天上の黒薔薇
24話「シオンの受難」
青龍の処理(←ひどっ!)を朱雀に任せてシオンたちは薔薇の館に集まっていた、いろいろな事があったが、劇の練習はつつがなく進み本番まで三日を切った所である、
今日も体育館練習を終え、祐麒も誘い薔薇の館でティータイムといった所だ。
「な〜んかいろいろありすぎて、学園祭が後三日なんてね・・・・・・・・・」
「それは私も同感、でもいくら他の内容が濃くても劇の練習だってしっかりやってきたわけだしねぇ・・・・。」
江利子の言葉に聖が返す、そんな会話にも若干ついていけていない者、もしくは聞いていない者も数名居る、シオンたちの正体を知らない祐麒と、ミハイル争奪戦を繰り広げている、一年生三人娘だ。
「むぅ〜、祐巳さんは劇の練習の時いっぱいミハイル君と一緒に居たでしょ!譲ってくれたっていいじゃない!」
どうやら、どちらがミハイルにお茶を出すかで口論になっているようだ。
「あ、あれは劇の役だからしょうがないよ!由乃さんだって、劇の途中何も用無いのに、何回もこっち来てたじゃない。」
二人がじゃれている間で、ミハイルは疲れた顔をしてため息を吐いた、二人の事は嫌いでは無い、むしろ好意と呼べるものさえ持っている、しかしだからこそ、その曖昧な態度がこのようなじゃれあいを生み出し、彼女達に好意があるからこそ何も言えず、ただ彼の神経だけが磨り減っていくのである。
(神よ・・・・私はどうしたらいいのでせう。)
ミハイルは十字を切って神に祈った、専ら最近の彼のお祈りはこのことが中心であることは誰も知らない。
「ミハイルさん、お茶はいかがですか?」
「え?あ、はい・・・・」
ミハイルは咄嗟にカップを受け取ってしまったが、その途端二人の目がキッとミハイルの方に向き、そして紅茶を入れた人物の方へ向いた。
「「志摩子さん!」」
「はい?」
ミハイルにお茶を淹れたのは志摩子だった、
「志摩子さん!抜け駆けはずるいよ!」
「抜け駆けと言われても・・・・・・」
志摩子は手を頬に当てて首をかしげる、と言うか抜け駆けも何も、二人のじゃれあいを見ていてお茶を淹れる人がいなくて、全員分志摩子が用意しただけなのだが・・・・・・。
それに気付いた二人は何も言えずに俯いていたが、ふと顔を上げたときの、志摩子の黒いオーラにハッとした。
「志摩子さん・・・・・・・・・やっぱり侮れないわ。」
「あら、どうかして?」
今はまだ、志摩子の方が頭一つリードのようである。
一方そんな光景を生暖かい眼で見ていたシオンたち、
「ふふふ、ミハイル君、かなり困ってるみたいね、あんなにかっこかわいいのに、女性に対する免疫が少ないのかしら?」
蓉子がからかい半分で言う。
「そりゃ身近にシオンみたいな超絶美人がいれば、ハードルも高くなるはずよねぇ。」
聖もそれに乗っかって、今度はシオンをからかう、しかしシオンはそれにこたえた様子もなく、
「何を言ってるの?ずっと教皇庁に居たあの子に出会いのチャンスなんてあったと思う?最後に関しては論外ね、美人って言うのは貴方や祥子みたいな人たちのことでしょ、私は蓉子さんみたいに聡明でもないし。」
さらっと言うシオンに、聖たちは顔を赤らめる、その理由を理解していないシオンは、
「どうかした?」
真顔で聞き返してしまった。
「「「誰のせいだと思ってるの!」」」
三人のハミングにびっくりしておののくシオン、それを見て悪戯を思いついたのか、聖が後ろから抱き付いて
「シ〜オ〜ン〜私達もラブラブしよっか♪」
シオンの頬に自らの頬を擦り付けて、語尾に♪でも付きそうな言い方で言う聖。
「な!せ、聖・・・・や・・・・めて・・・・。」
シオンは聖から逃れようとするが、体はそれを望んでいない、そして聖もこの行動が彼女の本音である事を、彼女自身気付いていない、なんとも難儀な二人である。
そしてそんな光景を見て黙っているはずの無い二人が、
「何やってるの聖!」
「白薔薇様!シオンから離れてください!」
金切り声を上げる紅薔薇姉妹、それを見てもどこ吹く風と聖はシオンを抱きしめ、
「シオン〜怖い人たちがいじめるの〜。」
今までなすがままにされていたシオンは、その行動によって聖へ向けられていた殺意の眼が自分に向いている事に気付いた。
「聖・・・・・・・・そろそろどいてくれないかしら?」
悪寒を感じたシオンは強制的に聖を放し、祥子達に向き直った、そこには、
「うっ!」
修羅が居た。
「シオン、何で聖のなすがままにされているの?」
「お姉様の言うとおりです、しっかりと答えてもらいましょうか!」
いつの間にやら自分の方に矛先が向いている事を察したシオンは、必死になって場を納めようとするが、如何せんとことん鈍いシオンには彼女達が何故怒っているのか解かっては居ない、隣で楽しそうに笑っている聖を恨みがましい目で見た後、二人の説教を何故かシオンだけ受ける羽目になったという・・・・・・。
「とまあこんな所ね、」
「・・・・・・・何か最近冷静ですね、お姉様。」
そんな光景を見ていた令と江利子、最近は皆開き直ってシオン又はミハイルにアタックしているので(本人達は気付いていないが・・・)江利子はからかい甲斐が無くてだれていた、
「だって最初初々しかった祐巳ちゃんまでもさ、あんなだよ。」
ミハイルの隣の席を巡って争っている祐巳を指差して言う江利子、
「・・・・・・・・まあ確かに、あの祐巳ちゃんがこうなるとは、誰も思ってなかったですよね。」
苦笑いをしながら言う令、
「しかしあのシオンがこうなるとはな。」
不意に声が聞こえた、二人はそんな声に不信感を感じることなく会話している。
「そうよね、初めて会った時とは別人だわ」
「あの時は清楚なお嬢様って感じでしたからね。」
「ぷっ!あいつが清楚なお嬢様!じゃじゃ馬娘無間違いじゃないか?」
「「「違いない!」」」
ハハハと笑いながら二人は異変に気付く、そして恐る恐る後ろを振り返ると・・・・・・。
「ん?どうした?」
そこにはいつの間にかベルゼブルが居た、二人が呆気に取られてみていると、話をそらす絶好の機会と、シオンとミハイルが寄ってくる、
「ベルゼブル!助かっ・・・・ゲフッ・・・・いや、こんな所にどうして?」
「どうしてって・・・・・・・朱雀殿に聞いていないのか?」
今度はベルゼブルが訝しげにシオンに聞き返した。
「朱雀ならさっき青龍を調・・・・・・・教育しに行ったけど?」
「そうか・・・・・・・では俺から話そう。」
そう言うとベルゼブルは令と江利子の後ろに立って、二人の肩を叩いて言った。
「俺は今日付けでこの学園の世界史教師になった、それとレミエル殿からこの二人の護衛を頼まれた、以上だ。」
「・・・・・・・・・・・・・」
一帯が静寂に包まれる、そして。
「「「「「はい?」」」」」
「あ、ちなみに剣道部の顧問でもある。」
顔色を変えずに言うベルゼブルに戸惑いつつも、
「いやそういうことじゃなくてさ・・・・・」
シオンが突っ込みを入れるが、ベルゼブルはわかっていない、首をかしげながら、少しの沈黙の後口を開いた、
「何故そんなに驚く?レミエル殿はシオンやミハイルは護衛対象をほとんど囲っているから護衛しに行かなくても寄ってくると言っていたが?」
その言葉に令、江利子を除く全員が紅くなった
「ちょっ!な!なんですか!僕たちが志摩子さんたちを囲ってるって!」
「いや、レミエル殿が言っていた言葉は真実ではないのか?」
ベルゼブルは眉を顰めて聞き返す。
「当たり前でしょ!どこをどう見たらそう見えるのよ!」
「いや、どこからどう見てもレミエル殿の話は真実・・・・・・・・・・・いやなんでもない・・・・・。」
シオンの殺気の篭った眼に自らの思考を曲げるベルゼブル、
(・・・・・・・・この俺が目を背けてしまう程の殺気を向けられるとは・・・・・成長したな、弟子よ・・・・。)
ベルゼブルはそんなずれた考えを持ちながら、苦笑いを浮かべた。
そんな中シオンとミハイルは、
「やっぱり毒を仕込むのが一番いいと思うの、トリカブトを致死量の二百倍くらいの量を飲ませれば・・・・・。」
「いいえ、レミエルは仮にも今警視総監の位に就いてますし、ここは何かの行事の時に遠くから狙撃した方がいいと・・・・・。」
レミエル抹殺計画を立てていた。
そんな姿が滑稽で、皆一様に顔に笑みを浮かべていた(中の内容は随分といただけないが)
ただ、令だけは、
「紅薔薇様までああなってしまわれたら、私しか止める人いないじゃない・・・・・。」
山百合会の苦労人は、隣で目を輝かせている姉と、元山百合会のストッパーであり、今はシオン争奪戦に参戦している蓉子を見て、もう一度大きなため息をついた。
「明日から胃薬持ってこようかな・・・・・・。」
令の報われない日々はあと少しの間続く。
あとがき
天上の黒薔薇24話をお送りします、久々のギャグです、元々こういったものの方が好きなので書いていて楽しかったです、次回もほのぼの傾向でその次が
劇本番の予定です、それではよろしければ次回も、ケイロンでした。
何か、令が一番貧乏くじを引いたような…。
美姫 「まあまあ。それにしても、変われば変わるもんね〜」
うんうん。果たして、この争奪戦を制するのは誰か!?
美姫 「次回も楽しみに待ってますね」
待ってます。
美姫 「じゃ〜ね〜」
ではでは。