天上の黒薔薇

 

23話「それぞれの想い」

 

 

今日も目が冴えるような晴天、昨日の死闘が嘘のように薔薇の館は静かだった、

戦いの跡はまるで何も無かったように元に戻っている、根元からひしゃげた機を除いては。

 

 

「ねぇ蓉子…」

 

午後の薔薇の館、聖は蓉子に声をかけた、彼女達は生きていた、不思議な力に守られて、しかし昨日の刺激が強すぎて少し腑抜けているようだ、

 

「なによ聖…くだらない事だったら怒るわよ。」

 

「なによ、もう怒ってるじゃない……。」

 

戦いがもたらした物、それは精神的なショックだけではなくもっと大切な物を壊しかけているのかもしれない、剣呑な空気が漂う中、ドアをけ開けてシオンが入ってきた。

 

「あ〜もう!何なのよ!みんな学園長って誰?ですって!ウリエルの記憶が根こそぎ失われているって言うの!」

 

翌日である今日、学園長の存在はリリアンの生徒の記憶からは完全に消え去っていたのだまるで彼女が最初から居なかったように……、

 

シオンはトサカに来ている事は間違いないのだが前向きに事実と向き合っている、そんなシオンは聖と蓉子のきまずい状況をみて

 

「あれ、紅薔薇様、白薔薇様、どうしたの?」

 

訝しがるシオンに二人はそっぽを向いた

 

「………やっぱりこうなっちゃったか、私達が巻き込んだんだよね、」

 

シオンはさっきの勇猛さとはうって変わって心底悲しそうな顔をした、そしておくれて入ってきたミハイルを見ると、

 

「ミハイル、レミエルを呼んで、この子達から私達の記憶を消すわ。」

 

その言葉にミハイルだけでなく聖や蓉子、他の山百合会の面々も目を丸くした。

 

「ちょ!ちょっと待ちなさいシオン!」

 

「え!姉様それは………。」

 

「いいのよ、学園長だったウリエルが居なくなった今、ウリエルがここに執着する理由が無いわ。」

 

シオンは低い声で言い放つ、ミハイルは納得できない様子で反論する。

 

「聖さんはどうするんですか彼女は狙われているんですよ!」

 

「聖は守るわ、私の命を懸けてもね他の人たちもよ、だから安心して普通の生活に戻って欲しいの、普通の女子高生に戻って………。」

 

バシン

 

シオンが言い終わらないうちにシオンの声は、祥子の張り手でかき消された。

 

「貴方は何も解かっていない!確かに怖いかもしれない、苦しいかもしれないだけど何より、私達は貴方達を失う事が一番怖いのよ!」

 

「祥子・・・・・」

 

「……私も、私もミハイルさんのことを忘れたくない、忘れたくないです……。」

 

「志摩子さん・・・・・。」

 

泣きながら二人にすがる祥子と志摩子、しかし責任を感じているシオンの心は総簡単に崩れない。

 

「私・・・・私は!」

 

シオンは祥子の手を振り払い薔薇の館から飛び出していった。

 

「シオン!」

 

祥子は呼ぶがとき既に遅し、シオンの姿はもうそこに無かった。

 

「シオン・・・・・・・・・・・・・・」

 

ここで聖が始めて口を開いた、

 

「あんなに辛そうな顔して・・・・・そうよね、一番辛いのはあの子なんだよね。」

 

「・・・・・そうね・・私達なんかと比べ物にならないくらいに・・・・・・。」

 

蓉子も沈痛な面持ちで言う、そして二人は目を合わせて苦笑いをした、それでも親友の間では十分な和解のしるしだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐麒は劇の練習のためにリリアンの門の前に居た、しかしリリアンには一人では入れない、必ず付き添いが必要なのだ、しかし彼は何か胸騒ぎを感じて三十分も前に、門の前に来てしまったのである。

 

「あっちゃぁ〜〜〜〜〜やっぱり早く来すぎだよな・・・・・・・・これからどうしよう・・・・」

 

ここらで時間つぶしをしていても、ただの不審者にしか見えない、祐麒が途方に暮れていると、門から見える銀杏並木の木の下に、見知った顔が合った。

 

「あれは、シオンさん?」

 

彼が見たシオンの姿はとても儚げで、今にも消えてしまいそうだった、そんな姿を見た祐麒は、周りに人がいないことを確認すると、シオンの元へ走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀杏の木をを見上げては頭を垂らし、振り返ると見えるマリア様像からは目をそらす、シオンは繰り返し赤子のように同じ行動をくり帰していた。

 

(今年も銀杏は色づいて綺麗な紅葉となるのね、だけど私は・・・・・・・・・)

 

ソノトキマデイキテイラレルノカシラ?

 

ふと頭に激痛が走る、シオンはバランスを崩し、あわや転倒というところだったが一本の腕がシオンを支えていた。

 

「大丈夫ですか?シオンさん」

 

「・・・・・・・ユーキ君?」

 

そこに居たのは祐麒だった、シオンを心配して走り寄ったら案の定倒れる寸前だったのでぎりぎりのところで助ける事が出来た。

 

「どうしたんですか、こんな所で?どこか具合でも?」

 

顔を覗き込もうとする祐麒に、先ほどまで泣いていた赤い顔を見られたくなくて、シオンは無意識のうちに顔をそらした。

 

そんな姿に祐麒は

 

(!!っ・・・・・・かわいい・・・・・・・)

 

いつもは凛々しいシオンの見せる可愛い仕草は、祐麒の身体は無意識のうちにシオンを抱きしめていた、

 

「!!!!何するの!ユーキ君!!」

 

驚いたシオンは顔をより紅くして、祐麒に言う、中身は数千歳のシオンもこういう状況には免疫が無かった、しかしそれ以上に免疫が無いはずの祐麒のこの行動に、シオンの頭はショート寸前だった・・・・。

 

「・・・・・・・溜め込むなよ。」

 

「え?」

 

祐麒の言葉にシオンが祐麒の方を向いた、祐麒は、いつもの、姉とおそろいの百面相でとは違い、彼の眼はしっかりとシオンを見つめていた。

 

「一人で抱え込んで、一人で解決しようとして、一人で傷ついて・・・・・・・それで最後には居なくなるのかよ!・・・・・・・・・俺はそんなの許さない・・・・・・。」

 

祐麒はそう言うと俯いてしまった。

 

「・・・・・・・ユーキ君・・・・・・」

 

シオンはそう呟くと、無言で今度はシオンから祐麒を抱きしめた、シオンより背の低い祐麒は丁度シオンの胸に顔をうずめる形になり(注このときのシオンは完全に女性化しています)そこで虚ろであった祐麒の意識が急速に戻ってくる、そして今の現状を把握すると・・・・・。

 

「!!うっぎゃあ!」

 

姉のような怪獣の鳴き声をあげ祐麒はあとずさる。

 

「俺は一体何を・・・・どうして黒薔薇様がここに・・・・しかも何で抱きしめられっ!!!」

 

元の祐麒に戻ったらしく、百面相を繰り返している、そんな様子にシオンは苦笑しながら、

 

(やっぱり、さっきのユーキ君は私の半身が私に警告を与えていたのね、そんな状況に陥ってたなんて・・・・・不覚だわ・・・・・・・・・・・でも、これで祐麒君をからかえるわ、ふふふ・・・・)

 

シオンの黒い笑みに祐麒はあとずさる、

 

「ごきげんようユーキ君、やっと正気に戻ったようね。」

 

「あ、え・・・・・・・俺は何を・・・・・・倒れそうになってた黒薔薇様を助けようとして・・・・・。」

 

祐麒があさっての方向を向いて呟く、そんな姿を笑いをかみ殺しながらシオンは、

 

「そのまま私を抱きしめたのよ、私だからまだ良かったけど、他の人にやったら完全に犯罪よねぇ・・・・・・・」

 

「うっ・・・・・・・・」

 

ニヤニヤしながら言うシオンに祐麒の顔は、真っ赤から真っ青になった・

 

「!!!すいません!!」

 

今にも土下座をせんばかりに謝る祐麒の頭にシオンは手を置き、

 

「いいのよ、気にしないで、私が落ち込んでたから、慰めてくれようとしたのよね、ちょっと過激すぎたけど♪」

 

「うっ・・・・・・・!」

 

最後にからかいを入れるのを忘れない、祐麒の顔はまた真っ赤になる、表情だけでなく顔色も百面相な祐麒を、シオンは微笑ましく見た。

 

そして祐麒がやっと冷静さを取り戻したとき、

 

「じゃあ薔薇の館へ行きましょうか、今なら問題も解決しているでしょうし。」

 

そんなシオンの言葉の一部に影を感じた祐麒は、

 

「そういえば、どうしてあんな所で落ち込んでたんですか?」

 

祐麒の問いにシオンは少し考え、にやりと笑って。

 

「ああ、あれ?劇の事で煮詰まっちゃってただけだけど?」

 

シオンの言葉に呆気にとられる祐麒、

 

「うぉぉぉぉ!俺はそんなことであんな恥ずかしい事を・・・・・・」

 

最後の声は聞き取れないくらい小さな声で話す祐麒、そんな姿を微笑ましく見守りながら、シオンは祐麒の手をとった。

 

「!!!!」

 

「ほら、いつまでぐずぐずしてるの!私がいいって言ってるんだからそれ以上落ち込まないの!」

 

シオンの言葉に、祐麒葉小さくうなずき、二人は薔薇の館へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       薔薇の館

さて、シオンはどこへ行ったのかね?」

 

聖が呟くと蓉子も、

 

「・・・・・・・まだ私達がシオンたちの記憶があるのなら、あの子はまだうごいてないみたいね 」

 

「でも私達がシオンのこと忘れちゃってからじゃ遅いんだよ!どうにかしてシオンを見つけないと・・・・・・。」

 

いろいろと思案してはみるがいい考えは浮かばない、そんな時ビスケット扉が開いて、志摩子が入ってきた、聖たちはシオンかと思ってすごい剣幕で志摩子を見ると、がっかりしたように頭を垂れる、志摩子は何が起こったのか解からない顔をして、

 

「あの・・・・・・何か?」

 

そこで聖が事のあらましを教えると、志摩子の肩から声が返ってきた。

 

「そういうことならオレッチに任せなって!」

 

ヌオッと志摩子の肩から現れた青龍は、志摩子の肩にひょっこり乗る、それはどこからどう見ても某中○ドラゴンズのマスコットキャラだった!

 

「・・・・・・・・・・・ドアラじゃないよ。」

 

誰にも聞こえないような声で言うシャオラン・・・・・・・いや青龍、

兎にも角にも、青龍の話だと風を司る自分にとって、人探しは朝飯前だそうだ、

 

「昨日から朱雀姐さんに、事故の反省とかで監禁されててさ・・・・・・・・・今やっと逃げてきた所だったから暇なんだよね・・・・・・。」

 

そう言う青龍の言葉のニュアンスに、聖は気付いた、青龍はまた悪戯を企んでいると・・・・

なるほど同じ悪戯を好む者だからこそ、解かったのであろう、いつもなら黙認して観察する事を楽しむ聖であったが、今回はそうは行かない、青龍にそれを言いかけたとき、聖の代わりに後ろから声が聞こえた。

 

「・・・・・・・・・・・・ふぅん、で?本当は何をする気?」

 

蓉子でも聖でもない、美しい女性の声が聞こえた、

 

「そりゃもちろん、憂さ晴らしのために半分くらい校舎はふっとばすさ、そうすりゃルシファーの旦那も見つかるし一石二鳥・・・・・・・・・・」

 

言いかけて青龍は突然びくびくと恐怖で身体を振るわせた、それもこれもあの声が聞こえてからだ。

 

「少しは反省したかと思ってたけど・・・・・・・・・・もう少しお仕置きが必要のようね。」

 

そこにはミハイルと、綺麗な深紅の髪をした美しい女性が立っていた、それを見て志摩子は少し不機嫌になるが、彼女の正体は青龍が答えた。

 

「す!朱雀姐さん!」

 

それは擬人化した朱雀だった、青龍は反省の名の下に受けたかずか図の虐待を思い出しているのか、先ほどからぶつぶつと呟いている。

 

「さて、青龍、今回はどんなお仕置きがお望みかしら?」

 

「ヒィ!」

 

そして惨劇は始まった・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

しばらくおまちください。

 

 

 

 

 

 

「あれ?どしたの青龍?」

 

シオンと祐麒が薔薇の館に着いたとき、真っ白になった青龍が発見されたという・・・・・。

     

     

  


あとがき

       天上の黒薔薇23話をお送りします、何ヶ月も停滞して申し訳ありません、

投稿した以上最後まで書き終えるつもりで居ますので、もし陽で下さる方が居れば、長い目で見てやってください、それでは 




一瞬、祐麒が格好良かったんだけど…。
美姫 「でも、それはシオンの半身の影響だったのね」
いやはや。
美姫 「朱雀は凄いわね」
ああ、色んな意味でな。
美姫 「うーん、次回以降も気になるわね」
うん、気になる、気になる。
美姫 「次回も楽しみに待ってますね」
ではでは。



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