天上の黒薔薇

 

7話「新たな称号」

 

 

先日の武装闖入事件は、警視総監直々の根回しで表ざたにはならず、

リリアン女学園は落ち着きを取り戻していた、しかし、未だ深く心に傷を負っている

生徒も居る、そんな彼女達のために学園長は全校集会を開き、真実をぼかして

説明している、そんな中シオンは

 

「・・・・・・・・・・」

 

生粋のお嬢様学校であるリリアンではあるまじき、集会の睡眠と言うジンクスを実践し、

眠りについていた

 

「と言う事で、私達を救ってくれた英雄、シオン・ファシールさんの表彰をしたいと思います。」

 

学園長の言葉に、突然重かった空気が沸きだった、

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

シオンはまだ寝ている、隣の子は起こそうとするがシオンを不用意に起こせばどうなるか、その惨状を見た彼女らは、起こす勇気もなく、ただおろおろするしかなかった。

 

「シオンさん!」

 

「!!!!」

 

祥子に起こされはっとするシオン、壇上からは学園長が手をこまねいている。

 

(うわぁ、やな予感・・・・・・・)

 

シオンは、本能的に今から起こることが、自分にとって不利益だと言う事を察し

祥子に事情を説明してもらう。

 

(どうして私が呼ばれてるのよ?)

 

(しりません!貴方があんな目立った行動をとるからでしょう!)

 

何故か祥子の機嫌は悪い。

 

(何を怒っているの?)

 

(怒ってなどいません!)

 

祥子自身、この嫉妬と言う感情は知らなかった、シオンが全校の有名人になる事で、

胸がもやもやする感情の意味を・・・・・・。

 

(?しょうがない、逝きますか)

 

何か漢字が間違っている気がするが、シオンは壇上に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      壇上

「シオンさん、よく来てくださいました。」

 

「いえいえ、学園長のお呼びとならばいつでも。」

 

にこやかに、そして優雅に語るシオンと学園長、しかし

 

(何のまねだ、ウリエル?)

 

(やあねぇ、何も企んでいないわよ、貴方は学園の英雄なんだから

これくらいしないとみんな治まらないでしょう。)

 

目だけでこの会話をするシオンと学園長。

 

「今回のシオンさんの活躍、学園長として誇りに思いますわ。」

 

「何をおっしゃいます、私は当然のことをしたまでですわ。」

 

そう言って微笑する二人。

 

(俺が目立ちたくないのを知っていて、面白がってるだろ!)

 

(何言ってるのよ、後ろを見て御覧なさい。)

 

感謝状を受け取ったシオンは、後ろを向いて唖然とする、

そこには、まるでアイドルを見るような羨望のまなざしでシオンを見る、

生徒達の姿があった。

 

「あんな大立ち回りしといて、目立たないわけないじゃない、

あの子達みんな落ちたわよ。」

 

小声で言う学園長、この光景を見て、シオンは早くこの場から離れたい一身で壇上を降りようとする、しかし

 

「待ってください!」

 

生徒達の中から聞こえた声に、シオンは立ち止まった。

 

「シオンさんと学園長にお願いがあります。」

 

その言葉を発したのは、

 

「蓉子さん!」

 

紅薔薇様こと水野蓉子だった、それに呼応して次々と山百合会のメンバー

も次々と立っていく。

 

「シオンさんのような優秀な人材を、私達山百合会は必要としています、

代々山百合会は薔薇のつぼみや、その妹達を手伝いとしてきました、

しかしシオンさんは、私達にとって必要な人です、特例で山百合会に入る許可をお願いできませんか?」

 

お願いしますと、頭を下げる山百合会の面々。

 

「!!!!!」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

かなり驚いているシオンに比べ、学園長は少し考えて、

 

「規則を変えることは出来ないわ、規則は規則ですもの。」

 

言い切る学園長、シオンは驚きながらも学園長に感謝した。

 

(これ以上目立ちたくないし、たまにはいい事言うじゃない。)

 

しかし、シオンはこの判断が間違いだった事を知る。

 

「規則を変えることは出来ない、だったら新しい規則を作りましょう。」

 

その言葉に、山百合会をはじめ、生徒全員が首を横にかしげる。

 

「シオンさんに新しく薔薇の称号を与え、山百合会に入っていただきましょう。」

 

シーンと静まり返る生徒達。

 

「それってシオン様が四人目の薔薇様になると言う事?」

 

「三薔薇様とシオン様で四薔薇様になるの?夢みたい、この学年に生まれて良かった!」

 

うっとりした顔でシオンを見る生徒達。

 

「ちょっと待て〜」

 

シオンが叫ぶ。

 

「私には薔薇様を勤める力量はございません」

 

(はあ、一瞬でもお前を信じた俺が馬鹿だった、とりあえずなんとかしろ!ウリエル!)

 

目の会話再開。

 

(何言ってるのよ、常に近くに居た方が彼女達を守りやすいでしょう?

それに)

 

学園長が指差した先にはシオンの言葉を聞いて、眼を潤ませている生徒達の姿があった、その中には山百合会のメンバーも含まれている。

 

(あの子達を悲しませてもいいの?優しい優しいシオン君♪)

 

懇願するような目でシオンを見る生徒達、もはや選択の余地はなかった

 

「・・・・・・・大役、謹んでお受けいたします」

 

シオンが言葉を発した瞬間、スタンディングオベレーションした生徒達の、

大きな歓声と拍手と共に迎えられ、シオンは一つ小さなため息をついた。

 

「そうなるとやっぱり重要なのは、称号名よね。」

 

壇上に上がってきて、口々に言う山百合会の面々、

 

「やっぱりピンクとかオレンジになるのかな?薔薇の花の色となると?」

 

「でも、オレンジやピンクじゃあ映えないでしょう、シオンのイメージにも合わないし。」

 

ああだ、こうだ言って話し合いは難航したが、

 

「・・・・・・黒。」

 

その言葉に、全員がシオンのほうを向く。

 

「薔薇の名を戴くのなら、黒がいい。」

 

静かに言うシオン。

 

(私、いや俺には黒が合う、自分勝手な人間達に、悪魔とされた俺にはな)

 

その悲痛な叫びを聞いていたのは、同じく悲痛の表情を浮かべている学園長だけだった・・・。

 

「・・・・・あなたがそれで良いというなら、構いません、しかし黒い薔薇の品種など

聞いたことがありません、通り名はどうするのです?」

 

学園長の問いに答えたのは、シオンではなく蓉子だった。

 

「私達の目には、戦っている彼女の姿はまるで、救国の乙女ジャンヌ・ダルクのようでした、聖女ジャンヌの名を名に拝し、『ロサ・ジャンヌ』とするのはいかがでしょうか?」

 

シオンは小さくうなずき、それを見て学園長も、

 

「・・・・わかりました、シオン・ファシール貴方を黒薔薇様(ロサ・ジャンヌ)

として山百合会の最高幹部に迎え入れます、大変だと思うけど頑張ってね。」

 

ここで一番の盛り上がりを見せた拍手喝采は、いつまでも鳴り止まず、

シオンの山百合会入りを歓迎していた。

 

そしてここに、黒薔薇様(ロサ・ジャンヌ)が誕生したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      成田空港

成田空港のロビーに一人の少年が降り立った、少々癖のある黒髪のショートへアに、

端正な顔立ち、女性でも男性でも振り返ってみてしまうほどの美少年だ。

 

「・・・・ついにここまで来た」

 

少年はそうつぶやいた後

 

「やっと会えますね、兄様」

 

そう言って、リリアンへの地図を握り締めた少年は、外の雑踏へ消えていった。

     

    


あとがき

       天上の黒薔薇7話をお送りします、これでタイトルの意味が

       ある程度わかって頂けたでしょうか?まだまだ続くので

       よろしければ8話も読んでください  ケイロンでした。




おおー、なるほどタイトルの黒薔薇はそういう事だったのか〜。
美姫 「うんうん。そして、最後に現われた少年は……」
謎の呟きも気になるけどね。
美姫 「次回を楽しみに待ちましょう」
おー!



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