと眞莉慧をたしなめた。
「うん。それじゃあいくよ。」
あやかの言葉には生返事を返し、二人を乗せたケーツーを眞莉慧は加速させた。今から学校までのほんのわずかな時間、
ジェットコースター以上の速度域に突っ込むことになる。二人を乗せたケーツーは寮の前のストレートをものの数秒で駆け抜けた。
すでに速度メーターは振り切っている。そして最初の直角カーブ。眞莉慧はギアを落としてブレーキを限界まで遅らせて直角カーブに突っ込んだ。
トルクは高回転で搾り出せるセッティング。コーナー寸前でワンブレーキ。一気に車体をバンクさせた。
あまりの速度で車体がバンクしたためあやかは反射的に車体を起こすように体を起こす。結果、それがちょうどいい体重移動になり、
二人を乗せたケーツーはきれいにアウト・イン・アウトの起動を描いた。コーナーを抜けると再びアクセルを開け、再加速。
するとすぐにコーナーが見える。その大きなカーブで眞莉慧はブレーキをかけることなく車体だけをバンクさせた。
やはりあやかは反射的に体を起こす。再びそれがちょうどいい体重移動になり、ケーツーは最速のラインを駆け抜けた。
そして最後のストレート。もう学園は見えている。単車通学の生徒が単車をとめる駐車場は校舎のすぐ隣。普通ならそこまで押していくのだが、
今は時間がない。眞莉慧は正門から全開で突っ込み、アクセルを戻し、自然減速で駐車場に入り、やっとブレーキを引いて停止した。
学園まで歩いて約十分。しかし、ケーツーはその距離を一分以内で到着した。どれだけ飛ばしていたかはっきりとわかる。
「あやか、到着だよ。」
眞莉慧はケーツーから下りてエンジンを切ると後ろに座ったあやかをみる。あやかは少しは加減してくださいなと呆然としていった。
眞莉慧はあやかの手をとって単車から降ろして学園までの短い徒歩の距離を二人で歩く。予鈴まであと3分。どうやら遅刻せずにすみそうだ。
「おはよー、眞莉亜くん、あやかちゃん♪今日も良い音してたよー♪あれ、今日は眞莉慧ちゃん?」
遅刻することなく入ってきた眞莉慧とあやかを出迎えたのはまき絵の声だった。眞莉慧とあやかはおはようと返事をして自分の席につく。
と、まき絵が眞莉亜の席にやってきた。
「ねぇ、今日、私もフォアで来たからさ、帰りにでも、ハってみない?」
CB400F、通称フォア。まき絵はフォアをチェリーピンクで色を統一していて、『公道の桜吹雪』といわれる『麻帆良の音速四天王』の一人。
眞莉慧はいいよとあっさりとまき絵の申し出を受け入れた。眞莉慧はおとなしいながらも、ある意味、3つの人格の中で最も年相応の精神年齢だったりする。
だから、面白そうなことにはすぐに乗るし、いやなことははっきりと断る極普通の高校3年生なのだ。まあ、ところどころつかみ所がないところがあるのも事実だが。
「じゃあさ、楓ちゃんと、夏美ちゃんと高町くんもよんで、『四天王勝負』しよ♪」
まき絵の提案に眞莉慧は面白そうだねと顔をほころばせてあっさりと受け入れた。
「楓ちゃんは大丈夫?」
まき絵は楓に参加するかどうかたずねる。
「無論、参加させていただくでござるよ。」
楓は笑顔でもちろんと参加を決めた。楓の単車は灰色のGPZ900R-NINJA、通称、ニンジャ。しかも、その馬力は鼎のケーツーをしのぐ145馬力。
最高速仕様で最高速度は250キロ。まき絵同様『麻帆良の音速四天王』の一人で『ストレートの神風』と呼ばれている。
「いいよー。速い人がいなくて退屈してたんだよねー♪」
夏美も軽くOKを出して参加を表明した。夏美の単車はライトグリーンのZ400FX、通称エフエックス。ミドルクラスなりの馬力は70馬力。
しかし、夏美は馬力ではるかに劣るものの、楓のニンジャ相手に引けをとらない。当然、『麻帆良の音速四天王』として名をはせており、
『カーブの魔術師』と呼ばれている。
「高町くんはー?・・・・って、あれ?高町くんは?」
まき絵は返事のない恭也に確認を取るため、恭也の名前を呼んだが、返事はおろか、その姿自体見られない。
「今日はエヴァちゃんと茶々丸ちゃんと一緒にサボリちゃう?」
木乃香の言うとおり、恭也の姿だけでなく、エヴァと茶々丸の姿もない。どうやらそろってサボリのようだ。
「でも、珍しいわね。高町君がサボリなんて。」
恭也が居ないことを不思議に思った千鶴は首を傾げてそういった。確かに、恭也がサボることは珍しい。
エヴァと茶々丸がサボっても恭也は学校に来ていることのほうが多いのだ。いったいどうしたのだろうか。
ところ変わって高町家。桃子は『翠屋』に行っているし、美由希は高校、なのはは小学校、晶とレンも中学校に行っていて無人のはずである。
しかし、どうも人の気配がする。その気配のもとは恭也の部屋だ。そう、恭也が居たのだ。いや、恭也だけではない。
エヴァと茶々丸の姿もあった。しかし、三人とも、一つの布団で気持ちよさそうに眠っている。誰も起きる気配はないが時刻はすでに9時を回っている。
このまま恭也たちは寝たまま一日を過ごす気だろうか。さすがにそれはないと思うが。そしてそれから一時間後。恭也が突然起き上がった。
しかし、寝たりないのか、目がはっきりと開かない。恭也は寝ボケ眼をこすりながら周りを見回す。
(なんかいつもに比べて明るくないか・・・・?)
恭也がおきるのは大抵いつも6時30分。この時期にしては明るいことに恭也は疑問を抱いた。どう考えても明るすぎる。
恭也は一抹の不安を抱いて枕元においた目覚まし時計に手を伸ばす。目覚まし時計のさしている時刻は10時。激しく遅刻だ。
「おい、エヴァ、茶々丸、起きてくれ。」
恭也は隣で寝ているエヴァと茶々丸を勤めて冷静にゆすって起こす。エヴァは寝返りを打ちながら朝かと起き上がった。
茶々丸も朝ですかと目を覚ます。恭也はわかりやすく自分達のおかれた状況をエヴァと茶々丸に話した。
「なるほど。すでに授業が始まって1時間が経過しているということか。」
エヴァは頷くとそれなら急ぐ必要もあるまいと茶々丸に朝食を作ってくれと頼んで伸びをして起き上がった。
「しかし、何で起こしてくれなかったんだ?朝食の時間に居なかったら気づきそうなものだが・・・・。」
恭也の言うとおり恭也たちが寝坊していることに誰かが必ず気づくはずである。まさか、全員がばらばらに起きてそれぞれに朝食をとったのだろうか。
しかし、それには大きな理由があることを恭也は失念していた。
「おそらく、私たちの姿のせいで起こせなかったのではないでしょうか。」
茶々丸は誰も起こしに来てくれなかった理由を直球で言わず、あえて変化球で恭也に伝えた。恭也は自分の姿とエヴァと茶々丸の姿を見てなるほどと頷いた。
確かに、この状況、はっきり言って起こしにくい。というよりも、部屋に入るのもある意味はばかれる。
恭也はとりあえず、着るものを着て早く朝食を済ませるかと、とりあえず起きて学校に行くために行動を起こすことにした。
「茶々丸、朝食を作るのはゆっくりで良いぞ。先にシャワーを浴びてくる。」
エヴァはそういうと大きめのワイシャツを羽織って部屋を出る。恭也はそんな時間ないんじゃないかと言ったが、エヴァはお前も入ったほうが良いぞと恭也にも言った。
「汗かいたからな。」
恭也はそういわれればと自分も相当の汗をかいていたことに気づく。そう考えるとある意味寝坊したのも頷けた。
茶々丸は隣においてあった大き目のワイシャツを一枚羽織って朝食の準備に台所に向かった。
恭也もおきてとりあえずジャージをきると布団を上げて庭にもっていって物干し竿にかけて干す。
その足で台所に向かうと茶々丸が今朝食べたであろう朝食を暖めていた。と、すぐにエヴァがお風呂から上がってきた。
それと入れ替わりで茶々丸もお風呂に向かう。茶々丸がお風呂から上がると、ちょうど朝食が暖め終わり、三人で遅めの朝食を囲った。
3人は30分ほどかけて朝食をとると恭也はシャワーを浴びに風呂に向かい、エヴァと茶々丸はその間に制服を着て学校に行く準備を整えた。
恭也もすぐに準備を整えて家を後にする。歩いて学校まで30分。どう急いだところで遅刻に変わりはない。
恭也たちは急ぐことなく春の陽気の中、ゆっくりと麻帆良学園に足を向けた。
「えーっ!今日、カミナリマッパ乗ってきてないのー!?」
大遅刻してきた恭也と話していたまき絵は恭也が今日単車に乗ってきていないことに声を上げた。
恭也は高校2年のときまで若者の趣味というものを一切持っていなかったが、二年の冬頃から単車に興味を示し、
桃子を手伝って貯めていたお金を使いカワサキ500SSマッハVを購入したのだ。
そして単車の勉強をし、いまやセッティングから何まで自分でできるようになった。
それが功を奏したのかいつの間にか恭也も『麻帆良の音速四天王』の一人に名を連ねるようになり『麻帆良のイナヅマ』の異名をとっている。
まき絵は『四天王勝負』をするつもりだったため、がっくりと肩を落とした。
「それなら明日乗ってくるよ。そうしたらできるだろ?」
恭也は明日乗ってくることを約束した。そのこともあり、結局『四天王勝負』は明日に延期となった。
と、ネギが教室に入ってきた。どうやらホームルームが始まるようだ。
「はーい、ホームルームをはじめますよー。」
ネギのその声に騒がしかった教室は落ち着きを取り戻し、ネギの連絡に耳を傾けている。と、教室がにわかに騒がしくなった。
ネギが修学旅行の話をし始めたからだ。
「えっと、高校の修学旅行の行き先は、九州ってことは知ってますね?
高校の修学旅行は自主性を重視して宿泊先も訪問先もすべて自分で決めてもらうことになります。
修学旅行は1ヵ月後ですが、班も決まっているのでそろそろ準備し始めてくださいねー。」
ネギの言葉に3-Cの生徒ははーいと返事をした。そして連絡が終わりホームルームが終了する。
ネギがほかの先生と違って慕われているのは放課後、教室に残って生徒と触れ合う時間を持っているからでもある。
「僕、九州って初めてですよー♪どんなとこなのか楽しみですー♪」
まき絵たちに混じってネギ先生は修学旅行が楽しみであると歳相応の反応を示していた。
「そーだね。九州って東京から遠いから行くことないもんねー。」
裕奈が頬杖をついて笑いながら言った。アキラもお金かかるし、こういうときじゃないと行かないかもねと笑った。
「せや、九州ってゆーたら阿蘇山に登ってみたいなー♪」
亜子は机の上に広げた旅行ガイドブックをめくりながら楽しみそうに言った。
「気をつけなよー。九州は恐れ多くもかつて『煉獄の果て』って言われた地だから、あぶないよぉ〜。」
そんな亜子に、眞莉慧が、いや、頭からは2本の角、長い金色の髪。眞莉紗が後ろから抱き付いて亜子の髪を触りながら話しに割って入った。
時刻はすでに4時を回っている。どうやら交代の時間のようだ。
「『煉獄の果て』?」
まき絵は何のことと首をかしげて眞莉紗に聞く。
「昔はそう呼ばれてたのよ。怨念と執念の集積の地。それが九州。」
眞莉紗は亜子から離れるどころかあろうことか体をまさぐりながら笑顔のまま続けた。
「とはいえ、あくまで昔の話。今はちょっと退屈な田舎って感じかな。」
眞莉紗の話が終わったとたん、眞莉紗の視界が反転した。そして鈍い音。気付いたときには眞莉紗は床に叩きつけられていた。
あやかが手を取って投げ飛ばしたのだ。しかも、かなり危険な投げ方だ。後頭部から墜ちている。
「眞莉紗、そろそろ帰りますわよ。夕飯の当番、手伝ってくださいね。」
あやかは別に怒った様子も見せず眞莉紗の手を引っ張って立ち上がらせた。あやかの部屋は寮の中でも広いほうであり、
あやか、眞莉亜、千鶴、夏美の四人で生活している。食事はその中で当番制になっていて今日はあやかの日なのだ。
「それじゃあ。ネギ先生、皆さん、ごきげんよう。」
あやかはそういってまき絵たちに挨拶をして眞莉紗の手を引っ張ってドアの方に歩いていった。
「それじゃあね、ネギセンセ♪バイバーイ、運動部の仲良しレディーズ♪」
眞莉紗はウインクを残して手を振りながらあやかの後を追うように教室を後にした。
「しっかし・・・・あの二人、いや眞莉紗ちゃんのほうは3人?ま、とりあえずあのカップル、よくもつよ・・・。」
裕奈は頬杖をついてあきれ気味にそういった。
「たしかに・・・・。眞莉紗ちゃん、激しく女の子好きだからね・・・・。」
まき絵も乾いた笑顔を浮かべてホント、そうだよねぇと不思議そうに首をかしげた。
「眞莉紗ちゃんが本気じゃないっていいんちょはわかってるんだよ。あの二人、以心伝心だし。」
アキラはそうじゃないともうとっくの昔に別れてるよと笑いながら口にした。と、亜子の様子がおかしい。
さっきから一言もしゃべっていない。みんな不思議に思って亜子の方を向いた。
「おーい、あこー・・・・顔赤くして惚けてないで戻っておいでー・・・・。」
どうやら、そういうことらしい。
ところ変わってエヴァ宅。去年の沖縄旅行で結婚式を挙げて以降、恭也は一週間のうちほとんどをここ、エヴァ宅ですごしている。
桃子いわく、「結婚したんだし、エヴァちゃんのそばにいてやるべき。」とのこと。そのため、恭也の荷物はほとんどがエヴァの家にあり、
カミナリマッパもここにおいている。恭也はエヴァの別荘を使った稽古を終えていつものように汗を流してエヴァのいるリビングに向かった。
「そういえば恭也、おまえも変わったな。」
恭也がきたことを確認して呼んでいた本に栞を挟んで机に置くと隣に座った恭也にそういった。恭也は変わった?と言ったことがよくわからず聞き返す。
「『四天王勝負』だったか?お前があっさりと受け入れるとは思わなかった。」
エヴァはそういって紅茶をすすって恭也の返事を待つ。
「面白そうじゃないか。バイクで走ることも嫌いじゃないし、断る要素がないからな。」
恭也もエヴァから紅茶を受け取ってそれをすすった。茶々丸の姿はないが、今日は葉加瀬のところで月一の点検を行っている。
「エヴァと結婚してから、なんと言うか・・・・変わったかな。それまで以上に毎日を楽しむ余裕が出てきた。」
エヴァはその言葉を聴くとそうかと照れくさそうに頬をかく。エヴァは照れ隠しなのか、いやエヴァの素直な行動だろう、恭也のひざの上に座った。
「私は・・・・まだ、少し難しいな・・・・。お前と結婚して私も生き方が変わった気がする。
でも、いきなりあいつらと話すのは・・・・何というか、正直どうすればいいのかよくわからないし・・・・。」
エヴァも確かに恭也と結婚してから変わった。以前よりまき絵や木乃香たちと話すようになり、笑顔を見せるようにもなった。
しかし、まだぎこちなさは残っている。
「いきなりかわるのは難しいさ。時間をかけて変わっていけば良い。みんな、いつまでたっても『友達』なんだから。」
恭也はそういってエヴァに軽くキスをした。
「ふふ、うれしいことを言ってくれるな。」
エヴァもそういって恭也にキスをした。エヴァも恭也も変わっていっている。二人の絆も、同じようによりよい絆に変わっていくだろう。
「あら、眞莉慧は?」
夕食も当の昔に食べ終わり、時刻はすでに夜の0時を回っている。あやかは寝る準備をすでに終え、布団に入ろうとしたちょうどそのとき、
普段自分の部屋にこもっているはずの眞莉慧がいないことに気づいた。あやかは千鶴にどこにいるか知らないかをたずねる。
千鶴はさっき屋上に行くって言ってたわよとあやかに伝えた。
「あ、でも眞莉慧じゃなくて眞莉亜でしたけど。」
再び夜に眞莉亜が出てきているようだ。二日続けて眞莉亜が夜に出てくるのは珍しい。
あやかはとりあえず寝るのもなんであったし、眞莉亜のいる屋上に向かった。屋上。春とはいえ、夜風はやはり少し肌寒いものがある。
と、そこに眞莉亜の姿があった。眞莉亜は屋上の端に空き缶を並べてそれを自前のマスケット銃で打ち抜く。
本来ならすさまじい音がするだろうが、さすがは眞莉亜。消音結界をはっていて音が外に漏れていない。
眞莉亜は屋上のドアの開く音に反応して銃をおろし、あやかのほうを見た。
「ん?どうした?何かあった?」
眞莉亜はいきなり現れたあやかに何かあったのかと不思議に思ってあやかの下まで歩を進めた。
「たまには二人きりになろうとおもいましてね。」
あやかは近づいてきた眞莉亜にそっと抱きついてそう答える。あやかはそういえばとなぜ二日連続で眞莉亜が夜にで出たのかを眞莉亜にたずねた。
「修学旅行、九州だろ?あそこはやっぱり危ない土地だから、多少準備しとかないといざって時に困ると思ってさ。」
眞莉亜はそういうとあやかの髪をなでて額に軽きキスをしてそう答える。
「いざという時?そんなもの引っ張り出すほどあぶないんですの?」
あやかは納得いかないという表情で眞莉亜が手に持った銃を見て聞いた。あやかは基本的に暴力的なことを好まない。
そのため、こういうものに対してもあまりいい感情を持っていないのだ。眞莉亜はそうだなと銃を置いてあやかの肩を抱き寄せ、柵に背を預けて空を見上げた。
「いざというときのためだよ。眞莉紗にすりゃだからどうしたレベルで大したことないんだろうけど、実際あそこはマジでやばいんだ。」
眞莉亜はあやかが話を聞いていることを確認して話を続ける。
「普通の人が旅行するのに関しては特段やばくないんだけど、俺らの中には結構、普通じゃない人が混じりこんでるからさ。
たとえばネギ先生はサウザンドマスターの息子だし、木乃香嬢は極東最強の魔力の持ち主。エヴァ嬢は最強の吸血鬼。
俺も吸血鬼で眞莉紗にいたっては世界最強の鬼だし、眞莉慧だってほわほわして見えるけどあいつは亡霊のお姫様。
あやかだって一応は吸血鬼なんだから。うちのクラスだけ考えても逸般人はこれだけいるんだよ。こいつはちょっとまずいでしょ。」
あやかは確かに人外の人は多いですけど、何か問題でもあるんですかと聞いた。
「大問題だよ。わかりやすく言うなら青酸カリを1,5リットルほど一気飲みするようなもんだ。」
眞莉亜のたとえが悪かったのかあやかはその危険度がいまいちわからなかった。とりあえず危険ということはわかるが。
「『力』のあるやつは『力』を引き付けやすい。その『力』が強ければ強いほどより大きな『力』をひきつける。しかも、場所は九州。
はっきり言っとくけど、絶対に何かあるよ、今回の修学旅行。それも、こんなのを引きずり出さないといけないような何かがね。
とはいえ、そんなことになったら基本は眞莉紗任せになるんだけどね。」
眞莉亜の話はにわかには信じがたいものだが、眞莉亜が今までこんな風に言ったときにそれが外れたことは今まで一度もない。
ということは今回の修学旅行、冗談抜きで危険だということだ。
「なら、ネギ先生にそのことを・・・・。」
そういったこともあり、あやかはネギに進言することを進めたが、眞莉亜はそりゃ無理だとあやかの提案を切って捨てた。
「事前にわかる災害ならネギ先生も学園側に取り合ってくれるだろうけど、事前にわかるもんでもないし。俺は確信持ってるけど、
ほかの人からすれば可能性の内の一つだから。そんなのまで気にしてたらどこにもいけなくなっちゃうじゃん。」
眞莉亜はそういうと輝く月を見て言った。
「だから、俺たちが守って見せる。俺はたとえこれを使ってでもお前を守りきってみせる。」
あやかは眞莉亜の言葉に不安を覚えると同時に眞莉亜たちになら任せられると安堵感も覚えていた。
「そのときわよろしく頼みますわ。」
あやかは少し気恥ずかしくなって顔を背けてそういったが、あまりない二人きりの時間。甘えないともったいない。
あやかは眞莉亜の肩に頭を預けて手を絡める。
「絶対、守ってね・・・。」
あやかのその言葉に眞莉亜はキスで答えた。必ず守って見せるよと。修学旅行、何かあるかもしれない。
でも、それはまだ一ヶ月も先のこと。今はそのことよりも明日のことを考えよう。
明日も眞莉亜たちといればいつものように面白く、騒がしく、何もなく過ぎていく。
あやかはそう思いながら眞莉亜と手を絡めたまま、空に美しく輝く月をいつまでとなく眺めていた。
あとがき
ということで、ネギまちっく・ハート〜Love and War〜第一帖をお届けしました。
(フィーネ)今回は第一話と言うこともあってほのぼの待ったりね。
ああ。一話からいきなりバトれんでしょ。
(フィーラ)それもそうね。
だから少なくとも六話まではおとなしいと思ってくれていいかも。
(フィーリア)話の流れ的には修学旅行編が最初のバトルになりそうだね。
そうだな。最初のバトルは修学旅行だ。これが多分十話はかかると思う・・・。
(フィーネ)前何話くらいで考えてるの?
わかんない。ただ、かなり長くなると思う・・・・。
(フィーラ)卒業までには書き終えなきゃね。
そうだな。ただでさえクロスワールドもHOLY CRUSADERSも止めっぱなしなのに。
(フィーリア)完全休載状態だもんね。
うん・・・どうにかしたいんだが、いくつもバラして書くのって苦手なんだよなぁ・・・・。
(フィーネ)それなら始めからいろんなのに手を出さなきゃいいのに・・・・。
それが人の業というもんだ。さて、そろそろ次回予告頼むな。
(フィーラ)わかったわ。
(フィーリア)遂に始まる四天王勝負!!
(フィーネ)限界を超えた速度の戦いに誰もが括目する!!!
(フィーラ)果たして勝つのは一体誰だ!!
(フィーネ&フィーラ&フィーリア)次回、ネギまちっく・ハート〜Love and War〜第二帖『四天王勝負』!!!乞うご期待!!!
修学旅行が始まる〜。
美姫 「行き先は九州」
という事は……。
美姫 「まあ、その前に四天王の勝負があるらしいけれどね」
だな。果たして、誰が勝つのか!
美姫 「次回も楽しみに待ってますね〜」
次回はスピード勝負だ!
美姫 「って、何処で走るのかしら?」