『ネギまちっく・ハート〜season of lovers〜』
第二十四符『恭也の決意』
「うわー、すごくきれいな海ですぅ〜♪」
恭也たちはビーチに出て、沖縄の海の美しさに圧倒されていた。ほかでは見ることのできない美しさに風香たちは準備体操もせずに海に飛び込んだ。
「ほら、ゆーくんも来るですよー♪きもちーですー♪」
文伽の呼びかけに勇吾はすぐに行くよと二人に向かって歩き出した。一方、鼎たちはビーチパラソルを立ててマットを引き、そこに寝転がっている。
「エヴァ、茶々丸、一緒に行かないか?」
恭也は海を眺めていたエヴァと茶々丸にそういって手を差し伸べた。エヴァと茶々丸はそうするかと恭也の手を取って海に入った。
「おーい、恭也ー、勇吾ー。ビーチバレーしようぜー!」
海に来て暫く立って、海に入っている恭也たちを鼎が呼んだ。恭也たちはそうだなと海を上がっていつの間にかくみ上げられたネットのところに集まった。
「三人ずつだから総当りと行こうぜ。」
鼎はボールを指の上でまわしながらそれでどうよとみんなに聞く。恭也たちはそうだなと頷き、ビーチバレーを始めることにした。
「ちょっとまって、鼎、その前にサンオイル塗ってよ。」
和美はそういうとマットに寝転がって鼎にそういった。鼎は別にかまわないよと和美のところに向かった。
「ゆーくん、私たちにも塗ってくださいです♪」
そういうと風香と文伽は自分たちでシートを敷いてその上に寝転がった。
勇吾はわかったよとサンオイルを二人から受け取るとどうしていいかもわからないまま二人の言うままにサンオイルを塗り始めた。
「おい、恭也、その・・・なんだ。」
エヴァは恭也のほうを向くことなく、腕を組んだまま恥ずかしそうに恭也を呼んだ。
「その・・・・私にも・・・塗ってくれないか?」
恭也は少し驚いた表情をしたが、すぐに笑顔に戻ってああと茶々丸からサンオイルを受け取るとエヴァのところまでいった。
エヴァは敷いたマットの上に寝転がるとビキニの後ろのホックを解いた。
「お、おい、エヴァ・・・。」
エヴァの行為に驚いた恭也はあわてたが、むらを作るなよというとそのまま目を閉じた。恭也はサンオイルを不慣れな手つきで塗っていくが、
いくらエヴァの素肌に触りなれてるとはいえ、顔を赤くして恥ずかしそうに塗っている。
「おい、恭也、もう少ししっかり塗ってくれ。くすぐったいぞ・・・・。」
エヴァはもどかしそうに体をよじってそういったが、恭也には刺激が強すぎたのか固まってしまった。
「おい、恭也?」
エヴァは振り返って恭也のほうを見たが、それはただ恭也が動作不能になっているのを確認しただけの意味しか持たなかった。
エヴァはやれやれと水着を着なおして立ち上がると、恭也をゆすって正気に戻す。恭也はわれに返るとすまないとエヴァに謝った。
エヴァはまあいいさと恭也の手をとって立ち上がらせる。
「ほら、あいつらが待ってるぞ。」
エヴァの言ったように鼎たちはすでに準備を終えてコートの前で待っている。恭也はそうだなと鼎たちのところに小走りで向かった。
「ルールはさっき言ったとおり、三人一組で総当り。15点先取のワンゲーム制でいくよ。」
鼎はそういうと砂浜に書いた総当り表をみてそういうと最初は俺たちと恭也のところだなとボールを指先で回しながらコートにたった。
「遊びとはいえ、加減はしないからな。」
恭也はそういってエヴァたちとコートにたつ。そして恭也たちはしばしの間ビーチバレーに興じた。
普段はすましたエヴァも珍しく笑顔を見せ、真夏のひと時を楽しんだ。ビーチバレーは三チームともいい具合にバラけていて、一点を争う白熱した試合になった。
「いやー、遊んだし食べたし、もう言うことないねー。」
夕食の後、部屋に戻った鼎たちはひとつのベッドに倒れこんだ。
「ホント、おいしかったですね。今度、沖縄の料理、作ってみましょうか。」
夕食の沖縄料理の味に舌鼓を打ち、さよは今度自分でも作ってみようかと天井を見たまま言う。
鼎は期待してるぞーとさよが作る沖縄料理を想像してそう言った。
「さて、後はお風呂に入って寝るだけね。」
和美はそういうと起き上がることなく転がって鼎の横まで移動した。
「そういえばこの部屋のお風呂はものすごく広かったですよね。一緒に入りませんか?」
さよも和美のように転がって鼎の横に来ると鼎の手を握っていった。鼎はそうだなというと徐に目を閉じる。
「しかし、食うと眠くなるよなぁ。少し寝るか。」
鼎はうとうとと舟をこぎ始めた。和美たちもそうねと鼎の隣で目を閉じる。そして3人は優しい眠りの中に落ちていった。
「ゆーくん、お風呂はいるですよー♪」
史伽は部屋に戻ってしばらくすると、そういって勇吾の背中に飛びついた。勇吾はもうそんな時間かと時計を見る。
時計の針は9時を回っていた。どうやら他愛ないことを話していたら二時間も経ったらしい。
「ゆーくんと一緒にお風呂に入るの、初めてだよねー♪」
風香はニヤニヤと笑って勇吾のほうを見る。勇吾は風香の考えていることがわかったのか顔を赤らめた。
「・・・・水着着て入るか。」
勇吾の言葉に風香と史伽は不満があるようにえーともらした。
「水着なんか着てたら体洗えないよー。」
風香は口を尖らせて文句を言ったが、まさにそのとおりのため勇吾は反論することができない。
「それに海水に浸かってるからきれいってわけじゃないしー。」
史伽の言うとおり確かに洗濯していない。お風呂で洗えばいいのだが、洗っているときは脱がざるを得ない。
勇吾ははぁとため息をついて二人の説得をあきらめた。
「・・・・ただし、何があっても文句は言うなよ。」
勇吾は覚悟を決めてそういうとソファーを立った。風香と史伽ははーいと元気よく返事して我先にと浴場へ向かった。
確かに、同じ階に泊まるには別の意味で少々遠慮したいところだ。
ところ変わって恭也たちの部屋。恭也たちは風呂を済ませて、窓辺のテーブルを三人で囲って昼間に選別したワインのひとつをあけていた。
恭也もとりあえずは飲んでみたものの、おいしいかどうかわからない。
もともと家ではたまに行われる宴会で桃子から日本酒かビールを飲まされるぐらいでワインを飲んだことがないのだ。
「ところで恭也。昼言っていた話って何だ?」
グラスのワインを飲み干してエヴァが恭也に言った。恭也が昼間入っていた話は夜するということにしていて、
恭也もエヴァが聞いてくれるのを待っていたかのようにグラスを置いて口を開いた。
「PRIDE〜麻帆良祭り〜で俺は戦う理由を、強くなる理由を手に入れることができた。
そして、勇吾と鳴滝姉妹の出来事で誰かを想うことの大切さと難しさを知った。俺も、前々から考えていたんだ。
俺とエヴァのこれからのことを。いや、今では俺とエヴァと茶々丸のこれからのことだな。」
恭也はそこまで言ってグラスに残ったワインを飲み干して、二人の顔をまっずぐに見ていった。
「俺と結婚してくれ。」
突然の告白。しかし、勢いで出たものではないことはその場の誰にでもわかるものだった。PRIDE〜麻帆良祭り〜で肉体の限界をこえてすら追い求めた『答え』。
そして、その答えの先に見たエヴァと茶々丸の存在。そこから恭也の導き出した『本当の答え』。
これからもいつまでもエヴァとともに、茶々丸とともに生きていくという答え。エヴァは恭也の告白に今までにないほど真剣な表情をした。
返事をすることもなく黙り込むエヴァと茶々丸。恭也も二人の返事を待って口を開かない。そしてその沈黙が5分ほど続いき、ついにエヴァが口を開いた。
「・・・・すまない・・・・。プロポーズは本当にうれしいが・・・・受け入れることはできない・・・・。」
エヴァは本当に沈痛な顔で声を絞り出すように言葉を紡ぎだした。恭也は理由を教えてくれと動揺せずに聞き返す。
「私は・・・・お前が好きだ・・・・。恭也さえいれば、他は何もいらないくらいに。だが、それ以上に、お前を失うのが怖い。
今以上の関係に踏み込んで、お前を失うことが怖いんだ。私は永久的な命を手にした吸血鬼。茶々丸はロボット。だが、お前は人間だ。
どう考えても別れのときがやってくる。今のままでもそのことを考えると本当につらい。
でも、これ以上お前と近づくと、たえられなくなってしまう・・・・。だから・・・・本当にすまない・・・・。」
エヴァの口にした理由に恭也はそうかと相槌を打った。恭也は茶々丸にも聞いた。エヴァと考えは同じなのかどうか。
「はい。私もマスターとほとんど同じ意見です。恭也がいなくなることを考えると、つらすぎます。」
恭也はそうかと頷く。だが、恭也は続けた。自分の決意を口にするために。
「二人が思っているように俺だってお前たちと別れることは本当につらいし、お前たちを残して逝かなければならないことも本当に悔しい。
だから、俺は決めたんだ。」
そして恭也は自分の決意を、二人とともに生きていく決意を口にした。
「エヴァ、俺を吸血鬼にしてくれ。」
恭也の決意。それは自ら吸血鬼になりエヴァとともに永遠の刻(とき)を生きていくという決意。それが何を意味しているか、恭也にはよくわかる。
死ぬことも老いることもないが、『人』の世界から離れて生きるということである。言葉ではわからないがそれは容易なことではない。
吸血鬼になるということは人としての存在が死ぬということだからだ。恭也のその言葉にエヴァは驚いて声を失った。
「正気か!?吸血鬼になるということがどんなことかわかって言ってるのか、恭也!」
エヴァは声を荒げて恭也に詰め寄った。恭也はわかっていると淡々と答える。
「わかっているさ。俺も相当悩んだ。でも、俺は『それ』を引き換えにしてもエヴァと茶々丸と共に存在(い)たい。すべてを失ってもいい。
お前たちを失いさえしなければ。」
エヴァは黙り込んだ。恭也の意志が固いことは口調でわかった。しかし、恭也には母親や妹といった家族がいる。
吸血鬼になるということは家族すら、人間として生んでくれた親すらを裏切ることになるのだ。
果たして自分にそれができるのか、していいのか、エヴァは答えを出せない。
「いいのですか、恭也?失うものはあなたが思っているよりも大きなものです。代わりに得られるのは私とマスターの二人だけ。それでも、いいのですか?」
茶々丸が恭也にたずねる。二人は恭也にあきらめてほしいと思っているわけではない。むしろ、恭也が言ってくれたことは非常にうれしいものだ。
しかし、人間として生活してきた恭也が果たして失うものの大きさに耐えられるかどうか心配しているのである。
「お前たち二人を得られるならば、すべてを捨てることも厭わない。それに、その覚悟もある。」
恭也はしかし、迷うことなくはっきりといった。エヴァはそんな恭也を見て最後の通告だと言う。
「これが最後だ。本当に後悔しないんだな。後から言われてももう遅いんだぞ?」
エヴァの最後の通告に恭也はああとはっきりと答えた。エヴァはそうかと頷くと恭也に立つように促した。
「本当にいいんだな?」
エヴァは恭也の首に顔を近づけて最期の確認をした。恭也はああと再びそう答える。エヴァはわかったと恭也の首を噛んだ。
少しの痛みと、それ以上に感じる血の暖かさ。恭也はそれを感じながらエヴァのぬくもりも感じていた。
エヴァの血が自分の血と混じりあう感覚。それは血の契約。
エヴァは一分にも満たない契約を済ませると自らの噛んだところを舌でなめて噛んだ後をふさいだ。
「何度も聞くが、本当によかったんだな?」
エヴァは何度も、恭也に聞く。吸血鬼になるということはエヴァをしてもすべてにおいて大変なことなのだ。
恭也はそれに答えるようにエヴァの唇を奪った。
「もう一度言うよ。結婚してくれ、エヴァ、茶々丸。」
その言葉にエヴァと茶々丸は首を縦に振った。恭也はそんな二人にポケットから取り出した箱を渡す。
二人はそれを受け取って箱を開けた。その中にあったのはおそろいのダイヤの指輪。エヴァと茶々丸はそれを指にはめる。
「これから先、何があっても支えていくよ。恭也。」
エヴァは目を潤ませて恭也の手をとった。恭也もエヴァの手をとって何があってもエヴァを支えていくことを誓う。
「よろしくお願いします、恭也。」
茶々丸は恥ずかしそうにうつむいて恭也にそういった。そんな茶々丸の肩を恭也は抱き寄せてこちらこそ改めてよろしくとキスをした。
恭也が選んだのはエヴァと茶々丸と永久(とわ)に生きていく道。どんな困難がこれから先あろうとも、どんなつらいことがあろうとも、
乗り切ることができる。恭也は、エヴァは、茶々丸はそれぞれ心の中でそう思っていた。
あとがき
と、言うことで、恭也がエヴァと茶々丸とともに永遠の時間を生きていく為に選んだ道は吸血鬼になることでした。
(フィーネ)なるほど。たしかに、永遠の時間を刻むことはできるわね。
だろ?
(フィーラ)でも、吸血鬼って日光に弱いんじゃなかったっけ?
弱いといえば弱いな。
(フィーリア)一般生活において支障でまくりじゃない?
本来ならね。でも、エヴァのように日光の下で活動できる奴もいるだろ?
(フィーネ)それは真祖だからでしょ?
死徒でも力がきちんとあれば日光が苦手というだけでそれが弱点にはなりえない奴だってわんさかいるぞ。
(フィーリア)恭也くんは死徒になり立てじゃない。いきなりそんな力あるの?
真祖の中でも桁違いの力を持つエヴァにかまれたんだ。そのくらいはできるさ。
(フィーネ)なるほど。
さて。次は遂に完結の25話だな。
(フィーラ)二話に分けたりしないの?
わからんが、それはないと思う。ただ、長くはなるな。
(フィーリア)それじゃあ、次回完結なんだ。
おう。それじゃ、次回予告よろしくな。
(フィーネ)おっけ。エヴァと茶々丸との永遠の絆を結んだ恭也!
(フィーラ)そして、かねてから結婚を決めていた鼎とさよと和美!
(フィーリア)二組の絆の行き着くのは幸せという終着駅のない永遠の旅!!
(フィーネ&フィーラ&フィーリア)次回、ネギまちっく・ハート最終符『希望(ゆめ)ある未来(あした)へ』!!!乞うご期待!!!
恭也の下した決断と、それを受け入れるエヴァたち。
美姫 「うんうん。これも一つの形よね〜」
そして、悲しいかな、いよいよ最終回。
美姫 「始まりがあれば終わりがあるものなのよ」
次回が非常に気になる所ではあるけれど…。
美姫 「次回で最終話という事で、少し寂しい所でもあるわね」
うんうん。それでも、次回を期待して待っています。
美姫 「それじゃ〜ね〜」