『紅き翼と漆黒の双剣』




  第9話 〜紅薔薇様の考え〜




 「さて、手伝って貰いましょう」

蓉子のその一言に対する他の人達の反応は様々だったが、反対意見を言う者は居なかった。いや、蓉子、聖、江利子の笑みの裏側を読みとった他の山百合会の面々は矛先が自分に向くのを恐れ反対意見を出せないで居ただけなのだが。
 さらに、渦中の男性2人組も薔薇達の微笑みと無言の圧力から反対するだけ無駄だと悟ったようだ。

「2人とも話が早くて助かりますわ」

どうやら2人の沈黙を蓉子は了解と受け取ったようだ。

「あの、手伝うのは構わないのですが一体何をするんです?」

最もらしい疑問を口にする恭也。

「学園祭ですわ。」

「「学園祭?」」

見事に男2人の声が重なり、互いに苦笑しあっていた。

「ええ、今度学園祭で我々山百合会は劇をする事になっているのよ、それでその劇にお二人も、という訳です。」

そう言う蓉子に、同意という意思表示か頷く聖と江利子。

「でもお姉さま?配役などはいかがなさるのですか?ある程度の配役は決まってしまっているのに・・・・・・・」

至極尤もな意見を述べたのは蓉子の妹である祥子だった。

「その辺は私達に任せて」

蓉子の代わりに江利子が答えた。
その横で聖も頷いている。

「幸い男性の登場人物もいる事だし、その役に入って貰おうかしらね。花寺の方々には他の役柄を考えておきましょう。」

と、話を進めていく蓉子だったが、ふと思い立ったように

「まぁ、それは明日にでも決めましょう、多少時間もかかりそうですしね。それで今日は転入してきたお二方の学園案内というのはいかがでしょう、みなさん?」

と微笑みながら言うのであった。

そんな面白そうなイベントをこの人が逃すわけもなく

「よろしいのではないでしょうか」

と、こちらも微笑みながら賛成する江利子
他に反対する意見もなく決行となった。途中、男性2人から何か意見が出ていたような気がしたがそこは・・・・・・・ね?

「と言うわけで決まりですわね。それで参加できるのは?」

そう蓉子が聞いたところで手を挙げるのが2人

「それなら、私は部の方に行って来ます」「私も」

と言うことで令と由乃を除いた全員が参加になった。


    ※   ※   ※   ※

現在地点、校舎内。遠巻きに人多数
その割合男性0%女性100%
その視線の先恭也50%蓮50%

 と、これが現在の状況である。ちなみに恭也は女性の視線が自分の所に向いている事には気付いているが、それはとなりに蓮がいるからだと思っているようだ。
 蓮も気がついてはいるがあえて気にしないようにしていた。

「それにしても、周りで見ている方達も珍しいのでしょうね。こんなに集まって・・・・・・」

これは、恭也の一人事であったがそれを志摩子が聞いていたため一人事にはならなかった

「あれは、恭也様と蓮様だから集まっているのだと思いますよ」

と多少苦笑しながら言ってみる志摩子だったが

「そうですか。でも確かに紅なら納得しますね」

視界に蓮を見ながらつぶやく恭也に、その一言を聞いてさらに苦笑する志摩子だった。

そんな中、蓮はその輪から1人若干離れながら歩いていたのだがそれに気がついた蓉子が話しかけてきた。

「どうかしました?あまり話に入られていないようですが」

「あ、いえ。特に理由は無いのですがなんとなく眺めている方が楽しいかなと」

「そう・・・・」と言って蓉子はそれ以上聞かなかったが、蓮が嫌がって離れているわけではないのだろうと思った。
そんな2人の所に

「あら、なんかカップルみたいな雰囲気をかもしだしているわね、お二人さん?」

と、にっこりと言うよりにやりと言う方が合っている笑みを浮かべて聖が話しかけてきた。

「それにしても蓮君は言葉数少ないよね〜。昼間は結構喋ってた気がするけど?」

その質問に蓉子は少し驚いたような表情をしているが、蓮は苦笑いをしていた。

「あまり大勢で行動というのは慣れていないんですよ。それにここは女学園ですしね、基本的にあまり女性と話をしたことがないので・・・・・・・」

少し表情を暗くしながらそう言う蓮だが

「でも、皆さんは話しやすいので助かっています」

とそう続けて微笑を浮かべた。

聖もそうだが蓉子も蓮が微笑んでいるところを初めてみた(しかも間近で)のでビックリするのと恥ずかしいので頬を紅くしていた。

「大丈夫ですか?お姉さま方?」

いつの間にか近くに来ていた祐巳が聖と蓉子の顔を見ながら聞いていた。




そんなこんなで校舎内の案内を終わり、聖堂、温室と来て今は武道場の前にいる。

「さて、ここが武道場。ちなみに今は令ちゃん達剣道部が練習してるわね」

妹の頑張っている姿を見れるのが嬉しいのか江利子は笑顔だ。

「邪魔にならないように静かに見ましょうね」

まるで母親の様な蓉子の言いぐさに

「はい、わかりましたわお母様」

と言葉は真面目だが明らかに茶化して言う聖であった、それを聞いて周りのみんなも思わず笑ってしまう。

「もう!茶化さないで聖。」

多少膨れながら頬を紅くする蓉子。

そして武道場に入ると令はすぐに見つかった。明らかに他の部員とは動きが違う選手が1人居たからだ。それを江利子が恭也に伝えると

「ほう、なかなか良い動きをしていますね。相当鍛錬をこなしているのでしょうね」

頷きながら感心している恭也に、妹を誉められたため喜んでいる江利子だった。
同じように友人を誉められた祥子、志摩子、祐巳も頬を緩ませていた。

そんな風に和やかな雰囲気で話している恭也達の隣では蓮、聖、蓉子がなにやらひそひそと話をしていた

「恭也君モテるね〜、志摩子もあっちか〜」

「そうね、でもあれだけの顔で性格も良さそうだしわからなくもないわね」

「・・・・・・・・」

2人女性が話している中おとなしく話を聞いている蓮だった。

そこに休憩に入ったのか令が近付いてきて、

「みんなで見に来たんですか・・・・・・・流石に最初気がついたときはビックリしましたよ」

そう肩を竦めながら、でも顔は微笑ませながら言ってきた。

「たまには妹の頑張ってる姿を見たいと思ったのよ、令」

「まぁ、蓮君と恭也君の案内も兼ねてるんだけどね♪」

妹に微笑みながら話しかける江利子に少し付け加える聖

そこでふと思い立ったように

「そういえば蓮君って何か武術とかやってるの?」

「はい?」

いきなり話を振ってくる聖に、まさか自分に話が振られるとは思っていなかったため微妙にうわずった声で返事を返してしまった蓮
その横で興味有りと言った顔で話を聞いている蓉子と令

「ハッキリとは覚えていないんだけど、前助けて貰ったときなんか圧倒的みたいな感じがしたからさ」

「・・・・・・・・・・・」

聖からの質問にちょっと考えるような仕草をした蓮だが

「ええ、多少は。でも自分より恭也の方が何かやっているような気がしますよ」

この時、蓮には2つの疑問があった。

1つは恭也が自分の情報網にひっかからずに当日になって初めて知らされた奇妙な存在だった事

もう1つはどこか恭也から自分と似た匂いがする事

蓮の一言からみんなの視線が恭也へと向く。

「・・・・・・・・一応、我流で剣道の様なものをやっています。」
(何故、蓮はそう思ったんだ?今までに何か気付かれるようなことはやっていないと思うが・・・・・)

「なら、少し打っていきませんか?恭也さん。流石に何もしていなければ身体がなまってしまうでしょうし」

恭也の言葉を聞いてそう提案する令
その令の言葉を聞いて

(ここで試してみるのもアリなのかもな。実力が分かれば・・・・・・・・・・)
「なら俺が相手をしますよ。多少剣道の心得もありますし。」

そう蓮が言うと、そんな面白そうなことをこのお方が逃すはずもなく

「それいいわね、是非見てみたいわ♪」

きゃっきゃっと言っていそうな顔で江利子が賛成した。

周りの娘達も頷いていたため、内心仕方ないかと思いながら恭也も申し出を受けることにした。

「なら宜しく頼む、紅」

「こちらこそ」

二人は軽く握手すると準備するためにその場を離れていった。



期せずして始まった恭也と紅の手合わせ。
美姫 「どんな事になるのかしらね」
いや〜、次回が気になる、気になる〜。
美姫 「そんな訳で、次回〜」



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