天上の黒薔薇

 

5話「再会と戦い」

 

 

       薔薇の館

ギシギシと音が鳴る階段を上り、薔薇様方の居るサロンへと向かう

 

「ごきげんよう」

 

「ごきげんようお姉さま方」

 

志摩子と祥子が部屋のドアを開け中に入っていく

 

「あら、遅かったわね、どうかしたの?」

 

とおっしゃるのは、紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)である水野蓉子さまだ

 

「祥子はともかく、志摩子が遅れるなんてねぇ」

 

と言って、祥子の方に顔を向け、からかうのは黄薔薇様(ロサ・フェディダ)鳥居江利子

 

そして

 

「ふぅ〜やっと来たね、早く食べようよ」

 

そういってお腹を押さえる、白薔薇様(ロサ・ギガンティア)佐藤聖

 

「今日、転校して来られた、方を紹介しますわ。」

 

そう言ってドアの外に居たシオンに、目で、入ってくるように合図した

シオンは観念して部屋に入っていった

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

一瞬時が止まった、特に白薔薇さんのあたりで

 

「あ、あの、ごきげんよ・・・・・・(ガシ)」

 

挨拶をしようと思ったら首をつかまれた、猫をつかむように、誰がやったって?そりゃ白薔薇様ですよ

 

「・・・・・・・ちょっとこの子借りてくわ」

 

いつもは軽い白薔薇様が、いつになく真剣に言うので、皆ブリキの人形のように首を縦に振るしかなかった・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中庭

「で?どういうことなの?」

 

彼女らしくストレートに聞いてきた、しかし、シオンはどこから話していいのか、

また、どう誤魔化したらいいのかわからず、言い淀んでいた。

シオンがもじもじしている姿は、見た目の凛々しさとは対照的にかわいく見えたと言う、

本人は全く喜んでいないが・・・・・・すると

 

「・・・やっぱり。」

 

「へ?」

 

「やっぱり女の子だったんだぁ〜」

 

と言って抱きついてくる聖、

 

「おいちょっと待て!抱きつくな、ていうか、何だ、やっぱりって!

あんたは一体俺をどんな眼で見ていた?」

 

「解離性性同一性障害のかわいい女の子♪」

 

即答だった

 

「だ〜か〜ら〜、俺は男だって・・・・・・・」

 

終わった、シオンは自ら、自分が男である事をバラしてしまった、自分が言ってしまった事の重要性に気付き、ハッと聖の方を向く、

聖は驚いたような残念そうな顔をしている。

 

「男って・・・・じゃあ何で男の貴方がここに居るの?」

 

さすがの聖も引き気味に尋ねた、

転校初日、早速ピンチのシオン、どう誤魔化そうかと考えていると、彼の頭に

一人の女性が思い浮かんだ。

 

「・・・・・・・・・・学園長」

 

「へ?」

 

「あいつが久しぶりに俺の前に現れたと思ったら、いきなり明日からここに通えときた

ご丁寧に書類まで偽造してあったし・・・・・・・」

 

明らかに胡散臭い事この上ない話だが、咄嗟のことにしては上出来だろう

学園長ならこれくらいの事平気でやる、なにせ『リリアンの魔女』ですから・・・・・・

 

「・・・・・キミ、あの学園長の知り合いなの?」

 

何故かさらに引かれてるような・・・・・

 

「知り合いと言うか、昔からの一番の被害者と言うか・・・・・・」

 

そう言って苦々しく顔を歪めるシオン、その姿を見ていた聖は

 

「苦労してるんだね・・・・」

 

そう言って、シオンの肩をポンポンとたたく、どうやら信じてくれたようだ

それからはいろいろな雑談をしていたが、不意にこの前の事件の話に話が移った

 

「ちゃんとお礼も言っていなかったのに、いなくなっちゃうんだもん、

気を失っていた私も私だけど・・・・」

 

あの事件の事をシオンは、適当にはぐらかしておいた、

しかし、いつかは真実を伝えなければいけないことを思いながら・・・。

 

「戻るか、みんな心配してるぞ」

 

「心配されてるのは、キミの方だと思うけどね・・・・・・・・・」

 

「????」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薔薇の館

薔薇の館に入ると

 

「聖に何かされなかった?」

 

「白薔薇さまの毒牙にかかりませんでしたか?」

 

何かぼろくそに言われている、シオンはまさかと思って、彼女の妹である

志摩子に聞いてみた

 

「白薔薇さまって・・・・・・・」

 

「はい、かわいい子が居れば、どこであろうと抱きついてくるセクハラ大王です!」

 

答えが返ってきたのは別の場所からだった、そこには、髪をお下げにしたかわいらしい女の子が、手をグーにして言っている

 

「それはさすがに酷いよ〜由乃ちゃん」

 

ぶーたれてる聖の方を見て苦笑し、シオンは改めて自己紹介をした

 

「はじめまして、今日から祥子さんと同じクラスに転校してきた

シオン・ファシールと申します、以後お見知りおきを」

 

そう言って優雅に一礼するシオン、その姿に聖、志摩子、祥子を含む

山百合会全員が言葉を失った。

シオンは、また何かやらかしてしまったのではないかと思い、おろおろしていたが

一番最初に現実に戻ってきた、ボーイッシュな美人に尋ねられた。

 

「ところで、白薔薇様とはどのようなご関係で?」

 

令と呼ばれたその女性の言葉で、ハッと我に帰る山百合会メンバー

そして興味深くシオンの答えを待つ

 

「え〜と」

 

こんなお嬢様たちにあんなこと言ってもいいのだろうかと、シオンは躊躇したが

その答えは、」もう片方の人物から出た

 

「シオンはね、薬中っぽい7,8人の不良に囲まれてた私を助けてくれたの。」

 

嬉々とした表情で言う聖、他の面々は半信半疑でシオンに聞いてみると

 

「まあ、そういうことです」

 

と、肯定の言葉が返ってきた、

彼女たちは目の前の女性が、そんな事をするとは思えず

さらに聞こうとするが、予鈴が鳴ってひとまず解散となった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      教室

二年松組の前には、学年の生徒が全員居るのではないかというくらい、

人でごった返していた、なぜなら

 

「それでは行きましょうか」

 

紅薔薇様こと水野蓉子を先頭に、白薔薇様こと佐藤聖とその妹藤堂志摩子

がシオンを呼びに、このクラスに来たのである

 

「紅薔薇様に白薔薇様にそのつぼみ達まで!」

 

「「「「「「シオンさんって何者」」」」」」

 

(目立ちたくないのに・・・・・)

 

シオンは、頭を抱え聖達の方へ向かっていった

 

「何か御用ですか?」

 

シオンが尋ねると

 

「今日は、山百合会の仕事が無いから一緒に帰ろうかと思って」

 

「黄薔薇さん家は、令は部活、由乃ちゃんは令の応援、

江利子は由乃ちゃんをからかいに行っちゃったから。」

 

おい、何か最後のだけおかしい気がするが、大丈夫か?黄薔薇一家

結局同じクラスである祥子も合流し、紅薔薇ファミリー、白薔薇ファミリー

と下校という、なんとも豪華なシチュエーションになったわけだ

 

(うぅ〜周りの視線がいたい・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、じゃあシオンは優秀なのね」

 

「はい、特に英語は先生よりも発音がいいですし」

 

蓉子の問いに答える祥子

 

「シオンさんは何の教科が得意なんですか?」

 

今度は志摩子が尋ねてきた

 

「う〜ん、世界史と英語は得意ですね、でも興味があるのは物理化学でしょうか、

あれは勉強になります、」

 

「へぇ〜そうなんだ」

 

感心する聖

 

「でも、シオンさん授業中『太陽は地球を中心に回っているんだ〜』って

叫んでたわよね。」

 

悪意は無いがなかなかグサリとくる事を言ってくる

 

「あっはっは!天動説!マジ?」

 

腹を抱えて大笑いする聖、他の面々も、聖ほどあからさまではないが

皆、くすくすと笑っている、

シオンは恥ずかしさに顔を赤く染めながら、うつむいてしまった

 

「シオンかわいすぎ〜♪」

 

シオンのあまりのかわいさに抱きついてくる聖、シオンはのがれようとするが、無理に逃れようとすると聖が怪我をする恐れがあるので、ある程度の力で逃げようとする

 

「やめて下さいよ!白薔薇様!」

 

「やだ、」

 

「何を言ってるんですか!離して下さい!」

 

じたばたするシオン、すると

 

「シオンの事ばらしちゃおっかな。」

 

ピクッ

 

シオンの動きが止まった

 

「何が望みだ?」

 

耳元でささやくシオン、

 

「う〜ん?どうしようかなぁ?」

 

そう言って考え始める聖、そして閃いたように、手を一つたたいて

 

「じゃあ私のこと呼び捨てで呼んでね。」

 

「「「は?」」」

 

聖の言葉に蓉子たちも目を丸くする、

しかし、弱みを握られているシオンは、ため息を一つつくと

 

「わかりました聖・・・・・・・さま」

 

またさらに顔を赤くして言うシオン、それを見た聖は満面の笑みを浮かべ

 

「まあ、今日のところはそれで許してあげよう、できればその敬語もやめてほしいんだけど」

 

といってまた抱きついてくる。その姿を苦笑しながら見ている面々

 

そして人気の少ない道に差し掛かった時。

 

「お尋ねしますが」

 

黒服の男性が、祥子に話しかける

 

「貴方は小笠原のお嬢様ですね」

 

そう言って拳銃を取り出す男、それを合図に周りから同じような格好の

黒服がシオンたちを取り囲む

 

「な!何なんですか!貴方たち!」

 

いつもは冷静な蓉子が、動揺して言った

しかし、彼女がもっと冷静であったのなら解かっただろう、

明らかに男たちが彼女たちに危害を加えるつもりだと。

 

「恨みは無いが、小笠原のお嬢さんと一緒に死んでもらいます

こっちも仕事なので、恨むならそのお嬢さんを恨んでください。」

 

そう言って男たちは拳銃で祥子、蓉子、聖、志摩子に照準を合わせた

そこで一人足りない事に気付く。

 

「おい!もう一人はどこへ行った!逃げられたら厄介だぞ!」

 

男たちは血相を変えて探し始めた、しかしそこでひとりの意識が刈り取られる

 

「うっ!あ・・。」

 

志摩子に照準を合わせていた男に、シオンの手刀が入り男は倒れる

 

「別にお前らが仕事でひと殺しをしていることに俺は文句を言わない

それを裁く役割は、俺には無いから・・・・・・だけどな」

 

蓉子を狙った男が、シオンのあまりのプレッシャーに、トリガーを引けずに居る。

シオンはそれをひややかな眼で見、中指をクイクイ動かす

 

「馬鹿にしやがって!」

 

男がトリガーを引く瞬間シオンが目を見開く、するとその男の拳銃が暴発し

男は火に包まれる。

 

「武器を持つと言う事は、その人の人生を奪う意思があるという事だ、

お前らに殺された人たちの人生を背負う、度量があるのか?」

 

恐怖で震えている、祥子を撃とうとしていた男に目を向け、

頭部に裏拳をたたきこむ、グシャと骨が砕ける音がした

 

(こんな愚かな奴らのためにあいつは!)

 

シオンは心の中で悪態をついた、はるか昔人間のために自らを捧げた

大切な人を思って・・・・

 

「そこまでだ。」

 

そう言って聖の頭に拳銃を突きつけて高笑いする男。

呆然と先ほどまでの戦いを見ていた蓉子たちも、あまりの恐怖に

泣き叫ぶ事も出来ない

 

(あ、やばい)

 

「さっさと手を上に挙げてこっちに歩いて来い!」

 

(ほんとにこいつ、消してしまいそうだ)

 

シオンの顔を絶望している顔と捉えた男は勝ちを確信し下卑た笑いを浮かべる、

しかし次の瞬間、男は今まで感じた事が無い、死のオーラを感じた

 

「・・・・・言いたい事はそれだけか?」

 

シオンは妖艶な笑みを浮かべ、左手を男に向けた

シオンの左手に力が集まり、今にも力の奔流が男へと流れようとする

しかしその時

 

「やめて!」

 

命を狙われているはずの聖が、叫んだ、シオンや男だけでなく、

聖自身も、何故自分がこのような事を口走ったのか理解できていないようだ。

 

(・・・・・・・・変わらないな、昔のお前と。)

 

シオンは左手を下ろす、するとパトカーのサイレンが聞こえ男を取り囲む

シオンの恐怖から解放された男は、殺し屋らしく最後は自らに弾丸を撃って果てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現場検証が行われている側で、老警官とシオンが話をしている

 

「一人、意識が戻ればしゃべれる奴が居るはずだ、裏はそいつで取れ」

 

「わかりました、他には何か調べる事はありますか?」

 

「とりあえず、今回の事の黒幕がグリゴリ連中であるか否かだな、後のことはまだ考えてない」

 

そう話していると、保護者に連れられて聖達がこちらに向かってくる

シオンはもう一度老警官に顔を向け

 

「頼んだぞ、レミエル」

 

と言う、そして老警官一礼して去っていった

 

そうこうしているうちに聖達とその保護者達が来て、シオンに次々と

お礼を言ってくる、その中で

 

「あなたがシオンさんだったかな?」

 

ブランド物のスーツを身に着けた男性がシオンに話しかけてくる

シオンは訝しがりながらも、声のした方へ向く

 

「そんなに警戒しないで、僕は小笠原祥子の父で、小笠原融というんだ、

よろしく。」

 

そう言って名刺を渡してくる、よく見てみると融の後ろには、未だ恐怖で暗い顔をしている

祥子の姿があった

 

「どうやら信じてもらえたようだね、そこで折り入って君にお願いがあるんだけど」

 

「私に?」

 

きょとんとした顔で聞き返すシオン

 

「そう、君に、祥子は小笠原の娘と言う事で、さまざまな所から

狙われる立場にある、それに今回は関係のないかたがたまで巻き込んでしまった・・・・」

 

そう言って蓉子たちの保護者に深々と頭を下げる。

 

「もちろん君にも悪い事をしたと思っている、そして、またこのような事を言うのは

ずうずうしい事だと解かっている、だけど聞いてくれ」

 

小笠原グループ社長としてではなく、一人の娘を持つ親としての融の姿に

シオンは心打たれた

 

「・・・・・・祥子さんたちの護衛ですね」

 

静かに、決意を持って言うシオン

 

「・・・そうだ、これから文化祭が近くなってくると帰りも遅くなる、

それに、四六時中守るには、家には女のSPが居ない、

もちろんお金は出すよ、娘の命がかかっているんだし。」

 

苦渋の選択だったのだろう、自分は小笠原グループの社長と言う責務がある、

それなのに、たった一人の娘を守る手立てが見つからないまま、見知らぬ女の子に

頼らなければならない、自分を責めただろう、シオンにはそれが理解できた

 

「・・・・・・・お受けしましょう」

 

「!!!!!シオンさん!!」

 

最初に声をあげたのは祥子だった

 

「何故私達を守ってくれるの?命に関わる事なのよ、私が我慢すればいいのに・・・・」

 

そう言って暗い顔になる祥子、シオンはそれを見て深いため息をつき

 

「何言ってるのよ!」

 

今までのおしとやかなシオンの言い方ではなくなったことに聖以外の

全員が目を丸くした。

 

「貴方達を守るのは友達として当然の事よ!そうよ、そう決めたんだから!」

 

と言って握りこぶしを作ってみせるシオン。

 

「・・・・・・シオンさん」

 

「シオンよ祥子、ああそうそう祥子パパ、友達を守るのにお金なんて必要ないから、

お金渡して友情を白けさすようなことしないように。」

 

「しかし・・・・・」

 

少し申し訳なさそうにする融、しかし、シオンの「困った時には相談するから」

の一言でしぶしぶ了解した。そしてシオンはそれぞれ家に帰っていく後姿を見て

 

(ガブリエル、俺はもう一度人間を信じてみようと思う、何度転生しても

解からなかった事だけど、ここなら解かる気がする、お前の魂がここにあるから・・・・・)

 

そして一瞬聖の方を向いて、自分も帰っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり不安ですか?」

 

先ほどの老警官が、一人残って考え事をしていた融に話しかける。

 

「あなたは・・・・・・」

 

融もこの老警官を知っているようだ

 

「大丈夫、彼女は強い、貴方の娘さん達をあらゆることから守ってくれますよ

あの子を、そして娘さんたちを信じてあげてください」

 

「・・・・・貴方がそう言うのならそうなんでしょうな」

 

老警官の言葉に笑みを浮かべる融の瞳に疑いや虚偽は無く、

老警官の言葉を紳士に受け止めている事が目に取れた

 

「では私はこれで失礼する」

 

深々と頭を下げて現場を後にする融、そして一人残された老警官は

背中に大きな翼を広げ

 

「シオン様・・・貴方の行く末に幸多からん事を」

 

そう言って祈りを捧げるレミエルとなった老警官は、数分の後、

誰かが自分を呼ぶのを聞き、元の姿に戻る。

 

「警視総監!警視総監!」

 

(大変なのはこれからですよシオン様、私がお手伝いできるのもあとわずかです

どうか道を踏み間違えなさらぬよう)

 

そう思って警視総監と呼ばれた老警官は、声の方へ走り去って行った。

      

     


あとがき

       天上の黒薔薇5話をお送りします自分は未だ若輩者なので良い所悪い所

       があれば、指摘してくださると非常にありがたいです、ではよければ

       6話も宜しくお願いします  ケイロンでした

 




警視総監までがシオンと知り合い…。
美姫 「いや〜、凄いわね〜」
そして、祥子を狙った連中。
美姫 「聖とも関係あるのかしら」
謎を残し、次回へと話は続くのでした。
美姫 「次回も楽しみにしてます」
それでは、アデュー。



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