『白薔薇と黒剣士』
第五話「誕生日」
「ふう、ヒマだな。」
転校そうそう終業式で、いきなり冬休みに突入してしまった恭也は暇を持て余していた。
(さっきから妙に視線を感じるな。どこか服装がおかしいのだろうか?)
夕飯の買い物に出ていた恭也はそんなことを考えながら自分の服装を確かめていた。
恭也の服装は、いつもの黒ずくめの格好に黒のコートを羽織っていて、おかしいのではなく逆に似合いすぎているせいで視線を集めている。
だが、やはりその事に全く気付かない恭也は再び歩き始めた。
「あ〜楽しかったし美味しかったし、久しぶりに自分の誕生日が楽しめたわ。」
「それはよかったわ、でもアナタはいつもどおり終始祐巳ちゃんに抱きついて祥子を挑発してただけだけどね。」
令の家の道場で聖の誕生日会をした帰り、聖と蓉子は二人で歩きながら、さっきまで行われていたパーティーの事を思い出していた。
「今日はありがとね、蓉子。」
「あら、どうしたの?アナタがいきなりお礼を言うなんて。」
「何かいろいろ心配掛けちゃったみたいだからさ。今日の誕生日会開いたのもそれででしょう?」
「それもあるけど、アナタ自分の誕生日忘れてるから思い出させるという目的もあったのよ。
でも、一昨日学校で会った時に比べると、今は全然大丈夫みたいね。恭也さんのおかげかしら?」
蓉子の言葉を聞いて驚いたような表情を浮べる聖。
「はあ、やっぱ蓉子に隠し事はできないな〜。本当のこと言うと最近結構きつかったのよね。で、一昨日帰る時にしつこいナンパどもが来てさ、
かなり苛々してたから喧嘩ごしになっちゃってさ、殴られるかと思って覚悟した時、恭也くんが助けてくれたんだ〜。」
「お約束の展開ね。」
「そうなのよ。んで、ナンパ野郎五人あっという間にやっつけちゃってさ〜。その後、心配そうな顔で私に怪我が無いか聞いてきて、
大丈夫だって分かった時のあの笑顔がさ〜、年甲斐も無くときめいちゃってさ。それから今日までの間恭也くんの事ばっかり考えちゃって他の事考えられないんだわ。」
苦笑しながら答える聖を蓉子は驚きの目で見ていた。軽い冗談のつもりで言った言葉に対してもっとも意外な答えをしてくれたからである。
「好きなの?彼が。」
「う〜ん、どうなんだろ?栞の時とは又少し違った感じなんだ。でも多分好きとまでは行かないでも好意のようなものはあると思う。」
そんな聖の様子を苦笑しながら見ていた蓉子は、
「聖、アナタ今テレビや小説などで聞く、”恋する乙女”のようなかんじよ。」
「あ〜、馬鹿にしてるな〜。」
「違うわよ、嬉しいのよ。聖にそんな相手が現れてくれて。」
「やっぱ話すんじゃなかった。」
少々顔を紅らめながら聖はそう呟いた。それからしばらく歩いていて、前方にスーパーの袋をさげた恭也を発見した聖は満面の笑顔でその背後に近よっていった。
「恭也くん、だ〜れだ♪」
服装に気を取られていた恭也は背後から迫ってきた相手に気が付かなかった。
「その声は佐藤さんですか?」
「当ったり〜!こんなとこで何してんの恭也くん、ひょっとして彼女とデートの待ち合わせとか?」
聖は後ろから恭也に抱きついたまま何気なくそう尋ねた。
「俺には彼女なんていませんよ。それと、できればそろそろ離れていただけないでしょうか。」
「ふふふ、ど〜してかな〜?」
背中に当たる感触に顔を真っ赤にしながら答える恭也。それに対して聖は理由が分かっているのに離れようとせず、さらに強く抱きついてきた。
「聖、そのくらいにしておきなさい。恭也さんが困っていらっしゃるわよ。」
「う〜ん、恭也くんの背中抱きついてると気持ちいいんだけどな〜。」
そう言いながら残念そうに恭也の背中から離れた聖。
「それからさ恭也くん、私たちのこと名前で呼んでよ。私たちも恭也くんのこと名前で呼んでるんだし、苗字だと何か堅苦しいしね。」
「しかし、いきなり女性を名前で呼ぶというのは。」
「嫌?」
下から覗き込むように上目使いで恭也を見る聖。とことん女性に弱い恭也は諦めて名前で呼ぶことにした。
「では、聖さんで。」
「別に恭也くんになら呼び捨てにされてもいいんだけどな〜。」
「さ、さすがにそれは。」
笑いながら言う聖に困った表情をしている恭也、その後ろから聖を追ってきた蓉子がやってきた。
「水野さん、こんにちわ。二人でどこかお出かけですか?」
「私のことも名前で呼んでくれてかまわないわ、実は今、令の家で聖の誕生日会をやっていたのよ。」
「聖さん今日が誕生日なんですか?」
「うん、自分でも忘れてたんだけどね。」
「・・・・・。」
それを聞きしばらく何か考えている様子の恭也。
「少し待っていてもらえますか?」
そう言って恭也は目の前にある露店へと歩いていった。
二人が?という表情をしていると店員と話しながら何かを購入した恭也は二人の所に戻ってきた。
「お待たせしました。」
そう言って恭也は先ほど購入した小さな箱を聖に差し出した。
「えっ、私に!?」
驚きながら訊ねる聖に無言で頷きながら箱を渡す恭也。
聖が受け取った箱をゆっくり開いてみると、中にはシンプルなデザインのシルバーリングがあった。
「あっ、あの、恭也くん?これは、あの、どういう、あれ?」
いきなり渡されたプレゼントの中身が指輪だったという事実に、聖は混乱しながらそう訊ねた。
「誕生日プレゼントです。あそこの店にあった中でそれが一番聖さんに似合っていると思ったので。迷惑でなければ受け取ってください。」
「いや、迷惑だなんてことは全然ないよ。むしろ嬉しいし。」
顔を紅くしながら答える聖に続いて蓉子が訊ねた。
「恭也さん、この指輪に関しては何か深い意味はあるんですか?」
「ちょっ、ちょっと蓉子!?」
「深い意味?誕生日に指輪を贈るというのは何か問題があるんですか?」
(いや、まあそうじゃないかとは思ってたんだけど。恭也くんだからね〜、深い意味なんてないんだろう。・・・・ちょっと期待しちゃったけど。)
(やっぱり恭也さん分かってなかったか。まあこんな事を無意識でやっちゃうのが恭也さんの良い所でもあり欠点でもあるのよね。)
恭也の答えに対してそんなことを考えていた二人。そして例のごとく恭也は一人分からず悩んでいた。
「それでは、俺はこれで失礼します。」
「うん、また今度ね。」
そう言い歩き出す恭也。しかし、ふと立ち止まり振り返った。
「ハッピーバースデー聖さん。」
微笑みながらそう言い去っていく恭也。
「ねえ、蓉子。」
「何?聖。」
「好きになっちゃったかもしんない。」
「え?」
「栞のときはさ、相手がマリア様で私に勝ち目なんか無いんだって思ったけど。彼は渡せない。たとえ相手が誰であっても渡したくない。
その相手がマリア様でもね、彼は譲れない。」
そう言いきった聖の横顔を蓉子は微笑みながら見ていた。
「う〜む、あの店の店員女性へのプレゼントには指輪が一番だと言っていたんだがな。」
恭也はその晩眠ることなく悩み続けていた(笑)
キレンジャーさん、投稿ありがと〜〜。
美姫 「徐々に惹かれていく聖」
どうやら今回で、彼女は完全に恭也を好きになったみたいだね。
美姫 「この後、聖がどんな行動を起こすのかとっても楽しみだわ」
うぅ〜。早く続きが読みたいよ〜。
美姫 「キレンジャーさん、頑張って下さいね〜」
ではでは。