―――それはきっと僕らが残せる唯一の贈り物。

 

開発の方は順調に進んでいる。相変わらず議会の方は揉めているがおそらくは可決されるだろう。

 

あの宣告は普通だったら忌避すべきものなんだろうけど僕達にとっては朗報だった。

 

誰も彼もが心のどこかで望んでいた、結末。

 

ここまで議会での議論が白熱したのも本当に久々。

 

みんなどこか楽しそうだったし。・・・僕もその一人なんだけれど。

 

永すぎる時は、僕らからいろんなものを奪っていた。

 

その事を目の当たりにした感じがする。

 

始まりがあって終わりがある。

 

それがきっと正しい形。

 

だからこそ、この開発は必ず成功させなければならない。

 

僕達の過ちを彼らに繰り返させないためにも。

 

                                ―――『日記』207ページより抜粋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第4話  『古代(ロスト)遺産(ロギア)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ッ」

「マスター、大丈夫ですか?」

「主・・・もう少しご自愛ください・・・」

「ああ。心配かけてすまない。もう大丈夫だ」

薄暗い部屋の中、寝台に横たわる恭也を不安気な眼差しで見つめていたのは二人の妖精。

白の妖精はその手を彼の膝に当て、癒しの力を。黒の妖精は主の手に己の手を添えて労わりを。

痛みを堪える主の姿を一途に案じて。

「主、『神速』の使用はもうおやめ下さい」

「わかっているはずですよね・・・・・・・・・もう、いつ砕けてもおかしくないことくらい」

その声は僅かにだが震えていた。

――彼女達が言うように恭也の膝はもう限界を迎えていた。

幼少期の膝の破壊。その後の香港警防隊での度重なる戦闘に加えて闇の書事件での「刹那」と「神薙」の二度に渡る使用。

トドメは戦略(メガデス)級魔法の単独行使。

それらは容赦なく恭也の体を蝕んでいた。

 

『リンディ提督から聞きましたが、戦略級魔法を単独で行使するなど自殺行為です!』

 

『それにその膝!一体どんな使い方をしたらそんな風になるんですかっ!』

 

『膝だけじゃありません!脚と腕の筋肉はボロボロ!骨は疲労骨折寸前!体性運動神経がここまで磨耗しているなんて信じられない!!』

 

 

 

 

 

 

『医者として言わせて貰います。―――これ以上戦えば、遠からずあなたの膝は確実に砕けます』

 

 

 

 

 

以前局内で治療を受けた後に言われた看護師と医師からの痛烈な言葉。

それは戦いに身を置く者としては死刑宣告と同じだった。

・・・・・・だけどそんなもの、とうの昔に判っていたこと。

時空管理局の技術でも、白姫の治癒魔法でも治すことが叶わなかった膝の傷は呪いと言ってもいい。

それは過去の恭也の罪。

それは恭也に科せられた罰。

「ああ。だが・・・・・・必要とあらば使う。俺の剣は護る為にあるのだから」

「「・・・・・・ッ!」」

「―――例えその結果、二度と剣を振るえなくなるとしても」

御神は美由希が正しく継いでくれるだろう。

自分が教えることが出来なくなっても完成した御神の剣士、御神美沙斗がいる。

今はまだ子供だけれど、いずれ成長すればなのはも、フェイトも、はやても。時空管理局で数多ある次元世界を護る為に戦っていくだろう。

時空管理局の全てを否定する気はない。やり方に疑問を持つこともあるが彼らの気持ちに、偽りがないことははっきりしているのだから。

 

次元世界の安定を。そこに暮らす人々に安息を。

 

誰も彼もがそう思っている。願っている。戦っている。

久遠の末裔に関しても同じことだ。彼らもまた、次元世界の安定を望んでいる。

しかし、それでも。いや、だからこそ。

「『賢者(賢者)()意思()』を渡すわけにはいかない」

―――絶対に。

白姫と黒姫は恭也をじっと、微笑みすら浮かべながら見つめている。

強い意志を今なお抱く恭也が二人の妖精にはとても眩しくて、頼もしい。

彼を主に選んで本当によかったと思う。

そして彼ならば、とも思う。

悠久なる時の中で共に戦ってきた数多の主たち。

皆、優しくて強かったがそれでも彼女達の願いは果たせなかった。

『すまない。君との誓約を、果たせなかった』

そう言って俯く彼らの姿は今でも鮮明に思い出せる。

だけど今回の主ならば、私達との誓約を果たせるのではないのか。

今度こそ私達の願いが叶うのではないのか。

「行こう」

恭也はベッドから降り、確かな足取りで床を踏みしめる。

彼の向かう先は戦場以外にありえない。そこは殺意と殺気と血風が吹きすさぶ血闘場。

ならば、彼にかける言葉は探す必要など無い。

かける言葉は一つしかないのだから。

「はい我が主。以前の時のような後れはとりません」

「ええ。我らが至高の王に必ずや勝利を」

直後、爆発的な閃光が空間を満たす。しばらくして光が収まると、そこには何も無く、誰も居なかった。

行ったのだ・・・・・・彼らの、戦場に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来ましたか。守護者(ガーディアン)

カイがそう呟くのと時を同じくして落ちてきた星は着陸するや否や爆発的な閃光を撒き散らし、周辺に展開していた局員を一斉に薙ぎ払った。

舞い上がる地煙に隠されて見えるおぼろげな影。

カイにはそれだけで十分だった。一度感じた事のある魔力を見間違うなどという愚行をする彼ではない。

煙が晴れると同時に倒れた一部の局員達から悲鳴が上がる。

声にはもはや隠すことすら忘れたありのままの、一つの感情があった。

それはそうだろう。あの惨劇を平然と行った者と与えられた恐怖をたかだか数日で忘れられる者など居やしない。

「それにしても、いささか演出過剰ではないですか?」

だというのに、一部始終を目撃しながらも平然と立っていられるカイは一体彼らの目にはどう映っているのか。

「・・・・・・」

カイの言葉に恭也は返す言葉を持たない。返すのはただ、殺意という名の刃のみ。

その返答にか、カイもまた手に槍を現出させた。

手に握られたるは処刑の名を冠する魔槍。そして周囲に浮かぶスズメバチの名を頂く機械仕掛けの使い魔たち。

先日の惨劇を知る者も、知らぬ者も、じりじりと後退を始めている。

彼らの中でそれが数時間前にカイから言い渡された命令だと理解しているのもがどれだけ居るだろうか。

彼らを突き動かしているのは普段は眠ったままの人間としてではない、動物としての「本能」。

本能が警鐘を鳴らしている。

 

ここにいたら死ぬ、と。

死にたく無くば逃げろと。

 

殺意が空気を蹂躙している。

殺気が地面を犯している。

恭也はカイに向けるように掲げた手に光剣を握り、蒼に染まった瞳はその喉笛を食いちぎらんばかりに、射抜くような眼差しで。

カイは獰猛な笑みを浮かべながら腰を落し、槍を構え、使い魔達も主に呼応するように魔力を帯びた毒針を恭也に向け。

息が詰まるような、肌を刺すような空気は―――爆音と共に大地と同じ末路を辿った。

 

 

 

 

大地が破裂するような踏み込みと同時に恭也はカイに向かって疾駆する。

それにあわせるように恭也に向かってくるカイとその使い魔達―――自立型小砲端末『バースロイル』。

一定の間合いまで接近するとスズメバチの群れは直ちに散開。そのまま自由自在に空間を飛び交い恭也に向かってその毒針を穿つ。

それはまるで一流のガンスリンガーのように精密且つ複雑。以前対峙した時にも苦戦させられたデバイス『エクスキューショナー』のもう一つの特徴。

しかし―――

「・・・・・・御神の剣士に、二番煎じは通じん!」

鋼糸(アイアン)(メイ)(デン)円環(ウロ)する(ボロ)()

デバイスの起動音とともに白の篭手に内蔵されていたカートリッジが装填され、白色の魔力光を放つ。

放たれた光は細分化を始め、結果いくつもの細いワイヤー状に変化。そしてそれらは恭也を囲むスズメバチ目掛けて殺到していく。

向かってくる危険を察知した蜂達は即座に組み込まれた自動回避プログラムから推奨される回避パターンを算出し、実行する。

しかしそれは、意味を成さない。

「なっ!?」

何故なら、それを先読みする形で真っ直ぐに伸びていた鋼糸が向きを変えたのだ。

当然、バースロイルは再び回避運動を取るがこれもまた失敗に終る。

その様子はまるで獲物を執拗に追う蛇のよう。

・・・確かにバースロイルによる包囲攻撃は脅威だし、彼らの行う自立回避も優秀だ。

だが、優秀すぎるのだ。

守護騎士達のような自我を持つプログラムは例外だが、機械はプログラムどおりにしか行動しないし行動できない。

そしてプログラムもまたどんなに優れたプログラムでも、いや優れたプログラムであるほどに精確で的確だ。

だからこそ読みやすい。

これが恭也だけであれば難しかっただろうが、あいにくと恭也は一人ではなかった。

”白姫、頼む”

『おまかせを、マスター』

彼には二人の妖精が常に傍らに居るのだ。

 

確固たる自我と意思を持つ、特異なデバイス『白姫』『黒姫』

 

機械的な演算能力と人間としての判断能力を備える彼女達と、ただの計算されたプログラムとでは優劣は明らかだ。

しかし、この魔法には欠点が存在する。

恭也自身に操作誘導スキルはあるのだが、だからといって同時に複数の鋼糸をそれも複雑な動きをさせることができるかと聞かれれば答えは否だ。

そのためこの魔法は完全に白姫にまかせきりになる。

―――つまりこの間、恭也は片方の剣と一切の防御魔法と補助魔法が使えない。

「ちぃッ!」

バースロイルの包囲網を抜けてカイの舌打ちが聞こえるくらいまで接近した恭也の剣とカイの槍とが激突した。

一合、二合、三合―――――!

手数が半分になったことを感じさせない数の斬撃が矢継ぎ早に繰り出されカイを肉薄する。

対するカイも槍を縦横無尽に疾らせ防ごうとするが、彼と恭也とでは武術の腕が違う。

次第に防ぎきれなくなり、抜けてきた斬撃を障壁で受け始めた。

恭也の斬撃には全てに『徹』が込められている。そのため今までは腕に集中していたダメージは障壁に剣がぶつかるたびに容赦なく内臓を痛めつける。

以前は百打ち合ってなお余裕を崩さなかったカイだが、それは今や見る影もなかった。

それがバースロイルの包囲を突き崩された事が精神的に効いている所為なのかまではわからないが。

心に余裕が無ければそれは焦りを生み、慢心は隙を生む。

カイはそれでもなんとか距離を取り遠距離からの攻撃に転じようとするが、恭也が許すはずが無い。

距離を置こうとするたびに恭也の剣は獰猛にカイに喰らいつき、そして時間が経過していくたびに空を飛ぶ蜂は白蛇の顎に噛み砕かれていく。

「ああああああああああああ!」

業を煮やしたカイは向かってくる剣が槍と触れる瞬間、己の魔力を爆発させた。

総量をして半分。己の持つ魔力のおよそ半分をも注ぎ込んだのだ。

恭也の瞬間最大放出量を軽く上回るそれは易々と恭也を弾き飛ばし―――距離が、開いた。

二人の思考時間がどちらも刹那ならば、行動に移すのもまた一瞬。

「詠え!ニーベルングの指輪よ!」

「貫け!」

その型は不思議とどちらも同じで、恭也は剣を、カイは槍を。腰を落しながら弓を引き絞るように腕を引き――――

<Gungnir>

()()い尽くす(ガルズオル)()

放たれた矢は、まるで雷のようだったと誰かが言った。

 

カイが放った槍の必殺の一撃はもはや砲撃とよんで差し支えない、それほどの槍戟だった。

白姫の使えない今の恭也では喰らった瞬間に灰燼と消えるのは覆せぬ事実。

ならば、生き残る方法はただ一つだけ。

”俺よりも、美由希の方が得意なのだがな”

弓のように引き絞るのと同時に黒姫にカートリッジを装填。

たちまち握っていた剣は余すとこなく紫光に染まり、紫電を纏う。

そのまま恭也は瞳を伏せ、意識を集中させた。

この一時において、視覚は必要ない。余計なものを視る必要は無い。

不破恭也では、魔力の放出量において目の前の敵には届かない。

故に狙うは魔力の細鋭化による一点突破。

 

――細く

 

――鋭く

 

――貫く意志を

 

――不破の誓いを、ただただ込めて

 

 

――――放つ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

御神流 裏・奥義之参  『射抜』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおおおおお!」

「ああああああ!」

咆哮とともにぶつかり合う互いの<必殺>。

砲撃のような巨大な槍と、針のように細く鋭い剣の槍がしのぎを削る。

対照的な槍同士のぶつかり合いはしかし拮抗していた。

荒れ狂う魔力の余波で大地は捲りあがり、大気は怯えるように鳴いている。

だがこの勝負、傍から見ても勝敗は明らかだった。

いくら細鋭化しようとも放たれた魔力の総量の差までは変えられない。せいぜい削るのが精一杯だろう。

そう、削るのが精一杯。

この、一撃では。

恭也を捉えたカイの両の眼が見開かれた。

彼のもう片方の手に突如として現れた白銀の剣に。そして気付く、彼の狙いに。

しかし、もう遅い。

蜂を全て叩き落し、使用可能となった白姫に次々とカートリッジか装填されていく。その魔力量は黒姫を、そして減衰した<世界樹(グング)()()>を上回っている。

―――射抜は御神の技の中でもある意味もっとも殺傷力の高い奥義であり、そして最も派生の多い奥義でもある。

これは、その中の一つ。

唸りを上げる白銀の剣は狙いを定め、放たれた。

黒の剣が未だぶつかり合う点、つまりもっとも魔力が収束している一点目掛けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

御神流 奥義 『射抜・追』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白銀の軌跡と化した一撃は着弾と同時に耳を劈くような爆撃音と破砕音を無秩序に響かせ、辺り一面を白に染め上げながらカイのデバイスを欠片も残らないくらいに破壊しつくした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく・・・・・・派手にやってくれましたね。あーあ、こりゃもう修理不能だ」

パンパンと服に付いたほこりを払うと直撃をくらったはずのカイはゆっくりと立ち上がった。

――あの瞬間、白姫がデバイスごとカイを貫くはずだったがあの土壇場で障壁が張られた。もちろん張ったのはカイ本人に他ならない。

世界樹(グング)()()>を破り、エクスキューショナーを砕いた後で威力が大きく損なわれていたためカイが本気で張った障壁を貫くほどの貫通力は残っていなかったのだ。

それに白姫は防御と補助を司るデバイス。もともと戦闘向きではないデバイスでつかった攻撃魔法は若干なりとも威力が損なわれる。

少なくとも白姫はそうだった。

ギシリと歯噛みする。

自分の魔導の才の無さが今回ばかりは口惜しい。

無いものねだりとはわかってはいるが、それでもそう思ってしまうほどに。

だが今考えることではない。後悔は後でいくらでもすればいい。

渦巻く感情を理性で冷却しながら立ち上がったカイの喉元に向けて刃の切っ先を突きつけた。

そして恭也の口が開き、そこから言葉が形を成そうとしたところで―――カイが割り込みをかけるように口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石は存在(、、)しない(、、、)はず(、、)()自己(アクセ)進化型(ラレイト)デバイス、『明日華(あすか)』と『夜宵(やよい)』だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉は、理性による冷却など追いつかないほどの熱を恭也達に抱かせるには十分すぎた。

 

 

『『貴様如きが、その名で私を呼ぶな!』』

普段の彼女達からは想像もつかないほどの、憎悪すら抱いているであろう怒号。

その名が冠する意味を知る彼女達にとってそれは最悪の屈辱でしかない。

その名を呼ぶ意味と、その名を知る理由を理解している恭也達にとってそれは災厄でしかない。

殺す。

今すぐ殺す。

「久遠の末裔」の情報など、どうでもいい。

賢者(賢者)()意思()>にもっとも近いところに迫っているコイツはこの場で殺す―――!

恭也と彼女達の意思に応える様にコート状のバリアジャケットと篭手状のデバイスが魔力へと変換され形を変える。

髪は元の黒髪に戻っているが瞳の海色は更に深い色に染まっている。

恭也の両腕に現れたのは篭手。だが今まで付いていたコアクリスタルは無く、形状も以前のものよりもずっと精錬されたものに変化していた。

だが一番の変化は恭也の手に握られている二振りの剣。今までのような魔力そのものを刃とするものとは違う完全な実体剣。

サイズは小太刀くらいで、装いこそ西洋のものだが刃は片刃で若干の反りがある。

カートリッジシステムもコアクリスタルもこちらに移っているようだ。

―――第三(サード)制御(リミ)状態(ット)

攻撃力の増強と防御力を犠牲に速度を優先した、恭也に一番合った戦闘形態。

しかし、この時の恭也達の選択は愚かだったと言わざるを得なかった。

過度の感情は剣閃を鈍らせ、動きを大雑把にさせる。それにより読み易くなり、また斬撃も大味になりがちだ。

そして最大のミスは・・・・・・カイがここに居るということは即ち、カイがジュエルシードを持っているということに他ならない。

 

カイから放たれた蒼い光が恭也の目を焼くように強く耀く。それと同時にカイは跳躍し、恭也から大きく距離をとる。

その光を前にしてようやく、恭也は己のミスに気付いた。

「あはははは!ジュエルシードがこんなに強く耀いてるよ。よほど強い想いだったんだねぇ、君たちの「殺す」という想いは」

クスクスとまるで子供のようにカイは笑う。

愚か過ぎるミスにひどい自己嫌悪を感じるが、このまま黙ってみているわけにはいかない。

自分の行動に呆然とした様子の二人の妖精を意図的に意識から外し、地面を蹴りつけた。

もう既に大地も空も罅割れ、虚数空間が見え隠れしている。間もなくすればここも飲み込まれ、境界結界の支柱の一つがまた砕け散るだろう。

もはや結界が瓦解するまでに時間は残されていない。全ては後手に回ってしまったことが原因だ。

・・・・・・あってほしくは無いが、結界を護りきるのはおそらく不可能だとこの段階に来て恭也達は判断していた。

だがそれなら尚のこと、この男を生かしておくわけにはいかなくなった。

幸いにもカイと恭也の位置はそれほど離れていない。

第三制御状態の恭也ならば『神速』で瞬く間に接近し、殺す事は容易だ。

一切の躊躇いも無く恭也は神速を発動させた。視界はモノクロに染まり、ゼリーのような空気の中を全速力で走り出す。

―――だが、届くことは終ぞ無かった。

「・・・・・・・・・こんな、時にッ!」

倒れた。無様に地面に這い蹲るようにみっともなく倒れた。

ズキズキと膝が不協和音を奏でている。

痛みで視界がチカチカする。

『主っ!』

『マスターっ!』

デバイスの姿から少女の姿に戻った白姫と黒姫―――明日華と夜宵がこちらに向かって脇目も降らず駆け寄ってきている。

ふと視線を周囲にやるがそこにカイの姿は既に無かった。

涙を溢れさせながら自分に縋ってくる彼女達を感じながら、辛うじてつないでいた意識はテレビの電源を切るように途切れる。

・・・・・・・・・漠然とした不安がノイズ交じりに目に焼きついて離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

L級巡航監視船アースラ。

その中で管理局本局から言い渡された辞令に艦長であるリンディ・ハラオウンは愕然としていた。

何かの間違いだと思いたかった。

何かの間違いだと信じたかった。

しかしそれは本局から添付された調査内容の結果と、資料を見るなり打ちのめされた。

信じられないと同様に思っていたアースラのスタッフは送られて来た調査結果と資料を何度も検証したし、あまつさえ改竄されていないかどうかすら調べた。

だがいくら調べても間違いやミス、改竄など欠片も見つからなかった。

その時の彼らの落ち込みようと言ったらなかった。彼と接した時間はそう多くなかったがそれでもそんな事をする人間ではないと断言できた。

「・・・・・・・・・」

部屋で深く息をつく。

彼のこともショックだったが、これから彼女達にも言わなければないと思うと憂鬱だった。

間違いなくショックを受けるだろう。自分ですらこれなのだから、より親しかった彼女達は一体どれだけ悲しむのだろうか。

クロノも立場上、冷静を装っていたが内心は未だに信じられていないのが感じられた。

本人は口にしなかったが、彼と話しているときのクロノは兄でもできたかのように楽しそうだったから。

部屋で静かにしているとさっき言い渡された辞令が何度もリフレインされていて、とてもではないが休憩どころではない。

これならば艦長席に座っている方がまだマシだ。

冷め切ったお茶をテーブルに置くと、ドアを開けて部屋を後にする。

「・・・・・・もう一度、調べてみましょう」

多分無駄だと判っていても、そう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本日未明。アースラ艦長に向けて出された辞令は以下の通り。

 

『L級巡航監視船アースラは頻発している次元震の発生の重要参考人、そして巡回警備中だった武装局員殺害の容疑者でもある「高町恭也」を捕縛せよ。やむをえない場合は殺害も許可する』

 

 

 

 

 

 

 





何か謎めいた単語が出てきたと思えば。
美姫 「恭也が重要参考人に!?」
いやー、益々目が離せない展開になってますな〜。
美姫 「一体どうなるのかしらね」
あの名前の意味も気になるし。
本当に続きが待ち遠しい。
美姫 「次回も楽しみに待ってますね〜」
待ってます。



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