今日は文化祭
そして、私と正は実行委員なので、大量にやらなければならないことがある
しかし―
「ちょっと正。しっかりしてよ・・・」
「ぐー・・・」
相方は寝ていた
どうやらクラスの文化祭の作業が結構あったので徹夜になったらしい
「今日の仕事は午前中だけだからそれ終わったら寝ても良いから、頑張って」
「おー・・・くぅ、眠い、眠すぎる・・・」
「まったく・・・」
大丈夫かな?これで
新式日常 第12話「暴走転じて福と成す」
まずは委員全員でミーティング、そして校内の見回り、清掃、他クラスの行動の確認、更に委員会に報告・・・
さして広くもない高校なのに、やはり1年に1度の文化祭だけあって呆れるほどやることが多かった
私は文化祭にまともに参加できたのは初めてだからかなり珍しいし、楽しい
色々やることが重なってる上に、手馴れてない(それに正の動きが寝不足で鈍い)ので実行委員関係のことが終わったのは12時半くらいになってしまった
「さて、やっと終わったけど・・・正はどうするの?もう寝る?」
どこで寝るのかは知らないけど
「・・・とりあえず、メシ食うか、腹減って寝るどころじゃない」
「そうだね・・でも、丁度お昼時だから食堂は混んでるかも」
「せっかくの文化祭だから食い物関係のとこ冷やかしてくる、旨いのもあるだろうしな。鈴音はこれからどうする?」
「うーん、友達も特に見掛けないし、1人で適当に見て回ろうと思ってるけど」
「なんなら、一緒に・・・・見て回るか?」
一瞬、どくん、と心臓が胸打つ
「・・・良いの?」
正から誘ってもらえるなんて思いもしなかったから
「ああ」
「でも、眠くないの?大丈夫?」
「少しなら・・・平気だ」
「わかった。じゃあ行こっか、お腹空いちゃった」
「よし、行こう」
私と正は連れ立って歩き出した
「まずはフランクフルト、たこ焼き、お好み焼き・・と、この辺は常識だな」
「よく分からないけど・・・そうなの?」
「祭りでは三種の神器と相場が決まっているくらいだ」
「ふーん、ちょっとどこかに座って落ち着いて食べない?丁度あそこにベンチがあるよ」
「んじゃそうするか」
一緒にベンチに座って私と正は戦利品を食べ始めた
「ふむ、なかなか旨いな」
「うーん、今ひとつってとこじゃない?美味しいというほどじゃないと思うけど」
「分かってないな、祭りの食物とは同時に祭りの雰囲気も一緒に食うんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・」
「変な奴を見る目で見るな、これは常識だぞ」
「そんな変な奴になりたくないわよ、私は正のお弁当の方が好きだなぁ」
ポツリ、と漏らす
「・・・そんなに好きならまた作ってやろうか?」
「・・・本当に?」
「ああ、その、お前になら・・・作ってやっても良い」
正が少し顔を赤くしながら言う
私は嬉しかった、2つの意味で嬉しかった
あんなに美味しいお弁当をまた食べれるということ
まだ、つながっているということ
「約束、だよ」
私は微笑んで言い返す
「ああ、約束、だ」
正も笑顔で返した
「ダメだ・・・もう流石に眠くなってきた・・ちょっと一眠りする・・・」
お昼ご飯も食べ終わり、少し校内を見て歩いた後、正が本当に眠そう言った
「眠いのは見ててわかるけど、どこで寝るの?寝れるような場所なんて・・・」
「屋上が空いてる」
「屋上?あそこは文化祭中は立入禁止になってるんじゃ・・・」
「立入禁止だからこそゆっくり眠れる・・・と、と」
「ちょっと・・・大丈夫?ふらふらしてるけど」
「自信なくなってきた・・・鈴音悪いけどちょっと後ろから支えてくれないか?下手したら階段から落ちるかもしれん」
「まったく・・・そんな言い方されたら断れないよ。貸し、1つね」
「利子付けて返す」
私と正はそんなやり取りをしながら屋上への階段を上っていく
立入禁止と書かれた帯を潜り抜け、屋上への扉を開ける
「ほら、正。着いたよ」
「うー・・・眠い・・・・」
「もうベンチはすぐそこだから」
「ああ・・・ありがとう・・・」
そう言いながら正はベンチに座るや否や、すぐ夢の世界に落ちて行ってしまった
なんとなく私もその隣に座り、正の寝顔を眺める
気持ちよさそうな寝顔
夢でも見てるのかな?
もしかしたら私の夢を・・・って何考えてるかな・・・
自分で考えておきながら慌ててその妄想を打ち切ろうとする
その時、私のひざにぽすっと何かがのった
私は疑問に思ってそれを確認する
それは・・・正の頭だった
どうやら、寝て力が抜けた正の体が傾いて、正の頭が私のひざにのったらしい
世間一般に言う、ひざまくらの状態
私は一瞬混乱状態に陥った
起こして注意を・・・何の注意を?いや、失礼に値す・・・いや、そんなことじゃなくて・・・・
「ううん・・・・」
「!」
・・・・そうだよね、うん、下手に動いたら気持ちよく寝てる正を起こしちゃうからこのままでいいかな・・・良いよね?
私は無理矢理自分を納得させ、疑問を封じ込め、ひざまくらを継続した
改めて正の寝顔を眺める
ひざにのっている正の頭の重みが気持ち良い
とくん、とくんと、正の心臓の鼓動の振動が少しだけ、本当に少しだけ私に伝わってきて
本当に、幸せな感じがした
私が好きな人
私が初めて愛した人
その人が今とてつもなく近くにいる
この時間が止まってしまえば良いのに、と私は思った
同時に、何て陳腐な表現、と思った
時間が止まってしまえば良いのに、だなんて
でも、本当に、そう思った
どれくらいそうしていたのだろう?
私と正以外誰もいない屋上に夕陽が射してくる
この幸せな時間が終わってしまうのかと思うと残念だった
まだ、何かやり残してることはないだろうか
私は今までもずっと眺めていた正の寝顔をもう一度眺める
同時に、心臓に痛いほどの鼓動が走った
正にキスをしたいという考えが頭を走った
なんでそんな考えが起きたのかはわからない
でも、そう考えたらどうにも止まらなくなっていた
私の頭の中でありとあらゆる計算が行われる
キスして起きたりしないかな?熟睡してるから大丈夫なはず、でももうかなり寝たからもうすぐ起きるかも、なら尚更今すぐ行動を・・・
頭の中をぐるぐる考えが回る
考えながらも、自分の顔を正の顔に近付ける
心臓が痛い、鼓動がうるさい、静かに、静かに、静かに、この鼓動の音で正が起きたりしませんように
正の顔が目の前に迫る
もうここまで来たのだ、行ってしまえ―
そんな言葉と共に私は正にキスをした
目を閉じる
唇に感触
息遣いが聞こえる
まだ心臓がうるさく動いている
でも、さっきと違って、どこか心地よく感じた
また息遣いが聞こえる、正の体温を感じる
何もかもが幸せ、だった
永遠に等しい一瞬、一瞬に思える永遠
私は、正にファーストキスを奉げた
それでも、少し惜しみながらも私は唇を離した
同時に湧き上がってくるのは悲しみと喜び
卑怯なことをして、正にキスをしてしまった、という自分に対する責め
しかし、正にキスができて嬉しい、という喜び
だって、だってしょうがないじゃないか、いや、だって等と言う言葉は通用しないのは判っている、判っているけど―
好きになっちゃったらどうにもならないじゃないか
後頭部に柔らかい感触
目を開ける
目の前にあったのは・・・・鈴音の泣きそうなまでに歪んだ顔
あの時、もう二度と見たくない、させたくないと思ったあの顔
何故だ?何故また?
俺が何か―したのだろうか?
そこまで考えてふと気付く
何故、鈴音の顔が目の前にあるんだ?
俺は寝ている・・・そして鈴音の体の線を辿っていくに、現在の状況は・・・膝枕?
「とぉっ!?」
「きゃっ!?」
俺が慌てて体を起こすと鈴音も吃驚した声を出した
「正・・・・」
そこまで言って、鈴音は涙を流した
「なんで泣いてるんだよ・・・・」
「何でもない、何でもないから・・・・」
「馬鹿、そんなに悲しそうな顔をして涙を流してるのに何でもないなんてことがあるもんか。俺がまた・・・何かしたのか?」
「違う、違うの、みんな、みんなみんな私がいけないの」
「わけがわからん、一体何がいけないんだよ。お前が一体なんでそんなに悲しまないと駄目なんだよ」
「もう、もういいじゃない!放っといてよ!私が!私がいけないんだから!」
「嫌だね、断る」
俺は鈴音の顔を真っ直ぐ見据えて言う
「放っといてたら!」
鈴音が走って屋上から出て行こうとする
腕をなんとか捕まえる
「放っとけるか!」
鈴音の腕を掴みながらとにらみ合う
離せない
ここはどうあっても離せない
もし、離してしまったら
もう戻れない気がする
「なんでよ、正は私のことなんか何とも思ってないんでしょ?なら放っといてくれたっていいじゃない!」
「俺がお前のことを何とも思ってないなんてあるもんか!」
精一杯怒鳴り返す
こうゆう場合は何と言ったら良いんだ?
そうか、簡単じゃないか
「俺は」
背筋を伸ばせ、顎を引け、前を見ろ、臆するな、自分を信じろ
目を見ろ
叫べ!
「鈴音が好きだから放っとくなんてことはしない!」
その言葉と共に張り詰めていた鈴音の表情が呆然とした表情に変わる
「今、今なんて・・・」
「もう一度言う」
俺は更に言う
「俺は、お前が好きだ。だからお前を放っとくなどということは有り得ない」
鈴音は呆然として俺を見つめている
「鈴音は俺のことをどう思っている?」
呆然としている所に尋ねる
「ばかぁ・・・っ!」
「・・誰が馬鹿だよ」
俺の言うことに耳を貸さずに言葉を続ける
「・・そんなの、そんなの好きに決まってるじゃない・・・っ!」
そう言って、鈴音が体当たりするように抱きついてくる
「ばかっ、ばかっ、ばかぁ・・・っ!」
俺も鈴音を抱き返す
「何で、何で早く言ってくれなかったのよぉ・・・っ!本当に、本当に苦しかったんだから・・・・っ!」
「ごめん・・・ごめんな・・・」
嗚咽混じりに鈴音が俺を抱きしめながら言う
俺は密かに
もう二度とこいつを泣かせたりしない、と心の中で誓った
「・・・落ち着いたか?」
「・・うん、ごめんね。急に泣き付いちゃったりして」
「いいさ」
鈴音が俺から離れながら言う
「ところで」
「ん?」
「さっきの・・・もう一度言ってくれない?」
「さっきのって?」
「「俺はお前のことが好きだからー!」って」
「・・・・・・・!!!」
顔が熱くなる、今思い出すととてつもなく恥ずかしい
「馬鹿、調子に乗るなよ、あんなもん何度も言えるか!」
「えー、もう一度言ってよー」
「だー!うっとおしー!」
もういつもの二人に戻っていた
まぁ、こんなもんだろう
「ねぇ?」
「あん?」
「もう一度、ちゃんと言わない?」
真剣な表情で鈴音が言う
「告白をか?」
「うん」
「わかった」
少し離れて、お互いに向かい合う
「俺は」
「私は」
互いの距離を縮める
「「あなたのことが好きです、付き合ってください」」
互いにそう言って、互いに顔を見合わせて、互いにニヤリとする
「「はい、喜んで」」
そのまま距離を縮め、俺と鈴音はキスをした
沈み行く夕陽を背景に、出会ったときの夕陽がそうであったように
この日、小田正と椿鈴音は
彼氏と彼女になった
あとがき
ついにここまでやりました
きりしまでございます、今回はいかがでしたでしょうか?ここまで来ると言うことも少なくなりました。
お読み下さるか方は少ないと思いますが、できれば最後までお付き合い願いますようお願いします
では、また次の話で
甘々〜。
美姫 「良いわね〜、こういうの」
甘く切ない物語〜。
美姫 「晴れて恋人となった二人はどうなるのか」
次回〜、次回〜が楽しみ〜。
美姫 「次回を待ってますね〜」