天上の黒薔薇

 

20話「敵わない相手」

 

 

劇の準備は順調に進んでいた、概ねの小道具や衣装は完成しているし、数日後に迫った学園祭に向けて、準備は万全だった、しかしそんな中ちょっとしたいざこざが起きていた。

 

「やっぱりマクグレーネとクリュタイムネーストラの一騎打ちは、真剣でやったほうがいいと思うんだけど・・・・・・・・・・・・。」

 

蓉子はクライマックスである一騎打ちのシーンは、やはり真剣でやったほうが臨場感が出ると思ったらしい、もちろんこれはシオンや令の実力を信用しての事で、普通ならこんな無茶な要求はしない、

 

「!!無茶ですよ蓉子さま、シオン相手じゃ相手になりませんもの、私。」

 

令は言った、しかし令は謙遜しているわけでもなんでもない、事実シオンとの間には埋められない実力の差があるのだ、

 

「・・・・・・・・そうね、真剣にビビってうまくできないんじゃあ本末転倒だし、まず長刀はともかく小太刀二刀の真剣なんてどこにも置いて無いでしょうしね。」

 

「そう・・・・・・・やっぱり無理よね・・・。」

 

残念そうに肩をすくめる蓉子、後ろでも同じようにがっかりしている生徒が多々居る事から、期待の程が見て取れる、そんな姿を見ていたシオンは小さな声で言った。

 

「小太刀二刀に全力の出せる相手ね・・・・・・・小太刀二刀なら何とかなるけど・・・・・全力の出せる相手は、人間じゃまず不可能ね・・・・・・令が強いのは認めるけど・・・・・・・・・。」

 

「どうしたのシオン?」

 

「ううん、なんでもない。」

 

蓉子が聞くが、シオンはそれを上手くはぐらかし練習へと戻っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       校門前

江利子はその時たまたま校門近くの掃除から体育館へと行こうとしていた、思いのほか掃除が長引いて、皆は練習を始めている時間なのに彼女は余裕だ、よほどマイペースなのだろう、

 

「さぁ〜て、今日もミハイル君たちをからかいに行きますか♪」

 

江利子の最近の楽しみはもっぱら、ミハイルたちをからかう事だ、今までは由乃をからかってばかりだったのだが、恋する女は強いのか、最近は上手くかわされている、なのでターゲットを由乃を含むミハイルたちにしたのだ、そんなこんなで江利子は体育館へ向かっていたのだが、いつの間にか自分の前を歩いていた、見た事の無い長身、黒髪の男性を目にして足を止めた。

 

「??誰だろう?あの人?」

 

江利子は思った、最近は学園長の関係やシオンたち関係で、警察やなんやらがよく来ているので、その類かとも思った、しかしその男は明らかにそれらの人物達とは一線を画した雰囲気を持っていた。

 

「普通の人じゃなさそうだし・・・・・・・シオン関係の人ね、きっと。」

 

先日の非日常体験は、江利子たちを僅かではあるが、気配が解かるように神経を過敏にさせていた。

 

「まあ、面白そうだしシオンたちのところへ連れてってあげますか。」

 

そう思って江利子は男性の所へ小走りで走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      体育館

「・・・・・・・・・・!?」

 

無言何かの気配を感じたシオンは、険しい顔で振り返る。

 

「ど、どうしたのシオン?」

 

後ろに居た聖は驚いていたが、シオンはそんな事お構いなしに、ミハイルに目配せをすると、

 

「聖・・・・・・・・・・いえ白薔薇様、少しお話が・・・・・・山百合会の人達も少しお時間よろしいでしょうか?」

 

出た、久々のシオンの営業スマイル、この姿を見ていた体育館の人達を虜にする魔性の笑顔、しかしいつものシオンを見ているメンバーは少し違和感を感じた、

シオンに連れられて外に出ると、そこには江利子と見た事の無い男性が立っていた。

 

「ゴメン、遅くなっちゃったわね。」

 

笑顔で言う江利子、しかしシオンの眼は笑っていない。

 

「どしたの江利子?その人誰?」

 

隣に居る男性の事を聞く聖、

 

「あぁこの人はね・・・・・・・・・・・・・」

 

キィン

 

金属と金属が触れ合うような音で、江利子の声はかき消された。

 

「・・・・・・・・・・・随分な挨拶ね、久々の再会だと言うのに・・・・・・・。」

 

「そう言うな、俺は光の元に立つのすら久しいんだぞ。」

 

漆黒の日本刀のような物を振るう男性を、瞬時に発生させた小太刀のような物で防ぐシオン。

 

「で?なんであんたがここに居るわけ?少なくとも旧友との再会を喜んでいるわけじゃあなさそうね、ベルゼブル!」

 

「「「「「ベルゼブル!!!!」」」」」

 

その名は山百合会一同も知る所だった、その名はシオンが最後の敵と呼んでいた天使だから・・・・・・。

 

「何、理由など無いさ、ただ君とまた剣を交えたくなった、それだけだ!」

 

そう言うとベルゼブルは先ほどとは比べ物にならない速さでシオンに向かってくる、

しかしシオンはそれを間一髪避ける。

 

「こっちだって何千年も、遊んで来たわけじゃないわ!」

 

シオンは天使の羽を広げ、手に握られた深紫の小太刀を持って、今度はシオンが攻める、その姿はまるで舞を踊っているようだった。

 

しかしもっとすごいのはベルゼブルだ、天使化して常人では考えられないほどの速さを誇るシオンに対して、息を切らす事も無く、紙一重で避けている。

 

(何で?何でなの?天使の速さと、小太刀の機動性をあわせた攻撃が、何故一発も当たらないのよ!)

 

「これで終わりか?」

 

ベルゼブルは言った、その声には邪悪な物は感じられず、シオンを試しているようだった、それは山百合会のメンバーもおなじように感じていた。

 

「冗談!これくらいで負けるもんですか!雷牙!」

 

反転したシオンの剣から、二つの電流がベルゼブルに向かう、シオンが駆る高圧電流は、ベルゼブルに当たったかと思うと、目がくらむような閃光を発し、爆発した。

 

「あちゃ・・・・・・やりすぎた・・・・・・・・・・・。」

 

シオンは少し後悔した、いくらなんでもこの閃光は目立ちすぎる、こんな時に誰かが来たとしたら、誤魔化しきれる物ではないだろう、未だにシオンの電撃の影響で光っている箇所を見ながらシオンは思った、

と、そんな時。

 

「危ない!シオン!」

 

何者かの声にシオンはハッとして飛びのくと、シオンが居た場所には黒く、長く伸びた刃が貫かれていた。

 

「・・・・・・・・これは・・・・・じゃあもしかしてあいつはまだ・・・・・・」

 

シオンがつぶやくと、そこに天使化した、学園長ことウリエルが降り立った

 

「なにぼけっとしてるのよ!ベルゼブルは倒れちゃ居ないわよ!」

 

そう言って、やっと光が柔らかくなって着た方向を指し、ウリエルは言った、そこには。

 

「未熟な剣を補うために、魔力を磨いたか・・・・・・・・・・・はるか昔もそれで俺に勝てなかったのを忘れたのか?」

 

そこには傷一つついていないベルゼブルの姿があった。

 

「!!!!な、何で?どうして!?何であの技を受けて生きていられるの?」

 

「ああっ!もう、落ち着きなさい!シオン!」

 

放心状態のシオンに、ウリエルは喝を入れる、

 

「ここら一帯に結界を張ったわ、これならいくら暴れても周りにはばれないわよ・・・・・・もう!しゃきっとしなさい、しゃきっと!」

 

「え、ええ・・・・・。」

 

やっと意識を取り戻してきたシオンを見、ウリエルはベルゼブルに向き直る。

 

「卑怯なのは承知だけど、二人がかりで行かせてもらうわ、」

 

そう言ってウリエルは柄の長い槌のようなものを具現化した、

 

「もう一度冥府に送ってあげる!」

 

シオンが声を上げるのと同時に、ウリエルの槌が大地に轟いた、その途端に大地は裂け、土はうねるようにベルゼブルの方へ向かっていった、それをベルゼブルが紙一重で交わすと。

 

グシャ

 

鈍い音と共にベルゼブルの後ろにあった電柱が、無残にも粉々に砕け散っていった。

 

「一平方メートル当たり10tの質量を凝縮してあるわ、ふれたら最後、骨まで粉々になる。」

 

そう言って攻撃の手を辞めない、そんな姿を呆然と見つめる山百合会の面々。

 

「・・・・・・・・・・・非常識な物には見慣れていたと思ったけど・・・・・・・・・・こんな事って・・。」

 

あきれた顔で言う蓉子

 

「ていうか、学園長ってあんなに強かったの?シオンの仲間だって事は知ってたけどあれは反則じゃない。」

 

「そうでもありませんよ。」

 

急に後ろから聞こえて来た声に、ハッと後ろを振り返る蓉子と聖。

 

「彼女・・・・・・ウリエルが司るのは『地』僕たち四大天使に与えられた力、四大元素のうちの一つなんですから。」

 

そこには、いつの間にかミハイルが居た、そしてミハイルは戦いから目をそらさずに続ける。

 

「まあ、属性が地なだけに技が大技過ぎるのが欠点ですけど、でも今は・・・・・・・・・・。」

 

「そういえばシオンはどこに行ったの?さっきまでここに居たのに・・・・」

 

ミハイルの話を、心配そうにさえぎる祥子、丁度同時期ベルゼブルは強固な岩の障壁を破り出てくる所だった。

 

「・・・・・・これしきの技で俺が倒せるとでも?」

 

ベルゼブルは無表情に言い放った、彼は目の前にシオンの姿は無かった、何よりあれだけの大技を防がれたのに、ウリエルは全く動揺していない。

 

「ふんだ、私の攻撃が大技だって言うのは自分でも理解しているわよ!でも、めくらましくらいにはなるのよ。」

 

その言葉に気付いたベルゼブルは、ハッとしてその場から飛びのく、しかし、ベルゼブルの行為は、後ろから来た衝撃によって無効化された。

 

「接近戦で私に勝てる人は、そうはいないわ。」

 

そこには、光り輝く深紫のガントレットをはめたシオンが立っていた、今まで表情を変えなかったベルゼブルに、初めて表情を変えた。

 

「!!!それはカナン・・・・・・・こんな所で自らの聖具を出して・・・・・・・・・死ぬ気か?」

 

何故かベルゼブルの声には、シオンを心配しているようなふしが見られた。

 

「今ここで死のうとは思ってないわ、幾星霜の束縛に終止符を打っただけ。」

 

シオンは言いながらも攻撃の手を休めない、ベルゼブルはその拳を避けているが、完全には防ぎきれない、ベルゼブルの得物は刀、いくらベルゼブルが剣の達人と言えど、刀は間接攻撃用の武器だ、近接戦闘のシオンに対しては一瞬の虚が生まれる、しかしその虚が、達人達にとっては命取りになるのだ。

 

「ぐぅ・・・・・・・・・・」

 

ベルゼブルの顔が苦痛に歪む、そしてシオンはまわし蹴りでベルゼブルを蹴り飛ばす、ベルゼブルは後ろにあった木に推進力をそがれ、木の下に倒れこんだ。

 

「まだだ・・・・・・・・・・ここで負けるわけには!」

 

するとベルゼブルはそうつぶやき、何かの呪文を詠唱し始めた。

 

「シオン!まずいわよ!その呪文は・・・・・・・」

 

ウリエルが叫んだ時にはベルゼブルの前には大きな闇が一つの形を成そうとしていたところだった。

 

「!!!!あ、あれは!!」

 

シオンはその場でへたり込んでしまった、その時にはベルゼブルの手には完全に刀の形として具現化した漆黒の刀が握られていた。

 

「君がこれを見るのは二度目だな、昔の自らの力を驕っていた君の出鼻をくじいた時以来だね。」

 

無表情のまま言い放つベルゼブル、しかし先ほどまでの無表情とは少し違う風にシオンは感じていた。

 

「ええ、そうねそれから私は貴方に勝つために心を入れ替えて、自分の力を磨いたわ、貴方を倒して昔の私と決別するの!」

 

双方は自らの得物を構え

 

今史上まれに見る決戦が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

       天上の黒薔薇20話をお送りします、いやはやアップが遅れてすいません

       この20話はいろいろな意味でターニングポイントなので悩みました、

       結局妥当な所に落ち着いたのですが、次も戦闘ものです、良ければ読んでやってください、では




いきなり乗り込んできたベルゼブル。
美姫 「シオンたちは、どうなるのかしら?」
緊迫した状態で、次回〜。
美姫 「ああ〜、早く続きを〜」
次回が待ち遠しいです。
美姫 「次回も楽しみに待ってますね」
ではでは。



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