天上の黒薔薇
19話「三人娘」
「う〜ん・・・・・・・・・・・・・・・・」
薔薇の館が、弾劾裁判所のような雰囲気から、いつもの笑い合える空間になった時、祐巳が目を覚ました、
「あれ?私寝ちゃってたんですか?何かとても嫌な夢を見ていた気がします・・・・・・・・・・・・。」
祐巳の言葉に、真実を言いかける祥子、しかし、
「おはよう祐巳ちゃん、ここ最近忙しかったから貧血で倒れちゃってたのよ、フフッ、姉弟そろってね、もう大丈夫だとは思うけど無理しちゃ駄目よ。」
シオンが微笑しながら言う、そんなシオンに祥子は詰め寄って
(ちょっとシオン、何で本当のことを言わないのよ?)
(彼女達には言わない方がいい、ただでさえ狙われやすいんだ・・・・・・・・・余計な神経を使わせたくない・・・・・・・・。)
そんな事を話しているとは露知らず、祐巳はきょろきょろと周りを見回し、そして一点を見て止まった、そこには。
「よかった祐巳さん、目を覚ましたんですね。」
にっこり笑顔を浮かべているミハイルが居た、すると祐巳の表情が変わった。
「????どうしたんですか??」
心配そうに訊ねるミハイル、
「・・・・・・・・・・・・・・イ・・・・ル・・・さん・・・。」
「はい?」
「ミハイルさぁ〜〜〜ん♪」
いきなりミハイルに抱きつく祐巳、突然の出来事に周りの人達は、目を丸くしてその姿を見ている。
「ちょっ、ちょっと待って下さい!どうしたんですか!祐巳さん!?」
当然のことながら抱きつかれているミハイルが、一番動揺しているだろう、以前は周りから見たら祐巳がミハイルに好意を持っていると言う事は、周知の事実であったのだが、鈍感なミハイルは気付いていなかったのだ、それなのに今祐巳に抱きつかれている、ミハイルは祐巳顔負けの百面相をしていた。
「あらま、随分大胆ねぇ祐巳ちゃん。」
江利子が格好のおもちゃでも手に入れたかのような笑みを浮かべる。
「ちょっと何皆さん落ち着いてるんですか!祐巳さんも離れてください。」
必死で祐巳を引き離そうとするミハイル、しかし祐巳は一向に離れようとしない。
「無駄ねミハイル、全く、いくら非常時といえ祐巳ちゃんに入れる魂の量が多すぎたのよ、
このままじゃ、初めて親鳥を見た雛状態でずっとなつかれるわよ。」
シオンがあきれたように言う。
「ちょっと姉様!困りますってそれ!どうにかならないんですか!?」
ミハイルがおどおどしながら聞く、
「無いことはないんだけど・・・・・・・・・少し妙なのよね、いくらミハイルの魂が飽和状態だったからって、あそこまで極端になるものなのかしら?」
おいおい、と心の中で二人以外の誰もが突っ込みを入れた、傍から見れば祐巳がミハイルに好意を抱いているのは周囲の事実、気付いていないのはシオンとミハイル、そして本人だけだ。
「そうですね、何故なんでしょう?」
どうやら本気で悩んでいるようだ、そんな状態を見るに見かねたのは由乃だった。
「あの、黒薔薇様。」
「なぁに、由乃ちゃん?」
「もし祐巳さんが、ミハイル君に何かしらの好意を抱いていたなら、この状態は説明がつくのですか?」
「ええ、そうねそういえばミハイルと祐巳ちゃんは親しげに見えたけど、もしかして?」
ニヤニヤしながら話をミハイルに振るシオン、しかしミハイルは涼しい顔をして、
「からかわないで下さいよ姉様、僕のようなのを好きになる人なんか・・・・・・・・・・・・・・・」
「居るわよ。」
ミハイルが最後まで言い終わらないうちに、目の前の少女によって言葉は塞がれた。
その言葉を塞いだ少女、由乃はとんでもない事を言い出した。
「私も祐巳さんも、ミハイル君の事好きよ、ミハイル君がどう思うかわからないけど祐巳さんからも聞いたし、間違いないわ。」
いたって涼しい顔で愛の告白をする由乃、その姿にミハイルだけでなく、全員が目を丸くする。
「よ、よよよ由乃さんっ!?」
「なぁに?」
いたずらたっぷりな目で返されたミハイルは、由乃の姉である令に目で助けを求めたが、その目は、
(ごめん、ああなった由乃は止められないんだ)
そんな雰囲気を漂わせ、いつの間にか手を前で合わせていた、このジェスチャーは「ゴメン」なのか「ご愁傷様」なのかどちらなのだろうか・・・・・・・。
「でもねぇ・・・・・・・・・」
由乃は真剣な顔になる。
「一番の強敵は、祐巳さんじゃないのよね。」
「あら、それって誰?由乃ちゃん。」
だんだん由乃ペースになってきて、蓉子たちが面白がってどうからかおうか考えていた時、一人だけ複雑な顔をしていた人がいた、
「ねえ、志摩子さん・・・・・。」
みんなの視線が志摩子に集まる、当の志摩子は至って動揺した様子も無く、由乃の方を向いてニコニコしているだけである、
「ちょ、ちょっと待って下さい!志摩子さんが僕を好きなはずが・・・・・・・。」
しどろもどろしながら言うミハイル、
「あら、そうなの?」
由乃がニヤニヤしながら志摩子の方を見る、
「そうですね、好きではないです。」
志摩子の言葉に内心ほっとしたミハイルだったが、少し複雑である、由乃とは言うと意外な答えに納得いかないようだ。
「あら、それじゃあ私達がミハイル君を獲ってもいいのかしら。
「・・・・・・・・・あの、僕は物では・・・・・・・・・・・・・。」
と言おうとしたがにらまれて最後まで言えなかった、修羅場でのお穣さん達は、大天使をも震え上がらせる物であったと言う(笑
「・・・・・・・・・・・・・・ダメ」
か細い声で言う志摩子、少しポーカーフェイスがくずれて着たように感じる。
「でも好きではないのよね?だったら別に問題ないんじゃない?」
由乃が言う、どうやら由乃は何かを志摩子に言わせたいようだ、回りくどい言い方で志摩子が言葉を漏らすのを待っている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「黙ってちゃわからないわよ」
由乃の言葉に観念したのか志摩子は再び口を開いた。
「・・・・・・・・好きではないのは本当です。」
「じゃあどうして!?」
「私はミハイルさんを好きというより愛していますから。」
さらっと言う志摩子。
「!!!!な!ななななな、志摩子さん!?」
何か言おうとするミハイルを、江利子と聖が抑える、こんな面白い物を邪魔させたくないのだろう。
「ふぅ〜やっと言ったわね、私は裏でこそこそやるのは嫌いなの、志摩子さんがミハイル君のことを好きなのは知ってるし、ミハイル君が黒薔薇様の次に心を開いているのは、志摩子さんだっていうのも知ってる、だから堂々とライバル宣言をしたの、今は私に分が悪いけど、うかうかしてるとミハイル君取っちゃうわよ。」
志摩子に対して早口でまくし立てる由乃。
「あ、そうだ祐巳さんを治しに行かないと・・・・・・・・・・」
現実逃避をしようとするミハイルの肩に、無情にもシオンの手が置かれる
「安心して、祐巳ちゃんは私の魂を少し入れて、中和させといたから、でも祐巳ちゃんも
一度自分の気持ちに気付いたからこれから大変ね・・・・・・・・。」
そう言って苦笑しながらシオンは、自らの弟を由乃と志摩子のいる方へ連行した。
「わっ!」
ミハイルの前には、獲物を捕らえた獣のような顔をした由乃と、笑みに黒いオーラを発している志摩子がいた、ちなみに祐巳はシオンによって一時的に睡眠状態にある。
「ミハイル君、丁度良かった、私と祐巳さんと志摩子さんは君の事が好き、それでミハイル君は誰が好きなのかしら?」
有無を言わせない剣幕でミハイルに迫る由乃、後ろに居る志摩子からのプレッシャーもすさまじいものであった。
ミハイルは無駄と知りながら外野に助けを求めようと、すがるような目で聖たちの方を向いた、しかし。
(ミハイル君って女たらしだったんだ、山百合会の一年生全員落としちゃってるよ・・・・・・・。)
(それが無意識のうちだからたちが悪いのよね、この分じゃほかに何人の女の子を落としているんだか・・・・・・・・・)
(それについてはシオンも同じよね、本人は知らないだろうけど山百合会で一番人気があるのシオンよ、それなのに全く自覚していない・・・・・・・・・ここまで来るともう犯罪だよ・・・・・でも・・・・・)
((((おもしろくなってきた!))))
なんともギャラリーは徹底傍観の構えを取り、事の次第を生暖かく見守る事にしたらしい、これによってミハイルの退路は完全に絶たれた。
「あうぅ〜〜〜〜」
ミハイルは頭を抱えた、それはそうだろう、いきなり美少女二人に告白され、しかも同時に修羅場を体験している、ミハイルは一瞬本気で神様を恨んだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・天使なのに・・・・・。
「ぼ、僕は皆さんの気持ちを知りませんでしたし・・・・・・・・・・・・・いきなり言われても・・・・。」
やっとの事で思っていることを口に出すミハイル。
「そうですか、じゃあ、もっと私達のことを知ってもらえばいいですね。」
志摩子が天使のような微笑で言った、
「それなら皆で一緒に登校しましょう、私の家に来てくださればミハイル君も居ますし。」
「あら、いいの?そんな敵に塩を送るような真似をして?」
由乃がニヤニヤしながら言う、どうやら完全にこの状況を楽しんでいるようだ。
「ええ、私達はそんな事で崩れるほどの絆では在りませんから。」
こちらも至極楽しそうだ、
「ちょ!志摩子さん!みんなが来ている所を住職に見られたらどうするんですか!あの住職の事だからからかい倒してくるに決まってますって!」
小寓寺の住職である志摩子の父は、学園長並に人をからかうのが大好きで隙あらば志摩子とミハイルをくっつけようと画策している人物である。
「お父様?・・・・・・・・・お父様なら『男はそれくらいの甲斐性が無きゃな』とか言うと思うわ。」
「そんな馬鹿・・・・・・・・」
と言いかけてハッとするミハイル、
(あの人ならやりかねない・・・・・・・・・・・・・。)
ミハイルは脱力した、あの住職はやるそれくらいのことを平気でやる、ミハイルは本気でへこんだ。
そんなこんなで帰り道、
「私はこっち」
そう言ってミハイルの右腕を組む由乃、
「じゃあ私はこっちですね」
志摩子はミハイルの左腕を組んだ。
「あ、でも次からは祐巳さんも参戦だからどうしましょう、やっぱりローテーションかしら?」
「二人が右腕と左腕で、一人が後ろから抱きつくとか?」
横から面白がって聖が口を出してくる、
「ちょっと聖さん!それ洒落になってないですって!」
ミハイルが慌てて止めようとするが、時既に遅し。
「それいいわね、そうしましょうか。」
「ちょっと由乃さん!」
ミハイルが何かを言おうとすると。
「「嫌なの?」」
上目遣いで見事に声をハモらせる由乃と志摩子、次からはこれに
祐巳も加わるのだから末恐ろしい。
「・・・・・・・・・・・い、嫌ではないんですが・・・・・・・・・。」
「「じゃあいいんですね♪」」
そう言ってもっと強く腕を組む二人、そんな二人を生暖かく見守っていたギャラリーは
「あらま、吾が弟ながらすごいハーレムだこと、」
「・・・・・・・・・あそこまで来ると圧巻ですね。」
復活した祐麒が言う。
「あら、祐麒くんうらやましいのかしら?」
「!!!なっ!!」
蓉子がからかうと、祐麒は顔を真っ赤にして、うつむいてしまう。
「ふふふ、照れなくてもいいのよ、あれでうらやましくないのなら、銀杏王子の仲間になっちゃうからね。」
笑って祐麒の肩を叩く聖、何かリリアンに来てからこんな扱いばっかりだと祐麒は思い大きなため息をついた。
そんな中シオンは思っていた。
(ふふ、なかなかどうしてこのシチュエーションは面白いわね、ウリエルが人をからかう気持ちがわかる気がするわ、自分が逆の立場だったら・・・・・・・・・考えたくないけど、まあそんな事ありえないだろうし、ミハイルには悪いけど楽しんで傍観させてもらおうかしら♪)
しかしシオンはまだ知らない、少し後自分が全く同じような目にあうことを・・・・・・・・・・
何も知らないシオンは、つかの間の平和に顔をほころばせていた。
あとがき
ケイロンです天上の黒薔薇19話をお送りします、一年生トリオに動きが出てきましたね、
志摩子があそこまでミハイルを慕っていたわけは、また外伝で書きます、
それではよろしければ次回も では
何やら面白い事態へとなっている。
美姫 「果たして、この後ミハイルはどうなるのかしら」
プチハーレム状態のミハイル。そして、恐らくこの次からは…。
美姫 「恐らく、祐巳も参戦?」
さあて、次回はどうなるのかな〜♪
美姫 「楽しみに待ってますね〜」
ではでは。