そして結婚式当日。当然のごとく式場は空席がなくなるほど人だらけだった。
来賓も含め5000人収容できるようになっていたが、外に1000人近い人があふれている。
そのため急遽体育館に巨大オーロラヴィジョンが設置された。
「とんでもなく多いわね・・・」
「まさかここまで来るとは・・・一体誰が来てるんだよ・・・」
さすがにこの人数の多さは異常である。芸能人の結婚式でもこれほどの人数が集まることはあるまい。
「ここの生徒とその保護者なんだとさ。しかし、自分の子の結婚式でもないのによく来るよなあ・・・」
アンナがこの状況をそう評する。
「本当だよ。何でこんなに人気があるんだろうね?二人は。」
灑薙麗がわからないなあと言った表情で考え込む。
「俺にもわからんよ。」
遙はそういって時計を見る。式の開始が九時から今は八時45分である。まだ少し時間に余裕があった。
「そういえば、やっぱりまともな服着たんだね。」
灑薙麗がそういって茶化す。
「当たり前だ。大体ほかに何を着ろと?」
とは言うものの、遙はタキシードではなく制服だった。
「だから前に着たフリフリのヒラヒラの服。」
どうやらあのときの言葉は本気だったようだ。
「めちゃくちゃ言うな。そんなもの着て出たら変人じゃないか。」
そんなことを行っているうちに、時間が来たようだ。
「じゃあ、席に行こうよ。灑薙麗先輩。」
「そうね。じゃ、またあとで〜」
このとき二人にはまた後での意味がいまいちよくわかっていなかった。
そして式が始まった。大きな拍手で迎えられる二人。
いくつもの戦いの中に身をおいてきて、ほとんどの状況で緊張はしないような二人でもかなり緊張しているようだった。
その二人にすぐに驚愕が襲った。なんと司祭役は静夏だったのだ。二人は目の前に立つとあまりの驚きように、一瞬立ち止まってしまった。
「何で会長が・・・?」
さすがに聞かずに入られなかったのか、遙が小声でたずねる。
「わたしがじきじきにさせてほしいと言ったんですよ。生徒が結婚するんですから。」
そうやって微笑む静夏。
「ありがとうございます。」
と、那雪姫。
それからはお約束どおりの誓いの言葉。時折遙の声が上ずったりしていたが、それもつつがなく終わった。
「では、指輪交換。」
静夏の言葉が静かな教会の中に響き渡る。二人は向かい合うと各々の指についた指輪をはずした。
傍目から見ても高そうに見える指輪。軽く億はしそうである。その指輪を交換。
二人とも緊張していて手はがたがたと振るえてなかなか交換できない。
「そ、そこまで緊張しなくても・・・」
少し笑みを浮かべて静夏が言う。
「そんなこといわれても、緊張しますって・・・」
遙は声も震えている。
その後何とかして指輪を交換した。そして次の儀式で再びふたりは固まった。
「それでは、新郎は新婦に誓いのキスを。」
さすがの静夏も少し顔が紅くなっていた。しかし、当の二人は耳まで真っ赤になっている。
遙は何とか体を動かし、那雪姫のほうを向く。向き合ったとたん二人は更に紅くなった。
普段緊張などとは無縁のように思える二人がこのように緊張しきっているのは珍しい。
遙が一歩近づく。そして小声で、
「やっぱり、目を閉じたほうがいいのか?」
「ど、どうなんでしょう・・・?」
「閉じたらちゃんとできないかな・・・?」
「そ、そんなこと聞かれてもわかりませんよ・・・」
かなり困っているようだ。そのやり取りを聞いて静夏は意外そうな顔をしている。
「も、もしかしてキスは・・・」
聞きにくいことなのでちょっと控え目になる静夏。
「まだしたこと無い。」
「そうなんです・・・」
その言葉にさすがに驚いた静夏。今までの雰囲気からしてキスどころか、その先まで行っていると思っていたのに、
キスすらもした事が無いといわれても信じがたい。
「えっと・・・」
「じ、じゃあ、わたしは最初から閉じてますから遙は確認してから閉じてください」
那雪姫が打開策を講じる。
「無理言うな。正直この状態でもかなりドキドキしてるんだから。」
表情から遙はいっぱいいっぱいのようだ。
「じゃあ、二人とも目は開けてましょう。閉じるも閉じないもそのときの状況しだいと言うことで・・・」
「わ、わかった。」
そういって顔を近づける二人。静まり返った教会の中、二人は初めてのキスを交わした。ほんの数秒のキス。
しかし二人にとってはかけがえの無い時間だった。
そっと唇を離す二人。余韻に浸る二人を教会を割らんばかりの拍手が、現実に引き戻した。
「え・・・えっと・・・」
あまりの拍手に何がどうなっているのかさっぱりわからなくなっている二人。
あまりにオロオロしているので、静夏は二人を教会の出口のドアに向かって歩いていくように促す。
「あ、ブーケを持って行ってね。」
そういわれてはじめてブーケを取る那雪姫。しかしこれをどうすればいいのかわかっていない。
「これは・・・?」
その那雪姫に静夏がドアから出てみんなが集まってきたらそれを放り投げるのよといった。
そうして二人はドアのほうに向かって足を運ぶ。ドアから出れとそこは大きなバルコニーになっていた。
下にはとてつもない人数が集まっている。ブーケを狙っているのは目に見えていた。
「じゃあ、投げてもいいのよね?」
「ああ。」
そして那雪姫はブーケを中に放り投げる。下は軽いパニックではすまない状態になっている。
まだ空中にあるブーケに群がろうとする生徒たち。そしてその中の一人がキャッチする。
その生徒は二人の知っている生徒ではなかったが、その生徒は周りの人からも祝福された。
当の本人はあまりに嬉しかったのか、ぼろぼろと涙を流している。
「じゃあ、下におりようか。」
「ええ。」
二人は手をとって階段を下りる。その二人に向かって惜しげも無い拍手が送られた。
階段を下り、一回のホールを抜け、グラウンドに出た。その間二人に送られる拍手はやむことが無かった。
グラウンドに出てみるとそこには大きな仮設ライヴステージができていた。
「あれ?こんなのあったっけ・・・?」
「無かった・・・はずですけど・・・・」
二人が知らないということは本来無いものなのだろう。
と、そのとき突然音楽が鳴り響いた。
「この歌は・・・」
「moonlight sonata・・・わたしの一番好きな歌です。」
前奏とともに徐々に幕が開くステージ。そこにいる人たちに遙たちは驚いた。
なんとそこにいたのは、さっきまで司祭をしていた静夏、生徒会のメンバーであるホノカと華香、そしてアンナと灑薙麗と闇音がいた。
ボーカルは静夏のようだ。尋常でない歌唱力である。このまま歌手デビューできそうである。
それを見る那雪姫の目には光るものがあった。その那雪姫を遙は抱き寄せて、
「俺らって、本当にいい友達持ったよな・・・。」
「はい・・・」
そうして一曲目が終わった。
「那雪姫、結婚おめでとう。月並みかもしれないけど、幸せになって。この世界の誰よりもね。」
「義兄さん、姉さんを幸せにしないと許さないからな!」
「那雪姫ぃ、幸せになってねぇ〜!」
「遙君、幸せになるんですのよ!」
「遙、やっと結婚式が挙げられたの。これからも末永くお幸せにの。」
「那雪姫ー、幸せになんなさいよー。でも、いつか那雪姫を越えてやるからねー!」
ステージ上のメンバーが次々と祝いの言葉を綴る。
「ええ。幸せになります。絶対に。」
那雪姫は涙を流していた。しかし、喜びでいっぱいの表情だった。
「絶対に幸せにするから。この九重遙の名に誓ってな。」
そういってステージ上のメンバーを見る遙。
「じゃあ、二曲めいくよ〜!!」
灑薙麗の声を皮切りに再び音楽が流れる。
「この歌は・・・」
「MIRACLE COURAGE・・・ですね。」
「俺の好きな歌も・・・・か・・・・本当にいい友達だよ。」
「ええ・・・。」
そのあとも、聖、神愛、 Win for dreamと歌は続いた。
「では、次が最後の一曲です。よろしければ、二人もステージ上に。」
そういって静夏に促された二人はステージに上がる。
「何の歌を歌うんです?」
那雪姫の質問に静夏が答える。
「それでは最後の曲。生徒会メンバー、いえ、生徒全員からの歌です。一緒に歌ってください。Touch My Heart。」
その歌は有名な歌。絆を繋ぐ最高の歌。
その歌はステージ上の遙、那雪姫、静夏、灑薙麗、アンナ、ホノカ、華香だけでなくすべての二人の結婚を祝う人が歌った。
4分半ほどの歌。しかし、心に響く最高の歌だった。
「ありがとう。本当にありがとう・・・。」
那雪姫は今日集まってくれた人達にお礼の言葉を述べた。
「今日は本当にありがとう。俺、今日のことはずっと・・・永遠に忘れないよ。」
二人の目からは涙がこぼれた。
「今日は泣いてばっかりですね。」
「いいんじゃないか?嬉しいときは。」
「そうですね。」
そういって二人はステージ上でもう一度口付けを交わす。二人をいつ止むかもしれない拍手が包んでいた。
そして披露宴が始まった。とはいえ、披露宴というよりも既に食事会になっている。
遙たちはかなりの生徒と一緒に写真を取っている。既に千枚以上は取っているだろうか。
とてつもない人気である。そうこうしているうちにだんだんと日が暮れて来た。
「今日はそろそろお開きだな。」
真っ赤な夕焼けが美しく映える教会のバルコニーで遙が言う。
もし、写真家がいれば一枚でも取っておきたいと切に思うような美しさである。そこに那雪姫が寄り添うように近づく。
「ええ・・・」
近づいた那雪姫は遙の頬にそっと触れる。
「これから、よろしくお願いします。あなた。」
「ああ。こちらこそよろしく。那雪姫。」
二人を包んでいたのはすべての生徒の祝福と真っ赤に映える夕焼けだった。
その後、二次会が始まり、遙たちは強制的に出席させられた。だが、これがいけなかった。二次会はなんと朝4時近くまであったのだ。
その二次会の間に、フォウが二人の元を訪れたり、遙の父親の知り合い(閣僚など)や、那雪姫の親戚などが次々と訪れたためである。
結局、二人は家に帰ることができず、保健室のベッドを借りてその日は眠りに付いた。
文化祭最終日、二人が起きたのは昼一時だった。二人は急いで着替え、生徒会室に向かって走り出す。
このとき二人は廊下に生徒が異様に少ないのに気づいていなかった。
「「すいません!!おくれまし・・・・た?」」
ものの見事に二人の声が重なったが、生徒会室には静夏とホノカ、華香、闇音、灑薙麗、アンナしかいなかった。
「あ、起きたのね。二人とも」
静夏がこともなげにそういう。テーブルも一昨日出していた数の半分も出ていない。今日は入りが悪いのだろうか。
2人が理解できていないでいると、状況を闇音が説明する。
「昨日の披露宴。二次会は4時まであっただろうがの。ほとんどの生徒が出席してたわけだから、みんな今日は自主休校だの。」
なるほど。と2人は頷いた。まあ、仕方ないといえば仕方ない。が、そこに2人の生徒が生徒会室にやってきた。
「ま、たまにこういう物好きがいるようだがの。」
闇音はそうもらしながらも、勝手にウエイトレスをやっていた。
結局、その日はほとんど来客もなく文化祭は最終日を終えた。片付けは明日ということも会って、そのまま解散する生徒会メンバー。
遙と那雪姫がいなくなった生徒会室で静夏が、
「あの2人明日学校にこれると思う?」
と、アンナに聞く。
「たぶん無理でしょう。来ませんよ。おそらく。」
そう確信を持った口調で答える。まあ、式以降、2人きりになれた時間は極端に少なかったため、仕方ないといったとこか。
遙宅。いや正確に言うなら、九重夫婦宅といったほうがいいだろう。二人はそれぞれ風呂に入り、居間でくつろいでいた。
「あ〜。なんか2人きりになったの久しぶりだな。」
「そうですね。何か、新鮮な気分です。夫婦になったからでしょうか?」
そういって顔を赤らめる那雪姫。遙もてれているのだろうか、頬をかきながら、
「そ、そうだな・・・」
が、なぜか微妙に沈黙がをとずれていたりする。いつも一緒にいたとはいえ、夫婦になるとかわるものなのだろうか。
「そ、そろそろ寝ません?」
気づくともう10時を回っている。遙たちは三課の呼び出しがない限り、九時には寝ている。だから、すでに少々遅い時間だ。
「そうだな。」
そういって寝室に行く二人。二人きりが長かったため、ベッドはダブルベッドが一つあるだけである。
が、前に立っても二人とも入ろうとはしない。
「ねえ、あなた・・・」
そういって遙の首に手を回す那雪姫。身長差があまりないためにほとんど抱きついているといってもいい。
「いいのか?俺、詳しくないぞ?」
いいんですよ。と那雪姫が答える。2人はそのままベッドに倒れこんだ。
翌日、アンナの言ったとおり二人は休んだ。が、静夏は休んだ理由を聞いたときさすがにあきれ返った。
「理由が腰が痛いからって・・・」
まあ、どうしてかは押して知るべしといったところだ。
一週間後、遙と那雪姫は三課をやめ、普通の学生として学園生活を送っていた。
遙はいつも以上に那雪姫といる時間が長くなっていた。だが、同時に何かが欠けていることに気づいていた。
だが、それは遙だけが感じていたものではなかった。那雪姫も感じていたのだ。何が欠けているのか。
それは二人には明確にわかっていた。欠けているもの。それは闘うという感覚だ。
一流の格闘かが引退したあとにまず最初にやってくる壁がそれだ。
有名な格闘家たちは一度引退しても再び戦いに身を投じる、つまり復帰することが多い。
現にK−1などでは元力士やプライドの選手、ボクシングの元世界チャンピオンなどが復帰して戦っている。
遙たちも闘いたいのだ。今でも那雪姫とは腕が鈍らない程度に闘ってはいる。しかし、それでは二人とも物足りないのだ。
言葉にはできない何かがそれには欠けている。そうとしか表現の方法が無い。
そう思っていたある日、那雪姫のほうからその話題をふってきた。
「あなた。あなたはどう思います?」
「なにが?」
いきなりのことについてこれない遙。しかし、内心では何のことかわかっているはずである。
「闘いたいんでしょう?」
一瞬の沈黙が訪れる。だが答えない遙。
「わたしだって同じなんですから。わたしだって闘いたいんですから、あなたが闘いたくないわけがありませんよ。」
「でも・・・」
躊躇する遙。闘いたい。しかし言葉にはできなかった。
「復帰しましょう。三課に。あそこがわたしたちの仕事の場なんですよ。きっと。」
再びの沈黙。が、意を決したように遙が答える。
「ああ。そうだな。戻るか。俺たちの日常に。」
その言葉を聞いて微笑む那雪姫。そして電話を取りフォウに連絡する。そして、二人の三課復帰が決定した。
同日深夜・・・・一人の人間が公園に立っていた。折りしもその公園はアンナが燃やした公園の近くの山の中にあった。
だがそこは既に非現実的な様相を呈していた。漂う空気はむせ返るような血の匂い。霧がかかったように周囲をぼやけさせる血煙。
岩のように転がる数十体分の人間だったものの破片。その中に歪んだ笑みを浮かべて佇む一人の人間。
空には、銀色の月が煌々と輝いていた。
第一章 終
あとがき
終わった〜!第一章ついに完結だ〜。
(フィーネ)敵さんの目的出てないじゃないの!
げふっ!いきなり殴るな。物語は次から動き出すんだから。
(フィーラ)二章から?
そうそう。次で敵さんの目的がわかるよ。
(フィーネ)じゃあ、さっさと仕上げなさいよ!!
すまん。7月入ったら、テスト勉強があるから今以上に執筆は遅くなる。
(フィーラ)む、テストを引っ張ってきたか・・・
(フィーネ)これは文句言えないわね。
あと、PSOが忙しい・・・
(フィーラ)そっちが本音かぁ!!
(フィーラ)ふざけるな!!
(フィーネ&フィーラ)ダーク・メテオ!!
がふっ!!!
(フィーネ)あらら。吹き飛んじゃった。
(フィーラ)まあ、大丈夫でしょう。すぐ復活するって。
(フィーネ)じゃあ、第二章の第一話でまたあいましょ〜♪
まず、第一章完結おめでとう!
そして、第二章待ってます!頑張ってくださ〜い。
美姫 「テストも頑張って下さいね」
テスト………。嫌な響きじゃの〜。まあ、午前で帰れるのが救いか。
美姫 「どこかの誰かさんは、テストの問題用紙と解答用紙を間違えて、裏にいろいろと書いてたわよね」
ははは。
でも、式なんか解答用紙の裏に絵を描いて、しかもそれに点が付いて返ってきたというエピソードを持っているぞ。
美姫 「揃いも揃って、何をやってるんだか」
フフ。まあ、とりあえず、テスト頑張って、って事で
美姫 「無理矢理まとめたって感じだけど、まあ良いわ」
ではでは〜。
美姫 「まったねー!」