天上の黒薔薇

 

9話「イタリアからの訪問者 後編」

 

 

先の事件で、いつもミサの時に来ていた神父が逮捕されてから、ミサは行われていなかった、ミサをすると、あの事件を思い出すという生徒も少なくなかったし、何しろ神父が居なくなったのは大打撃だった、

しかし、数週間の沈黙を破って、今日、全学年合同ミサを行うことになった。

 

「ここにみんな集まるのも久しぶりだね。」

 

「ずっと立ち入り禁止になっていましたから、それに、あんなことがあったんですし、自分から来る気にはなれませんね・・・・・・・。」

 

聖と志摩子が小声で話す、ちなみに山百合会の面々は、前に出て神父様のお手伝いをすることになっていて、それには無論、黒薔薇様であるシオンも含まれている。

 

そして、学園長と法衣を着た新しい神父が入って来た。

 

「皆さん、新しい神父様を紹介します、彼はわざわざイタリアのヴァチカンから

お越しくださいました」

 

数分間紹介をし、学園長は後ろに下がる、そしてその神父が挨拶を始める

その神父とは、

 

「はじめまして、イタリアから来ましたミハイル・フォイエンバッハと申します、

これからよろしくお願いいたします。」

 

彼だった、そう言ってミハイルは無意識ににっこりと笑い、一礼する、その一撃は瞬く間に全校生徒の間を駆け巡った、

 

(なに、あの人!若いしめちゃくちゃかっこいいじゃない!)

 

(黒薔薇様といい、このミハイル様といい、ああマリア様、感謝いたします・・・・・・)

 

そんな生徒達の喧騒を、落ち着いた目で見ていた山百合会の面々は、

 

「やっぱり落ちたね彼女達、全く黒薔薇様のとこの家系は、どうしてこんなに罪作りなのかしらねぇ。」

 

にやりと意味深な笑みを浮かべる聖に、

 

「本当ね、全くあの子にあやかりたいものだわ、」

 

さらっと皮肉で返すシオン、ところでどうしてこんな事になったのかと言うと・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは昨日の出来事だった、シオンとミハイルの抱擁が終わったとたん

奇異と羨望のまなざしが、シオンとミハイルに降り注ぐ、

 

「・・・・・・えっと、僕何かいけないことでも?」

 

「気付かない貴方もなかなかだと思うけど・・・・・」

 

最もな突込みを入れる令、すると、だんだんと現実に戻ってきたギャラリーたちが

一歩一歩ミハイルににじり寄ってくる。

 

(黒薔薇様に、黒薔薇様に!抱擁など!)

 

(うらやましい!なんとうらやましい!)

 

目が据わっているギャラリーたちが、今まさに飛びかかろうとしたそのとき、

 

「ちょーっとストップ。」

 

まさに鶴の一声、学園長の一言で静かになるギャラリー、時折震えている人がいるのは考えないで置こう・・・・・・。

 

「説明くらいはさせてもらえないかなぁ〜(ニコッ)」

 

にっこりと微笑む学園長、すると一人、また一人と学園長に恐れを抱いた

哀れな子羊たちが逃げて行き、とうとう数えるほどになった。

 

「ふぅ〜、これでやっと話しやすくなったわ」

 

その、ルイ十四世顔負けの学園長の絶対王政ぶりは、山百合会と

学園長の悪魔の微笑み(注 彼女は天使です!)に耐えた屈強の生徒達を

震撼させた。

 

((大丈夫だろうかこの学校?))

 

ミハイルとシオンは同時にそう思った。

 

「とりあえず彼の名前はさっき自己紹介があったけど、ミハイル・フォイエンバッハ

私の古い知り合いよ。」

 

淡々と話し続ける学園長、すると、

 

「そんな事より、黒薔薇様とはどのようなご関係で?」

 

学園長の話しに割って入る由乃、どうやらミハイルという少年に興味を抱いたようである。

 

「島津さん、こういうときは最後まで聞くのが礼儀ではなくて?」

 

ふふふ、と笑う学園長、しかしここは由乃、学園長と一対一で相手が出来る度胸を持つ、数少ない生徒のうちの一人である彼女は、

 

「あら、でも学園長、ここに居る人達はまずそれが知りたいのだと思うのですか?」

 

ほほほ、と笑う由乃、表面的には両者とも笑っているが、この空気はヤバイ!

両者の間に火花が飛び散っている!そんな光景を見ていた一人は苦笑して

 

「彼は私の弟です、双子のね。」

 

由乃の後ろからシオンがつぶやく、

 

「そうか、だから似てると思ったんだ。」

 

「何だ双子かぁ、双子、双子・・・・・・」

 

「「「双子っ?」」」

 

見事ハミングを決める山百合会。

 

「でも、見た目かなりシオンの方が大人っぽいじゃないの!」

 

驚いた祥子が言う、みんな祥子の意見にうなずいている、しかし聖だけは、

 

(ああ、確かに男バージョンのシオンにそっくりだわ、でも最近シオンが男だって事

完全に忘れてきてるのよねぇ・・・・・・。)

 

前者はともかく、後者はシオンが聞いたら怒り狂いかねない内容だな・・・・。

 

「ええ、どういうわけか学年も違うんですよ。」

 

すかさずフォローを入れるミハイル。

 

「え?それじゃあ私達と同じ学年?」

 

目を輝かせながら言う由乃、志摩子もニコニコと笑っている、

ただそんな中、こんな由乃の顔を見た令の顔は、終始冴えなかったという・・・・。

 

「でも、苗字が違うわね、」

 

蓉子が言った何気ない言葉に、場が固まる。

 

「お姉さま!それを聞くのはちょっと・・・・」

 

祥子がたしなめようとするが、

 

「こういうことは最初に聞いておかないといけないのよ、疑問に思ったまま

接していても気まずいし、何よりシオンたちに失礼でしょう。」

 

「でも・・・・・」

 

納得行かないような顔をしている祥子にシオンは

 

「いいのよ、こちらとしてもそっちの方が助かるわ」

 

「心配してくれてありがとうございます。」

 

二人は同時に微笑んだ、皆はここで始めて、シオンとミハイルが双子の兄弟だと言う事を理解する、二人の目、笑み、仕草がその瞬間完璧に一致したからだ。

 

「じゃあ、どうしてって聞いていいかしら?」

 

蓉子が聞くと、最初に話し始めたのはシオンだった、

 

「私達の親は、私達を産んですぐ死んだらしいの、父親は居ない、」

 

「そして、赤ちゃんの僕らを学園長が見つけてくださって、僕はヴァチカンの

教皇様に預けられたんです。

しかし、姉様はヴァチカンに着く途中忽然と居なくなってしまったらしくて・・・・・・・。」

 

「その私は、物心ついたら今の家に居たというわけ、だからミハイルのことは今始めて知ったし、弟がいるなんて、私にも初耳だったんだから。」

 

激動の人生を歩んできた二人の話を聞いて、少し場の空気が重くなった、

その空気を換えようと、志摩子が声をかける

 

「教皇様に預けられたというと、ミハイルさんもカトリック関係の方なのですか?」

 

志摩子がニコニコしながら聞くと、

 

「それには私がお答えするわ!」

 

先ほどから、シオンとミハイルに気をとられ、忘れ去られていた学園長が、

ここぞとばかりに前に出る。

 

「彼はね、この前捕まった神父様の代わりに来てもらったのよ。」

 

そう言ってミハイルの肩をたたく、

 

「貴方が神父?私達と同い年なのに?」

 

由乃をはじめ、みんなが首を傾げるが、次の学園長の言葉を聞いて、一同は愕然する。

 

「何言ってるの、彼は教皇様の一番弟子で、一番のお気に入り、この若さで枢機卿

まで登りつめた未来の教皇様最有力候補よ!」

 

固まる一同、丁度驚いた顔の志摩子と目が合ったミハイルは、恥ずかしげに頭をかく。

 

「す、枢機卿って・・・・・・・・」

 

「あの、カトリックで教皇様の次に強い権限を持っている、枢機卿の事ですか!」

 

自慢のポーカーフェイスが、動揺で崩れ始めた志摩子が聞く、

 

「はい、そうですよ、洗礼名はミカエルといいます。」

 

にっこりと笑って、肯定するミハイル、

一同は再度固まってしまって、それをミハイルははてな顔、学園長とシオンはやれやれ

と言った顔で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      聖堂

混乱を防ぐため、これらの事は話さなかったが、完全に生徒達はミハイルを見て、自分の世界に入ってしまっている。

さらに、それに追い討ちをかけるように。

 

「ちなみに、ミハイルさんがいらっしゃる間、彼はここリリアンの一年生として

授業も受けてもらいます、みなさん、彼と神父様としてだけではなく、同級生としても

仲良くしてあげてください。」

 

学園長に言われ、ぺこりと頭を下げるミハイル、

その後何が起こったかは・・・・・・・言わないでおこう・・・・・・。

かいつまんで言うと、歓喜で暴走し始めた生徒達を、学園長の一声で鎮め何人かが学園長に連行されたのだ・・・・・・合掌。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミサからの帰り道、シオンとミハイルは二人で薔薇の館へ向かっていた、

本当に久しぶりの兄弟水入らずを演出するために、みんなが気を使ってくれたのかもしれない。

 

「・・・・・・・そうですかベリアルがそんなことを。」

 

先の事件の話をミハイルにすると、彼は苦々しげに言った。

 

「ところで、なぜここにいるのかは、ウリエルに聞いたか?」

 

「はい、また守るべき人達が見つかったんですね、ね・え・さ・ま」

 

いたずらな顔でシオンにささやくミハイル。

 

「ほう、ウリエルにオレが男だと聞いてなお、そういう事を言うのかな?弟よ。」

 

わざとらしく指を鳴らす真似をしてみせるシオン。

 

「あはは、ごめんなさい兄様」

 

無邪気に笑うミハイル、

そういう他愛のない話をしていたシオンとミハイルだが、急にシオンが立ち止り

 

「あいつらはかなり強くなっていた、神話の時代よりずっとな、

このまま放って置けば、来るべき戦いの時グリゴリの天使たち一人一人が

あのときのベリアル並の力を持ってくるはずだ」

 

そう言ってミハイルのほうを向き返り、

 

「オレはもう迷わない、未練がましく、悠久の年月をかけて探していた人が

やっと見つかったから、命を懸けてでも守りたい人達がね。」

 

オレの命を懸けても…と小声で言ったシオンの声をミハイルは聞こえていたが、

わざと聞こえていない振りをした、それは兄の思いの深さを知っているからだ。

 

「・・・・・・兄様がそう決めているのなら、僕は何も言えません、

教皇様を訊ねてみるといいですよ、きっと力になってくれるはずです。」

 

「おいおい、イタリアになんて、パッと行って帰ってこれる距離じゃないだろう。」

 

弟の天然さに苦笑いをするシオン、しかし

 

「それができるのよねぇ〜」

 

後ろから突然現れた学園長は、驚いている二人を見て満足気に話し始める。

 

「二年生は修学旅行があるのよ、行き先はどこか解かる?」

 

「まさか・・・・」

 

「そう!イタリアよ!」

 

年甲斐もなくピースサインをしている学園長にシオンは、

 

「なんでそんな重要な事を早く言わないんだ!」

 

「面白いから。」

 

即答だった。

 

「兄様、ウリエルは昔からこうでしたし、・・・・・・・」

 

必死にシオンをなだめるミハイル、そんな二人を見て起こる気が失せたシオンは、

 

「・・・・・で?いつからなんだ?」

 

「明日から」

 

また即答。

 

「「明日!?」」

 

さすが双子、息がぴったりな二人は見事に口をそろえて言う、

 

「何で急にそんな事が決まっているんだよ!」

 

怒り心頭でウリエルに食って掛かるシオン、

 

「急じゃないわよ、今貴方以外の二年生は皆、前日の説明会受けてるもの。」

 

ここでまた、謀られたことに気付くシオン、がっくりと足を下につけ、肩を下ろす、

 

「それじゃあ詳しい日程とかは、小笠原さんや支倉さんに聞いてね。」

 

そう言って走り去っていく学園長、そんな光景の一部始終を見ていたミハイルは、

 

「兄様・・・・・・・苦労しているんですね。」

 

兄にねぎらいの言葉をかける、

 

「それを言うな!泣きたくなる・・・・・」

 

何かを達観したような顔で言うシオン、

 

「それと、ここでは私は姉様よ、解かった?」

 

急にしゃべり方が変わった兄を見て、笑いをこらえながら

 

「はい・・解かりました姉様」

 

そうしてシオンは、ミハイルと別れた後、祥子や令に修学旅行の話を聞き、聖達にお土産をねだられたりして、次の日に備えるのであった。

 

こうして物語の舞台は一時イタリアへ移る。

    

     


あとがき

       天上の黒薔薇9話をお送りします、次作から2,3話は

修学旅行編になると思います、もしよろしければ見てやってください

ケイロンでした




ほうほう〜。次回は、日本を飛び出すのか。
美姫 「果たして、海外でどんなそ宇津を起こすのか…」
そりゃ、空港に着いた途端に、ここがイタリアー! とか叫んで写真を撮りまくったり。
美姫 「はいはい」
うわ〜、冷静に流されたよ。
美姫 「さて、次回はどんなお話が待っているのかしら」
次回も楽しみにしてます。
美姫 「それでは、ごきげんよう」



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