天上の黒薔薇
21話「堕ちた者達」
「あわわわわわわ、マズイ、まずいわよミカエル!」
ウリエルが我を忘れるほど動揺しながらミハイルに言う、
「どうかした?ウリエル?」
きょとんとした顔でウリエルに聞き返すミハイル、その対応にいらだちを隠せないウリエルは、先ほどよりも強く、言い放った。
「ちょっと貴方の目は節穴?大天使ミカエル!シオンとベルゼブルの攻撃がぶつかったらどうなるかわかっているんでしょう!?」
「あのぅ・・・・・・・・・・どうなるんですか?」
その言葉を真に受けていないミハイルの代わりに、祐巳が恐る恐る聞く、するとやはり帰ってきた答えは規格外だった。
「う〜ん、破壊?殲滅?・・・・いやちょっと違うわね・・・・・・・・・・・存在自体が自然に近くなってきて・・・・・・・・・・・・そうね、消滅っていう言葉が一番正しいかな。」
「「「「「「「なんですって!?」」」」」」」
山百合会の声がハモった、今までとは違う最悪な出来事を想像して、彼女達は身を固める他無かった。
「ちょっと固まってないでシオンを止めないと!」
蓉子がいち早くウリエルに言うが、
「・・・・・・・・・・・駄目よ、私の力じゃシオンを止める事は出来ない、元々圧倒的な力の差があるしね、ベルゼブルに関して言えば、シオンと二人係でも勝てなかったんだからどうしようも無いわよ、私の力ではね。」
そう言ってウリエルは、ミハイルの方を向く。
「止めれるとしたら、大天使ミカエルくらいね。」
ウリエルがそういった途端、みなの視線がミハイルに集まる。
「???どうしました?皆さん?」
ミハイルは至って普通だ、あせった様子など微塵も感じさせない、そんなミハイルに。
「ミハイル君お願い!あの二人を止めて!このままじゃ全員死んじゃうわ!」
「え?でも・・・・・・。」
ミハイルは何を言っているか解からない、と言った表情で由乃を見た、話が噛み合っていないようだ、すると隣からも。
「ミハイルさん、お願いします!このままじゃ私達だけでなくあの二人も危ないんでしょう?たとえ消滅せずに済んでも、あのお二人が傷ついている姿を見たくありません。」
志摩子の言葉にまた首をかしげるミハイル、そしてう〜んと唸った後、
「まあ、大丈夫ですから見ていてください。」
皆の悲鳴と共に、戦いは始まろうとしていた。
シオンはベルゼブルと対峙していた、シオンにも全力で二人の力がぶつかり合えばどうなるかは解かっていたが、力の加減が出来るような相手ではない、よってシオンは最初の一撃に全てを賭けるつもりで、主より与えられし自らの聖具《カナン》を二振りの小太刀へと変化させた、名に《創造》を冠するシオンの聖具カナンは、シオンの意思によってさまざまに形を変えるある意味最強の聖具だ、それと同時に、ある一つの道を究めることが出来ない、いわゆる器用貧乏というやつだ、以前そこを突かれてベルゼブルに大敗した苦い思い出があるシオンは、それからベルゼブルに勝つために自分の最高の戦闘スタイルを模索し始めた、そしてたどり着いたのが小太刀二刀、それは奇しくも数日後に控えた文化祭の劇で、シオンが演じるクリュタイムネーストラと同じ動機でだった・・・・・・・・・・・。
「・・・・・・やっとやる気を出したか、先ほどの迷いはもう感じられんな。」
「冗談!私はいつも本気よ、貴方に負けたときもね、しいて言うなら今は・・・・・・」
シオンはそういうと、ちらりと聖たちを見て、
「守りたい人達の存在が私に力を与えるのよ、貴方も私も、もちろん彼女達も死なせはしないわ!」
シオンは言い放った、それと同時に最大級の力の塊が、ベルゼブルへと向かう、シオンの雷光は、ベルゼブルに近づくにつれ速度を増す。するとベルゼブルは思いもしない言葉を発した
「・・・・・・・・・・その言葉が聞きたかった!」
そう言うとベルゼブルは、漆黒の日本刀を構えて
「ドレインフォース」
そう言うと、ベルゼブルの聖具《ムラマサ》にシオンの雷光が吸収される、さすがに ベルゼブルも余裕と言うわけでもないが、それだけシオンの力が規格外と言う事である、と言うのも聖具ムラマサの効果はドレイン《吸収》相手の力を吸収するのは専門なのだ。
力を吸収したムラマサは禍々しい光を放ち、シオンの前に立ちふさがる。
「・・・・・・・・・・そんな、そんな事って・・・・・・・・」
シオンは聖具ムラマサの性質は百も承知だ、だが全力の力をもってすれば・・・・・これは賭けだった、全力をぶつける事で聖具を破壊し、以前の親友に降伏を勧めるつもりだったのだ、しかしその攻撃は吸収され、こちらはガス欠状態だ。
「・・・・・・・・強く・・・・なったな、俺も少し今のには焦ったぞ。」
「何よ、倒すんなら倒せばいいじゃない!今の私ならやすやすと殺せるでしょう!」
シオンは眼に涙を浮かべ、ベルゼブルに言う、
「ああ、そうだな、滅するとするか、諸悪の根源を!」
「え!?」
にやりと笑うとベルゼブルは、シオンの背後の何も無い空間に全質量を爆発させた。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁx」
「え?何!」
シオンが驚くのも無理はない、しかしその顔はだんだんと険しくなっていく。
「もうそろそろ出てきたらどうだ?ずっとそこで見ていたんだろう、ベリアル。」
「ぐ、は・・・・・・気付いていたのか。」
空間がねじれ、それが天使の形を作り、現れたのはいつもの冷静な顔を苦痛に歪めたベリアルだった。
「覗きとは悪趣味だな、お主にとっては駒がゲーム上で敵と戦っているようにしか映っていなかったんだろうがな?」
「き、貴様、洗脳にかかっていなかったのか?」
親の敵を見るような目でベルゼブルを見るベリアル、
「俺は俺の正しいと思ったことをする、それがこの手にかけた者たちへの償いだからな、お前とは違う。」
ベルゼブルは冷たく言い放つ、するとそこに声がかけられる。
「あのぅ〜どういうことか説明してもらえないでしょうか・・・・・・」
それは、先ほどまでベルゼブルと死闘を繰り広げていたシオンであった、
「何だ、すべてわかった上で芝居に付き合っていたんじゃなかったのか?」
「芝居!?」
何故か少し不機嫌そうなベルゼブルの言葉に驚きが隠せないシオン。
「・・・・・・・・・・まさか本当に解からなかったのか?少なくともミカエル殿はわかっていたぞ、そうでもなければ、君が劣勢なら助けに来るだろう。」
「あ・・・・・・そういえば。」
そうしてシオンがミハイルの方を見ると、ミハイルはニコニコと屈託も無く笑っていた、
(もう、一言くらい言ってくれたっていいじゃない・・・・・・・・・)
「ところで問題はどうしてベリアルがここにいるか、ですよね。」
いつの間にかシオンたちの元へと来ていたミハイルが言った。
「そうだな、なぜこんなところにいたか、吐いてもらおうか!」
桜の木の下で倒れこむベリアルに、ベルゼブルたちは問い詰めようとしていた、その時、
「危ない!!!」
シオンの声で冷静になったミカエルとベルゼブルは、すぐに結界を張る、するとまもなくけたたましい騒音と共に周りが闇に包まれた。
「・・・・・食えない奴め、まだ隠し玉を取っていやがったとは・・・・・・」
ベルゼブルが苦々しく言う、闇が晴れてきて彼らの周りには何百体もの天使が取り囲んでいた、その顔に生気は無く操り人形のようだ。
「ふふ、それは私にとっては最高の誉め言葉ですよ、ベルゼブル。」
いつの間にか復活していたベリアルが下卑た笑みを浮かべる、
「本当に堕ちる所まで堕ちたようだな・・・・・・・・・仲間にまでそれを使うとは・・・・・・・。」
苦々しく言うベルゼブル、
「あ、これ?あるものは使わないと損ではないですか、せっかく主に戴いたんですし、それに。」
ベリアルは一呼吸於いてから、バカにしたように言い放った。
「人を操って、堕ちていくのを見るのって好きなんですよ、最後の苦悶の表情とかね。」
霊感の強いものなら見えたであろう、ベリアルから数百体の天使たちに伸びている透明の糸、これがベリアルの聖具《ソドム》だ、この聖具はダイヤも粉々にする強度で敵を繰る戦闘用とは別に、人を自在に操るという使い方もある、基本的にこの効果が期待できるのは人間だけだ、しかし今のベリアルは仲間であるグリゴリの天使にためらいも無く使っている、今の天使たちは自我を心の奥底に封じ込められ、ベリアルから与えられた最低限動けるだけの魔力で立っているだけの人形でしかない。
「貴様ぁああああああ。」
ベルゼブルが怒り狂う、見た目は一番クールだが、熱い心をもつ彼はベリアルに殴りかかろうとする、
「無駄だよ。」
ベリアルはベルゼブルの攻撃を、近くに居た天使達を盾に防いだ。
「くっ!・・・・・・どこまで外道なの!」
シオンが毒づく、
「でも、こうやって倒していけばいずれは・・・・・・・・・・」
「そうもいかないようですよ。」
ミハイルが指差した所には、先ほどと同じ攻撃を防いでいる天使が居た。
「何!パワーアップしてる!?」
驚きの表情で戦いを見るシオン、
「おそらくベリアルはある一定量の魔力を天使たちに振り分けて与えているのだと思います、一体の天使が倒されればその分の魔力が他の天使に行き、多くの魔力を得るのでしょう。」
戦況を見ていると、今は僅かに優勢だが劣勢になる事があれば、圧倒的に数で劣るシオンたちはたちまち畳み込まれるだろう。
シオンたちも参戦し、天使の数は半数ほどに減ったが、一体一体の天使の力は桁違いに上がってきている。
「全く!きりが無いわよ!これじゃあ!」
「ははは、しゃべれる余裕があるならまだ大丈夫だな、シオン。」
さっきまで演技とはいえ敵対していたベルゼブルが、笑いながら言う、しかしその顔にも焦りが見え始めていた。
「でもおかしくないですか、ベリアルの力こんなに沢山の天使たちを一度に操るなんてこと彼に出来たでしょうか?」
ミハイルが言う
「・・・・・・・・そうだな、曲がりなりにも冥府(タルタロス)から俺を連れ出したのも奴だ、奴には何か別の力が関与しているかもしれん。」
「私達天使の、しかも高位の天使に関与できるのは・・・・・・・・・・。」
「そうだ、主、もしくは俺たち陰の七大天使、ミカエル殿たちの陽の七大天使の者くらいだろうな。」
陰の七大天使はルシファーを筆頭にベルゼブル、アザゼル、シェムハザ、アスモデウス、アスタロト、そしてベリアルの七人の天使のことで、それぞれ主から聖具と呼ばれる物が与えられており、《破壊》を司る、ミカエルたち陽の七大天使は《再生》を司りそれらは表裏一体、よってベリアルを操っている者が居るとすれば数が限られてくる。
「ああもう!せめてベリアルに魔力が供給されている物の正体がわかれば・・・・・・・・・・こんな時にラファエルが居れば・・・・・・・・・・・・。」
シオンの言葉でミハイルが一瞬顔を歪ませる、それを見てシオンは自分が言ってしまった失言に気付き。
「ご、ごめん・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・いえ、いいんです僕は姉様と違って会えるかも知れないのに、会おうとする努力をしませんでした・・・・・・・・・今はどこかで人間として幸せに暮らしていてくれる事を祈るのみですよ。」
ラファエルは浄化の《風》を司る、まやかしを消し去るには彼女の力が必要不可欠なのだ、しかし彼女もまた、今は行方がわからない状態である、シオンたちは少数精鋭になってくる敵を蹴散らしながら途方に暮れていた。
丁度その頃、離れた所から戦いを見守っていた山百合会のメンバーたちは、
「・・・・・・・・・・・・・・・・これを見て立っていられる女子高生って私達くらいよね。」
苦笑しながら言う聖、
「シオンやミハイルさんに言わせると、私達も天使の片鱗を受け継いでいるそうですから、免疫がついたんでしょう、」
真面目な顔で言外な事を言う祥子、さすがは蓉子の妹、冷静に判断している。
そんな中志摩子はひたすらに、彼らの安全を祈っていた。
「お願いです・・・・・・・彼らを守って・・・・・・・。」
「彼らを守りたいの?」
ふいにどこかから声がした。
「キミは彼らを助けたいの?」
「!!!!」
志摩子は絶句した、いつの間にか志摩子の前には志摩子の背の半分くらいの少年が立っていた。
「!!あなたは?」
「そんな事より、助けたいの、助けたくないの?」
少年はそれを聞くのみだ、志摩子は一瞬躊躇したが何故かこの少年は信じていいような気がした。
「・・・・・・・・・・・・・助けたい、私は私の大切な人達を!」
志摩子は言った、少年はそれを聞くと。
「へぇ、流石はラファエル人間になっても変わってないな、変なこと言うようだったらオレッチが引導を渡してやろうかと思ったけど・・・・・・・・・合格だ!」
少年がそう言うと彼の回りに風の渦が出来る、そしてその中央に居たのは・・・・・・・・。
「行くよ、ゴシュジン!」
その声は確かに聞いた事があった、先ほどの少年の声のする先には・・・・・。
「龍!!!!」
先ほどの少年との会話がきこえない他の面々は腰を抜かさんばかりに驚いた。
「な、ななな、なんでこんなとこにおっきな龍が!?」
「敵、敵なのね!成敗してくれるわぁ!!!!」
ちなみに最初に言ったのは令、後に言ったのは由乃である・・・なんというか対称的な性格だな黄薔薇姉妹。
「安心しな、オレッチの名前は青龍、嬢ちゃんたちの味方だ。」
どよめきが起こる、目の前に現れた存在に圧倒され言葉が出ない。
「あの・・・・・・。」
申し訳なさそうな声が聞こえ、みなの視線が一点に集まる。
「信じてあげてください、大丈夫ですから・・・・・・・・・・・・・多分。」
その言葉を発したのは志摩子だった、一同はいつもと違う志摩子の積極さに驚いた、それと同時に、志摩子がいうのであれば と言う考えも出始めていた。
「ゴシュジン、あの戦いのとこまで行くよ」
青龍はなんともなしに言う、あまりに普通な物言いに一瞬そのままスルーしていた一同だったが。
「「「「何ぃ〜〜〜〜」」」」
「なにするのさぁ、耳が痛いよ全く。」
青龍が言った『主人』発言に彼女達はそうぜんとなった。
「オレッチはこの綺麗な嬢ちゃんに呼び出されたの、だからこの嬢ちゃんがオレッチの主人、ところで名前は?」
そう言って青龍は志摩子に名前を尋ねる。
「え?あ、藤堂・・・・志摩子ですけど・・・・。」
志摩子がしどろもどろになりながら言う、
「志摩子ね、わかったよゴシュジン、じゃあオレッチの背中に乗って。」
志摩子は戸惑いながらも青龍について行った、もはやその顔に迷いは無い。
「他の嬢ちゃん達はどうする?」
「・・・・・・・・・私達は・・・・・。」
皆が言いよどんでいる中、一人が手を挙げた。
「私は行くわ。」
それは聖だった、
「シオンたちも心配だし、何より志摩子が行くなら姉である私が行くのは当然だもの。」
「・・・・・・・・・私も。」
次に手を挙げたのは由乃だ。
「私は現実に目を背けたくないの、ミハイル君たちのこと、この目に焼き付けたい・・・・・・・・・・。」
次々と参加を表明する面々、そしてついに最後に蓉子が折れ、全員が戦いを見届ける事になった。
「しっかり掴まっててね。」
青龍は飛び立つ、この先の辛い決別を彼女達はまだ知らない。
あとがき
どうもケイロンです天上の黒薔薇21話をお送りします、いつの間にか二十の大台を突破していました、まだまだ未熟者ですが、これからもよろしくお願いします、次回でベルゼブル編は一区切りです、それではよろしければ次回も では。
突如現われた青龍。
果たして、敵か味方か。
美姫 「いや、明らかに味方でしょう。志摩子をご主人と言ってるぐらいなんだから」
うん、そうだね。
美姫 「さて、馬鹿は放って置くのが一番と判断したので…」
じょ、冗談じゃないか。ちょっと、シリアスにしてみただけじゃないか。
美姫 「その所為で、却ってシリアスじゃ無くなってしまっている事に気付こうね」
シクシク。…と、まあ、冗談はさておき。
美姫 「やっぱり、冗談だったのね」
さておき! 次回でベルゼブル編は区切りがつくみたいだな。
美姫 「うんうん、敵と思われたベルゼブルだったけれど、意外な展開よね」
果たして、どんな決着が待っているのだろうか!
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
ではでは。