ここはサーキットなのだろうか?いや、どこからどう見ても公道である。

ちらほら車の影が見える。その中一台の白い車が法定速度を軽くオーバーして突き進んでいる。

ちなみに約230キロくらい出ているようだ。カーブなどはまともに曲がりきれず、すべてドリフトになっている。

「ちょ・・・ちょい待ち!スピードだし過ぎだって!!」

あまりのスピードに耐え切れなくなって灑薙麗が叫ぶ。

「急ぎですから。」

「法廷速度の三倍は出てるじゃない!!前!信号赤だって!!」

 既にフルブレーキで止まれる距離ではなかった上にあろうことか更にアクセルを踏み込んで加速した。

既にメータは振り切っているのに再びの加速。大体、現在の速度250キロぐらいだろう。

ちなみにこのスカイラインはほぼフルチューンされていて、

馬力に換算するとゼロヨン使用のスカイラインとタメ(約1000馬力)ぐらいだろう。

そのまま交差点に突っ込みドリフトで右折。すぐ真後ろからトラックが来たが完全に無視。

乗員たちはたまったものではない。

どうでもいいことだが、公道でしかも直角カーブで250キロも出していたらドリフトは並みの腕力では不可能だ。

ちなみにそこまで速度を出したら、普通に曲がるにしてもハンドル自体切れない。

「あ・・・おはなばたけー・・・」

 そろそろ灑薙麗もやばいらしい。ちなみにアンナは当の昔に気を失っている。

トランクに放り込まれている遙は一体どうなっているのだろうか。

 そうこうしているうちに中央公園に着いた。ちなみに所要時間は1分だ。遙の家からは三十キロもあるというのに。

「ほら!二人とも!ついたわよ!」

 気を失った二人をたたき起こす那雪姫。声だけでは起きなかったので灑薙麗とアンナの頬を軽くたたく。

「ん・・・よかった・・・死んでないぃ・・・」

 心底ほっとしているようだ。まあ、公道で200キロ以上出されたらたまったもんではない。

どこかで事故ってもおかしくはない速度だ。だが、そんなことはどこ吹く風、

那雪姫はトランクに回るとトランクを開けた。

「遙、着きましたよ。」

「那雪姫・・・俺トランクにいるんだからもっとゆっくり走ってくれ・・・」

 たった一分で車酔いしたようだ。

「うう・・・気持ち悪い・・・しかもこの服・・・」

 つけられた戒めを解かれ、着替えをトランクから・・・あるわけが無かった。

「そんなこと言ってる場合じゃなさそうですよ。」

 そういって一人冷静に周りを眺める那雪姫。

そこには所狭しと得体の知れない物体と―大量の血液と思われる―川が出来上がっていた。

嫌が応にも遙たちを現実に引き戻す。

「こりゃひでえ。クリーチャのか人間のなのか区別がつきゃしねえ・・・」

 アンナも何とかいつもの調子御戻って遙たちのところにやってくる。

「またひどくやったもんだねえ・・・」

 だが、いかに凄惨な現場といってもこの三人にとってはたいしたことは無いようだ。

「うう・・・吐きそう・・・」

 一人灑薙麗だけがだめだったようだ。

「何いってんだよ。何の躊躇も無く人喰う割にはやわなんだな。」

「それとこれとは別もんだよ・・・・」

 既に灑薙麗は顔面蒼白になっている。

「で?フォウさんは?」

 周りを見渡しても電話の張本人の姿が無い。まあ、この中の一部と化しているならば、見つけることは不可能だろう。

それほどまでにひどい状況なのだ。

「とにかく手分けして探そう。アンナと朝比奈は北側、那雪姫は西、俺は東を探す。」

 遙の一言でみんな散っていく。この中央公園はとにかく広い。今まではホームレスのたまり場になっていたが、

この状況からして生存者なしだろう。三十分ほど探しただろうか。フォウは、木の陰に隠れていた。

それをアンナたちが発見した。すぐに遙と那雪姫が駆けつける。

「遅かったじゃないか・・・待ちくたびれたぞ。」

 木にもたれかかって座っているフォウは、腹部から出血していた。那雪姫が出血を止めようとしてタオルを出したが、

「大丈夫だ。血は止まってる。」

「で?いったい何があったんですか?」

「・・・おまえ・・・遙か?」

 どうやらフリフリでヒラヒラの服を着ている遙が誰かわからないらしい。

「遙です。すいません。どこかの誰かがこんな服着せたままここまで引っ張ってきたもんで。」

 思い切りふてくされて暗に二人を非難している。

「とにかく!何があったんだよ?」

「ああ・・・そっちのほうが重要だね・・・。」

「俺としちゃあこの状況よりこの服装をどうにかすることの方が重要なんだけどなあ・・・」

「それは遙だけですよ。」

 完全に服のことからは興味がなくなったらしい。あれほど騒いでいたのに。

まあ、状況が状況だけにそんなことは言ってられないのだが。

「クリーチャーだよ。見てわかるだろう?」

「それは見たらわかりますよ。でも、下っ端連中にはあんなことはできないでしょう。」

 遙は本能しかないクリーチャーがあそこまでできるわけ無いと確信しているようだ。

「一概にはそうとは言えないんじゃないか?」

 アンナが異論をはさむ。

「いいえ。あんなことができるのは最低でもBランク以上ですね。思考がないとあんなことはできません。」

「なんで?」

「思考が無かったら、ただひたすら喰うだけだ。でも、さっきの見たら、おそらく全員ぶんの遺体はあると思うぜ。

てことは、喰うことを目的で殺したわけじゃねえってことだ。」

 遙は光景からわかる範囲のことを推測したのだろう。しかし、それは的確に真実を得ていた。

「その通りだよ。私たちが戦ったのは特Aランクだった。たぶん間違いない。」

「兵力は?」

 惨状から見て一人ではないことは確かだろうが、フォウの口から出たことは意外な言葉だった。

「一人だよ。もっとも、Mクラスは60体近くいたがね。」

「何人の人間が被害に?」

 はるかは具体的な被害をフォウに聞いた。中央公園は入り口だけでなくほとんどすべての場所に、

人間のものと思われる残骸や、クリーチャーのものと思われる残骸が残っているため相当な数だと予想はしているようだが。

「わからんよ。三十人でここに来て、私以外が殺されたからな。おそらくはここにいたホームレスの連中も全滅だろうな。

まったく、私たちが来たっていうのになんてざまだ。」

「ちょいまった。ここってホームレスが百人近くいなかった?」

「正確には百四十二人だ。」

 つまり計百八十一人が一晩で死んだことになる。

とてつもない数の人間がここで、中央公園という場所で、夜という閉鎖された空間の中である意味、虐殺が行われたのだ。

しかも、たった一人のいや一体のクリーチャーによって。

戦慄すら覚えるこの状況の中この五人はたたずんでいる。彼らに恐怖というものはあるのだろうか。

(まあ、一人真っ青になってはいるが。)まるでそこに何もないかのようにたっている。

「ふーん結構死んだんだ。って言うか私の中じゃああんまり多くないと思うんだけど、実際問題、

かなり多いんじゃない?隠蔽できるの?表の連中に。」

 彼らの感覚はどうやら少し普通の感覚とずれているようだ。百八十一人が殺されたのに、

あまり多くないという発言は、そしてそれに対してまったく驚いていない彼らは、一体どのような感覚を持っているのだろうか?

「無理だろうから呼んだんだよ。遙、何とかならんか?」

「無理です。って言うか俺の力勘違いしてません?確かに時間はとめられますけど、戻せません。

そもそもそれならアンナの力でしょう。」

「は?なんで?」

 アンナの力。つまるところオーラ・フィールドだ。だが、あの力は気に殺傷力を持たせるだけのはずだが。

「だから気を高めて火をおこせばいいんだよ。気を高めると熱を発するだろ?」

「そうだけど、それでどうしろと?」

 確かに、気を高めると熱を発するが、それが一体なんの役に立つのだろうか?火では証拠隠滅は不可能のはずだが。

「燃やすんだよ。この公園を。」

 さも当然というように言い放つ遙。だがこの言葉に周りの四人は言葉を失った。

「ちょ・・・本気で言ってるのかよ?」

 アンナは遙の言葉が信じられないのか、まじめな顔で遙にたずねる。

「あたりまえだ。気で発火させた火なら、、自然鎮火以外消えないんだから完全に燃えるまで燃え続けるだろ?

そうしたらここでなにがあったかもわからなくなるし。証拠隠滅にはもってこいだ。」

「非人道的ですね。」

 さすがの那雪姫も非難をせずにはいられなかった。

「仕方ないだろ。連中はこっちの法理から外れてる連中なんだから。

外法のヤツには外法にしたがってこっちも動くしかないじゃないか。」

 確かにクリーチャーは外法な連中である。しかし、彼ら、被害者は望んでそのような連中にやられたわけではない。

が、このまま放っておいたら確実に表の世界にクリーチャーの存在がばれてしまう。

いや、クリーチャーの存在が表に出なかったにしろ、一体ここで何があったのか騒がれてしまう。

証拠を消すにはこれしかない。遙はそういいたいのだろう。

まあ、普通の人間には考えつかないことだし、考えたくもないことだが。

「灑薙麗先輩は・・・」

 アンナは意見を求めようとしたが、灑薙麗は既にギブアップしていた。立ったまま気を失っている。

何の躊躇も無く人を喰える割には案外繊細らしい。

「まあ、これは俺の意見だ。何かほかにいい方法があったら言ってくれ。

この血で染まった地面がほとんどなく、人かどうかもわからない破片が敷き詰められたこの状況をどうにかする方法を。」

 遙のこの言葉に答える人はいなかった。つまるところほぼまともなやり方では不可能なのだ。

この異常な現実を通常のやり方で何とかすることは。

 しばらくしてアンナは自らの周りに気をまといだした。

「義兄さんのやり方だと本気近い力出すことになるから、防御は何とかして。」

「わかった。」

 遙はうなずくと五メートル以内の時をとめた。

「大丈夫なのか?よくはわからんが、何も変わってないような気がするが・・・」

 周りのときがとまっているのは正直理解不能なのであろう。事実、想像すらできないのだから。

「じゃあ・・・」

 どんどんとアンナの気が強くなっていく。ものの数十秒でアンナの気は中央公園をほとんど包んだ。

アンナは周りの気があまりに黒くなりすぎていて、既に肉眼ではアンナを確認できなくなっている。

「破ッ!!!!」

 アンナの気合のこもった声。ただ一言なのにその声は公園内に響いた。

そしてそれがきっかけとなり、黒い霧のかかったような公園が一気に燃え上がった。さながら不浄なものを焼き払う聖火のように。

その炎は天を焦がし、そこにあった地獄絵図を完全に消滅させる勢いだった。

「で?どうやってここから出るんです?時が止まっているのは五メートル以内のようですし、移動できませんよ?」

「大丈夫だ。」

 遙が言葉そういったとたん遙たちは公園のよく見える近くの高層ビルの屋上にいた。公園はその地獄絵図を燃やす炎に包まれていた。

傍目からは地獄の業火のように見えるのだが。

「何をしたんだ?」

フォウはあっけに取られていた。

「空間転移です。まあ、簡単に言うと瞬間移動ってとこでしょうかね。」

「本当に何でもできるんだな。」

 遙から何でもできると聞いてはいたものの驚いているようだ。まさかここまでできるとは思わなかったのだろう。

「まあ何でもできますよ。実際時を戻すのも可能なんですけどね。」

 さっきは嘘をついていたんですよ。と笑顔でのたまう遙。

「なら燃やさなくても・・・」

 アンナはさっきのことについて燃やすことを選んだ遙の意を探った。

「戻したって同じだよ。結局ほとんどのやつが殺されるさ。

こっちの戦力は34人、相手は60体以上のMクラスの連中と特Aクラスが一体。

Mクラスを殲滅してる間にそいつが全部殺しちまうよ。」

 先のことまで考えた上で出した答えがこれらしい。

これなら、証拠を隠滅できるために何があったかもわからないから、世間を騒がすことは無い。

果たしてそれが正しかったのかどうかは人それぞれだろう。

「・・・で、どうするんだ?義兄さん。このまま手をこまねいてるわけじゃないんだろ?」

 アンナは今回の事件の黒幕であろう特Aランクのクリーチャーの処遇について遙にたずねた。

「もちろん。仕掛けるさ。お前らはフォウさんを病院に連れて行ってくれ。あ、那雪姫。

お前は家に帰って風呂沸かしててくれ。家に帰ったらすぐに入りたいから。んで、アンナ。

フォウさんを病院に連れて行くついでに朝比奈を家まで送ってやれ。」

 てきぱきと指示を出す遙。やはりこのような状況になれているのだろう。

このような状況で指示を出せるのは同じような状況を何度もくぐってきたことを証明している。

まあ、指示内容はたいしたことではないのだが。

「わかったわ。お風呂と夜食を用意してまってますね。」

 那雪姫は遙を心配することなく自分のすべきこと、することを遙に告げる。

「いちいち言うことじゃないけど気をつけろよ、義兄さん。」

 投げやり的に注意を促すアンナ。まあ、自分でも無駄だと思っているようだが。

「大丈夫だ。今回の犯人は責任持って俺が殺す。」

 既に遙の言葉にはいつものような雰囲気は無かった。

それは既に獲物を前にした猛禽類のような目をし、声には殺気を帯びていた。

「じゃあ、行ってくる。」

「ええ。いってらっしゃい。」

 遙を送り出す那雪姫。少し早いが既に新婚夫婦のようだ。その送り出しの言葉を聞いた後、遙は屋上から飛び降りた。









あとがき



はい。第六話です。早いですね。二日に一本あげてますよ。

(フィーネ)そうだね。でもかけるうちに書いとかないと、来週からは大事なレポートあるんでしょ?

ああ。提出しなかったら、単位もらえなくなるな。

(フィーネ)ならさ、それまで頑張ろうよ。

そうだな。(なんか性格変わってるような・・・)

(フィーネ)で、今回で黒幕が出てきたわけだ。

まあね。でももうひと波乱もふた波乱もあるかも・・・

(フィーネ)え?そなの?

まあ、それは見てのお楽しみということで。

(フィーネ)なかなか結婚式の話にならないねえ・・・

ゴールに到着するまでにはさまざまな障害物があるのだよ。(なんかここまでおとなしいとかえって怖いな・・・)

(フィーネ)じゃあ・・・

(フィーネ)ちょっと、何してるのよ!?フィーラ姉さん!?

え!?フィーネが二人!?

(フィーラ)あらら。ばれちゃった。

(フィーネ)で?何しに来たのかな?フィーラ姉さん?

(フィーラ)遊びに。

(フィーネ)いっつもいっつも邪魔ばっかりして・・・いっぺん死んでこい!!

あの・・・なんで額に目が・・・って、天宙眼じゃないかそれ!?おまえそんなもんまで・・・

(フィーネ)ギガ・フレア!!

(フィーラ)身代わりっ♪

ぎゃああああああああああああああああああ!!!

(フィーネ)な、みがわり!?

(フィーラ)長くなっちゃったね。じゃあ第七話でお会いしましょ〜☆

(フィーネ)まだ出る気なの!?




事態がドンドン進み、シリアスな展開に……。

美姫 「益々目が離せない状況の中、」

遥はフリフリでヒラヒラの服の格好のまま(笑)

美姫 「シリアスの中にも一服の清涼」

それは置いておき、次は特Aランクのクリーチャーとの闘いなのかな?

美姫 「それとも、もう一つ何かがあるのか」

楽しみ〜♪

美姫 「お楽しみの所悪いけど、アンタも早く自分のSSを書こうね♪」

は、ははははははい!わ、分かっているでありますですでございますですよ〜。

美姫 「ひょっとしてふざけてる?」

うん、ちょっとだけ。

美姫 「……いい根性ね」

美姫には敵わないって。

美姫 「ふふふふふふ」

あはははははははは(しまった)
はははははは……。

美姫 「うふふふふふ」

はは…………、ご、ごめんなさい(ダッシュッ!)

美姫 「逃がさないわよ。秘儀、覇斬我紅(はざんがくれない)」

なっ!斬撃が飛んで来る!って、説明してる場合じゃなか……ぐはっ!げろぼがぎょっ。

美姫 「ビクトリー!じゃあ、次回も楽しみに待ってます」



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