『ネギまちっく・ハート〜Love and War〜』
第十帖第三間『守護者検定(ガーディアン・テスト)・三時間目 長瀬楓〜Silent Assassin〜』
「さて・・・。次はカエちゃんか・・・。ん〜・・・私の予想じゃ、この廃校舎壊れちゃいそうなんだけど、大丈夫だと思う?」
仄之霞に刹那を任せ、一人になった眞莉紗はきょろきょろと廃校の状況を見回して、中にいる眞莉亜に話しかける。
(大丈夫とは思うけどね。こんな古い校舎、壊してやったほうがかえって解体費用かからなくていいんじゃない?)
眞莉亜はかまわないんじゃないとあまり深く考えずにそう答えた。しかし、勝手に壊しては器物破損もいいところ、どう考えても言い訳がない。
(眞莉亜の言うとおり、大丈夫だよ。ここは近いうちに壊されるって話だったから、私が進めたんだし。)
眞莉慧は眞莉亜の言うとおりかまわないよと眞莉紗に伝える。眞莉紗はそっか、それじゃあ大丈夫だねとレーヴァテインを床に突き刺して体をほぐし始める。
(しかし、なんだって突然こんなことを?刹那嬢達が強いのなんか言わずと知れてだろうに。)
眞莉亜はどうやら前もってこの試験のことを知らされていなかったようで、眞莉紗にそう尋ねた。
「ん〜?そりゃさっき刹那ちゃん言ったとおり、強くなってほしいから。あと、死なないでねってことを念押して伝えたかったっていうのもあるかな。
今まで刹那ちゃんたちが相手にしてたのは、確かに命のやり取りに近いものがあったかもしれない。でも、実力は五分かちょい下。いいとこちょい上ってとこだと思う。
でも、今回は何がどう出るかなんてわかんない。五分かも知れないし、ちょい下かもしれない。かなり下かもしれなければ、ちょい上かもしれない。
もっといえば桁違いに強い相手かもしれない。命を大事にするってことがどういうことか本当にわかってないと、そういう相手を前にしてどういう行動をとればいいかなんてわからないから。
仮に木乃香ちゃんを桁違いの相手が刹那ちゃんの前でさらったとしよう。刹那ちゃんは当然応戦する。でも、逆に追い詰められる。さて、ここでどう出るか。
向こうの挑発に乗れば返り討ち、乗らなくても、何とかしようとすれば同じく返り討ち。でも、命の大切さを知ってたら、一度撤退して、体勢を整えてから追いかけるって行動が取れる。
生き残って、且つ木乃香ちゃんを助けられる可能性は間違いなく最後のほうが高い。」
どう?わかった?と眞莉紗は眞莉亜に聞いた。眞莉亜は言わんとすることはわかる。と眞莉紗は返す。
「でも、問題はカエちゃんとくーちゃん。」
眞莉紗はレーヴァテインを引き抜くと引きずりながら階段を上り始める。
(なんで?あの二人も同じじゃないの?)
眞莉慧は二人を特別視する眞莉紗の意図が汲み取れないのか、眞莉紗に尋ねる。
「あれ?わかんない?あの二人、麻帆良武道四天王の中で明らかに浮いてるんだよね。いや、正確に言うとカエちゃんと真名っちはほぼ同じなんだけど。」
眞莉紗はそういうと屋上に行くついでに話しとこうかなと話し始める。
「真名っちとカエちゃん。この二人は間違いなく年齢不相応な経験と場数を踏んでる。真名っちはまぁ、過去のことは知らないけど、ミニステルマギだったらしいし、
鼎くんとも一悶着あってる。おそらくは『そういった場所』の経験も十二分にあると思う。カエちゃんは・・・過去のことは真名ちゃん以上にわからないね。
でも、甲賀中忍、そして、裏に生きてたもの持つ独特の雰囲気。こればっかりは隠しようがない。だから、多分要らぬ心配だとは思うんだけど、
とりあえず、カエちゃんに関してはちょっと手合わせしとこうかなと。真名っちはクラス違うからいくとこ違うし、今回は無しってことで。」
眞莉紗の言葉に二人は相槌を打つだけで、それ以外の反応はない。何せ、『こういうこと』に関しては眞莉紗が頭一つどころか眞莉亜を圧倒的に上回り、
眞莉紗には劣るとはいえ、そちらの能力を持つ眞莉慧すらもはるかに凌いでいる。そういうこともあり、眞莉紗の言葉は信用に足ると確信しているのだ。
「で、問題は、くーちゃん。彼女こそ、武道四天王のイレギュラー。さて、理由を挙げると実に簡単。余りにも普通すぎる。刹那ちゃんは烏族ハーフ、
真名っちは元とはいえミニステルマギ。カエちゃんは甲賀中忍。ね?くーちゃんだけ浮くでしょ?」
眞莉紗の言葉に言われてみればそうだけど、でも、単純に強い人を上から数えていったからじゃないの?と眞莉慧が問う。
「そうでもないよ。武道四天王っていうのは自分たちが枠に入るために戦って決めるものじゃなくて、何時ともなく勝手に括られるもの。この視点からたつと、
明らかに去年の武道大会でくーちゃんに勝った鼎くん、そしてその鼎くんを倒した恭也くん。もっといえば、刹那ちゃんを倒した恭也くん。
そう、くーちゃんのポジションには恭也くんがいてもおかしくない、いや、いなきゃいけないの。でも、実際はいない。ほら。すっごいイレギュラーでしょ?」
そんな説明に眞莉亜は恭也が男だからじゃないの?と眞莉紗に聞く。しかし、眞莉紗はそういうことはないでしょと言い返した。
「武道四天王はあくまで強いやつが呼ばれるまぁ、一種のステータスだから。さて、そこで私の勘なんだけど、くーちゃんはもしかしたら『アレ』かもしれない。」
その言葉に眞莉慧が反応した。
(そんな・・・いや、ありうるね・・・・。)
眞莉慧は考え込んだように黙り込んで反応しなくなった。眞莉紗はで、そうなるとだ。と話を続ける。
「カエちゃんについては試験じゃなくて純粋な力勝負。だから、二人には引っ込んでてもらいたいの。『あっち』の力使っちゃうと、二人が耐えれないし。」
眞莉紗のその言葉に眞莉亜はあわてて食いついた。
(お、おい・・・楓嬢相手ならまだしも、古菲嬢にも?というか、『あっち』の力つかって、加減できるのか?加減し損ねましたじゃすまないって・・・・。)
眞莉亜が危惧するほどの力、いや、今の力でも十分に危惧するに値するが、それすら凌ぐというのだろうか。
「だいじょーぶだって。救護班はほのちゃんに任せてるし。彼女の数少ない出番なんだもん。有効に使ってやらないと。」
眞莉紗はそういうといつの間にかついていた屋上のドアノブに手を伸ばす。
「それじゃ、少しの間、二人は眠っててね。」
眞莉紗のその言葉に二人は同意し、意識を完全に眞莉紗の裏に沈め、眠りにつく。同時に三人顕正がとけ、金色の瞳に、金色の髪。姫神眞莉紗のみが顕正した。
そして、眞莉紗はドアノブを捻り、屋上にその姿を現す。
「待ちくたびれたでござるよ、眞莉紗殿。」
そこに待っていたのは長瀬楓。制服姿ではあるが、戦闘体勢であることが見て取れる。眞莉紗はごめんごめんと謝りながら巨大なレーヴァテインを引きずって楓の前に立つ。
「おおよそのことの予想はついているでござるよ。で、これは本気でいってもいいのでござるかな?」
眞莉紗が近づいてきたのを確認して楓はすべて悟った声でそう話しかけた。眞莉紗はさすがはというか、なんというか、でも、それなら早いねと楓に返す。
「って・・・・やっぱりこれ重・・・・・。」
眞莉紗はレーヴァテインを何とか引きずってそして正眼にレーヴァテインを構える。どうやら、この状態ではレーヴァテインは重過ぎるようだ。
「さて、カエちゃんには刹那ちゃんのような前置き要らないみたいだから、いきなり全力でいかせてもらうね。」
眞莉紗はそういうと目を閉じる。すると大剣だったレーヴァテインが炎に包まれ、その炎が眞莉紗を包み込んだ。眞莉紗はさて、それじゃあ行くよと首を捻って骨を慣らす。
包んだ炎は燃え盛ってはいないものの、体に火がついたときのように眞莉紗を包み込んでいる。しかし、服はこげず、その髪も燃えてはいない。
そんな眞莉紗が一歩、楓に近づく。その足跡は黒くこげている。体が炎を帯びている証拠だ。
「どうやら・・・本気で行ってもどうにもならないようでござるな。が、とはいえあまりない良い機会でござる。行かせてもらうでござるよ!」
楓は目をいつもの細い目ではなく、見開くと事前モーション無しでその場から消えた。消えたというのは正確ではなく、あまりの速さに、常人の目には映らない。
しかし、眞莉紗の目にはしっかりと映っていた。眞莉紗は体を捻り、何もない虚空に向かって蹴りを放つ。と、ちょうどその先に楓が現れ、直撃した。炎が楓を包む。
しかし、その楓は霧散した。そう、影分身だったのだ。楓にとっても最初の一撃は予想済みの一撃。だからこそ影分身を向かわせたのだ。そう。この状況を創りあげる為に。
「1,2,3・・・・35体か・・・・。前に比べてかなり数増やしたね、カエちゃん。」
眞莉紗は自らを取り囲む楓の影分身を見て素直にその力量をほめた。そう、楓は最初の一撃を始めから犠牲分として計算し、この数の影分身を作り上げたのだ。
「さて、それじゃ、見せてもらおうかな、カエちゃんの力を・・・・ね!」
眞莉紗はそういうと影分身の中に自ら突っ込んだ。それに応じるように楓も眞莉紗に向かう。楓の影分身は本人含めて35人。
しかも、それぞれが異なった行動をするという、つまり35対1ということである。影分身か、それとも本人か、先頭にいた楓が眞莉紗と交錯する。
楓の流派はどう見ても忍者という肩書きに裏打ちされ、メインが体術、そしてそこに暗器や忍術というものが含まれる、トータルファイティングに近いものだ。
一方の眞莉紗はこの状態においては何をしてくるかわからない。しかし、どう見てもその拳に、その足に頼らざるを得ないのは間違いない。
交錯した楓は体を捻り、そのまま回し蹴りを放つ。眞莉紗はそれを難なくのけぞって交わすと体を起こしながらの右拳を見舞おうとする。しかし、相手は35人。
一人がすきある行動をしても残りでそれがカバーできる。回し蹴りの隙をカバーしたのは眞莉紗の横を取ったもう一人の楓。
その手には忍者刀が握られており、眞莉紗の首を狙って突いた。しかし、眞莉紗はそれにひるまず、一歩踏み込み、蹴りを放った楓に密着し、
制服をつかんで体を反転させながら足を払うでもなく、力任せに右腕一つで背負い投げのように楓を地面に叩きつけた。その楓は影分身だったらしく、その一撃で姿を消す。
眞莉紗はそのまま動きを止めず、地に着いた右手を軸にそのまま前転し、背後から迫っていた楓に踵落しを見舞う。その楓も霧散し、眞莉紗は次へと意識を向ける。
攻撃範囲に入っているのは3人。しかし、全方位囲まれている為、この3人を狙っても周りがその隙を見逃すはずもない。
(さすがだねぇ。この私をしてやっと二人倒せたってとこか。いやまぁ、本気出せばすぐ終わるんだけど、それもねぇ・・・・。)
眞莉紗はそう思いながらも向かってきた楓を迎え撃つ。しかし、こっちから攻めているときは常に1対1に近くできるが、
攻められるときは2人、3人同時に攻めてくるということもある。それを知っているからこそ、眞莉紗は迎え撃つ方策を採らず、自ら攻めるほうをとったのだ。
しかし、それは向こうも承知済み。人数かけていけるのだからそれを使わないわけはない。楓はそのまま畳み掛けるべく攻勢に出たのだ。前衛に出たのは4人。
同時攻撃ということもあり、回避する手も限られてくる。そして中衛には6人。どのような行動をとられてもそれに対応できる上、
そもそも限られた回避後の行動をさらに制限させるという意味で、十分なプレッシャーになる。残りは後衛で、それらで制限した行動をさらに制限する役目を担った。
守るとなっても、攻めるとなっても、一つの行動がすべて死に繋がる、まさに忍者の戦いといえる状況を一瞬にして作り上げたのだ。
(ひゃ〜・・・。ちょっとなめすぎちゃったかな・・・?でもま、これなら力使っても仕方ない・・・よね。)
眞莉紗は一瞬で置かれた状況に対し猿も木から落ちる、河童の川流れという諺を想起したが、しかし、それでいて余裕を失うことはなかった。
4人の影分身の前衛が眞莉紗に迫る。眞莉紗はしかし、一歩も動かず、その攻撃を甘んじて受けるような態勢をとった。何かある。楓はそれを直感で感じ取ったが、
それが何かわからない。それに、そういう部分で攻めることをやめてしまえば、言い換えると、そもそも眞莉紗相手に攻めることすらできなくなってしまう。
楓は罠とわかって、この状況をひっくり返す何かをしてくるとわかって飛び込んだ。4人の同時攻撃が眞莉紗を捕らえる刹那、眞莉紗を中心に、
直系3メートル範囲ほどの火柱があがった。それに巻き込まれて4人の影分身が姿を消す。次の瞬間、その火柱から眞莉紗が姿を現した。中衛の6人がそれに向かう。
しかし、状況は眞莉紗が攻めで楓は守り。1対6ではなく、(1対1)×6。そうなると楓が圧倒的に不利な状況に置かれる。
しかし、だからといって退けば、それこそ眞莉紗の思う壺。攻めざるを得ない状況を眞莉紗は何の苦もなく作り上げたのだ。
眞莉紗は一瞬で一人に近づくと、左拳一つで影分身を消滅させた。その左拳もきちんと構えられたものではなく、無造作に放たれた左拳。その一撃で十分だったのだ。
そして身を翻しながら右手を振り下ろす。背後から迫っていたのは3人。その3人をその右拳から放たれた炎が飲み込んだ。
眞莉紗は影分身だとわかりきって戦っているのだろう、炎が飲み込んだ3人に目もくれず、残り二人に向かう。しかし、後衛も状況だけに前線に集まりつつある。
しかし、眞莉紗はそれすら意に介することなく、背後から、前から左右から襲いくる楓をみて、薄笑いを浮かべると軽い足取りで中に舞い上がった。
「これでお仕舞い!」
眞莉紗は高らかな声とともに身にまとう炎がさらに燃え上がり、足からまっすぐ落下した。どうにもとめようがない一撃。対処法を考えることもままならず、
眞莉紗は屋上に墜落した。すさまじい速さにより、屋上を突き破り、校舎の中まで眞莉紗は突入した。しかし、当然それだけでは何の変哲もない落下。
しかし、墜落という以上落下ではない。眞莉紗を包む炎は落下と同時に校舎を一瞬で包み込み、それだけでなく、周りの木々にすら飛び火し、そして燃え盛った。
しかし、その炎は5分と燃え続けることはなかった。眞莉紗の炎の温度は太陽の中心核のそれをはるかに凌ぐもので、ほとんどのものを一瞬で炭に変えるどころか、
消滅させるような温度なのだ。しかし、燃えるものはないはずなのに、所々で火の手が上がっている。つまり、空気が燃えている、地面が燃えているということだ。
そんな焦土と化した校舎跡に眞莉紗と楓は立っていた。
「一瞬でござるな・・・・さすがは眞莉紗殿といったところでござる。」
楓は目を細めて眞莉紗の力に素直に感服した。楓の言葉通り、本当に一瞬で35人もの影分身は眞莉紗の手によって消滅させられたのだ。
「しかし、この炎は厄介でござるな。」
楓はそういうと再び影分身を作ろうとする。しかし、影分身は作られた次の瞬間に炎が燃え移り、すぐさま消滅してしまうのだ。
「私の能力は『炎を操る力』。その温度、燃やすもの、規模、炎にまつわるすべてを操ることができる。」
眞莉紗はそういうと一歩楓に近づく。
「だからここじゃ影分身は使えない。単純に1対1。さ、一瞬の逢瀬、愉しもうよ。」
その言葉を皮切りに眞莉紗は楓に向かって疾走った。楓もそれを向かいうつように疾走る。眞莉紗の移動速度は確かに先刻の刹那と戦ったときに比べ落ちている。
しかし、落ちたがゆえに、相手は攻められない。そう、眞莉紗を守るように燃える炎があるため、攻撃自体が自らも傷つくリスクがある上に、そのリスクも、
傷つくというレベルではなく、包まれれば即死もありうる。そのため、速度が落ちたことはマイナスではなくプラスに働いているのだ。
楓も眞莉紗の攻撃を大きく避けなければならず、反撃ももともとままならないのにさらに攻め手を欠いた。一方の眞莉紗は流派というものを持っておらず、
それだけ考えると喧嘩と同じようにも取れる。しかし、その動きは流派を持たないながらも八極拳、空手、柔道、サンボ、ムエタイといった名だたる格闘技の動きが見て取れ、
それだけではなく、オリジナルと思われる動きも多々見せている。しかし、正確にはオリジナルというわけではない。眞莉紗は戦うということについて、貪欲なのだ。
眞莉亜の一部になって以降、戦うということを一身に請け負うことになり、何よりあやかのために不測の事態を請け負うものとして戦うということに、
かつて以上に力を割くようになったのだ。その中で眞莉紗が目を留めたのは格闘ゲームだった。ゲームの動きというものは往々にして人間が真似できるようなものではない。
しかし、眞莉紗にとってそれは造作のないことで、数多のゲームをこなし、そのことごとくを習得した。そして流派にこだわらず、その状況で最善の一撃を、
自ら納めた数え切れない動きの中から選定して放つ。まさに戦いにおいて天性の才能、否、炎の巨神スルトだからこそできる、鬼だからこそできる所業。
このスタイルにより動きはまるで予測できないものになり、読むということが機能しなくなる。ただでさえ身にまとう炎の所為で攻撃を防御できないというのに、
それに加わるこの格闘術。鬼に金棒とはまさにこのことだろう。しかし、楓はそれを大きく避けることで常に読みあいの外に身を置いて安全圏から機をうかがっている。
(さすが・・・・ちょろちょろ動くのはお得意か・・・・だったら・・・!)
眞莉紗がついに動いた。右正拳からそれを流しながら左回し蹴り、左足が地につくと同時にその足を踏み込んで開いた間合いをつめながらの千疾歩。
それを楓は何とか回避し、再び間合いをあけようとした。しかし、避けようとした先にまっていたのは炎。回避先がつぶされ、急な方向転換を迫られた為、
回避が遅れて眞莉紗の左拳が楓の頬を掠めた。鋭い痛みが走る。しかし、それは反撃の好機でもあった。リスクを覚悟で楓は一歩踏み込み、掌底で眞莉紗を弾き飛ばす。
否、弾き飛ばそうとした。しかし、眞莉紗の体はピクリともせず、逆にその左拳を腹にもらってしまった。楓の体がくの字に曲がる。
眞莉紗は体を反転させ、楓の胸倉を右手でつかむ。
「燃えちゃえ♪」
軽い眞莉紗の声にこたえるように、楓を巨大な火柱が包んだ。3秒ほど、火柱は楓を包み、その姿を消す。眞莉紗がつかんでいる楓は力なくうなだれており、
はたから見ても意識を失っているようだった。
「いや、さすがはカエちゃんってとこかな。でも、まぁ想定の範囲内の強さだったよ。」
眞莉紗はそういうと楓を抱き上げ、周りをきょろきょろと見回す。すると、それを見計らっていたかのように仄之霞が姿を現した。
「はぁ・・・。まったく。少しは加減したらどうだ?いや、加減しているのかもしれないが、おまえの加減はいつも加減になっていない。」
仄之霞は眞莉紗から楓を受け取るとその傷の具合を見てため息をつきそう言った。楓が実質としてもらったのは腹部に一撃と、最後の炎のみ。
もっと言えば、致命傷を与えたのは炎だけである。つまり、その一撃だけが加減されていたとはいえ余りにも度を越えたものだったということだ。
「仕方ないじゃない。すべては最後の一撃の為の布石なんだもん。私のファイティングスタイルは知ってるでしょ?」
眞莉紗の言葉に仄之霞はそれくらいはなと頷きながらもだがなといってと続ける。
「確かにおまえの理念である『一撃必殺』というのは戦い、否、殺すということにおける究極なのかもしれない。だがな、この子にしろ、刹那にしろ、
次に戦うであろう子にしろ、生身の人間なんだ。いや、正確にいうと違うかも知れんが、少なくともおまえや私といったような論外と一緒ではない。
次相手にする子にはもう少しそこのところを考えてやれ。」
おまえはただでさえ強すぎるんだからと仄之霞はため息をついていった。そして、ああ、それとと仄之霞は付け加える。
「『世界焼く劫火(レーヴァテイン)』なんか使うんじゃない。いくら規模を自在に操れるとはいえ、『編世結界』に変わりはないんだから。
周りにどんな影響を及ぼすかわからん。」
仄之霞はそういい残すと消えるように姿を消した。眞莉紗はそれを見て、残念ながらそういうわけには行かないんだよねと頭をかきながらつぶやいた。
「っていうか、次のくーちゃんがこの試験のメインディッシュなんだし。使わないわけないじゃん♪さて、それじゃそれにふさわしい所に移動しますかね。」
眞莉紗はそういうと一人跡形もなくなった旧校舎を後にする。次いで眞莉紗が向かうのは麻帆良森林公園。守護者検定(ガーディアンテスト)3時間目、古菲。
眞莉紗がメインディッシュと位置づけた古菲の力とはなんなのか。その答えを確認する為に、眞莉紗は一人森林公園の奥に身を置いた。
あとがき
遅れに遅れましたが、なんとか第十帖三間をお送りする事が出来ました。
(フィーネ)体調崩して入院なんて、ひ弱にもほどがあるッ!!
んなこといわれても・・・・。俺だってさすがにあせったよ・・・・。
(フィーネ)まぁ、こうして回復した事だし今回は許してあげるわ。
すまん・・・。で、あの二人は?
(フィーネ)旅行よ。あんたのおかげでこっちも夏休み返上だったんだから少しは休ませてあげなさい。
そうだな。ま、今度くらいは大目に見るか。というわけで、次回予告頼むな。
(フィーネ)本編の説明は無し?まぁいいわ。ついに守護者検定も最後の一人!眞莉紗が一目置く古菲の力とはいったい!?
次回、ネギまちっく・ハート第十帖第四間『守護者検定(ガーディアンテスト)・4時間目 古菲〜As
a God〜』!次回もよろしく!!
いやいや、改めて見ても楓は凄いな。
美姫 「それ以上に、眞莉紗もね」
まあ、それは分かっている事だし。
しかし、古菲にはどんな秘密があるんだ!?
美姫 「本当に。これは次回も目が離せないわね」
ああ。次回も待ってます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」