「・・・・・それは一体どういう事?」

 

「その前に一つ聞くが、君は“アインツベルンの戦場跡”をみたか?」

 

目を鋭くしていう遠坂にバゼットさんは問い返す。

彼女の言う“アインツベルンの戦場跡”、それが何を意味するのかは考えなくてもわかる。

 

「ええ。」

 

簡潔に頷く遠坂、それを確認してバゼットさんは続けた。

 

「あの、戦場跡は私のサーヴァントであるセイバーとバーサーカーの戦いによって生まれたものだ。その戦いでこちらもかなりの手傷を負ったが、セイバーの宝具でバーサーカーの命を7つ奪いもした。あのまま戦っていたなら、どちらが勝っていたかは微妙だったろうな。」

 

その言葉に遠坂は驚いた表情を見せる。

あの、バーサーカーを7回も殺したというのだから無理もないだろう。

セイバーの強さとエクスカリバーの威力を見ている俺ですら少し驚く。

それにしても、あそこで戦っていたのはバゼットさん達だったのか・・・・・。

 

「しかし、そこで、乱入者が現れた。会話の流れからわかっていると思うが言峰だ。奴はランサーを連れ、さらに、自ら“変身”した。」

 

「変身!? それって士郎みたいに・・・・・。」

 

その言葉に驚愕する遠坂、それに対してバゼットさんは“ほおっ”と呟く。

 

「知っていたのか。確かに奴の変身した姿は彼に似ていたな。腰にベルトのようなものを巻き、そのまま魔力も発せず姿を変え、圧倒的な力を見せた。そして、バーサーカーを本当の意味で殺した。これは奴にはもう2つしか命が残っていなかった事も大きな要因だがな。」

 

あの強大なバーサーカーが殺された、その事実に沈黙が落ちる。

だが、俺にはどうしても聞いておかなければならない事が三つあった。

まずは一つ目に対して問う。

 

「その俺に似た姿って、色は何色でした?」

 

「色? 確か灰色っぽい色だったと思うが。」

 

その答えを聞いて俺は確信した。

以前、俺を襲ってきた、“ぬえ”の正体こそ、その言峰という男だと。

 

「その言峰という男は何者、何ですか?」

 

俺は二つ目の疑問を発する。

すると、バゼットさんも遠坂も驚いたというか呆気に取られた顔をした。

“何だ? 俺は何かおかしなことを聞いたのか?”

俺が、そう思っていると二人はやがて得心した表情になった。

 

「そういえば、士郎は正式に聖杯戦争に参加している訳じゃなかったわね。言峰っていうのは聖杯戦争の監視役と教会から使わされた男よ。そして、・・・・・私の兄弟子でもあるわ。不快な事にね。それにしても、まさか監視者がマスターとして参加しているなんて最高の反則よ。」

 

説明してくれたのは遠坂だった。

そして、その後で吐き捨てるような表情になる。

遠坂のその態度からしても、どうやら、相当嫌な奴であるらしい。

 

「奴は私をだまして令呪と私のサーヴァントであったランサーを奪って聖杯戦争のサーヴァントになったのだ。」

 

そこで、ロゼットさんが意外な事実を明らかにする。

そういえば、以前しくじって腕を失ったといってたが、それがまさかそんな理由だったとは・・・・。

 

「まさか、そんな手を使っていたとはね・・・・。前々からそうだとは思ってたけど予想以上の食わせ者だわ、あいつ。」

 

遠坂が心底不快だという表情を見せる。それは俺も同じだ。

だが、これからする最後の質問次第ではその不快感は今の比ではなくなるかもしれない。

 

「イリヤでない死体が二人分あった。それも言峰って奴がやったのか?」

 

しかし、その問いに対してバゼットさんは僅かに驚いた表情をした後、首を振った。

 

「いや、それはわからん。バーサーカーが敗北した時点で私達は撤退を決めたからな。奴等は私達には興味をほとんど示さなかったからあっさり逃げられたよ。だが、その場にあったのなら、言峰の仕業かもしれんな。」

 

そう言って彼女は苦虫を潰したような表情になる。

その表情の意味は自分を裏切った相手に言い様にやられた悔しさなのか、死んだ二人を悼んでくれているのか、あるいは両方か。いずれにしても俺には伺い知る事はできなかった。

 

「・・・・・話はわかったわ。それで、休戦って言うのはどういう事?」

 

そして、話が途切れた所で遠坂が再び口を開いた。

バゼットさんが頷き、答える。

 

「イリヤスフィールの心臓が聖杯という事実、私はこれをある筋から入手したのだが、それはともかくとして、シロウがここにいるのなら、今回の聖杯戦争サーヴァントが8騎いることは知っているだろう?」

 

「9騎よ。」

 

突然話題を変えたかのようなその言葉に遠坂が修正する。

 

「な、そうなのか!?」

 

その言葉を聞いて驚くバゼットさん。

それにしても、先ほどからお互い驚かされてばかりだ。

今回の聖杯戦争が従来のものと比べても異常であることを改めて実感する。

 

「・・・・だとしたら、もはや猶予はないな。この聖杯戦争、最後の1騎になった状態で、聖杯が現れるという事だが、これは言い換えれば6騎のサーヴァントが倒れた時点とも取れる。もし、この法則に基づいて聖杯戦争が動いていたとしたら・・・・。」

 

「!! 残りのサーヴァントが3騎になった時点で、聖杯をその手に握っている言峰が勝利者となる・・・・・。」

 

遠坂がバゼットさんの言わんとする事を察して言う。

くそ、その為にイリヤをさらったのか!!

 

「そういう事だ。それは私にとっても、お前にとっても面白くあるまい。だからこその休戦だ。奴を倒すまでは敵であれ、味方であれ、これ以上サーヴァントを消滅させる訳にはいかん。」

 

その言葉に遠坂は考え込み、そして言った。

 

「確かに、そうね。私も言峰何かを勝利者にするのは気に喰わないわ。けど、それは、あなたの話を全て信じればの話よね?確かに辻褄はあってるけど、それはあなたの都合のいいように仕組まれた嘘かもしれないわ。」

 

「私達はそんな虚言を弄しません!!」

 

その遠坂の言葉にいままで沈黙を守っていたセイバーが叫ぶ。

俺もそれに賛同しようとした。短い付き合いではあったが、彼女等はけしてそんな人達ではないという事は十分にわかっている。

だが、それよりも早く意外な所から援護が入った。

 

「凛、おそらくは彼女達の言う事は本当だろう。」

 

それはアーチャーの言葉だった。普段捻くれた奴だけにその言葉にインパクトがあり、俺と遠坂は一斉に奴の方をみる。

そして、遠坂が奴を問い詰めようとする。

 

「どういう事。何を根拠にそんな事言ってるの?」

 

「先ほど、衛宮士郎が“死体”について問いかけた時、その女は“わからん”と言い、知らなかった事実に対し、その驚きについて隠そうとしなかった。後ろ暗い事の人間というのは大概必要以上に演じてしまうものだが、その女にはそれが見られなかった。また、加えて言えば、マスターの方はともかく、セイバーの方にはそんな器用な嘘がつけそうに見えなかったというのもあるな。」

 

「なっ!! 私を愚弄するのですか!!」

 

アーチャーの言葉にセイバーが憤る。それを見て“プッ”と噴出す遠坂。

 

「そうね。彼女に、嘘は無理そうだわ。いいわ、言峰を倒すまでの休戦受けましょう。」

 

「そうか。それはありがたいな。」

 

自分が疑われた事も特に気にしていないようにバゼットさんはそう答える。

 

「それでは、用は果たした。私たちはこれで立ち去る事にしよう。」

 

「な、なあ、どうせだったら休戦じゃなくて、手を組まないか!!」

 

そこで、俺は立ち去ろうとするバゼットさんをひきとめ、そう言う。

だが、遠坂に“キッ”っと睨まれてしまった。

 

「士郎、悪いけど私はそこまで彼女を信用した訳じゃないの。彼女の話はとりあえず、信じるけどあくまでそれだけよ。」

 

「私もだ。だが、君一人が遠坂の魔術師を捨てて私のもとに来るというのなら歓迎するがね。」

 

とっ、そんなことをいきなり言ってくるバゼットさん。そういう意味じゃないと思っても顔が赤くなってしまう。

遠坂の奴は今度はバゼットさんを睨んでいる。

 

「ははっ、それでは今度こそ立ち去ろう。」

 

するとそう言って、バゼットさんは笑って立ち去ってしまった。

その為、遠坂の睨みが再びおれの方に戻り、俺はしばし、居心地の悪い空間を味わわなければならなくなった。

 

 

 

 

 

「柳洞寺に行くわよ。」

 

遠坂の睨みから解放されたかと思うと、彼女は開口一番そう言った。

そして、その言葉に俺は反射的に反発する。

 

「まさか、キャスターを倒す気か!? 遠坂、それに関しては、前に・・・」

 

「馬鹿! 違うわよ。私は一度した約束を簡単に破ったりはしないわ。それに、今はサーヴァントを下手に倒す訳にはいかないって事はたった今、話したばかりの事じゃない。」

 

あ、そっか、そういえばそうだった。けど、それじゃあ、何故、遠坂は?

 

「むしろ、逆、彼女を守る為よ。言峰が聖杯が目的ならサーヴァントを仕留めようとする筈よ。今までに倒れたサーヴァントは5騎、6騎倒れた時点で・・・・・っていう推測が当たっているなら、もう一刻の猶予もないわ。柳洞寺周辺で張り込むわ。」

 

「なるほど!!それで、また俺と遠坂で行くのか?」

 

遠坂の話に納得し、気になった点に対して尋ねると、彼女は眉をひそめ、そして答えた。

 

「いえ、連れて行くわ。」

 

「なっ・・・・。」

 

その答えに俺は声がでなくなる。

何を言ってるんだ、そう言おうとしてそれよりも早く彼女は説明を開始した。

 

「ランサーと、バーサーカーを倒すほどの力を手に入れた言峰。この二人に対して、士郎とアーチャー、どちらか一人では勝てないわ。二人一緒に行く必要がある。けど、私、一人で家に残ったとしても悔しいけどいざという時、桜を守りきる事は難しいわ。総合して考えれば纏まって行動するのが一番危険性が少ないのよ。」

 

「・・・・・わかった。3人で桜を守ろう。」

 

俺にはそれしか言えなかった。

遠坂が自分の力の足りなさをどれほど悔しがっているがわかったから。

そして、柳洞寺にたどり着いた時・・・・・・・そこでは既に戦闘が始まっていた。

 

 


(後書き)

戦闘が全然ない(汗)戦闘が無いと士郎の活躍もない。次回は今までの鬱憤を晴らすように一気に戦闘・・・・になるといいなあ。




柳桐寺で既に始まっていた戦闘。
果たして、キャスターは無事なのか!?
美姫 「次回は一気に戦闘に突入?」
物語りも終わりに近づき、一気に動き出している。
美姫 「果たして、どんな結末が待っているのかしら」
次回も、非常に楽しみだ〜!
美姫 「それじゃあ、また次回を待ってますね」
待ってます。



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