天上の黒薔薇

 

18話「過去への扉」

 

 

倒れていた福沢姉弟を薔薇の館に運び、円卓にシオンとミハイル以外の一同が座る。

 

「何から話したらいいのか・・・・・・・・・・・。」

 

シオンはうつむく。

 

「にわかに信じられないんだけど、シオンたちが天使っていうのはほんとみたいね・・・・・そうすれば納得がいくわ、異常なまでの身体能力とかその他もろもろ・・・・・・・・」

 

「それは違いますよ蓉子さん。兄様は・・・・・・・・・・」

 

ミハイルが言いかけると。

 

「いいんだミハイル、それよりも今俺たちにはすべき事があるだろう?」

 

そういうと、シオンは未だに意識回復の兆しが見えない、福沢姉弟の方へ目をやった。

 

「彼女達が手遅れになる前にな。」

 

「!!!ちょっと待って!手遅れって何!?」

 

蓉子が慌てたように言う。

 

「さっきボクたちが倒した天使たち、あれは祐巳さんや祐麒さんの魂であり、僕たちでもあるんです。」

 

今の一同の頭にははてなマークがついているだろう。

 

「人間には生まれながらに守護天使に守られている、その数は一体の人もあれば、数体の天使の加護がある人もいる、彼女達には俺たちの魂が守護天使として大多数を占めていたんだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・祐巳ちゃんはミハイル・・・・つまり大天使ミカエルの、ユーキ君は俺・・・・つまりルシファーの魂が宿っていた・・・・・・・・・。」

 

そこで言葉を詰まらせるシオン、

 

「だからそれが何故あの子達の命に関わるような事になるの?」

 

聖が言う、どうやらみんな落ち着きを取り戻しつつあるようだ。

 

「今、ある事がきっかけで現世(うつしよ)の負の力が増大しています、

僕達は信仰の中でも対極に位置する存在です、人間達の負の思いは僕達へと向けられていました、兄様は堕天使として、僕は上に立つ者としてのねたみ恨み、しかしそれらのものは僕達ではなく、彼女達の中に蓄積されていった・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

「それが今回の事件によって一気にはじけたって事だ、彼女達の大多数を占めていた魂は実体となって俺たちの前に現れた、魂がほとんど抜けた今の状態じゃ、死んでるようなもんだ、早く何とかしないとほんとに取り返しがつかなくなる!」

 

シオンがそういうのと同時に、福沢姉弟の様子が急変する。

 

「大変!祐巳さんと祐麒君が!」

 

「どいてください!」

 

ミハイルは祐巳の側に近づき、そっとその身体を持ち上げる、すると次の瞬間、

 

「〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

 

全員は言葉を失った、なんとミハイルは祐巳にキスをしていたのだ、しかも長い間、お互いを確認するように・・・・・・・。

 

「ちょ、ちょっと何やってるの!ミハイル君!?」

 

「応急処置です、今僕の魂の一部を祐巳さんに与えました、じきに目を覚ますでしょう。」

 

実にあっけらかんと言うミハイル、文化祭の劇が恋愛もので顔を紅くしていた人と同一人物とは思えない・・・・・・・・・・・・・・・。

 

すると祐巳の苦しみの声はやがて、規則正しい寝息へと変わっていった。

 

「さあ、こっちも何とかしなきゃね。」

 

そう言ってシオンは手を掲げる、その手には紫の光が集まっている。

 

「・・・・・・・・・・・・まあ口移しが一番手っ取り早いんだけど、今の状態でするのには問題あるから、これで勘弁してくれ。」

 

そういうとその手を祐麒の胸へと振り下ろす、その光は彼を包み込むように祐麒の中へと浸透していった、そして最後に聞こえて着たのは、同じような規則正しい寝息だった。

 

「ふう〜何とかこれで大丈夫そうだな。」

 

「ところでどうします、兄様?レミエルに頼んで、今起きた事を全て忘れてもらいますか?」

 

そこで身構える聖たち、しかしシオンは。

 

「・・・・・・・・・・・・いや、もう怪我人も出たんだ、あいつらの目的が彼女達にあるのは間違いないのだから、いっそ全て話して協力してもらおう。」

 

「??????話が全然読めないんですけど?」

 

聖が言う、

 

「全てを話します、少し長くなるので座っていてください、今ローズティーを淹れてきます。」

 

その後ミハイルが帰って着た後、話し始めた。

 

 

 

 

 

 

「単刀直入に言おう、俺やミハイルがここに居る理由、それは貴方達を守るためだ、それだけは信じて欲しい。」

 

シオンの意思のこもった言葉に少したじろくも、何故かシオンへの疑いの気持ちは微塵も感じないのだった。

 

「・・・・・・・・・・・・・敵はベリアルとグリゴリ連中、それに・・・・・・・・・・・・・ベルゼブル・・・・・・。」

 

そこで言いよどむミハイル。

 

「ちょっと待って!何で私達が天使様に狙われなきゃいけないの?」

 

江利子が叫ぶ、いつも冷静な彼女らしからぬ行為だ。

 

「・・・・・・・最後まで聞いてください、今は僕達の話を聞いてくれませんか?」

 

そう言って江利子をなだめた後、今度はシオンが話し始めた。

 

「貴方達は『失楽園』についてどれくらいのことを知ってる?」

 

不意にシオンが言った。

 

「『失楽園』って、確かアレはルシファーが主に反乱を起こして、それを大天使ミカエル様が・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あっ!」

 

目の前に居る人物を思い出し、言いよどむ祥子。

 

「・・・・・・・・・そうですね、一般的にはそういわれてます、でもおかしくありませんか?現に僕と兄様は今ここに居る、僕に倒されたはずの兄様がですよ。」

 

ミハイルの言葉に最もだと言う顔をする一同、しかしまたさらに疑問が浮かぶ。

 

「・・・・・でもそれならどうして、ルシファーが悪ということになっているの?」

 

蓉子が聞く、

 

「それは人間が作り出した話だからだ、話そう、真実の『失楽園』を・・・・・・・・。

 

そう言ってシオンはまた語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

原始・・・・・・・・・混沌と呼ばれる暗闇の中、主は自らの代行者として炎より天使を作り出した、

彼らはまず『無』から『有』を作り出した、次に『光』と『闇』を、そのようなサイクルを繰り返し、彼らは楽園と呼ばれるものを構築していった、これが天上である、

 

ある日、主は彼らにこの楽園を地上にも作りなさいとおっしゃった、そしてその際、

天使たちの指導者が決められた

 

ルシファーを頂点とし、

 

七大天使として ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエル、レミエル、メタトロン、サリエ

ルが選ばれた、中でも最初の四人の天使は、中でも四大元素を自らの光に持つ四大天

使と呼ばれるようになった。

 

そして、その七大天使を統べるミカエルの兄であり、総司令官でもあるルシファーの元に

も、アザゼル、ベリアル、ベルゼブル、シェムハザ、アスタロト、アスモデウスの六人の天

使がいた、

ルシファーとミカエルは協力してよく世界を統治し、地上の楽園は作られた、

天使というのは基本的に中性、さらに不死のため子孫を残す必要はないが、彼らの中に

は互いを必要とし、いつも一緒に居るもの達も居た、ルシファーとガブリエル、ミカエルと

ラファエルもそんなうちの一人だった、しかし、人間と言うものが出来、状況は一変する・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人間と言う存在は、やりすぎた・・・・・・・・・・・・バベルの塔の話は知っているよな?」

 

そう言って同意を求めるシオン、これはカトリック系の彼女達だけでなく、多くの人が知っている事だろう。

 

「あの事件の後、天上は二つの意見に割れたんです、兄様を中心とする、人間達とは関わりを絶ち好きなようにやらせる、滅びようがそれは人間達の責任と言う事で黙視するという意見の者と、僕をはじめとする、どうにかして人間達に協力しようという意見の者たちにです。」

 

「だけど遅すぎたんだ、その時にはもう・・・・・・・・・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルシファーたちは急ぎ地上へと向かっていた、彼らとは意見は違えど大切な仲間であるガブリエルたちを止めるために、

 

「待てガブリエル、今の地上に行くのは危険すぎる!」

 

「大丈夫よルシファー、彼らはみんな私達の子供たちのような者じゃない、話して解からないはずがないわ。」

 

百合の花のようなガブリエルの笑顔をルシファーが見たのは、それが最後だった、

次に見たときは無残にも人間達によって、亡き者にされた彼女の姿だった。

 

「ガブ・・・・・・リ・・・エル」

 

(天使様の生き血を飲むと不死になれるんだってよ。)

 

「・・・・・・・・ガブリ・・・・エ・・・ル」

 

(そうなのか?俺にも分けてくれよ。)

 

「ガブリエルーーーーーーーーー!!!!」

 

そこに居たもの、在ったもの、全てが闇に包まれた、叫ぶ暇もなく、痛みも感じず、そこ一帯は闇と化した。

 

「・・・・・・・・ルシファー様!」

 

その闇の中、ベルゼブルがルシファーの元へとやってきた。

 

「!!!!これは!!」

 

ガブリエルの魂の残骸と、周りの惨状を見たベルゼブルは一瞬言葉をなくし、たたずんでいた、その時、

 

「ああああああーーーーーー」

 

ぼろぼろの服を着た女性が、刃物を持って、呆然としているルシファーへと向かっていった、

 

「危ない!」

 

ベルゼブルは咄嗟に白い光で女性を止めようとした、しかし女性は避けようとしない。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁーーー。」

 

悲鳴を上げて倒れる女性、倒れた先、丁度ルシファーの足元辺りには一人の赤ん坊の死体があった。

 

「!!!!!!!!彼女は自分の子供を助けるために!?・・・・・・・・・・っ!」

 

我に帰ったルシファーとベルゼブルは、声にならない叫び声を発した、自分のしたこと人間に対する不信感、それと愛情と言う言葉の意味、暗闇の中で二人はゴールのないトンネルにたたずんでいたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・それからは実に事務的な作業だったよ、主の使いが来て一部以外のすべての人間を滅ぼす事、そして新しい世界には指導者となる者には天使、もしくはその加護がある者に行わせ、間違いを起こさないようにする事が決まったんだ。」

 

「ちなみに今のローマ教皇はアザゼル、日本の警視総監はレミエル、あとここの学園長も・・・・・・・。」

 

学園長も天使だったことに驚く一同、しかし想像以上に狼狽している期間は短かった、やはり誰もが彼女にはただならぬ気配を察していたのだろう、

すると不意に志摩子が、

 

「でもアザゼルは堕天使なのでは?」

 

「・・・・・・・言っただろう、所詮そんなのは人間達が考えた物、俺たちは別にいずれ起こるであろういさかいを正しただけ、ノアの箱舟の原因を作ったのはあくまで人間達だ。」

 

「人間達の立場から言えば僕たちが悪なんでしょうね、だけど人と言う生き物は自分を肯定したがる、だから人間の前に敵として現れていない僕を正義、兄様を悪として事実を書き換えたんですよ。」

 

「ミカエルたちはモーセやキリスト、ムハンマドなどの人物を送り出し、ターニングポイントには自ら転生し、人間としてそれを監視していたんだ・・・・・・・・・・・一人を除いてな。」

 

そう言って顔をしかめるシオン、

 

「それってもしかして・・・・・・・・・・・・・ベルゼブルさん?」

 

聖の言葉に驚きを隠せない表情のシオン、しかしすぐに真面目な顔になり、

 

「ああそうだ、あの事件以来俺が作り出した闇は冥府(タルタロス)となり、あいつはあのときのことを未だに悔やみ、行きながらに死ぬ事を選んだんだ。」

 

本当に辛そうに言うシオン、

 

「・・・・・・・・・・でもベリアルが反乱を起こし、ベルゼブルを操って地上を滅ぼそうとしている、僕が日本に来たのはそれを阻止するためです。」

 

「ちょっと待って!じゃあシオン・・・・・・・・・・ルシファー様の目的は何だったの?」

 

祥子が詰問する、そんな祥子を見てやれやれとため息をつき。

 

「まあ別に話してもいいけど、さっきからの俺の言動に違和感を感じない?」

 

質問を質問で返すシオン、そんなシオンを見て首をかしげながらも、一同は考える。

 

「!わかった、しゃべり方!」

 

聖がいち早くその事に気付く。

 

「・・・・・・・・・・・おいおい聖、あなたは俺が最初男の姿をしていたときのことを知っているだろう?何故そんなに考え込む!?」

 

憮然とした言い方で言うシオン。

 

「ゴメンゴメン、シオンが男だったなんて頭の片隅にさえ残っていなかったよ、だってあんなに可愛いんだもん♪」

 

順応性が異常に高い聖は、会話の語尾に♪をつけれるくらいの余裕な表情で言ってのけた。

 

「「「「「「!!!!!!!!!!」」」」」」

 

驚いて言葉が出ない一同、

 

「・・・・・・・・・・・・なんか盛大に誤解されてるみたいだから、説明してもいいか?」

 

そう言って唯一固まっていない聖に、同意を求める。

 

「まあいいんじゃない、すぐに慣れるよ」

 

出来れば慣れて欲しくないなと思いつつ、みんなが戻ってきてから話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は人間に対する不信感を払拭する事を、主に命じられた

そこで人間として輪廻転生を繰り返す事にしたんだ。」

 

「えっと・・・・・・・・・・・それは他の天使様たちとどこが違うんでしょうか?」

 

令が申し訳なさげに訊ねる。

 

「僕たちはあくまで、世界の間接統治、兄様は人間としての転生を繰り返す事で、多くの人々と触れ合う事になったんです。」

 

「・・・・・・・・・もちろん人間嫌いの俺にとっては、簡単にOKを出せる問題じゃなかったさ、でもな・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

そこで口をつぐむシオン、

 

「幾千年の年月を重ねていれば、失った相手に会えるかもしれない・・・・・・・・・・そう思ったらな・・・・・・・・・・・・・。」

 

「兄様はそれ以来、世界中の国や地域に転生していたようです、もちろん人間の子供としてね。」

 

「でも問題なのは性別なんだよな、俺たち天使は基本的に中性で、男でも女でもないし、ここ数百年は女に転生してたんだけど、今回久しぶりの男でやりにくいやりにくい・・・・・・・。」

 

シオンがやれやれといったジェスチャーをする。

 

「ましてイタリアで再天使化した今じゃ、中性に戻ってるからな・・・・・・・・・・・・・・・なぁ?どうしたらいい?」

 

シオンがおどけて聞く、みんなはまだ混乱しているようだ、そんな中。

 

「やっぱりシオンは可愛い女の子が合ってるよ。」

 

聖が言った。

 

「完全に聖の場合は趣味の気もするが・・・・・・・・・・・・・・・まあいいわ、今までのしゃべり方で。」

 

そう言って立ち直るシオン。

 

「あ、学校に来る時はちゃんと女性化してくるから安心して、」

 

シオンがくるりと一回転すると、少し背が低くなり、女の子らしい雰囲気に変わる。

 

そんな中

 

「・・・・・・・・・・・・・・まあ正直混乱してるけど、シオンのことは信じるわ、大切な親友ですもの。」

 

祥子が言う。

 

「そうだよね、親友だもんね、私達・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

令も続く。

 

「私達を忘れてもらっちゃ困るわね。」

 

声の方にシオンたちが振り返ってみると。

 

「私達だってシオンの仲間よ、おいしいとこだけ持っていかないで頂戴。」

 

悪戯っぽい顔で言う蓉子、他のみんなも同じ気持ちのようだ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・みんな。」

 

シオンは涙ぐんだ、そして誓うのだった。

 

(彼女達は絶対に守ってみせる!もう失楽園はいらない・・・・・・・・。)

 

その日はシオンの心のしこりが少し解けたような、そんな一日だった。

      

      


あとがき

       どうもケイロンです、天上の黒薔薇18話をお送りします、過去編です

       重いですね・・・・・・・・・・・次回は明るくやる予定なのでよろしければ

       次回も、では。




遂に明らかになるシオンたちの過去。
美姫 「ベリアルは、どんな行動を起こしてくる気かしら」
そして、福沢姉妹は。
美姫 「気になる展開は、次回以降ね」
みたいだな。
次回は、明るくなるそうだけど。
美姫 「果たして、どんなお話が待っているのか」
次回も、楽しみにしてます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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