「そう、わかったわ。」
俺の言葉に遠坂は驚く程あっさり引き下がった。
てっきり、何か言われるものと思っていた俺はその行動に思わず拍子抜けしてしまい、よほど間抜けな表情になっていたのだろう、俺の顔を指差し、彼女は口を開いた。
「何、反対されると思った? ええ、はっきり言えばあなたの考えを認めた訳じゃないわ。けど、ここであなたと争ってもどうにもならないし、別に彼女に恨みがある訳じゃない。いまさら、聖杯戦争どうのこうの言ってもしょうがないしね。だから、助けられるならたすけてもかまわないわ。やるだけやってみなさい。それで駄目ならその時は私が彼女を殺すわ。」
それだけ、まくしたてるように言うと、洞窟の奥の方に向かって走り出そうとする。
だが、その前に俺はそんな彼女を呼び止めた。
「あ、ちょっと待ってくれ、遠坂。」
「何よ、まさか、私がここまで譲歩してあげてるってのに、まだ文句言うんじゃないでしょうね?」
顔の向きをこちらに戻し、そう不機嫌そうに言う。それに対し、俺は首を振って答えた。
「いや、ありがとな、遠坂。」
そう言うと、遠坂は照れたように顔を赤く染め、再び、洞窟の奥の方に顔を向けて、一言言い放った。
「別に、お礼を言われるような事は何もないわ。それよりも急ぐわよ。」
「ああ。」
そして、俺達は洞窟の深部へと走り出した。
「な、何よこれ・・・・・。」
気丈な遠坂の声が震えている。
俺が声を出せば恐らくは同じ事になるだろう。
先ほど一時的に感じた莫大な魔力、それは一瞬の爆発の後、沈静化したかに見えた。
しかし、洞窟の深部に近づくにつれ、その桁外れの魔力が狭い空間に収束されていただけだという事を知らされる。
そして、最奥にたどり着いたその時、そこにはイリヤの姿があった。
「ふふっ、来たんだお兄ちゃん、凛。」
初めて会った時のように無邪気に笑う彼女。
だが、その笑顔は、そしてそれ以上にその存在は同じであって同じでなかった。
「何・・・、何なのよ、これ!?」
遠坂が発狂したような叫びを上げる。
魔力の元は彼女と彼女の足元にある魔方陣。
その二つは別個であり、同体。8体の英雄の、しかも、その中には大英雄ヘラクレスとギルガメッシュを含むそれの魂を喰らった聖杯として存在し、さらにオルフェノク化した今の彼女はまさしく桁外れの存在としてそこにあった。
「ふふっ、お兄ちゃん知ってる? 私ね、切嗣の娘なんだよ。」
そして、イリヤは笑いながらそんな言葉を漏らした。その意外な言葉に俺は驚き声をあげた。
「親父の!?」
「そう、あなたを拾ったから私は捨てられたんだよ。」
その言葉が俺の心に突き刺さる。
彼女の表情が歪んだ笑みに彩られていたからこそなおさら。
「そんな事何でもない。そうずっと思ってた。ううん、思い込もうとしていた。でもね、そうじゃないって、あの神父が教えてくれたんだよ。それで、わたったんだ。私は私をすてた切嗣とその原因となったお兄ちゃんを恨んでるんだって。」
そう言って、イリヤは一歩前に近づく。
それだけでプレッシャーが桁外れに高まった。
「お兄ちゃん、セラとリズって知ってる? 私のメイドなんだけどねえ。あの神父に殺されちゃったんだ。」
その言葉に俺はあのイリヤの屋敷での凄惨な光景を思い出してしまう。
その俺の変化を見て取ったのかイリヤは面白そうに笑った。
「ふふっ、その表情だと“あれ”を見たんだね。あの神父はねえ、私を壊す為にあの二人をあんな凄惨な形で殺したんだよ。」
「壊す為?」
その言葉に聞きとがめたのか遠坂が口をはさむ。
イリヤが大きく頷いた。
「そう、間桐の贋作と違って完成された聖杯である私を自分の狙い通りのものにする為にはオルフェノクって化け物に私を変えるだけじゃあ足りなかったの。私の心も壊す必要があった。その為にあの二人を殺して、私を犯したんだよ。」
「!!」
その突如飛び出した言葉に俺は絶句する。
イリヤはコロコロと笑いながら続けた。
「わかる? あの神父は私を犯しながら、私を一切見てないの。ただ、心を壊す為だけに犯す。それがどれほどの屈辱かわかるかしら? 経験した事はないけど、まだ性欲目当てで犯された方がましでしょうね。」
そう言って、イリヤはその時初めて笑顔を消した。
「もう全てが嫌になったわ。あの神父は私をオルフェノクの女王にしたいと思っていたらしいけど、私はそんなものになんかなってあげない。もう全てが嫌い。全てが憎い。この力でこの世界全てを消してあげる。」
イリヤの表情に造作が浮かぶ、そして彼女が無造作に手を振ったその瞬間、ただ、それだけで一詠唱の呪文すらなく、強大な魔力が放たれた。
「ぐっ。」
「うわっ。」
その魔力に跳ね飛ばされ、俺と遠坂は後方の壁めがけて跳ね飛ばされる。
「変身(トレース・オン)!!」
俺は変身し姿を変える。
そして、身を翻し、壁に着地すると、そのまま飛び上がり、遠坂が壁に叩きつけられる直前、間に潜りこんでクッションになって、そのまま地面に二人ずり落ちた。
「ぐっ、大丈夫か遠坂。」
「ええっ、それより、前言撤回させてもらって悪いけどあれは様子を見てられるような半端な存在じゃないわ。悪いけど、彼女は殺すわ。」
「なっ!!」
俺より先に起き上がった遠坂はそのまま、俺が止めるよりも先に特大サイズの宝石持って、呪文を唱えイリヤに向かって投げ付けた。
ズガガガガガガガアアアアンン
その宝石はイリヤに直撃し、大爆発を引き起こす。
だが・・・・・・・・・・・・・
「へえー、たいしたものね、今のちょっとした宝具並の威力があったんじゃない?」
「そんな・・・・・。」
凛が呆然と呟く。爆発がおさまった後に立っていたのは銀の魔物、いや、一匹の女王蜂だった。
「ふふ、これが私のオルフェノクとしての姿よ。この姿で防御魔術を展開しなかったらいまのは流石にやばかったかもね。でも、もう種切れじゃないかしら?」
そう言って、イリヤは笑う。彼女の言葉通り、凛に残された切り札クラスの宝石は後、3個しかなく、それら全てを同時に使ったとしても、今の形見の宝石程の威力は生み出せないだろう。
「まあ、どっちにしてもこれで終わりね。さようなら。」
そう言って、手を突き出し、単語を唱え始める。
「drei(ドライ)」
“やばい”士郎と凛は同時にその魔術の強大さを感じ取った。その魔術を止めなければ死ぬ。そう理性ではわかっているというのに圧倒的存在感の前に体が動かない。
「zwei(ツヴァイ)」
更に魔力が収束する。その時、恐怖を打ち破り士郎が動いた。
「うおおおおお!!!!!」
一瞬で間合いを詰め、パンチを繰り出す。
殺さずに止めるとかそう言った思考すら麻痺してしまい、ただ、止めなければならないという脅迫観念に任せた攻撃。
だが、それは、サーヴァントとすら互角に戦った士郎の拳は、オルフェノクと化したイリヤの手によって簡単に受け止められた。
「やっぱりお兄ちゃんも私を見捨てるんだ。」
そして士郎をそのまま掴みあげ、士郎についで攻撃を仕掛けようとした凛に向かって投げ飛ばした。
「なっ・・・・。」
その行動に凛は魔術の発動をやめてしまう。
そして、次の瞬間には士郎の体が凛にぶち当たり、そのまま二人まとめて地面に倒れこんだ。
「eins(アインツ)」
3つ目の詠唱が唱えられると同時に士郎が立ち上がる。溜め込まれた魔力は既にエクスカリバーにも匹敵していた。
その攻撃を受ければ変身してようと間違いなく死ぬ。
だが、その時、士郎の耳に皮肉気な声でこんな言葉が聞こえた気がした。
『お前はそんなものか?』
そして、最後の一小節が唱えられる。だが、その言葉はある言葉に重なって聞こえなかった。その言葉とは・・・・・・・・・・
“超変身(トレース・オン)!!”
圧倒的な魔力の濁流、それに飲み込まれる士郎と凛、そして、先ほどの凛の宝石魔術によって、既にガタが来ていた洞窟は完全に倒壊した。
ただ、魔方陣のあった場所だけはその上に岩の瓦礫一つ無く、その上に、イリヤが平然と立ち、そしてもう一つ。
ガラッ
上に乗った岩を跳ね除け、凛を抱きかかえ、立ち上がる一つの影。
そのものは両手に二つの剣を携える。
一見して赤い外套をみに纏っているように見えるが、実際はその体自身に刻まれし文様。
仮面ライダーシロウという自らたどり着いた概念の上に、さらに、一人の英雄の思いを重ねて、生まれた存在。
概念武装たる外套に宿りし、その効力と英雄の技と知識を引き継ぐ事によって生まれた対魔力と技巧に特化した形態。
仮面ライダーシロウ・アーチャーフォーム
「イリヤ・・・・すまなかった。」
士郎は謝罪する。自分は一瞬であってもイリヤを殺そうとした。
そして、その時、彼女が発した言葉“やっぱりお兄ちゃんも私を見捨てるんだ”
必ずイリヤを助ける。それが万に一つの可能性であろうと、億に一つの可能性であろうと。
そう決意する。
3人の英雄、“正義の味方”を受け継ぎし者はその決意と共に双剣を静かに構えた。
(後書き)
次回最終回です(断言)しかし、最後の最後に来て話がどんどん変な方向に外れてるような(汗)正直、自分でも、もうFateでも仮面ライダーでもねえよ。っと突っ込みたくなる作品ですが、ここまできたのでできれば最後までお付き合いよろしくお願いします。
更なる変身を得て、士郎はイリヤと向き合う。
美姫 「果たして、士郎はイリヤを助ける事が出来るのかしら」
遂に最終回。
美姫 「楽しみでもあり、寂しくもあるわね」
うんうん。しかし、やはり読みたい!
美姫 「とういう訳で、次回も楽しみに待っております」
ではでは。