―――何のために生まれたのか

 

―――何のために生きているのか

 

今はもう、僕らの手に届くことの無い(とお)い問いかけ。

今はもう、失ってしまった尊い生命の囁き。

僕らの罪を残したまま逝ってしまうのをどうか許して欲しい。

その贖いを押し付けてしまうのをどうか許して欲しい。

罵ってくれてもいい。蔑んでくれてもかまわない。

 

だから、だからどうか――――――僕達の堕とし子には救いを与えてやって欲しい。

 

 

                      ―――『日記』285ページより抜粋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第2話    『加速/逆行』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――駆け抜ける。

脇目も振らず、とにかく駆け抜ける。無駄な動作などせず肺の酸素全てを疾走するための燃料に変えて心臓(エンジン)を動かし、体中()()筋肉()をフル稼働させる。

”あと何回だ!?”

『一回です!』

デバイスとの念話を刻みながら次元跳躍を織り交ぜながら駆け抜けていく。

事態が発覚したのはほんの数時間前。だがそれだけでもう遅すぎた。

 

賢者(賢者)()意思()

それが恭也たちがグレアムとその使い魔リーゼロッテ、リーゼアリアに頼んでまで探していたものの正体だった。

管理局では公式にはないものとされていることからもその重要度は計り知れるだろう。

正体不明のロストロギア。

しかしそれを捜している集団があると言う。

それが<久遠の末裔>。

管理局内に強い権限をもっていたグレアムですら辿りきれなかった彼らはおそらく管理局の上層部が主なメンバーになっているというのが恭也とグレアムの共通認識だった。

『賢者の意思』がどういうものなのかは情報収集を頼む手前もあってざっとだが話はしてあった。

だからこそ彼は積極的な協力を申し出てくれた。

それはきっと闇の書事件の事が心に深い爪痕をのこしていたから。

さりとてなかなか尻尾を掴むことができず、闇の書事件とその後始末もあって情報集めは芳しいとはいえない状況だった。

そして、そのツケがとうとう回ってきた。

管理局という組織の力は絶大だ。

香港警防隊で仕事をしていた恭也には組織という力がどれほどのものなのかを痛いほどよく知っていた。

だからこそ、情報を集めなんとかして先手を打ちたかったのに。

結果として、完全に後手に回ってしまっている。

境界結界を支える次元境界面の主柱もいくつかは既に知られているだろうし、こうしている間にも破壊されているかもしれない。

だから恭也とそのデバイスたる白姫と黒姫は急ぐ。

もはや管理局の監視など無視してただひたすらに急ぐ。

次元を歪め回廊(ショー)()作成(カット)し、同時に次元世界間を跳躍して距離を稼ぐ。―――見つかればそれだけで捕縛対象と化す違法行為のオンパレード。

だけど知らない。構っていられない。それほどまでに事態は切迫していた。

『次元跳躍!』

デバイスが煌くと景色が極彩色に染まり、一瞬あとには見たことも無い景色へと変貌し、そして景色が再び歪み真白な回廊が現れ疾走を再開する。

何度繰り返したか判らないくなるらいの、この行為。しかしそれもようやく終わりが見えた。

 

回廊を抜けた先に見えるのは―――超硬性防御結界とその中に見える幾人かの人影と機械。

一瞬の思考が脳を駆け抜ける。

解は即座にはじき出され、同じように弾き出されるはカートリッジ。

「貫け!」

()()い尽くす(ガルズオル)()

紫電が絡みついた剣は硬度では最高レベルの結界をしかし事も無げに粉砕した。

硝子が一斉に砕けたような破砕音を聞き、作業をしていたであろう人達が一斉に振り向くが彼らの瞳に恭也は映らない。

映るのはただ一陣の漆黒の風。

一人は顎を柄尻で粉砕され、一人は身に纏ったバリアジャケットごと切り裂かれる。

舞い散る鮮血と沸き起こる悲鳴。

だが彼らとて訓練されている身。驚愕はすぐさま押さえ込まれ各々の手にデバイスが握られ、次の瞬間には魔法が辺りを飛び交っていた。

視界を埋め尽くすほどの光の奔流。逃げ場などない牢獄のようなそれも恭也の目には確りと抜け道が見えていた。

針の穴を通すように精確にルートをなぞり、飛翔。

そうして一人、また一人と倒されたと意識する間もなく地に臥していく。

黒き風が通り抜けた後には殺意の残滓しか残らない。

恭也に向かっていった中でも優秀な方だった彼は目の前に迫る風を前にして思った。

―――勝てない。絶対に、勝てない。

あの嵐のような砲撃を前にほぼ無傷で切り抜ける?そんなものはもはや人間の業ではない。そしてまがりなりにも訓練された武装隊の面々を一瞬で戦闘不能に追い込むなど、それは伝え聞く鬼神の業か。

―――ああ、そうか。

それはきっと単純な理屈だった。人間では為しえないのならば、もう答えは一つしかない。

容赦なく襲い掛かる激しい痛み。

ゆっくりと薄れていく意識の中、無感情にこちらを見下ろす恭也を見て彼は自然と脳裏に浮かんだ言葉を、口にした。

「……化け、物…」

 

 

 

「化け物・・・か」

短く息をつき辺りを見渡せば遠巻きに己を見る魔導師――――――管理局の、武装局員。

彼らの瞳に見て取れるのは紛れも無く怪物を目撃してしまった事の恐怖。

成る程。あの光景を目にしたからには当然だろう。それでも武器を手放さないのはさすがというべきか。

だからといってどうもしない。やるべきことは変わらない。

 

……ただの一人の例外もなく殲滅する。

 

この一時のみ、恭也が振るうは御神の剣にあらず。彼の腕にて振るわれるは不破の剣。

理は’護るために壊す’。

腰を深く落し構えを取る。まるで獣が獲物を狩るために伏せるような行為、という表現はしかし的を射ていた。

恭也の双剣に魔力が宿りそれに伴い武装局員の面々も魔法を起動させる。

無論、非殺傷設定などという生ぬるいことはしていない。あたれば一撃で悉く殺戮せしめる必殺の魔法を準備する。……殺す気でやらなければこちらの喉笛は瞬く間に食いちぎられるだろう。

機械の無機質な動作音が場を支配する中、膠着は一瞬の刹那に閉じ込められ―――

 

――――――魔法という名の破壊の化身が、再び場を支配した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Interlude

 

「調査、ですか」

クロノの声に艦長であるリンディは静かに頷く。

今現在アースラは第■■■次元世界の次元空間上を航行している。

管理局の本来の目的が次元世界の安定なのでこうやって調査隊が組まれて問題が無いか調べることは割りと多い。

そんな頻繁にPT事件や闇の書事件のような大事件が頻発するわけがないのである。というか頻発されたら困る。

そう、だから別段不思議なことではない。ないのだが・・・・・・

「その、こんな辺境を・・・ですか?」

「・・・そうなのよねぇ」

調査に派遣された場所がとんでもない辺境なのだ。

それが普通の標準的な戦力しかもたない艦ならまだ理解できる。

しかし事は仮にもAAAクラスを三人も保有しているアースラ艦である。

戦力で言えば管理局の中でも上位に入る。それをいくら調査とはいえこんなところに派遣するのか、というのがクロノの今の心境。

リンディや艦内クルーも同様に思っているのだが、同時に仕方ないとも思っている。

簡単に言うと管理局のお偉方に相当睨まれているのだ。

PT事件にしろ闇の書事件にしろ結構な無茶をやらかしてしまっている。そしてその度になんだかんだといって管理局に文句いっているのだから。

トドメはPT事件ではフェイト、闇の書事件では八神はやておよび守護騎士。共に罪状は十二分にあったのを軽減するどころかほとんど無罪同然にしてしまってさえいるのだ。

当然しかるべき交渉あってのことなのだが、だからといって面白くないものは面白くないらしい。お株を奪われた感じになってしまった他の艦の艦長も大方にたような感じだ。

クロノあたりは下らないと思うのかもしれないが体面というのも意外に大事なものである。またどうにかできるような権限も今の彼には持ち得ない。

「まあ、なのはさんの予行演習だと思えばいいじゃない」

「はあ・・・」

あの事件の後、なのはは正式に管理局で働くことに決めた。

いくら実戦経験があるとはいえ士官候補生からのスタート。今はその仮配備の期間に当たる。

まあ、そういう意味では今回の調査はちょうどいい予行演習になるだろう。

しょうがないか、と一度溜め息をつくと同じようにしていた母であるリンディが目に入る。それはどうやらリンディも同じだったようで。

二人はどちらともなく顔を見合わせ、苦笑した。

 

 

                                                  ―――Interlude Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ・・・はあ・・・」

そこは、見渡す限りの屍の山だった。

幾人かは未だ息をしているがそれも時間の問題だろう。誰も彼もが身体の一部を失っているものばかり。

血の臭いが鼻をつく。

今では武装局員の数はどんなに多く見ても半分以下になっていた。

顔を上げ、両手のデバイスを構える。恭也もさすがに無傷というわけにもいかず体力も消耗している。だがそれも許容範囲内。

魔力を噴き上げその身を再び漆黒の風と化し局員の一人へと肉薄する。視認するのがやっとの速度に対応できるはずもなく恭也の双剣が無慈悲にも切り裂こうとした。

そこに

「―――ッ!!?」

現れた真紅の閃光が、恭也の目を焼いた。

上空からの奇襲。

それに伴い身体を急速旋回。

辛うじて閃光は恭也の頬を浅く切り裂くだけに留まった。

恭也は体勢も不安定なまま地煙を上げ、滑り、慣性を殺す。・・・追撃は無い。

確認すると警戒を厳にし、立ち上がりながら不可視からの襲撃者を見据えた。

「ここは僕がやろう。君たちは引き続き作業を進めてくれ。あともう少しで終りそうだからね」

「「は・・・はっ!」」

青年の言葉に礼を返すと彼らは一目散に機械の方へと駆けて行く。

だがそれを恭也が追わないはずが無い。

無言で加速し、愚かにも背を向けている局員めがけて剣を振り下ろそうとして、しかし背後からの攻撃に止められた。

「・・・くっ!」

逆手でこちらの心臓目掛けて繰り出される刺突を辛うじて受け、流す。

弾かれた勢いで両者の距離は再び離れ戦闘体勢を崩さぬままに、二人は向き合った。

そして理解する。―――倒さねば先には進めぬと。

青年―――カイは槍状のデバイスを構え、恭也は双剣を両手に馴染ませ、無言のまま殺意だけが増幅され、…殺劇の幕はあがった。

 

 

 

 

「疾!」

声と共に武器と武器とが炸裂する。

カイの持つデバイスは短槍のようだったがその認識が誤りだと戦っていてすぐに気が付く。

彼の武器は短槍であり長槍だった。

仕組みは恭也のデバイスと同じく槍の刃の部分が魔力で構成されている。恭也は伸ばしたり縮めたりといったことはできないが彼のは可能らしい。

厄介極まりない、と内心で毒づく。長さが変わるということはつまり間合いが変わるということ。戦闘における間合いの重要性はいまさら語るまでも無いだろう。

唯一の救いは彼自身がそこまでの使い手ではないということだ。

訓練はされているが達人クラスかといわれれば答えは否。恭也を剣術家としてみた時ほどの錬度はない。

繰り出される真紅の閃光を両の双剣が弾き、絡めとり、すかさずカウンターを斬りこむ。

だがそれは瞬間で形成された障壁によって阻まれてしまっている。

 

―――拮抗している理由がこれだった。

つまるところ魔導師としての恭也とカイの差。

障壁を作り出すのにカートリッジを消費しなければならない恭也と脊髄反射レベルで作り出せるカイではどちらが優秀かは明白だ。

()()い尽くす(ガルズオル)()>で砕いてしまえばいいのだが剣が紫電に染まると彼はすぐに距離をとり遠距離から瀑布の如き突きの乱舞がとんでくる。そしてそうこうしている間に効果時間が切れてしまうといった感じだ。

カートリッジは有限である以上無駄な消費は避けなければならない。

ましてそれが、魔法の才の無い恭也ならばなおさらだ。

 

槍はいつの間にか長槍となって接近していた恭也の首を落す軌道でなぎ払われた。

双剣で断頭台の刃を防ぎ振るわれた勢いのまま後方に飛び距離を取る。そして着地の瞬間目掛けて繰り出される刺突を全力で弾き、再び接近して剣で突き、払い、切り裂く。

 

撃ち合いは百に届こうかというところで突然、カイは大きく後ろに跳躍した。

カイの行為に恭也は怪訝な表情を浮かべる。

これまで恭也の方から苦し紛れに距離を離したことはあっても向こうから離したことはなかった。

警戒を強める恭也を見てカイは昏く笑う。すると槍の刃元の6つあった小さな筒のようなものが分離し

 

「な!?」

 

さっきまでの嫌な感覚の正体が明らかになると同時に、いつの間にか恭也を包囲したそれらから魔力の閃光が振りそそいだ。

すぐに回避運動を取るがまるでそれを読んでいるかのように筒は別個に移動し退路を塞ぐように再び閃光を走らせる。

「ちっ!」

珍しく舌打ちすると進路上の閃光を剣で弾き、進んでいく。しかし出来た穴を埋めるように別の方向から閃光が飛来するがそれすらも同じように弾いていった。

両手の剣を巧みに使いかわしていくが全てはかわしきれずバリアジャケットが所々破れ、皮膚が捲れている。幸い出血は少ないが、だからといって軽視できるものでもない。

瞬間、左方からの鋭い殺意。

弾かれるように目を向けたそこにあったのは槍を構えたまま体勢の崩れた恭也を狙うようにして突っ込んでくるカイの姿。

 

『やっぱり!なんでエクスキューショナーが!?あれはとっくの昔に廃棄されたはずです!』

「ははは!<賢者(賢者)()意思()>の恩恵を受けているのは何も君たちだけじゃないんですよ!!」

悲鳴に近い白姫の声とまるで其の声が聞こえているかのような正反対なカイの声。

そして同時に痛みと灼熱感が恭也を襲う。

かわし損ねた真紅の光槍はバリアジャケットを貫通して脇腹を浅く貫いていた。

恭也は焼け付く痛みを押さえ込んで思いっきりカイを徹を込めて蹴り上げる。予想以上の衝撃が来たためか、障壁で防いでいたものの苦痛に顔を歪め吹き飛んでいく。

だからといって脅威が去ったわけではない。六つの小さな砲台は恭也に狙いを定めたままだ。

放たれたまるで檻のような光の雨。体勢は崩れさっき右腕を撃ち抜かれた恭也がこれを回避する方法は一つしか残っていない。

「仕方がない…!」

 

―――神速―――

 

世界が、切り替わる。

モノクロに染まり時間の流れが遅くなった世界を、纏わり付くような空気を押しのけながら光の檻から逃れるように走り抜け、距離を取る。

辛うじて抜け出すことに成功した恭也は、ある程度距離を取る同時にカートリッジを装填。

絶対(イー)防御(ジス)

世界に色が戻るとともに白い障壁が恭也を中心にドーム状に広がり攻撃に備える。

が……予想していた閃光も衝撃も来ず

 

 

ゴゥン!

 

 

変わりに大地を揺るがすような震動が、恭也を襲った。

それに連動するように大地が、空が、それこそ蜘蛛の巣のように放射状の亀裂を基点として崩壊していく。

『マスター!』

「しまった!…間に合わなかったか」

『それにあれは……ジュエルシード!?』

大地にアンカーのように深々と突き刺さった機械の中心に、青い宝石のようなものが烈しく明滅していた。

「逃げるのならば早い方がいいと思いますよ。間もなくこの世界は虚数空間に飲み込まれます」

まるで恭也達を嘲笑うかのように、無人ではあっても一つの世界が崩壊するというのに、そのことに何も感じていないかのようにカイは言う。…実際何も感じていないのだろうことは表情を見ればわかる。

そうこうしている間にも崩壊は加速度的に進行し、もともと在った色は極彩色に統一されていく。

ギシリ、と奥歯を噛み締め睨みつけてくる恭也を一瞥するとカイは踵を返し転送魔法陣を起動させ、その場から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、また。―――――――――今代の守護者(ガーディアン)

 

 

 

 

 

 

 

 

ただそう言い残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

補足説明

 

 

<賢者の意思>

よく知られているところの賢者の石のようなもの。久遠の末裔の追い求めているもので公式には存在しないことになっているロストロギア。

ありとあらゆる知識を内包しているらしいが久遠の末裔でもその詳細は知られていない。

 

 

<エクスキューショナー>

精確にはDSO―X666atd『エクスキューショナー』

形状は短槍。

性能そのものは従来の物よりやや向上しているだけの一般的な魔杖にすぎないが槍の刃下に六つの小さな筒が設置されている。

この半自律型小砲端末『バースロイル』は術者のイメージを基盤に敵を追尾し、独自に簡単な回避運動もとることができる。

ただ、これを扱うには高度な空間認識能力が要求される。わかりやすく言うとフ○ンネルとかドラ○ーン。

白姫が言っていたように設計図ともども、もう存在しないはずのモノである。

 

 

 

変更なり更新などあればその時にまた補足説明をいれたいと思います。

    

           





いやいや、またしても幾つかの伏線らしきものが。
美姫 「恭也が闘った相手の正体は、そして目的は」
激しく動き出した物語。
美姫 「全てはどこへと向かっていくのかしら」
なのはたちの出番はいつか!?
美姫 「それら共々、次回も楽しみにしてますね」
首をキリン以上に長くして待ってます!
美姫 「ほうほう。なら伸ばしてみなさいよ!」
ぐぇぇっ!



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