街が息を潜めている午前四時

恭也は裏山に来ていた

身を上下真っ黒の服で包み両手には木刀が握られていた

眼には光がなく、もの凄い殺気がでているのに気配は薄い

抑えているのか自然なのかはわからない

ただ一つ言えることは今の恭也は綱渡りの上に命綱無しで立っている様に感じられた


(恭也……)


プレッヂが悲しそうに呟く

彼女にとって、この光景は見慣れたものだった

十歳と言う幼さで全てを失ってしまった少年は、自分の心を保つため仮面を作った

悪く言えば殺人鬼の仮面は、どこまでも戦うことに特化された存在だった

実際、恭也は龍の追っ手に幾度となく襲われたが生き残った

異世界の恭也――師匠と出会ってからは幾分かマシにはなった

だが、根本的なところは未だ変わらないままだった


「…………」


無言のまま恭也は動き出した

一直線に木へと向かって行ったかと思ったら突然姿が消えた


――御神流 奥義之六・薙旋――


抜刀から放たれた四つの斬撃が木に直撃した

恭也は、この年で既に奥義の一つである薙旋を扱えるようになっていた

元々、士郎に教えてもらっていたが、師匠に会ってから凄い勢いでマスターした

その上達の速さに、師匠ですら感嘆の声を上げたと同時に畏怖を覚えた

初めてあった時、守るものがないと言った恭也

なら、何故力を求めるかと聞かれたら少し考え込んだ後、わからないと呟いた

止まってしまった心、高まっていく技能


(このままいけば恭也は壊れてしまう……)


表面上は、何ともないように見える

しかし、仮面に覆われているだけで何ともないわけではない

限界に来てしまった時、恭也の心は終わりを告げるだろう


「プレッヂ?」


(私には無理…………。じゃあ一体誰が恭也を救えるの?)


いつも通りに戻った恭也の声を聞きながらプレッヂは小さく呟いた








        魔法少女リリカルなのはA'S

          〜漆黒の王者〜

  第二話 学校








「え? 学校ですか?」


「ええ。恭君学校行きたくないの?」


家に住まわせてもらう代わりにと翠屋の厨房で皿洗いをしていると突然桃子さんが話しかけてきた

確か師匠三年生として学校に通えって言ってたな

う〜む、俺としては五年生ならまだしも三年生はな……

それに、学校に行くって簡単に言ったってお金もかかるしな


「いえ、お金もかかりますし別にいい「確か三年生からなんだってね」え?」


「恭也からの手紙に書いてあったけど違うの?」


師匠、何手紙に書いてるんですか……


「あっ、僕は十一歳なんですけど」


「でも、二年生までしか通ってなかったって書いてあったわよ」


そこまでしてなのはと同じ学年にしようとするか

あれが根を一緒にする者と考えると少し悲しくなる


「そ、そうなんですけど

居候させてもらってて更に学校なんて……」


「子供がそんなこと気にしない。ねぇ、士郎さん」


「そんなことより店手伝ってくれよ」


「し・ろ・う・さ・ん」


「恭、学校に行け」


こうして俺の意見なんて軽く無視で学校に行くことが決まった

…………しかも、三年生として
















「おはよーなのは」


「おはようございます、なのはちゃん」


「アリサちゃん、すずかちゃん」


「今日は早いね」


「えへへ、ちょっとあってね」


「ごきげんね。何かいいことでもあったの?」


「にゃはは、すぐにわかるよ」


二人とも恭也君見たらびっくりするだろうな〜

だって、お兄ちゃんと瓜二つなんだもん

それに、性格だって似てるし

真顔で嘘つくし、私のことを子ども扱いするし

でも、やっぱりお兄ちゃんではない

当たり前なんだろうけど、何となく私はおかしく感じた

頭を撫でてもらったら時とか笑顔を向けってもらった時

顔が赤くなると同時に、不安感が胸を占める

お兄ちゃんにやってもらったら暖かくなる


「いいことって何なのよ」


「にゃ!? アリサちゃん何するの」


「もしかして好きな子でもできたの?」


「す、すずかちゃん! いきなり何を言うの!?」


にゃにゃにゃにゃにゃ!

べ、別に私は恭也君のこと好きとかじゃなくて!

で、でも一緒にいたら嬉しくなるし、いないと寂しく感じる……

これが好きってことなのかな


「フフフ、なのはも一人前の女の子になったんだ」


「だ、だから私は別に恭也君のこと好きってわけじゃ!!」


にゃ!?

アリサちゃんとすずかちゃんが驚いた表情で固まっていた

ううん。アリサちゃん達だけじゃなくクラス中の人が私のことを見ていた

ど、どうしよう。思わず叫んじゃった

うにゃ〜、穴があったら入りたいよ


「お〜い、HR始めるぞ」


何とも言いがたかった空気を破ったのは担任の井上(三十二歳、独身)だった

実は、カツラだと言う噂がある生徒に人気があるようなない先生だ

いつもなら気にも留めない存在だが、なのはは今日だけは井上にもの凄く感謝した


「え〜、今日はみんなに新しい友達を紹介する」


「え!?」


「どうした高町?」


「い、いえ何でもないです」


転校生って恭也君だよね

何でよりによって私のクラスなんだろ

嬉しいんだけど嬉しくないよ……


「そうか。じゃあ、不破はいってきなさい」


「はい」


まだ声変わりしていない、でも大人びた恭也君の声にアリサちゃんとすずかちゃんが少し反応した


ガラガラガラ


扉が開き聖祥の制服に身を纏った恭也君が入ってきた

その容貌にクラスのみんなが息を飲んだように思えた

長くもなく短くもない黒髪

スラッとした体型

そして、整った顔立ち

恭也を見慣れているなのはですら一瞬、ドキッときたのだから他の子はなおさらだろう


「不破恭也です」


アリサちゃんとすずかちゃんが驚いた表情を私に向けてきた

私は、そんな二人に苦笑しながら首を横に振った

肉親である私ですら初めて会った時はお兄ちゃんと間違えたんだから二人が間違えるのは仕方がない


「ええ〜と、先生。どうやら俺みたいな凶悪な顔をした奴が来てみんな戸惑ってるみたいなんで早く終わらせてください」


((((((((え?))))))))


クラスの心一つになった

どうみても恭也君に見惚れているのに何を言ってるんだろ?

…………もしかして恭也君もお兄ちゃんみたいに自分の容姿のことをわかっていないのかな

みんなも疑問の視線を恭也君に向けていた

だけど、それも畏怖の視線ととったのか恭也は再度先生のほうを見た


「じゃ、じゃあ、不破の席は…………高町の隣があいてるな」


私の隣の席――窓際の一番後ろなんだけど――は何故かずっと空席のままだった

恭也君は、高町と聞いて私の姿を確認すると直に私のほうに向かってきた

他のみんなはスタスタと迷いなく歩く恭也君を不思議そうに見てた

先生は知っているみたいで特に何も言わなかった


「これから宜しくな」


そう言ってニッコリと微笑んだ

その笑顔を見た瞬間、私の頭の中は真っ白になった

頬が赤くなり、恭也君を直視できない


「う、うん」


頑張って何とか返事ができた

私が、こんなにパニックになってるのに恭也君は座って静かに前を向いていた


「うにゃ!?」


その様子を見て顔を上げた私は本日二度目の大声を上げてしまった

何故なら私に多数の視線が集まっていたからだ

特にアリサちゃんとすずかちゃんの視線には殺気も含まれているように感じられた

な、何で恭也君じゃなくて私なの!?


「どうした、なのは」


恭也君が大声をあげた私を気遣ってくれたが、そのせいで一段と視線が強くなった

転校生がいきなり名前を呼び捨てにしたんだから気になるのは当然だけど説明はどうすればいいんだろ

素直に恭也君が私の家に居候してるって言えばいいのかな

でも、それだと絶対質問攻めにあうだろうし

うにゃ〜!! どうすればいいの〜!!


「不破君ってなのはと知合いなの?」


アリサちゃんとすずかちゃんいつの間に私の後ろに!?


「恭「ん? ああ、俺はなのはの家に居候してるからな」也君…………」


「「「「「「「「ええ〜!!」」」」」」」」


こうして、最大級の秘密は恭也君があっさり暴露しちゃった

もちろん、休み時間には質問攻めにあったのだった





恭也、学校へ。
美姫 「行き成り大騒ぎになったわね」
あはははは〜。まあ、仕方あるまい。
でも、学校で近い年頃の子たちと触れ合っていけば、その内何かしらの変化が出てくるかもな。
美姫 「よね。これからどうなっていくかしら」
次回も待っています。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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