天上の黒薔薇

 

13話「それぞれの出会い」

 

 

薔薇の館前

「うぅ〜どうしよう・・・・・・・・」

 

ツインテールのこの少女の名前は福沢祐巳、お嬢様が多いリリアンの中ではごくごく平凡な生徒だ、その彼女は落ち着かないのか、せわしく表情を変え百面相をしている。

 

「やっぱり無理だよ、蔦子さぁ〜ん」

 

祐巳は半泣きだ、無理もない、薔薇の館の住民三薔薇様・・・・今は四薔薇様だが・・・・・リリアンでは、並のアイドルでは太刀打ちできないほどの雲の上の方、ここで恐れおののかねば、その人はリリアンの生徒ではない。

 

ところで何故このような所に彼女が居るのかと言うと、彼女のクラスメートで写真部のエースの武嶋蔦子に、今朝の祐巳と祥子のツーショット写真を、文化祭で飾る許可をもらってきて欲しいと言う事だった。

 

「・・・・・・・・・ずるいよ蔦子さん、私が断れないの知ってるくせに・・・・・・・・・。」

 

祐巳は小さく頬を膨らませた、実は祐巳は祥子の大ファンであり、このツーショット写真を引き合いに出されては、断れるはずも無い。

 

「しかも逃げるなんて卑怯だよぉ・・・・・・・・・」

 

当の蔦子は用事があるらしく、来れないらしい、これには祐巳も猛反発したが、祥子の写真数枚であっさり落ちたという・・・・・・。

 

そんな祐巳は途方に暮れて、一旦少し離れた地の下にしゃがんでこれからの事を考えていた、そんな時校舎の方から誰かの人影が見えた。

 

「え?誰か来るの?」

 

薔薇の館への道は一本道、ここを通る生徒はすなわち薔薇の館の住人だけである、

慌てた祐巳はどうしていいかわからず、逆を向いてしゃがんで目をつぶった・・・・・・・これで隠れているつもりだろうか?

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・あの、大丈夫ですか?」

 

頭隠して尻隠さずどころか、身体全体を隠せていなかった祐巳は当然のように見つけられ、声をかけられる。

 

「あの・・・・・えっと・・・・」

 

祐巳は悪さをして子供のように、ばつが悪そうな顔で後ろを向いた、

 

「え?」

 

祐巳は雷が落ちたような強いデジャヴを受けた、

 

(あれ?この人どこかで?)

 

目の前のリリアンの制服を着た、長身で少しくせのあるショートヘアーと深紅の瞳には

どこかで見覚えがあった、

 

「もしかして黒薔薇様ですか?」

 

祐巳たち一年生は、シオンの顔を一度しか見た事が無い、何故ならシオンが黒薔薇になってすぐ、修学旅行に出掛けてしまっていて、しかも何故かシオンはまだ帰ってきていないからだ。

するとその生徒は、少しびっくりしたようだったが、

 

「・・・・・・・・・・姉様はまだイタリアに居ますよ、もうすぐ帰ってくるはずですけど。」

 

苦笑して、疲れたような顔をするその人とは、

 

「もしかして・・・・・・・・・・・ミハイル様!?」

 

「はい、こうやってお話しするのは初めてですね、ごきげんよう福沢さん。」

 

なんとリリアンの制服を着て、祐巳の目の前に立っていたのはミハイルだった。

 

「ご、ごきげんようミハイル様・・・・・・・・。」

 

引きつった顔で答える祐巳、実はミハイルは祐巳たちと同じクラスであり、クラスメイトなのだが、白薔薇のつぼみである志摩子と親しい事と、カトリックの高位ということも重なり完全なる高嶺の花となってしまっていて、話しかけられないで居たのだ。

 

「あの・・・・・・・。」

 

「どうしました?福沢さん?」

 

祐巳は言い難そうにしていたが、意を決して聞いてみた。

 

「ミハイル様はその・・・・・そういうご趣味が・・・・・・・・?」

 

言われたミハイルは始め、何の事だか解からないような顔をしていたが、内容を理解すると途端に顔を赤らめ、

 

「違います!・・・・・・・・・・僕の制服が出来たって言うから言ってみたら、いきなりこの服を着せられて・・・・・・・気付いた時には元の服はどこかに隠されてしまっていたんです」

 

祐巳に負けない百面相で答えるミハイル、祐巳はそういうことをしそうな人物に心当たりがあり、聴いてみた、

 

「そんなことするのってやっぱり・・・・・・・・。」

 

「はい・・・・・学園長です。」

 

本当に疲れたような顔で肩を落とすミハイル、何故か祐巳はその姿に、親近感と懐かしさを覚え、大声で笑ってしまった。

 

「酷いですよ福沢さん!今からこの格好のまま、薔薇の館まで行かなければならないんですからね!」

 

この格好で怒ってもかわいいだけのミハイルの言葉に、祐巳はハッとする。

 

「薔薇の館に!?」

 

「はいそうですよ、何か顧問兼手伝いだそうで、学園長に言われました・・・・・ところで福沢さんは?ここに居るって事は、何か薔薇の館に用事があるんですか?」

 

「実は・・・・・・・」

 

これまでのいきさつを話す祐巳、

 

「・・・・・で、やっぱり入り辛くて・・・・・。」

 

こまったような顔の祐巳を見たミハイルは、祐巳の手を取り歩き出した、

 

「え?あ、わっ、ミハイル様!」

 

「そんな所に居ても始まらないですよ、僕も行きますから一緒に行こう。」

 

そう言ってそのまま行こうとするミハイルに、

 

「行きます!行きますから手を離してください・・・・・。」

 

祐巳は嫌ではなかったのだが、やはり恥ずかしかったのかミハイルに言った、それを聞いたミハイルは顔を赤くして、

 

「す、すいません」

 

焦ってまた百面相を始めるミハイルを見て、祐巳はまた笑ってしまった。

 

「ふふ、ミハイルさんってよく表情が変わるんですね、」

 

「そうですか?自分では良くわかりませんが・・・・・」

 

「私もよく言われるし、同類って事かも。」

 

和やかな雰囲気が続く、何故か先ほどのデジャヴが気になっていた祐巳だが、そのことはもう忘れてミハイルとの会話を楽しんでいる。

 

「じゃあ行きましょうか、」

 

「うん。」

 

そして二人は薔薇の館へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      リリアン女学園前

(全く・・・・・・よくもあんな恐ろしい物に乗っていられるな、)

 

げっそりとした顔で、リリアンに歩いてくる一輪の薔薇が一人、シオンである、

帰りの飛行機で疲れた顔をしているが、回りからは物憂げな表情と取られ、ナンパしてくる物が多数居た、そして手加減をするだけの余裕の無い今のシオンに、ノックアウトされた男達は両手の指の数ではすまない・・・・・・・・・合掌。

 

「意外と時間がかかったから、祥子たちに何て言われるか・・・・・・・いや祥子たちだけならまだしも、三薔薇様たちが何をするか・・・・・・・・・」

 

シオンは一瞬背筋が凍ったような気がしたが、気にしないようにして、校舎の中に入ろうとすると、校門の前に何か事情がありそうな少年が立っていた。

 

(この子は)

 

シオンはびっくりした顔を隠し少年に話しかける、

 

「あなた、何かリリアンに用?」

 

少年は急に話しかけられ、びっくりしたようだったが、すぐに真面目な顔になって

 

「花寺高校から文化祭の手伝いで来ました、福沢祐麒です。」

 

「花寺高校?・・・・・・・・・ああそういえば、隣の高校とはお互いに文化祭を手伝っているんだったわね、その花寺高校というのがそうなの?」

 

この学校に来て日の浅いシオンは自信なさげに言う、

 

「あ〜そうです、ウチの事です実は生徒会長が来るはずだったんですが、急に怪我をしてしまったらしくて・・・・・・・・俺が代理で来ているんです。」

 

遠くを見るような眼に、この少年の苦労を垣間見たシオンは、

 

「そう、それなら迎えの人とかは居ないの?」

 

あえてその事には触れず、他の事を訊ねてみた、

 

「俺にもわからないんです・・・・・・校門前に迎えに来てくれるという話だったんですけど・・・・・・時間を過ぎても来ないんです。」

 

困った顔で言う祐麒

 

「はぁ〜聖たちは何をやってるのかしら・・・・・・・・・・・・いいわ、薔薇の館でいいのよね?」

 

「は、はいそうですが・・・・・・貴方は?」

 

祐麒も姉がリリアンに通っているため、薔薇様のカリスマ性は良く聞いている(彼の場合聞かされる人物はほとんど祥子の事だったが・・・・)そこに何も構えずに案内するといった生徒が、タダの生徒な訳が無い、そう思ったのだ。

 

「私はシオン、称号名は黒薔薇様(ロサ・ジャンヌ)一応薔薇の館の住人よ。」

 

祐麒は驚いた、その名前は自分の姉が祥子の次によく話す人物だったからだ。

 

「貴方がそうなんですか、姉から噂は聞いています。」

 

「ユーキ君のお姉さんもここに?」

 

祐麒としては、こういう場面での決まり文句を言ったつもりだが、シオンはその噂に興味を持ったようだ。

 

「で?ユーキ君のお姉さんは何て言ってた?」

 

「何といわれても・・・・・・・・・・・とても強くて頼りになる格好いい女性だと・・・・・・・・・・あと。」

 

「あと?」

 

シオンは聞き返すが、祐麒は言おうか迷っている、

 

「何?本人の前では言いにくい事?」

 

シオンは微笑しながら尋ねるが、

 

「いえ・・・・・・・・・とても1年生の間では人気で、その・・・・・・・・ファンクラブまであるのだと・・・。」

 

「ファ、ファンクラブ!?」

 

シオンの驚きようを見て、自分の行ったことを後悔する祐麒、

 

「ここ女子高でしょ?何で私のファンクラブがあるの?」

 

「知らなかったんですか?全校生徒の三分の二は入会しているという話ですけど・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・(絶句)」

 

さらりとまた暴露してしまった祐麒、しかし気付いた時には既に遅く、シオンは頭を抱えていた。

 

(ミハイルならまだ解かるが、何故俺が・・・・・・・彼女達だけでも大変なのに、付きまとわれたら危険だぞ、それ以前に何故俺なんだ?)

 

そんなシオンの一人苦悩を見ていた祐麒は、何故かシオンの表情を懐かしく思い、強いデジャヴを感じた。

 

「あの・・・・・・シオンさん。」

 

話しかけられて、やっと現実に戻ったシオンは祐麒の方を見て答える。

 

「な〜に?ユーキ君?」

 

「俺達どこかで会った事ありませんか?」

 

真顔で言う祐麒に、一瞬真剣な顔になったシオンだったが、すぐにわざとらしくため息をついて、

 

「少年・・・・・・・・・こんな所でナンパ?マリア様がみてるよ。」

 

手を広げやれやれと手を上げるシオン

前に同じ事を言われた時は気付かなかったが、今回は理解していたらしい、

 

「!!い、いえそんなわけじゃ・・・・・・・。」

 

自分で言った言葉を反芻してみて赤面する祐麒、そんな顔を見たシオンはクスクスと笑って、

 

「わかってるわ、少しだけなら私もそんな気がする、意外と会ったのは前世とかだったり。」

 

「・・・・・え?

 

「なんてね、ほら行くよ、ユーキ君。」

 

(・・・・・まさかね)

 

一瞬渋い顔になったシオンだったが、二人も薔薇の館へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      薔薇の館

薔薇の館にはシオン以外のメンバーが全員揃っていた、その中では何やらただならぬ雰囲気だ、そしてその中心に居るのは、

 

「何故私が文化祭の主役に!?しかも何故男性と踊らなければならないのですか!」

 

ヒステリーを起こす祥子に、姉である蓉子は、

 

「あら、妹を持たない貴方に発言権は無くてよ。」

 

蓉子は好きでこのような事を言っているのではない、祥子は大の男嫌い、しかしこのままにしておくと祥子の将来が心配だ、人類の半分は男性なのだから・・・・、それは他のメンバーの総意でもある、だから祥子に男性と強制的に関わざるを得ない状況を作る事で、祥子の男嫌いを和らげようとしたのだ。

 

しかし祥子はそんな姉や友人達の気持ちも知らず、烈火のごとく怒っている。

 

「そんな!妹が居ないと言ったらシオンだって居ませんわよ!」

 

自分が逃れるために、シオンの事を言い始める祥子、それを見た蓉子は大きくため息をつき

 

「何でそこでシオンの話が出てくるの・・・・・・あの娘は黒薔薇様よ、それにまだ帰ってきていないじゃない、それとも貴方がイタリアまで迎えに行く?」

 

そんな姉の言葉に口をつぐみ、たじろく祥子、さらに火に油を注いだのは黄薔薇様だった。

 

「いいじゃない蓉子、それだけシオンの事を思っているのよ、令から聞いたけどシオンが居なくなってから、日に日に機嫌が悪くなっているらしいから。」

 

祥子は令の方をひと睨みして視線を黄薔薇様に戻した、その睨みは剣道であらゆる猛者たちと戦って着た令さえ震撼させたという・・・・・・・・・・。

 

「黄薔薇様!」

 

祥子の矛先が完全に黄薔薇様に行った、その時蓉子はふと不快感を感じた。

 

(何故かみんながシオンに好意的なことを言っていると気分が悪くなるわ、これは・・・・・・・・・・・・・嫉妬?)

 

まさかね、と思ってその考えを打ち切り、話を元へ戻す。

 

「それで?貴方はどうするのかしら?まあ選択肢は多くないわね。」

 

その言葉で、黄薔薇様相手に軽くあしらわれていた祥子のプライドに火がついた、

 

「・・・・・・・・・・・わかりました、シオンを連れ戻すか、妹を作ればいいのでしょう?ええ連れて来ます、連れて来ますとも!シオンも、そして妹も!」

 

こぶしを握り、そう言い切ったのと同時に薔薇の館のドアがノックされる。

 

「失礼します。」

 

まず入って来たミハイルの姿を見るや否や、祥子はミハイルに飛び掛った

 

「え?な、ちょっと!祥子さ・・・・・・・・・・」

 

ミハイルの意識はそこで途絶えた・・・・・・祥子の手に持たれていたのは、

 

「あれ令の竹刀よね。」

 

「ええ、しかも結構重いし当たるとかなりヤバ目ですよ・・・・・・。」

 

ヤバイと言っているのに余裕なのはシオンだからだろうか、しかしその余裕はすぐに打ち破られる、

 

「きゃぁ〜ミハイルさん!」

 

「「「「「ミハイルさん(様)?」」」」」

 

祥子を含む全員の目線が祐巳に集中する、祐巳はかなりたじろきながらも今までのいきさつを話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ〜ミハイル君が・・・・・・・・・・結構可愛いじゃない。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・しかしミハイル君も苦労しているのね・・・・・・・・」

 

どこか嬉しそうな顔の聖と、哀れむような表情の蓉子がとても対照的だった、しかし今重要なのはそんなことではない。

 

「紅薔薇様!白薔薇様!現実逃避している場合ではないでしょう!」

 

祐巳が慌てた声で言う、他のみんなも見てみぬふりをしている、

 

「大丈夫よ、シオンの弟君だから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・多分。」

 

自信なさげに言う令、当の祥子の顔は青ざめている。

 

「多分って何ですか、多分って!ミハイルさんが死んじゃいますよ!」

 

いつの間にか呼び方が「ミハイル様」から「ミハイルさん」に変わっている、祐巳の潜在的な何がそうさせたのかわからないが、無意識のうちにそうなってしまったようだ。

 

「・・・・・・・・・・いや・・だいじょう・・ぶです、祐巳さん」

 

そう言ってよろけながら起き上がるミハイル、その瞬間薔薇の館は安堵の雰囲気に包まれる、祐巳はツインテールをピョコピョコ揺らして喜んでいたし、由乃も安心したのか胸をなでおろしている、そして志摩子も満面の笑みを浮かべていた、でもこの中で一番安心したのは祥子なのだろう・・・・。

 

「すいませんミハイルさん!てっきりシオンかと思って・・・・・・・・」

 

「私がどうかした?」

 

急に後ろから聞き覚えのある声がした、その言葉を聞き、祥子が振り返るとそこにはなつかしい人が立っていた。

 

「全く、酷い言いようね、外まで聞こえたわよ、私達のノックの音も聞こえないくらいの大きな声がね。」

 

「「「「私達?」」」」

 

そう言ってシオンはドアの近くで震えていた少年を呼ぶ、

 

「貴方達・・・・・・今日は花寺高校かなんかとの打ち合わせなのでしょう?駄目よ、お客様待たせちゃ。」

 

シオンの言葉にハッとして思い出す一同、そして何故かみんなの前に現れた祐麒も唖然としている。

 

「申し訳ございません、所要により迎えに行く事を忘れておりました、失礼をお許しください、」

 

丁寧に謝罪する蓉子、しかし祐麒の目線は、口をあんぐりあけて一点に釘付けになっていた、

 

「どしたの?ユーキ君?」

 

シオンが訊ねると、答えは別の所から返ってきた。

 

「祐麒!」

 

その言葉の先には、祐麒とそっくりな少女が立っていた。

 

「祐巳!」

 

なにがなんだかわからない表情の祐麒、そしてこの混乱が収まるまで数十分かかったという・・・・・・・・・。

      

      


あとがき

       どうもケイロンです、天上の黒薔薇13話をお送りします、今回も

       あまりにも長くなりそうなため、分けました、これからまだ少し文化祭関係

       だと思います、ではよければ次もお読みください ケイロンでした。




薔薇の館で鉢合わせた祐巳と祐麒。
果たして、事態がどう転がるのか……。
美姫 「思いっきり、楽しんでるでしょう」
おう! この後の祐巳や祐麒の反応とか、ミハイルがどうなるのかとか。
祥子の妹がどうなるのか、とか。
美姫 「色々と面白い事が起こりそうな予感よね」
うんうん。江利子じゃないけれど、面白いことになりそうだ。
美姫 「それじゃあ、次回も楽しみに待ってます」
待ってます〜。



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