「はぁはぁ・・・」
暗い夜の公園で一人の女性が全力で走っている。服装からして高校生だろうか。
セーラー服を翻し何かから逃げるように走っている。しかし、後ろからは誰も追いかけてくる様子はない。
それでも全力で走り続けている。女子生徒は知っているのだ。
もしもここで足を止めたら、殺されてしまうということを。命を奪われてしまうということを、本能的に感じ取っているのだ。
ガッ!
公園の出口に差し掛かったころ、足元の石に躓いて盛大に転んだ。
「痛っ・・・」
しかし女子生徒はこけたときについた砂を払うこともせず、再び立ち上がり、走り出そうとした。そのとき・・・
ドシュッ!
「か・・・・はっ・・・・」
鋭い触手のような物が、女子生徒の左胸を的確に貫いた。
そして糸が切れた人形のように、少女はその場に崩れ落ちた。
すると、触手の持ち主であろう生き物が、深い闇の中から姿を現した。
その姿は異形としか言いようがなく、知りうる限りの生き物で形容しようとすれば、カバの化け物と言えよう。
その化け物はゆっくりと女子生徒に近づくと、大きな口を開け、おそらく食べようとしたのだろうそのとき
ドカッ!
どこからともなく飛んできた巨大な刀が異形な化け物の頭に突き刺さった。
「ギャアアアア!!」
耳を劈くような大きな断末魔の叫びを上げ巨大な化け物は地に伏した。
「ちっ・・・おそかったか・・・」
巨大な刀を引き抜いた男―身長170以下、どちらかといえばやせ型で、黒い瞳、
長く黒い髪を後ろでポニーテールにして一目で見ると女に見える―は、忌々しげに化け物を見た。
「しかたないですよ。それよりこの女性はどうするんです、遙?」
遙と呼ばれた刀を携えた男は、自分より身長が少し低く、少しやせて美しい腰ほどの黒髪の女性に向かって、
「どうしょうもないね。もう完全に死んでるみたいだし。那雪姫はどうしたい?」
ついさっき殺された女性を一目見ただけで生死を見分けるそのさまは、明らかに実践になれ、あまたの死戦を潜り抜けたそれだった。
「どうしようもないなら早く帰りましょう。あんまり見ていたいものでもありませんし。」
那雪姫と呼ばれる女性も手には豪華な装飾のレイピアを持ち、その雰囲気も遙のそれにまけずとも劣らないものだった。
空には、銀色の月が煌煌と輝いていた。
「あう・・・もう朝か・・・。」
朝に弱い遙は、もう一眠りしようと布団をかぶりなおしたが、
「おきてください。もう七時半なんですよ。」
「・・・・わかったよ・・・・」
仕方なしに重い体を上げる遙。
それもそのはず、昨日はあの一件以外にも十件も同じような事件が起きて、結局家に帰り着いたのは十二時過ぎだったのだ。
だが、那雪姫はそんなことは気にせずに学校に行く時間には起こしてくる。
以前、同じようなことがあって、断ったとき、気づいたら昼過ぎだったことがある。
これ以降がんばって朝起きようとしているのだが、いかんせん昨日は遅すぎた。
「なあ・・・今日はサボんないか?眠すぎる。昨日は遅すぎただろ・・・・。」
「そんなことはいってられませんよ。昨日のこともフォウさんに連絡しないといけませんし。」
「・・・そうだな。仕方ない。おきるか。」
眠りかけていた意識を完全に起こし、ベッドから降りて服を着替えだす。
その後朝食を適度にとって、学校に向かう。その途中、
「遙、昨日のことどう思います?」
「昨日のこと?ああ、昨日のクリーチャーアクションのことか?
確かに最近多いよなあ・・・。フォウさんたちは何やってるんだか・・・・。」
クリーチャーアクション。ここ数年前から頻繁におきている、人間外の生物の起こす事件のことである。
どうしてこういうことが起きだしたのかは知れないが、
遙たちは、警視庁のクリーチャー専門の三課と呼ばれる部署のフォウ・ルフィーユ局長に雇われ、夜間の見回りを任されているのである。
「確かにそのこともありますが、学園祭の出し物についてですよ。」
「ああ、そのことか。生徒会で劇をするんだよな。悪くはないと思うけど、人数足りるのか?
生徒会って言っても、会長と、柏崎と雪広。那雪姫の四人じゃねえか。
俺含めて五人だし、そんなんじゃできないと思うけどなあ・・・・。」
一年に一度の学園祭。そこで生徒会は劇をするようになっている。
いつもはもっと人数がいるのだが、ほかの人に手伝いを頼もうにも、
今回はクラスや部活単位で出し物をすることになっているためにとてもじゃないがほかの手伝いなんかする余裕がない。
そのためどうするか考えておくようにいわれているのだ。
「そんなことはわかってるんですよ。でも、毎年してきたのに今年だけしないというわけにはいかないでしょう?」
「でも人数不足はいなめないんじゃないか?今回は手伝い頼むにも手伝いは呼べないんだぞ。
衣装だって自分たちで作んないといけないんだし。ほぼ不可能だろ。」
「確かにそうですけど・・・。だから、会長はいい案を考えるようにいったんじゃないんですか?」
いい案といっても全くもってないのが現状だ。残り一週間で、台本を書いて、衣装を作って、練習。
どう考えても五人でできるはずがない。
「いい案て・・・どうやっても無理だろ・・・。人数不足は致命傷だと思うぞ。まあ、手が無いこともないけど・・・。」
「あるんですか?」
「そりゃ、俺がソロモン七十二柱を召喚すれば万事解決するわけだが・・・」
ソロモン七十二柱。
古代イェルサレム王国の王にして、旧約聖書にも名を連ねる人物であるソロモン王が自伝的に書いた小さな鍵という本の中に登場する、
ソロモン王自身が従えたという伝説の魔王のことである。
その中には文学に秀いているものや音楽に秀いているものもいる。
「だめです!生徒会のメンバーはそういうのに免疫がないんですよ!?そんなことしたら・・・」
「だから実質的には無理だって・・・。」
普通に生活していれば、クリーチャーアクションに合う可能性はきわめて低い。
そのため、免疫がなくても仕方がない。そもそも魔王召喚のようなことができるのは世界的に数えても、五人いるかいないかだ。
「ですから、会長はどうすべきか考えてくるようにいってんでしょう?」
「だから俺の考えはさっき言ったやつだよ。それ以外にはどうしようもないって・・・。ちなみに那雪姫はどうなんだ?」
一方的に答えてきた遙は同じ質問を那雪姫に返した。
おそらく、このようなことを聞く以上那雪姫は何か考えていると思ったんだろう。
「何も考えてませんよ。大体考える暇なんてなかったじゃないですか。
昨日は家に帰るなりフォウさんに呼び出されてそのまま寝たじゃないですか。」
那雪姫の口から発せられた意外な言葉に遙はあっけに取られてその場に立ち止まった。
「ちょっと待て!お前今までの経過からなんか考えてたんじゃないのかよ!」
「何か考えるも何も、昨日は忙しかったじゃないですか。考えることなんかできません。」
至極当然なことをのたまう那雪姫の話し方は、反論できる?という威圧感が含まれていた。
が、長い付き合いの遙はそれでもなお食い下がろうとしたが、
「ちなみに、なら聞くなって言うのはなしですからね。」
遙が言おうとしたことに対して、先手を打って釘を刺すさまはさすがに長い付き合いだということを証明しているが、
釘を刺された遙は反論できなくなってぐうの音も出なくなってしまった。
「・・・・ところで、あの件はどうするんだ?よく考えたらあの件のことも考えたら、到底劇なんかできないと思うけどなあ。」
あの件。遙の言い方から察するに、そのことについては誰にも話してないのだろう。
しかし、那雪姫には通じることらしく、
「そうですね・・・そのことも考えないと・・・」
このことは二人にとって大事なことらしくどちらかといえば、生徒会の劇よりも大事なことなのだろう。
それはこの話になってから二人の顔は少し赤くなっていたことから推測できる。
そのまま二人は他愛も無いことを話しながら学校に向かった。
「劇は中止になりました。」
昼下がりのサンクチュアリ(生徒会室)での定例会議。
生徒会長、神林静夏の発した言葉に遙、那雪姫はあっけに取られた。
対策を考えて来いといった本人が劇を中止にする。なんと矛盾した話だろうか。
「ちょ・・・ちょっと待ってくださいよ!昨日考えて来いって言ったのは会長ですよ!」
「何でまた急に?」
至極当然の質問である。
「昨日考えましたの。そうしたら、今年のこの状況では人員不足で劇なんか到底できないという結論に達しましたのよ。」
もう一人の副会長(一人は那雪姫)雪広ホノカは自分の考えを那雪姫に語った。それは遙が言ったこととまったく同じだった。
「私も同じだよぉ。手伝いが呼べないならできっこないよぉ。」
のんびりとした口調で、柏崎華香も同じことを繰り返した。
「じゃあいったいどうするんです?会長・・・?」
「もしかして何もしないんですか?」
ものの見事にふたりの質問のタイミングがかぶった。
こういったところで二人の相性のよさが浮き彫りになる。まあ、同棲していることは周知の事実なのだが。
「そうね・・・代わりに出店でもしようかと思うの。パイか、クッキーか何か作ってここで売るの。
ほら、ここ、生徒会の役員以外ほとんど来ないじゃない。まあ、鏡君を除いてだけど。
だからサンクチュアリを知ってもらうためにはいい機会じゃないかと思うの。
ここは一般生徒にとってはあまりなじみのないところじゃない。それに・・・・」
「それに?」
少しの間、何か言いたげな言い切りをした静夏会長に対して間髪いれずに遙が追求の言葉を入れる。
「私の夢なの。ううん、私だけじゃない。先代の会長も、先々代の会長も同じ夢を持っていたの。ここを一般生徒で埋めたいって。
もっと、一般生徒にも親しまれるようなサンクチュアリにしたいって。」
生徒会に一般生徒を呼ぶ。確かにどこの学校でも生徒会と一般生徒が深くかかわっていることはすくない。
そして、生徒会と一般性との距離を縮めたいと思うのはどこも同じだろうが、静夏会長の言ったことはそれとは違うもののように遙には聞こえた。
「まあ・・・それならできなくはないでしょうけど・・・」
「それなら、どのようなレイアウトにするのか考えなければならないということですね?」
出店と一口に言っても、いろいろあるのはわかるが、クラスや部活のほとんどが出店であるために、
できるだけオリジナリティーのあるものでなければ、存在感が薄れてしまう。
しかしそれは普通ならばの話であって、生徒会が出店をやるということは前代未聞なわけで、それだけでも十分に人寄せにはなる。
なんと言ってもこの高校では生徒会はすべて女子で構成され、
かつ、生徒数も、女子のほうが圧倒的に多く、(一クラスにいる男子は四人ほど)そのためか、
生徒会自体が憧れの的になっている。(しかも生徒会は歴代にわたって、美人だったりし、とにかく女の子受けしそうな人々がなっている。)
「まあ、そうですわね。でもそれについてはもう考えてましてよ。」
「・・・・なんか準備がいいな・・・・」
「確かに。ホノカ、もしかしてはじめから劇のことなんか考えてなかったんじゃあ・・・」
あまりの手際のよさに二人は疑問に思うことを口にした。
「もちろんですわ。クラスや部活単位で出し物をすると聞いた時点での案について考えてましたから。」
「そうそう。はじめっから、考えてたんだよぉ。何すれば喜ぶか考えるのって大変なんだからぁ。」
つまるところ、対応策を考えていたのは、遙と那雪姫だけだったらしい。
「・・・・で?なら、こうやって話す必要なんてほとんどないんじゃあないですか?。」
「まあ、そうなるけどね。でも一応みんなの意見を聞いておきたいじゃない?」
確かに一理あるが、すでに遙たち以外の面々で決められていた以上、遙と那雪姫の意見を聞くのは無駄なようなきもするが。
「それならその企画に基づいて話を進めましょうよ。具体的には何が必要なのか、
何を作るのか、どうやって広告するのか。それだけでいいんでしょう?」
企画のアウトラインが決まっている以上、それ以外の議論をするのは無駄である。
早く決めなければ時間が残り少ないということは、余計な議論をする暇はないということだからだ。
「その必要はないわよ。もう必要なものは手配してるし、作るものも決めてるわ。
ちなみに作るのはホノカの家の専属シェフがすることになってるから。
広告のビラも五万部、すでに印刷会社に頼んであるのよ。」
「五万部・・・。」
「いったいどこに配って回るつもりですか・・・。っていうかこれ雪広の独断でしょう?」
「そうですわよ。完璧な考えですわ。」
これが雪広ホノカの恐ろしいところだ。生粋のお嬢様だからこそできる暴走。
人には意見をまったく求めず、自分の思ったままに突き進む。
第一、学園祭なのに広告のビラを五万枚も用意する必要なんかまったくない。
しかも、学園祭は本校の生徒と保護者しか基本的にはこれないようになっている。
確かに高校なのに三千人を超すマンモス校ではあるが、ひと家族三枚としても九千枚がいいとこだ。
とすると四万一千枚は無駄になるわけである。これを無駄といわずなんといおうか。
「で?聞くけど、いまさら変更は・・・」
「きくわけありませんわ。」
「・・・これだからお嬢様は・・・」
「何かご不満でも?」
「ありすぎてどこから文句を言っていいやら・・・。」
「一言で言うとやりすぎね。ひとつずついっていくと、まず広告用のビラが多すぎ。
次に、ほかの人の意見がまったく反映されてません。そして、学園祭なんですから、自分たちで作ったものを振舞うべきだと思うわ。
最後にコストがかかりすぎる。文句をつけるならこんなところね。」
「あら、そんなにも不満な点がありまして?」
ホノカは本当に意外そうな口調で那雪姫に確認を取った。実際、以外でも何でもないのだが。
「そんなに意外なことじゃないだろ。それなら聞くけど、五万枚のビラ、いったいどうするつもりなんだよ?」
「ああ、そのことですか?五万枚もビラをする以上、全部同じものなわけありませんでしょう?
ビラ自体、いろいろなバリエーションを含んで五十種類ありますわ。」
「そんなに必要ないんじゃない?」
別に五十種類もバリエーションを増やしたところで多すぎることには変わりないのは事実だ。
「それなら心配要りませんわ。その五十種類全部集めた方には商品が出るようにしてますの。
ちなみにすべて同じ枚数あるわけじゃありませんのよ。多いものでは一種類で五千枚、
少ないもので一種類で十枚しかないものもありますわ。当然、全部集めるのは至難の業ですので面白くなりますわね。」
「ちょいとまった。商品って何だよ?あんまりつまらないもんだったら、誰も集めないんじゃないのか?」
「私を馬鹿にしていますの?雪広グループをなめないでもらいたいですわ。商品はすべて豪華なものを用意しています。」
「たとえば?」
「ダイアの指輪。まあ、十個ぐらいどうってことありませんし。」
さも当然のように言って捨てるが、高校生の学園祭の商品にしては豪華すぎはしないだろうか?
確かに、ホノカにとってはダイアの指輪十個程度の出費はどうということはないのだろうけど。
「・・・・そら誰だって血眼になって集めるだろうよ・・・・」
「パニックにならないといいんだけど・・・」
もう何を言っても通用しそうにないので、二人は半ば投げやり気味に、認めざるを得なくなっていた。
「そういえば今年の学園祭、日程が一日増えて三日になったのは何でかしら?
サンクチュアリの承諾なしに職員側が決めるなんて珍しいわね。」
「そういえばそうだねぇ。なんでだろぉ?」
こういって学園行事は基本的にサンクチュアリに職員側から全権委任されているが、
今回の学園祭に限って職員側が、強制的に決めたのである。
「さ・・・さあ・・・」
「確かに、何ででしょうね・・・?」
さも知らないように振舞った遙と那雪姫だが、どうもぎこちなかった。
「まあ、こっちが知らなくてもいいことなんでしょうし。それじゃあ、定例会議を終わりましょうか。昼休みも残り少ないですし。」
「はぁーい。」
昼休みといっても麦山高校の昼休みは他の高校に比べると、異常なまでに長い。その時間なんと二時間半。
しかも学校が終わるのは、進学校にもかかわらず、三時。
おまけに課外も一切ないのに毎年三十人は東大に行くという本当にシステムがよくわからない学校である。
あとがき
いやー。やっと終わったあ・・・
(フィーネ)おわったあ・・・ってまだ一話しかかけてないじゃない!しかも短いし!
いや、レポートが・・・
(フィーネ)いいわけね。
ひとことですか・・・
(フィーネ)さ、二話を書こうか?
け、拳銃は銃刀法違反・・・
(フィーネ)ん?なにかいった?【ぱん!】
ま、まて!わかった!書くから!撃つな!しかも今思いっきり頭狙っただろう!
(フィーネ)うん。
死んだら書けんだろうが!
(フィーネ)大丈夫。そこんとこは。この銃は撃っても死なないから。まあ、出血はするけど。
んな物騒な!
(フィーネ)じゃあ書く?
はい・・・。・・・それでは二話で・・・。
投稿ありがとう!
美姫 「フィーネさん、銃よりも剣よ。手加減が出来るんだから」
いや、そんな事を堂々と言われても。
しかも、お前手加減なんてしてないだろう?
美姫 「(無視)続きが楽しみね〜。しかも、文化祭が三日になったのも、何かありそうだし」
うん、気になるよな〜。続き、続き♪楽しみ〜。
美姫 「さて、脳天気馬鹿は置いておいて、次回も楽しみにしてます」
してます〜。って、誰が脳天気馬鹿だ!