『白薔薇と黒剣士』




  
  第六話「ライバル出現!」









  (何故俺は今此処にいるんだろう。)

  一月二日。高町恭也は今、

  「どうしたの?恭也くん。ひょっとして私の運転荒い?」

  車に乗っていた。

  「いえ、そうではなくて、この車は今何処に向かってるんですか?」

  「合宿所!」

  笑顔で答えながら聖は運転を続けていた。

  何故このような状況になっているのか。思い起こす事数分前、









  
  祐巳を乗せて車を走らせていた聖は見覚えのある後姿に車を止めた。

  「恭也くんじゃない、何してんの?こんなとこで。」

  「聖さん、それに祐巳さんも。あけましておめでとうございます。」

  「あ、あけましておめでとうございます。」

  「おめでとー♪」

  お互い挨拶を終えたところで聖が恭也が持っているスポーツバッグに目を向ける。

  その視線に気付いた恭也は、

  「あ、これですか?実は大晦日と元旦だけは家に帰ることを許されたんで、たった今こちらに戻ってきたんですよ。

   それでこちらに越して来るとき必要最低限の物しか持って来れなかったんで衣類などの替えを持ってきたんです。」

  それを聞き怪しげな笑みを浮べる聖。

  「じゃあそのままお泊りできちゃいそうだね。」

  「そうですね。着替え二、三日分にある程度の生活用品は入ってますからね。」

  そう答える恭也を、いつの間にか車から降りていた聖が車の中に連れ込んだ。

  「あの聖さん?これはいったい?」

  「いいから、いいから。それじゃあ出発〜♪」

  そう言いながら聖は車を発進させた。

  「白薔薇さま。傍から見たらどう見ても白薔薇さまが恭也さんを拉致したようにしか見えないと思うんですけど。」

  「気にしな〜い、気にしない♪」

  祐巳の言葉をサラッと流し終始笑顔で聖は運転を続けていった。









  
  
  事故を起こすこともなく無事目的地に着いた恭也たち。

  車から降りた恭也と祐巳は、門に掛けられていた表札を思い浮かべていた。

  「聖さん。先程表札に ”小笠原”と書かれていたのですがひょっとして、、、。」

  「ここってお姉さまのお宅ですか!?」

  「うん。”よろしかったら遊びにいらっしゃいませんか”って。わざわざ今日を指定してきたの、祥子が。」

  そう言いながら聖は、駐車場に停められているもう一台の車に注目していた。

  「どうかなさったんですか白薔薇さま?」

  「いや、あれにお似合いの男を想像しちゃって鳥肌が立っちゃってさ。」

  それを聞き自分でも想像した祐巳は心当たりがあったのか”まさか”という表情をして答えた。

  「もしかして・・・・・王子様、ですか?」

  「ああ、たぶんギンナン王子だろうね。」

  「お正月ですもんね。従兄ですもんね。婚約者ですもんね。」

  そんな二人のやり取りを見ながら恭也はさっきの会話の内容のことで悩んでいた。

  「ギンナン王子?従兄??婚約者???」

  「ああ、それについては中に入ってからゆっくり話そう。ひょっとしたら恭也くんにも関わってくるかもしれないから。」

  そう言われとりあえず玄関の呼び鈴を鳴らした恭也。

  「佐藤さまですね、どうぞ。」

  扉が開かれた。

  『え?』

  そこで、中から出てきた人物と祐巳が同時に声をあげた。

  「祐麒・・・・・?」

  「祐巳・・・・・?」

  そこにいるべき人ではない人物に出会った二人は驚きの表情で見詰め合っていた。

  (顔立ちや雰囲気が似ているが、姉弟か?)

  恭也が二人に対しそんな感想を抱いていると、後ろの廊下からゆっくりと背の高い青年が歩いてくる。

  「や、いらっしゃい。」

  その声を聞いた途端、聖、祐巳、祐麒は嫌そうな顔をした。

  青年はどこまでも爽やかな笑顔を浮かべそこに存在していた。祐麒の肩に手を掛けて。

  

  


  

  柏木の登場後、遅れて現れた祥子と挨拶をかわしている恭也たち。

  そのすぐ傍で聖と柏木は無言で向かい合っていた。

  「なにやら、あちらの二人から不穏な空気が漂ってきているのですが、お二人は仲が悪いのですか?」

  「何というか根本的にそりがあわないそうで。それにしても恭也さんがいらっしゃると知りませんでしたわ、

   白薔薇さまからは祐巳と二人で来ると伺ってましたから。」

  「自分も今日いきなり連れてこられましたから。やはり、ご迷惑だったでしょうか?」

  すまなさそうな恭也の表情を見て祥子は慌てながら、

  「い、いえ!?そんなことはないですわ。大勢の方が賑やかで楽しいですから。」

  「お姉様の言う通りですよ、それに恭也さんは何の前ぶれも無しに拉致されたんですから。」

  疲れたような表情で祥子の言葉に同意する祐巳。

  「ありがとうございます。そういえば初めてお会いする方がいますね。」

  それを聞き、祐麒と柏木は自己紹介を始めた。

  「はじめまして、祐巳の弟で福沢祐麒といいます。高町さんの事は祐巳から聞いてます、リリアンに転校してきたそうですね。」

  「まあいろいろありまして。それと俺の事は名前で呼んでいただいていいですよ。」

  「では恭也さんで。じゃあ俺の事も名前でよんでください。」

  「ああ分かった祐麒。」

  「じゃあ次は僕だね。柏木優、さっちゃんの従兄でユキチの先輩でもある。よろしくね恭也君。」

  「よろしく柏木さん。」

  笑顔で答える恭也、一方恭也のスマイルを至近距離で目撃した柏木は完全に停止していた。

  「あっ、聖さんすみませんが車のキーを貸してもらえませんか?荷物を降ろすのを忘れていたので。」

  そう言い荷物を取りに外へ出て行く恭也。そこで今まで固まっていた柏木が口を開いた。

  「ねえ祐巳ちゃん、彼は交際している相手とかはいるのかい?」

  「いいえ、いないそうですよ。」

  「おい柏木、何企んでやがる。」

  「企むだなんて人聞きが悪いな白薔薇さま。僕はただ純粋に彼に興味を持っただけじゃないか。」

  「初対面の同性の恋人の有無に興味を持つという時点でおもいっきり不純だぞ。」

  「いやあこんな気持ち初めてだよ。生まれて初めて抱かれたいと思ってしまったよ。」

  この台詞を聞いた瞬間、他の四人の表情が歪んだ。

  「アンタ恭也くんをそっちの道に引きずり込む気!?そんな事許さないわよ!?」

  「白薔薇さまには関係ないだろう?それとも何かい、君も恭也君を狙ってるのかい?」

  「ああ、そうだよ。だから恭也くんは諦めな!さもないと柏木優は男々交際がお好みだと今ばらしてやる!!」

  「君も僕と似たようなものだろ。」

  「私の場合は女子生徒がクラスメートの男子生徒に想いを寄せていると言ういたって普通の恋愛だろう?」

  「・・・言い合っていても仕方が無いね。こうなったらどっちが恭也君を落とすか勝負だ!」

  「いいよ、アンタにだけは絶対恭也くんは渡さないから!」

  どんどんヒートアップしていく二人。そこで祥子が二人の間に割って入った。

  「お二人ともいい加減になさって!恭也さんを賭けて勝負だなんて!」

  「何〜祥子も参加するの?恭也くん争奪戦。」

  「なっ、何をおっしゃるの!?わっ、私はただ、、、」

  「さっちゃん、此処は自分に正直になるべきだと思うよ。」

  「そうだよ祥子。もし此処で自分を偽ったら祥子はきっと後悔するよ。」

  真剣な表情で言う二人にうろたえる祥子。そして俯いていた顔を上げ迷いの無い声で言った。

  「分かりました。その勝負、私も乗ります。こうなったら先輩後輩も男も女もありません!絶対に恭也さんを振り向かせてみせます!」

  「よし!じゃあ決まり。たった今から私たちは敵同士だよ。私は遠慮なんてしないからね!」

  「それは僕も同じだよ。それと、ユキチ〜今回はかまってあげられそうにないからゴメンネ、また今度可愛がってあげるから。」

  「結構です!いい加減にしないと花寺の生徒全員に生徒会長はモーホーだと言いふらしますよ!!」

  「別にたいして問題はないよ。僕はもうすぐ卒業する身だからね。」

  祐麒の脅しをサラリと流し柏木は笑顔を浮かべていた。

  どんどん盛り上がっていく三人、その隅では福沢姉弟が忘れ去られていた。

  「もう完璧に俺たちの存在どうでもいいと思ってるな、あの三人。」

  「うんそうだね。でもやっぱりと言うか、恭也さん柏木さん落としちゃったね。」

  「ああ、恭也さんのあの笑顔が男女共に有効なのが恐ろしいよな。」

  「それでいて本人全く自覚無いし。挙句の果てにお姉さままで落とすなんて。」

  「そう言えば祐巳、祥子さんのあの告白聞いたのに意外と冷静だな。」

  「いや〜恭也さんが相手だとお似合いすぎてあんまり怒りが沸いてこないんだ。」

  「そういうもんか。しかし今夜はかなり荒れそうだな。」

  「私もそう思った。メンバーがメンバーだからね。」

  そう言って溜息を吐く二人。三人はいまだに睨みあったままで恭也が戻って来るまでそのままだった。




おおー。ギンナン王子こと、柏木さんの登場ですか。
美姫 「しかも、案の定恭也に落とされてるし…」
益々ヒートアップする争い。
果たして勝者は誰に?
美姫 「まあ、柏木ではない事を祈りましょう」
うーん、意外性を付いて柏木になったりして…。
美姫 「見たいような、見たくないような」
あ、あははは。
兎も角、次回から始まる争奪戦を楽しみに待っています。
美姫 「ではでは〜」



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