『ネギまちっく・ハート〜Love and War〜』







     第十帖『守護者検定(ガーディアン・テスト)・二時間目 桜咲刹那〜Wing Knight〜』



 麻帆良学園の敷地内にある廃校。いや、今や廃校というよりも眞莉紗とかなの所為でところどころ破壊されている建物と言ったほうが正確であろう。

そんな場所に刹那は向かっていた。授業が始まっていると言うのに、刹那自身なぜここに向かっているのか、わからない。

ただ、ここに来なければならないと言う強烈な使命感があったのだ。手には夕凪。そういう出来事をどこか想定しているのだろうか。

それすらも自分ではわからないのだ。正面玄関にたどり着き、そこから校舎の中に入る刹那。

入ってすぐ二階に続く階段があり、そこは二階まで吹き抜けになっている。その階段に脚をかけた。

と、一段脚をかけてその動きを止める。

(来る・・・・!)

 刹那が何かを感じて夕凪を抜き放つのと天井が崩落し、何かが振ってくるのとはほぼ同時だった。

「いらっしゃい、刹那ちゃん。ようこそ、修学旅行検定試験へ。」

 そこから現れたのは当然、3人顕正の眞莉紗。しかし、手にもつ巨剣はかなと戦ったときのものではなく、

グリフォンと呼ばれる実用性のなさそうな見るだけに使いそうな形をしているナイフをそのままさっきの大剣ほどに大きくしたものを、右手一つで持っているのだ。

「ここに呼んだのは眞莉紗さんでしたか。それで、一体何の用ですか?授業中に呼び出すと言うことは、それなりのことなんでしょう?」

 刹那のその言葉にそりゃもちろんと首肯し、事の顛末、修学旅行で起きること、何でこんな風に呼び出したということを刹那に説明する。

刹那はなんら疑うことなく、眞莉紗の言葉を信じ、そういうことでしたかと納得した表情をみせた。

「木乃香ちゃんに一番近いのはやっぱり刹那ちゃんだしね。そういうことがあったとき木乃香ちゃんが真っ先に頼るのは刹那ちゃんじゃない?

だから、こうやって少し試させて貰おうかなと。」

 そういって眞莉紗はかなと戦ったとき同様に鬼の腕を刹那に向ける半身で構える。

「刹那ちゃん自身、相当強いのは知ってる。でも、今回の相手は未知だから。刹那ちゃんのはるか上を行く可能性だってある。

そんな相手だった場合、みすみす刹那ちゃんを死地に送り込むような真似は友達としてできないのはわかるでしょ?」

 眞莉紗のその言葉にもちろんと頷き、夕凪を構える刹那。

「だから、その力を見せて頂戴。最強である私を納得させるような力を。」

 眞莉紗の言葉にわかりましたと頷く刹那。

「眞莉紗さんとは一度剣を交えてみたかったということもありますし、いい機会です。それに、そこまで言うんですから、

私が納得できる強さを眞莉紗さんが持ってるかどうかも見てみたいですしね。」

 刹那はそういって微笑むと、表情を一変させ、一瞬で間合いをつめて自分の間合いに身を置く。眞莉紗はそれを見て笑いながら大剣を振り上げる。

ここに守護者検定(ガーディアンテスト)二時間目が始まった。



(さてまずどう出る・・・・?)

 自分の間合いに入った刹那はまずはと夕凪を横に薙ぐ。当然牽制程度の意味合いしかなく、次の動作にいかにして移るかということに重きを置いた横薙ぎである。

眞莉紗は体を捻ってレーヴァテインでそれを受けた。その気になれば瞬間移動から奇襲も容易であるにもかかわらず、眞莉紗はあえて受けるほうを選んだのだ。

眞莉紗はそのまま体を一回転させ、左手の裏拳で刹那を殴り飛ばそうとする。しかし、刹那は始めから次の動きを見るつもりでいたため、それをバックステップで紙一重で回避する。

(次は・・・・もう一度横薙ぎか、斬り下ろし・・・!)

 刹那のその予想どおり、眞莉紗は遠心力を利用してレーヴァテインをまっすぐ振り下ろした。防御できることはできるが、武器の大きさと、遠心力、

そして大剣を片手で振り回す眞莉紗の力からして防御不能なのは容易に見て取れる。刹那はそれを体を左半身にすることだけで回避し、

そのまま左足を軸にして一回転、右手一つで夕凪を持ち、眞莉紗の首を狙って薙ぐ。刹那の一撃は直撃すれば死を意味する。

しかし、眞莉紗は一切の回避行動を行わず、レーヴァテインから手を離して刹那に向かうように体を捻ってその左拳で刹那を狙った。

が、刹那の剣閃のほうが早く、夕凪は眞莉紗の首を一撃した。いや、本来、一撃ではなく、首を刎ねたといったほうがいいのかもしれない。

しかし、夕凪は眞莉紗の首を刎ねることはなかった。夕凪は首に当たり、そこで止まったのだ。刹那がとめたのではない。

これ以上刃が進まないのだ。驚く刹那。そんな刹那を尻目に眞莉紗は笑いながらその左拳を刹那に叩き込む。

その拳は刹那の胴とほとんど同じ大きさで、そんな一撃をもらった刹那は弾き飛ばされ、壁を突き破って職員室だった部屋に放り込まれた。

「けほっ・・・けほっ・・・。」

 刹那はむせながら起き上がって剣を再び構える。刹那は烏族であり、それに伴って、体も普通の人間よりも強固にできている。

普通の人間ならば今の一撃で間違いなくKOされていることだろう。

(これじゃ無理か・・・・。だったら・・・・やるしかない・・・・!)

 刹那は今の一撃でこのままではどうにもならないということを改めて悟り、力を解放した。背中には烏族であることを示す純白の羽。

それ以外に目立った変化はないものの、身体能力自体は飛躍的に向上している。眞莉紗は刹那が突き破ることでできた大きな穴からその刹那を動かず、

じっと笑顔みている。さ、おいでよといわんばかりの余裕。刹那は無論とばかりに一気に近づいた。地から浮き、すべるように一気に接近する刹那。

眞莉紗は反応できているにもかかわらず、その接近を許し、刹那の剣を再びレーヴァテインで受け止める。

(畳み掛ける!!)

 刹那は体を捻り、逆に薙ぐ。眞莉紗はバックステップでそれを回避する。刹那はそれを確認してから反応し、前宙しながらまっすぐに斬り下ろす。

距離的にレーヴァテインで受けられることはできず、眞莉紗は体を半身にして回避した。刹那は勢いを殺すことなく再び体を捻って左に薙ぎ、

眞莉紗の回避を先に予測し、剣を引き戻し、踏み込みながら今一度左から斬り下ろす。眞莉紗は果たして一閃目を下がって回避し、

二閃目を再びレーヴァテインを放して右手を使って夕凪をあろうことか握って受け止めた。刹那はさすがにそんなことをされると思ってはいなかったが、

無理に力比べをして勝てるわけがないのは明白、夕凪から手を離して眞莉紗の腹に蹴りを見舞う。

バックステップの慣性が残っており、それを蹴られる形になった眞莉紗は体勢を崩して後退する。それを見越した蹴りであることはいうまでもなく、

刹那はその脚を払って眞莉紗を転ばせた。そして、眞莉紗がこけかける間に今一度夕凪の柄を握り眞莉紗の腕から引っ張りぬく。

そして、眞莉紗が床に背をつけると同時にその切っ先を眞莉紗の額につけた。

「私の、勝ちですね。」

 勝敗は決まった。正しく、死に体の眞莉紗。どうしようもないぐらいの、完璧なまでの決し方だった。

「さすが、刹那ちゃん。やるじゃない。試験自体は文句なしで合格だね。」

 眞莉紗は明るい口調で刹那の合格を告げる。しかし、刹那は不満げな顔だ。

「この程度の力なんですか、眞莉紗さん。」

 余りにもあっさりと決した上に、眞莉紗自身の力がまるで自分を脅かすほどのものでなかったことに、刹那は少し落胆しているようでもあった。

「そんなわけないじゃない。試験は試験。これから先は本気の勝負。」

 その眞莉紗の声は刹那の背後から聴こえた。刹那は驚いて後ろを向く。刹那は消して眞莉紗から目を放してはいなかった。

しかし、何時背後を取られたのか、まるで気付かなかったのだ。

「それじゃ行くよ、刹那ちゃん。これが私の本気。だからここで知って頂戴。死ぬってことがどういうことか。命が大事だって事がどういうことか。」

 眞莉紗のその言葉が再開の合図だった。刹那も眞莉紗の放つ異様な気に一瞬で身構える。何時、どこから、なにをされてもいいように。

しかし、歴然すぎる力の差を、刹那はまだ知らない。そして、命を落とすという恐怖をまだ知らない。

 闘いに携わる多くのものは『死』というものを体感することで、精神的に二度と闘えなくなる。それは、『死』の恐怖が想像したもの以上であること、

そして想像以上の痛みを伴うものであることに心が折れるからである。しかし、それは『大部分』であるということを忘れてはならない。

中にはそれがきっかけとなり、一つ上の甍に登るものが存在するのだ。『死』の恐怖を克服し、想像以上の痛みを克服し、一つ上の甍に登る物が。

しかし、それはごくごく少数の桁違いの精神力と体力を持つものだけ。眞莉紗は刹那がその一人だと確信している。

だからこそ、ここで自分がそれを刹那に教え、刹那に修学旅行で戦える一人に、果てはトップランカーなってもらいたいのだ。

「安心して。別にここで死ぬっていうわけじゃないから。ただ、それを通して刹那ちゃんに一つ上の甍に登ってほしい。

そのためにここで刹那ちゃんを殺す。」

 その言葉を最後に、刹那の目の前から眞莉紗が消えた。刹那は眞莉紗から目を放していなかった。しかし、瞬間移動を目で追えるはずがない。

その次の瞬間、刹那は背後から何かに弾き飛ばされた。何が起きたか、刹那はまるでわからなかった。ついで下から打ち上げられる。

打ち上げられる時に刹那は眞莉紗を視認したが、視認したのはほんの一瞬、再び眞莉紗は姿を消す。刹那は眞莉紗を探しながら床に着地した。

完全に眞莉紗の気配がない。刹那は気を払いながら一歩踏み出す。と、突然眞莉紗が刹那の真正面に現れた。余りにも不意だった為、刹那も反応が遅れた。

しかし、反応が遅れたと同時に、今まで経験したことない痛みが刹那を襲った。あまりの痛さに何をされたのかわからない。

眞莉紗の持つ短剣が刹那の右足を刺し貫いていたのだ。大剣を持っていないところからして、おそらくそれはレーヴァテインなのだろう。

しかし、何時短剣になったのかも刹那にはわからなかった。眞莉紗は刹那の顔を見て微笑むと、短剣を持つ手を捻った。

その瞬間、刹那には短剣が刺さったとき以上の激痛が走った。そう、短剣は刹那の太ももの骨を切断していたのだ。

それが捻られることでずれ、自重によって肉に突き刺さったのだ。今までに経験したことのない痛みの連続で完全に刹那の思考はパニック状態に陥った。

眞莉紗はそのまま剣を引き抜き、剣を刺していない脚を払う。当然、骨が切断されたほうの脚で踏ん張りが利くわけもなく、そのまま後ろに体を倒す。

しかし、眞莉紗はそんな刹那の体をその大きな左手で鷲掴みにし、軽々とリフトアップした。眞莉紗と刹那の目が合う。眞莉紗がにこりと微笑んだ。

同時に、眞莉紗の腕を爆炎が包んだ。炎は一瞬で刹那を包み、服を焦がす。当然それだけでなく、刹那へのダメージも半端ではない。

そんな刹那を眞莉紗は宙に放り投げる。刹那の手から夕凪がこぼれ落ちた。もう握る力も残っていないのだろう。

眞莉紗は再び姿を消し、次は落下点にレーヴァテインを鎌にして現れた。そして眞莉紗は宙を舞う刹那を見ることなくその鎌を振り上げる。



その鎌は、刹那の胸を、貫いた。



 いまだかつて経験したことのない衝撃、そして痛みに刹那は目を見開き、口から血を吐く。眞莉紗はそのまま鎌を振り下ろし鎌を床に突き刺した。

刹那も同様に床に叩きつかれる。

「はい、これにて試験終了。お疲れ様、刹那ちゃん。」

 眞莉紗は床から鎌を引き抜き、床に仰向けで横たわる刹那に向かってそういった。しかし、刹那の反応はない。当然である。

眞莉紗が攻め始めてから、刹那が受けた攻撃はどれもこれも生身の人間が耐えられるそれをはるかに凌いでいた。

刹那は確かに烏族ハーフではあるものの、多少人間よりも頑丈だという程度。脚への一撃も、どう考えても元通りになる可能性は低い。

それどころか、全身やけどに胸を貫いた大鎌。現に今も刹那の下には血の池ができつつあるほどに出血しているのだ。

(死ぬ・・・・これが・・・・・死・・・・・?)

 眞莉紗の声が既に聞こえない。それどころか、五感のほとんども失いかけている。血が流れていくと同時に抜けていく全身の力。

ここまで来て刹那は死というものにすさまじい恐怖を感じた。そして同時に、自分が持っている力でも相手に同じ感覚を味合わせることができる

という恐怖にも駆られた。力を持つものにはそれ相応の責任も持たざるをえない。これがその責任というものなのだろう。

それを今知り、今までの自分の甘さも痛感した。死を目の前にするといろいろなものが見えてくる。

確かに、これを乗り越えられれば一つ上の甍に上ることはできるだろう。しかし、死んでしまっては意味がない。

刹那の意識は最後まで思考を終えることなく闇の中に落ちていった。

「さてと・・・ほのちゃ〜ん、出番だよ〜。」

 眞莉紗は刹那が動かないのを見て、誰かを呼んだ。それに呼応するかのように正面玄関から一人の女性が入ってきた。

肩ほどまでのしなやかな黒髪に、麻帆良高校の制服。一見すると暗いイメージを受ける彼女は眞莉紗の隣に横たわる刹那を見てため息をついた。

「また激しくやったものだ。さすがにここまでやると私じゃないと治るものも治らないか・・・・。」

 藤原仄之霞。東の魔女(ハイソサイエティ・ウィッチ)の異名を持つ彼女はそういうと頭をかく。その手には包帯。怪我でもしているのだろうか。

「ほのちゃんがいるからここまでしたんだよ。ここまでやっちゃうと自傷癖のあるほのちゃんじゃなかったら治しようがないだろうし。」

 眞莉紗はそういって仄之霞の肩をたたく。仄之霞はため息をついて刹那を血をまるで気にすることなく背負う。

「自傷癖じゃないといってるだろう。私は1000年前に死ぬはずだった存在。私が手にしたのは不完全な不老不死。

2日に一度は体を解体してメンテナンスしないと肉体が持たないのだから。」

 仄之霞はそういうとよいしょと刹那を背負いなおして玄関のほうに向かって歩いていく。力の抜けた人間はその体重以上に重さを感じる。

それを軽々背負う仄之霞も、なみなみならない存在であることは明白、さすがは東の魔女(ハイソサイエティ・ウィッチ)といったとこだろう。

「それじゃお願いね、ほのちゃん。『そっち』に関してもほのちゃんに一任するから、そこのとこもお願い。」

 眞莉紗はそういうと、再び校舎の中に姿を消した。仄之霞はやれやれとため息をつきながら血まみれの刹那を背負い、

服が汚れることも気にすることなく自らの住処に向かって歩を進めた。



「ん・・・・。」

 体がとてつもなく重い。いや、そもそも動かない。ああ、そうか、自分はあそこで死んだんだ。刹那は何時戻った知れない意識の中そう思っていた。

意識が戻ったからなのか、体の感覚をのぞく、視覚や聴覚が少しずつ戻ってきたようだ。かちゃかちゃという金属同士がぶつかるような音、

そして、明るいことを示すかのように瞼のその先がまぶしい。それから徐々に、そして自らの意思とは別に瞼が上がった。

どこかの部屋のようで、刹那の目には天井と蛍光灯が映った。

「おや、目を覚ましたみたいだね。」

 どこからか声が聞こえる。刹那は目だけで誰がいるのかを確認しようとするが、さすがに範囲が狭すぎて視認できない。

何とか力を入れて首を横に向けるとそこにはどこか見覚えのある女性が医療器具、しかも手術で使うようなものをなおしていた。

「あなた・・・・は・・・・?」

 刹那は何とか声を絞り出して尋ねる。するとその女性はしゃべれたことが以外だったのか、少し目を丸くしたが、

まぁ、君ならそれくらいであってもおかしくないかと納得したようで椅子に腰掛けると自らを名乗った。

「私は藤原仄之霞。かれこれ1000年生きているまぁ、人間の逸脱種のような存在だ。別途、東の魔女(ハイソサイエティ・ウィッチ)と呼ばれている。」

 仄之霞の自己紹介にしかし、刹那はどう反応していいかわからなかった。そもそも自分も烏族ハーフなわけだし、今しがた戦った眞莉紗は言うまでもない。

信じるなというほうが無理である。

「どこかで・・・・あったことは・・・・?」

 刹那は再びそういって仄之霞に問いかける。仄之霞はふむ、気がついたかと腰を上げてベッドの隣に立つと、

そこに立てかけていた刹那の夕凪を手にとって抜き放つとその刀身を見てなるほどと頷いた。

「いい剣士になったようだね、刹那。さすがは神鳴流剣士なだけはある。」

 仄之霞のその言葉で刹那は仄之霞の存在を思い出した。

「神鳴流の・・・剣士でしたか・・・。」

 刹那の神鳴流における師はこの学園に勤める刀子である。そして、仄之霞はその刀子の師だったのだ。

「まぁ、当の昔にあそこからは抜けたわけだから今はまるで関係ないんだがね。」

 仄之霞はそういうと夕凪を収め、再びベッドに立てかけるとまた椅子に腰掛けた。

「大腿骨切断に全身4度の大火傷、脊髄損傷に肋骨3本切断、心臓損傷。ついさっき刹那が負った怪我の全容だ。」

 カルテらしきものに手を伸ばし、それを読み上げる仄之霞。どう考えてもこうして生きていることが不思議な、

いや、そもそも今生きているのか刹那は再び疑問に感じ始めた。

「大丈夫、あと一時間もすれば動けるようになる。こういった医療関係は得意でね。」

 仄之霞は刹那の心を読んだかのようにそういって付け加える。

しかし、医療関係は得意というレベルで何とかなるような怪我ではないのは今の状況でも刹那は十分に把握できた。

「さて・・・。どうするね?刹那。」

 仄之霞はそういうと再び立ち上がって刹那の隣に立つ。

「剣士というものは人を殺すときに自らの力の恐怖を悟るのではない。自らが死ぬときに己の力の恐怖を悟る。」

 そういうと再び夕凪を手にとって抜き、刹那の首筋に刃を当てる。

「刹那。おまえが先刻の死合を怖いというのなら私はここで君の首を落そう。その恐怖に打ち勝てなんだならこれから先、

先ほどの眞莉紗との死合の恐怖は君を苦しめる。二度と剣はもてないだろうし、私生活でも先刻の死合は君を苦しめる。」

 仄之霞は刹那の目をまっすぐ見て言葉を続ける。

「恐いと思うのは決して悪いということではない。だが、恐怖を引きずっては進歩もなければ退化もない。決断のときだ。」

 刹那の言葉を待つ仄之霞。と、仄之霞が視線を刹那からはずす。

「どうやら、ネズミが入ったみたいだ。」

 仄之霞はそういうと夕凪を収め、ロッカーから日本刀を取り出す。夕凪よりも長く、そして直刃。日本刀としては珍しい型である。

「やれやれ・・・・。あいつもいい加減にしつこいものだ。」

 仄之霞がそういったそのとき、天井が抜けた。そこから姿を現したのは影騎士。魔力で作られた魔法生命体である。

影騎士はそのまま仄之霞に襲い掛かる。仄之霞は腰に構えて抜刀術の姿勢を一瞬で作り、少し体に力をためる。

少しといってもほんの数刹那。常人から見れば一連の動きにしか見えない。

「神鳴流抜刀術・・・・・『紫電』。」

 つぶやいた後の仄之霞の動きは見えなかった。しかし、影騎士たちはばらばらになり、そして霧散していく。

抜刀術など使える刀ではないにもかかわらず、長さ的に敵のみを斬る事などできないにもかかわらず、

仄之霞の剣閃は影騎士のみを捕らえていたのだ。仄之霞はまた修理するのかと辟易したようにため息をつくと刀を納め再び刹那に向き直る。

「少し邪魔が入ったが、話を戻そう。どうする?その恐怖、克服できるか?」

 仄之霞の言葉が襲撃の前と変わった。いや、わかりやすくしたのかもしれない。刹那は頭の回らないながら、

しかし、その仄之霞の見せた紛れもない実力に何かが動かされた。そんな状況でないのはわかりきっている。

また、そんなことが考えられる状態でないのもわかっている。しかし、そう思ってしまったのだ。強くなりたい。と。

「克服しなければ、眞莉紗さんと戦った意味がありません。木乃香お嬢様の為にも、ここで限界を迎えるわけには行かないのですから。」

 刹那は満身創痍で、力強くそういった。木乃香を守ることが使命。だが、そのために自らが命を落すことは許されない。だから強くなる。

だからこの恐怖を克服してみせる。そこには刹那の鋼より固い信念が見て取れた。仄之霞はそれに満足したのか、はじめて笑みを見せると再び椅子に腰掛ける。

「・・・・もし、始祖神鳴流に興味があるならば私の元に来ればいい。今は滅(な)き神鳴流を君に教えてやろう。」

 仄之霞はそういうとテレビの電源を入れる。そこに映ったのは眞莉紗と楓。刹那は首を横にし、そのテレビに目をやる。

「よろしくお願いします。仄之霞さん。」

 刹那は仄之霞にそう返した。それは仄之霞の元で始祖神鳴流を学ぶ決意。強くなるために技と体を高める為に。

そして、自らは心を高める為に。刹那の新たなる一歩がここから始まろうとしていた。






あとがき


激しく遅れて第十帖第二間をお送りしました。

(フィーネ)さて、毎度毎度だけど、同情の余地無しね?

うむ・・・。今回ばかりは言い訳できん・・・・。

(フィーネ)あら、珍しく物分りがいいわね。

仕方なかろう・・・。確かに、ゼミ合宿があったりレポートがあったりとしたわけだがその間すっぽかしたのは言い逃れのできない事実だ。

(フィーネ)そういうこと。じゃ、これからは一週間に1本は上げなさい。

無茶言わないでくれ・・・。夏合宿のゼミ調査の仮説は俺が書くことになったんだし、何より来年はもう就職活動だ。そろそろ勉強始めないと。

(フィーネ)3年目で楽できると思ってたわけね。

うむ・・・。甘く見てた・・・。今まで出一番忙しいな。

(フィーネ)仕方ないわね。事情も事情だし、ニートになられたらこっちもたまったもんじゃないから、勉強優先させなさい。

すまん・・・。

(フィーネ)でも、書かなくていいってわけじゃないわよ?

そりゃわかってるさ。2週間に1話は上げれるようにがんばる。

(フィーネ)わかったわ。で、本編のないようだけど、あんたほんとにリアル志向ね。いや、もはやリアルなのかファンタジーなのかわかんないわ。

まぁ・・・。実際はこれでも大幅カットだ。友人に下読みさせたらやりすぎだいわれてめちゃくちゃ切ったんだが。

(フィーネ)はぁ・・・。本当に読者を選ぶものしか書かないわねぇ・・・。

まぁ、かきたいこと書けるのがSSの特権でしょ。

(フィーネ)それはそうだけど、読んでもらう以上それなりの妥協はしなさいよ・・・。

・・・善処します・・・。

(フィーネ)政治家的発言ね。

そ、それはそうと、フィーラとフィーリアは?

(フィーネ)浩さんのところに行ったわよ?

また迷惑をかけに・・・

(フィーネ)あんたが相手にしないからでしょ。

それを言われると・・・。とまぁ、次回予告、そろそろよろしくな。

(フィーネ)はーい。さて、次回ネギまちっく・ハート第十帖第三間『守護者検定(ガーディアンテスト)・二時間目 長瀬楓〜Silent Assassin〜』!

勉強とSS、両立してがんばります・・・・。



…………。
美姫 「冒頭から寝ているバカは放っておいて、と」
フィーラ 「久しぶりにお邪魔しま〜す」
フィーリア 「お邪魔します」
美姫 「今回は刹那の番ね」
フィーラ 「刹那には死を体験って所ですね」
フィーリア 「これにより、刹那もまた大きくなるのよ」
美姫 「うんうん。死の恐怖を体験し、それを乗り越えることで更なる強さが」
フィーラ 「まあ、体験しても強くならない人もいるみたいですけど…」
フィーリア 「本当に、弱い」
美姫 「まあ、それがこのバカの特徴だしね〜」
……ぶわはぁっ! し、死ぬかと思った!
って言うか、さっきの花畑はやばいだろう!
と言うよりも、いきなり何をする!
フィーリア 「えっと、突き?」
フィーラ 「で、そこへ私の袈裟斬りが」
美姫 「で、私が浩を宙へと蹴り上げて…」
美姫&フィーラ&フィーリア 「三人で連続波状攻撃〜♪」
フィーラ 「そして留めはや・ぱ・り〜♪」
フィーリア 「美姫さんの必殺技で」
美姫 「ばしっと決めたわよ♪」
いや、あのな、お前ら…。
フィーリア 「あ、そろそろ時間」
フィーラ 「あ、本当だ」
美姫 「それじゃあ、また次回を楽しみに待ってるわね〜」
フィーリア 「お茶の用意をしますね」
フィーラ 「ここからはゆっくりとティータイムといきましょう、美姫さん」
美姫 「そうね。そうしましょう」
……今回、俺の台詞少なくないか?



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