天上の黒薔薇
17話「天使」
体育館での練習を終えた一同は、薔薇の館に集まっていた、
いろいろあったが、シオンや蓉子、他の山百合会のメンバー達によって、一週間後に迫った学園祭に向けて準備が整いつつあった。
みんなの顔もどこと無く晴れやかだ、そんな時。
「シオンってあんなに歌上手かったのね・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そうだね、私もびっくりしたよ。」
蓉子と聖、それに他のメンバーも揃って首をたてに振る。
「でも祥子と令は驚いていないようね。」
「私達はイタリアで二度、シオンの歌声を聞いていますから、」
「ヴェネツィアのゴンドラの上でと、ピサの洗礼堂の中だったよね、洗礼堂の時は蟹名さんと一緒に歌っていたし・・・・・・・・・思い出したら涙出てきた。」
江利子の言葉に、祥子と令はうっとりしたようにイタリアでの歌声を思い出す、
「でもミハイル君もすごかったよね、ピアノ、」
由乃が言う、どうもシオンばかりを誉める蓉子達が少し気に食わなかったらしい。
「そうですね、黒薔薇様の歌に隠れてあまり気付きませんでしたけど、これってすごい事ですよね、黒薔薇様の歌と同等に渡り合えて、違和感を感じない事自体が・・・・・・・・・。」
志摩子がそういうと、みんなもそれに気付きミハイルの方を見る。
「・・・・・・・・・そういえばそうか、二人ともすごいわよね・・・・・・・・・・。」
江利子の言葉にシオンとミハイルは、これ以上追求される事を避けるため、
「この書類、委員会の人に届ければいいのね?」
「僕は聖堂でお祈りをしてきます、皆さんごきげんよう。」
そう言って同時に席をはずした、その時シオンの心では、
(ファリネッリに師事したとは言えないし、いろいろな歌姫を育てたとも言えないしね・・・・・・そういえばあの子は元気かな?私がイギリスに居た時だから四十年くらい昔ね、あの子の声なら有名になっていると思うんだけど・・・・・・・。)
そう思いシオンは数十年前の弟子を思い出し、穏やかな笑みを浮かべた、しかしシオンは知らない、シオンと違い、時の流れを受けている彼女が今、世紀の歌姫と呼ばれている事を・・・・・・・・。
二人は薔薇の館を後にした、今物語の幕は切って落とされようとしている・・・・・・・・・・・・。
荒地
「な、なに?ここは!」
蓉子が思わず叫んだ、他の面々は驚きで声も出ない、薔薇の館の扉を開けた途端、目の前に広がっていたのは一面の荒地、砂嵐が吹きすさび、申し訳ない程度に枯れ果てた木々が数本ある、いつの間にか振り返ってみると、そこには薔薇の館も姿を消していた、
「こんなの・・・・・・・・・・夢じゃないの?」
360度見渡す限りの同じ世界の中、一同は途方に暮れていた、そんな中この光景に見覚えのある人も居た、
((あれ?この光景どこかで・・・・・・・。))
そう思い、自分でも驚くほど冷静である聖と志摩子は思った、そしてこの二人も・・・・・・・・。
(あれ?なんだろうこの感覚・・・・・・・・心臓の鼓動が早くなってるような・・・・・・・っ!)
突然祐巳がうずくまる、するとそれと同時に祐麒も・・・・。
「何だ・・・・これ・・・・・頭が・・・・・・・・・・・うああああああああああ。」
この非現実的な状況の中、さらに二人の突然の頭痛、山百合会の面々は完全に冷静さを失っていた、そんな中福沢姉弟から光があふれ出す、その光は二人からあふれ出し、二体の天使へと姿を変えていく。
「何なの・・・・・誰なのよ貴方たち!」
祥子が叫ぶ、傍らにはピクリとも動かない福沢姉弟の姿があった。
「・・・・・・・・・・・誰?違うな、誰とは人に対し言うもの。」
黒い羽の天使がそういうと、
「我らは天使!暗愚なる人間どもを滅ぼす者なり!」
二体の天使に驚いて声も出ない一同、そんな彼女達にお構いなく、黒い羽の天使は、
「吾が名はルシファー・・・・・・・・・・この世の光と闇、流れを統べる者」
「吾が名はミカエル・・・・・・・・人間どもを扇動し破滅へと導く光なり」
そういうと二人はゆっくりと彼女達の方へ目を向ける。
「汝らは我らが障害になりうる。」
「ここで死んでもらう!!!!!」
そう言うや否や、二体の天使の手に漆黒の光が集まる、その光は恐怖で動けなくなっている聖たちに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・届かなかった。
その光は聖たちに届く前に、白銀に輝く光のヴェールによって阻まれたのだ、その先に居たのは・・・・・・・・・・・
「やはり・・・・・・か、危ないところだった・・・・・・・俺は幾千年前の過ちを繰り返す所だった・・・・・。」
「福沢さんたちを睨んでいて正解でしたね、やはり僕達が憑いていましたか・・・・・・・・・・。」
そこにはシオンとミハイルが立っていたのだ・・・・・・・・・
聖堂
(主よ・・・・・・・我らの正義と彼女達を守りたまえ・・・・・・そして彼らも・・・・・・・・・・・・・・。)
ミハイルはその時聖堂でお祈りをしていた、司祭である彼にとってお祈りは生活の一部であり、欠かす事のできない物なのだ、
「・・・・・・・・・・・・・・・まだやっていたのね、」
不意にシオンがやってきてミハイルに声をかけた、その顔はどこか悲しげだ。
「・・・・・・ええ・・・・現状はどうであれ、僕は主への祈りは欠かしません、人間の再生を信じて・・・・・・・・。」
「・・・・・・・そう・・・・・・貴方の転生先はいつも幸せだったのね、それは理想論よ、変わるものもあれば変わらないものもある、私達はその中の数少ない物を、取捨選択し続けなきゃならない、それは辛い事よ。」
シオンが言う、どこかミハイルを試しているようだ。
「・・・・・・・・・それでも僕は、僕は僕の心は変わりません!」
「そう・・・・・・なら私に何も言う事はないわ、唯一つだけ・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
そう言ってミハイルを抱きしめ、
「・・・・・・・・・・・私が居なくなった時、彼女達の記憶を消して・・・・・・・出来れば後々の面倒も見て欲しいの、彼女達はもう巻き込みたくないから・・・・・・・・・・・・・。」
涙をこらえながら言うシオン、ミハイルはそれに無言でうなずき、彼女の頭を撫でた、そんな時。
ゾクッ
シオンとミハイルに悪寒が走った、大きな負のオーラが開放されようとしている、
すると、
「シオン!ミハイル!大変だ!」
シオンとミハイルの前に降り立ったのは、アザゼルとレミエルだった、
「シオン様!ベルゼブル様がタルタロスより姿を消しました!その影響で各地の闇の眷属達が活性化しています!」
レミエルの報告に驚きを隠せない二人。
「何だって!あいつが!?・・・・・・・・・・・・・・・・・・ベリアルか!」
かつての親友が進んで現世(うつしよ)に戻ったわけではない事は明白だ、ベリアルの姦計により利用されたのだ、シオンの心は怒りで溢れていた。
「お鎮め下さい!シオン様!貴方様が冷静さを失われてはベリアルの思う壺ですよ!」
そんなレミエルの言う事を耳にも入れず、シオンは聖堂を出ようとする、
「・・・・・・・・・・・・・待って下さい、兄様。」
その言葉にシオンは驚いて振り返ると。
パシッ
シオンの頬が叩かれる、
「貴方がそんなんでどうする、僕達だってみんな怒りを感じているさ、自分だけが辛いと思うな!貴方は誰だ!」
ミハイルの言葉にうつむいて何も言えないシオン、
「・・・・・・・・・・・考えましょう、全員が幸せでいられる方法を・・・・・・。」
ミハイルの言葉に、シオンは無言で頷き、聖堂のドアを開けた。
「シ、シオン様!!!!」
「いいんだ、レミエル、兄様はもう大丈夫、」
レミエルにそう答えるミハイル、そして。
「・・・・・・・・・行くぞミハイル、次元の歪曲が見られたのは薔薇の館付近だな、」
「ええ・・・・・・・行きましょう、大切な人を守るために!」
二人は駆けていった、そんな二人の背中には天使の羽が揺れていた・・・・・・・・・・・・。
荒地
「シオン!」
「ミハイルさん!」
二人の登場に希望を見出す一同、シオンはにこりと微笑んで
「もう大丈夫だ、何も心配する事はないよ」
「皆さんは後ろに下がっていてください、危ないですから。」
聖たちは何故か何も言えなかった、どうやってここに来たのか、奴らは誰なのか、聞きたい事は山ほどあったのに、そんな事は一気に霧散してしまったのだ、彼らの存在だけで勇気と希望の光が、彼女達に降りかかるような、不思議な感覚だった。
彼女達を安全な場所、と言っても周りに隠れる所など皆無なので、適当な所へ下がらせてから、改めて二体の天使と対峙した。
「・・・・・・・・・・・・・・・待たせたな、お前らは誰だ?」
冷静に、それでいて有無を言わせぬ物言いをするシオン、そんなシオンに天使は、
「吾が名はルシファー、天使である我らの前に立ちはだかる事、実にばかげている。」
そう言うともう一体の天使が、
「我らの邪魔をした罪、万死に値する、消えて無くなれ!」
白い天使がいきなり光の弾を打ち出した、その弾はシオンに近づくにつれ、大きさと速さを増し、迫っていた。
そして光が拡散し、周りが白い光に包まれる。
「脆い・・・・・・・・・・・・・・こんなにも弱い人間どもを生かしておく必要はない。」
黒い天使が嘲笑しながら言う。
「それはどうですかね。」
「なに!」
黒い天使が驚いて振り返ると、そこには白い光を片手で受け止めているミハイルが居た。
「悪いなミハイル、でもこいつは俺に任せてもらえないか?」
黒い天使を指差して言うシオン、
「解かりました、では僕はこの天使の方を・・・・・・・・・・・・・。」
そう言って白い天使を見るミハイル、しかし天使の様子がおかしい。
「何故だ・・・・・・・・・・・・何故天使である我が、何故我が人間に恐怖を抱かねばならぬ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・不正解。」
白い天使の言い終わる前に、ミハイルは天使の右腕を切り落とした、その手には光り輝く剣が握られていた。
「僕達は人ではありませんからね」
一方シオンの方でも、
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
悲鳴を上げる黒い天使、その身体の関節という関節は、シオンによって異常な方向に曲がっている。
「・・・・・・・・・・・・殺しはしない、ここで殺せばベリアルと同じになる・・・・・・・・・・・。」
そう言ってシオンとミハイルは二体の天使を同時に離し、
「今すぐ彼女達をここから解放しろ!一刻も早くだ!」
しかし天使たちの反応はない、
「どうしたんでしょう?兄様?」
「クックックッ」
天使たちのほうから笑い声が聞こえる、しかし普通の笑い声ではない。
「わ、我らは・・・・だ・・大天使・・・に・・人間などに・・・・・・・・・・負けるなど・・・・あ・・・りえぬ!」
彼らの光はそれぞれ白い天使が赤、黒い天使が紫の光に変わり始めた、そして。
「地獄の業火に焼き尽くされるがいい!!」
白い天使が言うのと同時に、黒い天使からは青白い稲妻が放たれる、しかも卑怯な事にそれは、避難していた聖たちの方へ向かっていったのだ。
「きゃあぁぁぁーーーーーーーーー!!!!!」
紅き炎と蒼き稲妻が、螺旋状になり聖たちに向かっていく、すると、
「・・・・・・・・・・・・・させない!」
静かに言い放ったシオンの声を、誰が聞き取れたであろうか、次の瞬間、紫の糸のような物が、幾重にも重なったような壁が立ちふさがり、彼女達を守った、そしてそのシオンの背中には十二枚の天使の羽がなびいていた・・・・・・・・・・・・。
「シ・・・・・オン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
「滅麒雷鳴牙!!!」
シオンの放った綺麗な紫の光は、白の天使を貫いた。
「グ、グアァァァァァァァァァッ」
天使はもはや原形をとどめるだけで精一杯のようだ、そんな中最後の力を振り絞り、
「お・・・前達・・・・・は・・・・・・・・・・一体?」
「俺たちはお前達、そしてお前達は俺たちだ。」
意味深な言葉を言うシオン、そして最後にミハイルが、
「貴方達の光を、僕の炎で浄化しましょう、来世での幸せを願って・・・・・・・・・・・。」
そう言うとミハイルの身体が白い光に包まれる、その背中には大きな翼があった。
「我、大天使ミカエルの名に於いて、この者たちの来世での幸福を与えたまえ、臥龍鎮炎!」
二体の天使は、ミハイルの炎に導かれるように、灰となり天へと上っていった、
「逝ったな・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・そうですね、でも大変なのはこれからですよ。」
そう言って後ろを振り向くミハイル、シオンもそれと同時に振り向いた、今のシオンたちに羽はついていない。
「シオン・・・・・・ミハイル・・・・・・・・・貴方達は一体?」
怯えながら、必死に訊ねる蓉子、他の面々も恐怖で顔を歪めている。
「・・・・・・・・・・・・・・黙っていて悪かった。」
「貴方達に心配させたくなかったんです・・・・・・・・・・・。」
そういうと二人はまた羽を広げる、
「俺の本当の名前はルシファー・・・・・・・・・人間達に堕天使と呼ばれている者だ。」
シオンの背中に揺らめく、漆黒の十二枚の羽、その姿は、彼女達が教えられてきた堕天使ルシファーの姿とは、あまりにもかけ離れていた、中世の絵のような邪悪な雰囲気はなく、むしろ、今までのシオンそのままだ、
そして。
「僕の本当の名前はミカエル・・・・・・・・・・・巻き込んでしまってすいません。」
そう言って頭を下げるミハイル、そしてミハイルが言い終わらないうちにシオンが
「次元の門を開く、みんな目をつぶって、」
次の瞬間、一同は薔薇の館の前に立っていた。
あとがき
どうもケイロンです、天上の黒薔薇17話をお送りします
シオンたちの正体判明です、詳しい事は次で・・・・・・・・・
とまあ、よろしければ次回も では。
遂に二人の正体が明らかに。
美姫 「それでも、まだ残っている幾つかの謎」
次回以降も目が離せない〜。
美姫 「次回が待ち遠しいわ」
次回も、楽しみに待ってます。
美姫 「じゃ〜ね〜」