「天上の黒薔薇」

 

2話「守るべき人」

 

ここはとある喫茶店、学校から近い事と、おいしいお菓子と本格イタリアンが楽しめることで、喫茶店としてもレストランとしても一流の店だ、さらに今日のような早朝でも、おいしいモーニングがいただける人気の高い店だ、それゆえ早朝だというのに店内は人で溢れかえっている、

 

そんな中明らかに目立って周囲の目線を集めている男女?がいた

 

「だからぁ〜、そんな事なんてどうでもいいから、食べて、食べて。」

 

と言うのは、泣く子も黙る(?)白薔薇様、佐藤聖

 

「いや、学校は行かなきゃ行けないだろさすがに・・・・」

 

いたって冷静に言葉を返すのは、先ほどめでたくも名前を頂戴されたシオン・ファシール

である、聖は助けてくれたお礼にと、この喫茶店で朝食をおごることにしたのだ、聖の前にはこの店自慢の朝のモーニングセット、そしてシオンの前に置かれたのは・・・・・

 

「・・・・・・・・・クスクスか」

 

「そうよ!クスクスよ!」

 

シオンの前には、小麦粉を野菜とともに蒸して、手で細かくしたものの上に骨付きの羊肉をのせる、モロッコの家庭料理クスクスが置いてあった、

 

「・・・・・なぜこんな極東の何の変哲もない喫茶店にクスクスがあるんだ・・・・・」

 

そう言うとシオンは頭を抱えた、聖は

 

「ああ、ここの店長と知り合いでさ、特別に作ってもらったの、どう?感動した?」

 

と言って、いたずらな笑みを浮かべる、そしてシオンが厨房の方に眼を向けてみると

店長らしき女性がこっちを向いてピースサインをしてる、しかし副店長らしき人からの視線がかなり痛そうだ、怒られてるだろうなぁ

 

(あの人は偉大な人だ、・・・)

シオンは心の底から思った

 

「・・・ところでなんでクスクスなんだ、て言うかよくこんな料理知ってたな。」

 

もっともな意見だ、いきなりモーニングにクスクスを出されても、なにがなんだか訳がわからないだろう

 

「ああ、なんか見たかんじ、どこかの国とのハーフとか、クウォーターみたいなきがしてさ、かすかにイスラームのお姫様のような印象受けたから、だからクスクス♪」

 

と言っている聖も、日本人離れした容姿を持った美人である、ギリシャ彫刻のような女性とイスラームのお姫様のような少年、周りからの視線を集めないはずはないのだ、

 

「♪って・・・・、いろいろ突っ込みどころはあるが、俺は男だ!なんだお姫様って!

それにクスクスはモロッコの家庭料理だろ、それが何故、今俺の前にある!・・・・・・。」

 

そう言ってまた頭を抱え込むシオン

 

「こらこら、おね〜さまの好意は素直に受け取るものよ♪」

 

「お姉さまって・・・・」

 

そうなのだ、みため180近い身長をもつシオンも、中性的な顔立ちと、童顔で

どうしても聖より年下に見えてしまうのだ、

 

なにかぶつぶつと、つぶやきながらクスクスを口に運ぶシオン、聖はその姿をにやけながら見ていると、急に思い出したように、

 

「そういえばシオンってさ何歳、見た目結構幼く見えるけど?」

 

と尋ねた、シオンは少し返答に詰まらせながらも

 

「何歳に見える?」

 

と笑って返す

 

「う〜ん、まず年上ってのはありえないし、かといってそんなに離れているわけでも・・・・・

どうなんだろう?」

 

と、真剣に考えている、しかし、

(この質問は絶対に当たる事は無い・・・・)

 

そう心の中でつぶやき、一瞬暗くなるシオン

 

「貴方は何歳なんですか?」

 

不意にシオンがそう言った、

 

聖は、シオンの年を真剣に考えていたのか、それとも意外な質問が来てびっくりしたのか

ふと顔を見上げた

 

「私?私は高三、リリアン女学園に通う十七歳よ」

 

と「花の女子高生よっ!」といってVサインを作ってみせる聖

 

「・・・・・じゃあ俺は十六歳、とくに高校には通ってないが、れっきとした男だ!」

 

と、言って、演説のように拳を握ってみたり、

それがウケたのか

 

「ははは、シオン、キミ面白すぎ!」

 

笑い転げる聖に、何か納得できないような表情を浮かべるシオン

その光景は一枚の絵画のようで、周りからはため息が漏れる、しかし一通り笑った後

聖は真剣な顔になって、

 

「でもさ、シオン、名前のときといい何で本名とか教えてくれないの?年齢も今考えたみたいだし・・・・まあ、今日始めて会った人を信じられないのは解かるけどさ、」

 

「・・・・・貴方は今そんな怪しい奴を、喫茶店に連れ込んでクスクスおごっているんです

けど?」

 

と瞬時に切り返す

 

(ところでいくらするんだ、このクスクス?特注だし結構ボリュームもあるぞ。て言うか店長!仕事に戻ってください!後ろの人鉄バット持ってますって!)

 

「びたん♪」

 

店長が倒れた、バットを厨房に戻す副店長、いい笑顔だ、何人かは驚いているが常連っぽい方々は動じていない

 

「ああ、小林さんと白土さんの怒つき漫才はいつものことだから気にしないで。」

 

さらりとバイオレンスなことをおっしゃる白薔薇様、

 

(あれで、また生き返るのか?やはりあなたは偉大な人です、小林さん・・・・)

 

といって胸で十字を切るシオンその様子を見ていた聖は

 

(なんて綺麗に十字を切るの、あんなのウチ(リリアン)の人や高位のシスターでもできないわ、どこかの名門聖職者の御曹司かしら?)

 

志摩子に会わせてみたら面白そうね、と思いながら微笑する聖

 

「ん?どうした?」

 

訝しげに尋ねるシオン

 

「いやいや何でもない、何の話してたんだっけ?」

 

あからさまな話のそらし方だが、シオンは一つため息をついて

 

「・・・だから何で俺みたいな怪し・・「そうだった!そうだったよね確か!」」

 

といってオーバーリアクションをしてみせる、その際肘を机にぶつけて終始いたがっていたのはここだけの話。

 

「何か他人のような気がしないんだよね、何所かで会った事無い?

随分会ってなくて、嬉しい様な、哀しいような、そんな感じがするんだ。」

 

完全なる口説き文句だ、しかしこの女は自分が超爆弾発言をしたのに気づいていない

周りの客が顔を赤らめているのを、何故だろう?と首をかしげている

 

「そうか、でもあんまり怪しい奴に付いて行かないほうがいいぞ、最近は物騒だからな」

 

・・・・・失礼、こちらにも全く気づいていない男が一人、ていうかそれは花の女子高生に言う言葉じゃないだろ!あなたは保父ですか!

 

「まあいいじゃない、ところであの時7,8人居たはずの人が、私が気づいたときは一人しか残っていなかったみたいだけど?それにあの穴だらけの地面は何?何かの映画の撮影にでも使うの?」

 

その言葉を聞き、シオンの顔がかわる、その顔は今までのかわいらしい顔などではなく、息苦しさを感じるほど、真剣な顔だった。

 

「・・・・何も覚えていないのか。」

 

シオンは小さくつぶやいた

 

(貴方が全員殺したんだ、なんて言えないし、大体信じられないだろうしな)

 

少し考えるとシオンは、残っていた料理を食べ終え、聖に外に出るように促した

 

 

 

ちなみに金はシオンが払おうとしたのだが、聖の「いいよ、小林さんには貸しがあるし♪」

と言ってそのまま立ち去ろうとする、ハッと思い厨房を見てみると、いつのまにか復活

していた店長がうるるーと涙を流している

 

(・・・・・・・・・・・貴方はほんとに凄い人です)

 

今度は東洋風に胸の前で合掌をするシオンであった

 

 

 

 

 

 

  公園

「あれ?穴なんてどこにも無いや」

 

きょとんとした声で言う聖

 

「・・・怖さで気が動転して幻想を見たんじゃないのか?

 

「う〜んそうかもしれない、でも他の不良はどこに消えたの?」

 

「・・・・・・・逃げ帰ったのさ、仲間を置いてな」

 

苦しい言い訳だが穴が開いていないのだから、物理的な証拠は無い

聖は少し考えていたが、夢だったのだと自己完結したらしい、その場を立ち去ろうとする二人

しかしそこに

 

「人殺し!!!」

 

先ほどの惨事の生き残りが聖に向かって銃を向けた

 

「ふぇ?」

 

突然の事に間抜けな言葉しか返せない聖、

 

「お前のせいで、お前のせいであいつらは!オマエが殺したんだ!水の槍みたいなのが

何十本も降ってきて、みんな殺されたんだ、死体も残らねぇで、みんなオマエに殺されたんだ!」

 

  オマエが殺したんだ

 

「痛っ!」

 

頭に鈍い痛みを感じうずくまる聖

 

「聞くな!あいつは狂ってるんだ、あいつの事など真に受けるな!」

 

  聞くな!奴はあのお方に逆らった、もはや奴は我らの統率者ではない!

  魂まで焼き尽くさなければならない仇敵なのだ

 

さらに聖の頭に、脳に直接賛美歌のように響いてくる

 

  兄さんは・・・兄さんはキミや主のために、自らが堕天となるのを覚悟で君を助けようと・・

  ボクたちが信じてあげなくて、誰が信じるの?ねえ、教えてよ!

 

だんだんと聖の瞳が蒼くなっていく、それは頭の痛みと比例しているようで

聖は苦痛に顔を歪めている。

 

銃を持った男は、蒼く染まってきた聖の瞳を見て先ほどの恐怖を思い出したのか

 

「見るなぁ!こっちに来るなぁ!化け物めぇ!」

 

と叫びながら聖に向け銃を乱射する、気が動転しているのか何発打てども聖には当たらず、ただ近くの木や土を穿つだけだった

 

「畜生!ちくしょぉ〜〜〜〜〜!」

 

そう叫んで銃を乱射していた男に、一瞬黒いオーラが立ちこめる

そして最後の一発、弾は未だ激しい頭痛に身を悶えている聖の、心臓に向かって

伸びていった」

 

(ヤバイ!)

 

そう思った瞬間シオンの身体は弾の軌道上に走る

その光景はまるでスローモーションのように聖の瞳に映っていた

 

「うっ!うわぁぁぁx〜〜〜〜〜〜!!」

 

聖に雷が落ちた、いやそう表現するしかない程の激痛が、彼女の意識に、頭に

体中に駆け巡ったのだ、気を抜くとすぐに意識を手放してしまいそうな、

彼女はもう限界だった

 

  無事か?良かった、君が無事なら俺が身体を張った甲斐がある

 

「無事か?聖」

 

  何故こんなことになったの?貴方は何も悪くないじゃない!それなのに私は!

  貴方を信じる事が・・・・・・

 

「・・・・私・・・私は・・・・・・!!」

 

何かを言おうとする聖、しかしその瞳は先ほどまでの蒼ではなく

不良数人を惨殺した、闇にまみれた深青色に変化していた

 

(あいつの瞳はそんな色じゃない!自分を取り戻せ!聖!)

 

しかしその重いとは裏腹にどんどん染まってくる聖の瞳

 

(俺の声は届かないか、しょうがない、少し我慢してくれ!)

 

といって首に手刀を入れる

 

「うっ!」

 

薄れ行く意識の中、彼女は確かにその声を聞いた

 

  どんなときも、どこにいても俺は君を守る、どれだけ時代が流れても

  立場が変わっても、俺はキミの百合の花に誓う

 

彼女は完全に気を失った

 

 

 

 

 

「いいかげん出てきたらどうだ?」

 

シオンは既に気を失っている不良に話しかける

 

「クックッ、やはりバレてましたか」

 

不良は立ち上がって、シオンと対峙する、しかしシオンと対峙しているのは

不良ではない

 

「そんな死人の身体に憑いててもすぐに解かるさ、大方グリゴリの下等眷族だろう

胸糞悪くなる!」

 

そういうと不良は、先ほどの怯えが嘘のように高慢な口調で言う

 

「御明察、しかし人間は脆いですね、少し瘴気が入っただけですぐに

壊れてしまう。」

 

今なら人であったものに、取り憑き、辱めている黒い影が見えるだろう

その影は普通の人が見れば、もう二度と帰ってこれない場所へ連れて行かれそうな

そんな危険なもののようだった。」

 

「お前らの大将の目的は何だ?」

 

「それは貴方も解かっているんでしょう?」

 

そう言って下卑た笑いを浮かべる影、それに対してシオンの足元には

かなり大きな血だまりが出来ていて、彼は胸をかばって苦しそうにしている

 

「・・・・・・・・やはり、あの娘の事か」

 

「そうですね、あれだけの力を持った転生体はなかなか居ませんし

あの方にもお喜びいただけるかと・・」

 

「あいつは俺が守る、悪いがお前たちの思うようにはさせない」

 

と言って臨戦態勢をとるシオン

 

「やれやれ、いつからこんなに短気になられたのですか?昔は気品に溢れておられたのに、」

「しかしそうですね、貴方は一つ勘違いをしています、先ほど私の事を下等眷族と

おっしゃいましたが・・・・・・」

 

周りの闇が影に同調し膨れ上がる

 

「私は我が主から勅命を受けた上級眷族なんですよ!」

 

影の手に闇が集まり、シオンの先ほど穿たれた胸を貫く

 

「ははは!情けないですねこんなところでしたいをさら・・・・・」

 

―――――――――ドン

 

それは一瞬の事だった

 

「・・・・・な・・に・・が?」

 

影が浄化されていく、それと共に操られていた男も天に昇っていく・・・

 

「これは浄化の雷光!堕ちたはずの貴方が何故?

それに、何故二度胸を穿たれて死なない!」

 

ヒステリックに叫ぶ影、しかしその姿はほとんど消えかかっている

 

「ば〜か、俺を倒したかったら、銀の弾丸持って来い!」

 

そう言った時影の存在は完全にこの空間から消えた

 

その後傷の状態を確認して

 

「あ!銀の弾丸で死ぬのはドラキュラか、」

 

などとのんきな事をいい、何食わぬ顔で聖の隣に座った

 

(また巻き込んじまって悪かったな、今度こそ守るから)

 

そう言って、聖を人通りの多い公園のベンチに寝かし

シオンは去っていった

 

 

 

〜また始まる物語の舞台に上がるまでのしばしの別れ〜

 

 

 

 

 




あとがき

    ごめんなさい、ごめんなさい、ギャグっぽくないです・・・何か前フリ

    長いですけどつぎこそ学園編入るのでそこでだんだん壊れてくると・・・・

    では、よければ三話も読んでください、ケイロンでした




う〜ん、敵らしきものの姿が……。
美姫 「主とは?」
そして、シオンは何者?
美姫 「幾つかの謎が出てきたわね」
うんうん。気になるな。
美姫 「次回は学園編らしいけれどね」
さて、一体全体どんなお話が待っているのでしょうか。
美姫 「次回もお待ちしております」



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