何故こんなことになった?

 

俺は自問自答する

 

周囲には桜花高校1年A組の男全員

 

それが皆、阿修羅のごとき表情を浮かべている

 

誰かが一言でも言葉を発すれば暴動さえ起こりそうな雰囲気すらある

 

何故こんなことになったか?

 

それは40分程前に遡る

 

 

 

 

新式日常 第5話「日常戦線、異常あり」

 

 

 

 

9月2日(木)

 

 

AM8:10

 

 

桜花高校1年A組教室

 

 

 

 

「正、おっはよー」

 

俺を見付けた鈴音が笑顔で朝の挨拶をする

 

普通ならその笑顔を見て教室の空気がなごんでも良いくらいの良い笑顔だ

 

しかし、今は違った

 

「正!?いきなり名前で!?」「昨日何があったんだ!?」「畜生、小田の奴が椿ちゃんをたぶらかしたに決まってる!」「そうだ、そうに違いない!」「小田を殺せ!」

 

やっぱそこにいくか・・・しかも巧妙に俺に罪が来るように話が移項してやがる。

 

「正、おはようは?朝の挨拶は礼儀でしょ?」

 

爆弾を朝っぱらから投げつけた本人は更に爆弾を投げつける

 

問題は爆弾を投げてる本人がそれを爆弾だと思ってないことだな・・・

 

「おはよう、椿」

 

とりあえず、無難な挨拶を返してみる

 

それを聞いた椿はムッとした表情になる

 

「椿じゃないでしょー、はいもう一度」

 

・・・・言うしかないのか、いや待て待て、言ってしまったら間違いなくとてつもなくやばいことになる

 

もう今教室内にいる人間全員が俺達に注目している

 

しばし思考

 

よし、ここは逃げ――れなかった

 

俺の沈黙で何を思ったか、椿は少し不安気な表情で俺を見ている

 

くそ、そんな表情を見せられてほっといて逃げたら最低の男じゃないか・・・・

 

昨日からこんな展開が多いな、と思わず心の中で苦笑する

 

「おはよう・・・・鈴音」

 

俺は少し恥ずかしげにしながら言った

 

女を下の名前で呼ぶのなんて初めてだからな・・・(一応例外はあるのだが)

 

それを聞いて鈴音は不安気な表情を一転させて、これ以上ない笑顔で

 

「うんっ、おはよう正っ!」

 

と言った

 

「おいおい、2回もおはようって言うなよ」

 

苦笑しながら返す

 

「良いじゃない、挨拶は何度しても良いものよ」

 

「そうゆうものか?」

 

「そうゆうものよ」

 

そう言うと鈴音はごまかすように席に座った

 

後ろを向いた鈴音の顔は見えなかったが

 

少し、頬が赤くなっていた気がした

 

 

 

・・まぁ、ここまでは良かったんだ、自分でも良かったなぁと思う。

 

問題はその後だ

 

木曜日の1時間目はまるまるホームルームなのだ

 

女子は体育館でバレーボールをすることになった

 

男子は教室で弾劾裁判をすることになった

 

誰の?

 

勿論俺

 

内容は?

 

裁判という名の精神的イジメに他ならない

 

「さて・・理由を説明してもらおうか」

 

裁判官役の男子が口を開く

 

「誤解だ」

 

無駄と知りつつも一応弁解してみる

 

「誤解も六回もあるか!一体貴様と椿ちゃんの間にたった1日で何があった!吐け!吐きやがれ!吐かないと殺す!吐いても殺すけどな!」

 

「きっと貴様が何かいかがわしいことをしたんで椿ちゃんは脅されて嫌々名前で呼んでるに違いない!」

 

「その通りだ!こいつは俺たちの椿ちゃんを汚しやがった!」

 

「鉄槌を!一心不乱の正義の鉄槌を!」

 

「「死刑!死刑!死刑!死刑!」」

 

一斉に過激な言葉を発射してくる男達、なんか話が凄い方向に転がってるし

 

「待て諸君!慌てるな!」

 

「「二郎!?」」

 

いきなりの二郎の発言で一瞬静まり返る

 

おお!こんな時は二郎が頼りに

 

「死刑にした後で逆さ貼り付けなんてどうだ?その方が面白いぞ?」

 

ならなかった!

 

「それだ!それが良い!そうしよう!」

 

「「殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!」」

 

じろおおおおおおおおおおおおおおお!油を注ぐな!やっぱりお前は友達じゃない!

 

「二郎!変なことを言うな!俺が死んでもいいのか!」

 

「その方が面白い」

 

事も無げに言いやがった

 

「判決、私刑!全軍突撃!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

その言葉を引き金に雄叫びを上げながら一斉に走りよってくる男子達

 

1対1なら絶対に負けないが、1対数十人なら成す術は無い

 

俺は男の渦に飲み込まれた・・・

 

 

 

 

 

 

9月2日(木)

 

 

PM12:30

 

 

桜花高校保健室

 

 

 

 

 

「う、痛た・・・」

 

目が覚めるとまずやってきたのは全身の痛み

 

目に入ってきたのは―

 

「椿?」

 

俺が起きたのに気付いて一瞬嬉しそうな顔をするが、すぐ不機嫌な顔になる

 

慌てて言いなおす

 

「鈴音」

 

「ん、よろしい。まったく・・何回も言い間違えないでよね」

 

「悪い悪い・・で、なんで鈴音がここにいるんだ?」

 

「なんでって・・正がホームルームでサッカーして転んで気絶したって言うからお見舞いに来てあげたんじゃない」

 

くそ・・奴等、上手く言いくるめやがったな

 

「でも、なんでサッカーで転んで全身打撲なの?」

 

実にもっともだ

 

でも、あった通りにに言うのは憚られるのでごまかしておこう

 

「男には色々と理由があるんだよ」

 

「・・・とりあえず、一緒にお昼ご飯食べない?」

 

なかったことにされた、まぁ、ごまかせたからいいか

 

「と、もう昼休みなのか」

 

結構長く気絶してたようだな

 

「ああ、食おう。鈴音、お前昼飯は?」

 

「保健室に来る前に購買部で買ってきたけど」

 

そういって鈴音は手に持ってるものを見せる

 

「うお!カツサンドにコロッケパンにジャムパンじゃないか!」

 

「・・そんなにびっくりすることなの?」

 

「当たり前だ、その3つは購買部三種の神器と言われて、ほとんど入手できないんだぞ。しかし、どうやって手にいれたんだ?転校して間もないお前が購買部の猛者に叶うはずが・・」

 

「なんか購買部に行ったら私の前から人がいなくなってすぐ買えたよ」

 

こんなとこでも知名度ゆえの特権があるのか・・・

 

正直うらやましいぜ

 

「まぁ、それはどうでもいいじゃない。正のお昼ご飯は?」

 

「ああ、俺は弁当なんだ。教室に行って取ってくるから、先に屋上で待っ・・って待て、なんで俺はお前と一緒に昼飯を食うことになってるんだ」

 

あまりにも自然に話が進んだんで何も疑問を感じなかったぞ

 

「友達なんだから当然じゃない。じゃ、先に屋上行くね」

 

「あ、おい」

 

鈴音は俺の制止を聞かずに出て行ってしまった

 

・・・・仕方ない、こうなっては約束通り屋上に行くしかない

 

俺は弁当を取りに行くべく教室に向かった

 

 

 

 

9月2日(木)

 

 

PM12:40

 

 

桜花高校屋上

 

 

 

 

「なんだ、まだ食べてなかったのか?」

 

弁当を持って屋上に行くと、まだ鈴音はパンに手を付けてなかった

 

「ご飯は1人で食べてもおいしくないでしょう?」

 

「もっともだ」

 

返事をしながら鈴音の横に座る

 

弁当の蓋を開ける、普通ならここで「今日のメニューは何かな?」的なハラハラ感があるが、今日は自分で作った奴なのでメニューは解っている

 

「なかなか美味しそうじゃない」

 

弁当を見ながら鈴音が言う

 

「今日は自分で作ったやつだから味気ないけどな、妹と母さんの三交代で作ってるんだ」

 

「・・・あれ?正のママって昨日4年前に死んだとか言って・・・」

 

「親父が3年前に再婚したんだ」

 

「へぇー、良かったね」

 

鈴音はまるで自分のことであるかのように嬉しそうに笑いながら言う

 

変な奴だな・・・

 

「・・・・正って料理できるの?」

 

「一応趣味が料理だしな、家事とかも一通りできる」

 

「正の趣味が料理かぁ・・・似合ってないなぁ」

 

「ほっとけ」

 

自分でもそう思うし

 

「それもーらいっ!」

 

「ああっ!」

 

玉子焼きを奪われた!

 

「こらっ!返しやがれ!」

 

鈴音はそれに答えず微笑みながら玉子焼きを頬張った

 

「うあああ・・・・」

 

何気に玉子焼きが大好物なのに・・・

 

「もがっ!?」

 

椿が何故か珍妙な声をあげる

 

どうせ「まずいっ!」とかぬかすんだろう・・・

 

「なにこれっ!美味しすぎ!」

 

「あん?」

 

それを聴きまだ残ってる自分の玉子焼きを食べてみる

 

・・・うまいが、いつもと変わらない普通の味だ

 

「別に俺がいつも食ってるのと変わらんが・・・・」

 

「いやいや!こんな美味しいの初めて食べたよー!」

 

ちょっとリアクションが過激に過ぎるな

 

まぁ、褒められて嬉しくないわけがないんだが

 

「もう1つ・・・ダメ?」

 

鈴音が本当にもの欲しそうな顔で尋ねてくる

 

「駄目だっ!」

 

「え〜いいじゃない、もう1つくらいくれても〜」

 

「ガキかお前は!」

 

「もう1つ〜」

 

鈴音が制服の袖をつかみながら上目遣いで笑みを浮かべながら言ってくる

 

くそっ!その顔でその仕草は反則だぁぁぁぁぁ!

 

待て俺!理性を踏み外すな!ここで更に与えてしまったらこいつはもう1つもう1つと言いつつ俺の弁当を食いつくすに違いない

 

そうなると俺は昼以降に飢え死に確定だ!

 

何か他の案を・・・・・・む?

 

ふと、視界に入った生徒がこっちを見ている・・・いや待て・・・屋上全体の生徒が俺達に注目している!?

 

俺と鈴音がやっていた行動を振り返ってみる

 

・・・・やってることは恋人・・いや、バカップルそのものじゃないか!

 

「おい鈴音」

 

「何?くれるの?」

 

まだおねだりの体制を崩していなかった鈴音に勤めて冷静に言う

 

「周り、見てみろ」

 

「周り?」

 

周りをぐるっと見る鈴音

 

更に自分のしていた行動を分析

 

「・・・・ああああ!!」

 

やっと自分のやってたことに気付いたらしい

 

鈴音はゆでだこのように顔を赤くしている

 

「・・・早く食って出ようぜ」

 

「う、うん・・・」

 

俺と鈴音は速攻で食事を片付けそそくさと屋上を後にした・・・

 

 

 

 

「あー、恥ずかしい、なんであんなこと人前でしちゃってたんだろう」

 

廊下を歩きながら考えるように鈴音が言う

 

「あんなことって・・・分かっててしてたんじゃないのか?」

 

「いくらなんでもあんなことはそうそう人前じゃしないよー・・・」

 

少し語尾を途切らせながら鈴音が考えながら言う

 

「そうか、玉子焼きだ」

 

確信を持った声で言う

 

「はあ?」

 

「あんまりにもあの玉子焼きが美味しかったんで理性が飛んじゃったんだー!」

 

「・・そりゃどうも」

 

ちょっと呆れながら礼

 

「どうもじゃないよ、どうしてくれるのよ〜、正の玉子焼きのせいで恥ずかしいとこ公開しちゃったじゃない」

 

「って言われてもなぁ、暴走したのはお前だし」

 

結構呆れ口調で言ってやった

 

「とりあえず責任とってよ」

 

「責任?」

 

「私の分のお弁当、作ってきて」

 

なんでそうなるんだ・・・何がどうなったら頭からそうゆう回答が出てくるのか理解しかねる

 

俺のときになら作るのなら1つくらい増やすのはどうにでもなるが・・・まぁいいか

 

断ったらなんか延々と言われそうだし

 

こっそり渡せば男達にもマークされんだろ

 

「別に良いけど」

 

「本当?」

 

目を輝かせながら鈴音が言ってくる

 

「ああ、1つくらい増やすのなら簡単だし、それくらいで良いならなんとかしてやるよ」

 

「やったー!」

 

子供のように喜ぶ鈴音

 

お前、どうでも良いがまた衆人の注目集めてるぞ

 

どうでも良いから言わないけど

 

「言っとくが、俺の弁当当番まで結構間があるから1週間くらい先になるぞ、それでもいいか?」

 

「うんうん、それくらいなら我慢するよ」

 

ニコニコしながら鈴音が言う

 

まぁ、こんだけ喜んでくれるなら作り甲斐もあるか

 

「あ、ちょっと私寄るところあるから、じゃね」

 

「ああ」

 

鈴音は鼻歌を歌いながらスキップせんばかりに去っていった

 

・・・教室に戻るか

 

 

 

 

 

「さて小田くん、どうしてここに立っているかお解りですね?」

 

「いや、わからないんだけど・・・」

 

俺はまた弾劾裁判を受けていた

 

教室に戻ると後ろから縛り上げられ、法廷に立たされたのだ

 

「シラを切るかこの野郎っ!貴様が椿ちゃんと屋上で楽しそうにお喋りしながら昼飯を食っていたというネタは上がってるんだよ!」

 

まぁ、そう見えなくもないか

 

「更に、更に、お前は椿ちゃんにゆ、指で玉子焼きをつまんでそのまま椿ちゃんに食わせていたそうじゃないか!?」

 

何か違うような?

 

「許せん!椿ちゃんの口に貴様の汚い指でそのまま食わせるとは!」

 

すり変わってるし!しかも涙を流しながら言うな!

 

「ここにいる二郎からの情報でお前の悪行は全てわかっているんだ!」

 

またお前か二郎!怨むぞ!

 

「いや待て、それは誤解で本当は・・・」

 

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇ!」

 

「誤解も六回もあるか!一体貴様と椿ちゃんの間に何があった!吐け!吐きやがれ!吐かないと殺す!吐いても殺すけどな!」

 

「きっと貴様が何かいかがわしいことをしたんで椿ちゃんは脅されて嫌々食べたに違いない!」

 

「その通りだ!こいつは俺たちの椿ちゃんを汚しやがった!」

 

「鉄槌を!一心不乱の正義の鉄槌を!」

 

「「死刑!死刑!死刑!死刑!」」

 

「「殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!」」

 

 

結局この後またボコボコにされ、昼以降の授業も欠席するハメになった

     

      


あとがき

 

またしても意味不明になってしまいました

 

きりしまです、ここまで読んでくださった方、ありがとうございます

 

また機会があれば次のもお読みください

    

   


正…、可哀相に。
美姫 「でも、鈴音ちゃんと仲良くなってる訳だし」
世の中とは、幸福と不幸のバランスが同じだというからな。
これでバランスが保っているという訳か。
美姫 「まあ、それが正しいのかどうかは別としてね」
さて、次話を読むか。
美姫 「そうね。それじゃあ、また後でね」





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