心臓が激しく波打つ
必死に走ったせいだけではない
『・・・・お二人さん、デート?』
さっきの言葉が頭で反響する
いつの間にか、私は彼といると気持ちが落ち着くようになった
いつの間にか、私は彼の笑顔を見ると幸せな気分になるようになった
だから私はその言葉を否定した
何故かそれを認めてしまうと、今の関係がなくなってしまうように思えたから
別に認めてしまったら今の関係がなくなるという根拠はなかった
根拠はないけど、不安だった
根拠がないからこそ、ひどく不安だった
私は、私のこの気持ちの意味を知りたかった
新式日常 第8話「不安要素」
9月19日(日)
AM 11:30
通学路
遅い・・・
いや、正しくは遅くはない
俺が30分も早く来て勝手に焦れてるだけなんだが
丁度に着くように行くつもりだったのだが、何故か落ち着かなくて早めに家を出てきてしまった
手に弁当の包み(しかもお重)とでかい水筒を持ち、回りを見ながらイライラしている高校生くらいの男
・・・奇妙な姿だ
ちょっと落ち込む
「正――!」
お、やっときたか
「ごめんごめん、もう来てるとは思ってなかったからゆっくり来ちゃった」
「別に待ってないからいい・・・・ッ!」
「ん、どうかした?」
こ、こいつ・・・・
普通(いくらまだ暑いとは言え)白いワンピースなんて着てくるかっ!?
狙ってやってるのか!
・・・鈴音に限ってそれは有り得ないとは解ってるが、作為的なものすら感じる
「・・・・いや、腹減ったから早く行こうぜ」
とりあえず、黙るのはまずいのでごまかした
「はいはい、こっちこっち」
鈴音が前に行ったので後ろに付いていった
助かった、あれは余りにも正面から見るのは(可愛すぎて)辛い
「はい、ここだよ」
鈴音に連れられて着いた公園は近所でも結構有名な公園だった
結構大きい公園なので、休日には家族連れ等も多く来る中々良いところだ
「さて、時間的には丁度昼飯時だけどどうする?先に食うか?」
「先に食べる!」
即答
俺は苦笑しつつ
「ならどっか座れる所探そう」
と答えた
「ここで良いか」
そこはちょっと丘になっている所の上の芝生
普通なら芝生は入ってはいけないことになってることが多いが、ここの公園では踏み荒らしでもしない限り入っても良いことになっている
「芝生なんて入って良いの?」
「ああ、ここは大丈夫なんだ。ほら、そっち持て」
俺はレジャーシートを広げながら応じる
「お、準備良いね」
「任せろ」
一応用意しといて良かった
「じゃ、いただきまーす」
「はいよ」
鈴音が手を合わせながら嬉しそうに言う
それから鈴音は一言も喋らずに一心不乱に食べた
顔は見てるこっちも嬉しくなるような笑顔だったけど
「っ!〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「ほら、お茶」
喉に詰まらせたようだ
鈴音は俺が渡したお茶を一息に飲み
「ぷは〜!苦しかったー」
「急いで食いすぎるからだ」
俺がたしなめると
「だって、正のお弁当美味しすぎるんだもの」
と、すねるように言った
くそ、何気に可愛いぞ
・・・いかんいかん、何か思考が奇妙になってる
「ふー、ごちそうさまー。もうお腹一杯ー」
幸せそうな表情で言いながら鈴音がシートに横たわる
「あー、俺も腹一杯だ」
俺もシートに横たわる
2人分としては充分すぎるほど作ったはずなんだが、全てなくなってしまったな・・・
寝っ転がってると風が吹いて気持ち良かった
・・・今日の朝は早く起きて弁当を作ったから眠くなってきたな
「正ー?」
鈴音もどこか眠そうな声で話しかけてくる
「何だ?」
「こんな日も、良いと思わない?」
何が良いと尋ねてるのかは解らなかった
でも
「ああ、こんな日も、良いよな・・・・」
と、答えた
それから、すぐに意識は眠りの底へ沈んで行った・・・・
「や、おはよ」
「鈴音・・・・?」
目を開けると俺の顔をのぞきこんでた鈴音が居た
「俺は・・寝てたのか」
「うん、私も寝てたけど、今起きた所。それよりも」
「?」
「正の寝顔、可愛かったよー」
悪戯を成功させた子供みたいに鈴音が笑う
「〜〜〜〜〜ッ!」
何故かとてつもなく恥ずかしかった
顔から火が出るかと思ったくらいだ
「男に可愛いなんて言うなっ!まったく・・・もう4時回ってるし、帰るぞ」
俺は早口でそう言ってレジャーシートを畳みにかかる
「別に寝顔を見ただけなんだから照れなくたっていいじゃない」
男はそうは行かないんだよ、畜生め
「お、そこを歩くのは正・・・に椿ちゃん?」
公園を出て10分くらい歩くと声をかけられた
「二郎?」
「野口くん?」
俺と鈴音の問に二郎は答えず、ニヤニヤしながら
「・・・・お二人さん、デート?」
と言った
形式的にはそうかもしれんが、公園に行って弁当を食って、それから2人して寝てたのをデートというのだろうか?
だが、これをデートと意識してない(ただのピクニック程度と思っていたのだろう)片割れは激しく反論した
「ち、違うよ!デートなんかじゃないよ!」
見て解るほど鈴音が顔を真っ赤にして言う
「・・・そうか、そりゃ残念。日頃の二人は良い雰囲気だったからデートしても不思議じゃないと思ってたんだが」
ニヤニヤした笑みを崩さずに二郎が言う
「「なっ!?」」
意図せず鈴音と声が合わさる
「だって、1週間くらい椿ちゃんに正が弁当作ってあげてたんだろう?二人が付き合ってるくらいは思って当然と・・」
「ち、違うったら!私と正はなんでもないのっ!」
そこまでムキになって否定されるのも悲しいものが・・・
「正!私もう今日はここで良いから!じゃあね!」
「え、おい!」
そう言うや否や、鈴音は走って行ってしまった
「二郎〜・・・」
原因の元に怒りの声をぶつけてみる
だが、二郎は平然とそして笑顔で答える
「良かったな正、脈有りだぞ」
「何がだよ!」
「そうか、お前はそうゆう方面には昔からとんと疎かったな・・・」
呆れるように二郎が言う
「詳しく説明しろ、よくわからん」
有無を言わさぬ殺気を込めた声で尋ねる
しかし、二郎は意にも介さない
「おっと怖い怖い、まぁ、とりあえず今は言えないが、頑張れよ」
「待ちやがれ!」
二郎は服を掴もうとした俺の手を避けてさっさと逃げて行ってしまった
「まったく、一体なんなんだよ・・・」
俺と鈴音が何なのかわからないけど
どちらも何かが変わって行ってる
それは、解った
あとがき
新式日常の第8話をお届けしました、きりしまでございます
読まれてる方は少ないと思いますが、ここまで読んでくださってありがとうございます
えー・・、今回も実に意味不明な内容に・・・(汗
まだ少し続きますので良ければお付き合いください
では、また次のお話で
うーん、ほのぼのだね〜。
美姫 「二人の反応が初々しいわね」
甘酸っぱい思い出か…。
美姫 「何をしみじみと言ってるかな」
いや、何となく。別に意味は全くないんだがな!(えっへん)
美姫 「いや、威張る事じゃないって」
さて、どうやらお互いに意識はしているけど、それが何なのかは分かっていないみたいだね。
美姫 「益々もって、面白い展開ね」
うん。次回も楽しみにしておりまする。
美姫 「じゃ〜ね〜」