天上の黒薔薇
15話「配役決定」
「セント・エルモ」という物語の主人公は、王家の子であるカストルとクリュタイムネーストラの姉弟と、皇帝騎士団団長のイーダスの養子であるポルックスとヘレネの姉弟の物語だ。
基本的にはこの二組の双子の恋愛と悲劇を題材にした物語であるが、蓉子が物語を読み上げる途中、ミハイルがそれを遮った。
「ちょっと待ってください紅薔薇様。」
「何?ミハイル?」
はてな顔の蓉子と、少し取り乱しているミハイル、
「何ですかこの話は、めちゃくちゃ長そうですし、それに・・・・・・・・・恋愛ものじゃないですか!」
ミハイルは顔を真っ赤にして言う、何というか意外なミハイルの顔を見てまわりの人の顔も赤くなる、
「まあそうね、でもいいでしょう学園長が貸してくれたのよこの本。」
そう言って古ぼけた一冊の本を出す蓉子、しかしミハイルたちが反応したのはそこではない、
「・・・・・・・・・・学園長?」
ぴくぴくと震えるミハイル、
「・・・・・・・・奴か!」
こぶしを握り締めるシオン。
「「絶対に許さん!!!」」
この二人の怒りのオーラには、さすがに学園長室から望遠鏡を遣って覗いていた学園長も、卒倒したという・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・とりあえず話を読み進みませんか?聞いたことの無い話ですし。」
劇の中では豪放な熱血漢である祐麒が、一番冷静にその場を収めた、そして物語は進む・・・・・・・・。
その後ヘレネ達の父であるイーダスの策略により、国は荒れ、それを再興するという物語なのだが、如何せん悲しい場面もあり、感動の場面もあり令などは読み終わっても未だに目を潤ませている。
・・・・・・・・いいの?こんなお嬢様高でこんな重い劇をやって・・・・・?」
柄に合わず眼を潤ませているシオンが蓉子に聞く、
「いいと思うわよ、むしろ刺激が必要に思えるの。」
「それなら私としては反対する理由は無いわ」
みんなはどう?と言う感じで後ろを振り向いたが、反対の意見の者は居ないようだ。
「じゃあ役柄から決めましょう。」
蓉子がそう切り出した。
「まず決まっているのは、主役の四人ね
シオンがクリュタイムネーストラで、ミハイルがカストル。
祐巳ちゃんがヘレネで、祐麒さんがポルックスでいいかしら?」
これは満場一致で決まった、何といっても役にはまりすぎなのだ、祐麒は微妙なとこだが他の三人は役柄の性格が、今の性格と驚くほどあっている。
「さて、次からが問題ね。」
聖がそう言うと、みんなは真剣な表情になる、この物語は善悪がはっきりしている。
偉大なる王 ユピテル。
白亜の甲冑の義士 マクグレーネ
悲劇の女傑 ヘパイストーネ
気高き隠密 リノス
これらの登場人物は、シオンたち側つまり善であり。
狡猾な老狐 イーダス
冥府の死魔導 リンケウス
これらの人物は悪というわけだ、劇をやるからにはそれぞれ好んで悪役をやりたがる者は居ないだろう・・・・・・・・と思ったら。
「私リンケウスがやりたい。」
なんとまずはじめに決まったのは、悪役筆頭であるリンケウスからだった。
「江利子!何でそんな役やりたがるの?」
そんな江利子の不可解な行動に、蓉子は詰問する、すると帰って来た答えは、
「面白そうだから。」
蓉子は頭を抱えて自分の席に戻った、そうであった、鳥居江利子とはこういう人物だったのだ、そんな中。
「やっぱり悔しいけど、黒薔薇様とまともに剣の試合が出来るのは令ちゃんくらいよね・・・・・。」
由乃の言葉に皆頷く、マクグレーネは典型的なヒーローであり、(見た目だけは)令にピッタリであるが。
「・・・・・・・・・・・グスッ」
未だ眼を潤ませている彼女に、不安を抱きながらも、二人目の役が決まった。
そして会議の結果配役は次のようになった。
クリュタイムネーストラ シオン=ファシール
カストル ミハイル=フォイエンバッハ
ヘレネ 福沢祐巳
ポルックス 福沢祐麒
ユピテル王 藤堂志摩子
マクグレーネ 支倉令
ヘパイストーネ 佐藤聖
リノス 島津由乃
イーダス 小笠原祥子
リンケウス 鳥居江利子
語り 水野蓉子
「しっかし、天下の小笠原グループの祥子が、イーダスとはね。」
薔薇の館から帰る途中、聖が大声で笑う、祥子が配役には興味が無いと言ったので、こういう結果になった。
「私にとっては祐巳を妹に出来るかどうかがすべてですから。」
そう言って祐巳のほうを見る祥子、
その視線にドキッとしてしまった祐巳、
祐巳と祥子の賭け・・・・・・早くも祐巳の雲行きが怪しくなってきた・・・・。
「そういえばこうやって全員一緒に帰るのって、初めてじゃない?」
由乃が言った、
「そうね、今までは何だかんだ言って忙しかったから・・・・・。」
疲れたような顔をする聖、すると由乃が急に、
「そういえば黒薔薇様とミハイル君って、どこに住んでるの?」
こんな事を聞いてきた、するとミハイルから先に答えが帰ってきた。
「えっと、僕は小寓寺にお世話になっています。」
「へぇ、小寓寺かぁ・・・・・・・・・小寓寺、小寓寺・・・・・・・・って小寓寺ぃ!」
あまりにも普通に言ったので、危うくそのまま聞き流してしまいそうだったが、ミハイルの爆弾発言に、慌てる一同。
「小寓寺って、志摩子の実家の小寓寺?」
聖が恐る恐る聞く、
「ええそうですよ、皆さんどうかしましたか?顔色が優れませんよ?」
ミハイルの天然に、また頭を抱える一同、苦笑いを浮かべる志摩子、そりゃ仲良くもなる、ひとつ屋根の下で暮らしているんだから、
「だからいつも一緒に居るわけね、基本的に近寄りがたいミハイル君と晩生な志摩子さんが・・・・・・。」
少し不機嫌そうな顔で言う由乃、しかしミハイルは、
「晩生?・・・・・・・何のことですか?それよりもやはり嫌われていましたか、僕のような男の部外者は・・・・・・。」
そう言って悲しそうな顔をするミハイル、どうやら本気で嫌われていると想っているようだ・・・・・・・・・・・鈍感な事この上ない、少なくともこのメンバーの中で三人ほど脈ありなのに・・・・。
「全く、客観的に見てもミハイルはもてるんだから、近寄りがたいのは貴方の肩書きからよ、自信を持ちなさい、貴方は私と違って格好いいんだから・・・・・・。」
「「「をい!」」」
聖、蓉子、祥子の突っ込みがシオンに直撃する、三方向からの突っ込みににげ場は無く、その力をもろに受けてしまった。
「いたたた・・・・・・いきなり何するのよ!」
・ ・・・・・駄目だこの兄弟、ほんとに自分がどんなに魅力的かをわかっていない、
人数からしてみたらシオンの方がファンが多い、凛々しい振る舞いと、一般の生徒の前での天使のような笑顔(通称猫かぶり)はもう兵器級だ。
「あの・・・・・・。」
そんな中、白一点である祐麒が尋ねる、
「俺はいつ来たらいいでしょうか?。」
最もな質問だ、さっきからこの質問が出なかったのが不思議なくらいだ、それだけ祐麒がこの集団に馴染んでいるんだろう、そして祐巳も・・・・・・・。
「そうね、出来れば月水金の週三日来て欲しいわ、もちろん家での練習も欠かさずにね、
何しろ長いし、見せ場もあるでしょう。」
そう言って蓉子は微笑む、この劇には主役である四人にそれぞれ見せ場がある、
祐巳扮するヘレネは、カストルを庇い、絶命する際の告白。
ミハイル扮するカストルは、最後の命を削って戦場に現れ、戦いを収め絶命する時。
祐麒扮するカストルは、全てが終わった時のクリュタイムネーストラへの告白。
シオン扮するクリュタイムネーストラは、マクグレーネとの一騎打ち。
そして何よりも二つの炎となったヘレネとカストルが、二人と共に高台を駆け下りるシーンは、主役四人が一番活きるクライマックスだ、一人でも間違えたらとんでもない事になる。
「・・・・・・・頑張ります。」
相当なプレッシャーをかけられた祐麒は、がくっと頭を垂れる。
そんな祐麒をさらに聖がからかう、
「シオンとのラブシーン期待しているよ、祐麒君♪」
「あまりからかうんじゃないの、聖」
蓉子の一言ではいはいと言うのを辞める聖、そして祐麒の顔が真っ赤に染まる。
そんなこんなでリリアンを後にする一同、しかし遠くからその様子を見ている影がいたのを、気付く者はいなかった・・・・・・・・・・。
バチカン
「・・・・・・・ん!?」
アザゼルが何かに気付く、
「あの方角は極東・・・・・・・まさか!」
その瞬間天使化したアザゼルが、飛び立った。
「行かなければ・・・・・・・・・あの男がいる冥府(タルタロス)へ。」
そう言って瞬時に一筋の光となり、アザゼルは消えた。
あとがき
どうもケイロンです、天上の黒薔薇15話をお送りします、「セント・エルモ」
の件ではいろいろ説明不足ですいません、双子座神話というのはいまいち誰が兄で、誰が弟なのかというのが諸説あるため、「じゃあ登場人物以外、話考えりゃ良いじゃん」という結論に到達し、完全オリジナルとなっておりますのであしからず・・・・・。次回からは劇の練習に入っていくので、よろしければ次作も
ケイロンでした
無事に配役も決まり、次回からはいよいよ稽古〜。
美姫 「果たして、無事に済むのかしら」
最後のバチカンでの出来事が非常に気になるな。
美姫 「そうよね。次回も益々、面白くなりそうね」
という訳で、次回も楽しみに待ってます。
美姫 「待ってま〜す」